製造業では、部品や原材料を外注先に有償で支給し、加工後に買い戻す取引が広く行われています。この有償支給取引について、収益認識基準は支給に係る収益を認識しないことを明確にしました。
この記事では、有償支給取引の処理と、買戻義務の有無による違いを整理します。従来は売上として処理していた会社が多く、売上高が減る影響が出る論点です。
- 有償支給取引で収益を認識しない理由
- 買戻義務がある場合とない場合の在庫の扱い
- 支給時と買戻時の仕訳
- 売上高と売上原価が減る影響
図 有償支給取引の処理の判定
📌 支給時に収益は認識しない
有償支給取引とは、企業が原材料などを支給先に有償で譲渡し、加工後にそれを買い戻す取引をいいます。収益認識基準では、この支給に係る収益を認識しません。支給先に対して販売しているのではなく、加工を委託しているにすぎないという整理です。
買戻義務の有無で在庫の扱いが変わりますが、収益を認識しない点は共通です。
収益を認識しない点は、買戻義務の有無にかかわらず共通です。違いが出るのは、支給品を自社の棚卸資産として残すかどうかです。
どちらの場合も、支給時に売上を計上することはできません。
📌 買戻義務がある場合
企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合、支給品に対する支配は支給先に移転していないと考えます。したがって、支給品の消滅を認識せず、自社の棚卸資産として残します。受け取った対価は、有償支給に係る負債として計上します。
📊 記載例
買戻義務がある有償支給取引の仕訳です。
前提 帳簿価額800千円の部品を、支給先に1,000千円で有償支給した。加工後、1,500千円で買い戻す義務がある。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 1,000 | 有償支給に係る負債 | 1,000 |
支給品の消滅を認識しないため、棚卸資産は減らしません。売上高も計上しません。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 棚卸資産 | 500 | 買掛金 | 1,500 |
| 有償支給に係る負債 | 1,000 |
買戻価額1,500千円のうち、支給価額に対応する1,000千円は負債の取崩しとし、加工賃相当の500千円だけを棚卸資産の増加として処理します。
会社名と数値は架空です。支給時に売上1,000千円と売上原価800千円を計上する従来の処理とは大きく異なります。
従来は、有償支給を通常の売上として処理し、買戻しを仕入として処理する会社が多くありました。この場合、売上高と売上原価が両建てで膨らみます。収益認識基準では、この膨らみが解消されます。
買戻しの時点では、買戻価額のうち支給価額に対応する部分を負債の取崩しとし、加工賃に相当する差額だけを棚卸資産の増加として処理します。支給品の原価が二重に計上されることを避けるためです。
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📌 買戻義務がない場合
買い戻す義務がない場合は、支給品の消滅を認識します。棚卸資産から除き、その分の帳簿価額を落とします。ただし、この場合も収益は認識しません。受け取った対価は、やはり有償支給に係る負債などとして計上します。
実務では、契約書に買戻しの義務が明記されていないことがあります。しかし、加工品を必ず買い取る取引慣行が確立しているのであれば、実質的に買戻義務があると判断される場合があります。契約書の文言だけでなく、実際の運用を確認する必要があります。
📌 損益への影響
従来、有償支給を通常の売上として処理していた会社では、支給額が売上高から消えます。あわせて、買戻しの際に計上していた仕入も減ります。売上高と売上原価が両方減るため、利益への影響は限定的ですが、売上高の水準は下がります。
支給の金額が大きい製造業では、売上高が数十パーセント減ることもあります。上場準備の過程でこの処理に変更すると、それまでの成長率の見え方が変わるため、事業計画の見直しが必要になる場合があります。
📌 実務での確認点
まず、有償支給に該当する取引を洗い出します。外注先への部品支給、材料の売却と加工品の購入がセットになっている取引が対象です。売上と仕入が同じ相手先に対して両建てで発生している取引を抽出すると見つけやすくなります。
次に、契約書と実際の運用から買戻義務の有無を判断します。あわせて、支給品の在庫を自社で管理できているかも確認します。買戻義務がある場合は支給先にある在庫も自社の棚卸資産として計上するため、支給先の在庫残高を把握する仕組みが必要になります。
対象取引の洗い出しから、買戻義務の判断、在庫管理の仕組みづくり、損益への影響の試算までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. できません。支給先への販売ではなく加工の委託であるため、支給に係る収益は認識しません。買戻義務の有無にかかわらず同じです。
A. 取引の実態で判断します。加工品を必ず買い取る運用が続いているのであれば、実質的に買戻義務があると判断される可能性があります。
A. 買戻義務がある場合は自社の棚卸資産として計上するため、支給先の在庫残高を定期的に確認する仕組みが必要です。支給と買戻しの数量を管理する台帳の整備から始めてください。
📄 まとめ
有償支給取引では、支給に係る収益を認識しません。買戻義務がある場合は支給品を自社の棚卸資産に残し、受け取った対価は負債として計上します。
従来売上として処理していた会社では、売上高と売上原価がともに減ります。支給額が大きい製造業では影響が大きいため、早い段階で試算し、事業計画への反映を検討してください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)