国税庁が2026年4月から開いている有識者会議で、取引相場のない株式の評価方法の見直しが議論されています。2026年8月20日の第5回会合では、規模別の区分を廃止し、残余利益方式を主軸に据えるという方向性が示されました。
類似業種比準方式は存置が困難とされ、純資産価額方式は特定の評価会社に使う方式へ、配当還元方式は適用範囲を見直したうえで存置という整理です。実現すれば、事業承継と資本政策の前提が大きく変わります。
この記事では、議論の背景と示された方向性、そして上場準備の実務にどう影響しうるかを整理します。決まった内容ではない点に注意してお読みください。
- 見直しの発端となった会計検査院の指摘の中身
- 残余利益方式の考え方(簿価純資産と超過収益の現在価値)
- 類似業種比準方式と純資産価額方式と配当還元方式の扱い
- 上場準備での株式の移動や種類株式への影響
図 評価方法の見直しが影響しうる論点
この記事の見出し
📌 なぜ見直しの議論が始まったのか
国税庁は2026年4月20日から、取引相場のない株式の評価に関する有識者会議を開いています。座長は大学の研究者で、税理士会や商工会議所、実務家を含む13名の委員で構成されています。2026年8月20日に第5回の会合が開かれ、新しい評価方式の方向性が示されました。
議論の発端は会計検査院の指摘です。令和5年度決算検査報告で、相続税と贈与税の申告から抽出した延べ1,785社を調べたところ、類似業種比準方式による価額の中央値が純資産価額の27.2%にとどまっていました。会社の規模が大きいほど評価額が低くなる傾向も示されており、純資産価額に対する申告評価額の割合は大会社で0.32倍、中会社で0.50倍、小会社で0.61倍でした。
配当還元方式の還元率10%についても、評価通達の制定以降見直されていないことが指摘されています。長期国債の利回りが低下してきた中で、相対的に高い水準になっている可能性があるという内容です。
📌 いまの評価方法
表 財産評価基本通達の枠組み(原則的評価方式は純資産価額方式を上限とします)
併用方式の割合は、中会社の大が類似業種比準0.9と純資産価額0.1、中会社の中が0.75と0.25、中会社の小が0.6と0.4、小会社が0.5と0.5です。類似業種比準方式の斟酌率も、大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5と規模によって変わります。
この規模による差が、意図的に会社の規模を操作して評価額を下げる動きにつながっているというのが、見直しの問題意識の一つです。
📌 第5回で示された方向性
2026年8月20日の資料では、大きく2つの方向性が示されました。1つは規模別の区分を廃止して、広い範囲の企業を共通の評価方式で評価すること。もう1つは、企業の収益力を重視するインカムアプローチによる評価を主軸とすることです。
その主軸として挙げられたのが残余利益方式です。
図 第5回会合の資料に示された残余利益方式の考え方
還元率については、上場株式の平均期待収益率などを参考にして、資本資産価格モデル(CAPM)により算定してはどうかとされています。
この方式の特徴として資料が挙げているのは、時価への洗替えが不要で評価が簡素になること、赤字または低収益の企業は簿価純資産から適正に減額されることの2点です。資料ではインカムアプローチの3つの手法が比較され、配当還元方式は配当を操作している企業に適用しにくい、DCF法は成長期の企業に適用しにくいのに対し、残余利益方式は適用が難しい企業が特に見あたらないと整理されています。
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📌 いまの3つの方式はどうなるか
表 国税庁の第5回会合の資料をもとに作成
純資産価額方式については、継続企業を清算価値で評価すべきではないという整理から、原則的な評価方式から外して特定の評価会社に使う方式にする案が示されています。営業権がほとんど評価されない、会計上の退職給付引当金の控除が認められない、土地を一筆ずつ評価する必要があり資料の収集に手間がかかるといった課題も挙げられています。
配当還元方式は、特例的評価方式の趣旨を逸脱した濫用があることを踏まえ、適用すべき株主の範囲や基準、最低配当を2円50銭とする計算方法の見直しが検討事項とされています。
📌 想定されている租税回避への対応
第5回の資料では、対応が必要なスキームが4つに整理されています。会社の規模等の操作については会社の規模にかかわらず単一の評価方式とすること、オペレーティング・リースや役員退職金による利益等の恣意的な操作については正常利益により行い非経常的な損益を除外すること、グループ法人税制を使った利益や資産の移転については完全支配関係にあるグループ法人をグループ全体として評価すること、株主構成の操作による配当還元方式の濫用については適用範囲を見直すことが挙げられています。
第4回の資料では、実際の事例として評価額を90%以上圧縮したもの、約98%圧縮したものが示されています。見直しの背景には、こうした事例の積み重ねがあります。
📌 上場準備会社への影響
上場準備の過程では、創業者から役員や従業員への株式の移動、資産管理会社への移転、種類株式の発行など、非上場株式の価額を算定する場面が繰り返し出てきます。税制適格ストックオプションの権利行使価額も、契約を結んだ時点の株式の価額以上であることが要件とされており、非上場の段階では財産評価基本通達を参考にした算定が実務で行われています。
評価方法が変われば、これらの場面で使う価額も変わります。とくに、利益が出ている会社では収益力が評価に反映されやすくなるため、いまの類似業種比準方式より評価額が上がる可能性があります。逆に赤字や低収益の会社では、簿価純資産から減額されるという整理が示されています。
ただし、これはあくまで有識者会議で示されたたたき台の段階です。適用の時期は公表された資料には示されておらず、決定した内容ではありません。株式の移動を予定している場合は、いまの取扱いで進めつつ、議論の行方を確かめながら計画を立てることになります。
非上場株式の評価は、上場準備の各段階で価額の根拠が問われます。いまの取扱いにもとづく算定と、見直しの影響の見立ての両面から対応できます。上場準備会社の会計と税務の実務に携わっている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 適用の時期は、公表されている有識者会議の資料および議事要旨のいずれにも示されていません。2026年9月の時点ではたたき台の段階であり、決定した内容ではありません。
A. 会社によって異なります。収益力が評価に反映されるため、利益が出ている会社では上がる可能性があります。一方で資料では、赤字または低収益の企業は簿価純資産から適正に減額されると整理されています。
A. 第5回の資料では、理論的な根拠や実証的な裏づけがなく他の分野の企業価値評価では用いられないとして、存置は困難という整理が示されています。ただしこれも議論の途中であり、決まったわけではありません。
A. 適用の時期が示されていないため、待つ期間の見通しが立ちません。現行の取扱いにもとづいて進めるのが基本になりますが、規模の区分や配当還元方式を前提に評価額を大きく引き下げる設計をしている場合は、見直しの方向性を踏まえて再検討する価値があります。
📄 まとめ
国税庁の有識者会議では、規模別の区分を廃止し、収益力を重視するインカムアプローチを主軸とする方向性が示されました。中心となるのは、簿価純資産に数年分の超過収益を加減する残余利益方式です。
背景には会計検査院の指摘があります。類似業種比準方式による価額の中央値が純資産価額の27.2%にとどまり、会社の規模が大きいほど評価額が低くなる傾向が示されていました。
上場準備では非上場株式の価額を算定する場面が繰り返し出てきます。適用の時期は示されていませんが、規模の区分や配当還元方式を前提に評価額を引き下げる設計をしている場合は、前提が変わりうることを織り込んでおく必要があります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
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