内部統制報告制度の対応で参照する文書は複数あります。法律、内閣府令、基準、実施基準、監査の基準報告書、金融庁のガイダンスです。それぞれ役割が違います。
実務で最も参照するのは実施基準です。評価範囲の決め方、評価項目の例、不備の分類といった具体的な判断の材料はここに示されています。
この記事では、それぞれの役割、場面ごとの使い分け、基準を自社に当てはめるときの注意点、改訂への対応を整理します。
- 制度で参照する6種類の文書と、それぞれに書かれていること
- 基準と実施基準の関係
- 監査の基準報告書を会社が読む意味
- 場面ごとにどの文書を参照するかの一覧
- 実施基準の例示をそのまま使うことの弊害
- 改訂があった年度に何を確認するか
図 どの文書を見て判断するかの整理
📌 結論 実務の拠りどころは実施基準
内部統制報告制度の対応で参照する文書は複数あります。法律、内閣府令、基準、実施基準、監査の基準報告書、そして金融庁が公表するガイダンスです。それぞれ役割が違うため、どの場面でどれを見るかを整理しておくと迷いません。
実務で最も参照するのは実施基準です。評価範囲の決め方、全社的な内部統制の評価項目の例、不備の分類といった具体的な判断の材料は、ここに示されています。基準は考え方の枠組みを示すもので、実務の細部は実施基準に委ねられています。
実務で最も参照するのは実施基準。判断の根拠はここに求める
🧭 それぞれの役割
金融商品取引法は、上場会社に内部統制報告書の提出を求め、公認会計士または監査法人による監査を受けることを定めています。制度の存在根拠にあたる部分です。
内部統制府令は、報告書に何を書くか、どの様式を使うかを定めています。報告書を作る段階で参照するもので、記載事項や様式の確認に使います。
基準と実施基準は、企業会計審議会が公表しているものです。基準が評価と監査の考え方を示し、実施基準がその具体的な進め方を示すという関係になります。実施基準には評価項目の例示や判断の目安が含まれており、実務ではこちらを開く機会が圧倒的に多くなります。
監査の基準報告書は、監査人が行う手続を定めたものです。会社が直接従うものではありませんが、監査人が何を求めてくるかを理解するうえで役に立ちます。会社の評価の記録が監査人に利用してもらえる形になっているかを考えるときの参考になります。
様式は府令、実務は実施基準という使い分けになる
📊 どの場面でどれを見るか
評価範囲をどう決めるかという判断は、実施基準の評価範囲に関する部分を参照します。事業拠点の選び方、勘定科目の重要性、業務プロセスの識別といった論点が扱われています。
全社的な内部統制で何を確かめるかについては、実施基準に評価項目の例示があります。そのまま使ってもよいですし、自社の実態に合わせて追加や削除をしても構いません。例示であって、これを満たさなければならないという性質のものではありません。
報告書の記載については、府令の様式に従います。ここは自由度がなく、定められた形式で書きます。訂正が必要になった場合の扱いも府令に定められています。
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🗂 基準を写すのではなく当てはめる
実務でよくある失敗が、実施基準に書かれていることをそのまま自社の手続にしてしまうことです。実施基準は幅のある企業を想定して書かれているため、規模の小さい会社がすべてを取り入れると、過剰な作業になります。
実施基準に書かれていることをそのまま写すのではなく、自社に当てはめる
たとえば、評価項目の例示をそのまま全社的な内部統制の評価シートにすると、自社に当てはまらない項目が並びます。持株会社を前提とした項目、海外拠点を前提とした項目などです。当てはまらない項目は落とし、自社に固有のリスクがあれば追加します。
大事なのは、なぜそう判断したのかを調書に書いておくことです。実施基準の例示を落とした理由、追加した理由が書かれていれば、監査法人との協議でも説明ができます。書いていないと、なぜこの項目がないのかという質問に毎回答えることになります。
⚖️ 改訂への対応
基準と実施基準は改訂が行われます。改訂があった年度は、変更点が自社の評価にどう影響するかを整理する作業が必要になります。評価範囲の決め方やITを利用した内部統制の評価といった、実務に直結する部分が変わることがあります。
確認の方法としては、金融庁が公表する改訂の意見書を読むのが確実です。改訂の背景と、何をどう変えたかが説明されており、変更点の把握に使えます。
そのうえで、自社の評価の手続、範囲の決め方、文書の様式のどこに影響するかを洗い出します。影響がない部分まで作り直す必要はありません。改訂のたびに全部を見直すという運用にすると負担が続かないため、変わった部分だけを直すという整理をしておきます。
❓ よくある質問
A. 実施基準です。評価範囲の決め方、評価項目の例示、不備の分類といった具体的な判断の材料が示されています。
A. 基準が評価と監査の考え方の枠組みを示し、実施基準がその具体的な進め方を示します。実務では実施基準を開く機会が圧倒的に多くなります。
A. 内部統制府令です。記載事項と様式が定められており、ここは自由度がありません。訂正が必要になった場合の扱いも府令にあります。
A. 会社が直接従うものではありませんが、監査人が何を求めてくるかの理解に役立ちます。評価の記録を監査人に利用してもらう形を考えるときの参考になります。
A. 例示であり、そのまま使う義務はありません。自社に当てはまらない項目は落とし、固有のリスクがあれば追加します。
A. なぜ落としたのかを調書に書いておきます。理由が書かれていれば監査法人との協議で説明でき、毎回同じ質問に答えずに済みます。
A. 金融庁が公表する改訂の意見書を読むのが確実です。改訂の背景と変更点が説明されており、影響の把握に使えます。
A. ありません。自社の手続、範囲の決め方、様式のどこに影響するかを洗い出し、変わった部分だけを直します。
📄 まとめ
制度で参照する文書は複数ありますが、実務の拠りどころは実施基準です。基準は枠組み、実施基準は具体的な進め方を示します。
報告書の様式は府令に、実務の判断は実施基準に求めるという使い分けになります。
実施基準の例示は自社に当てはめて使います。落とした理由と追加した理由を調書に書いておけば、協議で説明ができます。
改訂があった年度は意見書で変更点を把握し、影響のある部分だけを直します。全部を見直す運用にすると負担が続きません。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
制度の全体像
- 内部統制報告制度とは
- 4つの目的と6つの基本的要素
- 参照する基準と府令(この記事)
- 内部統制基準の改訂
- 連結ベースの評価
- 評価のスケジュール
評価範囲の決定
文書化
評価の実施
IT統制
不備と改善
整備と設計
報告と立て直し