収益認識基準の適用により、契約資産と契約負債という科目が登場しました。従来の売掛金や前受金とどう違うのか、どう使い分けるのかが実務の論点になります。
この記事では、顧客との契約から生じた債権、契約資産、契約負債の3つを整理し、貸借対照表での表示方法まで扱います。
- 契約資産と債権の違いと、使い分けの基準
- 契約資産が生じる場面と、債権への振替え
- 契約負債と前受金の関係
- 貸借対照表での表示と科目名の選び方
図 契約資産と契約負債と債権の判定
📌 3つの科目の関係
収益認識基準では、顧客との契約に関連して3つの科目が出てきます。それぞれの違いは、対価に対する権利の状態です。
契約資産と債権を分けるのは、法的な請求権があるかどうかです。
顧客との契約から生じた債権は、対価に対する法的な請求権がある状態です。従来の売掛金がこれにあたります。契約資産は、履行義務を充足して収益は認識したものの、請求権がまだ生じていない状態です。
📌 契約資産が生じる場面
契約資産が生じるのは、収益の認識と請求権の発生にずれがある場合です。
収益は認識したが請求できない状態を表すのが契約資産です。
典型的なのが、複数の履行義務があり、すべてを充足するまで請求できない契約です。設例のように、製品Aを引き渡しても、製品Bを引き渡すまで代金を請求できないのであれば、製品Aの分は契約資産になります。
一定の期間にわたって収益を認識する契約でも生じます。進捗度に応じて収益を認識しても、契約上の請求は完成後や特定のマイルストーン到達後という場合、認識した収益に対応する金額は契約資産です。従来の工事契約における工事未収入金に近い性質です。
📊 記載例
2つの履行義務のうち1つだけを充足した場合の、契約資産の計上です。
前提 製品Aと製品Bを合わせて1,000千円で販売する契約。取引価格の配分額は製品A600千円、製品B400千円。契約上、両方を引き渡した後に代金を請求できる。当期末までに製品Aのみを引き渡した。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 契約資産 | 600 | 売上高 | 600 |
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 1,000 | 売上高 | 400 |
| 契約資産 | 600 |
製品Aを引き渡した時点では請求権がないため、契約資産として計上します。
製品Bも引き渡して請求権が生じた時点で、契約資産600千円を売掛金へ振り替えます。
会社名と数値は架空です。契約資産は、収益を認識したが請求できない状態を表します。
契約資産にも、金融商品と同様に貸倒引当金を設定します。回収可能性の評価は、売掛金と同じ考え方で行います。
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📌 契約負債と前受金
契約負債は、財またはサービスを顧客に移転する前に対価を受け取った場合、または対価を受け取る期限が到来している場合に計上します。従来の前受金や前受収益に相当します。
注意したいのは、対価を受け取る期限が到来していれば、実際に入金がなくても契約負債を計上する点です。この場合、相手勘定は債権になります。請求書を発行して支払期限が来ているが、まだサービスを提供していないという状態です。
ポイント制度で繰り延べた収益、保守サービスの前受け、返金負債なども契約負債の性質を持ちます。それぞれを区別して管理する必要があります。
📌 貸借対照表での表示
契約資産と契約負債は、貸借対照表に区分して表示するか、注記で内訳を示します。科目名は必ずしも契約資産、契約負債とする必要はなく、実態に合った名称を使えます。工事未収入金、前受金といった従来の名称を使っている会社もあります。
どの名称を使う場合でも、注記では契約資産と契約負債の残高を示すことが求められます。また、期首の契約負債のうち当期に収益として認識した金額も開示します。この数値を出すには、契約負債の残高を契約ごとに管理し、取崩しの履歴を追える仕組みが必要です。
上場準備会社では、前受金を一括で管理していて、どの契約から生じたものかを追えないことがあります。注記の作成を見据えて、契約単位で管理できる仕組みを整えておくことをおすすめします。
科目の使い分けの整理から、残高管理の仕組みづくり、注記に必要なデータの設計までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
📌 消費税の認識時点との関係
会計上の収益認識と、消費税の課税売上の認識時点は必ずしも一致しません。消費税は資産の譲渡等を行った時点で認識するため、契約資産として計上している段階でも課税売上が生じている場合があります。
とくに、複数の履行義務のうち一部だけを充足した場合、会計上は契約資産として収益を認識していても、消費税法上は個々の資産の譲渡ごとに認識することになります。逆に、請求済未出荷契約のように、会計上は収益を認識していても引渡しが済んでいない場合は、消費税の認識が後になることがあります。
実務では、会計上の収益と課税売上の差異を管理する仕組みが必要になります。契約資産や契約負債の残高に対応する消費税を、どの時点で計上したかを追えるようにしておくと、申告の際の確認が容易になります。この差異が大きい会社では、税務調査でも確認される事項です。
❓ よくある質問
A. 貸借対照表で区分するか、注記で内訳を示す必要があります。一括して表示する場合は、注記で契約資産の残高を明らかにします。
A. 設定します。回収可能性の評価は債権と同じ考え方で行い、貸倒引当金を計上します。
A. 使えます。科目名は実態に合った名称で構いません。ただし注記では契約負債としての残高と増減を示します。
📄 まとめ
契約資産は、収益を認識したが請求権がまだない状態を表す科目です。法的な請求権が生じた時点で債権に振り替えます。契約負債は、移転前に対価を受け取った、または受け取る期限が到来した場合に計上します。
注記では、契約資産と契約負債の残高に加えて、期首の契約負債のうち当期に収益となった金額を示します。契約単位で残高と取崩しを追える仕組みを、早い段階で整えてください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
- 契約資産と契約負債(この記事)
- 契約コスト
- 法人税との差異
- 上場審査で問われる論点
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)