ギークリーのIPO|自己株式を使った資本政策と流通株式の確保【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

株式会社ギークリー(証券コード505A)は、2026年1月22日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年2月27日に東証スタンダード市場に上場しました。IT・Web・ゲーム業界に特化した人材紹介を行う、東京都渋谷区に本店を置く会社です。本記事では、東京証券取引所に提出された「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(全104ページ)を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。

結論からいえば、ギークリーのⅠの部は「自己株式を軸にした資本政策」と「オーナー企業が流通株式をどう確保するか」を学ぶのに適した事例です。新株の発行ではなく自己株式の処分で資産管理会社・社長・従業員持株会に株式を割り当て、上場前に自己株式5,195,000株を消却したこと、創業者と資産管理会社2社の持株割合が高く、流通株式比率が上場維持基準に近い水準になる見込みであることを自らリスクとして開示していることなど、準備中の会社がそのまま検討項目にできる論点が並んでいます。あわせて、成功報酬型ビジネスの収益認識と返金負債、1名体制の内部監査を補うクロス監査も参考になります。

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ギークリーはどんな会社で、いつ、どの市場に上場したのか

ギークリーは、代表取締役社長の奥山貴広氏が2011年8月に東京都港区赤坂で、有料職業紹介事業を目的として設立した会社です。同年12月に本社を渋谷区渋谷に移し、IT・Web・ゲーム業界の転職支援サービスを始めました。創業以来、奥山氏が代表を務めています。

決算期は5月です。もともとは3月決算でしたが、2023年3月28日の臨時株主総会で決算期を5月31日に変更しており、第13期は2023年4月1日から5月31日までの2か月の変則決算になっています。Ⅰの部の最近事業年度は第15期(2025年5月期)、直近の中間期は第16期中間会計期間(2025年6月1日〜11月30日)です。子会社はなく、財務諸表は単体のみ、事業は「人材紹介事業」の単一セグメントです。親会社等もありません。

上場市場は東証スタンダード市場です。スタンダード市場の会社にはコーポレートガバナンス・コードの全原則が適用され、上場審査の実質審査基準は「企業の継続性及び収益性」「企業経営の健全性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「企業内容等の開示の適正性」「その他公益又は投資者保護の観点」の5項目です。各基準の考え方はIPOの実質審査基準とはで整理しています。

項目 内容
社名 株式会社ギークリー(Geekly, Inc.)
証券コード・市場 505A・東証スタンダード市場
上場承認日/上場日 2026年1月22日/2026年2月27日
本店所在地 東京都渋谷区渋谷二丁目17番1号
設立 2011年8月
代表者 代表取締役社長 奥山 貴広
決算期 5月31日(2023年に3月から変更)
事業・セグメント IT・Web・ゲーム業界に特化した人材紹介(人材紹介事業の単一セグメント)
従業員数(2025年12月31日) 382名(ほか臨時46名)、平均年齢28.5歳、平均勤続年数2.2年
会計監査人 PwC Japan有限責任監査法人(継続監査期間3年間)

従業員数は最近日までの1年間で94名増えており、新卒・中途採用で人員を拡大している段階です。平均年齢28.5歳、平均勤続年数2.2年という数字からは、若い社員を短期間で戦力化する仕組みが事業の前提になっていることが読み取れます。女性管理職比率は25.0%、男性の育児休業取得率は100.0%と記載されています。

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ギークリーは何で稼いでいるのか――完全成功報酬型の人材紹介

ギークリーは、職業安定法に基づく有料職業紹介事業の許可を受け、IT・Web・ゲーム業界の求人企業に求職者を紹介しています。求人企業はSIer、ITコンサルティング会社、インターネット関連企業、ゲーム企業などで、DXの推進によりIT企業以外にも広がっています。求職者はソフトウェアエンジニア、AIエンジニア、ゲーム開発エンジニア、ITコンサルタント、Webクリエイター、IT営業などです。

報酬は完全成功報酬型で、求職者が入社した時点で求人企業から報酬を受け取ります。初期費用はかからず、入社後の早期離職に備えた返金制度があります。業務は、集客から面談設定までを担うMA(マーケティング部門)、求職者と面談して求人を紹介・推薦するCA(キャリアアドバイザー)、求人企業を開拓して求人票を獲得するRA(リクルーティングアドバイザー)の分業体制で行われています。

ギークリーの事業モデル(分業体制と収益の流れ)求職者(ITエンジニア等)MA集客〜面談設定CA面談・求人紹介・推薦RA求人企業の開拓求人企業(IT企業・DX企業)入社時に成功報酬を受領基幹システムOLG広告・スカウト推薦求人票

図1 MA・CA・RAの分業で求職者と求人企業をつなぎ、求職者の入社時に求人企業から成功報酬を受け取る構造(Ⅰの部「事業の内容」をもとに作成)

集客は、自社のオウンドメディアやテレビCM、交通広告などを通じて自社サイトに登録してもらうインバウンドと、他社の転職プラットフォームで求職者にスカウトを送るアウトバウンド(ダイレクトリクルーティング)の2つの経路です。売上原価は、転職プラットフォームを運営する企業などの外部媒体のサービス利用料で、第15期は758,729千円でした。

Ⅰの部の「事業の内容」には、事業の特徴を示す数値が多く記載されています。2025年5月期の面談数は25,648件(前期20,065件)、新規登録者数は93,111人(前期比34.8%増)で、自社サービスサイト経由が約半数です。顧客側では、リピート率80.2%、取引先数1,417社、売上上位10社の構成比合計が10.0%と記載され、販売実績でも売上高の10%以上を占める相手先はありません。特定の顧客に依存していないことは、「企業の継続性及び収益性」の審査で説明しやすい材料になります。

指標(2025年5月期) 記載内容
面談数 25,648件(2024年5月期 20,065件)
新規登録者数 93,111人(前期比34.8%増)
面談CA一人当たり売上高 年間8,800万円(年間売上高÷面談CA数)
リピート率/取引先数 80.2%/1,417社
売上上位10社の構成比合計 10.0%
返金が発生する短期離職の割合 全体の2.9%

「受注残高」は社内管理数値として説明されている

ギークリーは、求職者の入社が確定した時点で「受注残高」を認識しています。受注残高は成約数(面談数×成約決定率)に成約単価(想定年収×紹介手数料率)を掛けて算出するもので、Ⅰの部では、法令上の受注残高ではなく社内管理目的で集計した数値であると明記されています。

人材紹介では、入社確定から実際の入社まで時間差があります。入社確定の段階の数字を開示する場合、それが会計上の売上や受注とどう違うのかを定義しておかないと、読み手が誤解します。KPIや社内管理数値を開示する会社は、定義・算出方法・会計数値との関係を文章で説明できるようにしておくことが大切です。なお、ギークリーが重要な経営指標と位置付けているのは「売上高」と「面談CAの人数」です。

受注残高(社内管理数値)の算出方法面談数25,648件(2025/5期)×成約決定率=成約数想定年収×紹介手数料率=成約単価受注残高(社内管理数値)=成約数×成約単価求職者の入社時点で売上高に計上(将来の返金見込額は控除)

図2 Ⅰの部「受注残高の認識方法」より。受注残高は法令上の受注残高ではなく、社内管理目的で集計した数値と明記されています

設立から上場までにどのような道のりをたどったのか

沿革を見ると、ギークリーは2018年12月に初のテレビCMを放映し、2019年1月にオウンドメディア「Geekly Media」、2022年1月にIT企業の口コミサイト「Geekly Review」を始めるなど、集客経路を広げてきました。2020年5月にはプライバシーマークを取得し、以後2年ごとに更新しています。2023年11月には大阪オフィスを開設し、2025年2月に渋谷区内で本社を移転しました。

上場準備に関係する動きとしては、2022年11月30日の株式分割(1株を15,000株に分割)、同年12月の第1回〜第4回新株予約権の付与、2023年3月の決算期変更、2023年7月の資産管理会社への株式移動と自己株式の処分、2024年4月17日の報酬委員会の設置、2025年8月31日の株式分割(1株を2株に分割)・自己株式の消却・第5回新株予約権の発行、2025年9月1日の単元株制度(100株)の採用が並びます。

沿革の主要イベント2011/8港区赤坂で設立2011/12IT特化の転職支援開始2018/12初のTVCM2019/1GeeklyMedia開始2020/5プライバシーマーク取得2022/1GeeklyReview開始2023/3決算期変更(3月→5月)2023/11大阪オフィス開設2025/2本社移転(渋谷区内)2026/2/27スタンダード市場に上場

図3 設立から上場までの主な出来事(Ⅰの部「沿革」「主要な経営指標等の推移」等をもとに作成)

決算期の変更は、上場スケジュールにも影響します。ギークリーの場合、金融商品取引法に準ずる監査を受けているのは第14期(2024年5月期)と第15期(2025年5月期)で、第10期〜第13期の数値は会社計算規則に基づくもので、この監査の対象外と記載されています。決算期を変える会社は、監査対象期間と申請期の関係を監査法人・主幹事証券と早めに確認しておく必要があります。全体のスケジュール感はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。

業績はどう推移しているのか――増収の中での営業減益と回復

単体(千円) 第12期 2023/3 第14期 2024/5 第15期 2025/5 第16期中間 2025/11
売上高 4,568,439 5,840,727 7,147,966 4,473,292
営業利益 - 1,199,958 703,852 839,815
経常利益 442,966 1,198,367 704,739 839,006
当期(中間)純利益 372,720 855,716 493,657 597,262
純資産 712,109 2,153,604 2,535,325 3,067,615
総資産 1,845,068 3,204,435 3,892,135 4,625,140
自己資本比率 38.2% 67.0% 65.0% -
営業活動によるCF - 1,063,632 709,372 650,974

第13期は2か月の変則決算(売上高1,110,924千円、経常利益230,126千円)のため表から除いています。売上高は第10期(2021年3月期)の1,927,783千円から第15期の7,147,966千円まで伸びており、各期とも経常利益・当期純利益は黒字です。表の「-」は、Ⅰの部の主要な経営指標等の推移に記載がない項目です(営業利益とキャッシュ・フローは、監査対象である第14期以降の財務諸表から記載しています)。

売上高と経常利益の推移(百万円)02,0004,0006,0008,000第10期第11期第12期第14期第15期1,9282,9064,5685,8417,148売上高経常利益

図4 第10期〜第12期は3月決算、第14期以降は5月決算(百万円未満四捨五入)。2か月の変則決算である第13期は除いています。第10期〜第12期は金融商品取引法に準ずる監査の対象外の数値です

第15期は売上高が前期比22.4%増の7,147,966千円となった一方、販売費及び一般管理費が45.7%増の5,685,384千円となり、営業利益は41.3%減の703,852千円でした。Ⅰの部では、求職者の獲得コストの上昇による販売促進費の増加と人件費の増加が理由として説明されています。主な販管費は、販売促進費が720,043千円から1,549,253千円へ、給与手当が897,529千円から1,473,283千円へ増えた一方、広告宣伝費は804,084千円から719,496千円へ減っています。

第16期中間会計期間は、売上高4,473,292千円、営業利益839,815千円で、半期で第15期通期の営業利益を上回りました。成約数の増加に加え、賃上げの流れによる想定年収の上昇と紹介手数料率の見直しで成約単価が上がったと説明されています。

第15期(2025年5月期)の損益の段階と主な販管費売上高7,148百万円売上総利益6,389百万円販管費5,685百万円営業利益704百万円当期純利益494百万円主な販管費(第14期→第15期)販売促進費720→1,549百万円給与手当898→1,473百万円広告宣伝費804→719百万円

図5 売上高は前期比22.4%増、販売促進費の増加などで営業利益は41.3%減(百万円未満四捨五入)

季節性を「事業等のリスク」と中間注記で説明する

人材紹介は、4月入社を前提とした採用活動や年度の替わり目に入社が集中するため、ギークリーの売上高は第4四半期(3月〜5月)、特に4月に偏る傾向があります。四半期の売上高は、2025年5月期が1,530百万円・1,982百万円・1,725百万円・1,909百万円、2026年5月期は第1四半期2,071百万円、第2四半期2,401百万円と記載されています。

Ⅰの部では、この季節的変動を「事業等のリスク」(発生可能性:中、時期:特定時期あり、影響度:小)として記載し、中間財務諸表にも注記しています。通期での業績管理を重視し、短期での完全な平準化は難しいという説明です。四半期ごとの数字がぶれる会社は、上場後の予算と実績の比較や業績予想の修正の判断にも影響するため、季節性を数値で説明できるよう準備しておくことが大切です。

四半期別の売上高(百万円)08001,6002,4003,200Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q22024年5月期2025年5月期2026年5月期

図6 Ⅰの部「事業等のリスク(業績の季節的変動)」より。第4四半期は3月〜5月。淡い色の2026年5月期は第2四半期までの実績です

財務面では、第15期末の現金及び預金が1,825,731千円、流動比率202.6%で有利子負債はなく、3行と合計1,800,000千円の当座貸越・コミットメントライン契約を結んでいます(借入実行残高なし)。資金需要は原則として自己資金でまかない、不足する場合は金融機関からの借入を優先する方針です。スタンダード市場の「企業の継続性及び収益性」の審査の視点はIPO審査の「企業の継続性及び収益性」で解説しています。

資本政策と株主構成――自己株式を軸にした組み立て

ギークリーの資本政策の最大の特徴は、新株の発行ではなく「自己株式の処分」で株式を割り当ててきたことです。発行済株式は普通株式のみで、種類株式はありません。ベンチャーキャピタルも株主名簿には登場しません。Ⅰの部記載時点(2025年12月31日)の所有者別状況の株主数は5名(その他の法人2、個人その他3。自己株式を保有する当社を含むとみられ、実際に株式を保有するのは資産管理会社2社・奥山氏・従業員持株会の4者です)で、発行済株式12,805,000株のうち1,574,000株(12.29%)を自己株式として保有しています。

「株主の状況」に記載された大株主は次のとおりです。割合は、自己株式を除いた株式に新株予約権による潜在株式1,554,000株を加えた12,785,000株に対するもので、上場時(売出し後)の割合ではない点に注意してください。

大株主の所有割合(Ⅰの部記載時点)(株)ブリッジインベストメント49.28%奥山貴広(代表取締役社長)36.37%(株)アーキスト7.04%西内信(取締役)3.13%浅野大樹人(取締役)1.56%永井正樹(取締役)1.05%ギークリー従業員持株会0.63%濃い色は代表取締役社長と資産管理会社2社(合計92.69%)

図7 「株主の状況」より。自己株式を除く株式総数12,785,000株(新株予約権による潜在株式を含む)に対する割合で、上場時(売出し後)の割合ではありません

筆頭株主は奥山氏が代表取締役を務める資産管理会社の株式会社ブリッジインベストメント(6,300,000株、49.28%)、2位が奥山氏本人(4,650,000株、うち潜在株式700,000株、36.37%)、3位が同じく奥山氏が代表取締役を務める資産管理会社の株式会社アーキスト(900,000株、7.04%)です。この3者で92.69%を占めます。以下、取締役の西内信氏(3.13%)、浅野大樹人氏(1.56%)、永井正樹氏(1.05%)、ギークリー従業員持株会(0.63%)と続きます。

創業者がどこまで持株割合を維持するかは、資本政策の出発点です。考え方は創業者の持株比率はどこまで下げてよいかで解説しています。

資産管理会社への株式移動と自己株式の処分

「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2023年7月31日に奥山氏からブリッジインベストメントへ5,100,000株(1,071,650,250円)、アーキストへ900,000株(189,114,750円)が、いずれも1株210.1275円(株式分割後の表記)で譲渡されたことが記載されています。移動理由は資産管理会社への譲渡で、価格は直近の取引価格を参考に当事者間で協議して決めたとされています。

同じ2023年7月31日には、会社が保有する自己株式1,200,000株を同じ単価210.1275円でブリッジインベストメントに処分しています(総額252,153,000円)。2024年5月30日には奥山氏に800,000株を1株241円で処分しました(総額192,800,000円)。その後、従業員持株会に対し、2024年8月30日に22,000株(291.5円)、2025年2月28日に29,000株(340.5円)、2025年8月28日に30,000株(354.5円)を処分しています。

上場前の株式移動と自己株式の処分株式移動(譲渡)奥山貴広(代表取締役社長)ブリッジインベストメント(資産管理会社)(株)アーキスト(資産管理会社)自己株式の処分(第三者割当)当社(自己株式)ブリッジインベストメント 1,200,000株 @210.1275円(2023/7)奥山貴広 800,000株 @241円(2024/5)従業員持株会 3回計81,000株 @291.5〜354.5円2023/7/31 5,100,000株 @210.1275円2023/7/31 900,000株 @210.1275円

図8 株数・単価は2025年8月31日の株式分割(1株→2株)後の表記。「特別利害関係者等の株式等の移動状況」「第三者割当等の概況」より

日付 割当先 株数 単価 継続所有の確約
2023/7/31 (株)ブリッジインベストメント 1,200,000株 210.1275円 -
2024/5/30 奥山 貴広 800,000株 241円 -
2024/8/30 ギークリー従業員持株会 22,000株 291.5円 あり
2025/2/28 ギークリー従業員持株会 29,000株 340.5円 あり
2025/8/28 ギークリー従業員持株会 30,000株 354.5円 あり
2025/8/31 永井 正樹(第5回新株予約権) 34,000株 355円(行使価額) あり

表の株数・単価は2025年8月31日の株式分割後の表記です。価格は「直近の取引価格を参考として当事者間で協議」または「DCF法及び修正簿価純資産法の折衷法により算出した価格を総合的に勘案して当事者間で協議」して決めたと記載されています。処分単価は210.1275円→241円→291.5円→340.5円→354.5円と段階的に上がり、2025年8月の第5回新株予約権の行使価額は355円です。時期ごとの価格に一貫した説明がつくことは、上場審査で必ず確認されるポイントです。未上場株式の評価方法は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかを参考にしてください。

第三者割当等の処分価格・行使価額の推移(円)01002003004002023/72024/52024/82025/22025/82025/8210.1275241291.5340.5354.5355資産管理会社社長持株会持株会持株会第5回SO自己株式の処分価格新株予約権の行使価額

図9 いずれも株式分割後の1株当たり金額。価格は直近の取引価格の参考、またはDCF法と修正簿価純資産法の折衷法による価格を勘案し、当事者間で協議して決定されています

継続所有の確約は、基準事業年度(2025年5月31日に終了する事業年度)の末日の1年前の日以後に行われた第三者割当等が対象です。ギークリーでは、従業員持株会への3回の処分(有価証券上場規程施行規則268条)と第5回新株予約権の割当て(同272条)に確約が付されている一方、2023年7月と2024年5月の処分は確約欄が「-」となっています。確約の内容は、持株会への処分(268条)では割当てを受けた日から上場日以後6か月を経過する日(その日に払込期日から1年を経過していなければ1年を経過する日)まで所有すること、第5回新株予約権(272条)では割当てを受けた日から上場日の前日又は行使日のいずれか早い日まで所有することなどです。上場前のすべての割当てに確約が必要になるわけではない点は、上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で詳しく解説しています。

なお、2024年5月の奥山氏と2023年7月のブリッジインベストメントへの処分は、関連当事者との取引の注記(第14期)にも、自己株式の処分(192,800千円、252,153千円)として記載されています。第15期の関連当事者との取引は「該当なし」です。

株式分割と自己株式5,195,000株の消却

ギークリーは2022年11月30日に1株を15,000株に分割し(600株→9,000,000株)、2025年8月31日に1株を2株に分割しました(9,000,000株→18,000,000株)。同じ2025年8月31日に自己株式5,195,000株を消却し、発行済株式は12,805,000株になっています。2025年9月1日からは単元株式数を100株とする単元株制度を採用しました。

消却では資本剰余金と自己株式がそれぞれ1,091,612千円減少し、その他資本剰余金が負の値になったため、その他資本剰余金を零とし、負の値をその他利益剰余金から減額したと記載されています。これは「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」に沿った処理で、中間貸借対照表では資本剰余金の残高がなくなっています。上場前に自己株式を大量に保有している会社は、消却するのか、売出しや処分に使うのかを、流通株式の確保と合わせて検討することになります。

自己株式の株数の推移第14期期首 4,425,000株第14期末 3,425,000株第15期末 3,399,500株分割後 6,769,000株消却後 1,574,000株資産管理会社・社長への処分 △1,000,000株(2023/7、2024/5)従業員持株会への処分 △25,500株(2024/8、2025/2)持株会への処分 △15,000株 → 1株を2株に分割(2025/8)自己株式を消却 △5,195,000株(2025/8/31)消却後も発行済株式の12.29%を自己株式として保有

図10 第14期期首から第15期末までは株式分割前の株数。2025年8月31日に1株を2株に分割し、同日に5,195,000株を消却しました(Ⅰの部「株主資本等変動計算書関係」「重要な後発事象」等より)

流通株式比率が上場維持基準に近い水準になる見込み

注目したいのは「事業等のリスク」の「当社株式の流動性について」です。ギークリーは、売出しによって流動性の確保に努めるものの、流通株式比率は上場維持基準に近接した水準となる見込みであると自ら開示しています。対応策としては、大株主による売出しの活用、新株予約権の行使その他の資本政策が挙げられています。

流通株式から除かれるのは、上場株式数の10%以上を所有する主要株主、役員等(役員の配偶者及び二親等内の血族を含む)、役員等が議決権の過半数を所有する会社、自己株式などです。資産管理会社や役員の持株が大きい会社では、上場時点だけでなく上場後も基準を維持できるかを試算しておく必要があります。計算方法は流通株式比率の計算式と調べ方と流通株式数の数え方で解説しています。

ストック・オプションの設計――業績条件と段階的な行使

新株予約権は第1回〜第5回の5種類です。第1回〜第4回は2022年12月26日に付与され、行使価額は分割後160円、行使期間は2024年12月27日から2032年11月26日までです。第1回(取締役1名)と第4回(社外協力者3名、提出日現在は取締役1名・社外協力者2名)は有償の新株予約権(1個15.58円)で、2024年5月期〜2026年5月期のいずれかの期の売上高が5,455百万円以上という業績条件が付いています。第4回はさらに、上場後12か月経過で割当数の半数、24か月経過で全部を行使できる段階的な設計です。

第2回は取締役3名(提出日現在2名)、第3回は従業員19名(提出日現在9名)が対象で、第3回は上場後12か月を経過するまで行使できません。第5回は2025年8月15日の定時株主総会で決議され、同年8月31日に取締役1名に付与されました(34,000株、行使価額355円、上場後12か月経過まで行使不可)。潜在株式は1,554,000株で、自己株式を除く株式総数の12.15%にあたり、「事業等のリスク」でも新株予約権の行使による希薄化を発生可能性「高」として記載しています。

ストック・オプション(第1回〜第5回)の概要回付与対象者目的株式数行使価額主な行使条件第1回取締役1名(有償)700,000株160円売上高5,455百万円以上上場後に行使可第2回取締役3名(現在2名)600,000株160円上場後に行使可第3回従業員19名(現在9名)96,000株160円在籍条件上場後12か月経過後に行使可第4回社外協力者3名(有償)124,000株160円売上高条件・在籍等条件上場1年後半数、2年後全部第5回取締役1名34,000株355円在籍条件上場後12か月経過後に行使可

図11 目的となる株式数・行使価額は2025年8月31日の株式分割後(提出日の前月末現在)。対象者の「現在」は本書提出日現在の人数です

第4回新株予約権の段階的な行使付与2022/12/26上場日2026/2/27上場12か月後半数まで行使可上場24か月後全部を行使可第3回・第5回も上場後12か月を経過するまで行使できない設計第1回・第4回には売上高5,455百万円以上の業績条件(2024年5月期〜2026年5月期)

図12 第4回は上場から12か月経過後に割当数の半数、24か月経過後に全部を行使できる設計(Ⅰの部「新株予約権等の状況」より)

会計処理については、付与日時点で未公開企業であり、単位当たりの本源的価値が零のため費用を計上していないと記載されています。未公開企業は、ストック・オプションの公正な評価単価に代えて本源的価値で見積ることが認められています。株式の評価はDCF法と修正簿価純資産法の折衷法によっています。有償新株予約権の払込金額は貸借対照表の純資産に新株予約権6,418千円として計上されています。

なお、権利確定条件付きの有償新株予約権は、実務対応報告第36号によりストック・オプションに準じて会計処理するのが原則で、「有償だから費用計上が不要」になるわけではありません。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例、税制適格の要件は税制適格ストックオプションを参考にしてください。

コーポレート・ガバナンスはどう組み立てられているのか

ギークリーは監査役会設置会社で、株主総会・取締役会・監査役会・会計監査人を置いています。任意の機関として、リスク・コンプライアンス委員会と報酬委員会を設けています。役員は男性7名・女性2名(女性比率22.2%)です。

取締役会は6名(うち社外取締役2名)で、定時取締役会を月1回開きます。最近事業年度は13回開催され、出席状況が記載された取締役5名(現任者)はいずれも13回すべてに出席しています。主な検討内容は、中期経営計画、事業計画、ガバナンス体制、人材採用・育成と記載されています。取締役の任期は1年、監査役の任期は4年です。

ギークリーの機関設計(監査役会設置会社)株主総会取締役会6名(うち社外2名)監査役会3名(全員社外)代表取締役社長リスク・コンプライアンス委員会報酬委員会(任意)内部監査担当(経営管理セクション1名)会計監査人(PwC Japan有限責任監査法人)選任選任監査選定・監督諮問任命連携三様監査

図13 取締役会6名(うち社外2名)、監査役会3名(全員社外)。報酬委員会は社外取締役が委員長、リスク・コンプライアンス委員会は代表取締役社長が委員長

役職 氏名 主な経歴(Ⅰの部の記載から)
代表取締役社長 奥山 貴広 2011年に当社を設立。資産管理会社2社の代表取締役を兼務
取締役 西内 信 2011年入社。監査役を経て2017年に取締役
取締役 浅野 大樹人 税理士事務所代表(現任)。2023年に取締役、事務連絡者
取締役 永井 正樹 (株)システムラボ代表取締役(現任)。2025年6月に取締役
社外取締役 今西 紘子 公認会計士。2023年4月就任。報酬委員会委員長
社外取締役 浅井 耕作 野村證券出身。2023年9月就任
常勤監査役(社外) 秋山 裕子 公認会計士。2023年4月就任
監査役(社外) 松木 大輔 弁護士。2023年4月就任
監査役(社外) 波多野 淳 社会保険労務士。2023年4月就任

監査役会は3名全員が社外監査役で、公認会計士・弁護士・社会保険労務士という異なる専門資格を持つ構成です。月1回開催され、最近事業年度は12回、全員が出席しています。社外役員5名と会社との間に人的関係・資本的関係・取引関係その他の利害関係はなく、独立性の基準は明文化していないものの東京証券取引所の判断基準をもとに判断し、社外監査役3名を独立役員として届け出ていると記載されています。

スタンダード市場ではコーポレートガバナンス・コードの全原則が適用されるため、独立社外取締役の人数(原則4-10。2026年7月改訂前は原則4-8)なども、コードの各原則について実施するか、実施しない理由を説明するかを整理しておく必要があります。機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?、監査役の専門性については監査役に会計の知識は必要かも参考にしてください。

剰余金の配当を取締役会で決められる定款

ギークリーは、剰余金の配当等を取締役会の決議で行うことができる旨を定款に定めています(会社法459条1項)。この定款規定は、会計監査人設置会社で、監査役会を置き、取締役の任期が1年以内であることなどが前提となる制度で、ギークリーの取締役の任期1年という設計とも整合します。配当は累進配当を基本方針とし、期末の年1回を基本としています。第15期の1株当たり配当額は13.5円(分割前)、配当性向は15.3%です。自己株式の取得も取締役会決議で行えるよう定めています(会社法165条2項)。

このほか、取締役の定数は7名以内、選任決議は議決権の3分の1以上を有する株主が出席しその過半数で行い、累積投票によらないこと、社外取締役・監査役との責任限定契約(会社法427条1項)、役員等賠償責任保険(D&O保険)への加入(保険料は全額会社負担)が記載されています。

役員報酬は報酬委員会の審議を経て取締役会で決定

報酬委員会は2024年4月17日に設置された任意の委員会で、代表取締役社長・社外取締役2名・常勤監査役(社外)の4名で構成され、委員長は社外取締役の今西紘子氏です。最近事業年度は2回開催され、全員が出席しました。個人別の報酬は、委員長が議案を作成し、報酬委員会で審議したうえで取締役会が決定し、取締役会は決定方針との整合性を確認する流れです。

現在の報酬は固定報酬のみで、業績連動報酬はありません。報酬限度額は、取締役が年額300百万円以内(2025年8月15日の定時株主総会決議)、監査役が年額50百万円以内です。第15期の報酬総額は、取締役(社外取締役を除く)152百万円(4名)、社外取締役6百万円(2名)、社外監査役11百万円(3名)でした。役員報酬の決定方針や決定手続の開示は有価証券報告書の記載事項であり、上場前から方針と手続を文書化しておくことが求められます。

取締役の個人別報酬の決め方委員長(社外取締役)が議案を作成報酬委員会で個人別報酬を審議取締役会で決定決定方針との整合を取締役会で確認報酬委員会の構成(2024年4月設置)社内取締役1・社外取締役2・社外監査役1最近事業年度の開催2回取締役の報酬限度額年額300百万円以内(2025年8月15日 定時株主総会)

図14 Ⅰの部「役員の報酬等」より。現在の報酬は固定報酬のみで、業績連動報酬は導入していません

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

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内部監査・内部統制はどのような体制か

ギークリーの内部監査は、コーポレートディビジョン経営管理セクションに所属するマネージャー1名が担当しています。年度の監査計画は代表取締役社長が承認し、監査結果は常勤監査役に直接報告したうえで、代表取締役・取締役会・監査役会に報告されます。被監査部門は改善報告書を内部監査担当者経由で社長に提出します。

特徴的なのは、自己監査を避ける仕組みです。経営管理セクションが監査対象になるときは、事前に社長の承認を得て、他のセクションのマネージャー2名がクロス監査を行います。内部監査の担当者が管理部門と兼務している場合、自分の部署を自分で監査することにならないよう、このような手当てを設計しておく必要があります。考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)で詳しく解説しています。

内部監査の体制とクロス監査(自己監査の回避)代表取締役社長常勤監査役内部監査担当(経営管理セクション1名)各ディビジョン(被監査部門)被監査部門が経営管理セクションのときクロス監査(社長が事前承認)他セクションのマネージャー2名経営管理セクション計画を承認直接報告監査

図15 内部監査担当はコーポレート ディビジョン経営管理セクションのマネージャー1名。経営管理セクション自体を監査するときは、他セクションのマネージャー2名がクロス監査を行います

内部監査担当と常勤監査役は月1回のミーティングを行い、会計監査人を加えた三様監査を3か月に1回実施しています。監査役監査では、取締役会やリスク・コンプライアンス委員会への出席、往査、常勤監査役を中心とした実査が行われています。三様監査の連携の仕方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)を参考にしてください。

三様監査の連携監査役会(常勤は公認会計士)内部監査担当会計監査人(PwC Japan)3か月に1回の三様監査で計画・結果を共有月1回の定例ミーティング

図16 内部監査担当・監査役会・会計監査人が3か月に1回の三様監査で計画と結果を共有し、常勤監査役と内部監査担当は月1回のミーティングも実施(Ⅰの部「監査の状況」より)

リスク管理とコンプライアンスについては、取締役6名で構成し代表取締役社長が委員長を務めるリスク・コンプライアンス委員会(取締役会の諮問機関、四半期に1回以上開催、監査役はオブザーバー)を置いています。内部統制システムの基本方針(9項目)では、コーポレートディビジョン管掌取締役をコンプライアンス担当役員とすること、社内及び社外の内部通報窓口、危機管理会議、監査役の補助使用人(指揮命令権は監査役)、財務報告に係る内部統制の基本方針、反社会的勢力の排除などが定められています。サステナビリティについても、同委員会が施策を策定・実行し、取締役会に報告する予定とされています。

人材紹介業ならではのリスクへの備えも記載されています。労務管理では社会保険労務士法人と顧問契約を結び、勤怠状況を定期的に配信しています。個人情報についてはプライバシーマークを取得し、2年ごとに更新しています。

会計・開示で押さえるべき論点は何か

収益認識――入社時点で一時点に計上し、返金負債を見積る

ギークリーの収益は、求人企業に求職者を紹介し、求職者が入社した時点で履行義務が充足されるとして、その時点で売上高を計上しています。早期退職に伴う返金に備え、将来の返金見込額を売上高に返金実績率を乗じて算定し、返金負債として計上しています。返金負債は第14期末12,806千円、第15期末9,014千円です。対価は概ね1か月以内に受け取り、重要な金融要素は含まれていません。単一の事業のため収益の分解情報は省略し、残存履行義務も重要性がないため注記を省略しています。

成功報酬型のビジネスでは、「いつ履行義務が充足されるか」と「返金や取消しをどう見積るか(変動対価)」が審査で問われる論点です。入社確定と入社日のずれ、返金の条件、返金実績率の算定方法を、契約書と社内データで説明できるようにしておきましょう。上場審査で問われる収益認識も参考になります。

人材紹介の収益認識のタイミングRAが求人票を獲得CAが面談し求人企業へ推薦選考を経て入社確定求職者が入社早期退職で一部返金受注残高(社内管理)履行義務充足売上高を計上返金負債(返金実績率)返金負債:第14期末 12,806千円 → 第15期末 9,014千円(売上高に返金実績率を乗じた額を計上。対価は概ね1か月以内に受領)

図17 Ⅰの部「重要な会計方針(収益及び費用の計上基準)」「受注残高の認識方法」をもとに作成

重要な会計上の見積りと特徴的な注記

重要な会計上の見積りとして記載されているのは、第15期の資産除去債務(99,579千円)のみです(第14期は該当なし)。オフィスの原状回復費用を、使用見込期間10年、割引率0.591〜1.254%で見積っており、本社移転に伴う有形固定資産の取得で86,517千円増加しています。オフィスを移転・増床する会社では、資産除去債務と建物附属設備の減価償却が業績に与える影響を事前に見積っておく必要があります。

このほか、税効果会計では法定実効税率34.6%に対し税負担率30.2%(法人税額の特別控除△4.3%など)と記載され、防衛特別法人税の創設により2026年6月1日以後開始する事業年度から法定実効税率が35.4%になるが影響は軽微と説明されています。未適用の会計基準として、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」を2028年5月期の期首から適用予定で、影響額は評価中とされています。継続企業の前提に関する注記はありません。

会計監査人はPwC Japan有限責任監査法人で、継続監査期間は3年間、業務執行社員は2名、補助者は公認会計士3名・その他11名です。選定理由として、過去に取引がなく独立性が確保されていること、業界の知見、監査品質、適正な料金などが挙げられています。監査証明業務の報酬は、前事業年度18百万円から最近事業年度32百万円に増え、非監査業務はありません。上場準備の進行とともに監査報酬が増える点は、予算に織り込んでおきたいところです。監査法人の選び方とタイミングは監査法人はいつまでに決めるかを参考にしてください。

事業等のリスクと上場審査で問われやすい点

ギークリーの「事業等のリスク」は、各項目に発生可能性・発生時期・影響度を付けて記載されています。影響度「大」とされた項目と、上場準備の観点で注目したい項目を抜き出すと次のとおりです。

リスク項目 発生可能性/時期/影響度 記載の要点
登録者数・取引先企業数 中/なし/大 集客・求人獲得が業績の前提
転職サイト運営企業の利活用 低/なし/大 外部プラットフォームでのスカウトに依存
広告宣伝効果 低/なし/大 TVCM等の効果が想定を下回る可能性
当社株式の流動性 低/なし/大 流通株式比率が上場維持基準に近接する見込み
法的規制(有料職業紹介事業) 低/なし/大 許可の有効期限は2029年11月30日
個人情報の取扱い 低/なし/大 プライバシーマークを取得
業績の季節的変動 中/特定時期あり/小 第4四半期、特に4月に売上が集中
新株予約権の行使による希薄化 高/数年以内/小 潜在株式比率12.15%

人材紹介業は許認可ビジネスです。ギークリーは職業安定法に基づく有料職業紹介事業の許可を受けており、有効期限は2029年11月30日です。職業安定法第32条に定める欠格事由に該当したり法令に違反したりした場合には、許可の取消し(同法第32条の9)などの可能性があるとリスクに記載しています。許認可を前提とする事業では、許可の更新手続や法令遵守の体制が審査で確認されます。IPOで許認可はどこまで見られるかも参考にしてください。

また、大株主のリスクとして、奥山氏と資産管理会社のブリッジインベストメントが上場後も大株主であること、特定人物への依存として奥山氏への依存が挙げられています。オーナー企業では、オーナーの意思決定から少数株主の利益をどう守るか、オーナーが不在になっても経営が回るかが「企業経営の健全性」や「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」の観点で確認されます。

ギークリーのケースから上場準備会社が学べること

ここまでの内容を、上場準備会社が自社に当てはめて検討できる形で整理します。

ギークリーのⅠの部から学べる6つのポイント自己株式を軸に資本政策を組み立てる資産管理会社への移動と価格を説明する流通株式比率を上場前から試算するSOは業績条件と段階行使で設計する兼務の内部監査はクロス監査で補う成功報酬型は返金負債を見積る

図18 本記事で取り上げた論点のまとめ

1.自己株式を資本政策の道具として使うなら、出口まで設計する

ギークリーは自己株式を資産管理会社・社長・持株会への処分に使い、上場前に5,195,000株を消却しました。自己株式の処分は新株発行と同じく募集株式の発行等の手続によります。取得・処分・消却の各段階で、価格の根拠、会計処理(その他資本剰余金がマイナスになる場合の処理を含む)、流通株式への影響を一体で検討しておくことが大切です。

2.資産管理会社への移動は、価格と理由を説明できるようにする

創業者が資産管理会社に株式を移す場合、その移動は「特別利害関係者等の株式等の移動状況」に開示されます。ギークリーでは移動と同日に同じ単価で自己株式も処分しており、価格の決め方が一貫しています。移動の理由と価格算定の根拠を記録に残しておきましょう。

3.流通株式比率は上場時だけでなく上場後も試算する

オーナーと資産管理会社の持株割合が高い会社では、売出しの規模だけでなく、上場後の新株予約権の行使や追加の売出しも含めて、上場維持基準を満たし続けられるかを試算しておく必要があります。ギークリーのように、その見通しと対応策をリスク情報として開示することも一つの方法です。

4.ストック・オプションは業績条件と行使時期で設計する

売上高の業績条件、上場後12か月の行使制限、上場後1年で半数・2年で全部という段階的な行使など、上場後の株価への影響と役職員の定着を意識した設計が参考になります。有償新株予約権の会計処理は実務対応報告第36号を確認しておきましょう。

5.兼務の内部監査はクロス監査で補う

内部監査の専任者を置けない段階では、管理部門の担当者が兼務し、自部門は他部門の担当者が監査する方法が現実的です。社長承認の手続や常勤監査役への直接報告の経路をあわせて整えておくと、独立性を説明しやすくなります。

6.成功報酬型の収益は返金負債の見積りまで準備する

入社時点で収益を認識し、返金見込額を返金負債として計上するには、返金実績率の根拠となるデータが必要です。KPIとして開示する受注残高などの社内管理数値との関係も整理しておきましょう。

自社の準備状況をチェックしてみましょう

  • 自己株式の取得・処分・消却の履歴と価格の根拠を説明できる資料がそろっている
  • 資産管理会社や役員への株式移動の理由・価格を記録し、特別利害関係者等の移動として開示できる
  • 流通株式比率を上場時と上場後の両方で試算し、売出しや新株予約権の行使の影響を把握している
  • ストック・オプションの業績条件・行使制限・会計処理(有償新株予約権を含む)を整理している
  • 内部監査の兼務者が自部門を監査しない仕組み(クロス監査など)と報告経路を定めている
  • 返金や取消しがある取引について、収益認識の時点と返金負債の見積り方法を文書化している

よくある質問

Q1. 上場前に自己株式を保有していても問題はありませんか?

保有自体が上場を妨げるものではありません。ただし、自己株式は流通株式から除かれるため、流通株式比率の計算に影響します。ギークリーは上場前に5,195,000株を消却したうえで、なお発行済株式の12.29%を自己株式として保有しています。取得・処分・消却の経緯と価格を説明できるようにしておくことが大切です。

Q2. 資産管理会社に株式を移すタイミングに決まりはありますか?

時期そのものを一律に禁じるルールはありませんが、上場申請直前事業年度の末日の2年前の日から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式移動は、Ⅰの部に開示されます。価格の算定根拠や理由が問われるため、資本政策の早い段階で行い、記録を残しておくのが実務的です。

Q3. 内部監査の担当者が1名でも上場できますか?

人数そのものより、監査計画に沿って監査が実施され、指摘事項の改善が確認されているか、自己監査が避けられているかが重要です。ギークリーは1名の担当者に加え、担当者の所属部門を他部門のマネージャー2名がクロス監査する体制です。

Q4. 成功報酬型の人材紹介では、いつ売上を計上しますか?

ギークリーは、求職者が入社した時点で履行義務が充足されるとして売上高を計上し、早期退職による返金見込額を返金負債として計上しています。契約上の返金条件と過去の返金実績をもとに、見積りの根拠を説明できるようにしておく必要があります。

最初の一歩は「株主名簿と資本政策の履歴」を一覧にすることから

ギークリーのように株式の移動や自己株式の処分を重ねてきた会社は、まず設立以来の株主名簿の変遷、取得・処分・消却・分割の履歴、各時点の価格と算定方法を一覧表にまとめることから始めましょう。この一覧が、Ⅰの部の「株式公開情報」や流通株式比率の試算の土台になります。資本政策全体の考え方は上場準備の資本政策で解説しています。

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ギークリーのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)

ギークリーの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。

まとめ

株式会社ギークリーは、IT・Web・ゲーム業界に特化した完全成功報酬型の人材紹介会社として、2026年2月27日に東証スタンダード市場に上場しました。第15期は販売促進費の増加で営業減益となったものの、売上高は7,147,966千円まで伸び、各期とも黒字で無借金です。

資本政策では、資産管理会社への株式移動、自己株式の処分と消却、業績条件や段階的な行使を組み込んだストック・オプションを組み合わせ、流通株式比率が上場維持基準に近い水準になる見込みであることもリスク情報として開示しています。ガバナンス面では、専門資格を持つ社外監査役3名の監査役会、社外取締役が委員長を務める報酬委員会、1名体制を補うクロス監査が特徴です。

オーナー色の強い会社が上場を目指すとき、どこを整え、何を説明すべきかを具体的に示してくれるⅠの部です。自社の準備状況と照らし合わせながら、ぜひ原文も読んでみてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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