収益認識に関する会計基準の適用指針には、日本の実務に配慮した代替的な取扱いが複数用意されています。国際的な基準にはない、日本基準に固有の簡便法です。これらを使えば実務の負担は軽くなりますが、要件を満たしていることの確認が必要です。
この記事では、主な代替的な取扱いを一覧で整理し、採用するときの手順と注意点を扱います。
- 日本基準に固有の代替的な取扱いにどのようなものがあるか
- 採用するための前提となる重要性の判断
- 会計方針として文書化し継続適用する必要性
- 採用した取扱いを一覧にしておく実務
図 代替的な取扱いを使えるかの判定
📌 日本の実務に配慮した簡便法
収益認識基準は国際的な基準との整合性を重視して作られていますが、適用指針では日本の実務慣行に配慮した代替的な取扱いが定められています。これらは原則的な取扱いに代えて適用できるもので、実務の負担を軽減する趣旨です。
いずれも重要性が乏しいことが前提であり、無条件に使えるわけではありません。
いずれも、重要性が乏しい場合や、影響が限定的である場合に認められるものです。要件を満たさないのに適用すると、原則から外れた処理になります。
📌 重要性の判断
代替的な取扱いの多くは、重要性が乏しいことを前提としています。この重要性は、金額だけでなく質的な側面も含めて判断します。
金額が小さくても、業績の傾向を変えるなら重要と判断されることがあります。
金額的な重要性は、原則的な処理をした場合との差額で測ります。売上高に対して何パーセント、利益に対して何パーセントという形で示すと、判断の根拠として使えます。
質的な重要性は、その処理が投資家の判断に影響するかどうかです。金額が小さくても、赤字と黒字の境目を動かす、成長率の傾向を変えるといった影響があれば、重要と判断されます。
📊 記載例
代替的な取扱いを採用した場合の、会計方針の注記の書き方です。
(収益認識に関する会計方針)
当社は、製品の販売について、出荷時から当該製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間であるため、出荷時点で収益を認識しております。
当社は、顧客への財の移転後に行われる出荷及び配送活動について、履行義務として識別せず、履行のためのコストとして処理しております。
| 適用した取扱い | 対象 | 根拠 |
|---|---|---|
| 出荷基準 | 国内の製品販売 | 出荷から検収まで平均3日 |
| 出荷及び配送活動の非識別 | すべての製品販売 | 支配の移転後の活動 |
| 重要性が乏しい約束の非識別 | 据付作業の一部 | 売上高に対する影響が0.1パーセント未満 |
会社名と数値は架空です。採用した取扱いは会計方針として注記に記載し、社内でも一覧にしておきます。
この一覧は、監査での説明資料としても使えます。どの取扱いをどの取引に適用しているかが1枚でわかる状態にしておくと、担当者が変わっても運用が続きます。
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📌 継続して適用する
代替的な取扱いを採用したら、会計方針として継続して適用します。年度によって使ったり使わなかったりすることはできません。採用するかどうかは、実務の負担と、原則的な処理をした場合との差額を比べて判断します。
一度採用したら継続します。年度ごとに使ったり使わなかったりはできません。
また、採用の前提となる重要性は毎期確認します。事業の拡大により、これまで重要性が乏しかった取引の金額が大きくなることがあります。出荷から検収までの期間が延びた、据付作業の割合が増えたといった変化があれば、代替的な取扱いを続けられなくなります。
📌 上場準備での使い方
上場準備会社にとって、代替的な取扱いは実務負担を減らす有効な手段です。とくに出荷基準の継続と、出荷及び配送活動を履行義務としない扱いは、多くの会社で採用されています。従来の実務をそのまま続けられるためです。
ただし、採用の根拠は記録に残します。出荷から検収までの平均日数、据付作業の売上高に対する割合といった数値を、実データにもとづいて示せる状態にしておきます。監査では、この数値の裏づけが求められます。
採用した取扱いの一覧を作り、それぞれについて対象取引、要件、根拠となる数値をまとめておくと、監査の説明も、注記の作成も、担当者の引継ぎも同じ資料で対応できます。
適用できる取扱いの洗い出しから、重要性の判断、会計方針の文書化までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 使えません。それぞれに要件があり、多くは重要性が乏しいことが前提です。要件を満たすことの根拠を記録に残す必要があります。
A. 会計方針の変更にあたるため、正当な理由が必要です。事業の変化により重要性が高まった場合など、合理的な理由があれば変更できます。
A. 採用した取扱いは会計方針として記載します。とくに出荷基準を採用している場合は、その旨を明示することが一般的です。
📄 まとめ
日本基準には、出荷基準の継続や出荷及び配送活動の非識別など、実務に配慮した代替的な取扱いが用意されています。要件を満たせば従来の実務を続けられます。
採用には重要性が乏しいことの確認が必要で、その根拠を数値で示せる状態にしておきます。採用した取扱いを一覧にまとめておけば、監査の説明にも注記にも引継ぎにも使えます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)