5つのステップの3番目は、取引価格の算定です。取引価格とは、財またはサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額をいいます。契約書に書かれた金額がそのまま取引価格になるとは限りません。
この記事では、取引価格を構成する4つの要素を整理し、それぞれがどのように金額を動かすのかを扱います。個別の論点は続く記事で詳しく扱いますが、まず全体像を押さえておくと判断が速くなります。
- 取引価格を算定するときに考慮する4つの要素
- 契約金額と取引価格がずれる理由
- 消費税など第三者のために回収する額の扱い
- 取引価格の算定を業務フローにどう組み込むか
図 取引価格を算定するときの確認事項
📌 取引価格とは何か
取引価格は、企業が権利を得ると見込む対価の額です。見込むという言葉が示すとおり、確定した金額とは限りません。将来のリベートや返品を見積って調整した後の金額が取引価格になります。
一方で、第三者のために回収する額は取引価格に含めません。消費税がその代表です。企業は預かって納付するだけであり、自社の対価ではないためです。同じ理由で、代理人として回収する他社の取り分も含めません。
📌 4つの構成要素
取引価格を算定するとき、次の4つを考慮します。それぞれが金額を増減させます。
契約書に書かれた金額そのままが取引価格になるとは限りません。
第三者のために回収する金額、たとえば消費税は取引価格に含めません。
変動対価は、値引き、リベート、返金、インセンティブ、ペナルティなど、対価の額が変動する要素をいいます。過去の実績や契約条件から見積り、取引価格に含めます。ただし、見積った額のうち著しい減額が生じない可能性が高い部分に限るという制限があります。
重要な金融要素は、対価の支払時期が財またはサービスの移転から離れている場合に生じます。前受けであれ後払いであれ、実質的に金融の提供が含まれているなら、その部分は収益ではなく金融収益または金融費用として区分します。移転から支払いまでが1年以内であれば、考慮しないことが認められています。
📊 記載例
複数の調整要素がある契約で、取引価格を算定した例です。
前提 契約金額10,000千円。年間の購入額が一定を超えた場合に5パーセントのリベートを支払う契約があり、達成の可能性が高いと見込まれる。あわせて、棚の陳列費用として300千円を顧客に支払っている。この支払いは、顧客から受け取る別個の財またはサービスの対価ではない。
| 項目 | 金額 | 扱い |
|---|---|---|
| 契約で約束された対価 | 10,000 | 出発点 |
| リベートの見積り | △500 | 変動対価として減額 |
| 顧客に支払われる対価 | △300 | 取引価格から減額 |
| 取引価格 | 9,200 | - |
棚の陳列費用は、顧客から別個の財またはサービスを受け取る対価ではないため、販売促進費として費用計上するのではなく、取引価格から減額します。
会社名と数値は架空です。従来は販売促進費として費用計上していた支払いが、売上の減額に変わる場合があります。
この設例では、売上高が10,000千円ではなく9,200千円になります。利益は変わりませんが、売上高と販管費の両方が減ります。
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📌 顧客に支払われる対価
4つのうち、従来の実務から変わることが多いのが顧客に支払われる対価です。棚代、協賛金、販売奨励金など、顧客に対して支払う金銭は、原則として取引価格から減額します。従来は販売促進費として費用計上していたものが、売上高の減額に変わる場合があります。
ただし、顧客から別個の財またはサービスを受け取る対価であれば、通常の仕入と同じく費用処理します。棚の陳列作業を顧客から購入していると評価できるのか、それとも実質的な値引きなのかを判断することになります。判断の基準は、その財またはサービスを他社からも購入できるか、支払額が独立販売価格を超えていないかです。
📌 業務フローへの織り込み
取引価格の算定は、契約を締結した時点で行い、その後の状況の変化に応じて見直します。実務では、リベートの達成見込みや返品の実績を定期的に更新する必要があります。営業部門が持っている情報と、経理部門が使う会計情報をつなぐ仕組みがなければ、見積りを更新できません。
上場準備の過程では、この情報の流れを業務フローとして設計しておくことが求められます。契約の締結時に条件を経理へ連携する、四半期ごとにリベートの見込みを更新する、といった手順を明文化しておくと、監査での説明も容易になります。
契約条件の洗い出しから、変動対価の見積り、顧客に支払われる対価の判定、業務フローの設計までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 含めません。第三者のために回収する額であり、企業が権利を得る対価ではないためです。税抜方式で処理している会社であれば、実務上の変更はありません。
A. 顧客から別個の財またはサービスを受け取る対価であれば費用処理します。実質的な値引きであれば取引価格から減額します。支払いの内容と対価性で判断します。
A. 契約の締結時に算定し、その後は各決算日に見直します。変動対価の見込みが変わった場合は、取引価格を更新して収益の額を調整します。
📄 まとめ
取引価格は、契約書の金額そのままではなく、変動対価、重要な金融要素、現金以外の対価、顧客に支払われる対価の4つを考慮して算定します。
とくに顧客に支払われる対価は、従来の販売促進費が売上の減額に変わる可能性がある論点です。支払いの内容を一覧にして、対価性の有無を整理することから始めてください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
- 取引価格の算定(この記事)
- 変動対価
- 返品権付き販売
- 重要な金融要素
- 顧客に支払われる対価
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)