5つのステップの2番目は、契約に含まれる約束を数えることです。1つの契約に約束がいくつあるかによって、収益を何回に分けて認識するかが決まります。この単位を履行義務といいます。
この記事では、履行義務を識別するための2つの要件と、区分して識別できない場合の考え方を整理します。製品とサービスをセットで提供している会社では、最初に確認すべき論点です。
- 履行義務を別個のものとして区分する2つの要件
- 区分して識別できないと判断される3つの例
- 据付やカスタマイズを伴う取引の判定
- 配送料や送料をどう扱うか
図 別個の履行義務として区分するかの判定
📌 約束の数を数える
履行義務とは、顧客との契約において、別個の財またはサービスを顧客に移転する約束をいいます。1つの契約に複数の約束が含まれていれば、それぞれを別個の履行義務として扱い、取引価格を配分して、それぞれの充足時点で収益を認識します。
前半が財そのものの性質、後半が契約の中での位置づけを見る要件です。
別個かどうかは2つの要件で判断します。1つ目は、その財またはサービスから単独で、あるいは顧客が容易に利用できる他の資源と組み合わせて、顧客が便益を享受できることです。2つ目は、その約束が契約に含まれる他の約束と区分して識別できることです。両方を満たして初めて別個の履行義務になります。
📌 区分して識別できない場合
2つ目の要件を満たさない、つまり区分して識別できないと判断される場合として、基準は3つの例を挙げています。
いずれかに当たれば、別個ではないと判断して1つの履行義務にまとめます。
典型的なのが、システムの設計から開発、導入までを一括して受注する場合です。設計だけ、開発だけを取り出しても顧客にとって意味がなく、企業が全体を統合して1つの成果物にすることに価値があります。この場合は、契約全体で1つの履行義務として扱います。
逆に、汎用のソフトウェアと保守サービスであれば、保守がなくてもソフトウェアは使えます。この場合は2つの履行義務です。判断の分かれ目は、片方だけでは顧客が便益を得られない関係にあるかどうかです。
📌 実務での判定例
実務でよく問題になる取引について、判定の考え方を整理します。契約書に並んでいる項目の数と、履行義務の数は一致しません。
契約書の項目数と履行義務の数は一致しません。実質で判断します。
出荷及び配送活動については、財に対する支配が顧客に移転した後に行われるものについて、履行義務として識別せず、履行のためのコストとして処理することが認められています。これは代替的な取扱いで、選択した場合は会計方針として継続的に適用します。
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📊 記載例
機器の販売と据付、保守を1つの契約で提供する場合の履行義務の識別です。
| 約束した内容 | 別個か | 履行義務 | 収益認識の時期 |
|---|---|---|---|
| 機器の引渡し | 別個 | 履行義務1 | 引き渡した一時点 |
| 据付作業(標準的で他社でも可能) | 別個 | 履行義務2 | 据付が完了した一時点 |
| 1年間の保守サービス | 別個 | 履行義務3 | 1年間にわたり |
| 配送 | - | 履行義務としない | 機器の引渡しに含める |
据付が高度に専門的で、その企業でなければ実施できず、機器と一体でなければ機能しない場合は、機器と据付を1つの履行義務として扱います。
この判断が変わると、機器の売上を引渡し時に計上できるか、据付完了まで待つかが変わります。
会社名は架空です。据付の専門性という事実認定が、収益の計上時期を左右します。
契約書に3つの項目が並んでいても、履行義務が3つとは限りません。逆に1行しか書かれていなくても、実質的に2つの約束を含んでいることがあります。
📌 判定を記録に残す
履行義務の識別は、事実認定にもとづく判断です。据付が専門的かどうか、カスタマイズが著しいかどうかは、程度の問題であり明確な線がありません。だからこそ、どのような事実にもとづいてどう判断したのかを記録に残す必要があります。
記録には、契約書の該当条項、実際の作業内容、他社でも実施可能かどうかの根拠を含めます。営業部門や技術部門への聞き取りが必要になることも多く、経理部門だけでは完結しません。上場準備の過程では、この横断的な確認を業務フローに組み込んでおくことが求められます。
契約類型ごとの約束の洗い出しから、別個かどうかの判定、判断根拠の文書化までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 違います。契約書の書き方ではなく、顧客が単独で便益を享受できるか、他の約束と区分して識別できるかで判断します。1行の契約に2つの履行義務が含まれることもあります。
A. 支配の移転後に行われる出荷及び配送活動については、履行義務として識別せず、履行のためのコストとして処理する代替的な取扱いが認められています。選択した場合は継続して適用します。
A. 明確な数値基準はありません。他社でも実施できる標準的な作業か、その企業でなければできない専門的な作業かという事実で判断します。判断の根拠となる事実を記録に残してください。
📄 まとめ
履行義務の識別は、契約に含まれる約束の数を数える作業です。単独で便益を享受できるか、他の約束と区分して識別できるかという2つの要件で判断します。
判定は事実認定にもとづくため、記録が重要です。据付の専門性やカスタマイズの程度は、営業部門や技術部門に確認しなければ判断できません。経理部門だけで完結しない論点であることを、業務フローに織り込んでおいてください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務