バトンズのIPO|カーブアウト後の独立性確保と成約報酬の収益認識【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

2026年4月21日、M&Aプラットフォーム「BATONZ(バトンズ)」を運営する株式会社バトンズ(証券コード554A)が東証グロース市場に上場しました。同社は、M&A仲介大手である日本M&Aセンターの社内ベンチャーから生まれ、2018年に分社化して設立された会社です。上場申請時点では、日本M&AセンターホールディングスがⅠの部上の「その他の関係会社」として発行済株式の32.47%を保有しており(同社は上場時の売出しで150,000株を売り出しています)、いわゆるカーブアウト型の上場事例として、上場準備会社にとって学べる点の多いケースです。

結論からいえば、バトンズのⅠの部から学べるのは、①出身母体の関係者からVCへ株式を移して独立性を高めた資本政策の組み方、②上場直前期に監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行したガバナンスの整え方、③2名体制の内部監査で自己監査を避ける工夫、④成約報酬を「M&A取引の実行時」に計上する収益認識と、その網羅性を支える仕組みの4点です。本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の記載をもとに、これらの論点を上場準備の実務の目線で整理します。

この記事の論点を自社と比べられる「バトンズのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)」を、記事の後半で無料でお渡ししています。

バトンズはどのような会社で、どの市場に上場したのか

まず、会社と上場の概要を確認します。バトンズは、中小企業のM&A(事業承継・事業譲渡など)を、オンライン上で売り手と買い手が出会える場として提供している会社です。事業セグメントは「M&Aテクノロジー事業」の単一セグメントで、子会社はなく、Ⅰの部の財務諸表も単体のみで作成されています。

設立は2018年4月5日です。株式会社日本M&Aセンター(現在の日本M&Aセンターホールディングス)から分社化し、「アンドビズ株式会社」として東京都千代田区に設立されました。前身は、2014年4月に日本M&Aセンターの社内ベンチャーとして始まった「@net事業部」です。2019年4月に現在の商号である株式会社バトンズに変更しています。

項目 内容
会社名 株式会社バトンズ(英訳名 Batonz. Co., Ltd.)
証券コード・市場 554A・東証グロース市場
上場日 2026年4月21日
本店所在地 東京都中央区築地
代表者 代表取締役CEO 神瀬 悠一
設立 2018年4月5日(日本M&Aセンターから分社化)
決算期 3月末(最近事業年度は第7期=2025年3月期)
事業 M&Aテクノロジー事業(単一セグメント)
従業員数 126名(臨時9名・外数、2026年2月28日現在)、平均年齢34.2歳
主要株主 日本M&Aセンターホールディングス(その他の関係会社、被所有32.47%)
会計監査人 有限責任監査法人トーマツ

従業員は2026年2月28日現在で126名、平均年齢は34.2歳、平均勤続年数は2.6年です。期末従業員数は第3期(2021年3月期)の21名から第7期(2025年3月期)の100名へと、4年で約5倍に増えています。急成長企業では、人員の増加に管理体制の整備が追いついているかどうかが審査の論点になりやすく、後で見るように、同社でも管理部門の増員が販管費の増加要因として記載されています。

なお、Ⅰの部では女性管理職比率24.0%、男性の育児休業取得率166.7%、男女の賃金差異(全労働者81.5%)も開示されています。上場準備会社では、こうした人的資本に関する指標を「上場後に初めて集計する」のではなく、申請書類の作成段階で集計方法を固めておくと、作業が後ろ倒しになりません。

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何で稼ぐ会社か:事業内容と収益モデル

バトンズの主要サービスは、Ⅰの部では①M&Aプラットフォーム、②M&A SaaS、③その他の3つに区分されています。2026年2月末時点の規模指標として、累計成約実績組数3,315組、交渉可能な売り案件10,673件、買い手の累積登録数303,275人が記載されています。

バトンズの事業モデル売り手(譲渡企業)M&Aプラットフォーム「BATONZ」単一セグメント買い手(譲受企業)M&A支援機関(士業・金融機関等)主な収益源マッチング成約価額の2%(買い手)ソーシング支援買い手の月額会員FA支援成約価額の5%(売り手)M&A SaaS支援機関の月額利用料案件登録買収ニーズSaaS利用・案件持込

図1 バトンズの事業モデルと主な収益源(Ⅰの部「事業の内容」をもとに筆者作成)

M&Aプラットフォーム:成約時の報酬と有料オプション

中心となるのはM&Aプラットフォームです。収益は大きく3つに分かれます。1つ目は「マッチングサービス」で、M&Aが成約したときに、買い手から成約価額の2%をシステム利用料として受け取ります。最低料金が設定されており、成約価額1,000万円未満で35万円、1,000万円以上5,000万円未満で70万円、5,000万円以上で150万円です。

2つ目は「ソーシング支援サービス」で、買い手向けの月額制の有料オプションです。プレミアム会員(個人・個人事業主4,900円、法人9,800円)、プレミアムプラス会員(29,800円)、プレミアムプロ会員(199,800円)といった段階的な料金体系になっています。

3つ目は売り手向けの「FA支援サービス」です。無料の「カウンターサービス」に加え、成約価額の5%(最低50万円)のサポートサービスと、成約価額の5%(最低200万円)で初回マッチングから成約まで伴走するプレミアムサポートサービスがあります。株式譲渡の案件では、プレミアムサポートの利用が必須とされています。2025年3月期の成約組数のうち、FA支援サービスによる成約は140件でした。

M&Aプラットフォームの料金体系サービス支払う人料金マッチング買い手成約価額の2%(最低35万円〜150万円)ソーシング支援買い手月額4,900円〜199,800円(会員区分別)FA支援:カウンター売り手無料FA支援:サポート売り手成約価額の5%(最低50万円)FA支援:プレミアム売り手成約価額の5%(最低200万円)※マッチングの最低料金は成約価額1,000万円未満35万円、5,000万円未満70万円、 5,000万円以上150万円。株式譲渡の案件はプレミアムサポートの利用が必須

図2 M&Aプラットフォームの主な料金体系(Ⅰの部「事業の内容」をもとに筆者作成)

M&A SaaS:支援機関向けの月額課金

2つ目の柱が、M&A支援機関向けのSaaSです。与信・審査、企業価値評価、決算書OCR、マッチング、CRM、契約書雛型、バーチャルデータルームなど計25の機能群を提供しています。士業などの支援専門家向けの「パートナープログラム」(月額9,800円〜79,800円)と、金融機関向けの「B MASS」(月額29,800円)があり、2026年2月末の提供先はパートナープログラムがM&A専門業者313社、士業等専門家671社、コンサル・その他事業会社833社、B MASSが151社です。解約率は2.2%と記載されています。

Ⅰの部によれば、M&A SaaSのシステム利用料は売上全体の22%、支援機関が登録した案件からの成約は、成約数ベースで全体の40%、システム利用料ベースで売上全体の20%を占めます(いずれも2026年3月期第3四半期累計)。一方で、売上高の10%以上を占める販売先はなく、主要な販売先の記載は省略されています。特定顧客への依存がない点は、プラットフォーム型の事業らしい特徴です。

サービス区分 2025年3月期 前期比 2026年3月期 第3四半期累計
M&Aプラットフォーム 989,827千円 +27.5% 1,008,973千円
M&A SaaS 362,879千円 +36.8% 331,724千円
その他 26,896千円 △76.1% 31,036千円
合計 1,379,603千円 +19.5% 1,371,734千円

KPIはどう示されているか

グロース市場の上場会社には、「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示が求められます。その前提として、Ⅰの部でも経営上の目標の達成状況を判断するための指標(KPI)が記載されます。バトンズは、売り案件公開数、成約数、システム利用料単価、ソーシング支援社数とARPPU、FA支援数と手数料単価、M&A支援機関数とSaaSのARPPUを、収益の構成要素ごとに示しています。

KPI 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期 第3四半期
売り案件公開数(件) 9,551 10,585 7,333
M&Aプラットフォーム成約数(組) 764 805 561
システム利用料単価(千円) 583 722 710
ソーシング支援社数(社) 1,077 1,238 1,190
FA支援数(件) 143 140 150
FA手数料単価(千円) 1,619 1,557 2,213
M&A支援機関数(社) 1,810 1,884 1,922
SaaS ARPPU(千円/月) 12.5 15.1 17.7

このKPIの組み方は、「売上=件数×単価」の分解になっている点が参考になります。成約報酬型の売上は、成約数とシステム利用料単価に分解できます。月額課金の売上は、会員数(社数)とARPPU(1社あたり月間売上)に分解できます。上場準備会社がKPIを設計する際は、売上の構成要素と1対1で対応する指標を選ぶと、事業計画の前提と実績の比較(予実分析)が説明しやすくなります。審査では事業計画の合理性が確認されますので、KPIと計画の前提が結びついていることが重要です。詳しくはIPO審査の「事業計画の合理性」もご覧ください。

売上を「件数×単価」に分解したKPI売上高成約報酬成約数× システム利用料単価ソーシング支援社数× ARPPUFA支援FA支援数× 手数料単価M&A SaaSM&A支援機関数× ARPPU2025年3月期の例:成約数805組、システム利用料単価722千円、SaaS ARPPU 15.1千円/月

図3 収益の構成要素ごとのKPIの組み方(Ⅰの部「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をもとに筆者作成)

社内ベンチャーから上場まで、どのような道のりをたどったのか

バトンズの沿革を見ると、大企業の社内ベンチャーが分社化し、独立した上場会社になるまでの流れがよくわかります。2014年4月に日本M&Aセンターの社内ベンチャー「@net事業部」として始まり、2018年4月に分社化してアンドビズ株式会社を設立しました。同年10月にサービス名を「&Biz(アンドビズ)」から「BATONZ(バトンズ)」に改め、2019年4月には社名も株式会社バトンズに変更しています。

その後、2020年2月にM&A支援機関向けの「BATONZパートナープログラム」、同年7月に「BATONZプレミアム会員」、8月に企業調査サービス「バトンズDD」と表明保証保険の提供を始めました。2022年には契約書作成支援システム「B ASSIST」、与信・審査支援システム「B CHECK」、金融機関専用の「B MASS」を相次いで投入し、同年11月に本社を東京都中央区へ移転、2023年1月に大阪支社を開設しています。

設立から上場までの主な沿革事業の立ち上げと拡大2014年4月社内ベンチャーとして開始2018年4月分社化しアンドビズ設立2019年4月バトンズへ商号変更2020〜22年会員・SaaSサービス拡充2023年1月大阪支社開設上場準備の本格化2023年7月VC3社へ株式移動2025年2月内部統制基本方針決議2025年6月監査等委員会設置会社へ移行2026年1月1:100の株式分割2026年4月東証グロース市場に上場

図4 設立から上場までの主な沿革(Ⅰの部「沿革」等をもとに筆者作成)

上場準備の観点で注目したいのは、図の下段に並べた出来事です。2023年7月に日本M&Aセンターの役員・従業員が保有していた株式がVCファンド3社へ移り、2025年2月には内部統制システム整備の基本方針を取締役会で決議しました。2025年6月には監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行し、2026年1月に1株を100株とする株式分割を行っています。2025年11月には事業パートナーとの提携による人材紹介事業も始めており、M&Aの周辺領域にも事業を広げています。

このように、上場準備の後半では、資本政策、内部統制、機関設計、株式事務の手当てが短い期間に集中します。どの順番で何を決めるかを、申請時期から逆算して計画しておくことが欠かせません。全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で整理していますので、あわせてご確認ください。

業績はどう推移し、どう読めばよいか

次に、Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」から業績を確認します。売上高は第3期(2021年3月期)の323,616千円から第7期(2025年3月期)の1,379,603千円まで、4期連続で増えています。一方、利益は年度によって変動があり、第5期(2023年3月期)は経常損失57,423千円、当期純損失57,001千円を計上しました。Ⅰの部の注記では、この損失は「広告宣伝費等のコストが先行」したためと説明されています。

回次 売上高 経常利益 当期純利益 純資産額 自己資本比率
第3期(2021年3月期) 323,616 37,221 30,350 306,990 81.15%
第4期(2022年3月期) 507,775 45,580 79,841 386,832 78.26%
第5期(2023年3月期) 716,000 △57,423 △57,001 330,310 67.04%
第6期(2024年3月期) 1,154,598 101,686 72,913 403,224 66.57%
第7期(2025年3月期) 1,379,603 57,738 41,053 443,797 64.46%

(単位:千円。第3期〜第5期は会社計算規則に基づく数値で、上場規程に基づく監査を受けていません。第6期・第7期は有限責任監査法人トーマツの監査を受けています。)

業績の推移(単体)売上高(百万円)04008001,2001,60021/3期22/3期23/3期24/3期25/3期323.6507.87161,154.61,379.6経常利益・当期純利益(百万円)-80-30207012021/3期22/3期23/3期24/3期25/3期経常利益当期純利益

図5 売上高と利益の推移(第3期〜第7期、単体、百万円)。第3〜5期は上場規程に基づく監査を受けていない数値

直前期に減益となった理由は何か

第7期(2025年3月期)は、売上高が前期比19.5%増えた一方で、営業利益は51,917千円(前期比47.4%減)、経常利益は57,738千円(同43.2%減)と減益になっています。Ⅰの部の経営成績の分析では、販管費が1,079,301千円と前期から294,028千円(37.4%)増えたことが説明されています。その要因として、上場準備に伴う管理部門・コンプライアンス体制の強化のための増員と、不適切な買い手の問題を受けた安全性向上のためのシステム・外注体制の強化による外注費・支払手数料の増加が挙げられています。

販管費の主な内訳を見ると、給与手当が229,843千円から324,798千円へ、支払手数料が118,663千円から221,630千円へ増えています。一方で広告宣伝費は79,785千円から44,483千円へ減っています。売上原価は紹介料の減少などで248,384千円(前期比8.2%減)となり、売上総利益は増えています。

2025年3月期の営業利益の増減24/3期 営業利益98.7売上総利益の増加+247.2販管費の増加-29425/3期 営業利益51.9販管費の増加は、管理部門の増員や安全性向上のための外注費・支払手数料の増加などによるもの

図6 2025年3月期の営業利益の増減要因(損益計算書から作成、百万円)

上場直前期に管理コストが先行して増え、利益が一時的に減るのは、上場準備会社ではよくある姿です。大切なのは、利益が減った理由を「何に、なぜ投資したのか」として具体的に説明できることです。バトンズの記載は、増加した費用の性質(管理部門の増員、安全性向上の外注など)を明示しており、一時的な体制強化のコストと事業の成長性を分けて読めるようになっています。

申請期の業績と成長可能性の説明

申請期にあたる第8期(2026年3月期)は、中間期で売上高887,505千円、営業利益103,099千円、第3四半期累計で売上高1,371,734千円、営業利益187,357千円、四半期純利益122,478千円と記載されています。第3四半期累計の時点で、売上高は前期1年分に近い水準になっています。Ⅰの部では、プレミアムサポートの伸長、2025年4月からのB MASSの有償化、数億〜数十億円規模の大型案件の受託・成約、インサイドセールスチームの設置などが要因として挙げられています。

申請期(2026年3月期)の業績の進捗売上高(千円)25/3期通期26/3期中間26/3期3Q累計1,379,603887,5051,371,734営業利益(千円)25/3期通期26/3期中間26/3期3Q累計51,917103,099187,357

図7 2025年3月期(通期)と2026年3月期(中間・第3四半期累計)の売上高と営業利益(Ⅰの部の財務諸表をもとに筆者作成。単位:千円。中間・第3四半期は累計期間の数値)

グロース市場では、赤字であっても上場は可能ですが、その代わりに「高い成長可能性」をどう示すかが問われます。バトンズは、経営環境を「3S」(Structural Barriers、Supported by Government、Stable Growth)という枠組みで説明し、TAM(獲得可能な最大市場規模)を約4,800億円と推定しています。この推定は、年商規模別の企業数と1社あたりの単価を掛け合わせ、顕在化期間10年で割るという計算過程が示されており、前提を追える形で書かれている点が参考になります。成長可能性の示し方はグロース市場の「高い成長可能性」とはで詳しく解説しています。

また、財政状態を見ると、借入金や社債などの有利子負債はなく、財務活動によるキャッシュ・フローも第6期・第7期ともに発生していません。第7期の営業キャッシュ・フローは145,644千円で、Ⅰの部の対処すべき課題では、財務上の課題については「認識していない」としつつ、内部留保や自己資本比率をモニタリングしていくと記載されています。手元流動性は売上高の2か月分相当を維持する方針です。継続性・収益性の審査の考え方はIPO審査の「企業の継続性及び収益性」もご参照ください。

資本政策と株主構成:出身母体との資本関係をどう整理したのか

バトンズの資本政策で最も特徴的なのは、出身母体である日本M&Aセンターグループとの資本関係の整理です。Ⅰの部によれば、日本M&Aセンターホールディングスは発行済株式の32.47%(1,400,000株)を保有する「その他の関係会社」であり、バトンズは同社の持分法適用関連会社です。金融商品取引法上の親会社等には該当せず、日本M&Aセンターホールディングスの承認を要する事項もないと記載されています。また、上場後も同社は一定数の株式を継続して保有する方針とされています。

上位株主の構成日本M&AセンターHD27.16%神瀬 悠一(代表取締役)21.34%宮竹 秀太郎(取締役)14.55%XTech2号(VC)7.08%アニマルスピリッツ1号(VC)6.84%DIMENSION2号(VC)6.11%鈴木 安夫(取締役)4.17%バトンズ社員持株会1.69%海山 龍明(取締役)1.42%潜在株式(新株予約権)を含む合計5,154,700株に対する割合(第四部「株主の状況」)

図8 上位株主の構成(2026年2月28日現在、潜在株式を含む)

上位株主は、日本M&Aセンターホールディングス(27.16%)、代表取締役CEOの神瀬悠一氏(21.34%)、取締役の宮竹秀太郎氏(14.55%)に続き、XTech2号投資事業有限責任組合(7.08%)、アニマルスピリッツ1号投資事業有限責任組合(6.84%)、DIMENSION2号投資事業有限責任組合(6.11%)の3つのVCファンドが並びます。ここでの割合は、Ⅰの部第四部「株主の状況」の記載どおり、新株予約権による潜在株式を含む合計5,154,700株に対する比率です。発行済株式ベースでは、日本M&Aセンターホールディングスの保有割合は32.47%になります。

2026年2月28日現在の所有者別状況を見ると、株主数はその他の法人4名、個人その他19名の計23名で、金融機関や外国法人の株主はいません。社員持株会(バトンズ社員持株会、86,900株)も上位10名に入っています。

2023年7月、関係会社役員らの株式はVCへ移った

Ⅰの部第四部の「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2023年7月31日に、日本M&Aセンター(関係会社)の役員・従業員が保有していたバトンズ株式が、3つのVCファンドへ一斉に譲渡されたことが記載されています。移動株数は分割後換算でXTech2号へ365,000株、アニマルスピリッツ1号へ352,500株、DIMENSION2号へ315,000株、合計1,032,500株です。

単価はすべて分割後換算で1株500円で、価格は「DCF法を参考にして当事者間で協議の上決定」と記載されています。そして移動の理由は、すべて「親会社からの独立性確保及びVCより事業成長支援を得るため」とされています。

2023年7月の株式移動日本M&Aセンター(関係会社)の役員・従業員計1,032,500株XTech2号投資事業有限責任組合365,000株アニマルスピリッツ1号投資事業有限責任組合352,500株DIMENSION2号投資事業有限責任組合315,000株移動日はすべて2023年7月31日、単価は分割後換算で1株500円(DCF法を参考に当事者間で協議)移動理由:「親会社からの独立性確保及びVCより事業成長支援を得るため」

図9 2023年7月の特別利害関係者等の株式移動(第四部「株式公開情報」から作成、株数は分割後)

出身母体の関係者が持つ株式を、事業成長の支援を期待できる外部の投資家に移すことで、グループからの独立性を高めつつ、新たな株主の支援を得るという考え方です。グループ会社から独立して上場する会社では、「親会社等からの独立性」が審査の重要な論点になります。持株比率だけでなく、人的関係(役員の兼務や出向者)、取引関係、事業の棲み分けがそれぞれ説明できる状態をつくる必要があります。

なお、特別利害関係者等の株式移動は、基準事業年度の末日の2年前の日から上場日の前日までの期間について、Ⅰの部で移動の年月日、株数、価格、理由まで開示されます。上場直前の株式移動は、価格の妥当性や移動の目的が外部から確認できる形で残ることを前提に計画しなければなりません。詳しくは上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)をご覧ください。親会社がある状態での上場の考え方は、親会社がある状態で上場できるのかでも解説しています。

増資・減資・株式分割の流れ

資本政策の主な出来事2020年7月第三者割当増資19,015株1株11,000円2021年10月減資による欠損填補資本金→1億円2023年7月関係会社役員等からVCへ譲渡1株500円※2024〜25年SO第3回・第4回行使価額420円※2026年1月1:100の株式分割単元株100株※2026年1月の株式分割後の換算額。第2回SO(2022年9月決議・取締役3名)の行使価額は分割後110円

図10 資本政策の主な出来事(Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」「株式公開情報」から作成)

「発行済株式総数、資本金等の推移」によれば、2020年7月28日に有償第三者割当増資で19,015株(発行価額1株11,000円)を発行し、発行済株式総数は43,123株、資本金は275,122千円となりました。その後、2021年6月21日の第3回定時株主総会で、資本金175,122千円をその他資本剰余金に振り替え、繰越利益剰余金に振り替えて欠損を填補する決議を行い、2021年10月1日付で資本金は100,000千円になっています。

資本金を1億円以下にすると、税務上は中小法人として扱われる余地があります。バトンズの税効果会計の注記でも、2025年3月期の税率差異の要因として「中小法人軽減税率」が記載されています。ただし、減資の判断は税負担だけでなく、上場時の資本構成や対外的な信用にも関わりますので、資本政策全体の中で検討することが大切です。

上場準備の最終段階では、2025年12月12日の取締役会決議に基づき、2026年1月8日付で普通株式1株を100株に分割しました。あわせて2026年1月7日の臨時株主総会で、発行可能株式総数を50万株から1,700万株に増やす定款変更と、1単元を100株とする単元株制度の採用を決議しています。この結果、発行済株式総数は4,312,300株になりました。上場時の投資単位を適切な水準にするための株式分割と単元株制度の導入は、多くの上場準備会社が直前に行う手続です。

ストックオプションと潜在株式比率19.5%

バトンズは役員・従業員向けに複数回のストックオプション(新株予約権)を発行しています。2026年2月28日現在の内容は次のとおりです(株数・行使価額は分割後の数値)。

回次 決議日 付与対象者 株式数 行使価額 行使期間
第2回 2022年9月30日 取締役3名 450,000株 110円 2024年10月〜2032年9月
第3回① 2024年7月12日 取締役1名・従業員5名 150,000株 420円 2027年1月〜2034年5月
第3回② 2024年9月13日 従業員16名 93,000株 420円 2027年1月〜2034年5月
第4回 2025年3月14日 取締役1名・従業員83名 149,400株 420円 2027年6月〜2034年5月

潜在株式の合計は842,400株で、発行済株式総数4,312,300株の19.5%にあたります。Ⅰの部の事業等のリスクでも「新株予約権の行使による株式価値の希薄化」として、この比率が開示されています。行使条件として、権利行使時に当社または関係会社の役職員であること、国内の金融商品取引所に上場したときに限り行使できることなどが定められています。

潜在株式842,400株の内訳発行済株式総数 4,312,300株842,400株潜在株式(新株予約権)=発行済株式総数の19.5%内訳(株数・行使価額は分割後)第2回(2022年9月)450,000株・110円第3回①(2024年7月)150,000株・420円第3回②(2024年9月)93,000株・420円第4回(2025年3月)149,400株・420円

図11 発行済株式総数と潜在株式(新株予約権)の関係(Ⅰの部「新株予約権等の状況」「事業等のリスク」をもとに筆者作成。2026年2月28日現在、分割後の数値)

また、経理の状況のストック・オプション注記によれば、第1回新株予約権(付与対象者は「当社新株予約権の受託者」、分割後換算で400,000株)は2025年3月期に全て失効し、株主資本等変動計算書では新株予約権480千円が消却されています。受託者を付与対象者とするいわゆる信託型ストックオプションについては、2023年5月に国税庁が、権利行使時の経済的利益を給与所得として課税する考え方を示しており、多くの上場準備会社が制度の見直しを迫られました。信託型の課税の論点は信託型ストックオプションはなぜ給与課税かで解説しています。

ストック・オプションの評価については、未上場であるため単位当たりの本源的価値(DCF法等により算出した価格を総合的に勘案)で見積もっており、費用計上額は両年度とも「該当事項なし」とされています。第三者割当等の概況では、第3回・第4回の発行価格(行使時の払込金額)について、DCF法により算出した価格を総合的に勘案して決定したと記載されています。

上場準備会社にとってのポイントは3つあります。1つ目は、潜在株式比率の管理です。ストックオプションは人材確保の有力な手段ですが、発行を重ねると希薄化が大きくなり、上場時の資本政策の自由度が下がります。2つ目は、付与のタイミングと株価の説明です。株式移動の価格とストックオプションの行使価額は、それぞれ算定方法とともにⅠの部に開示されますので、時点ごとの株価を合理的に説明できる資料を残しておく必要があります。株価算定の考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかをご参照ください。3つ目は、税制面の設計です。役職員にとっての手取りを左右しますので、税制適格ストックオプションの要件を早めに確認しておくことをおすすめします。

なお、上場前の一定期間に割り当てたストックオプションについては、上場規程施行規則に基づき、割当日から上場日の前日または行使日のいずれか早い日まで所有する等の確約が求められます。バトンズのⅠの部でも、第3回・第4回についてこの確約の記載があります。また、グロース市場の上場審査では流通株式比率25%以上などの形式要件があり、VCや役員が保有する株式の扱いを含めて事前に試算しておくことが必要です。流通株式比率の計算式と調べ方もあわせてご確認ください。

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コーポレート・ガバナンス:なぜ上場直前に監査等委員会設置会社へ移行したのか

バトンズは、2025年6月24日の定時株主総会で、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しました。あわせて執行役員制度も導入しています。Ⅰの部では、コーポレート・ガバナンスの基本的な考え方として、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うことが掲げられ、その実現のために監査等委員会設置会社への移行、独立社外取締役の招聘、執行役員制度の導入を行ったと説明されています。

機関設計と監査の連携株主総会取締役会(8名・うち社外4名)2025年3月期 14回開催監査等委員会(3名・全員社外)委員長=常勤監査等委員代表取締役CEO内部監査室(2名・CEO直轄)会計監査人(有限責任監査法人トーマツ)経営会議原則毎週コンプライアンス委員会(隔月)選任選任選任選定・監督指示報告・連携連携監査

図12 バトンズの機関設計と監査の連携(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに筆者作成)

取締役8名のうち社外4名という構成

取締役は8名で、うち4名が社外取締役です。監査等委員である取締役3名は全員が社外取締役で、残る社外取締役1名(田中優子氏)は監査等委員でない取締役です。役員の男女構成は男性5名・女性3名で、女性比率は37.5%です。

役職 氏名 主な経歴(Ⅰの部の記載から要約)
代表取締役CEO 神瀬 悠一 日本ユニシス、NTTデータ経営研究所、リクルートグループの執行役員等を経て2019年に当社取締役CMO、2022年3月から代表取締役CEO
常務取締役CQO 宮竹 秀太郎 2016年に日本M&Aセンター入社、2018年4月に当社取締役COO、2024年6月から常務取締役CQO
取締役CAO 鈴木 安夫 足利銀行等を経て2004年に日本M&Aセンター入社、2018年4月に当社非常勤取締役
取締役COO 海山 龍明 コンサルティング会社、複数社の経営を経て2023年8月に当社執行役員、2025年4月から取締役COO
社外取締役 田中 優子 事業会社、コンサルティング会社、上場会社の取締役等を経て2023年6月に当社社外取締役
社外取締役(常勤監査等委員) 永田 靖子 日本M&Aセンターで上席執行役員・経理部長等を務め、当社設立時監査役、2023年6月に社外常勤監査役
社外取締役(監査等委員) 浅野 恵理 税理士。税理士法人のシニアパートナー等を経て2023年6月に社外監査役
社外取締役(監査等委員) 江端 重信 弁護士。法律事務所パートナー。2023年6月に社外監査役

注目したいのは、監査等委員の3名は、2023年6月以降いずれも社外監査役(永田氏は設立時から監査役を務め、同月に社外常勤監査役)として在任し、2025年6月の移行時にそのまま監査等委員である取締役に就任している点です。監査役会設置会社のときに監査役として会社を見てきた人材が、移行後も監査等委員として監査を続けているため、監査の継続性が保たれています。

監査役から監査等委員への移行〜2025年6月 監査役会設置会社2025年6月〜 監査等委員会設置会社永田 靖子社外常勤監査役(設立時から監査役)浅野 恵理社外監査役(税理士)江端 重信社外監査役(弁護士)永田 靖子常勤監査等委員・委員長浅野 恵理監査等委員(財務・会計の知見)江端 重信監査等委員(企業法務の知見)制度上の主な違い(本文の記載から)項目監査役会設置会社監査等委員会設置会社取締役会の議決権なし(監査役)あり(監査等委員)常勤者の選定常勤監査役の選定が必要法律上の義務ではない※監査等委員である取締役は3人以上、過半数は社外取締役(会社法331条6項)

図13 監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行と監査の継続性(Ⅰの部「役員の状況」「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに筆者作成)

監査等委員会の構成も、委員長の永田氏が常勤で、浅野氏が税理士として財務・会計の知見を、江端氏が弁護士として企業法務の知見を持つという役割分担になっています。会計と法務の専門家を揃える組み合わせは、上場準備会社の監査体制として典型的で、審査でも説明しやすい構成です。監査役に会計の知識は必要かもご参照ください。

監査役会設置会社と監査等委員会設置会社の違い

監査等委員会設置会社では、監査等委員である取締役を3人以上置き、その過半数を社外取締役とする必要があります(会社法331条6項)。監査等委員は取締役会の議決権を持つため、監査役よりも経営の意思決定に直接関与できます。一方、監査役会設置会社では常勤監査役の選定が必要ですが、監査等委員会設置会社では常勤の監査等委員の選定は法律上の義務ではありません。バトンズは、常勤監査等委員を置く体制を選んでいます。

上場準備会社がどちらの機関設計を選ぶかは、社外役員の確保のしやすさ、取締役会の監督機能をどこまで強めたいか、上場後のコーポレートガバナンス・コードへの対応などを踏まえて判断します。比較の詳細は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?、社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かで解説しています。

取締役会・経営会議・コンプライアンス委員会の運営

取締役会は原則月1回の定時開催に加えて必要に応じて臨時に開催され、最近事業年度(2025年3月期)は14回開催されました。Ⅰの部には個々の取締役・監査役の出席状況が記載されており、社外取締役の田中氏、監査役3名を含め、全員が在任期間中のすべての回に出席しています(2024年6月就任の海山氏は就任後11回すべてに出席)。

業務執行の面では、代表取締役CEOを議長とし、常勤取締役と執行役員で構成される「経営会議」を原則毎週開催しています。執行役員はCFO、CLO兼CCO、CPO、CTO、人事担当の5名です。また、コンプライアンス委員会を隔月で定例開催しており、常務取締役CQOが委員長を務め、執行役員CLO兼CCO、代表取締役CEO、監査等委員会委員長、内部監査室長などが構成員になっています。トラブルやクレームへの対応とその未然防止策などを審議する場と位置づけられています。

独立性の判断と、関係会社との取引の管理

社外役員の独立性について、バトンズは独自の独立性基準は定めていないものの、取引所の独立役員の要件と会社法の社外性要件を満たしており、十分な独立性を確保していると判断していると記載しています。常勤監査等委員の永田氏は日本M&Aセンターの出身であり、当社株式10,000株を保有している以外に利害関係はないと記載されています。出身母体のある会社では、こうした役員の経歴と独立性の判断の根拠を、Ⅰの部と審査の質疑で一貫して説明できるようにしておくことが重要です。

日本M&Aセンターグループとの関係について、Ⅰの部の事業等のリスクでは、資本関係・人的関係・取引関係・事業領域の4つの観点から整理されています。人的関係では、役員の派遣や出向者の受入れはないとしています。取引関係では、2025年3月期に、株式会社日本M&Aセンターからのシステム利用料の受領48,000千円(大手M&A支援機関向けSaaS、市場価格を参考に価格交渉)、同社への紹介料の支払い2,068千円、株式会社企業評価総合研究所へのシステム利用料の支払い6,600千円が記載され、これらは取締役会で事前承認を行い、定期的にモニタリングしているとしています。事業領域についても、日本M&Aセンターは仲介が主体、バトンズはプラットフォームが主体で、対象案件の規模や報酬水準が異なり直接競合していないと説明されています。

日本M&Aセンターグループとの関係の整理日本M&Aセンターグループバトンズ① 資本関係HDが発行済株式の32.47%を保有金商法上の親会社等には該当しない② 人的関係役員の派遣・出向者の受入れはない③ 取引関係システム利用料の受領48,000千円紹介料2,068千円・利用料6,600千円の支払④ 事業領域日本M&Aセンター:仲介が主体バトンズ:プラットフォームが主体関係会社との取引は取締役会で事前承認し、定期的にモニタリング持分法適用関連会社

図14 日本M&Aセンターグループとの関係を4つの観点で整理(Ⅰの部「事業等のリスク」をもとに筆者作成。取引額は2025年3月期)

このように、グループ会社との関係を「資本・人・取引・事業」の4つに分けて説明する書き方は、関係会社のある上場準備会社にとって参考になる型です。取引条件の決め方(市場価格を参考に交渉、規約に基づく)と、承認・モニタリングの手続を明示している点もポイントです。審査の考え方はIPO審査の「親会社等からの独立性」、関連当事者取引の考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)をご覧ください。

役員報酬の決め方と、上場会社型の定款規定

役員報酬の限度額は、移行後は監査等委員でない取締役が年額3億円以内、監査等委員である取締役が年額5千万円以内です(2025年6月24日定時株主総会決議)。個人別の報酬額は、代表取締役CEOが業績、担当職務、経営環境、貢献度、実績等を総合的に勘案して取締役会に提案し、取締役会の承認決議で決めています。監査等委員である取締役の報酬は、監査等委員の協議で決めます。2025年3月期の報酬は、社外取締役を除く取締役4名に計75,333千円、社外役員4名に計8,600千円で、いずれも固定報酬のみです。

定款には、剰余金の配当等を取締役会決議で定めることができる規定(会社法459条1項)、取締役会決議による役員の責任免除(同426条1項)、社外取締役との責任限定契約(同427条1項)、株主総会の特別決議の定足数緩和、取締役会決議による自己株式の取得(同165条2項)など、上場会社でよく見られる規定が置かれています。会社法459条1項の規定を置くには、会計監査人設置会社であることや、監査等委員でない取締役の任期が1年以内であることなどの要件があり、バトンズでも監査等委員でない取締役の任期は1年とされています。機関設計の見直しと定款変更は一体で検討する必要があります。

内部監査・内部統制:2名体制でどう自己監査を避けているのか

バトンズの内部監査は、代表取締役直轄の内部監査室が担っています。内部監査規程に基づき、代表取締役CEOが任命する監査責任者のもとで、業務監査・会計監査・特命監査を行います。監査計画はリスクベースで策定され、取締役会の決裁を受けた年度内部監査計画に基づいて実施されます。監査結果は代表取締役に報告されるほか、常勤監査等委員・監査等委員会、関連部門の責任者にも共有され、改善状況は事後に確認されます。金融商品取引法に基づく内部統制の整備・運用状況の評価も、内部監査の業務に含まれています。

兼務者がいる場合の自己監査の回避

人員については、2026年2月末現在、内部監査室は2名で、うち1名は人事総務グループと兼務していると記載されています。そのうえで、人事総務グループに対する監査は、自己監査にならないよう内部監査室の専任者が実施する体制をとっています。

2名体制の内部監査と自己監査の回避内部監査室(2名・代表取締役直轄)専任者兼務者人事総務と兼務人事総務グループ自分の所属部門は監査しない監査結果の報告・共有先代表取締役常勤監査等委員・監査等委員会関連部門の責任者改善状況は事後に確認監査

図15 内部監査室の体制と自己監査の回避、監査結果の報告先(Ⅰの部「監査の状況」をもとに筆者作成)

従業員100名規模の会社で、内部監査に専任者を何人も置くのは現実的ではありません。そのため、管理部門の担当者が内部監査を兼務する体制はよく見られますが、その場合に審査で必ず確認されるのが「自分の業務を自分で監査していないか」という点です。バトンズのように、兼務者の所属部門は専任者が監査する、あるいは他部門の担当者が監査するといったルールをあらかじめ決め、内部監査規程や監査計画に明記しておくことが大切です。詳しくは内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)と内部監査の人数と体制で解説しています。

三様監査の連携と内部統制の基本方針

監査等委員会、内部監査室、会計監査人の三者は、概ね四半期に1回程度の会議を開き、連携を図っていると記載されています。常勤監査等委員は、会計監査人や内部監査部門との連携、重要な会議への出席、代表取締役等との意思疎通、重要な決裁書類の閲覧などを通じて監査を行っています。三様監査の連携は形式的になりがちですが、会議の頻度、共有する情報、指摘事項のフォローの仕方を決めておくと実効性が高まります。監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)もご参照ください。

内部統制システム整備の基本方針は、2025年2月14日の取締役会で決議されています。コンプライアンス体制、情報の保存・管理、損失の危険の管理、職務執行の効率性、監査等委員会の職務を補助する使用人(監査スタッフ)とその独立性・実効性の確保、監査等委員会への報告体制、内部通報窓口、通報者の不利益取扱いの禁止、監査費用の処理、反社会的勢力の排除などが定められています。監査スタッフの人事異動等には常勤監査等委員の同意を要するとし、内部通報は監査等委員へ直接報告することも可能とされています。内部通報体制の整備については内部通報体制は上場審査でどこまで見られるかで解説しています。

規制当局からの指示を受けた体制強化

バトンズの内部統制を考えるうえで欠かせないのが、行政からの指摘への対応です。Ⅰの部の対処すべき課題によれば、2025年3月期に、中小企業庁から複数のM&A支援機関に対して、不適切な買い手企業のM&A支援事案に関する「中小M&Aガイドラインに基づく対応についての注意の発出・対策実施の指示」が行われ、バトンズもこれを受領しました。同社は原因分析と、株式譲渡案件での原則FA支援の実施などの対応強化策をまとめた報告書の提出を完了しています。

さらに、2026年4月の利用規約の改定に先立ち、①支援機関が案件を登録する際のM&A支援機関登録制度への登録の義務付け、②事業譲渡案件でのFA支援の推奨、③全案件での基本合意等の中間報告の義務化、④案件リスクチェックを前提とした表明保証保険の付保(最終契約書類の収集・確認)、⑤AIによる案件状況の把握と成約未報告の検知の強化、といった施策を挙げています。

行政からの指示を受けた体制強化の流れ中小企業庁から注意の発出・対策実施の指示を受領原因分析と対応強化策の報告書を提出2026年4月の利用規約改定利用規約の改定に先立つ主な施策① 案件登録時のM&A支援機関登録制度への登録の義務付け② 事業譲渡案件でのFA支援の推奨③ 全案件での基本合意等の中間報告の義務化④ 案件リスクチェックを前提とした表明保証保険の付保(最終契約書類の収集・確認)⑤ AIによる案件状況の把握と成約未報告の検知の強化

図16 中小企業庁からの指示を受けた対応と、利用規約改定に先立つ施策(Ⅰの部「対処すべき課題」をもとに筆者作成)

業法による直接の規制がない事業であっても、ガイドラインや登録制度といったソフトローへの対応が事業の継続性に直結することがあります。行政からの指摘を受けた場合は、事実関係、原因分析、再発防止策、その運用状況を一連の流れとして説明できるようにしておくことが、審査対応でも重要になります。また、子会社のないバトンズでは子会社管理の論点はありませんが、グループ会社を持つ上場準備会社では、子会社の管理体制も内部統制の基本方針に含めて整備する必要があります。

会計・開示の論点:成約報酬はいつ売上になるのか

変動対価としての成約報酬

会計面で最も重要なのは収益認識です。Ⅰの部の重要な会計方針では、M&Aプラットフォームサービスの主な収益として、買い手登録ユーザーから受け取るシステム利用料(月額利用料と成功報酬型の成約報酬)と、売り手から「事業引継ぎサポート業務委託契約」に基づいて受け取る成功報酬が挙げられています。

履行義務は、システム利用環境の提供とM&A取引の実行に至るまでの助言等であり、ユーザー登録・案件公開からM&A取引の実行までの期間にわたって充足されると判断しています。ただし、成約報酬・成功報酬は成約額に一定の料率を掛けて受け取るため、取引が実行されるまで金額の見積りに著しい不確実性があります。そこで、これらの変動対価は、M&A取引の実行時に「収益の著しい減額が発生しない可能性が高まった」と判断して取引価格に含める、つまり実行時に収益を計上する方針になっています。一方、M&A SaaSの月額利用料は、一定期間にわたり充足される履行義務として、提供期間を通じて収益を認識しています。

成約報酬の計上と成約報告を補う仕組みユーザー登録案件公開マッチング交渉基本合意(中間報告)最終契約締結3営業日以内に成約報告M&A取引の実行=売上計上売上の網羅性を支える仕組み(Ⅰの部の記載から)システムによる検知成約未報告の検知譲渡事実の自動検知利用規約報告義務・罰則中間報告の義務化(2026年4月)表明保証保険一定条件で無償付保最終契約書類の収集・確認成約報酬・成功報酬は変動対価として、M&A取引の実行時に取引価格へ含めて収益を認識

図17 成約報酬の収益計上タイミングと、成約報告を補う仕組み(Ⅰの部の記載をもとに筆者作成)

収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)では、変動対価は、不確実性が解消される際に、計上した収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限って取引価格に含めます。成功報酬型のビジネスでは、この「変動対価の制約」の考え方を使って計上時点を説明するのが一般的です。上場準備会社では、契約書の条件、履行義務の識別、計上時点の判断を会計方針として文書化し、監査法人と早い段階で合意しておくことが欠かせません。上場審査で問われる収益認識もご参照ください。

売上の網羅性をどう担保するか

成約報酬型のプラットフォームには、もう1つ大きな論点があります。それは、成約したことを会社がどう把握するかです。Ⅰの部の事業等のリスクでは「成約未報告行為」について、発生可能性を「高」として開示しています。譲渡の事実は買い手・売り手・支援機関からの成約報告で認識しますが、報告をせずに支払いを免れる不正行為があり、過年度には報酬の支払拒否等で回収を断念した事案があったと記載されています。

その対策として、利用規約で最終契約締結日から3営業日以内の報告義務と罰則を定めているほか、システムによる検知、譲渡事実の自動検知、2026年4月の規約改定での中間報告の義務化、一定条件での表明保証保険の無償付保の拡大などを挙げています。会計の観点からいえば、これらは「売上の網羅性」を支える内部統制です。取引の発生を外部からの報告に頼るビジネスでは、報告がなくても取引を把握できる補完的な仕組みを持つことが、財務報告の信頼性を高めるうえで重要です。

重要な会計上の見積りと特徴的な注記

重要な会計上の見積りとして記載されているのは、自社利用のソフトウエアの1項目です。計上額は2024年3月期94,402千円、2025年3月期105,905千円で、「BATONZ」の開発費のうち将来の収益獲得または費用削減が確実な場合に資産計上し、5年で償却しています。主要な仮定は、新規・既存ユーザーへの売上計画と、サービス運営の生産性向上による費用削減額です。研究開発活動は「該当事項なし」とされ、ソフトウエアへの投資は資産計上で処理されています。自社開発ソフトウエアの資産計上は、開発プロジェクトごとに資産計上の要件を満たすかを判断し、工数の集計を含めて記録を残す運用が求められます。

そのほか、エスクローサービス(バトンズ安心決済サービス)によるM&A譲渡対価の一時預りによって預り金が増えている点(2025年12月末で72,716千円)、公共団体からの業務委託費のうち成果報酬部分を従量制の変動対価とし、概ね2年以内に収益認識を見込んでいる点も特徴的です。預り金のように顧客の資金を一時的に預かる事業では、自社資金と区分した管理や入出金の照合といった統制の整備が欠かせません。

監査法人と監査報酬

項目 内容
監査法人 有限責任監査法人トーマツ
継続監査期間 2年間
業務執行社員 指定有限責任社員 2名
監査補助者 公認会計士7名、会計士試験合格者等2名、その他17名
監査証明業務の報酬 2024年3月期 18,500千円/2025年3月期 23,000千円
非監査業務の報酬 なし(両年度)
期中レビュー 2026年3月期の中間・第3四半期についてレビューを実施

新規上場では、直前々期と直前期の2期分の財務諸表について、上場規程に基づく監査証明が必要です。バトンズも第6期(2024年3月期)と第7期(2025年3月期)の2期について、トーマツの監査を受けています。監査法人の選定と監査契約の締結は、上場スケジュール全体を左右します。監査法人はいつまでに決めるかもご参照ください。

事業等のリスクから見える、審査で問われやすい点

バトンズのⅠの部では、26項目の事業等のリスクについて、それぞれ発生可能性・発生時期・影響度を示しています。市場環境、事業運営、管理全般、その他に分類され、リスクごとに対応策が書かれています。主なものを整理すると、次のとおりです。

リスク 発生可能性/影響度 主な記載内容
政府による中小M&A政策 中/小 中小M&Aガイドラインの改訂、M&A支援機関登録制度、中小M&A市場改革プランなどの動向。現時点は追い風と認識
法的規制等 中/中 業法による直接規制はないが、ガイドライン違反による行政の指摘や登録取消は重大な支障となる可能性
M&A支援機関 低/大 新規登録案件の約5割が支援機関の持込で、間接的なレピュテーションリスク
成約未報告行為 高/小 報告をせず支払いを免れる不正。規約上の報告義務・罰則、システム検知等で対応
業績の季節偏重 高/小 顧客の決算期末(主に9月・12月・3月)に成約が集中し、大型案件の有無で四半期業績が変動
日本M&Aセンターホールディングスとの関係 中/中 資本関係・人的関係・取引関係・事業領域の整理
新株予約権による希薄化 中/中 潜在株式842,400株、発行済株式総数の19.5%

このリスク情報から、審査で問われやすい点として次の3つが読み取れます。1つ目は、規制環境の変化への対応です。業法による規制がなくても、行政のガイドラインや登録制度が事業の前提条件になっている場合、その変化にどう対応するかの説明が求められます。2つ目は、プラットフォームの健全性です。取引当事者同士が直接交渉する形態では、会社がすべての交渉や契約を把握することはできません。バトンズ自身も、FA支援以外の形態では不適切な行為の完全な排除や成約状況の網羅的な把握ができないという課題を認識していると記載しています。そのうえで、登録審査、モニタリング、DD、保険、エスクローといった多層的な対策を示している点が参考になります。

3つ目は、四半期業績の変動です。成約が顧客の決算期末に集中し、大型案件の有無で業績がぶれる事業では、予算の策定方法と業績予想の開示の考え方を事前に整理しておく必要があります。上場後は業績予想の修正が適時開示の対象になりますので、IPOの適時開示体制もあわせてご確認ください。

上場準備会社がバトンズのケースから学べること

ここまでの内容を踏まえ、上場準備会社にとっての実務上の示唆を7つに整理します。

  1. 出身母体との関係は「資本・人・取引・事業」で整理する。グループ会社から独立して上場する場合、持株比率だけでなく、役員派遣・出向、取引条件、事業の棲み分けをそれぞれ説明できる状態をつくります。
  2. 株式移動は目的と価格をⅠの部に書ける形で行う。移動の理由、価格の算定方法、移動先がそのまま開示されることを前提に、資本政策を設計します。
  3. 機関設計の移行は、監査の継続性とセットで考える。監査役から監査等委員へ同じ人材が移ることで、監査の知見を引き継げます。定款の変更点も同時に洗い出します。
  4. 少人数の内部監査では自己監査の回避ルールを明文化する。兼務者の所属部門は専任者が監査するなど、誰が何を監査するかを規程と計画に書きます。
  5. 成功報酬型の収益は、計上時点と網羅性の両方を説明する。変動対価の制約による計上時点の判断と、取引の発生を把握する仕組みは、会計と内部統制の両面の論点です。
  6. ソフトローへの対応も事業継続性の一部と考える。ガイドラインや登録制度に基づく行政の指摘には、原因分析と再発防止策を記録に残して対応します。
  7. 減益の理由は、投資の中身として説明する。上場準備に伴う管理コストや安全性向上の投資で利益が減る場合も、費用の性質を具体的に示せば、成長性と分けて評価してもらえます。

チェックリスト:自社に当てはめて確認したい6項目

  • 関係会社・大株主との関係を、資本・人的・取引・事業の4つの観点で説明できる資料があるか
  • 過去2年以内の株式移動とストックオプションについて、価格の算定根拠と目的を説明できるか
  • 潜在株式比率を試算し、上場時の資本政策と流通株式比率への影響を確認しているか
  • 内部監査の担当者が兼務の場合、自己監査を避けるルールを規程・計画に明記しているか
  • 成功報酬や従量課金の収益について、計上時点の会計方針と、取引の発生を把握する統制を整備しているか
  • 行政・業界団体のガイドライン等の改訂を把握し、対応状況を取締役会に報告する仕組みがあるか

よくある質問

Q1. 大株主である事業会社が上場後も株式を持ち続けていても、上場できますか。

上場できます。バトンズでも、上場申請時点で32.47%を保有していた日本M&Aセンターホールディングスが、上場後も一定数を継続保有する方針が示されています。ただし、審査では独立性が確認されますので、承認事項の有無、役員の兼務・出向、取引条件、事業の競合関係などを説明できるように準備しておく必要があります。

Q2. 上場直前に監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しても問題ありませんか。

移行自体は可能で、バトンズも上場申請の直前期にあたる2025年6月に移行しています。移行後の取締役会・監査等委員会の運用実績を審査で確認されることがありますので、移行の時期は申請スケジュールから逆算して決め、定款変更や役員報酬の枠、規程の改定も同時に準備することをおすすめします。

Q3. 内部監査を2名で行うことはできますか。

会社の規模や業務内容によっては、少人数でも内部監査を実施できます。バトンズも内部監査室は2名で、うち1名は兼務です。重要なのは人数よりも、リスクに応じた監査計画、自己監査の回避、指摘事項のフォローアップ、監査等委員会との連携が実際に機能していることです。

Q4. 成功報酬型の売上は、いつ計上するのが一般的ですか。

契約内容によりますが、成約額に連動する成功報酬は変動対価として扱い、取引の実行などで不確実性が解消され、収益の著しい減額が発生しない可能性が高くなった時点で計上するのが一般的です。バトンズでも、成約報酬・成功報酬はM&A取引の実行時に取引価格に含めています。自社の契約条件に即して、監査法人と早めに協議してください。

最初の一歩は、関係会社との関係と株式の動きを棚卸しすることから

バトンズのように出身母体やグループ会社との関係がある会社では、まず、資本関係・役員の兼務・取引・事業の重なりと、過去の株式移動・ストックオプションの付与を一覧にして棚卸しすることから始めるのがおすすめです。どこに説明の弱い部分があるかを早めに把握できれば、資本政策や機関設計の見直しを無理のないスケジュールで進められます。現状の課題を洗い出す方法としては、ショートレビューの活用も有効です。

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バトンズの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。

まとめ

株式会社バトンズは、日本M&Aセンターの社内ベンチャーから生まれ、M&Aプラットフォームとして成長し、2026年4月に東証グロース市場に上場しました。Ⅰの部からは、関係会社役員らの株式をVCへ移して独立性を高めた資本政策、上場直前期の監査等委員会設置会社への移行、2名体制の内部監査での自己監査の回避、成約報酬をM&A取引の実行時に計上する収益認識と、その網羅性を支える成約報告・検知の仕組みなど、上場準備の実務に直結する具体例を読み取ることができます。

特に、出身母体との関係を「資本・人・取引・事業」で整理する書き方と、行政からの指摘を受けて体制を強化した経緯の開示は、関係会社のある会社や規制環境の変化が大きい業界の上場準備会社にとって参考になります。自社の状況に置き換えて、早い段階から論点を整理しておきましょう。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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