内部統制の評価及び監査の基準ならびに実施基準は改訂が行われています。背景として、制度の実効性に対する懸念と、国際的な枠組みや開示の要求への適合が挙げられています。
上場準備の会社にとって影響が大きいのは、評価範囲の決定に関する部分です。数値の目安を機械的に適用するのではなく、企業の状況に応じた判断が求められています。
この記事では、改訂の主な論点、実務への影響、経営者による無効化への対応、ITを利用した内部統制、将来の論点を整理します。
- 改訂の主な論点を区分ごとに整理
- 評価範囲の決定で数値だけに依拠しない判断の仕方
- 長期間評価の対象外になっている拠点の扱い
- 監査法人との協議を早く始めるべき理由
- 経営者による内部統制の無効化への対応
- IT全般統制に依拠して評価を簡素化する考え方
図 基準の改訂で見直すべき点の判定
📌 結論 範囲の決め方と協議の時期が変わった
内部統制の評価及び監査の基準ならびに実施基準は改訂が行われています。金融庁の企業会計審議会が改訂の意見書を公表しており、背景と変更点はそこで説明されています。
改訂の背景として挙げられているのは、制度の実効性に対する懸念と、国際的な内部統制の枠組みや開示の要求への適合です。制度が定着した一方で、形式的な対応に流れているのではないかという問題意識が示されています。
実務で影響が大きいのは、評価範囲の決定と協議のタイミング
🧭 実務への影響が大きい部分
上場準備の会社にとって影響が大きいのは、評価範囲の決定に関する部分です。従来は、連結売上高に対する一定の割合という数値の目安が広く使われてきました。改訂では、この数値を機械的に適用するのではなく、企業の状況に応じて判断することが求められています。
数値だけで機械的に決めていた会社ほど、見直しの余地が大きい
実務としては、数値だけで拠点を選んでいた会社は、質的な重要性の観点を加える必要があります。過去に不正や誤りがあった拠点、新しく取得した拠点、複雑な取引を扱う拠点といった観点です。数値では小さくても、これらに当たる拠点は評価の対象に含めるかを検討します。
また、長期間にわたって評価の対象外になっている拠点についても、そのままでよいかを確認する必要があります。何年も対象外が続いている拠点は、統制の状況が把握されていないという状態になります。
もう1つが、監査法人との協議のタイミングです。評価範囲について、より早い段階から協議することが求められる方向になっています。期末近くに範囲の見直しを求められると、評価そのものが間に合わなくなるため、実務としても早い協議のほうが安全です。
数値と質的重要性の両面から、説明できる範囲の決め方を整理します。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の導入、内部監査対応を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
📊 経営者による無効化への対応
基本的枠組みの側では、経営者による内部統制の無効化への対応が明示されています。内部統制がどれだけ整備されていても、経営者がそれを無視して指示を出せば機能しないという限界があり、この点への手当てが求められています。
実務としては、全社的な内部統制の評価項目に、この観点を反映させることになります。経営者の指示による例外的な処理がどのくらいあるか、それが記録され上位に報告されているか、監査役等が把握できる仕組みがあるかといった項目です。
また、ガバナンスや全組織的なリスク管理との関係が整理されたことで、内部統制を単独の仕組みとしてではなく、取締役会や監査役等による監督と一体のものとして説明しやすくなりました。内部監査の報告経路の設計とも重なる部分です。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
🗂 ITを利用した内部統制
ITを利用した内部統制の評価についても改訂されています。業務がシステムに組み込まれていることが前提となった現在の実態に合わせ、IT統制の評価の位置づけが明確にされました。
実務では、IT全般統制に依拠して業務処理統制の評価を簡素化するという考え方が使われます。IT全般統制が有効であれば、システムが行う処理は期を通じて同じであると考えられるため、業務処理統制については設定の確認や少数のサンプルで足りることになります。
ただし、この依拠が使えるのはIT全般統制が有効な場合に限られます。アクセス権限の管理や変更管理に不備があれば、依拠はできず、業務処理統制を個別に評価することになります。IT全般統制の整備は、評価の負担を減らすという意味でも投資に見合います。
⚖️ 将来の論点
改訂の議論のなかでは、将来の論点として示されたものもあります。サステナビリティなどの非財務情報に内部統制の枠組みを及ぼすかどうか、監査人が直接に有効性を評価する方式を採用するかどうか、会社法上の内部統制と制度を統合するかどうかといった論点です。
いずれも決まったわけではないが、方向性を知っておくと備えやすい
いずれも決まったものではありませんが、方向性を知っておくと備えやすくなります。非財務情報については、開示の作成過程を記録に残しておくことが、将来どのような枠組みになっても無駄になりません。
上場準備の段階では、こうした将来の論点を追いかける必要はありません。現行の基準に沿って評価の体制を作ることが優先です。ただし、制度が拡張される方向にあることは意識しておくと、文書化や記録の残し方の設計に幅が持てます。
❓ よくある質問
A. 実務への影響が大きいのは評価範囲の決定です。数値の目安を機械的に適用するのではなく、企業の状況に応じた判断が求められる形になっています。
A. 数値を参考にすること自体は否定されません。数値だけで機械的に決めるのではなく、質的な重要性も合わせて判断することが求められています。
A. 過去に不正や誤りがあった拠点、新しく取得した拠点、複雑な取引を扱う拠点といった観点です。数値では小さくても対象に含めるかを検討します。
A. そのままでよいかを確認します。何年も対象外が続いていると、その拠点の統制の状況が把握されていない状態になります。
A. 早い段階からです。期末近くに範囲の見直しを求められると評価そのものが間に合わなくなるため、実務としても早い協議のほうが安全です。
A. 全社的な内部統制の評価項目に反映させます。経営者の指示による例外的な処理が記録され、監査役等が把握できる仕組みがあるかを見ます。
A. システムが行う処理は期を通じて同じと考えられるため、業務処理統制の評価を設定の確認や少数のサンプルで済ませられます。
A. 現行の基準に沿った体制作りが優先です。ただし非財務情報の開示の作成過程を記録に残しておくことは、将来どうなっても無駄になりません。
📄 まとめ
改訂の背景は、制度の実効性への懸念と国際的な枠組みへの適合です。形式的な対応への問題意識が示されています。
実務で最も影響があるのは評価範囲の決定です。数値だけで機械的に決めず、質的な重要性を合わせて判断します。
監査法人との協議は早い段階から始めます。期末近くの見直しは評価そのものを間に合わなくします。
IT全般統制が有効であれば業務処理統制の評価を簡素化できます。IT全般統制の整備は評価の負担を減らす投資でもあります。
非財務情報への拡張や会社法との統合は将来の論点です。現行の基準に沿った体制作りを優先しつつ、方向性は意識しておきます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
制度の全体像
- 内部統制報告制度とは
- 4つの目的と6つの基本的要素
- 参照する基準と府令
- 内部統制基準の改訂(この記事)
- 連結ベースの評価
- 評価のスケジュール
評価範囲の決定
文書化
評価の実施
IT統制
不備と改善
整備と設計
報告と立て直し