M&AロイヤルアドバイザリーのIPO|信託型SOの放棄と相互監査の内部監査【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月29日時点の公表資料に基づきます。

M&Aロイヤルアドバイザリー株式会社(証券コード669A)は、2026年10月29日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年12月3日に東証グロース市場へ上場する予定です。2021年11月に東京都千代田区で設立されたM&A仲介会社で、設立から5年余りでの上場予定となります。本記事では、同社が東京証券取引所に提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方に役立つ論点を整理します。

結論からいえば、このケースで特に学べるのは、①成約時点で一括して売上を計上する成功報酬型ビジネスの収益認識と業績の期末集中、②代表取締役2名が資産管理会社を含め74.8%を持つ株主構成と、信託型新株予約権の放棄を含むストック・オプションの組み直し、③独立した内部監査部門を置かずに取締役2名が相互に監査する内部監査体制、の3点です。いずれも、創業から短期間で上場を目指す会社が直面しやすいテーマです。

この記事の論点を自社と比べられる「M&AロイヤルアドバイザリーのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)」を、記事の後半で無料でお渡ししています。

M&Aロイヤルアドバイザリーはどんな会社で、いつ上場するのか

Ⅰの部の表紙によれば、本店は東京都千代田区丸の内、代表者は代表取締役社長の橋場涼氏です。決算期は10月で、Ⅰの部に財務諸表が載っている最近事業年度は第4期(2025年10月期)です。子会社はなく、財務諸表は単体のみです。事業はM&A仲介事業の単一セグメントで、売上高の10%以上を占める販売先はないと記載されています。

上場予定の市場はグロース市場です。Ⅰの部の「株式事務の概要」と「株式公開情報」の注記に、東京証券取引所グロース市場への上場を予定している旨が書かれています。

項目 内容
会社名 M&Aロイヤルアドバイザリー株式会社(M&A Loyal Advisory Co., Ltd.)
証券コード 669A
市場 東京証券取引所 グロース市場(上場予定)
上場承認日 2026年10月29日
上場予定日 2026年12月3日
設立 2021年11月30日(資本金30百万円)
決算期 10月(第1期は2021年11月30日〜2022年10月31日の11ヶ月と1日)
事業 M&A仲介事業(単一セグメント)
従業員数 215名(2026年9月30日現在。ほかに臨時雇用者が最近1年間の平均で23名)、平均年齢31.6歳、平均勤続年数1.9年
機関設計 監査役会設置会社(取締役8名うち社外2名、監査役3名全員社外)
会計監査人 監査法人A&Aパートナーズ(継続監査期間2年)
発行済株式総数 33,400,000株(普通株式のみ、2026年10月29日現在)

平均勤続年数は1.9年です。設立から5年弱で、従業員は215名まで増えています。従業員の区分はアドバイザー120名、ミドルオフィス39名、バックオフィス56名で、最近1年間で従業員数は33名増え、臨時雇用者は27名減ったと記載されています。正社員を中心に採用し、アルバイトの採用を抑えたことによるものです。

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M&A仲介会社はどうやって稼ぐのか

同社は、非上場企業のM&A案件を中心に、上場企業のカーブアウト案件や投資ファンドのEXIT案件まで、仲介・アドバイザリーのサービスを提供しています。主なターゲットは中堅・中小企業で、事業承継ニーズや成長を目的とした譲渡ニーズに対応しています。創業から2026年7月末までの成約実績のうち、売り手企業の売上高が5億円以上の案件の割合は51.3%と記載されています。

特徴として挙げられているのが分業体制です。コンサルタント(M&Aアドバイザー)に加え、インサイドセールス部が売り手候補を探し、提携支援部が買い手候補に網羅的に打診し、公認会計士等が在籍するコーポレートアドバイザリー部がデューデリジェンスや契約交渉などの実行支援(エグゼキューション)を主導します。資料作成や見込み顧客との関係維持(ナーチャリング)は企画部が支援します。

M&A仲介の基本構造と社内の分業体制売り手企業(事業承継・譲渡ニーズ)M&Aロイヤルアドバイザリー(仲介)買い手企業(成長・シナジー)報酬:完全成功報酬報酬:中間報酬+成功報酬社内の分業体制インサイドセールス部(売り手探索)提携支援部(買い手候補へ網羅的に打診)コンサルタント(アドバイザー)合意形成に注力コーポレートアドバイザリー部(実行支援)企画部(資料作成・ナーチャリング)

図1 Ⅰの部「事業の内容」をもとに作成。売り手・買い手の双方と契約し、社内の専門部署がコンサルタントを支える体制です。

報酬体系は「エクイティレーマン方式」です。Ⅰの部では、純資産額等に基づく譲渡対価に応じた割合を報酬とする方式で、移動総資産額に基づく総資産レーマン方式に比べて調整の余地が少なく客観的な報酬になる、と説明されています。売り手企業は原則として完全成功報酬で、買い手企業には相手先の確定(マッチング)時の中間報酬と、M&A成立時の成功報酬があります。

報酬が発生するタイミング区分アドバイザリー契約締結時相手先の確定(マッチング)時M&A成立時売り手企業--成功報酬買い手企業-中間報酬成功報酬料率の基準:エクイティレーマン方式(純資産額等に基づく譲渡対価に応じた割合)

図2 Ⅰの部「事業の内容」の報酬体系の表をもとに作成。売り手・買い手ともにエクイティレーマン方式です。

経営上の目標の達成状況を判断する指標(KPI)としては、売上高と営業利益率を重視し、それに影響する成約件数・成約平均単価・M&Aアドバイザー数を重要な指標として管理していると記載されています。コンサルタント1人当たりの成約件数は、2023年10月期3.20件、2024年10月期2.27件、2025年10月期1.42件です。入社1年以上のアドバイザーの離職率は6.1%(2025年10月末時点)、第1期から第4期までの成約のうち手数料1億円以上の案件(大型案件)の割合は15.1%とされています。

上場準備の観点では、こうしたKPIの定義(何を分子・分母にするか)をⅠの部の注記で明確にしている点が参考になります。たとえば成約件数は「当該期間中にクロージングした件数」、成約単価は「当該期間の売上高を成約件数で除した金額」、受託残件数は「四半期末時点でアドバイザリー契約を締結し、成約に向けて支援している案件数」と定義されています。KPIの定義が社内の管理資料と開示資料で一致していることは、IPO審査の「事業計画の合理性」を説明するうえでも欠かせません。

M&A仲介業の制度環境

事業等のリスクでは、M&A仲介業には行政からの許認可がなく、現在、M&A仲介業を制限する直接的な法的規制は存在しない、と記載されています。一方で、経営成績の分析では、中小企業庁が「中小M&Aガイドライン」の適用を強化していることに触れ、同社が2024年8月に公表された「中小M&Aガイドライン第3版」と、2025年4月に公表された「中小M&A専門人材(個人)向け使命、倫理・行動規範、知識スキルマップ」に準拠した教育プログラムを実施していると書かれています。また、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」の登録FA・仲介業者数が2026年1月30日時点で3,156件であることを、競争環境の説明に用いています。

許認可のない業種でも、業界団体や官公庁のガイドラインにどう対応しているかは、上場審査で事業の健全性を説明する材料になります。許認可が必要な業種の審査の見られ方はIPOで許認可はどこまで見られるかで解説しています。

設立から上場承認までの道のり

沿革は、設立後の拠点の新設・移転が中心です。2022年2月に日本橋オフィスを新設し、2023年5月に大阪支社、2024年6月に東京サテライトオフィス、2025年3月に日本橋第2オフィス、2026年1月に日本橋第3オフィスを新設しています。2026年9月30日現在の計画として、拠点の移転・集約のための「日本橋本町オフィス(仮称)」(投資予定額798百万円、既支払額17百万円、自己資金、2026年8月着手・2027年5月完了予定)が記載されています。

沿革と組織の拡大2021年11月東京都千代田区で設立2023年5月大阪支社を新設2024年6月東京サテライトオフィス新設2026年1月日本橋第3オフィス新設2026年12月3日グロース市場上場予定従業員数の推移2022年10月期末27名2023年10月期末50名2024年10月期末110名2025年10月期末188名2026年9月30日215名

図3 Ⅰの部「沿革」「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」をもとに作成。従業員数は就業人員(臨時雇用者を除く)。

第3期(2024年10月期)と第4期(2025年10月期)の財務諸表は、有価証券上場規程第216条第6項に基づき、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に準じて監査法人A&Aパートナーズの監査を受けています。第1期・第2期の数値は会社計算規則に基づいて算出したもので、この監査は受けていません。上場申請には直前2期の監査が必要になるため、監査法人の選定時期が上場スケジュールを左右します。詳しくは監査法人はいつまでに決めるかをご覧ください。

業績はどう推移しているのか

主要な経営指標等の推移(単体)は次のとおりです。第1期は11ヶ月と1日の変則決算で、経常損失を計上しています。第2期以降は経常利益を計上しています。

項目(千円) 第1期 2022年10月期 第2期 2023年10月期 第3期 2024年10月期 第4期 2025年10月期
売上高 234,075 1,257,318 3,320,319 4,010,914
経常利益又は経常損失(△) △89,395 214,547 940,653 296,309
当期純利益又は当期純損失(△) △58,779 155,093 676,508 312,295
純資産額 △24,329 130,763 806,222 1,118,517
総資産額 489,812 1,248,785 2,384,823 2,471,625
自己資本比率(%) △5.2 10.4 33.8 45.3
営業活動によるキャッシュ・フロー - - 1,060,829 △64,057
従業員数(名) 27 50 110 188
監査 受けていない 受けていない 監査済み 監査済み
売上高の推移(単体)(百万円)01,2002,4003,6004,800第1期(2022/10)第2期(2023/10)第3期(2024/10)第4期(2025/10)2341,2573,3204,011

図4 Ⅰの部「主要な経営指標等の推移」より(単位:百万円、百万円未満四捨五入)。第1期は11ヶ月と1日の変則決算。第1期・第2期は監査を受けていない数値です。

売上高は第1期234百万円から第4期4,011百万円まで、毎期増加しています。一方で経常利益は第3期の940,653千円から第4期は296,309千円へと68.5%減少しました。第1期は純資産がマイナス(△24,329千円)でしたが、第2期以降の利益の積み上げで第4期末の純資産は1,118,517千円、自己資本比率は45.3%になっています。

経常利益の推移第1期(2022/10)△89百万円第2期(2023/10)215百万円第3期(2024/10)941百万円第4期(2025/10)296百万円第5期(2026年10月期)の途中経過中間会計期間(6か月)経常利益751百万円第3四半期累計(9か月)経常利益783百万円

図5 Ⅰの部より(百万円未満四捨五入)。第5期の中間・第3四半期累計は監査ではなく期中レビューの対象で、事業年度の数値とは期間が異なります。

第4期の減益の理由は何か

Ⅰの部の経営成績の分析では、第4期の減益について、将来の成長に向けた先行投資として人員を前事業年度末の110名から188名へ大幅に増やしたことなどにより、人件費を中心に費用が大きく増えたと説明されています。

内訳を見ると、売上原価は1,090,217千円から1,813,657千円(66.4%増)に増え、売上高総利益率は67.2%から54.8%へ12.4ポイント低下しました。売上原価の中心は人件費で、第4期は1,458,508千円(売上原価の80.4%)です。また、提携先を通じて紹介を受けた案件の成約が増え、売上原価に含まれる案件紹介料が29,000千円から194,284千円に増えています。販売費及び一般管理費は1,251,929千円から1,888,762千円(50.9%増)で、管理部門の人件費、採用関連費用、ダイレクトメール等の通信費、拠点増設に伴う地代家賃が増えました。この結果、営業利益は978,173千円から308,495千円となり、売上高営業利益率は29.5%から7.7%になりました。

第3期から第4期への営業利益の変化第3期 営業利益978売上総利益の減少-33販管費の増加-637第4期 営業利益308

図6 Ⅰの部の損益計算書より作成(単位:百万円、百万円未満四捨五入)。売上高は増えましたが、売上原価の増加で売上総利益がわずかに減り、販管費が大きく増えました。

Ⅰの部では、増員したM&Aアドバイザーの人件費が先行して発生する一方、その人員の成約への寄与は翌事業年度以降に生じる、という構造も説明されています。成約件数は第3期42件から第4期66件に増えましたが、成約平均単価は79,055千円から60,771千円に下がりました。アドバイザーの増員に伴い幅広い規模の案件が成約したためと記載されています。

成約件数とアドバイザー数03060901202022年10月期2023年10月期2024年10月期2025年10月期成約件数(件)アドバイザー(人)

図7 Ⅰの部「各種指標の推移」より。成約件数は各期の通期合計、アドバイザー数は期末人数です。

第5期(2026年10月期)の途中経過

Ⅰの部には、第5期の中間会計期間(2025年11月1日〜2026年4月30日)と第3四半期累計期間(2025年11月1日〜2026年7月31日)の数値も載っています。中間会計期間は売上高3,151,907千円、営業利益759,300千円(売上高営業利益率24.1%)、経常利益750,781千円、中間純利益487,767千円です。第3四半期累計期間は売上高4,304,545千円、営業利益793,106千円(同18.4%)、経常利益783,373千円、四半期純利益507,421千円です。成約件数は中間で45件、第3四半期累計で67件と記載されています。

ここで注意したいのは、これらの数値に対する監査法人の関与の種類です。中間財務諸表は監査法人A&Aパートナーズの期中レビューを受けたもので、第3四半期の四半期財務諸表もⅠの部の「その他」に掲載された期中レビューの対象であり、いずれも年度の財務諸表のような監査ではありません。また、同社は当中間会計期間から中間財務諸表を、当第3四半期累計期間から四半期財務諸表を作成しているため、前年同期との比較は記載されていません。

成功報酬型ビジネスと業績の期末集中

事業等のリスクでは「収益の計上時期による業績の偏重」が挙げられ、顕在化可能性は「中」、発生する可能性のある時期は「各事業年度末」、影響度は「大」とされています。譲渡企業に完全成功報酬を採用し、成約をもって収益を認識するため、各四半期の業績は均等に推移せず、事業年度の末期に成約が集中する傾向がある、という説明です。実際、2025年10月期の四半期別成約件数は第1四半期14件、第2四半期13件、第3四半期14件に対し、第4四半期は25件でした。

四半期ごとの成約件数0714212825/10期Q1Q2Q3Q426/10期Q1Q2Q32025年10月期2026年10月期

図8 Ⅰの部「各種指標の推移」より。成約件数は当該四半期中にクロージングした件数です。2025年10月期は第4四半期に成約が集中しています。

成約時期が期末をまたいで翌期にずれると、年度の業績が大きく変わります。同社は受託案件ごとの進捗を定期的に把握し、営業会議と経営会議で確認していると記載しています。業績予想の開示は任意ですが、上場後は多くの会社が開示しており、開示した予想と実績に一定以上の差が見込まれると修正の開示が必要になるため、このようなビジネスでは、案件ごとの成約見込み時期の管理と、予想修正の要否を判断する体制が重要です。開示体制の作り方はIPOの適時開示体制で解説しています。

グロース市場の審査で業績はどう見られるか

グロース市場には、プライム市場・スタンダード市場のような利益の額に関する形式基準はありません。実質審査基準は「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」「企業経営の健全性」「事業計画の合理性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項」です。そのため、減益の期があること自体よりも、減益の理由(このケースでは人員の先行投資)と、その後の事業計画の前提(増員したアドバイザーの稼働、成約件数・単価の見込み)を合理的に説明できるかが問われます。グロース市場の考え方はグロース市場の「高い成長可能性」とはも参考にしてください。

財務制限条項付きのシンジケートローン

「重要な契約等」には、2024年6月18日に政府関係金融機関他(シンジケート団)と締結した、財務上の特約が付された金銭消費貸借契約が記載されています。第4期末の残高は315,000千円、弁済期限は2029年4月末日、無担保です。財務上の特約は、①各事業年度末の純資産の部の金額を2023年10月期末の純資産の部の金額の75%以上に維持すること、②2023年10月期以降の各事業年度末の経常損益が2期連続して損失とならないようにすること、の2つです。

財務制限条項は、抵触すると期限の利益を失うおそれがあるため、上場審査や監査でも確認される項目です。予算策定の段階で、条項への抵触可能性をシミュレーションしておくと安心です。

資本政策と株主構成はどうなっているのか

同社の発行済株式は普通株式33,400,000株のみで、種類株式は発行していません。設立時に30,000,000株を1株1円で発行し(資本金30,000千円)、2022年6月6日に個人4名への有償第三者割当で3,400,000株を1株1円で発行して、資本金は33,400千円になりました。以後、株式の発行はなく、資本金は変わっていません。自己株式もありません。

2025年3月31日の臨時株主総会では、単元株制度(1単元100株)の導入と、発行可能株式総数を200,000,000株減らして100,000,000株とする定款変更が決議されています。2026年9月30日現在の株主数は25名(その他の法人6、個人その他19)です。所有者別状況では、金融機関・金融商品取引業者の株主はおらず、法人株主6社のうち4社は代表取締役2名の資産管理会社です。

代表取締役2名で74.8%を持つ構成

事業等のリスクの「大株主との関係に関するリスク」によれば、本書提出日現在、代表取締役社長の橋場涼氏が資産管理会社を通じた間接保有を含め10,566千株(発行済株式総数に対する所有割合31.6%)、代表取締役の荒川有理氏が14,406千株(同43.1%)を保有し、両氏の合計は24,972千株(同74.8%)です。この所有割合は、創業時の資金調達で両氏が負担したリスクの程度を参考に決めたもので、2022年2月に荒川氏が代表取締役に就任した際、橋場氏が保有株式の一部を荒川氏に譲渡したと説明されています。

申請時点の株主構成(発行済株式33,400,000株基準)荒川有理氏+資産管理会社2社14,406千株(43.1%)橋場涼氏+資産管理会社2社10,566千株(31.6%)その他の株主8,428千株(25.2%)代表取締役2名の合計:24,972千株(74.8%)/別途、新株予約権の潜在株式7,979,578株(発行済の23.9%)

図9 Ⅰの部「事業等のリスク」「株主の状況」より。資産管理会社分を含む実質所有株式数。比率は本書提出日現在の発行済株式総数に対するもので、上場時(公募・売出し後)の比率ではありません。

両氏は上場時の売出しで所有株式の一部を売却する予定ですが、引き続き大株主となる見込みとされています。そのうえで、両氏は株主共同の利益を追求し少数株主の利益にも配慮する方針を持つ一方、双方の意見が必ずしも一致するわけではないため、大株主の利益追求により少数株主の利益が害される利益相反が発生する可能性がある、とリスクとして開示しています。

なお、上記の比率はⅠの部提出時点(上場申請時点)のもので、公募・売出し後の上場時の比率とは異なります。上場時の持株比率は、売出しの株数などによって変わります。創業者の持株比率の考え方は創業者の持株比率はどこまで下げてよいかで解説しています。

資産管理会社への株式移動

第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2024年1月31日に、橋場氏から株式会社SHと株式会社RHへ各3,000,000株、荒川氏からMOONLIGHT株式会社とSUNRISE株式会社へ各3,340,000株が、いずれも1株25円で移動したことが記載されています。移動理由は「所有者の事情による」です。株式移動の表では、これらの4社は「大株主上位10名」に当たる特別利害関係者等とされ、株主の状況では「役員等により総株主等の議決権の過半数を所有されている会社」にも区分されています。

Ⅰの部の注記によれば、有価証券上場規程施行規則第266条に基づき、基準事業年度(最近事業年度)の末日から起算して2年前の日(同社の場合2023年11月1日)から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式等の移動は、Ⅰの部に記載する必要があります。また同第267条に基づき、上場日から5年間、記録を保存することになります。資産管理会社をつくるタイミングによっては移動がこの開示の対象になるため、資本政策の初期に検討しておくことが大切です。

移動年月日 移動前所有者 移動後所有者 株数 単価 理由
2024年1月31日 橋場 涼 ㈱SH/㈱RH 各3,000,000株 25円 所有者の事情による
2024年1月31日 荒川 有理 MOONLIGHT㈱/SUNRISE㈱ 各3,340,000株 25円 所有者の事情による
2024年10月31日 橋場 涼 取締役1名・従業員(4件) 各42,312株 20円 経営参画への意識向上のため
2024年10月31日 荒川 有理 取締役1名・従業員(4件) 各57,688株 20円 経営参画への意識向上のため
2026年4月25日 橋場 涼 従業員(2件) 各101,000株 158円 経営参画への意識向上のため
2026年4月25日 荒川 有理 従業員(2件) 各137,700株 158円 経営参画への意識向上のため

代表取締役2名から取締役・従業員への譲渡は、2024年10月31日(1株20円)と2026年4月25日(1株158円)に行われています。移動価格の算定方式は、DCF法、純資産方式及び類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案し、譲渡人と譲受人が協議の上で決定したと記載されています。

上場前の株価は、時期や算定方法によって変わります。上場審査では、各取引の価格の算定根拠と、時期による価格差の理由を説明できるかが確認されます。価格の算定方法の選び方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うか、上場前の株式移動の注意点は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)をご覧ください。

資本政策と株式移動の時系列2021年11月設立3,000万株・1円2022年5月第1回新株予約権(信託型)2022年6月第三者割当340万株・1円2024年1月資産管理会社へ移動・25円2024年10月信託型を全部放棄第4回SO・20円上場準備の後半2024年10月代表2名→役員・従業員移動・20円2026年1月第5回SO決議(行使価額36円)2026年4月代表2名→従業員移動・158円2026年10月29日上場承認(グロース市場)

図10 Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」「ストック・オプション等関係」「株式公開情報」より作成。価格は1株当たり(新株予約権は行使価額)。

ストック・オプションは第2回〜第5回が残っている

ストックオプション制度の内容には、第2回から第5回までの新株予約権が記載されています。新株予約権1個につき目的となる株式は1株です。本書提出日現在の新株予約権による潜在株式数は7,979,578株で、発行済株式総数33,400,000株の23.9%に相当します(事業等のリスク「新株予約権の行使による株式価値の希薄化について」)。

回 決議日 付与対象者(決議時) 株式数(2026年9月30日現在) 行使価額 行使期間
第2回 2022年10月31日 取締役1・従業員27・外部協力者2 146,669株 1円 2024年11月1日〜2032年10月31日
第3回 2023年10月31日 取締役3・監査役1・従業員52・外部協力者2 255,000株 3円 2025年11月1日〜2033年10月31日
第4回 2024年10月30日 取締役3・従業員110 6,245,454株 20円 2026年11月1日〜2034年10月31日
第5回 2026年1月28日 取締役4・従業員57 1,332,455株 36円 2028年1月29日〜2043年1月28日
合計 7,979,578株

行使条件は各回に共通で、上場までは行使できず、上場から2年以内は付与数の30%まで、その後1年間は60%まで、それ以降は100%まで行使できる段階的な設計です。権利行使時にも当社又はその関係会社の役職員等の地位にあることが必要で、所定の期限(第2回は2032年10月31日、第3回は2033年10月31日、第4回は2034年10月31日)までに上場しなかった場合は、会社が無償で取得できる事由とされています。

ストック・オプションの段階的な行使条件上場まで行使できない上場から2年以内付与数の30%までその後の1年間60%までそれ以降100%権利行使時にも当社等の役職員等の地位にあることが必要(取締役会の特段の決議がある場合を除く)発行済株式の過半数を特定の第三者に移転する合意が成立し当社が承認した場合は全部行使可上場期限(第2回2032年10月末など)までに上場しない場合は会社が無償取得

図11 Ⅰの部「ストックオプション制度の内容」より(第2回〜第5回に共通の条件)。

付与対象者数は、退職等による権利の喪失で減っています。たとえば第4回は決議時の取締役3名・従業員110名から、本書提出日現在は取締役3名・従業員96名になっています。成長期に多くの従業員へ付与する場合、退職者の新株予約権の取扱い(会社による無償取得など)を契約と管理台帳で明確にしておくことが、上場前の潜在株式数を正確に開示する前提になります。

第1回新株予約権(信託型)は全部放棄された

財務諸表の「ストック・オプション等関係」の注記には、現在は残っていない第1回新株予約権の記載があります。第1回は受託者1名に割り当てられた、いわゆる信託型の新株予約権で、付与日は2022年5月1日、株式数は7,500,000株、行使価格は10円、付与日における公正な評価単価は0.14円でした。受託者自身は行使できず、信託期間満了時点の当社役職員等のうち受益者として指定された者に交付され、その者が行使する仕組みです。

この第1回新株予約権は、2024年10月31日に全部放棄されています。これにより第3期(2024年10月期)に7,500,000株分が失効し、損益計算書の特別利益に新株予約権戻入益1,050千円が計上されました(7,500,000株×0.14円=1,050千円)。同じ日に第4回新株予約権(6,295,000株、行使価額20円)が発行されています。

第1回新株予約権(信託型)の仕組みと放棄当社(発行会社)受託者(信託)自らは行使不可受益者に指定された役職員等が行使2024年10月31日に第1回新株予約権(7,500,000株)を全部放棄新株予約権戻入益1,050千円を第3期(2024年10月期)の特別利益に計上割当交付

図12 Ⅰの部「ストック・オプション等関係」の注記より作成。第1回は7,500,000株分、行使価格10円、付与日の公正な評価単価0.14円でした。

信託型ストック・オプションについては、2023年5月に国税庁が公表したQ&Aで、権利行使時の経済的利益が給与所得として課税されるとの考え方が示され、信託型を導入していた会社が制度の扱いを検討する契機となりました。Ⅰの部には放棄の理由は書かれていませんが、信託型を導入している上場準備会社にとっては、放棄・再付与を含めた対応の一例として参考になります。課税の考え方は信託型ストックオプションはなぜ給与課税か、税制適格ストック・オプションの要件は税制適格ストックオプションで解説しています。

継続所有の確約が必要なのは第5回だけ

第四部「第三者割当等の概況」には、第3回(2023年11月1日発行)、第4回(2024年10月31日発行)、第5回(2026年2月1日発行)の新株予約権が載っています。このうち、保有期間等に関する確約があるのは第5回だけです。

有価証券上場規程施行規則第272条は、新規上場申請者が基準事業年度の末日から起算して1年前より後に、役員又は従業員等に報酬として新株予約権を割り当てた場合に、割当てを受けた者との間で所有等に関する確約を書面で行うことを求めています。同社の基準事業年度の末日は2025年10月31日なので、その1年前より後の割当てである第5回が対象となり、割当日から上場日の前日又は行使日のいずれか早い日まで所有する等の確約を行ったと記載されています。第3回(2023年11月1日発行)と第4回(2024年10月31日発行)は、確約の欄が「-」となっています。

このように、継続所有の確約が必要になるのは、規則が定める期間内の第三者割当等や新株予約権の割当てに限られます。また、主幹事証券との合意で行う、いわゆるロックアップは、この確約とは別の制度です。

ストック・オプションの会計処理

第2回から第4回の新株予約権について、同社は「当社株式は未公開株式であるため、ストック・オプションの公正な評価単価を見積る方法に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値を見積る方法によっております」と記載しています。本源的価値は当社株式の評価額から権利行使価格を控除して算定し、株式の評価方法は純資産価額方式です。第3期・第4期ともにストック・オプションにかかる費用計上額は「該当事項はありません」とされています。第4期末の本源的価値の合計額は114,890千円です。

未公開企業がストック・オプションを付与する場合、ストック・オプション会計基準では、公正な評価単価に代えて本源的価値で見積ることが認められています。付与時の株価算定の考え方と行使価額の設定は、会計処理と注記に直結します。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例を参考にしてください。

流通株式の観点

上場時の流通株式の計算では、主要株主(議決権の10%以上を所有する者)、役員等(役員の配偶者及び二親等内の血族を含む)、役員等が議決権の過半数を所有する会社、自己株式などが除かれます。同社の場合、代表取締役2名とその資産管理会社4社が多くの株式を持っているため、上場時にどれだけの流通株式を確保するかは、売出しの株数と合わせて検討される論点になります。計算方法は流通株式比率の計算式と調べ方で解説しています。

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コーポレート・ガバナンスの体制はどうなっているのか

同社は、会社法上の機関として取締役会、監査役会及び会計監査人を設置する監査役会設置会社です。監査役会設置会社を採用した理由として、取締役会が適正かつ迅速に経営の基本方針や重要な業務執行の決定を行い、全員が社外監査役で構成される監査役会が独立した立場から取締役の職務執行を監査する体制が、経営の効率性と健全性の確保に有効と判断したため、と記載されています。

このほか、取締役(社外取締役を除く)と常勤監査役で構成する経営会議を原則毎週1回、代表取締役社長を委員長とするリスク・コンプライアンス委員会を原則四半期に1回(リスク事象やコンプライアンス違反が識別された際は臨時)開催しています。

機関設計(監査役会設置会社)株主総会取締役会(8名)うち社外取締役2名監査役会(3名全員社外)常勤1名・非常勤2名代表取締役社長会計監査人監査法人A&Aパートナーズ経営会議(原則毎週)リスク・コンプラ委員会(四半期)内部監査(責任者1名+担当者1名)選定・監督連携・評価選任・報告

図13 Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの概要」より作成(本書提出日現在)。

役職 氏名 主な経歴(Ⅰの部より)
代表取締役社長 橋場 涼 三菱東京UFJ銀行、M&Aキャピタルパートナーズを経て2021年11月に当社設立
代表取締役キャピタルマーケッツ本部長 荒川 有理 レコフ、ジャフコグループ、M&Aキャピタルパートナーズ等を経て2022年2月に当社代表取締役
専務取締役投資銀行本部長 桜井 博一 三菱東京UFJ銀行、KPMG FAS等。桜井博一公認会計士事務所。2021年11月当社取締役CFO
取締役企画本部長 阿藤 剛 トヨタファイナンス、Indeed Japanを経て2022年6月入社
取締役経営管理室長 中田 一徳 大蔵省・金融庁(検査局・監督局等)を経て2025年8月入社
取締役管理本部長 倉澤 瑞樹 東京三菱銀行を経て2022年7月入社
社外取締役 髙井 孝佳 エバラ食品工業の専務取締役・代表取締役副社長等
社外取締役 岡田 和弘 横浜銀行の取締役常務執行役員等
常勤監査役(社外) 佐藤 瞬也 有限責任監査法人トーマツ。公認会計士
監査役(社外) 嶋方 拓郎 あずさ監査法人。公認会計士
監査役(社外) 田原 一樹 長島・大野・常松法律事務所。弁護士

役員は男性11名で、女性の役員はいません(役員のうち女性の比率は「-%」と記載)。社外監査役3名のうち2名は公認会計士で財務・会計に関する相当程度の知見を持ち、1名は弁護士で企業法務に関する相当程度の知見を持つと記載されています。監査役の構成の考え方は監査役に会計の知識は必要か、常勤監査役の役割は常勤監査役は必要かで解説しています。

社外役員の独立性はどう説明されているか

同社は、社外取締役・社外監査役を選任するための独立性に関する基準又は方針を明確には定めていませんが、選任にあたっては経歴や当社との関係を踏まえ、東京証券取引所が定める独立性基準に抵触しないものと判断している、と記載しています。社外監査役の佐藤瞬也氏が第3回新株予約権6,000個を保有していること以外に、社外役員及びその兼職先と当社との間に人的関係、資本的関係又は取引関係その他の利害関係はない、とされています。

独立役員の基準については、東京証券取引所が2026年7月に上場規則を改正し(7月10日施行)、上場会社の主要株主(議決権の10%以上を保有する者)やその業務執行者(最近において該当していた者を含む)等は、2026年12月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会の日の翌日から、独立役員の要件を満たさないこととされました。大株主との関係が深い人を社外役員に迎える予定の会社は、改正後の基準で独立性を確認しておく必要があります。

また、グロース市場の上場会社に適用されるのは、コーポレートガバナンス・コードのうち基本原則だけです。独立社外取締役の数を定める原則(2026年7月21日の改訂後の原則4-10)や、指名委員会・報酬委員会に関する原則(改訂後の原則4-7)は、グロース市場では「実施するか、実施しない理由を説明するか」の対象ではありません。もっとも、上場審査ではコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性が見られるため、社外取締役を何名置くかは会社ごとに検討することになります。考え方は社外取締役は何人必要かをご覧ください。

取締役会と監査役会の開催状況

第4期(2025年10月期)の取締役会は定時・臨時を合わせ月1回以上、13回開催されました。社内取締役5名と当時の取締役(平林恭明氏、2026年1月28日の定時株主総会で退任)、監査役3名はいずれも13回すべてに出席し、社外取締役の髙井孝佳氏は就任後の6回すべてに出席しています。中田一徳氏と岡田和弘氏は2026年1月28日の定時株主総会で選任されたため、当事業年度の出席状況には含まれていません。

取締役会の具体的な検討内容として、経営方針、経営計画、コーポレート・ガバナンスの経営課題、月次予算実績差異分析、業務執行状況のほか、株式上場に向けた内部管理体制の整備、単元株制度の導入に伴う定款変更、M&Aアドバイザーの採用計画、新たな事業所の賃貸借契約の締結などが挙げられています。監査役会は第4期に14回開催され、監査役3名全員が14回すべてに出席しました。

役員報酬は「アポイントの成約件数」に連動

取締役の報酬は、固定の基本報酬と業績連動報酬で構成され、社外取締役は基本報酬のみです。特徴的なのは業績連動報酬で、アポイント取得の推進を担当する取締役を対象に、「企画本部長インセンティブ賞与支給規程」に基づき、企画本部が取得したアポイントのうち案件の成約に至り売上計上された件数に、規程上の1件当たりの金額を掛けた額を賞与として支給しています。目標値は設定しておらず、当事業年度の実績は42件と記載されています。

決定過程として、2025年1月17日の取締役会で個人別の基本報酬を、2026年1月28日の臨時取締役会で業績連動報酬(役員賞与)の額を、それぞれ社外取締役の答申を踏まえて決議しています。株主総会で決議された報酬限度額は、取締役が年額1,000,000千円以内(使用人分給与を含まない、2026年1月28日決議)、監査役が年額30,000千円以内(2025年1月29日決議)です。第4期の報酬総額は、取締役(社外取締役を除く)5名で180,310千円(基本報酬167,710千円、業績連動報酬12,600千円)、社外役員5名で22,200千円です。

取締役報酬の決め方取締役会個人別報酬の決定方針を決議社外取締役答申取締役会個人別の報酬を決議株主総会の限度年額1,000,000千円以内基本報酬(月例の固定報酬)地位・職責、他社水準、業績、従業員給与の水準を考慮して取締役会で決定社外取締役は基本報酬のみ業績連動報酬(役員賞与)対象:アポイント取得推進の担当取締役成約し売上計上された件数×規程上の1件当たり金額

図14 Ⅰの部「役員の報酬等」より作成。業績連動報酬は目標値を設定しておらず、当事業年度の実績は42件です。

役員報酬の決定方針や決定方法の開示は、有価証券報告書の記載事項(企業内容等の開示に関する内閣府令)に基づくものです。業績連動報酬を導入する場合は、指標を選んだ理由、算定方法、実績を説明できるように、規程と算定資料を整えておくことが大切です。

関連当事者との取引は「該当なし」

財務諸表の関連当事者情報は、第3期・第4期ともに「該当事項はありません」と記載されています。代表取締役2名が大株主で資産管理会社も持つ構成では、会社と役員・資産管理会社との取引(賃貸借、借入、保証など)の有無が審査で丁寧に確認されます。同社では、資産管理会社との関係は株式の移動として第四部に開示されている一方、取引としての関連当事者取引の注記はない、という整理です。関連当事者取引の考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)で解説しています。

責任限定契約・D&O保険と定款の定め

同社は、会社法第427条第1項に基づき、業務執行取締役等でない取締役及び監査役と責任限定契約を結んでいます(限度額は法令が定める額)。また、会社法第430条の3第1項に規定する役員等賠償責任保険契約を締結し、保険料は全額当社が負担しています。定款では、取締役の定数を10名以内とし、取締役の選任決議の定足数を議決権の3分の1以上とすること、累積投票によらないこと、株主総会の特別決議の定足数を3分の1以上とすること、剰余金の配当等を取締役会決議で行えること、取締役会決議で自己株式を取得できることなどを定めています。

内部監査・内部統制はどう組み立てているのか

同社は独立した内部監査部門を設置していません。Ⅰの部では、比較的小規模の会社・組織であることから、代表取締役社長が選任した内部監査責任者1名(取締役管理本部長の倉澤瑞樹氏)と内部監査担当者1名(取締役企画本部長の阿藤剛氏)により内部監査を実施している、と説明されています。内部監査業務の補助は外部の専門家に委託しており、外部専門家は内部監査責任者の指示のもとで監査手続を実施します。

自己監査の回避も明記されています。管理本部に対する内部監査は、自己監査とならないよう取締役企画本部長が実施し、内部監査責任者が所属する部門については他部門の内部監査担当者を任命して相互監査が可能な体制で運用している、という記載です。

内部監査の相互監査体制内部監査責任者取締役管理本部長内部監査担当者取締役企画本部長管理本部以外の部署管理本部(責任者の所属部門)外部専門家(監査手続の補助)報告先:代表取締役社長(取締役会・常勤監査役にも直接報告)監査監査(自己監査を回避)

図15 Ⅰの部「内部監査の状況」より作成。独立した内部監査部門は置かず、取締役2名が役割を分担しています。

監査結果は代表取締役社長に報告され、社長が被監査部門に監査結果と要改善事項を通達し、被監査部門は改善状況報告を内部監査人に提出します。内部監査責任者は改善状況についてフォローアップ監査を行います。さらに、監査結果を含む活動状況は、代表取締役のほか取締役会及び常勤監査役にも直接報告するものとされています。

内部監査を兼務で行う場合、上場審査では「誰が誰を監査するのか」と「報告経路が社長だけに偏っていないか」が確認されます。同社のように、責任者の所属部門を別の担当者が監査し、取締役会と常勤監査役にも直接報告する経路を定めておくと、独立性を説明しやすくなります。兼務の考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、報告先の考え方は内部監査の報告先は社長だけでよいのかで解説しています。

三様監査の連携

常勤監査役は、監査計画の立案にあたって会計監査人及び内部監査人と意思疎通を図り、内部監査の実施に立ち会うことで実効性を確保しているとされています。内部統制の基本方針には、常勤監査役を中心に会計監査人や内部監査担当者と半期ごとに三様監査会議を実施することが定められています。会計監査人との連携では、監査計画と監査結果の説明を受け、内部監査の実施状況を共有しています。

三様監査の連携監査役会(3名全員社外)内部監査(責任者・担当者)会計監査人(A&Aパートナーズ)三様監査会議(常勤監査役を中心に半期ごと)実施に立会い報酬同意・評価計画・結果の共有

図16 Ⅰの部「企業統治に関するその他の事項」「監査の状況」より作成。

三様監査は、形式的な会議の開催回数よりも、各監査で見つかった課題やリスク認識を互いの監査計画にどう反映したかが大切です。具体的な進め方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)をご覧ください。

リスク管理・コンプライアンス・内部通報

業務の適正を確保するための体制として、コンプライアンス規程、社外に通報窓口を設けた内部通報制度、内部監査規程、文書管理規程・情報セキュリティ管理規程、リスク管理規程、職務権限規程・職務分掌規程、反社会的勢力排除規程などが挙げられています。財務報告の信頼性を確保するため、金融商品取引法その他の関連法令に従い財務報告に係る内部統制を整備・運用することも基本方針に含まれています。

M&A仲介では顧客の機密情報を多く扱うため、事業等のリスクでも情報管理(顕在化可能性「低」、影響度「大」)が挙げられ、顧客との秘密保持契約や情報セキュリティ体制の強化に触れています。訴訟リスクについては、クレーム管理規程を制定し、経営会議とリスク・コンプライアンス委員会でクレーム及びトラブルの再発防止に努めていると記載されています。内部通報制度の整備は内部通報体制は上場審査でどこまで見られるかで解説しています。

会計・開示で押さえておきたい論点は何か

収益認識:株式譲渡等が成立した時点で一括計上

重要な会計方針では、売手・買手のM&A両当事者にアドバイザリー(仲介)契約に基づくM&A関連サービスを提供して報酬を得ており、売手と買手の間で株式譲渡・事業譲渡等に係る最終契約の締結が実現し、株式譲渡・事業譲渡等が成立した時点で履行義務が充足されると判断して、その時点で収益を認識すると記載されています。対価は履行義務の充足から概ね1か月以内に受領し、重要な金融要素は含まないとされています。

収益を認識するタイミングアドバイザリー契約の締結相手先の確定(マッチング)最終契約の締結株式譲渡等の成立成立前に顧客から受け取った対価→ 契約負債として計上履行義務の充足→ この時点で収益を認識契約負債=履行義務を充足する前に顧客から受け取った対価第3期末 56,336千円 → 第4期末 120,375千円対価は履行義務の充足後おおむね1か月以内に受領(重要な金融要素なし)

図17 Ⅰの部「重要な会計方針」「収益認識関係」より作成。

契約負債は、履行義務を充足する前に顧客から受け取った対価で、第3期末56,336千円、第4期末120,375千円です。期首の契約負債のうち当期に収益として認識した額は、第3期54,150千円、第4期45,615千円と記載されています。買い手から受け取る中間報酬など、成約前に受け取る対価がある場合、それを受領時に売上とせず、履行義務の充足時まで負債として繰り延べるかどうかが論点になります。

成功報酬型のビジネスでは「いつ成立したか」の判定がそのまま売上の期間帰属を決めるため、クロージングの事実を確かめる証憑(株式譲渡の実行を示す書類、入金記録など)と、期末前後の案件のカットオフ手続が監査でも重視されます。収益認識の審査での見られ方は上場審査で問われる収益認識で解説しています。

重要な会計上の見積り:繰延税金資産の回収可能性

重要な会計上の見積りとして識別されているのは、繰延税金資産の回収可能性です。将来の課税所得の見込み等により回収可能性が高いと判断できる金額を計上しており、見積りの前提となる条件や仮定が変わると翌事業年度の繰延税金資産と法人税等調整額に重要な影響を与える可能性がある、と記載されています。

第4期の税効果会計の注記を見ると、繰延税金資産の主な内訳に賃上げ促進税制による税額控除の繰越控除(繰越税額控除215,952千円)があり、その一部について評価性引当額112,132千円を認識しています。この結果、第4期は法人税等合計が△15,985千円となり、税引前当期純利益296,309千円より当期純利益312,295千円のほうが大きくなっています。

繰延税金資産の主な内訳(第4期末) 金額(千円)
繰越税額控除 215,952
未払費用 134,210
減価償却超過額 14,182
フリーレント賃借料 5,574
役員賞与引当金 4,358
賞与引当金 4,004
その他 13,984
繰延税金資産小計 392,267
評価性引当額 △112,132
繰延税金負債(未収還付事業税) △7,353
繰延税金資産の純額 272,781

税額控除の繰越しを繰延税金資産として計上する場合、繰越期間(5年)内に控除できるだけの法人税額が生じるか、また控除する年度に給与等支給額の増加要件を満たせるか、という見積りが必要になります。上場準備の段階では、事業計画と税金計算を連動させ、見積りの根拠を監査法人に説明できるようにしておくことが重要です。なお、防衛特別法人税の創設に伴い、2026年11月1日以後開始する事業年度以降に解消が見込まれる一時差異等については法定実効税率を34.59%から35.43%に変更して計算しており、影響は軽微と記載されています。

その他の特徴的な注記

資産除去債務は、オフィスの原状回復義務について、負債計上に代えて敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、当期の負担に属する金額を費用計上する方法によっています。未適用の会計基準として、リースに関する会計基準(企業会計基準第34号)を2028年10月期の期首から適用予定で、影響額は評価中とされています。オフィスの賃借が多い会社では、新リース会計基準の影響が大きくなりやすい点に注意が必要です。

表示方法の変更として、投資その他の資産の「その他」に含めていた敷金を金額的重要性が増したため独立掲記し、販売費及び一般管理費の総額の100分の10を超えた役員報酬を主要な費目として注記しています。拠点の増設が続く会社では、こうした表示の見直しが毎期発生しやすくなります。

監査法人と監査報酬

項目 内容
監査法人 監査法人A&Aパートナーズ
継続監査期間 2年
業務を執行した公認会計士 指定社員 業務執行社員 木間久幸氏、松本浩幸氏
補助者 公認会計士8名、その他7名
監査証明業務に基づく報酬 最近事業年度の前事業年度 13,860千円/最近事業年度 18,480千円
非監査業務に基づく報酬 両事業年度とも なし
中間・第3四半期 期中レビュー

監査法人の選定方針としては、監査法人の概要、監査日数、監査期間及び具体的な監査実施体制、監査報酬の見積額等の資料を入手し、質問・面談を行ったうえで総合的に判断したと記載されています。また、財務諸表等の適正性を確保するための特段の取組として、監査法人との緊密な連携、各種団体が主催するセミナーへの参加、会計専門書の購読が挙げられています。

事業等のリスクと審査で問われやすい点

Ⅰの部の事業等のリスクは、「外部環境に起因するリスク」「事業内容に起因するリスク」「その他のリスク」の3区分で15項目が挙げられ、各項目に顕在化可能性、発生する可能性のある時期、影響度が付されています。顕在化可能性が「高」とされているのは「同業他社との競合」(影響度「中」)だけで、M&A仲介事業は許認可がなく大規模な設備投資も要しないため参入障壁が比較的低い、と説明されています。

事業等のリスク(顕在化可能性×影響度)区分影響度:中影響度:大可能性:高同業他社との競合(該当なし)可能性:中新株予約権の行使による株式価値の希薄化法的規制/業績の変動収益の計上時期による偏重M&A仲介業への依存人材の確保及び育成可能性:低技術革新/訴訟の可能性急速な組織拡大/配当政策大株主との関係景気悪化や自然災害等情報管理代表取締役への依存

図18 Ⅰの部「事業等のリスク」に会社が記載した顕在化可能性と影響度をもとに配置。「高×大」に該当する項目はありません。

審査の観点から特に関係が深いのは、次のような項目です。

人材の確保・育成と急速な組織拡大:M&A仲介は人材採用の競争が激しく、採用・育成した人材が事業に寄与しない場合や社外に流出した場合、先行して増えた費用に見合う収益を得られない可能性がある、とされています。人員を大きく増やした期に減益となった同社の業績推移とも対応する記載です。

代表取締役への依存:橋場氏が代表取締役社長として全体の経営を統括し、取締役会・経営会議・リスク・コンプライアンス委員会の議長を務め、荒川氏がキャピタルマーケッツ本部を統括する役割分担が記載されています。両氏への過度な依存を避けるため、取締役会や経営会議で役員・幹部社員への情報共有を図っているとしています。

新株予約権による希薄化と大株主との関係:潜在株式比率23.9%と、代表取締役2名で74.8%という株主構成は、少数株主の視点からのリスクとして開示されています。

リスク情報は、上場審査の基準である「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」に関わります。会社が認識しているリスクと、その対応策を具体的に書けているかが問われます。開示の考え方はIPO審査の「企業内容等の開示の適正性」で解説しています。

このケースから上場準備会社が学べること

1. 成功報酬型の売上は「成立時点」の証拠づくりが要:最終契約の締結と株式譲渡等の成立をもって一括で収益を認識する場合、期末前後の案件のカットオフが業績を左右します。成約の事実を示す証憑の管理と、中間報酬などの前受けを契約負債として扱う方針を、早い段階で固めておきましょう。

2. 期末集中を前提にした予算・業績予想の管理:四半期ごとの成約件数にばらつきがあるビジネスでは、案件パイプライン(受託残件数)と成約見込み時期を月次で追い、業績予想の修正要否を判断できる仕組みが必要です。

3. 先行投資による減益は、理由と回収の筋道を説明する:同社は人員の増加による費用の先行と、増員したアドバイザーの成約寄与が翌期以降になる構造を説明しています。減益の期があっても、事業計画の前提とKPIで説明できることが重要です。

4. 資産管理会社への移動は開示対象期間を意識する:基準事業年度末の2年前の日以後の特別利害関係者等の株式移動はⅠの部に記載されます。移動価格の算定根拠も記載されるため、時期と価格の整理が欠かせません。

5. 信託型ストック・オプションは早めに方針を決める:同社は第1回(信託型)を全部放棄し、同日に第4回を発行しています。放棄すると会計上は戻入益が生じることもあるため、税務・会計・資本政策をあわせて検討しましょう。

6. 継続所有の確約の対象を正しく見極める:確約が必要なのは規則が定める期間内の割当てだけです。同社では第5回だけが対象でした。ロックアップとは別の制度である点も押さえておきましょう。

7. 兼務の内部監査は「相互監査」と「複線の報告経路」で独立性を補う:取締役2名が役割を分け、責任者の所属部門を別の担当者が監査し、外部専門家の補助を受け、取締役会・常勤監査役にも直接報告する設計は、小規模組織での一つの解です。

8. 業績連動報酬は指標の選定理由と算定方法を規程化する:同社はアポイントからの成約件数という、担当取締役の役割に直結する指標を選び、規程に基づいて支給しています。

  • 売上の計上時点(成約・引渡し・役務完了)と、それを示す証憑を決めているか
  • 中間報酬・着手金など、履行義務の充足前に受け取る対価の会計処理を決めているか
  • 資産管理会社への株式移動や役員・従業員への譲渡の時期と価格の根拠を説明できるか
  • 信託型を含むストック・オプションの税務・会計上の扱いを確認し、潜在株式比率を把握しているか
  • 内部監査の担当者が自部門を監査しない体制と、取締役会・監査役への報告経路を定めているか
  • 繰延税金資産(税額控除の繰越しを含む)の回収可能性を事業計画と連動させて説明できるか

よくある質問

Q1. 独立した内部監査部門がなくても上場できますか?

Ⅰの部によれば、同社は独立した内部監査部門を設置せず、取締役管理本部長を内部監査責任者、取締役企画本部長を内部監査担当者として内部監査を実施し、責任者の所属する管理本部は担当者が監査する相互監査の体制をとっています。兼務で行う場合は、自己監査を避ける仕組みと、監査結果を取締役会や監査役にも報告する経路を整え、その運用実績を示せるようにすることが大切です。

Q2. 信託型ストック・オプションを導入している場合、上場前にどう対応すればよいですか?

一律の正解はありませんが、同社は2024年10月31日に第1回新株予約権(信託型)を全部放棄し、同日に第4回新株予約権を発行しています。放棄によって新株予約権戻入益1,050千円が計上されました。税務上の取扱い、受益者への説明、会計処理、潜在株式比率への影響をあわせて、専門家と検討することをおすすめします。

Q3. Ⅰの部に記載される持株比率は上場時の比率ですか?

いいえ。Ⅰの部の大株主の比率は提出時点(上場申請時点)のものです。同社の代表取締役2名の合計74.8%も本書提出日現在の比率で、上場時の売出しなどにより変わります。

Q4. グロース市場ではコーポレートガバナンス・コードの全原則に対応する必要がありますか?

グロース市場の上場会社に適用されるのは基本原則のみです。ただし、上場審査ではコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性が審査されるため、社外役員の構成や監査体制は会社の実態に合わせて検討が必要です。

最初の一歩は、売上の計上ルールと株式の動きを一覧にすること

成功報酬型のビジネスで上場を目指す会社は、まず「どの時点で売上を計上し、何でその事実を確かめるか」を文書にし、あわせて設立以来の株式・新株予約権の発行と移動を日付・株数・価格・理由の一覧にまとめてみてください。この2つが整理できると、監査法人や主幹事証券との協議がぐっと進めやすくなります。全体のスケジュールはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で確認できます。

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まとめ

M&Aロイヤルアドバイザリーは、2026年12月3日に東証グロース市場へ上場予定のM&A仲介会社です。Ⅰの部からは、株式譲渡等の成立時点で収益を認識する成功報酬型の会計処理と業績の期末集中、人員の先行投資による第4期の減益、代表取締役2名で74.8%を持つ株主構成と資産管理会社への株式移動、信託型新株予約権の放棄を含むストック・オプションの組み直し、継続所有の確約の対象の見極め、取締役2名による相互監査の内部監査体制といった、上場準備の具体的な論点を読み取ることができます。

自社の上場準備では、ビジネスモデルに合った収益認識と業績管理、開示対象となる株式移動の整理、規模に合った内部監査体制の設計を、早い段階から進めていくことが大切です。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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