※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
2026年4月23日、オリジナルペットフードの定期購入サービスを中心に事業を展開する犬猫生活株式会社(証券コード556A)が東証グロース市場に上場しました。同社は2018年に「オネストフード株式会社」として設立され、2021年に現在の商号へ変更しています。自社ECでの定期購入(サブスクリプション)を収益の柱としながら、動物病院やトリミングサロンの運営、保護犬猫の譲渡会支援といった活動にも取り組んでいる会社です。上場前には、株式会社前澤ファンドなどを引受先としてB種からE種までの優先株式を段階的に発行しており、資本政策の面でも学べる点の多いケースです。
結論からいえば、犬猫生活のⅠの部から学べるのは、①複数の種類株式を上場前に取得・消却して普通株式に一本化し、株式分割と単元株制度の採用で上場に備えた資本政策の流れ、②代表取締役が代表理事を務める一般財団法人との取引を「関連当事者取引と同等」と位置づけ、寄付の決め方まで開示したガバナンスの工夫、③黒字転換期に繰延税金資産を計上した税効果会計の論点、④ファブレス型の事業で外部委託先まで内部監査の対象とする体制の4点です。本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の記載をもとに、これらの論点を上場準備の実務の目線で整理します。
この記事の見出し
犬猫生活はどのような会社で、どの市場に上場したのか
まず、会社と上場の概要を確認します。犬猫生活は、経営理念として「すべての動物とその家族の幸せな生活のために」を掲げ、グローバル総合ペットケアブランドを目指す会社です。事業セグメントは「ペット関連事業」の単一セグメントで、子会社・関係会社はなく、Ⅰの部の財務諸表は単体のみで作成されています。
設立は2018年5月です。代表取締役社長の佐藤淳氏が、栄養不足の妊娠中の野良猫を保護したことをきっかけに、ペットフードの企画・開発・販売を行う会社として東京都豊島区に設立しました(設立時の商号はオネストフード株式会社、資本金5,000千円)。その後、2021年6月に本社を東京都新宿区へ移し、同年8月に犬猫生活株式会社へ商号を変更しています。
決算期は4月で、Ⅰの部の最近事業年度は第7期(2025年4月期)です。従業員数は2026年2月28日現在で57名(ほかに臨時従業員14名)、平均年齢36.7歳、平均勤続年数2.3年と記載されています。最近1年間で19名増えており、その理由として、業容拡大に伴う期中採用と、2025年5月の事業譲受による動物病院の従業員の受け入れが挙げられています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 犬猫生活株式会社(英訳名 INUNEKO-SEIKATSU Co.,Ltd.) |
| 証券コード・市場 | 556A・東証グロース市場 |
| 上場日 | 2026年4月23日 |
| 本店所在地 | 東京都新宿区市谷船河原町 |
| 代表者 | 代表取締役社長 佐藤 淳 |
| 設立 | 2018年5月(オネストフード株式会社として設立、2021年8月に商号変更) |
| 決算期 | 4月(最近事業年度は第7期=2025年4月期) |
| 事業セグメント | ペット関連事業(単一セグメント) |
| 従業員数 | 57名(臨時従業員14名、2026年2月28日現在) |
| 機関設計 | 監査役会設置会社(会計監査人:OAG監査法人) |
部門別の従業員数は、マーケティング部26名、CRM/商品開発部5名、CS/運用部20名、全社(共通)6名です。全社(共通)には、総務・経理などの管理部門と内部監査の従業員が含まれると記載されています。管理部門と内部監査をあわせて6名という規模感は、上場準備会社が自社の体制を考える際の一つの目安になるでしょう。上場準備の全体の流れについては、IPO準備の全体像(N-3期〜N期)もあわせてご覧ください。
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犬猫生活は何で稼いでいるのか(事業内容と収益モデル)
犬猫生活の事業は、「生活販売」「生活サービス」「エンターテイメント」の3つの領域で構成されています。中心となるのは、オリジナルペットフードを販売する生活販売です。販売チャネルは、自社EC(D2C)、他社EC(Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピング)、卸販売の3つで、2025年4月期の売上高のうち約91%を自社ECが占めています。
自社ECの特徴は、注文の約95%がサブスクリプション(定期購入)であることです。お届けサイクルは最大90日で、多くの顧客は約4週間に1回の頻度で購入していると記載されています。2025年4月末の定期会員数は約5万6千人で、沿革によれば2025年5月には6万人を突破しています。ここでいう定期会員数は、自社ECで定期購入サービスを契約している会員数と定義されています。
生活サービスは、予防医療に特化した往診型の「犬猫生活 往診クリニック」(2023年12月開設)、島根県益田市の「益田ペットクリニック」(2025年5月に事業譲受)、トリミングサロン「Inu to Town」(2024年6月に事業譲受)の運営です。エンターテイメントは、イベントへのブース出展や、一般財団法人犬猫生活福祉財団と連携した保護犬猫の譲渡会等の支援です。
図1 犬猫生活の事業モデルと3つの事業領域(Ⅰの部「事業の内容」等をもとに筆者作成)
商品は、無添加・国内製造(台湾販売分は台湾工場)・ヒューマングレード素材を特徴としています。開発段階では獣医師が栄養設計の助言を行い、製造は外部の工場に委託しています。製造工場は契約前に視察し、契約後は年1回の内部監査で製造環境を確認する体制です。生活販売における商品別の売上比率(2025年4月期)は、デンタルふりかけ44.1%、ドライフード27.8%、手作りごはん13.1%と記載されています。
主な販売先については、総販売実績の10%以上を占める相手先はないとされています。一方、売掛金の相手先は、GMOペイメントゲートウェイ、ネットプロテクションズ、アマゾンジャパンなどの決済代行会社やモール運営会社が中心です。D2C型のEC事業では、顧客は個人であっても、債権の相手先は決済代行会社になるという構造が、Ⅰの部の「主な資産及び負債の内容」からも読み取れます。
経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標(KPI)として、同社は売上高、売上高成長率、限界利益率(売上高から変動費を差し引いたもの)を重要指標としています。そのうえで、構成要素として自社ECのサブスクリプション会員数、解約率、平均購買単価、卸業者経由の展開店舗数をモニタリングしていると記載されています。サブスクリプション型の事業では、会員数・単価・解約率に分解して業績を説明できるかどうかが、事業計画の説得力に直結します。
図2 経営上の重要指標と、その構成要素としてモニタリングしている指標(Ⅰの部「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をもとに筆者作成)
チャネル別の販売実績は次のとおりです。第7期は自社ECが前期比152.7%、他社ECが同339.2%と伸びており、第8期に入ってからは海外販売の実績も計上されています。
| 区分 | 第7期(2025年4月期) | 前期比 | 第8期第3四半期累計 |
|---|---|---|---|
| 自社EC | 2,637,267千円 | 152.7% | 2,867,151千円 |
| 他社EC(モール) | 202,419千円 | 339.2% | 322,649千円 |
| 卸販売 | 9,348千円 | 256.6% | 18,051千円 |
| 海外販売 | ― | ― | 2,630千円 |
| 生活サービス | 49,644千円 | 5,179.9% | 119,340千円 |
| エンターテイメント、その他 | 3,258千円 | 571.9% | 1,916千円 |
| 合計 | 2,901,938千円 | 162.0% | 3,331,739千円 |
Ⅰの部の「事業等のリスク」では、ECチャネル(自社EC+他社EC)経由の売上高が全体の97.9%であることも示されています。製造・保管・配送をいずれも外部に委託するファブレス型のビジネスであり、重要な契約として、ドライフード、サプリメント、犬用手作りごはんの製造委託先3社と、倉庫内の商品管理・発送の委託先1社との契約が記載されています。外部委託先の管理が、事業運営と内部統制の両面で重要になる事業構造といえます。
設立から上場までどのような道のりをたどったのか
沿革を見ると、犬猫生活は商品の拡充、資金調達、ブランドの刷新、サービス領域の拡大という順序で事業を広げてきたことがわかります。
2019年2月にグレインフリーのペットフード「レガリエ」の販売を開始し、2021年1月には株式会社前澤ファンドを引受先とする第三者割当増資を実施しました。同年8月に商号を犬猫生活株式会社へ変更し、9月にはブランドを「レガリエ」から「犬猫生活」へ刷新するとともに、主力商品となる「デンタルふりかけ」の販売を開始しています。同じ月に、一般財団法人犬猫生活福祉財団も設立されています。
図3 設立から上場までの主な沿革(Ⅰの部「沿革」等をもとに筆者作成)
その後、2022年3月に定期会員数1万人を突破し、同年10月に冷凍総合栄養食「犬用手作りごはん」の販売を開始しました。2023年12月に往診クリニックを開設、2024年6月にトリミングサロン、2025年5月に動物病院をそれぞれ事業譲受により取得し、オンラインの販売とオフラインのサービスを組み合わせる体制を整えています。2025年5月には台湾での販売も始まりました。
上場準備の観点では、2024年4月の無償減資、2025年1月と2026年1月の株式分割、2025年12月の優先株式の取得・消却と定款変更、2025年12月の臨時株主総会での役員選任など、上場直前の1〜2年に資本と機関の手続きが集中している点が目を引きます。これらは後ほど資本政策とガバナンスの章で詳しく見ていきます。上場までのスケジュールの組み方は、上場スケジュールはどこで遅れるかでも解説しています。
業績はどのように推移してきたのか
次に、主要な経営指標等の推移を確認します。Ⅰの部には第3期(2021年4月期)から第7期(2025年4月期)までの5期分の単体の数値が掲載されています。
| 回次(決算年月) | 売上高 | 経常損益 | 当期純損益 | 純資産額 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第3期(2021年4月) | 177,683千円 | △48,742千円 | △48,936千円 | 368,893千円 | 90.0% |
| 第4期(2022年4月) | 440,957千円 | △288,097千円 | △290,705千円 | 243,188千円 | 71.8% |
| 第5期(2023年4月) | 1,154,469千円 | △281,442千円 | △281,902千円 | 198,285千円 | 62.1% |
| 第6期(2024年4月) | 1,791,774千円 | △42,922千円 | △43,212千円 | 155,072千円 | 36.8% |
| 第7期(2025年4月) | 2,901,938千円 | 89,601千円 | 207,611千円 | 362,684千円 | 41.3% |
売上高は第3期の177,683千円から第7期の2,901,938千円へと、4期間で大きく伸びています。利益面では、第4期・第5期に経常損失が続いたのち、第6期に損失幅が縮小し、第7期に経常利益89,601千円と黒字化しました。なお、Ⅰの部の注記によれば、第6期・第7期の財務諸表は財務諸表等規則に基づいて作成され、有価証券上場規程第216条第6項に基づきOAG監査法人の監査を受けています。第3期から第5期の数値は会社計算規則に基づくもので、この監査は受けていない旨が記載されています。
図4 売上高と利益の推移(第3期〜第7期、単体、百万円)。第3〜5期は上場規程に基づく監査を受けていない数値
第7期の損益の中身を見ると、売上高2,901,938千円に対して売上総利益2,036,422千円、販売費及び一般管理費1,944,095千円で、営業利益は92,327千円です。販管費のうち最も大きいのは広告宣伝費1,019,313千円で、ほかに荷造運賃205,538千円、支払手数料179,840千円、給料及び手当182,829千円などが計上されています。販管費のおよそ半分を広告宣伝費が占めており、広告による顧客獲得と定期購入による継続売上が、損益の大きな要素になっていることがわかります。
図5 第7期(2025年4月期)の販管費の構造(Ⅰの部の損益計算書・販売費及び一般管理費の内訳をもとに筆者作成。単位:千円)
直近の第8期第3四半期累計(2025年5月〜2026年1月)では、売上高3,331,739千円、営業利益412,275千円、経常利益413,331千円、四半期純利益340,241千円と記載されています。9か月間で第7期通期の売上高を上回っており、第7期に黒字化した利益水準がさらに拡大していることがわかります。
図6 自社ECの定期会員数の推移(千件、第6期第1四半期〜第8期第3四半期)。Ⅰの部「経営成績等の状況の概要」をもとに筆者作成
定期会員数は、第6期第4四半期の31,430件から、第7期第4四半期に56,824件、第8期第3四半期に71,290件へと増加しています。月平均購買単価は4,300円台から4,900円台の範囲で推移しています。会員数の増加が売上成長の主な要因であることが、KPIの推移からも確認できます。
グロース市場では、「高い成長可能性」を有していることについて、主幹事証券会社の判断と、事業計画及び成長可能性に関する事項の開示が求められます。犬猫生活のように赤字期間を経て直前期に黒字化した会社では、損失が生じていた要因と黒字化の要因を、KPIの推移と結び付けて説明できることが重要です。詳しくはグロース市場の「高い成長可能性」とはをご覧ください。
資本政策と株主構成はどのように組み立てられたのか
犬猫生活の資本政策で特徴的なのは、上場前に複数の種類株式(優先株式)を段階的に発行し、上場直前にそれらを普通株式へ一本化したことです。ここでは、発行済株式総数・資本金等の推移、株式分割、株式の移動、ストックオプション、株主構成の順に確認します。
B種からE種までの優先株式を段階的に発行
2021年1月22日、犬猫生活は前澤友作氏と株式会社前澤ファンドを割当先としてB種優先株式300株を発行しました(発行価格1株1,200,000円)。同日、全株主の同意により、普通株式12株とA種優先株式の全部(100株)をB種優先株式112株に転換し、取得した株式を消却しています。その後も同じ割当先に対し、C種、D種、E種の優先株式を発行しました。
| 年月日 | 内容 | 発行価格(分割前) | 資本金残高 |
|---|---|---|---|
| 2021年1月22日 | B種優先株式300株(第三者割当) | 1,200,000円 | 227,600千円 |
| 2022年3月25日 | C種優先株式75株(第三者割当) | 2,200,000円 | 310,100千円 |
| 2022年9月28日 | D種優先株式30株(第三者割当) | 2,500,000円 | 347,600千円 |
| 2023年1月19日 | E種優先株式54株(第三者割当) | 3,000,000円 | 428,600千円 |
| 2024年4月30日 | 無償減資(減資割合76.9%) | - | 99,000千円 |
| 2025年1月31日 | 株式分割(1株→10株) | - | 99,000千円 |
| 2025年12月15日 | B〜E種優先株式を取得し普通株式を交付、優先株式を消却 | - | 99,000千円 |
| 2026年1月1日 | 株式分割(1株→200株)、普通株式2,286,000株 | - | 99,000千円 |
発行価格は、B種の1,200,000円からE種の3,000,000円まで、ラウンドを重ねるごとに上がっています。いずれも割当先は前澤友作氏と前澤ファンドです。種類株式による資金調達は、優先配当や残余財産の優先分配、普通株式への転換などの条件を付けることで、投資家がリスクに見合った条件で出資しやすくなる仕組みです。種類株式の一般的な取扱いは、種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかで解説しています。
図7 種類株式の発行から普通株式への一本化・株式分割までの流れ(Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」等をもとに筆者作成)
無償減資で欠損を填補
2024年4月30日には、資本金を428,600千円から99,000千円へ、資本準備金を423,600千円から99,285千円へ減少させる無償減資を行っています(減資割合76.9%)。株主資本等変動計算書によれば、減少した資本金・資本準備金の合計653,914千円をその他資本剰余金に振り替え、同額の繰越利益剰余金のマイナス(欠損)を填補しています。減資の目的は、「財務内容の健全性を維持しつつ、今後の資本政策の機動性及び柔軟性を図ること」と記載されています。
図8 2024年4月30日の無償減資と欠損填補の流れ(Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」、株主資本等変動計算書をもとに筆者作成)
上場準備会社が減資を検討する場面としては、累積損失の解消のほか、資本金の額に応じた税務上の取扱い(外形標準課税の適用関係など)を考慮するケースがあります。減資には株主総会の決議や債権者保護手続が必要になるため、上場スケジュールのなかで時期を早めに決めておくことが大切です。
優先株式の取得・消却と株式分割
上場に向けた最終段階として、2025年12月15日に、B種からE種までの優先株式の全部を自己株式として取得し、対価として1株につき普通株式1株を交付しました。取得した優先株式は、同日の取締役会決議により会社法第178条に基づいてすべて消却されています。続く12月23日の臨時株主総会では、種類株式の発行に関する定款の定めを廃止し、発行可能株式総数を9,144,000株とする定款変更と、単元株式数を100株とする単元株制度の採用(いずれも2026年1月1日付)を決議しています。
株式分割は2回行われています。2025年1月31日付で全種類の株式を1株につき10株に、2026年1月1日付で普通株式を1株につき200株に分割しました。2回目の分割の目的は、投資単位の引下げと株式の流動性の向上と記載されています。この結果、提出日時点の発行済株式数は普通株式2,286,000株となっています。
上場審査では、上場時に種類株式が残っていないこと、つまり普通株式のみで上場することが一般的な前提となります。優先株式の転換や取得の方法は、定款の取得条項・取得請求権の定めによって変わるため、資金調達の段階から上場時の転換手順を見据えて定款を設計しておくことが重要です。
上場前の株式移動とストックオプション
第四部「株式公開情報」の特別利害関係者等の株式等の移動状況には、2024年3月25日に前澤友作氏から株式会社前澤ファンドへ、B種〜E種の優先株式(分割後換算で計570,000株)が597,100,000円(1株当たり1,047.54円)で移動したことが記載されています。移動理由は「所有者の事情による」とされ、価格は、DCF法、純資産方式及び類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案し、譲渡人と譲受人が協議のうえ決定したとされています。2025年12月15日には、優先株式の普通株式への転換により、前澤ファンドが普通株式1,142,000株を取得しています。
ストックオプションは2回発行されています。第1回(2022年5月付与)は行使価格550円、第2回(2025年2月付与)は行使価格750円で、いずれも分割調整後の価格です。第2回の発行価格の算定方法も、DCF法、純資産方式及び類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案したと記載されています。いずれも上場日までは行使できない条件が付されており、提出日時点の潜在株式比率は12.0%です。
| 項目 | 第1回新株予約権 | 第2回新株予約権 |
|---|---|---|
| 決議年月日 | 2022年5月16日 | 2025年1月15日 |
| 付与日 | 2022年5月17日 | 2025年2月3日 |
| 付与対象者(決議時) | 取締役2名、従業員16名 | 取締役3名、従業員35名 |
| 目的株式数(提出日時点) | 普通株式134,000株 | 普通株式141,000株 |
| 行使価格(分割調整後) | 550円 | 750円 |
| 権利行使期間 | 2024年5月17日〜2032年5月16日 | 2027年1月16日〜2035年1月15日 |
| 主な行使条件 | 上場日までは行使不可、行使時に取締役・従業員の地位にあること等 | 同左 |
ストック・オプション等関係の注記では、付与時点で未公開株式であったため、公正な評価単価を本源的価値(株式の評価額と行使価格の差額)で見積もる方法をとり、株式の評価額はDCF法により算出した価格を総合的に勘案して決めたと記載されています。第6期・第7期とも費用計上額は「該当なし」で、第7期末の本源的価値の合計額は23,352千円と開示されています。
また、第2回新株予約権は、上場申請日の直前事業年度末から遡って一定期間内に付与されたものとして、第四部の「第三者割当等の概況」に記載されています。取得者には、取締役の近藤誠人氏、岩見真人氏、社外取締役の濵道佐和子氏が含まれ、割当日から上場日の前日または行使日のいずれか早い日まで所有することなどの確約が記載されています。上場前の株式移動や新株予約権の付与に関するルールは、上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で整理しています。ストックオプションの設計については税制適格ストックオプションも参考にしてください。
株主構成と流通株式
株主の状況(潜在株式を含む)を見ると、第1位が株式会社前澤ファンド(1,142,000株、44.59%)、第2位が代表取締役社長の佐藤淳氏(926,000株、36.16%)です。発行済株式数ベースでは、前澤ファンドが49.9%、佐藤氏が40.5%を保有していると記載されています。そのほか、取締役の近藤誠人氏、社外取締役の西井敏恭氏が代表取締役を務める株式会社シンクロ、取締役の岩見真人氏、社外取締役の濵道佐和子氏などが続きます。所有者別状況では、2026年2月28日現在の株主数は12名(その他の法人3名、個人その他9名)です。
図9 主な株主の所有割合(潜在株式を含む株式総数2,561,000株に対する割合)。Ⅰの部「株主の状況」をもとに筆者作成
事業等のリスクでは、前澤ファンドの株式所有について、運営会社である株式会社スタートトゥデイから社外取締役が派遣されていること、定期的に意見交換を行っていること、上場後も継続保有の方針であると聞いていることが記載されています。また、株式の流動性に関するリスクとして、流通株式時価総額及び流通株式比率が上場維持基準に近接している旨を開示し、大株主への売出しの協力要請、公募増資、ストックオプションの行使により流動性の向上を図る方針を示しています。
少数の株主が大部分の株式を保有している会社では、上場時の公募・売出しの規模を通じて流通株式をどれだけ確保するかが、資本政策上の重要な検討事項になります。流通株式の考え方は流通株式比率の計算式と調べ方、VCの持株の扱いはベンチャーキャピタルの持株は流通株式から除かれるかで解説しています。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / IPO支援を見る
コーポレート・ガバナンスはどのような体制か
犬猫生活は監査役会設置会社です。株主総会のもとに取締役会、監査役会、会計監査人を置き、取締役会は5名(うち社外取締役2名)、監査役会は3名(常勤1名、非常勤2名)で、監査役は3名全員が社外監査役です。取締役会は月1回の定例のほか必要に応じて臨時に開催され、第7期は18回開催されました。主な検討事項として、予算及び中期経営計画、M&A等の投資、店舗の出退店が挙げられています。
図10 機関設計と主な会議体(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの概要」をもとに筆者作成)
| 役職 | 氏名 | 主な経歴・属性 |
|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 佐藤 淳 | 2018年5月に当社設立。一般財団法人犬猫生活福祉財団 代表理事 |
| 取締役兼マーケティング部長 | 近藤 誠人 | 2020年3月入社、同年6月取締役 |
| 取締役兼管理部長 | 岩見 真人 | 他社の管理部長・執行役員を経て2022年1月入社、同年7月取締役 |
| 社外取締役 | 濵道 佐和子 | コンサルティング会社等を経て株式会社スタートトゥデイ所属 |
| 社外取締役(独立役員) | 西井 敏恭 | マーケティング会社の代表取締役等。2025年4月就任 |
| 常勤監査役(社外・独立役員) | 内田 潤 | 商社勤務、複数社の代表取締役・監査役を歴任 |
| 社外監査役(独立役員) | 長谷川 雄史 | 公認会計士・税理士 |
| 社外監査役(独立役員) | 宇田川 敦史 | 弁護士 |
社外役員の状況によれば、社外取締役の濵道氏は、株式会社スタートトゥデイの社員として大株主である前澤ファンドの運営に携わっています。もう一人の社外取締役である西井氏はマーケティング会社の代表取締役の経験を持ち、独立役員に指定されています。社外監査役3名は、いずれも独立役員に指定されています。大株主から派遣された社外取締役と、独立性のある社外取締役・社外監査役を組み合わせた構成であることが、Ⅰの部の記載から読み取れます。
監査役は、商社出身で複数社の監査役を歴任した常勤監査役、公認会計士、弁護士という構成です。会計・法律の専門家を監査役に迎えることは、上場準備会社でよく見られる形です。監査役に会計の知識は必要かや社外取締役は何人必要かもあわせてご覧ください。
任意の委員会と執行役員制度
犬猫生活では、法定の機関とは別に「コンプライアンス・リスクマネジメント委員会」を設けています。構成員は、委員長の佐藤代表取締役のほか、取締役の近藤氏・岩見氏、常勤監査役の内田氏、執行役員3名で、四半期に1回定例で開催されます。常勤監査役が構成員として参加している点が特徴です。また、執行役員制度を採用しており、CS/運用部長、マーケティング部マネージャー、CRM/商品開発部長が執行役員を務めています。
なお、指名・報酬に関する任意の委員会の設置についての記載はありません。上場時点で任意の指名委員会・報酬委員会の設置が必須とされているわけではなく、会社の規模や株主構成に応じて検討することになります。
役員報酬はどのように決めているか
取締役の報酬は、取締役報酬規程に基づき、原則として固定報酬のみで構成されています。非金銭報酬として新株予約権を付与する場合があり、業績連動報酬は将来検討するとされています。2025年4月16日の取締役会で個人別の報酬等の決定方針を定め、代表取締役社長が案を作成し、社外取締役の意見を尊重したうえで取締役会で審議・決定する方法をとっています。代表取締役への再一任ではなく、取締役会で決定する形です。
報酬限度額は、取締役が年額100百万円以内(2022年7月の定時株主総会決議)、監査役が年額7百万円以内(2024年10月の臨時株主総会決議)です。第7期の実績は、取締役(社外取締役を除く)3名で33,600千円、社外役員4名で5,500千円で、いずれも固定報酬のみと記載されています。
定款と責任限定契約
定款では、取締役の員数を8名以内とし、取締役の選任決議は議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その過半数で行うこと、累積投票によらないことを定めています。株主総会の特別決議の定足数を3分の1以上に緩和する定め、剰余金の配当を取締役会決議で行える定め、取締役会決議による役員の責任免除の定めも置かれています。社外取締役及び監査役とは会社法第427条第1項に基づく責任限定契約を締結し、取締役及び監査役を被保険者とする役員等賠償責任保険(D&O保険)にも加入しています。いずれも、上場会社で一般的に採用されている定めです。
代表取締役が代表理事を務める財団との取引をどう開示したか
犬猫生活のⅠの部で特に詳しく書かれているのが、一般財団法人犬猫生活福祉財団との関係です。同財団は2021年9月1日に犬猫生活株式会社を設立者として設立され、代表理事を佐藤代表取締役が務めています。事務局は当社と同じ住所にあり、群馬県で動物保護シェルターやスペイクリニックを運営しています。理事・監事・評議員には獣医師、公認会計士・税理士、弁護士などが就いており、佐藤氏は財団から報酬を一切受け取っていないと記載されています。
同財団は会計基準上の関連当事者には該当しないものの、当社が設立したこと、代表取締役が代表理事であること、所在地が同一であることから、同社は「関連当事者取引と同等」と判断し、関連当事者情報の注記に取引を記載しています。第7期の取引として、寄附金の支出16,381千円、往診クリニックの提供161千円、出向者給与等の立替6,412千円、賃料及び事務所諸経費の立替476千円が開示されています。
図11 一般財団法人犬猫生活福祉財団との関係と、関連当事者情報に記載された第7期の取引(Ⅰの部「関連当事者情報」「事業等のリスク」をもとに筆者作成)
図12 一般財団法人犬猫生活福祉財団への寄付の決定手続(Ⅰの部「事業等のリスク」をもとに筆者作成)
事業等のリスクでは、「経常利益を原資とした寄付」の方針と、その決め方が具体的に説明されています。寄付先は、活動実績が明確で月次の経営・財政・入出金の状況を把握できる同財団を優先し、他団体も対象とします。寄付は取締役会で決定し、取締役管理部長が草案を作成して、取締役会の前に社外取締役・監査役を含む独立役員に提出し、金額の妥当性を確認します。同財団への寄付の決議では、佐藤代表取締役は特別利害関係者として決議への参加が制限されます。決定時期は毎期7月、10月、1月、4月の年4回で、上限は前期経常利益の20%または100,000,000円とされ、経常損失の年度は寄付を行わないとされています。
あわせて、利益相反、寄付金の意図しない使途、財団関係者の本社への出入りの3つのリスクを挙げ、取締役会での審議と特別利害関係者の除外、寄付先の預金残高と資金支出計画の確認、内部監査による財団運営状況の確認、「執務室の立ち入り及び設備利用に関する覚書」の締結などの対応を示しています。
上場審査では、役員やその近親者、役員が支配する法人との取引について、取引の必要性と条件の妥当性、決定手続が確認されます。会計上の関連当事者に該当しない相手でも、実質的に利益相反が生じうる関係があれば、同等の管理と開示を検討するという姿勢は、上場準備会社にとって参考になる考え方です。詳しくはIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)や関連当事者との取引の注記の記載例をご覧ください。
大株主の関係会社による販売支援とその終了
もう一つ特徴的なのが、大株主である前澤ファンドの関係会社、株式会社MZITとの「スタートアップ支援事業に関する覚書」です。同社のコミュニティの会員が犬猫生活の商品を購入すると、同社から独自のポイントが付与される仕組みで、このコミュニティ経由の売上高は第7期158,847千円、第8期第3四半期累計100,193千円(全体売上高の概ね3〜5%程度)と開示されています。この支援は当社のエグジット支援を目的としたもので、上場時に会員ポイントが精算され、覚書による連携は終了する見通しであると記載されています。発生可能性は「高」、影響度は「低」とされています。
図13 株式会社MZITとの「スタートアップ支援事業に関する覚書」による販売支援の仕組み(Ⅰの部「事業等のリスク」をもとに筆者作成)
上場準備会社では、大株主やその関係会社との取引について、上場後も継続するのか、どの時点で終了・見直しをするのかを事前に整理し、業績への影響とあわせて説明できるようにしておくことが求められます。
このほか、関連当事者情報には、佐藤代表取締役による事務所の不動産賃借に対する債務被保証(保証料の支払いなし)が第6期・第7期とも記載されています。代表者による債務保証は上場準備会社でよく見られる取引で、上場に向けて解消の方針や時期を整理しておくことが一般的です。考え方は社長個人と会社の取引はどう解消するかで解説しています。
内部監査・内部統制はどのように運用されているか
内部監査は、代表取締役社長直属の内部監査責任者1名(専任)と、これを補佐する管理部の担当者1名で実施され、各拠点の補助者のサポートを得て行うと記載されています。内部監査規程に基づき年間計画を策定して代表取締役の承認を得たうえで、全部署を対象に業務監査を行い、監査報告書を代表取締役に提出し、その写しを監査役に提出します。指摘事項については被監査部門から改善状況の報告を受け、フォローアップ監査も同様の手順で行う体制です。
専任の内部監査責任者を置いている点は、従業員57名規模の会社としては手厚い体制といえます。一般論として、内部監査担当者が他部署と兼務する場合には、自分の所属部署を自分で監査する「自己監査」にならないよう、その部署の監査は別の担当者が行うなどの工夫が求められます。上場準備会社では、補佐役を含めた担当者の分担を内部監査規程や年間計画で明確にしておくとよいでしょう。内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)もあわせてご覧ください。
図14 監査役会・内部監査・会計監査人の連携(Ⅰの部「監査の状況」をもとに筆者作成)
三様監査については、監査役と内部監査人の定期的な会合に加え、監査役・会計監査人・内部監査人が原則として四半期ごとに相互連携の場を設けていると記載されています。常勤監査役は取締役や部門責任者との面談を行い、会計監査人・内部監査人と定期的にミーティングを行っています。内部監査の結果は代表取締役に報告され、その写しが監査役に提出される流れです。内部監査の報告ラインの考え方は内部監査の報告先は社長だけでよいのかで解説しています。
外部委託先まで内部監査の対象に
犬猫生活の内部監査で特徴的なのは、その対象が社外にも及んでいることです。事業等のリスクでは、商品の製造委託について、製造委託開始時と年1回の内部監査、管理部による確認によって、委託先の許認可・法令遵守・品質管理を確認していると記載されています。仕入先上位3社で仕入金額の77%超を占めることも開示されており、製造委託先の管理が事業の継続性に直結する構造です。また、前述の財団についても、内部監査で運営状況を確認するとされています。
図15 製造委託先の確認の仕組みと、重要な契約の委託先(Ⅰの部「事業等のリスク」「経営上の重要な契約等」をもとに筆者作成)
ファブレス型の事業では、品質事故や供給停止が起きた場合の影響が大きくなりやすいため、委託先の選定基準、定期的な評価、契約上の監査権限の確保などを内部統制として整えておくことが重要です。上場審査でも、外部委託先への依存度とその管理方法は確認されやすいポイントです。
内部統制システムとリスク管理
取締役会で決議した内部統制システムに関する基本方針では、業務分掌・職務権限の整備、内部監査規程、コンプライアンス研修、内部通報制度、反社会的勢力の遮断、適時開示、情報セキュリティ管理規程・文書管理規程・個人情報保護規程による情報管理、コンプライアンス・リスクマネジメント規程による損失の危険の管理などが定められています。内部監査責任者が内部通報制度の運用状況を監査役に定期的に報告することや、通報者への不利益な取扱いの禁止も明記されています。
リスク管理では、各部門の実施責任者がコンプライアンス・リスクマネジメント委員会へ報告し、内部監査責任者がリスク管理の状況を監査する仕組みです。景品表示法への対応として、広告の文言を顧問弁護士が確認する社内体制をとっていることも、事業等のリスクに記載されています。D2C型のEC事業では広告表現のチェック体制が重要であり、具体的な運用まで開示している点は参考になります。
会計・開示ではどのような論点があるか
収益認識は出荷基準の代替的な取扱いを適用
重要な会計方針によれば、主な事業であるペットフード等の販売では、商品の引渡し時点で顧客が支配を獲得し履行義務が充足されると判断し、引渡し時点で収益を認識しています。そのうえで、「収益認識に関する会計基準の適用指針」第98項の代替的な取扱いを適用し、出荷時から支配が顧客に移転されるまでの期間が通常の期間である場合には、出荷時に収益を認識しています。対価は履行義務の充足後2か月以内に受領しており、重要な金融要素は含まれていないと記載されています。
収益の分解情報では、自社EC、他社EC、卸販売、その他の区分で売上高が開示されています。定期購入のモデルであっても、会計方針上は商品の販売として、出荷・引渡しの時点で収益を認識する形をとっていることがわかります。上場準備会社では、自社の取引について、履行義務の識別、取引価格の算定(値引き・ポイント等の扱い)、収益認識の時点を文書化し、監査法人と合意しておくことが大切です。詳しくは上場審査で問われる収益認識をご覧ください。
黒字転換期の繰延税金資産の計上
第7期の損益計算書では、経常利益89,601千円に対し、当期純利益が207,611千円と大きくなっています。これは、法人税等調整額△118,526千円(利益の増加要因)を計上したためで、MD&Aでは「税効果会計の分類変更」によるものと説明されています。税効果会計関係の注記によれば、第6期末は税務上の繰越欠損金に対して全額の評価性引当額を計上し、繰延税金資産の純額はゼロでしたが、第7期末には繰延税金資産120,468千円(うち繰越欠損金に係るもの117,190千円)を計上しています。
「重要な会計上の見積り」でも、繰延税金資産の回収可能性が取り上げられ、過去の業績及び翌期以降の事業計画を基礎に将来の課税所得を見積もっていると記載されています。その後、繰延税金資産は第8期中間期末に103,687千円、第3四半期末に57,311千円となり、利益の計上に伴って取り崩されています。
図16 繰延税金資産の残高の推移(Ⅰの部の財務諸表・税効果会計の注記をもとに筆者作成。単位:千円。第6期末は全額に評価性引当額を計上し純額ゼロ)
税効果会計では、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)に基づき、過去の課税所得の状況などから会社を分類し、分類に応じて繰延税金資産を計上できる範囲が決まります。赤字が続いた会社が黒字化した年度は、この分類の見直しが論点になりやすく、事業計画の合理性とも密接に関係します。上場直前期に分類を変更する場合は、根拠となる事業計画や過去の実績について監査法人と十分に協議しておくことが重要です。
事業譲受によるのれんと後発事象
犬猫生活は、M&Aを事業譲受の形で行っています。第7期には、Inu to Town株式会社からトリミングサロン事業を取得対価30,000千円で譲り受け、のれん28,007千円を計上しました。のれんは5年間で均等償却する方針です。重要な会計上の見積りとして「のれんの評価」が挙げられ、被取得事業の事業計画に基づく将来キャッシュ・フロー等の仮定により回収可能性を判断していると記載されています。
また、2025年5月1日を事業譲受日とする有限会社益田ペットクリニックからの動物病院事業の譲受(現金対価80,700千円、のれん71,341千円)は、第7期の重要な後発事象として開示されています。第7期末の貸借対照表には、この取得対価が前払金88,770千円として計上され、キャッシュ・フロー計算書の「事業譲受による支出」にも含まれています。期末日前に対価を支払い、期末日後に事業譲受の効力が生じるケースの表示と注記の例として参考になります。M&Aを成長戦略に組み込む会社では、IPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるかもあわせて確認しておきましょう。
図17 2件の事業譲受の概要と、動物病院事業の対価の表示(Ⅰの部「企業結合等関係」「重要な後発事象」等をもとに筆者作成)
1株当たり情報と優先株式
第7期の1株当たり純資産は△202円50銭とマイナスで表示されています。注記によれば、純資産額からB〜E種優先株式の払込金額の合計825,600千円を控除して算定しているためです。優先株式が残っている期間は、普通株式に帰属する純資産を計算する際に優先株式の払込金額を差し引くため、純資産がプラスでも1株当たり純資産がマイナスになることがあります。種類株式を発行している会社がⅠの部を作成する際には、こうした1株当たり情報の注記の作り方も確認しておく必要があります。
監査法人と監査報酬
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 監査法人 | OAG監査法人 |
| 継続監査期間 | 4年間 |
| 業務執行社員 | 指定社員 2名 |
| 監査業務の補助者 | 公認会計士5名、その他4名 |
| 監査証明業務に基づく報酬 | 第6期 9,000千円/第7期 12,500千円 |
| 非監査業務に基づく報酬 | 第6期・第7期とも なし |
会計監査人の選定にあたっては、品質管理体制、独立性、法令遵守、専門性、職務遂行状況、報酬水準の妥当性などを総合的に検討し、監査役会が日本監査役協会の指針を踏まえて評価したうえで適格と判断したと記載されています。監査報酬の決定方針は定めていないものの、監査役会の同意を得て決定しています。監査法人の選び方とタイミングは監査法人はいつまでに決めるかで解説しています。
このほか、未適用の会計基準として、リースに関する会計基準(企業会計基準第34号)を2028年4月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中と記載されています。上場後に適用される新しい基準への対応方針も、Ⅰの部で確認しておきたい項目です。
事業等のリスクと審査で問われやすい点
犬猫生活のⅠの部では、事業等のリスクの各項目に「発生可能性」「発生時期」「影響度」が付されています。主な項目を整理すると次のとおりです。
| リスク項目 | 発生可能性/影響度 | 主な対応・記載内容 |
|---|---|---|
| 商品の製造委託 | 低/大 | 委託開始時・年1回の内部監査、管理部による確認 |
| 特定商品・特定の製造委託先への依存 | 低/大 | 商品ポートフォリオの多様化、製造拠点の分散 |
| 商品配送の外部委託 | 中/大 | EC経由が売上高の97.9% |
| 景品表示法 | 低/中 | 顧問弁護士による広告文言の確認と社内確認体制 |
| 税務上の繰越欠損金 | 高/小 | 繰越欠損金の解消後に納税負担が生じる |
| 前澤ファンドによる株式所有 | 低/中 | 社外取締役の派遣、定期的な意見交換 |
| 財団との取引 | 低/中 | 特別利害関係者の決議除外、独立役員の事前確認、内部監査 |
| 外部コミュニティを通じた販売促進支援の終了 | 高/低 | 上場時に覚書による連携が終了 |
| 株式の流動性 | 中/中 | 売出しの協力要請、公募増資、SO行使 |
このように、発生可能性と影響度を明示し、それぞれの対応策まで書くことで、投資家が事業の構造的なリスクを把握しやすくなります。上場審査では、こうしたリスクが事業計画にどう織り込まれているか、対応策が実際に運用されているかが確認されます。特に、①ファブレス型の事業における委託先管理と品質保証、②定期購入の継続率(解約率)を前提とした事業計画の合理性、③大株主との関係と取引の整理、④代表取締役と財団の関係における利益相反管理、⑤流通株式の確保は、犬猫生活のケースで審査上のポイントになりやすい論点と考えられます。審査の観点はIPOの実質審査基準とはやIPO審査の「事業計画の合理性」で整理しています。
上場準備会社が犬猫生活のケースから学べることは何か
ここまでの内容を踏まえ、犬猫生活のⅠの部から上場準備会社が学べる実務上の示唆を7つに整理します。
1. 種類株式は「上場時の出口」まで設計してから発行する
犬猫生活は、B種からE種までの優先株式を発行し、上場直前に取得・普通株式の交付・消却、定款の種類株式規定の廃止という手順で普通株式に一本化しました。種類株式を使った資金調達では、発行時点で取得条項や転換の条件、上場時の手続きを定款に織り込んでおくと、上場直前の手続きを円滑に進められます。
2. 株式分割と単元株制度の採用はセットで計画する
2回の株式分割(1:10、1:200)と、単元株式数100株の採用によって、上場時の投資単位を整えています。分割の比率は、想定される株価水準と単元株式数から逆算して決めるのが一般的です。ストックオプションの行使価格や1株当たり情報の調整にも影響するため、主幹事証券会社と早めにすり合わせておきましょう。
3. 関連当事者に該当しない相手でも、実質で判断して管理する
財団との取引を「関連当事者取引と同等」と位置づけ、寄付の決定時期・上限・承認手続・特別利害関係者の除外・独立役員の事前確認・内部監査まで仕組み化した点は、利益相反管理の具体例として参考になります。会計基準上の定義に当てはまるかどうかだけでなく、取引の実質から管理の要否を判断する姿勢が大切です。
4. 大株主との取引は、上場後の扱いまで説明できるようにする
大株主の関係会社による販売支援について、売上への寄与度と上場時に終了する見通しを開示しています。上場前にだけ存在する支援や取引がある場合、終了後の業績への影響を事業計画に織り込み、説明できるようにしておくことが重要です。
5. 外部委託先の管理を内部統制に組み込む
製造・保管・配送を外部に委託するファブレス型の事業で、委託先の監査を内部監査の年間計画に組み込んでいます。委託先への依存度が高い会社では、委託先の評価と監査を社内の統制活動として位置づけ、記録を残しておくことが審査対応にもつながります。
6. 黒字転換期は税効果会計の検討を早めに始める
黒字転換した第7期に繰延税金資産を計上し、当期純利益が経常利益を上回りました。繰延税金資産の計上は事業計画の合理性と表裏一体であり、見積りの根拠を監査法人と共有しておく必要があります。重要な会計上の見積りとしての開示も求められます。
7. 少人数でも専任の内部監査責任者と三様監査の場を確保する
専任の内部監査責任者1名と補佐1名という体制で、全部署の業務監査、委託先監査、財団の運営状況の確認まで行い、四半期ごとの三様監査の場を設けています。人数よりも、監査計画・報告・フォローアップの流れが回っていることを示せるかが重要です。内部監査の人数と体制も参考にしてください。
- 種類株式の定款に、上場時の取得・転換の手続きを織り込んでいるか
- 株式分割の比率と単元株式数を、想定株価と投資単位から逆算して決めているか
- 役員が関与する団体との取引を、会計上の定義にかかわらず洗い出し、承認手続を定めているか
- 大株主やその関係会社との取引について、上場後の継続・終了の方針を整理しているか
- 製造・物流などの外部委託先を、内部監査や評価の対象に含めているか
- 繰延税金資産の回収可能性の分類と根拠を、監査法人と協議しているか
よくある質問
一般的には、上場時には普通株式に一本化しておくことが前提となります。犬猫生活も、上場前にB〜E種優先株式の全部を取得して普通株式を交付し、取得した優先株式を消却したうえで、種類株式に関する定款の定めを廃止しています。具体的な手順は定款の定め方によって異なるため、早い段階で弁護士・主幹事証券会社と確認してください。
会計基準上の開示義務がない場合でも、取引の実質から利益相反のおそれがある場合には、自主的に開示したり、関連当事者取引と同等の承認手続を設けたりすることがあります。犬猫生活は、代表取締役が代表理事を務める財団との取引を「関連当事者取引と同等」と判断し、注記と事業等のリスクで開示しています。
繰延税金資産は、将来の課税所得の見積りなどに基づいて回収可能性があると判断される範囲で計上します。過去の業績や事業計画の状況から会社の分類を見直した結果、計上できる範囲が広がることはあります。犬猫生活でも、第7期に繰延税金資産を計上し、重要な会計上の見積りとして開示しています。根拠となる事業計画の合理性が重要です。
会社の規模や業務内容によっては、少人数でも内部監査は実施できます。犬猫生活は専任の内部監査責任者1名と補佐1名の体制です。重要なのは、リスクに応じた監査計画、自己監査の回避、指摘事項のフォローアップ、監査役・会計監査人との連携が実際に機能していることです。
最初の一歩は、株式と取引の関係を一覧にすることから
犬猫生活のように種類株式や大株主、役員が関与する団体との関係がある会社では、まず、発行済みの種類株式と定款の条件、株主ごとの持株と取得経緯、役員・大株主・関係団体との取引を一覧にして棚卸しすることから始めるのがおすすめです。どこに説明を補うべき点があるかを早めに把握できれば、資本政策やガバナンスの整備を無理のないスケジュールで進められます。現状の課題を洗い出す方法としては、ショートレビューの活用も有効です。
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犬猫生活の機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。
まとめ
犬猫生活株式会社は、オリジナルペットフードの定期購入を中心とするD2C事業を伸ばし、動物病院やトリミングサロンの運営にも領域を広げて、2026年4月に東証グロース市場に上場しました。Ⅰの部からは、B〜E種優先株式の段階的な発行と上場前の一本化、2回の株式分割と単元株制度の採用、財団との取引を関連当事者取引と同等に扱う利益相反管理、大株主関係会社による支援の終了の開示、黒字転換期の繰延税金資産の計上、外部委託先まで対象とする内部監査など、上場準備の実務に直結する具体例を読み取ることができます。
特に、株式・取引・ガバナンスの関係を整理し、その管理方法まで開示する書き方は、大株主や関係団体との関係がある上場準備会社にとって参考になります。自社の状況に置き換えて、早い段階から論点を整理しておきましょう。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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