複数の契約を別々に処理するか、1つにまとめて処理するか。この判断が収益の金額と計上時期を変えることがあります。基準は、同一の顧客と同時またはほぼ同時に締結した複数の契約について、一定の場合に結合して単一の契約として処理することを求めています。
この記事では、契約を結合する3つの場合と、実務での判断の分かれ目を整理します。値引きや抱き合わせの販売がある会社では、必ず確認すべき論点です。
- 複数の契約を結合する3つの場合
- 同時またはほぼ同時とは、どの程度の期間をいうか
- 結合するかどうかで収益の金額と時期がどう変わるか
- 基本契約と個別契約がある場合の考え方
図 契約を結合する3つの場合
📌 結合するのは3つの場合
契約の結合が問題になるのは、同一の顧客と同時またはほぼ同時に締結した複数の契約です。この前提を満たしたうえで、3つのいずれかに該当する場合に結合します。
3つのうち1つでも当てはまれば結合します。すべてを満たす必要はありません。
1つ目は、複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されている場合です。取引の全体が1つの目的のために設計されているかを見ます。2つ目は、1つの契約で支払われる対価の額が、他の契約の価格または履行により影響を受ける場合です。値引きの交換条件として別の契約の価格を動かしているケースがこれにあたります。3つ目は、複数の契約で約束した財またはサービスが単一の履行義務となる場合です。
📌 実務での判断の分かれ目
同時またはほぼ同時という要件について、基準は具体的な日数を示していません。実務では、同じ商談の中で締結されたか、交渉の過程が連続しているかで判断します。締結日が数日ずれていても、同じ交渉から生まれたものであれば結合の対象になりえます。
同時期であることと、交渉の一体性が判断の中心になります。
逆に、同じ顧客との契約であっても、時期が離れていて交渉も独立していれば結合しません。前期に締結した保守契約と、今期に締結した新製品の売買契約は、通常は別々に処理します。
📊 記載例
製品の値引きと保守料の設定が連動している場合に、契約を結合して取引価格を配分した例です。
状況 同じ日に、製品の売買契約(900千円)と1年間の保守契約(300千円)を締結した。製品の通常価格は1,000千円、保守の通常価格は200千円である。製品を値引きする代わりに保守料を高く設定したことが、交渉の記録から確認できる。
| 履行義務 | 独立販売価格 | 結合しない場合の収益 | 結合した場合の収益 |
|---|---|---|---|
| 製品の引渡し | 1,000 | 900 | 1,000 |
| 保守サービス | 200 | 300 | 200 |
| 合計 | 1,200 | 1,200 | 1,200 |
契約金額の合計は1,200千円で同じですが、結合すると独立販売価格の比率で配分するため、製品と保守に割り振られる金額が変わります。
製品は引渡し時に一時点で、保守は1年間にわたって収益を認識するため、結合の有無で各期の売上高が変わります。
会社名と数値は架空です。契約の総額が同じでも、収益を認識する時期が変わる点が要点です。
この設例では、結合しない場合は初年度の売上が900千円ですが、結合すると1,000千円になります。値引きの交換条件として別の契約の価格を動かしている場合は、結合を検討してください。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
📌 基本契約と個別契約がある場合
継続的な取引では、基本契約を1本結び、そのもとで個別に発注を受ける形が一般的です。この場合、契約として識別する単位は個別契約になります。基本契約は取引の条件を定めたものであって、それ自体で権利義務が確定するわけではないためです。
ただし、基本契約に最低購入数量や最低取引金額の定めがある場合は別です。その部分については強制力のある権利と義務が生じているため、契約として識別する範囲に含めます。残存履行義務の注記を作るときにも、この判断が影響します。
📌 結合を見落とすとどうなるか
結合すべき契約を別々に処理すると、値引きが特定の契約に偏って配分されることになります。設例のように、製品を値引きして保守料を高く設定している場合、結合しなければ製品の売上が過少になり、保守の売上が過大になります。保守は期間にわたって認識するため、当期の売上が実態より小さく計上されます。
この誤りは、契約書を1本ずつ見ているだけでは見つかりません。同じ顧客との契約を時系列に並べ、価格の設定に不自然な点がないかを確認する作業が必要です。営業部門への聞き取りが有効な場面でもあります。
同一顧客との複数契約の洗い出しから、結合の要否の判断、取引価格の配分までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 日数の基準はありません。同じ商談から生まれたか、交渉が連続しているかで判断します。締結日が離れていても、一体の交渉であれば結合の対象になりえます。
A. 基本契約は取引条件を定めたもので、通常は個別契約の単位で判断します。ただし最低購入数量などの定めがあれば、その部分は契約として識別する範囲に含めます。
A. 会計処理の単位が変わるだけで、請求や入金の実務を変える必要はありません。ただし、システム上で契約単位に売上を計上している場合は、結合後の配分を反映する仕組みが必要になります。
📄 まとめ
契約の結合は、同一の顧客と同時期に締結した複数の契約について、3つのいずれかに該当する場合に行います。とくに、値引きの交換条件として別の契約の価格を動かしている場合は結合の対象です。
結合を見落とすと、値引きの配分が偏り、収益の計上時期がずれます。契約書を1本ずつ見るのではなく、同じ顧客との契約を並べて価格の設定を確認する作業が必要になります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
- 契約の識別と5つの要件
- 契約の結合(この記事)
- 契約変更の3つの処理
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務