収益認識は一時点か一定期間か|3つの要件と判定

5つのステップの最後は、履行義務を充足した時点で収益を認識することです。ここで最初に決めるのが、一時点で認識するのか、一定の期間にわたって認識するのかという区分です。この区分により、収益が1回で計上されるか、期間にわたって分割されるかが変わります。

この記事では、一定の期間にわたり充足される履行義務の3つの要件と、判定の実務を整理します。受託開発や工事の契約がある会社では、最も重要な論点の1つです。

この記事でわかること

  • 一定の期間にわたり収益を認識する3つの要件
  • 要件ごとの典型例と判断の考え方
  • 受託開発で要件3を満たすかの確認点
  • 契約書の解約条項が判定を左右する理由
一時点か一定の期間か履行義務の充足のしかたを確かめる企業が履行するにつれて顧客が同時に便益を得ているか一定の期間にわたり認識はいいいえ企業が作業を行う資産を顧客が支配しているか一定の期間にわたり認識はいいいえ他に転用できず、これまでの履行分の対価を回収する権利がある一定の期間にわたり認識はいいいえ支配が移転した一時点で認識する

図 3つの要件のいずれかを満たすかの判定

📌 3つの要件のいずれかを満たすか

収益認識基準は、まず一定の期間にわたり充足される履行義務に該当するかを判定し、該当しない場合に一時点で充足される履行義務として扱うという順序をとっています。3つの要件のうち1つでも満たせば、一定の期間にわたって収益を認識します。

一定の期間にわたり充足される3つの要件企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受する企業が義務を履行することにより、資産が生じるまたは資産の価値が増加し、その資産を顧客が支配する企業が義務を履行することにより、他に転用できない資産が生じ、かつ、これまでに完了した履行部分について対価を収受する強制力のある権利を有しているいずれか1つでも満たせば、一定の期間にわたり収益を認識するどれも満たさない場合は、一時点で収益を認識する

3つのうち1つでも満たせば期間認識です。すべてを満たす必要はありません。

要件ごとの典型例要件典型例考え方要件1 履行につれて顧客が便益を享受清掃、警備、定額のサービス提供日々のサービスがその都度消費される要件2 顧客が資産を支配顧客の土地の上での建設工事仕掛品の段階から顧客の資産になる要件3 転用できず対価の権利がある受注生産のカスタム製品、受託開発他に売れず、途中解約でも出来高を請求できる

受託開発やカスタム品では、要件3に当たるかどうかが判断の中心になります。

要件1は、サービスの提供が続くタイプの契約です。清掃や警備、月額のサポートのように、企業が作業を行うたびに顧客がその便益を受け取り、消費していく取引が該当します。

要件2は、顧客の資産の上で作業を行う場合です。顧客の土地に建物を建てる工事では、仕掛りの段階から建築中の建物は顧客の資産になります。顧客が支配しているため、企業の作業が進むにつれて収益を認識します。

📌 要件3が実務の中心

受託開発やカスタム製品では、要件3に当たるかどうかが判断の中心になります。他に転用できない資産が生じ、かつ、これまでに完了した部分について対価を収受する強制力のある権利があることが条件です。

要件3を満たすかの確認点確認する事項見るポイント他に転用できない資産か契約上、他の顧客に振り向けることが制限されているか。物理的に転用が困難か対価を収受する強制力のある権顧客の都合で解約された場合に、それまでの出来高に利益相当額を加えた金額を請求できるか契約書の解約条項解約時の精算方法が定められているか。実費のみか、利益込みか

解約時に実費しか請求できない契約では、要件3を満たさない場合があります。

他に転用できないとは、その資産を他の顧客に振り向けることが契約上制限されているか、物理的に困難であることをいいます。顧客の要求に合わせて作り込んだシステムや、顧客のロゴが入った専用の製品が該当します。

対価を収受する強制力のある権利は、契約書の解約条項で判断します。顧客の都合で解約された場合に、それまでの出来高に利益相当額を加えた金額を請求できるのであれば、この要件を満たします。実費しか請求できない、あるいは何も請求できない契約では、満たさないことになります。

📊 記載例

受託開発の契約について、一定の期間にわたる収益認識に該当するかを判定した例です。

設例 一時点か一定期間かの判定

契約ごとの判定
契約の内容 要件1 要件2 要件3 結論
月額の保守サービス 該当 一定の期間にわたり
顧客専用システムの受託開発(解約時に出来高+利益を請求可) 非該当 非該当 該当 一定の期間にわたり
顧客専用システムの受託開発(解約時は実費のみ) 非該当 非該当 非該当 一時点
標準製品の販売 非該当 非該当 非該当 一時点

同じ受託開発でも、解約時の精算条項によって結論が変わります。

契約書に解約時の取扱いが定められていない場合は、法令や取引慣行から判断することになります。

会社名は架空です。契約書の解約条項が、収益認識の時期を決めることがあります。

この判定は契約類型ごとに一度行えば足りますが、契約書の様式を変更したときは再度確認が必要です。営業部門が独自に条項を修正している場合もあるため、締結された契約書の実物で確認します。

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📌 判定の結果が財務諸表を変える

一時点で認識する場合、開発が完了して引き渡すまで収益はゼロです。一定の期間にわたって認識する場合は、作業の進捗に応じて収益が計上されます。開発期間が期をまたぐ契約では、各期の売上高が大きく変わります。

上場準備会社では、受託開発の売上が期末に集中して計上される会社と、期間にわたって平準的に計上される会社では、業績の見え方が変わります。判定を誤ると、四半期ごとの売上高の推移そのものが違ってしまいます。

📌 契約書の見直しという選択

判定は契約条件によって決まるため、契約書の条項を見直せば結論が変わることがあります。解約時に出来高と利益相当額を請求できる条項を入れれば、要件3を満たす可能性が高まります。

ただし、会計処理を目的として契約条件を変えることには慎重であるべきです。顧客との交渉力の問題もあり、一方的に有利な条項を入れられるとは限りません。まずは現行の契約書がどうなっているかを確認し、実態に即した判定を行うことが先です。

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❓ よくある質問

Q. 3つの要件をすべて満たす必要がありますか。

A. いいえ。いずれか1つでも満たせば、一定の期間にわたり収益を認識します。

Q. 受託開発は必ず期間にわたって認識しますか。

A. 契約条件によります。解約時に出来高と利益を請求できる権利がなければ、一時点での認識になります。契約書の解約条項を確認してください。

Q. 工事進行基準はなくなったのですか。

A. 工事契約に関する会計基準は廃止され、収益認識基準に統合されました。ただし一定の期間にわたり充足される履行義務として、進捗度に応じて認識する処理は引き継がれています。

📄 まとめ

一定の期間にわたり収益を認識するかどうかは、3つの要件のいずれかを満たすかで決まります。受託開発やカスタム製品では、他に転用できない資産と、出来高を請求できる権利という要件3が判断の中心です。

要件3の判定は契約書の解約条項によって変わります。同じ受託開発でも、解約時に実費しか請求できない契約では一時点の認識になるため、契約書の実物で確認してください。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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