※本記事は2026年11月3日時点の公表資料に基づきます。
静岡市に本店を置くInfiniCloud株式会社(証券コード670A)が、2026年10月30日にTOKYO PRO Market(以下「TPM」)への上場を申請しました(申請受付日)。上場予定日は2026年11月30日、担当J-Adviserはフィリップ・キャピタル証券株式会社です。2026年11月3日時点では、JPXのTPM新規上場会社一覧に上場承認日の記載はありません。TPMでは、東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認するとされています。同社が申請と同時に公表した書類の表紙は「特定証券情報」で、上場に際して特定投資家向け取得勧誘による新株の発行を予定しています。
結論からいえば、InfiniCloudの特定証券情報は、①引受けを伴わない特定投資家向け取得勧誘で普通株式60,000株以内を発行する上場設計、②監査を受けた事業年度は第24期(2025年9月期)の1期で、第25期中間は期中レビューという「最近1年間」の監査の実例、③A種優先株式を取得条項で普通株式に一本化し、株式分割で投資単位を整えた資本政策、④兼務の内部監査と全員社外の監査役会という少人数の会社の体制、の4点で上場準備会社の参考になります。本記事では、原文の記載を確かめながら、上場準備の実務上のポイントを一般論とあわせて解説します。
この記事の見出し
- InfiniCloudとTOKYO PRO Market上場の概要
- なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
- TOKYO PRO Marketの上場の仕組みをInfiniCloudの記載で確かめる
- 一般市場(グロース・スタンダード)との違い
- 事業内容と収益モデル:既存IT資産を活かすプライベートクラウド
- 沿革と上場までの道のり
- 業績の推移:3期分の数値と監査済みの第24期
- 資本政策と株主構成:A種優先株式の一本化と2回の株式分割
- コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社と全員社外の監査役
- 内部監査・内部統制:兼務の担当者による相互監査
- 会計・開示の論点:収益認識と固定資産の減損
- J-Adviser契約と上場維持:無催告解除の事由は19項目
- 事業等のリスクと上場準備で確認されやすい点
- 一般市場へのステップアップを考える会社への示唆
- 上場準備会社が学べること
- よくある質問
- まとめ
- 本記事の根拠
InfiniCloudとTOKYO PRO Market上場の概要
InfiniCloudは、2001年11月に有限会社ジャストプレイヤーとして静岡市で設立されました。ゲームソフトウエアの配信事業を主な目的として創業し、2002年11月にWEBサーバのレンタルサービスを始めたことがクラウド事業の出発点です。2006年7月に株式会社へ改組し、2021年1月にテラクラウド株式会社、2023年4月に現在のInfiniCloud株式会社へ商号を変更しています。
現在の事業は、企業が保有する既存のIT資産を活かしながらクラウド化するプライベートクラウドサービスです。報告セグメントは「クラウドサービス事業」の1つで、報告セグメントに含まれない「その他」としてライセンス販売を含む商品販売事業やアドバイザリー事業等があります。子会社はなく、財務諸表は単体のみです。概要は次の表のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | InfiniCloud株式会社(InfiniCloud Co. Ltd.) |
| 証券コード | 670A |
| 市場 | TOKYO PRO Market |
| 申請受付日(公表日) | 2026年10月30日 |
| 上場承認日 | 未定(2026年11月3日時点。JPXの一覧に記載なし) |
| 上場予定日 | 2026年11月30日 |
| 担当J-Adviser | フィリップ・キャピタル証券株式会社(2026年1月15日契約締結) |
| 本店 | 静岡県静岡市葵区呉服町 |
| 代表者 | 代表取締役CEO 瀧 康史 |
| 設立 | 2001年11月(有限会社ジャストプレイヤー) |
| 決算期 | 9月30日(第24期=2025年9月期) |
| 従業員数 | 22名(ほか臨時3名、2026年9月30日現在) |
| 公表書類 | 特定証券情報(2026年10月30日公表) |
| 上場時の株式の発行 | 特定投資家向け取得勧誘 普通株式60,000株以内(発行価額の総額102,000,000円以内。想定公開価格1,700円を基礎とした見込額) |
| 会計監査 | 有限責任監査法人トーマツ(第24期は監査、第25期中間は期中レビュー) |
上場までの手続きを日付で並べると次の図のとおりです。J-Adviser契約の締結日は特定証券情報の「事業等のリスク」に、申請受付日と上場予定日はJPXの一覧に記載されています。
図1 J-Adviser契約の締結日は特定証券情報「事業等のリスク」、申請受付日と上場予定日はJPXの新規上場会社一覧による。上場承認日は2026年11月3日時点で一覧に記載がない。
従業員数は第22期末17名、第23期末24名、第24期末25名、第25期中間期末23名(いずれも臨時雇用者を除く)と推移しています。2026年9月30日現在の22名の内訳は、クラウドサービス事業8名、全社(共通)14名で、平均年齢36.3歳、平均勤続年数3.9年、平均年間給与5,318千円です。全社(共通)には営業・企画・管理部門の人員が含まれます。
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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
特定証券情報には、上場先としてTPMを選んだ理由や上場の目的を説明した記載は見当たりません。そのため本記事では、同社がTPMを選んだ理由を推測することはせず、TPMという市場の特徴を一般論として整理します。なお、東証は2026年4月から、新規上場時に「上場目的」(なぜTPMに上場するか、どう活用するか)を検討・開示するよう要請しています。これは東証の「お願い」であり、規程上の義務ではありません。
TPMは、2008年の改正金融商品取引法で導入されたプロ向け市場制度に基づく市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」と位置づけられます。東証は2026年4月3日に、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直しました。主な特徴は次の図のとおりです。
図2 東証のTPM概要ページ・上場ガイドブック(TPM編)の記載を整理。InfiniCloud固有の記載ではない。
特定証券情報から読み取れる事実としては、上場時に特定投資家向け取得勧誘で新株を発行し、その手取金をクラウドサービス事業の機材購入費用と人件費に充てる予定であることが挙げられます。手取金の見込みと使途は次の表のとおりです。
| 項目 | 金額(見込額) | 備考 |
|---|---|---|
| 払込金額の総額 | 102,000,000円 | 想定公開価格1,700円×60,000株を基礎とした見込額 |
| 発行諸費用の概算額 | 5,100,000円 | 引受けを実施しないため引受手数料はない |
| 差引手取概算額 | 96,900,000円 | ― |
| うち機材購入費用 | 66,900千円 | 支払予定 2027年9月期〜2028年9月期 |
| うち人件費 | 30,000千円 | 支払予定 2027年9月期〜2028年9月期 |
充当時期が決まるまでは、安全性の高い金融商品等で運用する方針と記載されています。TPMでは上場目的として資金調達を挙げる会社は多くありませんが(2026年6月15日時点の東証の集計で「増資」は11社、10%)、InfiniCloudは、上場と同時に特定投資家向け取得勧誘で株式を発行する設計を採っています。
TOKYO PRO Marketの上場の仕組みをInfiniCloudの記載で確かめる
TPMには、株主数・流通株式・利益の額といった形式基準(数値基準)がありません。その代わりに、東証から資格認証を受けた担当J-Adviserが、上場適格性要件(企業としての相応性、事業の公正・忠実な遂行、規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制、企業内容等の開示体制、反社会的勢力との関係がないこと等の5項目)への適合を調査・確認します。「審査がない」のではなく、審査の担い手がJ-Adviserである点が一般市場との大きな違いです。
InfiniCloudの特定証券情報の冒頭にある「投資者に対する注意事項」でも、TPMは特定投資家等を対象とした市場であること、TPMの取引所規則の枠組みは一般的な取引所金融商品市場と基本的な部分で異なり、J-Adviserが重要な役割を担うことが説明されています。
特定証券情報とは何か
特定投資家のみを相手方とする取得勧誘(いわゆるプロ私募。金融商品取引法上は特定投資家向け取得勧誘)を行う発行者は、有価証券届出書ではなく、有価証券と発行者に関する基本的な情報である「特定証券情報」を勧誘時までに提供又は公表しなければなりません(金融商品取引法27条の31)。TPMでは上場申請の段階でこれを公表します。InfiniCloudは上場に際して特定投資家向け取得勧誘を行うため、表紙の書類名が「特定証券情報」になっています。
上場後は、事業年度と中間会計期間のそれぞれについて、期末後3か月以内に「発行者情報」を作成・公表します。年次の発行者情報を「有価証券報告書」、中間のものを「半期報告書」とは呼ばない点に注意が必要です。
特定投資家向け取得勧誘の設計
今回の取得勧誘は、普通株式60,000株を上限とし、申込期間に申込みのあった株式数が発行される仕組みです。発行価格は日本証券業協会の規則に定めるブックビルディング方式に準拠して決定し、フィリップ・キャピタル証券がブックランナーとして需要申告の受付等を行います。一方で「株式の引受けは実施いたしません」と記載され、申込取扱場所は当社、払込取扱場所は株式会社静岡銀行の支店です。主な予定日は次の図のとおりです。
図3 特定証券情報「第一部 証券情報」に記載の予定日。発行数は60,000株を上限とし、申込みのあった株式数が発行される。
発行価格は、仮条件による需要状況、上場日までの価格変動リスク等を総合的に勘案して決定する予定とされています。発行価額(会社法上の払込金額)は2026年11月10日の取締役会で決定する予定で、発行価格が発行価額を下回る場合は取得勧誘を中止すると記載されています。増加する資本金の額は、会社計算規則14条1項に基づく資本金等増加限度額の2分の1とする旨が2026年10月30日の取締役会で決議されています。
あわせて、2023年10月1日から公表日までに増資に応じた個人・法人は、担当J-Adviserの事前の書面による同意なしに、上場日後6か月の2027年5月30日まで(交付から1年を経過していない場合は交付日から1年間)株式の譲渡等を行わない旨の書面を差し入れています(いわゆるロックアップ)。
監査は「最近1年間」
TPMでは、上場前に求められる監査期間は「最近1年間」です。InfiniCloudは「特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例」110条5項の規定に基づき、第24期(2024年10月1日〜2025年9月30日)の財務諸表について有限責任監査法人トーマツの監査を受け、第25期中間会計期間(2025年10月1日〜2026年3月31日)の中間財務諸表について同法人の期中レビューを受けています。第22期と第23期の財務諸表は、この監査を受けていません。監査報告書と期中レビュー報告書の日付はいずれも2026年10月27日です。
TPM上場の適格性要件には、上場予定日から12か月間の運転資金の確保が含まれます。InfiniCloudは「上場予定日(2026年11月30日)から12か月間の当社の運転資本は、現状の自己資金及び借入による資金調達が可能であることから、十分である」と記載しています。
一般市場(グロース・スタンダード)との違い
上場準備会社がTPMと一般市場を比較する際の主な違いを、東証の公表資料に基づいて整理すると次の表のとおりです。一般市場の欄は一般的な整理で、詳細は各市場の上場規程・ガイドブックで確認してください。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード等) |
|---|---|---|
| 投資家 | 特定投資家等。一般投資家は買付け不可(保有株の売却は可能) | 制限なし |
| 形式基準(数値基準) | なし | 株主数・流通株式等の基準あり |
| 上場審査の担い手 | 担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認(東証も面談) | 東証の上場審査(公募・売出しを伴う場合は主幹事証券の引受審査も) |
| 申請から承認まで | 原則として申請から10営業日後に承認 | 東証の審査期間を要する |
| 上場前の監査期間 | 最近1年間 | 一般に直前2期 |
| 上場時の開示書類 | 特定証券情報(勧誘をしない場合は発行者情報に相当する情報) | 有価証券届出書・新規上場申請のための有価証券報告書 |
| 上場後の定期開示 | 発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) | 有価証券報告書・半期報告書 |
| 四半期開示 | 任意 | 取引所規則上の四半期決算短信 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 金融商品取引法の内部統制報告制度の対象 |
| 上場維持の前提 | 担当J-Adviserとの契約の維持 | J-Adviser制度はない |
TPMの会社であっても、上場後は適時開示の義務があり、決算情報や担当J-Adviserの異動なども開示の対象です。また、J-Adviser制度は上場会社や取締役の義務を減免するものではないとされています。
事業内容と収益モデル:既存IT資産を活かすプライベートクラウド
InfiniCloudの主な顧客は、大規模な基幹システムや長年運用されてきたIT資産を持つエンタープライズ企業です。中核サービスは、自社開発の仮想化基盤「InfiniCloud HV」をベースとする「High Response Private Cloud(HRPC)」と、Oracle Solaris SPARCシステムの移行先として利用できる「Solaris SPARC Private Cloud」です。InfiniCloud HVはオープンソースのXen・KVMをベースにしたハイパーバイザーで、VMwareからの代替ニーズに適合するよう設計されていると記載されています。
特徴的なのは、データセンターを不動産として自社で保有せず、日本国内に分散した複数のデータセンターを自社のネットワークとソフトウエアで連携させる分散型の基盤を採っている点です。同社はこの仕組みを「分散+」と定義しています。さらに、自社のクラウド基盤をOEM/ODMの形で地方のデータセンター事業者に提供する取組み(2024年11月にデータセンター事業者向けOEM販売を開始)や、ストレージサービス「InfiniCLOUD」、2025年8月に提供を始めた「InfiniCloud AI」も展開しています。
図4 「事業の内容」「対処すべき課題」「事業等のリスク」の記載をもとに作図。データセンターは自社で保有せず、複数のデータセンター事業者と連携する。
売上高の内訳は、収益認識に関する注記の「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」で確認できます。第24期のクラウドサービス事業539,124千円のうち、Cloud Nativeが215,813千円、Conventional Cloudが188,637千円、Networkが116,775千円です。
| 区分(千円) | 第23期 | 第24期 | 第25期中間 |
|---|---|---|---|
| Conventional Cloud | 166,317 | 188,637 | 64,021 |
| Cloud Native | 157,897 | 215,813 | 139,340 |
| Network | 109,360 | 116,775 | 52,722 |
| InfiniCLOUD | 9,060 | 10,533 | 5,747 |
| その他(クラウドサービス事業内) | 10,047 | 7,365 | 14,701 |
| クラウドサービス事業 計 | 452,684 | 539,124 | 276,532 |
| その他(報告セグメント外) | 60,603 | 65,193 | 27,414 |
| 合計 | 513,287 | 604,318 | 303,946 |
主要な販売先への依存
「販売実績」には、主な相手先として2社の販売実績と総販売実績に対する割合が記載されています。株式会社BREXA Holdings(旧 株式会社アウトソーシング)は第23期228,665千円(44.5%)、第24期244,543千円(40.5%)、第25期中間68,106千円(22.4%)、KSG株式会社は第23期140,360千円(27.3%)、第24期174,196千円(28.8%)、第25期中間110,416千円(36.3%)です。
図5 「販売実績」の主な相手先別の販売実績。株式会社BREXA Holdingsは旧株式会社アウトソーシング。第25期中間は2025年10月〜2026年3月の6か月。
事業等のリスクでは、BREXA Holdingsについて、2025年7月に社名変更を伴う大規模な体制変更があったことと現状の営業状況を考慮し、今後は同社への売上依存度が20%ほどに下がる見込みであること、販売代理店制度を整備して販路を拡大し依存度を下げる方針であることが記載されています。KSGについては、販売代理店制度を整備する以前から複数の顧客に販売実績があり、他の販売先との取引をそれ以上に拡大して相対的に依存度を低くしていく方針とされています。また、金融商品の注記では、第24期末の営業債権のうち74.4%が特定の大口顧客に対するものと記載されています。
上場準備では、特定の顧客への依存は、事業の安定性や取引条件の妥当性の観点から確認されやすい論点です。依存度の数値だけでなく、契約形態、契約更新の状況、依存度を下げる具体策を説明できるように整理しておくことが重要です。
沿革と上場までの道のり
沿革を見ると、ゲームソフトウエアの配信から始まり、WEBサーバのレンタル、SaaS型CMS「WikiPlus」(2005年9月)、第二種電気通信事業者の届出(2007年2月)、SolarisSPARC版プライベートクラウド(2012年12月)、BtoC向けオンラインストレージ「Teraクラウド」(2014年1月)と、20年以上にわたってサービスを広げてきたことが分かります。
図6 特定証券情報「沿革」から抜粋。上場関係の日付は「事業等のリスク」とJPXの新規上場会社一覧による。
2023年10月にはISMS(ISO27001)とISMSクラウドセキュリティ(ISO27017)の認証を取得し、2026年3月にはさくらインターネット社と協業して国産プライベートAI基盤「InfiniCloud AIパッケージ」の提供を始めています。2026年7月には各種サービスを横断的につなぐ新認証システムを導入しました。
沿革の表には載っていませんが、特定証券情報の他の箇所からは、上場準備に関係する出来事として、2022年10月と2026年3月の株式分割、2022年11月・2024年9月・2025年10月の第三者割当、2023年11月と2025年10月のストック・オプションの付与、2026年3月のA種優先株式の取得と消却、そして2026年1月のJ-Adviser契約の締結が読み取れます。これらは後の「資本政策と株主構成」で詳しく見ます。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
業績の推移:3期分の数値と監査済みの第24期
特定証券情報の「主要な経営指標等の推移」には、第22期から第24期までの3事業年度と第25期中間会計期間の数値が載っています。前述のとおり、監査を受けたのは第24期のみで、第22期・第23期は監査を受けておらず、第25期中間は期中レビューです。
| 項目(千円) | 第22期(2023年9月期) | 第23期(2024年9月期) | 第24期(2025年9月期) | 第25期中間(2026年3月) |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 523,378 | 513,287 | 604,318 | 303,946 |
| 営業利益 | 記載なし | △48,339 | 28,654 | 15,621 |
| 経常利益 | 3,874 | △50,282 | 36,544 | 9,926 |
| 当期(中間)純利益 | 3,288 | △48,201 | 35,957 | 6,983 |
| 純資産額 | 59,561 | 49,760 | 89,318 | 102,301 |
| 総資産額 | 226,975 | 263,416 | 318,426 | 332,844 |
| 自己資本比率 | 26.2% | 18.9% | 28.0% | 30.7% |
| 営業活動によるCF | 95,244 | △48,795 | 113,697 | 19,078 |
| 監査等 | 監査を受けていない | 監査を受けていない | 監査(無限定適正意見) | 期中レビュー |
図7 「主要な経営指標等の推移」から作成(百万円未満を四捨五入)。監査を受けたのは第24期のみで、第22期・第23期は監査を受けていない。第25期中間(6か月)は期中レビューで、売上高303.9百万円・経常利益9.9百万円。
第23期は営業損失48,339千円、経常損失50,282千円、当期純損失48,201千円でしたが、第24期は売上高が604,318千円(前期比17.7%増)となり、営業利益28,654千円、経常利益36,544千円、当期純利益35,957千円を計上しました。MD&Aでは、知名度向上のための広告宣伝と体制強化のための人員採用を積極的に行い、既存顧客の環境の追加や入れ替えを中心に案件獲得が進み、下半期には新規顧客の案件も稼働を始めたと説明されています。
図8 損益計算書(第23期・第24期)から作成。売上総利益は240.1→294.3百万円、販売費及び一般管理費は288.5→265.7百万円。百万円未満を四捨五入。
損益計算書で比べると、売上総利益は240,120千円から294,304千円に増え、販売費及び一般管理費は288,460千円から265,650千円に減っています。販管費のうち支払報酬は43,336千円から30,683千円に、役員報酬は56,100千円から53,310千円になっています。売上原価明細書では、ライセンス利用料が17,026千円から43,379千円に増えた一方、保守料は22,693千円から19,794千円になっており、MD&Aの「ライセンス利用料の高騰」「保守契約の見直しや各種原価の抑制」という説明と対応します。
第24期は営業外収益に受取手数料9,450千円があり、経常利益が営業利益を上回っています。第25期中間は、営業外費用に上場関連費用4,807千円を計上し、経常利益は9,926千円です。中間期はストレージや電力等のデータセンター関連コストの上昇、SSD価格の高騰、データセンターの移設などで原価が増えたと説明されています。
上場準備会社にとってのポイントは、TPMでは監査済みの期が1期でも上場できる一方、それより前の期の数値は監査を受けていない数値として開示されることです。読者や投資家は、どの期の数値が監査済みかを書類の注記や監査報告書で確認します。監査報告書には「その他の事項」として「会社の2024年9月30日をもって終了した前事業年度の財務諸表は監査されていない」と明記されています。監査法人の選定時期については監査法人はいつまでに決めるかで解説しています。
資本政策と株主構成:A種優先株式の一本化と2回の株式分割
2026年9月30日現在の発行済株式総数は普通株式438,000株、発行可能株式総数は1,752,000株で、単元株式数は100株です。所有者別状況では株主数は13名(金融商品取引業者2、その他の法人3、外国法人等の個人1、個人その他7)、自己株式はありません。ここまでの株式数の推移を時系列で並べると次の図のとおりです。
図9 「発行済株式総数、資本金等の推移」から作成。発行価格はいずれも1株6,000円(2026年3月の株式分割前)。
第三者割当は3回あり、発行価格はいずれも1株6,000円(2026年3月の株式分割前)です。2022年11月30日は法人株主4社に普通株式13,500株、2024年9月27日は個人株主3名に普通株式3,000株と法人株主1社にA種優先株式3,400株、2025年10月1日は個人株主4名に普通株式1,600株を割り当てています。2025年10月1日の割当先は、取締役の向 正裕氏(500株)と孫 龍活氏(500株)、監査役の杉山 悦男氏(500株)と大野 篤氏(100株)で、資金の使途は運転資金とされています。
A種優先株式を取得条項で普通株式に一本化
2024年9月27日に発行したA種優先株式3,400株(払込金額20,400千円)の割当先は、静岡キャピタル8号投資事業有限責任組合です。A種優先株式は、残余財産の分配について普通株式より優先され、剰余金の配当請求権は普通株式と同等とされていました。1株当たり純資産額の計算では、A種優先株式の払込金額20,400千円を純資産から控除しています。
このA種優先株式は、2026年2月24日の取締役会決議により、普通株式を対価とする取得条項を満たしたことで当社が取得し、A種優先株式1株につき普通株式1株を交付しました。取得したA種優先株式3,400株は、会社法178条に基づき2026年3月11日に消却されています。
図10 「自己株式の取得等の状況」「重要な後発事象」から作成。交付株式数はA種優先株式1株につき普通株式1株。
一般市場の上場準備では、優先株式などの種類株式を上場前に普通株式へ転換しておくことが多く、InfiniCloudも上場申請前に普通株式に一本化しています。取得条項付きの設計にしておけば、株主ごとの個別の交渉に頼らず、定めた条件に基づいて会社が取得し普通株式を交付できます。種類株式の整理の考え方は種類株式は上場前に普通株式へ戻すのか、優先株式によくある残余財産の優先分配についてはみなし清算条項で解説しています。
2回の株式分割と発行可能株式総数
同社は2022年10月8日に普通株式1株を110株に、2026年3月13日に1株を4株に分割しました。2回目の分割の目的は「上場準備に伴う当社株式の流動性向上および投資単位の適正化」です。分割前の109,500株が438,000株となり、会社法184条2項の規定に基づいて、定款の発行可能株式総数を220,000株から1,752,000株に変更しています。
特定証券情報の1株当たり情報は、第22期の期首にこれらの株式分割が行われたと仮定して算定されています。分割の前後で数値を比較するときは、注記の前提を確認する必要があります。
株主構成:資産管理会社が過半数
第四部「株主の状況」によると、筆頭株主は合同会社瀧事務所で240,000株(52.28%)を所有しています。役員の状況の注記では、代表取締役 瀧 康史氏の所有株式数259,200株に「同氏の資産管理会社」である瀧事務所の240,000株が含まれると記載されています。瀧氏個人は19,200株(4.18%)です。
図11 第四部「株主の状況」から作成。上場時の特定投資家向け取得勧誘(最大60,000株)の後の比率ではない。
このほか、個人投資家の込山 弘貴氏(8.54%)、前島 晃一氏(7.67%)、取締役CTOの小熊 浩典氏(6.62%)、静岡キャピタル8号投資事業有限責任組合(5.79%)、株式会社田中邦裕事務所(4.35%)、静岡キャピタル株式会社(2.83%)、株式会社Geolocation Technology(1.74%)が続きます。静岡キャピタル8号投資事業有限責任組合の出資約束金額の総額は15億円と記載されています。
ここでの割合は、新株予約権による潜在株式19,552株を含む457,552株に対する比率で、上場申請時点(特定証券情報の記載時点)のものです。上場時の特定投資家向け取得勧誘で最大60,000株が発行されれば、上場時の持株比率はこれとは異なります。TPMには流通株式に関する形式基準はありませんが、将来一般市場を検討する場合は、流通株式比率の計算式と調べ方のような一般市場の考え方を早めに理解しておくとよいでしょう。
株式の発行・移動の価格と算定方法
第四部には、特別利害関係者等の株式移動と第三者割当等の価格の算定方法が記載されています。第三者割当(2024年9月の普通株式・A種優先株式、2025年10月の普通株式)の発行価格6,000円はDCF法により算出した価格を総合的に勘案して決定し、第1回新株予約権の発行価格6,000円は純資産価額法により算出した価格を総合的に勘案して決定したとされています。第2回新株予約権の6,000円はDCF法です。
図12 第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」「第三者割当等の概況」から作成。金額は2026年3月13日の株式分割(1株→4株)前の1株当たり。
移動状況の表のうち、所有者の意向による株式譲渡は2件で(ほかに2026年3月11日のA種優先株式から普通株式への転換が記載されています)、2026年2月26日にOCP1号投資事業有限責任組合から株式会社田中邦裕事務所へ5,000株が1株4,200円(DCF方式により算出した価格を総合的に勘案)で、2026年3月10日に瀧 康史氏から合同会社瀧事務所へ43,500株が1株617円(純資産方式により算出した価格を総合的に勘案)で移動しています。いずれも「所有者の意向による株式譲渡」です(株数・単価は分割前)。
同じ時期でも、取引の当事者や目的によって採用される評価方法や価格が異なることがあります。上場準備では、発行・移動のたびに、算定方法と価格決定の経緯を記録して説明できるようにしておくことが大切です。評価方法の選び方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかを参考にしてください。
継続所有の確約と株式移動の記録
特定証券情報では、TPMの特例115条と同施行規則107条により、新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して1年前から上場日の前日までの期間に第三者割当による募集株式や新株予約権の割当て等を行った場合、割当てを受けた者に、上場日以後6か月を経過する日(割当てから1年を経過していない場合は割当日から1年を経過する日)まで所有すること等を担当J-Adviserに対して確約させるものとされている、と説明されています。同社の場合、直前事業年度の末日は2025年9月30日です。第三者割当等の概況の表では、第1回・第2回新株予約権について確約を行っている旨が注記されています。
また、特例115条と同施行規則106条により、直前事業年度の末日から起算して2年前の日から上場日の前日までの期間に特別利害関係者等が株式等を譲渡・譲受けした場合、その状況の記録を上場日から5年間保存するものとされています。一般市場の継続所有の確約は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説していますが、TPMでは特例の規定に基づく点に注意が必要です。
ストック・オプション:2回の付与と潜在株式
同社は会社法に基づく新株予約権を発行する方法でストック・オプション制度を採用しています。第1回は2023年11月1日に当社従業員17名へ、第2回は2025年10月1日に当社従業員25名へ付与されました。2026年9月30日現在の残高は、第1回が2,233個(目的株式8,932株)、第2回が2,655個(同10,620株)で、2026年3月の株式分割により1個あたりの目的株式数は4株、行使価額は1株6,000円から1,500円に調整されています。
図13 「新株予約権等の状況」「ストック・オプション制度の内容」から作成。付与数は分割前の株数。2026年3月13日の分割(1株→4株)で1個あたりの目的株式数は4株、行使価額は6,000円から1,500円に調整。
行使の条件は、新株予約権の発行時に従業員であった者が行使時にも当社又は子会社の取締役・監査役・従業員の地位にあること、相続人による行使は認めないこと、などです。第2回の新株予約権は金銭の払込みを要しないものとして発行されています。
会計処理については、付与時に未公開企業であったため、公正な評価単価に代えて単位当たりの本源的価値で見積もっており、その算定の基礎となる株式価値は類似会社比較法により算出した価格を総合的に勘案して決定したと記載されています。付与時の単位当たりの本源的価値は0円で、第23期・第24期のストック・オプションに係る費用計上額は「該当事項はありません」とされています。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例も参考になります。
潜在株式19,552株は、株主の状況の合計457,552株に対して4.27%です。上場後の希薄化を説明する際には、行使期間(第1回は2025年11月1日から、第2回は2027年9月27日から)と残高をあわせて示すと分かりやすくなります。
役員への第三者割当と外形標準課税
2025年10月1日の第三者割当で資本金は99,700千円から104,500千円に、資本準備金は59,700千円から64,500千円に増えました。税効果会計の注記では、この第三者割当増資により翌事業年度(第25期)から外形標準課税が適用される見込みとなったことが記載され、法定実効税率が見直されています。外形標準課税は一般に資本金1億円超の法人が対象となるため、上場前の増資で資本金の額が変わるときは、税負担への影響もあわせて確認しておく必要があります。
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コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社と全員社外の監査役
InfiniCloudは取締役会と監査役会を設置する監査役会設置会社です。特定証券情報では、取締役会に業務執行の権限と責任を集中させ、取締役会から独立した監査役・監査役会に監査機能を担わせることで牽制機能を持つ体制を採っていると説明されています。TPMには一般市場のような機関設計の形式要件は示されておらず、「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」とされていますが、同社は取締役会と監査役会を設置し、有限責任監査法人トーマツと監査契約を締結して、特例110条5項に基づく監査を受けています(特定証券情報には会社法上の会計監査人の設置についての記載は見当たりません)。
図14 「コーポレート・ガバナンスの状況等」から作図。監査役と内部監査責任者・担当者は毎月連絡会を開催。三様監査として監査計画・実施状況・結果を相互に報告・意見交換する。
取締役会は議長の代表取締役 瀧 康史氏を含む取締役5名で、常勤取締役4名(瀧氏、取締役CTO 小熊 浩典氏、取締役CFO 向 正裕氏、取締役COO 山田 泰資氏)と非常勤の社外取締役1名(孫 龍活氏)で構成されます。原則月1回の定時取締役会のほか、必要に応じて臨時取締役会を開催します。監査役会は、常勤の社外監査役 杉山 悦男氏を議長とする3名で、非常勤の社外監査役は大野 篤氏と小澤 公一氏です。監査役会も原則月1回開催されます。
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(特定証券情報の略歴から) | 所有株式数 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役CEO | 瀧 康史 | ソニー・コンピュータエンタテインメント、ポリフォニー・デジタルを経て2001年11月に当社設立 | 259,200株(資産管理会社分を含む) |
| 取締役COO | 山田 泰資 | 静岡朝日テレビを経て2021年2月に当社営業本部長、2025年10月に取締役COO | ― |
| 取締役CTO | 小熊 浩典 | 2021年7月に当社取締役CTO兼エンジニアリング本部長 | 30,400株 |
| 取締役CFO | 向 正裕 | セガ、インフォコム等を経て2023年9月に当社管理本部長、2025年10月に取締役CFO | 2,000株 |
| 社外取締役 | 孫 龍活 | 音楽・通信・IT関連企業で勤務、2022年11月に当社取締役 | 2,000株 |
| 常勤監査役(社外) | 杉山 悦男 | 富士通静岡エンジニアリング(現 富士通)を経て2025年10月に当社常勤監査役 | 2,000株 |
| 監査役(社外) | 大野 篤 | 証券会社・東京証券取引所グループ等に勤務、2021年12月に当社監査役 | 400株 |
| 監査役(社外) | 小澤 公一 | 監査法人トーマツを経て公認会計士・税理士事務所、2022年11月に当社監査役 | ― |
役員は男性8名です。任期は、取締役が選任後2年以内、監査役が選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会終結の時まで(いずれも2026年3月13日開催の株主総会終結の時から)です。2025年9月期の役員報酬の総額は53,310千円で、特定証券情報には報酬の決定方針や任意の指名・報酬委員会についての記載は見当たりません。
業務執行取締役等でない取締役(社外取締役)及び監査役との間では、会社法427条1項に基づく責任限定契約を締結しています。定款では、取締役の定数を7名以内とし、選任決議は議決権の3分の1以上を有する株主の出席とその議決権の過半数で行い、累積投票によらないこと、特別決議の定足数を3分の1以上とすることを定めています。監査役の構成の考え方は常勤監査役は必要か、機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?も参考にしてください。
関連当事者取引:代表者による債務保証
関連当事者情報には、代表取締役 瀧 康史氏が当社の金融機関からの借入金について債務保証をしていることが記載されています。取引金額(債務保証を受けている借入金の期末残高)は第23期末97,195千円、第24期末122,571千円で、保証料の支払いはありません。議決権の被所有割合は直接44.8%、間接15.3%と記載されています(第23期・第24期の注記)。
代表者による借入金の個人保証について、上場準備では取引の必要性と条件の妥当性を説明し、解消の方針を検討するのが一般的です。考え方は社長個人と会社の取引はどう解消するかで解説しています。
内部監査・内部統制:兼務の担当者による相互監査
同社は専任の内部監査部門や専任の担当者を置いていません。年間の内部監査計画に従い、代表取締役が指名した内部監査責任者と内部監査担当者3名が全部署を監査します。責任者・担当者は「自己監査とならないよう、自己が所属している部門以外について内部監査を実施」し、内部監査責任者は監査結果と改善事項を代表取締役に報告したうえで、各部門に改善事項を通知し、改善状況をフォローアップします。
図15 「コーポレート・ガバナンスの状況」「内部統制システムの整備の状況」から作図。専任の内部監査部門は置かず、代表取締役が指名した責任者・担当者が自部門以外を監査する。
少人数の会社では、内部監査を兼務で行うことは珍しくありません。その場合に大切なのは、自分の部門を自分で監査しない仕組みを明確にし、監査計画・調書・報告・フォローアップの記録を残すことです。兼務の考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、体制の作り方は内部監査の人数と体制で解説しています。
内部統制システムの基本方針は2022年11月14日の取締役会で決議されています。主な内容は、行動規範とコンプライアンス規程の周知、代表取締役を委員長とする「リスク・コンプライアンス委員会」の設置、利害関係を有しない社外取締役の選任、全役職員を対象とする社内通報制度「ヘルプライン」(通報者への不利な取扱いの禁止)、反社会的勢力排除規程(所管は管理本部、契約書等への暴力団排除条項、不当要求防止責任者の配置)、監査役と内部監査責任者・担当者の毎月の連絡会、内部統制評価基本計画書に基づく内部統制評価の取締役会への上程、財務報告に係る内部統制の整備計画の作成などです。
リスク・コンプライアンス委員会は、代表取締役を委員長とし、各本部長と事務局メンバーで構成され、四半期に1回開催されます。想定されるリスクを洗い出して対応方針を決め、モニタリングし、内部通報窓口を設置することで、リスクの発生を抑え、顕在化したときの影響を最小限に抑えることを目的としています。個人情報については個人情報保護管理規程等を定め、管理本部長を個人情報管理責任者としています。
TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、同社は財務報告に係る内部統制の整備状況・運用状況を、評価対象業務から独立した内部監査責任者・担当者が評価する方針を記載しています。将来一般市場への上場を考える会社にとっては、J-SOXの進め方も参考になります。
三様監査の連携
監査役は取締役会やリスク・コンプライアンス委員会などの重要な会議に出席し、重要な稟議書や報告書を閲覧します。内部監査責任者・担当者は内部監査の結果を監査役に報告し、両者は毎月連絡会を開催します。監査役は監査法人から会計内容の説明を受け、情報交換を行います。三様監査として、監査役・監査法人・内部監査責任者がそれぞれの監査計画と実施状況、監査結果を報告し合い、意見交換を行うと記載されています。連携の進め方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。
会計・開示の論点:収益認識と固定資産の減損
財務諸表は、財務諸表等規則に基づき、TPMの特例110条6項で認められた会計基準のうち日本の一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されています。TPMでは日本基準のほか米国会計基準やIFRS等も採用できますが、同社は日本基準を採用しています。
収益認識:初期構築は一時点、利用料は期間
クラウドサービス事業の収益は、サービス利用約款に基づくクラウドサービスの提供です。サービス導入までの環境構築等は、当社のプラットフォームサービスを顧客が利用可能な状態にすることで履行義務が充足されると判断して一時点で収益を認識し、その後の利用料は一定の期間にわたり履行義務を充足する取引として契約期間にわたって収益を認識します。その他(他社から仕入れたソフトウエアライセンス等の販売)は、商品を引き渡す一時点で収益を認識します。
図16 「重要な会計方針 5.収益及び費用の計上基準」から作図。
第24期末の契約負債は2,522千円(前期末1,521千円)で、増加の理由はクラウドサービス事業における新規案件の初期費用の発生と説明されています。契約資産は44千円です。残存履行義務については、当初の契約期間が1年以内の契約などに実務上の便法を適用しています。
初期の環境構築と月額の利用料を組み合わせる契約では、初期費用を一時点で認識するか、利用期間にわたって認識するかの判断が論点になります。判断の根拠(初期構築が独立した履行義務といえるか等)を契約書と業務の実態に基づいて文書化しておくことが重要です。上場審査で問われる収益認識もあわせてご覧ください。
重要な会計上の見積り:固定資産の減損
同社は「重要な会計上の見積り」として固定資産の減損を挙げています。第24期末の有形固定資産は118,829千円、無形固定資産は7,253千円で、減損損失は計上していません。資産グループは管理会計上の区分を行う際の単位等を考慮して決定し、割引前将来キャッシュ・フローの見積りは取締役会で承認された事業計画を基礎とし、既存顧客の追加案件や新規顧客の案件獲得による売上高の増加、つまり将来の案件獲得予測を重要な仮定としています。
サーバ等の機材を自社で調達してサービスを提供する事業では、設備投資と減価償却が損益に大きく影響します。第24期の設備投資額は44,104千円、減価償却費は45,440千円で、第25期中間には有形固定資産の取得による支出が91,604千円ありました。
その他の注記と監査報酬
その他の特徴的な注記として、退職一時金制度の一部を2024年4月に確定拠出年金制度へ移行し、第23期に退職給付制度終了益2,349千円を計上したこと、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の全額に評価性引当額を計上し、繰延税金資産の純額がゼロであること、新しいリース会計基準(企業会計基準第34号)を2028年9月期の期首から適用予定で影響額は評価中であること、本社の原状回復義務に係る資産除去債務(第24期末4,330千円)などがあります。
監査契約の相手方は有限責任監査法人トーマツで、2025年9月期の監査を執行した公認会計士は西川 福之氏と嶋田 聖氏の2名、補助者は公認会計士6名です。第24期の監査証明業務に基づく報酬は18,300千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報酬は、会社の規模・特性や監査時間等を勘案し、監査役会の同意を得て取締役会で決定しています。
J-Adviser契約と上場維持:無催告解除の事由は19項目
事業等のリスクの「(20)J-Adviser契約」には、2026年1月15日にフィリップ・キャピタル証券との間で担当J-Adviser契約を締結したこと、この契約がTPMにおける新規上場と上場維持の前提となること、契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止となることが記載されています。
契約の解除条項には、J-Adviserが即日無催告で解除できる場合が①〜⑳の番号で列挙されています。このうち④は「前号に該当することとなった場合においても、再建計画の開示を行った場合には、原則として本契約の解除は行わない」という例外の定めであり、解除事由ではありません。したがって即日無催告解除の事由は、④を除く19項目です。主なものは、債務超過(猶予期間内に解消できない場合)、銀行取引の停止、破産・再生・更生手続、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、重大な法令違反・上場規程違反、株式の譲渡制限、完全子会社化、株主の権利の不当な制限、反社会的勢力の関与などです。
図17 「事業等のリスク(20)J-Adviser契約」から作図。④は「再建計画を開示した場合には原則として解除しない」という例外の定めで、解除事由ではない。
このほか、いずれかの当事者が契約上の義務の履行を怠った場合は、相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めて是正を催告し、期間内に是正されなければ解除できます。また、合意によりいつでも解除でき、1か月前の書面通知によっても解除できます。契約を解除する場合、J-Adviserは特段の事情のない限り、あらかじめ東証に通知しなければなりません。
TPMでは、J-Adviserとの契約が上場維持の前提です。J-Adviserから契約解除の通知を受けた上場会社が、必要な期間内に別のJ-Adviserと契約できなかった場合は上場廃止になります。上場後も、発行者情報の期限内の公表や適時開示を確実に行える体制を維持することが、契約の維持、ひいては上場の維持につながります。
事業等のリスクと上場準備で確認されやすい点
事業等のリスクには20項目が記載されています。発生可能性や影響度の記載はありません。主な項目を整理すると次の表のとおりです。
| 分類 | 項目(特定証券情報の見出し) | 記載の要点 |
|---|---|---|
| 事業基盤 | セキュリティ/自然災害/システム障害 | 全国のデータセンターを利用した分散とBCP基本方針、利用約款で保証範囲を定める |
| 調達 | 半導体及びソフトウエアサプライチェーン/計算資源・モデル供給 | サーバ等は台湾・米国・欧州など海外からの調達が多く、半導体不足・為替・地政学リスク、電力価格の影響 |
| 顧客 | 販売先への依存/取引先に対する信用上のリスク | BREXA Holdings(第24期約40%)とKSG(同約29%)、与信限度額の設定 |
| 人材・技術 | 人材の獲得競争激化/技術トレンドの変化/AI関連 | エンジニアの確保、技術の陳腐化、AIの出力の誤りや新たなセキュリティリスク |
| 経営管理 | 代表者への依存/ガバナンス | 創業者である代表取締役への依存、管理部門の人材確保 |
| 法務 | BtoCサービスの不正利用/訴訟/法的規制 | 情報流通プラットフォーム対処法、電気通信事業法等 |
| 財務 | 税務上の繰越欠損金/資金調達/固定資産減損/配当 | 借入による設備投資、配当の実施時期は未定 |
| 上場維持 | J-Adviser契約 | 契約解除かつ他のJ-Adviserを確保できない場合は上場廃止 |
上場準備の観点では、顧客集中、代表者への依存、借入に依存した設備投資と代表者の債務保証、管理部門の体制は、J-Adviserの調査や将来の一般市場の審査で質問を受けやすい論点です。リスクの記載と、それに対する取組み(販売代理店制度による販路拡大、管理部門の人材確保、資金繰り計画とコスト管理の厳格化など)を一貫した説明にしておくことが大切です。
一般市場へのステップアップを考える会社への示唆
InfiniCloudの特定証券情報には、将来の一般市場への上場(市場の移行)に関する記載は見当たりません。そのため、ここでは同社の方針ではなく、一般論として整理します。
TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMの申請による上場廃止と一般市場への新規上場として扱われます(例:AlbaLinkは2025年12月14日にTPMを上場廃止し、翌15日にグロース市場に新規上場)。東証の2025年11月13日の資料では、TPMから一般市場への上場の審査は非上場企業と同様に一から確認が行われていると現状認識が示され、2026年4月3日の資料では「26年秋めど」にTPMの実績を勘案した一般市場の上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を予定していると公表されています(本記事の執筆時点で、実施済みかどうかは確認できていません)。
一般市場では、監査期間が一般に直前2期となるほか、四半期決算短信や内部統制報告書の制度が適用されます。TPMで1期の監査から始めた会社は、監査期間の確保、財務報告に係る内部統制の整備、管理部門の人員の確保を早めに計画しておく必要があります。準備の進め方はIPO準備 完全ガイドも参考にしてください。
上場準備会社が学べること
InfiniCloudの特定証券情報から、上場準備会社が学べる主なポイントを整理します。
図18 本記事で取り上げた論点の要約。
1. 上場時の株式発行の有無で書類と手続きが変わる。InfiniCloudは引受けなしの特定投資家向け取得勧誘で60,000株以内を発行する設計で、書類名は「特定証券情報」です。価格決定から上場日までの日程はJ-Adviserと早めに固めます。
2. 監査済みの期と未監査の期を区別する。監査済みは第24期のみ、第25期中間は期中レビューです。過年度の数値は監査の有無を明確にして開示します。
3. 種類株式は上場前に整理する。取得条項に基づくA種優先株式の取得、普通株式の1対1の交付と消却は、定款や投資契約で整理方法を決めておくことの重要性を示しています。
4. 価格の算定方法を記録する。第三者割当はDCF法、第1回新株予約権は純資産価額法、株式移動はDCF方式と純資産方式です。取引ごとに算定方法と決定経緯を残します。
5. 少人数でも内部監査の独立性を確保する。自部門以外を監査する仕組み、代表取締役への報告とフォローアップ、監査役との毎月の連絡会が実効性の説明材料になります。
6. 顧客集中と代表者の債務保証は、開示と対応方針をセットで整理する。依存度の推移と低減の方針、保証の状況は説明を求められやすい事項です。
- 上場時に特定投資家向け取得勧誘を行うか(書類名が特定証券情報か発行者情報か)を決めているか
- 監査を受ける「最近1年間」の期と、監査法人・期中レビューの日程を確保しているか
- 種類株式・新株予約権の上場前の取扱い(取得条項、転換、行使条件)を定款・契約で確認したか
- 第三者割当・株式移動の価格の算定方法と決定経緯を記録しているか
- 内部監査の担当者が自部門を監査しない体制と、監査役との連携の記録があるか
- 主要顧客への依存、代表者の債務保証などの関連当事者取引の対応方針を説明できるか
よくある質問
いいえ。2026年10月30日に上場を申請し(申請受付日)、上場予定日は2026年11月30日です。2026年11月3日時点では、JPXの一覧に上場承認日の記載はありません。TPMでは原則として申請から10営業日後に上場が承認されます。
TPMでは上場前の監査期間は「最近1年間」です。InfiniCloudは第24期(2025年9月期)の財務諸表について監査を受け、第25期中間会計期間の中間財務諸表について期中レビューを受けています。第22期・第23期は監査を受けていません。
決まっていません。発行数は60,000株を上限とし、発行価額の総額102,000,000円は想定公開価格1,700円を基礎とした見込額です。発行価格は2026年11月17日に決定される予定で、実際の発行数は申込みのあった株式数となります。
J-Adviser契約はTPMでの上場と上場維持の前提です。契約が解除され、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合は、TPMから上場廃止となります。即日無催告の解除事由は、①〜⑳のうち例外規定の④を除く19項目です。
最初の一歩は「どの書類で、何を、いつ公表するか」を決めること
TPM上場を検討する会社は、まず上場時に株式を発行するかどうか、監査を受ける期をいつにするか、J-Adviserをいつ選ぶかを決め、そこから逆算してスケジュールを組むことが出発点になります。InfiniCloudの例では、J-Adviser契約(2026年1月15日)から上場申請(同年10月30日)までの間に、A種優先株式の整理、株式分割、ストック・オプションの付与、監査とレビューが進められています。自社の現状を整理するには、ショートレビューから始めるのが効率的です。
まとめ
InfiniCloudは、2026年10月30日にTOKYO PRO Marketへの上場を申請し、2026年11月30日の上場を予定しています。上場に際しては、引受けを伴わない特定投資家向け取得勧誘で普通株式60,000株以内を発行する予定で、表紙の書類名は「特定証券情報」です。
特定証券情報からは、監査済みの第24期と期中レビューの第25期中間という「最近1年間」の監査の実例、A種優先株式の取得条項による一本化と2回の株式分割、DCF法・純資産方式など取引ごとの価格算定方法、全員社外の監査役会と兼務の内部監査による少人数の体制、主要2社への販売依存と代表者の債務保証といった論点を読み取ることができます。TPM上場を目指す会社は、自社の資本政策と管理体制をこれらの論点に照らして点検してみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、特定証券情報・発行者情報の作成、J-Adviserの調査への対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「InfiniCloud 特定証券情報」(2026年10月30日公表)
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 新規上場会社情報」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「J-Adviser制度」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 東京証券取引所「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示のお願い」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示状況」(2026年6月15日時点)
- 東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(2025年11月13日)
- 日本取引所グループ「上場廃止の決定:(株)AlbaLink」(2025年11月11日)
- e-Gov法令検索「金融商品取引法」第27条の31
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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