※本記事は2026年10月26日時点の公表資料に基づきます。
HiJoJo Partners株式会社(証券コード657A)は、2026年10月26日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年11月20日に東証グロース市場へ上場する予定です。国内外のユニコーン企業を中心とするミドル・レイトステージの非上場企業に投資するファンドを組成・販売・運用するアセットマネジメント会社で、第一種金融商品取引業(非上場有価証券特例仲介等業務)、第二種金融商品取引業、投資運用業の登録を受けた金融商品取引業者です。
結論からいえば、この会社のⅠの部は「成功報酬に左右されやすい収益をどう認識し、どう説明するか」と「金融商品取引業者として利益相反と顧客資産をどう管理するか」を学ぶ教材です。あわせて、A種・B種・B1種の優先株式を取得条項で普通株式に一本化した手順、2回の資本金の減少、有償新株予約権と信託型の新株予約権、上場申請直前期の第三者割当と継続所有の確約など、資本政策の論点も多く含まれています。本記事では、Ⅰの部に書かれている事実を整理したうえで、上場準備会社が自社に置き換えて考えるべき実務上のポイントを解説します。
この記事の見出し
HiJoJo Partnersはどんな会社で、いつ上場するのか
まず会社と上場の概要を確認します。HiJoJo Partnersは2017年11月にHiJoJo.com株式会社として東京都港区三田に設立され、2018年1月に現在の商号に変更しました。決算期は10月で、Ⅰの部に経理の状況として財務諸表が載っている最近事業年度は第8期(2024年11月1日〜2025年10月31日)です。第9期(2026年10月期)の中間連結会計期間から米国子会社を連結しており、Ⅰの部には第9期の中間連結財務諸表と第3四半期連結財務諸表も掲載されています。
本店は東京都港区西新橋で、代表者は代表取締役共同社長執行役員のメンザス・スピリドン氏と秋山典文氏の2名です。2024年11月から共同社長体制をとっています。従業員数は2026年9月30日現在で連結40名、提出会社39名(平均年齢43.5歳、平均勤続年数2.3年、平均年間給与14,511千円)です。臨時従業員はいないと記載されています。
| 項目 | 内容(Ⅰの部の記載) |
|---|---|
| 会社名 | HiJoJo Partners株式会社(英訳名 HiJoJo Partners Inc.) |
| 証券コード・市場 | 657A・東京証券取引所グロース市場 |
| 上場承認日/上場予定日 | 2026年10月26日/2026年11月20日 |
| 設立 | 2017年11月(HiJoJo.com株式会社として設立、2018年1月商号変更) |
| 本店所在地 | 東京都港区西新橋一丁目7番2号 |
| 決算期 | 10月(最近事業年度は第8期=2025年10月期) |
| 事業 | アセットマネジメント事業の単一セグメント |
| 金融商品取引業の登録 | 第一種金融商品取引業(非上場有価証券特例仲介等業務)、第二種金融商品取引業、投資運用業(関東財務局長(金商)第3065号) |
| 従業員数 | 連結40名、提出会社39名(2026年9月30日現在) |
| 機関設計 | 監査役会設置会社(取締役5名うち社外2名、監査役3名うち社外2名) |
| 会計監査人 | 太陽有限責任監査法人(継続監査期間2年間) |
| 親会社 | なし(金融商品取引法第24条の7第1項に規定する親会社等はない) |
グロース市場の上場審査では、形式要件に加えて、実質審査基準として「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」「企業経営の健全性」「事業計画の合理性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項」が確認されます。実質審査基準の全体像はIPOの実質審査基準とはで、グロース市場の位置づけはグロース市場の「高い成長可能性」とはで解説しています。以下では、HiJoJo PartnersのⅠの部のどこが、これらの観点と結びつくのかを意識しながら読んでいきます。
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何で稼ぐ会社なのか:ファンドからの手数料と成功報酬
HiJoJo Partnersは、主にトップディール(評価額100億米ドル以上の非上場企業)を最終投資先とするファンドを組成し、国内投資家に「通常アクセスできない投資機会」を提供しています。Ⅰの部では、SpaceX、OpenAI、Anthropic、Stripe、Databricksに係る投資案件へのアクセスを実現していると記載されています。ファンドは主として1ファンド1銘柄のクローズドエンド型で、匿名組合契約スキームと投資事業有限責任組合スキームを採用しています。
販売チャネルは2つあります。対面チャネルは主に金融資産1億円以上の法人・個人を対象に、提携金融機関やIFAからの紹介と自社のリレーション営業で販売します。インターネットチャネルは主に金融資産3,000万円以上の個人を対象に、提携ネット証券からの紹介やWEB広告・アフィリエイト等で顧客に接触します。2026年9月末時点の累計顧客数は対面チャネルで1,418名、インターネットチャネルで9,735名、累計契約総額は2026年9月時点で751億円を突破したと記載されています。
図1 国内投資家の資金をファンド経由で非上場企業へ投資し、当社はファンドから手数料と成功報酬を受け取る(累計顧客数は2026年9月末時点)
ここで実務上大事なのは、「顧客」がだれかという点です。HiJoJo Partnersの売上は、投資家から直接受け取るのではなく、組成したファンド(合同会社や投資事業有限責任組合)との契約に基づいて計上されています。主要な販売先として開示されているのも「Spaceファンド2投資事業有限責任組合」「合同会社HiJoJo Fund 37」などのファンドです。売上の相手先がファンドというビークルであることは、収益認識の履行義務の識別や、関連当事者・利益相反の検討にも影響します。
3つの報酬:申込手数料・運用報酬等・成功報酬
ファンド募集事業の報酬は3種類です。申込手数料は出資額に対して一定割合(1.0〜4.4%程度)をファンドの運用開始時に一括で収受します。運用報酬等(販売報酬、事務委託手数料、管理報酬)は出資額に対して年1.1〜2.8%程度で、1年分の報酬を前受で収受し、運用期間に応じて収益認識します。成功報酬は、ファンドが投資対象の売却等で得た処分収益から出資額を控除した金額の22.0%程度です。
図2 申込手数料・運用報酬等・成功報酬の水準と受け取り方(個別ファンドで異なる場合がある)
このうち成功報酬は金額が大きく、計上時期が投資先のIPO・M&Aや売却の機会に左右されます。Ⅰの部の事業等のリスクでは、成功報酬が売上高に占める割合は2025年10月期に48.6%、2026年10月期中間期に75.8%と記載され、「期間損益が変動しやすい特性がある」と明示されています。さらに、2027年10月期にSpaceXに係るExitが実現した場合には当該期の業績に影響を及ぼす可能性があること、ただし成功報酬は複数の投資先のExitから生じるものでSpaceXのみに継続的に依存するものではないことも書かれています。
3つの新規事業と米国子会社
新規事業として、US事業、PEIT事業、PMS事業の3つが挙げられています。US事業では、2026年2月に米国デラウェア州に持株会社・運営会社・投資会社を設立し、さらに米国第1号ファンドを設けました。米国子会社が自己資本で対象株式を一時的に取得・保有し、資金調達完了後に国内のHiJoJoファンドへ移転する「ウェアハウジング機能」により、投資実行までのスピードを上げる狙いです。PEIT事業では、2026年6月にHiJoJoグローバルユニコーン投資法人を設立し、JAMPファンド・マネジメント株式会社から運用の再委託を受けて報酬を得るスキームとしています。PMS事業は、2026年8月に登録した第一種金融商品取引業(非上場有価証券特例仲介等業務)により、非上場株式のプライマリー・セカンダリー取引に関与する事業です。
図3 連結子会社4社(米国)と非連結子会社1社(国内の投資法人)の関係。米国の連結子会社4社の議決権は、いずれも当社の直接・間接100%(最近日現在の記載)。非連結子会社の投資法人は、重要性が乏しいとして関係会社の状況への記載が省略されている
なお、米国の持株会社については、株式会社クレディセゾンとの間でSAFE契約(将来株式取得略式契約)を2026年10月26日付で締結する予定で、払込金額は1,000万米ドルと記載されています。株式への転換が行われた場合、HiJoJo Holding Company Inc.の議決権に対する当社の保有割合は低下する見込みとされています。子会社に外部資本が入る場合、連結範囲や非支配株主持分、子会社管理の論点が新たに生じるため、上場準備会社も「子会社で資金調達をする」選択肢をとる際は、開示と管理の両面で準備が必要です。
沿革:金融商品取引業の登録を積み上げてきた道のり
HiJoJo Partnersの沿革は、金融商品取引業の登録を段階的に積み上げてきた歴史でもあります。2018年7月に第二種金融商品取引業と投資助言・代理業の登録を完了し、同年8月に対面販売による第1号ファンドの募集を終えました。2018年12月には第二種金融商品取引業における「電子募集取扱業務」の登録、2020年3月には投資運用業の登録を完了しています。2021年7月にインターネット販売による第1号ファンドの募集を終え、2026年8月には第一種金融商品取引業のうち非上場有価証券特例仲介等業務の登録を完了するとともに、登録業務から投資助言・代理業を廃止しました。
規模の面では、累計契約金額が2020年8月に50億円、2021年3月に100億円、2022年2月に200億円、2023年7月に300億円、2024年10月に400億円、2026年2月に500億円、2026年6月に600億円を突破したと記載されています。2024年8月には米国の非上場株式取引プラットフォームであるNasdaq Private Market(NPM)との資本業務提携を発表しています。
図4 Ⅰの部の沿革と株式の状況から主要な出来事を抜き出したもの
上場準備の観点では、許認可の取得・変更の時期と、事業計画・組織体制の整備時期がかみ合っているかが審査で確認されます。新しい業務を始めるには登録や変更登録が必要になる業種では、「どの時点でどの業務ができるようになったか」を沿革と事業の内容で一貫して説明できるようにしておくことが大切です。許認可の審査上の扱いはIPOで許認可はどこまで見られるかでも整理しています。
経営上の目標の達成状況を判断するための指標(KPI)
Ⅰの部では、客観的な指標として「累計契約総額」「運用中の契約総額」「会員数合計」の3つを重視すると記載されています。累計契約総額は事業開始からこれまでに販売したファンドの契約金額の合計、運用中の契約総額はそのうち運用中のファンドに係る金額、会員数合計はファンド販売システムに登録している会員数(対面とインターネットの合計)です。
図5 累計契約総額・運用中の契約総額(億円、単位未満切り捨て)と会員数合計
推移は、累計契約総額が第7期末411億円、第8期末496億円、第9期中間期末613億円、最近日(2026年9月30日)751億円、運用中の契約総額が337億円、373億円、455億円、566億円、会員数合計が8,581名、9,431名、10,292名、11,153名です。手数料収入は販売額と運用残高から発生するため、KPIと売上の構造が直接つながっています。KPIを選ぶときは、このように「なぜその指標が収益に結びつくのか」を本文で説明できるものを選ぶのが基本です。
業績の推移:成功報酬で大きく振れる損益をどう読むか
主要な経営指標等の推移(単体)は次のとおりです。第7期・第8期の財務諸表は、上場規程第216条第6項に基づき金融商品取引法第193条の2第1項の規定に準じて太陽有限責任監査法人の監査を受けています。一方、第4期〜第6期は会社計算規則に基づき算出した数値で、この監査は受けていないと注記されています。
| 回次(決算年月) | 売上高 | 経常損益 | 当期純損益 | 純資産額 | 総資産額 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 第4期(2021年10月) | 907,232 | 437,908 | 406,419 | 770,275 | 1,057,660 | 72.8% |
| 第5期(2022年10月) | 645,155 | 51,542 | 33,923 | 1,854,815 | 2,105,584 | 87.6% |
| 第6期(2023年10月) | 388,513 | △253,252 | △256,977 | 1,599,559 | 1,959,500 | 81.1% |
| 第7期(2024年10月) | 672,018 | 6,197 | 15,276 | 1,616,561 | 2,002,594 | 80.2% |
| 第8期(2025年10月) | 1,758,175 | 686,713 | 513,482 | 2,116,930 | 3,370,209 | 62.5% |
単位は千円です。第6期の減収減益について、Ⅰの部は「米国の金利上昇による投資環境の悪化等により、ファンド販売が大幅に減少したこと」が主な要因と注記しています。第4期には1株当たり3.00円の配当を行っていますが、第5期以降は配当を実施していません。1株当たり純資産額は各期マイナス(第8期△13.61円)ですが、これは優先株主に対する残余財産の分配額を控除して算定しているためと注記されています。
図6 各期10月決算。第7期・第8期は太陽有限責任監査法人の監査済み
第8期は12ファンドの新規募集により計8,923百万円のファンド販売を行い、売上高の主な内訳は申込手数料379,408千円、運用報酬等475,475千円、成功報酬853,832千円でした。SpaceX関連ファンドの販売額は3,153百万円です。結果として売上高1,758,175千円(前期比161.6%増)、営業利益674,931千円(前期は6,423千円の営業損失)、経常利益686,713千円、当期純利益513,482千円となりました。販売実績の注記では、第8期に投資先持分の売却で成功報酬853,832千円を計上したことが著しい変動の理由とされています。
図7 売上原価の中心は対面の紹介手数料などの経費と労務費
売上原価377,361千円の内訳は、労務費116,308千円と経費261,053千円で、経費の主なものは紹介手数料(対面)151,315千円、支払報酬料(対面)72,274千円、支払報酬料(インターネット)13,143千円です。販売を外部の紹介先に頼る部分があるビジネスでは、紹介手数料の計上根拠(契約、紹介実績の確認方法)が審査やJ-SOXで確認されやすい項目になります。
第9期(2026年10月期)中間・第3四半期の数値
第9期は中間連結会計期間から連結財務諸表を作成しています。中間連結財務諸表と第3四半期連結財務諸表は、いずれも太陽有限責任監査法人の期中レビューを受けたもので、年度の監査とは手続が異なります。また連結初年度のため、前年同期との比較分析は行っていないと記載されています。
| 項目 | 第9期中間(2025/11〜2026/4) | 第9期3Q累計(2025/11〜2026/7) |
|---|---|---|
| 新規組成ファンド・資金導入 | 7ファンド・11,697百万円 | 12ファンド・15,898百万円 |
| 売上高 | 2,636,342千円 | 2,905,591千円 |
| うち成功報酬 | 1,999,124千円 | 2,013,001千円 |
| 営業利益 | 1,691,874千円 | 1,680,251千円 |
| 経常利益 | 1,698,280千円 | 1,688,605千円 |
| 親会社株主に帰属する純利益 | 1,158,011千円 | 1,145,771千円 |
| 自己資本比率 | 71.6% | 73.3% |
| レビューの種類 | 期中レビュー(年度監査ではない) | 期中レビュー(年度監査ではない) |
中間期には、3月にSpaceX社を最終投資対象とする「Spaceファンド10」「Spaceファンド11」の2ファンドで計6,190百万円を導入し、とくに「Spaceファンド10」は当初1,000百万円の募集想定に対して5,890百万円を導入したと記載されています。1月に組成したAI関連の3ファンドのうち、インターネットで販売したAnthropicファンドは単独で1,498百万円を集めました。主要な相手先別の販売実績では、Spaceファンド2投資事業有限責任組合が中間期の総販売実績の77.0%、第3四半期累計の69.8%を占めています。
図8 収益認識注記の「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」から作成(その他報酬は除く)
上場準備会社にとってのポイントは、「業績が特定のイベントで大きく動く会社ほど、その構造を事業等のリスク・MD&A・KPIの3か所で一貫して説明する」ことです。グロース市場の審査では「事業計画の合理性」が問われ、計画の前提(成功報酬の計上見込みをどう置くか、継続収益をどこまで積み上げるか)を説明できるかが重要になります。IPO審査の「事業計画の合理性」もあわせてご覧ください。
資本政策と株主構成:優先株式・減資・新株予約権をどう整理したか
HiJoJo PartnersのⅠの部で、もっとも論点が多いのが資本政策です。2022年以降の主な動きを時系列で並べると次のようになります。
図9 「発行済株式総数、資本金等の推移」「新株予約権等の状況」から作成
3種類の優先株式を取得条項で普通株式に一本化
同社は、A種優先株式10,737,394株、B種優先株式3,343,020株(2022年7月31日払込、発行価格344円)、B1種優先株式2,469,726株(2025年12月26日と2026年2月19日の2回、発行価格413円)を発行していました。2026年6月12日の取締役会で、定款に定める取得条項に基づき優先株式のすべてを取得することを決議し、2026年6月30日付で自己株式として取得したうえで、対価として優先株式1株につき普通株式1株を交付しています。取得した優先株式は同日付で会社法第178条に基づき消却し、同日の臨時株主総会で種類株式を発行する旨の定款の定めを廃止しました。
図10 取得条項に基づき優先株式1株につき普通株式1株を交付し、取得した優先株式は同日に消却
交付した普通株式は16,550,140株で、既存の普通株式30,230,000株と合わせて発行済株式総数は46,780,140株となりました。Ⅰの部の第四部では、優先株式の発行時の価格(A種145円、B種344円、B1種413円)は、普通株式との権利内容の違いを踏まえてDCF法を基礎とし、類似会社比較法を参考として算出した価格を基礎として算定したこと、普通株式への転換比率は取得請求権(及び取得条項)に定められた取得比率によることが説明されています。
ベンチャーキャピタル等から優先株式で資金調達した会社は、上場前にこれを普通株式へ転換するのが一般的です。取得請求権・取得条項の定め方、取得比率、消却と定款変更の順序をあらかじめ設計しておかないと、上場スケジュールに影響が出ることがあります。詳しくは種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかとみなし清算条項で解説しています。
2回の資本金の額の減少
同社は資本金の額の減少を2回行っています。1回目は2022年10月6日で、B種優先株式の発行で624,999千円となった資本金を300,000千円に減らし、減少額324,999千円をその他資本剰余金に振り替えました(減資割合52.0%)。2回目は2026年6月30日で、資本金822,013千円(2026年4月末の809,998千円に、6月の新株予約権行使による資本組入額12,015千円を加えた額)を722,013千円減少させ、100,000千円としました(減資割合87.8%)。いずれも「今後の機動的かつ効率的な運営を推進するための資本政策に備えるため」と説明されています。
2回目の減資は重要な後発事象として注記され、会社法第447条第1項に基づく臨時株主総会決議(2026年6月30日)に向けて、取締役会決議(5月20日)、債権者異議手続(会社法449条。公告5月29日、最終期日6月29日)を経て、6月30日に効力が発生したことが明記されています。資本金の減少は会社法447条、資本準備金の減少は448条によります。資本金をその他資本剰余金へ振り替えても純資産の総額は変わらないため、減資の目的(税負担、分配可能額、資本政策の柔軟性など)を株主や審査担当者に説明できるよう整理しておきましょう。なお、同社はMD&Aで、金融商品取引業者として登録の維持に必要な資本金及び純財産額に係る規制の遵守が求められることにも触れています。
上場申請時点の株主構成
Ⅰの部の「株主の状況」によると、上場申請時点の筆頭株主は創業者のメンザス・スピリドン氏で、所有株式数21,000,000株、割合40.30%です。続いて取締役の濱田智彦氏と元取締役の杉浦英和氏が各4,500,000株(8.64%)、株式会社クレディセゾンが2,564,102株(4.92%)、代表取締役の秋山典文氏が2,500,000株(4.80%、うち新株予約権による潜在株式2,300,000株)などとなっています。
図11 Ⅰの部「株主の状況」の記載時点の割合。上場時の割合は公募・売出し等により変わる
ここでの割合は、新株予約権による潜在株式5,327,500株を含む総数52,107,640株に対するもので、Ⅰの部の記載時点(上場申請時点)の数字です。上場時は公募・売出し等により割合が変わるため、「上場時の持株比率」と混同しないことが大切です。所有者別状況(2026年9月30日現在)では株主数は61名で、所有株式数の割合は金融機関10.60%、その他の法人13.48%、外国法人等(個人以外)0.88%、外国法人等(個人)49.64%、個人その他25.40%となっています。
流通株式の計算では、上場株式数の10%以上を所有する者(主要株主)が所有する株式、役員等(役員、役員の配偶者及び二親等内の血族、役員等が議決権の過半数を所有する会社、関係会社とその役員)が所有する株式、自己株式に加え、国内の普通銀行・保険会社・事業法人等が所有する株式も原則として流通株式から除かれます(大量保有報告書等で保有目的が純投資とされている株式は、売買の状況等を踏まえて流通株式に含めることがあります)。創業者や役員が多くを持つ会社では、公募・売出しの規模を流通株式比率と合わせて設計する必要があります。計算方法は流通株式比率の計算式と調べ方をご覧ください。
新株予約権:無償・有償・信託型が併存
同社の新株予約権は、無償のストック・オプション(第1回〜第6回、第9回)と、有償の新株予約権(第7回・第8回)があります。最近事業年度末(2025年10月31日)時点の主な内容は次のとおりです([ ]内は2026年9月30日現在の数)。
| 回(決議日) | 付与対象者(当初) | 目的株式数 | 行使価額 | 行使期間 |
|---|---|---|---|---|
| 第1回(2018/2/23) | 従業員2名 | 450,000株 | 1円 | 2020/2/24〜2028/2/23 |
| 第2回(2019/6/7) | 従業員2名・社外協力者1名 | 130,000株[100,000株] | 1円 | 2021/6/8〜2029/6/7 |
| 第3回(2019/9/24) | 従業員2名 | 100,000株 | 1円 | 2021/9/25〜2029/9/24 |
| 第4回(2020/4/30) | 取締役1名・従業員2名 | 70,000株 | 145円 | 2022/5/1〜2030/4/30 |
| 第5回(2021/6/30) | 従業員8名 | 222,500株 | 145円 | 2023/7/1〜2031/6/30 |
| 第6回(2022/1/7) | 従業員5名 | 60,000株 | 145円 | 2024/1/8〜2032/1/7 |
| 第7回・有償(2022/10/6) | 社外協力者1名(信託) | 1,800,000株 | 117円 | 2022/10/17〜2032/10/16 |
| 第8回・有償(2022/10/6) | 取締役1名 | 1,500,000株[1,300,000株] | 117円 | 2022/10/17〜2032/10/16 |
| 第9回(2024/11/6) | 取締役1名・監査役1名・従業員4名 | 1,225,000株 | 131円 | 2026/11/7〜2034/11/6 |
第7回・第8回は新株予約権1個につき3円で有償発行されています。行使条件として、割当日から行使期間の満了日までに、117円を下回る価格を対価とする普通株式の発行等、117円を下回る行使価額の新株予約権の発行、非上場の間の117円を下回る売買、上場後に終値が117円を下回ることなどのいずれかが生じた場合、残存するすべての新株予約権を行使できないとされています。2026年6月12日には、秋山典文氏が有償新株予約権の行使により普通株式200,000株を取得しており(1株117円、総額23,400,000円)、第四部の株式等の移動状況に記載されています。
図12 行使価額117円を下回る価格での株式発行や、上場後に終値が117円を下回った場合などは残存分すべてが行使不可となる
第7回は「時価発行新株予約権信託」として、メンザス・スピリドン氏を委託者、コタエル信託株式会社(現 フロンティア信託株式会社)を受託者とする信託(信託契約日2022年10月7日、信託期間満了日2032年10月16日)に割り当てられています。将来の功績評価に基づいて役職員等に分配する仕組みで、本書提出日現在で信託の目的となっているのは第7回新株予約権260,000個と記載されています。株主の状況にも、フロンティア信託株式会社(信託口)が潜在株式260,000株として載っています。
会計面では、実務対応報告第36号により、従業員等に付与する権利確定条件付き有償新株予約権は、従業員等から受けるサービスの対価でないことを立証できる場合を除き、ストック・オプションとして会計処理されます(公正な評価額から払込金額を差し引いた額が費用計上の対象)。同社のストック・オプション等関係注記では、ストック・オプションに係る費用計上額は第7期・第8期とも「該当事項はありません」とされ、付与日時点で未公開企業であったため公正な評価単価を単位当たりの本源的価値で見積もり、自社株式の評価はDCF法・純資産方式・類似会社比準方式を総合的に勘案して決定したと記載されています。新株予約権の貸借対照表残高は9,900千円です。有償新株予約権や信託型新株予約権を導入する際は、会計処理と税務上の取扱いを事前に監査法人・税理士と確認しておきましょう。信託型ストックオプションはなぜ給与課税かとストック・オプションの注記の記載例も参考になります。
潜在株式の規模は、事業等のリスクで「本書提出日現在における新株予約権にかかる潜在株式数は5,327,500株であり、発行済株式総数46,780,140株の11.4%に相当」と開示されています。
直前期の第三者割当と継続所有の確約
第四部「第三者割当等の概況」には、基準事業年度(2025年10月期)の末日の1年前より後に行った3件の割当が載っています。
| 項目 | 第9回新株予約権 | B1種優先株式① | B1種優先株式② |
|---|---|---|---|
| 発行年月日 | 2024年11月7日 | 2025年12月26日 | 2026年2月19日 |
| 発行数 | 1,225,000株 | 2,300,235株 | 169,491株 |
| 発行価格 | 131円 | 413円 | 413円 |
| 発行価額の総額 | 160,475,000円 | 949,997,055円 | 69,999,783円 |
| 価格の算定 | DCF法・純資産方式・類似会社比準方式を総合勘案 | 同左 | 同左 |
| 確約の根拠 | 施行規則272条 | 施行規則268条 | 施行規則268条 |
B1種優先株式は「安定株主及び取引先との関係強化を目的としたもの」で、①は28名、②はSMBC事業開発4号投資事業有限責任組合など3名に割り当てられています。有価証券上場規程施行規則第268条により、基準事業年度の末日から起算して1年前より後に第三者割当等で株式を割り当てた場合は、割当先との間で継続所有等の確約を書面で行う必要があります。同社は、割当株式を原則として割当日から上場日以後6か月を経過する日(その日に払込期日から1年を経過していない場合は1年を経過する日)まで所有する等の確約を行ったと記載しています。第9回新株予約権は役員・従業員に報酬として割り当てたもので、第272条により上場日の前日または行使日のいずれか早い日まで所有する等の確約を行っています。
逆にいえば、2022年7月のB種優先株式の割当は基準事業年度の末日の1年前より前のため、第三者割当等の概況の対象にはなっていません。確約が必要になるのは時期で決まり、「上場前の第三者割当なら必ず確約」ではありません。また、主幹事証券との間で結ぶロックアップ(売却制限の合意)は、取引所規則に基づく継続所有の確約とは別の制度です。詳しくは上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。
コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社と多層の委員会
同社は、株主総会・取締役会・監査役会・会計監査人を置く監査役会設置会社です。業務執行には執行役員制度を採用し、執行役員等で構成する経営委員会で重要な業務執行を協議します。Ⅰの部は、取締役会による経営監督機能を維持しつつ業務執行の機動性・効率性を確保し、監査役会が独立した立場から取締役の職務執行を監査することで、経営の効率性・健全性・透明性をバランスよく確保できると判断して監査役会設置会社を採用したと説明しています。
図13 本書提出日現在の体制。取締役会は原則月1回、経営委員会は常務会が原則月1回・全体会が3か月に1回
取締役会は取締役5名(うち社外取締役2名)で構成され、原則として毎月1回開催されます。最近事業年度(2024年11月〜2025年10月)は14回開催され、メンザス・スピリドン氏、秋山典文氏、濱田智彦氏、社外取締役の山澤光太郎氏はいずれも14回すべてに出席しています。もう1名の社外取締役である本山博史氏は2026年1月の就任です。取締役会では、重要な業務執行、中期経営計画・予算、株主総会の招集、人事・組織、社内規程、コンプライアンス・リスクマネジメント、新規上場申請に関する事項などを扱っています。
経営委員会は、常務会が原則毎月1回、全体会が3か月に1回開催され、苦情等処理・紛争解決、FATCA、反社会的勢力に関する検証結果、個人情報の管理不備などが報告されます。このほか、リスク管理委員会(3か月に1回)、コンプライアンス委員会(毎月1回)、投資運用委員会が設置されています。金融商品取引業者らしく、法令遵守や顧客保護に関する報告事項が会議体の議題として明確に位置づけられている点が特徴です。
役員構成と社外役員
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(Ⅰの部の要約) | 所有株式数 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役 共同社長執行役員 | メンザス・スピリドン | ソロモン・ブラザーズ・アジア証券、みずほ証券等を経て2017年11月に当社設立 | 21,000,000株 |
| 代表取締役 共同社長執行役員 | 秋山 典文 | 日本興業銀行、みずほ証券執行役員等を経て2022年8月入社 | 200,000株 |
| 取締役 | 濱田 智彦 | ソロモン・ブラザーズ・アジア証券等を経て2018年2月当社常務取締役 | 4,500,000株 |
| 社外取締役 | 山澤 光太郎 | 日本銀行、大阪証券取引所、日本取引所グループ等 | - |
| 社外取締役 | 本山 博史 | 日本興業銀行、みずほコーポレート銀行代表取締役副頭取(内部監査統轄役員)、みずほ証券代表取締役社長等 | - |
| 常勤監査役 | 杉本 高啓 | 東京証券取引所、日本取引所自主規制法人等を経て2023年1月入社(内部監査室長) | - |
| 社外監査役 | 鄭 武壽 | 公認会計士・税理士 | - |
| 社外監査役 | 増島 雅和 | 弁護士(ニューヨーク州弁護士登録) | - |
役員は男性8名で、女性の役員はいません。社外取締役2名・社外監査役2名を選任しており、上場後は社外取締役の山澤光太郎氏と本山博史氏の2名を独立役員に指定する予定です。同社は社外役員の独立性に関する独自の基準は定めていないものの、東証の独立役員の要件と会社法の社外性の要件を充たすことを確認したと記載しています。山澤氏は当社の新株予約権を30,000株相当保有していることも開示されています。
グロース市場の会社には、コーポレートガバナンス・コードのうち基本原則のみが適用されます。独立社外取締役の人数に関する原則(2026年7月21日改訂後の原則4-10)や、任意の指名委員会・報酬委員会に関する原則(改訂後の原則4-7)は、グロース市場の会社に適用されるものではありません。ただし、独立役員を1名以上確保することは上場規則上の義務です。また、2026年7月の上場制度改正(7月10日施行)により、上場会社の主要株主(議決権の10%以上を保有)とその業務執行者、上場会社が主要株主となっている会社の業務執行者(いずれも近親者を含む)は、2026年12月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会の日の翌日から、独立役員の要件を満たさないこととされました。社外役員の候補者選びでは、取引関係だけでなく資本関係も含めて早めに確認しておきましょう。人数の考え方は社外取締役は何人必要か、機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で解説しています。
社外監査役の事務所との取引をどう整理したか
社外監査役の鄭武壽氏が代表を務める会計事務所とは包括事務委任契約を締結し、ファンドのために設立される合同会社の会計帳簿・税務申告書等の作成や設立登記申請等を委託しています。Ⅰの部は、この取引が関連当事者取引に該当することを明記したうえで、次の点を説明しています。
- 同業他社と同一条件で行われていること
- 関連当事者等管理規程に基づき、必要性と取引条件の妥当性を検証したうえで取締役会の承認を得て、取引結果を定期的に取締役会へ報告していること
- 取引金額は1千万円未満で、同事務所が受け取る報酬は同事務所の売上高の1%に満たないこと
- 同事務所との新規取引は行わない方針で、既存ファンドの償還に伴い取引額は逓減し、2031年10月期を目途に解消される予定であること
社外役員の関係先との取引は、独立性の判断と関連当事者取引の両面から審査で確認されます。取引の必要性・条件の妥当性・承認手続・解消方針をセットで説明できるようにしておくことが、上場準備会社にとっての実務上のポイントです。関連当事者取引の審査上の考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)をご覧ください。
役員報酬の決め方
同社は2026年5月20日に役員報酬規程を制定し、役員報酬の基本方針を定めています。取締役の報酬は、2026年1月30日の定時株主総会で決議された年額300,000千円の範囲内で、同日の取締役会決議により代表取締役メンザス・スピリドン氏に決定を一任しています。委任の理由は、各取締役の職務執行状況と業績への貢献度を日常的に把握している代表取締役により、機動的かつ実態を反映した報酬決定を行うためとされ、決定に際しては社外取締役との協議を要するものとしています。常勤取締役の報酬は固定報酬と賞与で構成され、業績連動報酬制度は採用していません。監査役の報酬は年額50,000千円以内で、監査役の協議で決定しています。
最近事業年度(2025年10月期)の報酬等の総額は、取締役(社外取締役を除く)3名で85,008千円(固定報酬55,008千円、賞与30,000千円)、監査役(社外監査役を除く)1名で9,000千円、社外役員2名で8,400千円です。第10期(2026年11月以降)からは任意の報酬委員会を設置し、業績連動報酬制度を導入する予定と記載されています。報酬の決定方針や代表取締役への委任の内容の開示は、有価証券報告書の記載事項(開示府令)に基づくものです。代表取締役に一任する場合は、委任の理由と、権限が適切に行使されるための措置(ここでは社外取締役との協議)をあわせて書くことが求められます。
投資運用委員会と利益相反管理
この会社のガバナンスで特徴的なのが、投資判断と利益相反の管理を会議体に組み込んでいる点です。投資運用委員会は投資運用部長を委員長とし、投票権を持つ構成員として共同社長執行役員2名、ファンドマネージャー、アナリストが参加し、投資運用部所管執行役員、コンプライアンス部所管執行役員、コンプライアンス部長及び同部員並びに常勤監査役がオブザーバーとして出席します。投資案件の承認には、全構成員の5分の4以上が出席し、投票権を有するメンバーの5分の4以上の賛成を要すると記載されています。
同社は、米国子会社によるウェアハウジング投資、自社ファンドへのセイムボート出資、非上場有価証券特例仲介等業務での売手・買手双方への関与など、複数の立場を併せ持つため、業務運営に利益相反関係が内在していることを事業等のリスクで明記しています。そのうえで、利益相反管理に関する規程・方針に基づき、利益相反のおそれのある取引を「利害対立型」「競合取引型」「情報利用型」に類型化し、フロント部門から独立したコンプライアンス部を利益相反管理部署、内部管理統括責任者を利益相反管理統括者として一元管理していると説明しています。
図14 米国子会社が保有する非上場株式等を国内の当社ファンドへ売却する場合の手続(事業等のリスク「利益相反に関するリスク」の記載から作成)
具体的には、米国子会社が保有する非上場株式等を国内の当社ファンドに売却する場合はNasdaq Private Marketが提供する価格情報を時価として用い、組入れは投資運用委員会で審議し、販売は経営委員会の承認を経る体制です。当社が組成・運用・販売するファンドへ出資する場合は、金額や応募時間を問わず顧客の買付を優先すること、当社が買付を行わない場合でも最低募集金額を満たすこと、ファンドによる資産の売却以前に当社が売却しないことを条件としています。
グループ会社と顧客の間で資産を売買する構造を持つ会社は、「価格をだれが、何を根拠に決めるか」「その判断をだれが牽制するか」を文書と会議体で示すことが重要です。これはグロース市場の実質審査基準でいう「企業経営の健全性」や「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」にかかわる論点です。
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内部監査・内部統制:少人数でどう回しているか
内部監査は、被監査部門と子会社から独立した共同社長執行役員直轄の内部監査室が担当し、専任の内部監査室長1名が「内部監査に関する規程」に基づき、当社の全部門と子会社を対象に実施しています。主な観点は、金融商品取引法等の法令遵守体制、リスク管理体制、各業務の遂行体制などの有効性・効率性です。
内部監査室長は、被監査部門等のリスク評価結果を反映した年間内部監査基本計画を策定し、監査役会と協議して取締役会の承認を得たうえで監査を行います。監査結果・指摘事項・改善提言・被監査部門の改善対応策は、取締役会、監査役会、共同社長執行役員に直接報告され、改善対応策の実施状況はフォローアップしたうえでコンプライアンス委員会と取締役会に報告されます。さらに内部監査室は、内部監査と財務報告に係る内部統制の評価の両方を担当していると記載されています。
図15 内部監査室は内部監査と財務報告に係る内部統制の評価の両方を担当し、結果を取締役会・監査役会・共同社長執行役員に直接報告する
報告先が社長だけでなく取締役会と監査役会にも及ぶ「デュアルレポーティング」の形がとられている点は、上場準備会社にとって参考になります。内部監査の報告先は社長だけでよいのかでも解説しているとおり、内部監査の独立性を高めるうえで有効な設計です。
一方、内部監査担当が1名の会社では、一般に、内部監査室自身の業務(内部監査の手続や、内部監査担当者が関与した業務)をだれが監査するかという「自己監査の回避」の整理が審査で確認されます。また、同じ担当者が内部監査とJ-SOXの評価を兼ねる場合は、年間の工数配分と評価範囲を計画段階で示しておくことが大切です。体制づくりの考え方は内部監査の人数と体制と内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)で整理しています。
監査役監査と三様監査
監査役会は常勤監査役1名と社外監査役2名で構成されます。常勤監査役の杉本高啓氏は東京証券取引所グループでの証券取引所実務・自主規制業務の経験を持ち、2023年1月に当社の内部監査室長として入社した後、2025年2月に常勤監査役に就任しています。社外監査役の鄭武壽氏は公認会計士・税理士、増島雅和氏は弁護士です。
最近事業年度は監査役協議会を月1回開催し(杉本氏・鄭氏とも9回中9回出席)、2025年12月の臨時株主総会で社外監査役1名が就任した同月から監査役会を設置しています。本書提出日時点の監査役会の開催回数は13回で、3名とも13回すべてに出席しています。常勤監査役は取締役会のほか、経営委員会、リスク管理委員会、コンプライアンス委員会、投資運用委員会などの重要会議に出席しています。監査役、内部監査室、会計監査人は定期的に連絡会を開催し、財務報告に係る内部統制に関する事項も対象としていると記載されています。三様監査の進め方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)をご覧ください。
内部統制システムと子会社管理
内部統制システムの整備に関する基本方針は、2026年4月20日の取締役会で決議されています。基本方針では、内部通報制度の設置と通報者の不利益取扱いの禁止、コンプライアンス委員会の設置、子会社管理に関する社内規程に基づく承認・報告体制、監査役を補助する使用人の独立性、財務報告の適正性確保のための体制などが定められています。米国子会社については、子会社の重要な業務執行状況を社内規程に基づいて承認・報告し、特に重要な事項は取締役会に報告すること、内部監査部門が子会社の内部統制の整備・運用状況を監査することが記載されています。
金融商品取引業者として、リスク管理委員会ではリスクの洗い出し・評価・対策の有効性の検証・残存リスクへの追加対策の立案を行い、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関する規程、個人情報保護に関する規程、システムリスク管理に関する規程なども整備しています。顧客から預託された金銭は顧客分別金信託として管理されており、2025年10月期末の預託金は490,280千円です。社内規程の整備の進め方はIPO審査の「社内規程」で解説しています。
会計・開示の論点:収益認識と投資有価証券の評価
収益認識:一時点と一定期間の区分
同社は、ファンドとの投資一任契約等に基づき、ファンドの組成から勧誘、運用、管理、処分までを行っています。重要な会計方針では、収益を次のように認識すると記載されています。
- 一時点で認識:申込手数料は、申込みのあった投資家に対する事務手続等が完了し、ファンドが成立した時点。成功報酬は、運用財産の売先を見つけ、価格の交渉、契約、売却、代金の精算及び分配といった一連の業務を完了し、分配金の通知を行った時点。
- 一定の期間にわたり認識:販売報酬、管理報酬、事務委託手数料は、運用期間の経過とともに履行義務が充足されるため一定の期間で認識。
- 返金負債:ファンドの組入銘柄の買付が出資金総額に満たない場合に手数料の一部を返金する契約のため、返金見込額を合理的に見積もって返金負債を計上。
図16 重要な会計方針「収益及び費用の計上基準」の記載から作成
契約負債(主にファンド手数料の前受収益)は第8期末で226,373千円(期首245,786千円)、残存履行義務に配分した取引価格は合計1,276,595千円(1年以内450,556千円、1年超2年以内320,471千円、2年超3年以内265,441千円、3年超240,125千円)と開示されています。収益の分解情報では、第8期はファンド手数料収入854,884千円、ファンド成功報酬853,832千円、その他報酬(主にコンサルティング報酬)49,459千円でした。
成功報酬のような変動対価は、「いつ確定したといえるか」の判断が利益に直結します。同社のように、分配金の通知という外部に確認できる事実で計上時点を定めておくと、監査でも審査でも説明がしやすくなります。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識で整理しています。
重要な会計上の見積り:投資有価証券の評価
重要な会計上の見積りとして挙げられているのは投資有価証券の評価です。第8期末の投資有価証券は213,616千円で、投資有価証券評価損41,868千円を計上しています。市場価格のない非上場株式等は取得原価で計上し、期末の実質価額が取得原価に比べて著しく低下した場合は、回復可能性が十分な根拠で裏付けられる場合を除き減損処理します。実質価額は投資先の1株当たり純資産価額または直近の資金調達価格を基礎に、超過収益力の毀損の有無や事業の進捗状況を総合的に勘案して算定し、1株当たり純資産価額を用いて評価損率を算定して50%以上の場合に「著しく低下」と判定すると記載されています。
図17 重要な会計上の見積り及び有価証券関係注記の記載から作成。2025年10月期の投資有価証券は213,616千円、評価損は41,868千円
第8期末の主な保有銘柄には、Nasdaq Private Market, LLC(C種優先株式、貸借対照表計上額77,049千円)があります。また、第9期第3四半期末には、米国子会社のウェアハウジング投資により連結の投資有価証券が1,879,258千円まで増えています。未適用の会計基準等として、「金融商品会計に関する実務指針」(移管指針第9号)の改正により一定の要件を満たす組合等への出資の構成資産である市場価格のない株式を時価評価できる定めが新設されたこと、2027年10月期の期首から適用予定で影響は評価中であることも開示されています。投資先の評価は、事業の性質上、今後も会計上の重要論点であり続けると考えられます。
そのほかの特徴的な注記と会計監査
税効果会計では、第7期末に税務上の繰越欠損金(法定実効税率を乗じた額)73,424千円(評価性引当額△65,454千円)がありましたが、第8期末には該当がなく、評価性引当額の減少の主な理由は見積将来課税所得の増加と記載されています。資産除去債務は、敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を見積もり当期負担分を費用計上する方法によっています。関連当事者情報は、第7期・第8期とも重要性が乏しいため記載を省略しています。重要な後発事象には、B1種優先株式の発行、米国子会社の設立、資本金の額の減少、優先株式の取得及び消却、子会社のSAFE契約が並んでいます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 監査法人 | 太陽有限責任監査法人(継続監査期間2年間) |
| 業務執行社員 | 杉江 俊志、石倉 毅典 |
| 補助者 | 公認会計士7名、その他9名 |
| 監査報酬(最近事業年度の前事業年度) | 監査証明業務12,900千円、非監査業務なし |
| 監査報酬(最近事業年度) | 監査証明業務19,800千円、非監査業務なし |
| 選定理由 | 規模とグローバルネットワーク、独立性、品質管理体制、専門性、監査報酬の水準、監査実績等を総合判断 |
監査役会が会計監査人の報酬等に同意した理由については、最近事業年度の末日において会社法上の会計監査人設置会社ではなかったため該当がないとされています。監査法人の選定時期の考え方は監査法人はいつまでに決めるかをご覧ください。
事業等のリスクと審査で問われやすい点
同社の事業等のリスクは、各項目に発生可能性(高・中・低)、発生時期、影響度(大・中・小)を付けて記載しています。主なものを整理すると次のとおりです。
| リスク項目 | 発生可能性 | 影響度 | 主な対応策(要約) |
|---|---|---|---|
| 投資先企業リスク | 中 | 大 | ステージ別の選定基準、投資運用委員会の決議、半期1回以上のモニタリング、簿価の75%以下でロスカット |
| 成功報酬に係るリスク | 中 | 大 | 継続的な手数料収入の積み上げ、流動性の高い銘柄の選定 |
| キーパーソン・組織体制リスク | 中 | 大 | 共同社長体制、マニュアル整備、複数名対応 |
| 利益相反に関するリスク | 低 | 大 | 利益相反管理規程・方針、類型化、委員会での牽制 |
| 金融商品取引業に係る法的規制等 | 低 | 大 | リスク管理委員会、コンプライアンス研修、外部専門家の活用 |
| 顧客資産の分別管理 | 低 | 大 | 分別管理に関する規程 |
| 個人情報管理・情報セキュリティ | 中 | 大 | 規程整備、研修、多層防御、BCP |
| 新株予約権の行使による希薄化 | 中 | 小 | 業績向上(潜在株式は発行済株式総数の11.4%) |
金融商品取引業の許認可については、名称・取得年月日・所管官庁等・許認可等の内容・有効期限・法令違反の要件及び主な許認可取消事由が一覧で示されています。第一種金融商品取引業(非上場有価証券特例仲介等業務)が2026年8月24日、第二種金融商品取引業が2018年7月11日、投資運用業が2020年3月5日の取得で、いずれも関東財務局長(金商)第3065号、有効期限の定めはありません。そのうえで「本書提出日現在において、これらの許認可の継続に支障を来す要因は発生しておりません」と記載されています。自主規制として一般社団法人第二種金融商品取引業協会と一般社団法人資産運用業協会の規則等の適用を受けている点も明記されています。
許認可が事業の前提となる会社では、取消事由に該当するおそれがないか、登録内容と実際の業務が一致しているかが、引受審査・取引所審査の両方で確認されます。主幹事証券の審査の観点は主幹事証券の引受審査では何を聞かれるかをご覧ください。
上場準備会社が学べること
HiJoJo PartnersのⅠの部から、上場準備会社が自社に置き換えて考えたいポイントを6つにまとめます。
図18 本記事で取り上げた実務上の示唆の整理
1. 許認可は「一覧表+取消事由」で示す
事業の前提となる許認可は、名称・取得日・所管・内容・有効期限・取消事由まで一覧で示し、継続に支障がないことを明記するのが基本形です。新しい業務を始める予定がある場合は、登録・変更登録のスケジュールを上場スケジュールと重ねて管理しましょう。
2. 収益の振れ幅は、リスク・MD&A・KPIで一貫して説明する
成功報酬の売上高比率(2025年10月期48.6%、2026年10月期中間期75.8%)のように、収益の変動要因を数字で示し、継続収益との関係をKPIで説明する書き方は、イベント依存型の収益を持つ会社全般に応用できます。
3. 種類株式は、取得条項→普通株式交付→消却→定款変更の順で整理する
同社は、取締役会決議(2026年6月12日)、取得と普通株式の交付・消却(6月30日)、種類株式の定款の定めの廃止(6月30日の臨時株主総会)を短期間で完了しています。発行時点から転換の手順を設計しておくことが、上場直前の作業を軽くします。
4. 直前期の割当は、継続所有の確約を前提に計画する
基準事業年度の末日の1年前より後の第三者割当等には、施行規則第268条(株式)や第272条(報酬としての新株予約権)による確約が必要です。資金調達や安定株主づくりのための割当は、確約の期間と上場スケジュールを踏まえて時期を決めましょう。上場準備の資本政策もあわせてご覧ください。
5. 利益相反の牽制は、会議体の構成と決議要件で見せる
投資運用委員会にコンプライアンス部と常勤監査役がオブザーバーとして出席し、5分の4以上の出席・賛成を要件とする設計は、「判断する人」と「牽制する人」を構造で分けた例です。グループ内取引や関係者との取引がある会社は、価格の根拠と承認ルートを文書化しておきましょう。
6. 少人数の管理部門は、役割分担と報告ラインで補う
内部監査室は専任1名で、内部監査とICFR評価の両方を担い、結果を取締役会・監査役会・共同社長執行役員に直接報告しています。人数が限られる場合ほど、報告ラインと三様監査の連携、外部専門家の活用を明確にしておくことが大切です。
上場準備のチェックリスト
- 事業の前提となる許認可を一覧化し、取消事由に該当するおそれがないかを定期的に確認している
- 変動の大きい収益(成功報酬など)の計上時点を、外部に確認できる事実で定めている
- 種類株式の普通株式への転換手順(取得条項・取得比率・消却・定款変更)を上場スケジュールに組み込んでいる
- 基準事業年度の末日の1年前より後の第三者割当等について、継続所有の確約が必要かを確認している
- グループ内取引・関係者との取引について、価格の根拠・承認ルート・牽制者を文書化している
- 内部監査の報告先を取締役会・監査役会にも広げ、自己監査の回避策を決めている
よくある質問
成功報酬の比率が高いこと自体が直ちに問題になるわけではありません。重要なのは、変動要因を事業等のリスクで開示し、継続収益の見通しや計上時点の判断基準を説明できることです。HiJoJo Partnersも成功報酬の売上高比率と、計上時期が外部環境に左右される特性をリスクとして明記しています。
そうとは限りません。従業員等に付与する権利確定条件付き有償新株予約権は、実務対応報告第36号により、サービスの対価でないことを立証できる場合を除きストック・オプションとして会計処理され、公正な評価額が払込金額を上回る部分は費用計上の対象になります。発行前に監査法人と会計処理を確認しておきましょう。
確約が必要なのは、基準事業年度の末日から起算して1年前より後に行った第三者割当等です(施行規則第268条、報酬としての新株予約権は第272条)。HiJoJo Partnersでは2025年12月と2026年2月のB1種優先株式(第268条)と、2024年11月に役職員へ割り当てた第9回新株予約権(第272条)が対象で、2022年7月のB種優先株式は対象期間外です。主幹事証券とのロックアップは、これとは別の制度です。
グロース市場の会社に適用されるのはコーポレートガバナンス・コードの基本原則のみで、独立社外取締役の人数に関する原則(改訂後の原則4-10)は適用されません。ただし独立役員を1名以上確保する義務はあります。HiJoJo Partnersは社外取締役2名を上場後に独立役員に指定する予定です。
最初の一歩は「収益の計上時点」と「許認可の一覧」を書き出すこと
上場準備を始めたばかりの会社は、まず自社の売上を種類ごとに分け、それぞれ「いつ、何を根拠に計上しているか」を一覧にしてみてください。あわせて、事業に必要な許認可と取消事由を書き出すと、審査で問われる論点の多くが見えてきます。準備の全体像はIPO準備 完全ガイド、現状把握の方法はショートレビューとはで解説しています。
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HiJoJo PartnersのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)
HiJoJo Partnersの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。
まとめ
HiJoJo Partners株式会社は、2026年10月26日に上場承認を受け、2026年11月20日に東証グロース市場へ上場する予定のアセットマネジメント会社です。Ⅰの部からは、成功報酬を中心とする変動の大きい収益の認識と開示、金融商品取引業者としての許認可・利益相反・顧客資産の管理、優先株式の普通株式への一本化や2回の減資、有償・信託型の新株予約権、直前期の第三者割当と継続所有の確約といった論点を具体的に読み取ることができます。
上場準備会社にとっては、「事実を数字と手続で示す」書き方そのものが参考になります。自社の収益構造や資本政策に置き換え、どの論点をどの順番で整えるべきかを早めに検討しておきましょう。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 新規上場会社情報「HiJoJo Partners株式会社 新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」
- 金融庁「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」
- 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コードの改訂に係る有価証券上場規程の一部改正について」
- 東京証券取引所「少数株主保護に関する上場制度の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について」
- 日本取引所グループ「上場審査基準概要(グロース市場)」
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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