NOTAのIPO|優先株式8種類の整理とライセンス・アセットの収益認識【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年11月6日時点の公表資料に基づきます。

※本記事は、各社が東京証券取引所に提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」の公開情報に基づき、IPO実務の解説を目的として作成したものです。投資の勧誘を目的とするものではありません。

セカンドハウスブランド「NOT A HOTEL」を展開するNOTA株式会社(証券コード673A、旧商号 NOT A HOTEL株式会社)は、2026年11月6日に東京証券取引所の上場承認を受け、2026年12月9日に東証グロース市場へ上場する予定です。本記事では、同社が提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」を読み、上場準備の実務で参考になる論点を整理します。

結論からいえば、NOTAのⅠの部で特に学びが大きいのは、①8種類の優先株式と20回にわたる新株予約権を上場前に整理した資本政策の手順、②1つの販売契約をライセンス・アセット・償却保証金に分けて計上する収益認識と、その違いを補うKPIの開示、③子会社代表者の関係会社との取引や役員の暗号資産レンディングまで対象にした関連当事者取引の管理、の3点です。以下、事実はⅠの部の記載に基づき、そのうえで上場準備会社にとっての実務上のポイントを一般論として解説します。

この記事の論点を自社と比べられる「NOTAのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)」を、記事の後半で無料でお渡ししています。

NOTAはどのような会社で、いつどの市場に上場するのか

NOTA株式会社は、2020年4月に設立された会社です。創業者で代表取締役社長の濵渦伸次氏が保有していた青島プロジェクト株式会社の株式を現物出資して設立された経緯があり、Ⅰの部の沿革は青島プロジェクトが設立された2017年4月から記載されています。本店は東京都中央区晴海、決算期は3月で、直近の事業年度は第6期(2026年3月期)です。2026年10月に、事業領域をセカンドハウスから住宅・移動・街づくりへ広げるため、商号をNOT A HOTEL株式会社からNOTA株式会社に変更しています。

上場市場はグロース市場です。グロース市場では、コーポレートガバナンス・コードのうち「基本原則」のみが適用されます。また、上場審査の実質審査基準は「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」「企業経営の健全性」「事業計画の合理性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「その他公益又は投資者保護の観点」の5項目です。グロース市場で求められる成長可能性の考え方は、グロース市場の「高い成長可能性」とはで詳しく解説しています。

項目 内容(Ⅰの部の記載)
会社名 NOTA株式会社(旧会社名 NOT A HOTEL株式会社)
証券コード・市場 673A・東京証券取引所グロース市場
上場承認日・上場予定日 2026年11月6日・2026年12月9日
設立 2020年4月(青島プロジェクト株式会社株式の現物出資による)
本店所在地 東京都中央区晴海四丁目7番4号
代表者 代表取締役社長 濵渦 伸次
決算期 3月(第6期=2026年3月期)
事業 メンバーシップ事業・オペレーション事業・その他事業
グループ 当社、子会社18社、関連会社3社
従業員数 連結412名・臨時120名(2026年9月30日)、提出会社251名(平均年齢35.4歳)
機関設計 監査役会設置会社(取締役4名うち社外2名、監査役3名全員社外)
監査法人 HLB ESネクスト有限責任監査法人(継続監査期間2年間)

従業員数は、最近1年間(2025年10月〜2026年9月)で156名増加しています。Ⅰの部はその理由として、拠点開発の拡大、建築機能の内製化、新規拠点の開業に加え、「上場準備に伴う管理体制の強化」を挙げています。上場準備では管理部門の採用時期が審査スケジュールに直結するため、人員増加の理由を事業計画と結び付けて説明できるよう整理しておくことが大切です。

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事業内容と収益モデルはどうなっているのか

中核事業は、建築家・クリエイターと共創するセカンドハウス「NOT A HOTEL」の企画、開発、販売及び運営です。顧客は不動産の共有持分又は信託受益権の準共有持分を、ネットワークを利用できる権利(オーナーライセンス)と併せて購入し、年間10泊から360泊までの所有日数に応じて施設を利用します。オーナーが使わない日はホテルとして一般に貸し出され、管理費は初期購入価格の3%(年額)程度を基準に設定されています。さらに、子会社のNOT A HOTEL2nd株式会社が取引当事者となるセカンダリーマーケットプレイス「MARKETPLACE」を2025年10月から運用しています。

「NOT A HOTEL」の事業の流れ(概念図)用地の発掘・企画建築家と共創直販(建築前の先行販売)オーナー年10泊〜360泊ホテル運営未使用日を貸出MARKETPLACE二次流通管理費購入価格の3%程度セグメント(3区分)メンバーシップ事業ライセンス・アセット売上オペレーション事業宿泊・付帯・管理費その他事業NAC・街づくり・観光

図1 Ⅰの部「事業の内容」をもとに作成。用地の企画から直販、ホテル運営、二次流通までを一貫して担う構造です。

セグメントは、メンバーシップ事業(「NOT A HOTEL」とモビリティの「NOT A GARAGE」の販売)、オペレーション事業(ホテル・レストラン運営、オーナーサポート)、その他事業(暗号資産「NOT A HOTEL COIN(NAC)」、街づくり・コンサルティング、住宅プロダクト、観光船など)の3区分です。2026年9月末時点の開業拠点は10拠点48物件で、うち宿泊拠点は7拠点44物件です。2020年の事業開始から2026年9月末までの累計契約高は939億円(うちNOT A GARAGE事業24.3億円)、累計オーナー数は1,357名と記載されています。

なぜ売上高が年度によって大きく振れるのか

収益モデルの最大の特徴は、販売額が「ライセンス売上高」「アセット売上高」「償却保証金売上高」に分かれ、計上時期がそれぞれ異なる点です。ライセンス売上高は契約締結後、オーナー登録が完了した時点で計上され、直接紐づく売上原価はありません。アセット売上高は物件の開業時(既存物件は引渡し完了時)に計上され、同時に販売用不動産が売上原価に振り替わります。償却保証金は契約に定める期間(現行の契約では10年間)にわたり按分して収益を認識します。

このため、Ⅰの部は「物件の開業年度に多額のアセット売上高を計上することで大きく増加する一方で、各段階利益率は当該年度に低下する可能性」があると説明しています。取引価格の配分方法は後述の会計の章で詳しく見ます。

1つの販売契約を3つの履行義務に配分販売契約(取引価格)ライセンス売上残余アプローチで配分オーナー登録完了時アセット売上原価+利益相当額開業日/引渡し完了時償却保証金売上原価+利益相当額契約期間(10年)で按分メンバーシップ事業メンバーシップ事業オペレーション事業

図2 Ⅰの部の収益認識関係注記をもとに作成。ライセンスは取引価格の総額から他の履行義務への配分額を控除した残額で見積ります。

このようなビジネスモデルでは、主幹事証券や取引所から「契約から収益計上までのタイムラグをどう管理しているか」「開業遅延が業績予想にどの程度影響するか」を繰り返し確認されます。収益認識の論点が審査でどう問われるかは上場審査で問われる収益認識も参考にしてください。

沿革から上場までの道のりをどう読むか

Ⅰの部の沿革を見ると、2021年4月に宅地建物取引業者免許を取得し、2021年9月にAOSHIMAとNASUの販売を開始、2022年11月に第一号となるNOT A HOTEL AOSHIMAの運営を開始しています。2023年3月には第二種金融商品取引業者である株式会社ロケットメイカーズ(現 NOT A HOTEL2nd株式会社)の全株式を取得し、2024年12月にはNACのIEO(Initial Exchange Offering)で20億円を調達しました。

直前々期末の2025年3月には青島プロジェクト株式会社を株式交換で完全子会社化したうえで吸収合併し、2026年に入ってからは子会社の設立が相次いでいます。2026年7月から9月にかけて優先株式の整理と株式分割を行い、10月に商号を変更して、上場承認に至っています。

沿革から見る上場までの道のり2017年4月青島プロジェクト設立2020年4月現物出資で当社設立2022年11月AOSHIMAの運営開始2023年3月第二種金商業者を取得2024年12月NACのIEO(20億円)2025年10月MARKETPLACE開始2026年7〜9月優先株式の整理・分割2026年10月NOTAへ商号変更2026年12月9日グロース上場予定

図3 Ⅰの部「沿革」「発行済株式総数、資本金等の推移」をもとに作成。上場日は予定です。

創業者が設立前から関与していた会社(本件では青島プロジェクト)をどのように取り込むかは、上場準備でよく論点になります。NOTAは株式交換で完全子会社化した翌日に吸収合併しており、連結財務諸表上は「共通支配下の取引等」のうち非支配株主との取引として処理し、資本剰余金が163百万円減少したと記載しています。グループ再編は、資本政策と会計処理の両面から早めに設計しておくことが重要です。

また、事業等のリスクには許認可の一覧が掲載されており、宅地建物取引業者免許、一級建築士事務所登録、第2種旅行業、旅館業営業許可、飲食店営業許可、第二種金融商品取引業、旅客不定期航路事業許可など、グループ全体で多数の許認可を保有していることがわかります。Ⅰの部は、宅地建物取引業者免許を「セカンドハウスの販売の前提となる許認可」と位置付けています。許認可の審査上の見られ方はIPOで許認可はどこまで見られるかで整理しています。

業績はどう推移し、どう読めばよいのか

Ⅰの部には、連結財務諸表を作成し始めた第5期(2025年3月期)と第6期(2026年3月期)の連結経営指標と、第2期から第6期までの提出会社(単体)の経営指標が記載されています。第5期・第6期の連結財務諸表及び財務諸表は、上場規程に基づき金融商品取引法第193条の2第1項に準じてHLB ESネクスト有限責任監査法人の監査を受けています。一方、単体の第2期から第4期は会社計算規則に基づく数値で、監査証明は受けていません。

連結(百万円) 第5期(2025年3月期) 第6期(2026年3月期)
売上高 9,819 12,878
営業利益 1,099 1,075
経常利益 454 671
親会社株主に帰属する当期純利益 356 457
純資産額 11,863 15,048
総資産額 32,621 56,311
自己資本比率 34.2% 25.9%
営業活動によるキャッシュ・フロー 2,127 △2,571
投資活動によるキャッシュ・フロー △5,218 △3,168
財務活動によるキャッシュ・フロー 10,118 7,186
従業員数(臨時) 207(28) 352(105)

第6期の連結売上高は12,878百万円(前年同期比31.2%増)、販売費及び一般管理費は7,715百万円(同59.4%増)で、営業利益は1,075百万円(同2.1%減)でした。経常利益は前期に計上した株式交付費等の営業外費用が減少したため671百万円(同47.8%増)となっています。営業外費用には、支払利息251百万円、資金調達費用318百万円が計上されています。

提出会社(単体)の売上高の推移(百万円)03,0006,0009,00012,000第2期第3期第4期第5期第6期1083,8913,1548,22611,273

図4 Ⅰの部「提出会社の経営指標等」をもとに作成。第2期〜第4期は監査証明を受けていない数値です。

単体の売上高は、第2期108百万円から第6期11,273百万円まで推移しています。第2期は「設立直後であり、物件の開業を翌期に控えている中で販売費及び一般管理費の支出が増加したため」に経常損失・当期純損失を計上したと注記されています。第3期以降は単体で経常利益を計上しています。なお、収益認識会計基準は第3期の期首から適用されています。

連結第6期の売上高から営業利益まで(百万円)売上高12,878売上原価-4,087販管費-7,715営業利益1,075

図5 Ⅰの部の連結損益計算書(2026年3月期)をもとに作成。営業利益は1,075百万円です。

セグメント利益(営業利益ベース)を見ると、第6期はメンバーシップ事業2,307百万円、オペレーション事業△48百万円、その他△175百万円で、調整額△1,008百万円(うち全社費用△942百万円)を加えて連結営業利益1,075百万円となっています。

中間期と会計上の数値ではないKPIをどう読むか

第7期中間連結会計期間(2026年4月〜9月)は、売上高21,686百万円、営業利益4,310百万円、経常利益3,945百万円、親会社株主に帰属する中間純利益1,737百万円です。2026年4月に瀬戸内、7月に北軽井沢BASE3期、8月に青島2期が開業し、アセット売上高15,745百万円を計上したことが大きく寄与しています。なお、この中間連結財務諸表は監査ではなく、HLB ESネクスト有限責任監査法人による期中レビューを受けたものです。

NOTAは、契約高、累計オーナー数、開業拠点数、開業ハウス数、ホテル稼働率、契約済み未実現売上高、営業利益率を「客観的な指標」としています。契約高は「NOT A HOTEL」(二次流通を除く)と「NOT A GARAGE」の販売契約金額(償却保証金を除く)の合計で、当社以外が事業主となる物件の契約も含むため、連結売上高とは計上時期も集計範囲も異なります。契約済み未実現売上高は、契約済みで開業や引渡しが未了のため計上されていないアセット売上高の見込額です。

契約高と契約済み未実現売上高(百万円)010,00020,00030,00040,000第5期第6期第7期中間23,17133,04419,27817,31138,02137,017契約高契約済み未実現売上高

図6 Ⅰの部「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」をもとに作成。第7期中間の契約高は6か月分です。いずれも会計上の数値ではありません。

KPI 第5期 第6期 第7期中間
契約高(百万円) 23,171 33,044 19,278
累計オーナー数(名) 787 1,200 1,357
開業拠点数 6 9 10
開業ハウス数 25 33 44
ホテル稼働率 76.5% 74.9% 79.1%
契約済み未実現売上高(百万円) 17,311 38,021 37,017
営業利益率 11.2% 8.4% 19.9%

注目したいのは、Ⅰの部がKPIの定義を細かく書いたうえで、「両指標は当社グループ独自の経営指標であり、会計上の売上高、利益又はキャッシュ・フローを示すものではありません」「契約済み未実現売上高は、入金済額や貸借対照表上の契約負債を示すものではありません」と明記している点です。独自KPIを開示する場合、定義、集計範囲、会計数値との違いを明確にしておくことは、開示の適切性を確保するうえで欠かせません。審査では、KPIの集計が販売管理システムのどのデータに基づき、誰がどう検証しているかも確認されます。

ライセンス売上とアセット売上の推移(百万円)04,0008,00012,00016,000第5期第6期第7期中間3,9506,6934,3624,1034,12315,745ライセンス売上アセット売上

図7 Ⅰの部の収益認識関係注記・中間連結財務諸表注記をもとに作成(セグメント間取引を含む区分別の金額)。第7期中間は2026年4月〜9月の6か月です。

ライセンス売上とアセット売上の推移を見ると、第6期はライセンス売上6,693百万円、アセット売上4,123百万円であったのに対し、第7期中間はアセット売上が15,745百万円に増えています。開業のタイミングで売上高の構成が大きく変わることがわかります。

キャッシュ・フローと借入金の特徴は何か

第6期の営業キャッシュ・フローは2,571百万円の支出でした。契約負債の増加12,475百万円が増加要因となった一方で、棚卸資産(主に販売用不動産)の増加14,834百万円、前渡金の増加2,492百万円が減少要因です。中間期も営業キャッシュ・フローは6,125百万円の支出で、財務キャッシュ・フローは株式の発行による収入9,964百万円などにより14,621百万円の収入となっています。

有利子負債残高は2025年3月期7,575百万円、2026年3月期12,695百万円、第7期中間17,963百万円で、有利子負債依存度は23.2%、22.5%、28.2%と記載されています。同社は「当面の間20%以上の水準が続く見込み」としています。また、三井住友銀行とのコミットメントライン契約には、借主単体の純資産の部を正の値に維持すること等の財務制限条項が付されています(本書提出日時点で借入実行残高なし)。

不動産開発型のビジネスでは、先行販売で受け取る前受金(契約負債)と、プロジェクトごとの借入れで開発資金を賄う構造になりやすく、上場審査では資金繰り計画の精度と財務制限条項の管理体制が確認されます。NOTAは「各プロジェクトの売上総利益率は30%を目安に設計」し、建築前に販売を開始する「先行販売」を採用していると説明しています。

資本政策と株主構成から何が読み取れるのか

NOTAの資本政策は、Ⅰの部の中でも特に情報量が多い部分です。設立後に発行したA種優先株式に加え、2022年10月以降にA1種・A2種・B種・B1種・B2種・C種・C1種の7種類の優先株式を発行し(合計8種類)、J-KISS型新株予約権も3回にわたって優先株式に転換しています。その間に資本金を減らす減資を3回行い、上場直前に優先株式を普通株式に一本化しました。

資本政策の時系列(発行価格は分割前の1株当たり)2022年10月〜23年2月A1種(J-KISS型新株予約権の転換)・A2種(11,594円)2023年3月減資(減資割合95.1%)2024年6月B1種(28,250円)・B種(J-KISS型新株予約権の転換)2024年12月〜25年3月B2種(28,900円・株式交換)→ 減資(96.8%)2025年7月普通株式(23,200円・社員持株会)2026年1月〜2月C種(J-KISS型の転換)・C1種(49,496円)→ 減資(94.0%)2026年7月〜8月優先株式を普通株式へ/普通株式(62,150円)2026年9月1株を50株に分割(発行済74,817,200株)

図8 Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」をもとに作成。価格は2026年9月30日の株式分割前の金額です。

「発行済株式総数、資本金等の推移」によると、A2種優先株式は1株11,594円(割当先 株式会社オープンハウスグループ他)、B1種優先株式は28,250円(割当先は全て特定投資家)、B2種優先株式は28,900円、C1種優先株式は49,496円(割当先 Pleiad-Minerva Japan Growth Opportunities LP、株式会社セコイア他)で発行されています(いずれも株式分割前)。2025年7月には普通株式2,576株をNOT A HOTEL社員持株会に23,200円で割り当てています。

J-KISS型新株予約権は、第1回乃至第4回がA1種優先株式141,194株に、第5回がB種優先株式48,227株に、第6回がC種優先株式7,827株に転換されています。J-KISSの仕組みはJ-KISSとは何かで解説しています。

減資を3回行ったことをどう理解すればよいか

資本金の減少は、2023年3月31日(減資割合95.1%)、2025年3月7日(同96.8%)、2026年2月28日(同94.0%)の3回で、いずれも「財務体質の健全化を目的とした減資」と記載されています。「発行済株式総数、資本金等の推移」と株主資本等変動計算書によると、減少した資本金はいずれも資本準備金へ振り替えられています。

一般論として、資本金の額の減少は会社法447条、資本準備金の額の減少は448条に基づく株主総会決議に加え、449条の債権者異議手続が必要です(欠損填補目的の場合などは決議要件に特例があります)。減資によって資本金の額を一定以下に抑える判断は税務上の取扱いにも影響するため、上場準備では会計・税務・法務の担当者と主幹事証券が連携して、目的とその後の資本構成を説明できるようにしておくことが大切です。なお、資本金から資本準備金への振替は分配可能額を直接増やすものではない点にも注意が必要です。

8種類の優先株式をどのように普通株式に一本化したのか

NOTAは、2026年6月18日開催の取締役会で、全ての優先株式を定款に定める取得条項に基づき取得することを決議し、7月8日付で自己株式として取得、対価として優先株式1株につき普通株式1株を交付しました。取得した自己株式は会社法178条に基づき同日付で全て消却され、交付した普通株式は832,868株(分割前)です。その後、8月26日の臨時株主総会で各種優先株式に係る定款の定めを廃止し、同日に単元株制度(1単元100株)を採用、9月30日付で1株を50株とする株式分割を行い、発行済株式総数は74,817,200株となりました。

8種類の優先株式を普通株式に一本化した手順6月18日取締役会で取得を決議7月8日取得し普通株式を1対1で交付7月8日取得した自己株式を消却8月26日臨時総会で定款の定め廃止9月30日1対50の株式分割A・A1・A2・B・B1・B2・C・C1の8種類 → 普通株式832,868株(分割前)を交付

図9 Ⅰの部「株式の総数等」「自己株式の取得等の状況」をもとに作成(2026年)。

優先株式には、残余財産の優先分配やみなし清算条項などが付いていることが一般的で、上場時には普通株式への転換が前提となります。取得条項を使う方法、株主の取得請求権を使う方法など手順はいくつかありますが、いずれの場合も定款の定め、取締役会決議、株主名簿の書換え、登記といった事務を上場申請のスケジュールに合わせて逆算しておく必要があります。詳しくは種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかをご覧ください。

第三者割当の価格はどのように決められたのか

「第三者割当等の概況」には、基準事業年度の末日(2026年3月31日)の2年前の日以後に行った第三者割当等が記載されています。分割後の1株当たりで見ると、B1種優先株式565円(2024年6月)、B2種優先株式578円(2024年12月)、普通株式464円(2025年7月)、C1種優先株式989.92円(2026年1月)、普通株式1,243円(2026年8月)です。

第三者割当等の発行価格(分割後の1株当たり、円)03507001,0501,400B1種 24/6B2種 24/12普通 25/7C1種 26/1普通 26/8565円578円464円989.92円1,243円

図10 Ⅰの部「第三者割当等の概況」をもとに作成。B1種優先株式は類似会社比準方式、その他はDCF法により算出した価格を基礎としています。

発行日 種類 発行数(分割後) 発行価格 算定の基礎 割当先(主なもの)
2024年6月26日 B1種優先株式 7,790,000株 565円 類似会社比準方式 事業会社・個人等(全て特定投資家)
2024年12月25日 B2種優先株式 968,900株 578円 DCF法 中条貴之氏、De Capital TK 2nd
2025年3月6日 B2種優先株式 333,450株 578円 DCF法 青島プロジェクトの株主(株式交換)
2025年7月31日 普通株式 128,800株 464円 DCF法 NOT A HOTEL社員持株会
2026年1月16日 C1種優先株式 2,625,050株 989.92円 DCF法 Pleiad-Minerva、セコイア、JPSG等
2026年8月6日 普通株式 8,045,000株 1,243円 DCF法 トヨタ・インベンション・パートナーズ、SBIホールディングス等

Ⅰの部の注記によれば、B1種優先株式の発行価格は「類似会社比準方式により算出した価格を基礎として」、それ以外は「DCF法により算出した価格を基礎として」決定されています。また、特別利害関係者等の株式移動の価格も「株式の種類毎にDCF法により算出した価格を参考として、譲渡人と譲受人が協議の上、決定」したと記載されています。2026年8月6日には、同日の第三者割当と同じ1株1,243円で、ANRI4号投資事業有限責任組合などの既存株主や代表取締役2名、従業員から、株式会社セコイアやTT Lion Partners株式会社への株式譲渡も行われています。

上場前の株価算定では、同じ時期の取引で価格が異なる場合、その合理的な理由(株式の種類、算定方法、算定時点など)を説明できることが求められます。未上場株式の株価算定はどの方法を使うかもあわせて確認してください。

継続所有の確約とロックアップはどう違うのか

取引所の有価証券上場規程施行規則では、上場申請日の直前事業年度の末日(基準事業年度の末日)から起算して1年前より後に第三者割当等を行った場合、割当先との間で継続所有等の確約を行うことが求められます。NOTAの場合、基準事業年度の末日は2026年3月31日で、社員持株会への割当て(2025年7月)、C1種優先株式(2026年1月)、普通株式(2026年8月)について、割当てを受けた日から上場日以後6か月間を経過する日(その日に払込期日から1年を経過していない場合は1年を経過する日)まで所有する等の確約を行っていると記載されています。

報酬として役員・従業員に割り当てた新株予約権(第14回・第16回〜第20回)は施行規則272条に基づき上場日の前日又は行使日のいずれか早い日まで、社外協力者に割り当てた第15回新株予約権は施行規則270条に基づき上場日以後6か月間等の確約の対象です。これらは取引所規則に基づく制度であり、主幹事証券との合意で上場後の売却を制限する「ロックアップ」とは別の仕組みです。詳しくは上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。

上場申請時点の株主構成はどうなっているか

「株主の状況」によると、筆頭株主は代表取締役社長の濵渦伸次氏で、所有株式数24,732,650株(うち新株予約権による潜在株式3,189,000株)、潜在株式を含む総数90,087,750株に対する割合は27.45%です。続いて株式会社オープンハウスグループ(8.55%)、株式会社セコイア(6.18%)、ANRI4号投資事業有限責任組合(5.57%)、代表取締役の江藤大宗氏(4.97%、うち潜在株式4.83%)、トヨタ・インベンション・パートナーズ株式会社(4.47%)、SBIホールディングス株式会社(3.57%)と続きます。

上位株主の所有割合(Ⅰの部「株主の状況」)濵渦 伸次(代表取締役社長)27.45%㈱オープンハウスグループ8.55%㈱セコイア6.18%ANRI4号投資事業有限責任組合5.57%江藤 大宗(代表取締役)4.97%トヨタ・インベンション・パートナーズ㈱4.47%SBIホールディングス㈱3.57%Pleiad-Minerva Japan Growth Opportunities LP2.28%割合は潜在株式を含む総数90,087,750株に対する比率(濵渦氏・江藤氏は新株予約権を含む)

図11 Ⅰの部「株主の状況」をもとに作成。上場申請時点の数値であり、上場時(公募・売出し後)の比率とは異なります。

ここで注意したいのは、Ⅰの部の「株主の状況」の割合は上場申請時点のもので、しかも潜在株式を含む総数に対する比率だという点です。上場時には公募・売出しによって株主構成が変わるため、上場時の比率とは一致しません。また、所有者別状況(2026年9月30日現在)では、株主数208人の内訳は、その他の法人90人、外国法人等4人、個人その他114人で、所有株式数の割合はそれぞれ40.12%、4.13%、55.75%です。金融機関と金融商品取引業者は0となっています。

なお、関連当事者注記では、株式会社オープンハウスグループの子会社である株式会社オープンハウス・ディベロップメントが「主要株主の子会社」として記載され、不動産の共同開発に関する取引(第6期は不動産販売代金の回収1,258百万円)が開示されています。事業上の取引がある株主が大株主となる場合、取引条件の妥当性を説明できる資料を整えておく必要があります。

流通株式の数え方では、上場株式数の10%以上を所有する主要株主、役員等(配偶者及び二親等内の血族を含む)、役員等が議決権の過半数を所有する会社、自己株式などが流通株式から除かれます。上場時の株主構成を前提に流通株式比率を試算しておくことが重要です。計算方法は流通株式比率の計算式と調べ方で解説しています。

20回の新株予約権と潜在株式20.4%をどう読むか

NOTAは第1回から第20回までの新株予約権を発行しており、本書提出日現在の潜在株式数は15,270,550株、発行済株式総数74,817,200株に対する割合は20.4%です。有償で発行したもの(1個あたり70円〜398円)と無償で発行したものが混在しており、連結財務諸表の注記では有償発行分を「自社株式オプション」として新株予約権に計上し、第6期末の新株予約権残高は51百万円です。

新株予約権の発行形態と継続所有の確約有償で発行(10回)第1・2・4・8・9・11・12・15・17・19回無償で発行(10回)第3・5・6・7・10・13・14・16・18・20回第1回は信託で発行委託者 濵渦伸次受託者 鈴木康弘施行規則268条(株式)持株会・C1種・普通株式上場後6か月/1年施行規則272条(報酬)第14回・第16回〜第20回上場日の前日等まで施行規則270条第15回(社外協力者)上場後6か月/1年確約の対象(基準事業年度末日の1年前より後の割当て)

図12 Ⅰの部「新株予約権等の状況」「第三者割当等の概況」をもとに作成。確約は基準事業年度末日(2026年3月31日)から1年前より後の割当てが対象です。

回 決議日 目的株式数(分割後) 行使価額(分割後) 発行の形態・主な対象
第1回 2021年1月28日 655,450株 62円 有償・信託(受託者 鈴木康弘氏)
第2回 2021年1月28日 819,450株 62円 有償・取締役、監査役、社外協力者等
第3回 2021年1月28日 983,350株 61.64円 無償・従業員
第9回 2023年3月20日 492,500株 102円 有償・取締役、監査役、子会社取締役
第10回 2023年3月20日 1,303,650株 102円 無償・取締役、従業員
第11回・第12回 2024年11月・2025年1月 各692,300株 224円 有償・社外協力者
第13回 2025年2月6日 1,102,150株 224円 無償・取締役、従業員等
第19回 2026年2月16日 4,957,400株 500円 有償・取締役2名、従業員、子会社取締役
第20回 2026年7月16日 1,647,500株 1,243円 無償・取締役2名

有償の新株予約権には、一定の価額(判定価額)を下回る株式発行や取引が行われた場合、又は上場後の終値が判定価額を下回った場合に全部が行使できなくなる条件が付されています。第1回・第2回などは、2023年4月1日以降の判定価額を「行使価額に300%を乗じた価額」としています。

第1回新株予約権は、2021年1月28日の臨時株主総会決議に基づき、濵渦伸次氏を委託者、鈴木康弘氏を受託者とする信託に対して発行されたものです。将来の功績に応じて役職員等に分配する仕組みで、信託期間満了日は、7,865個が上場日から1年後、5,244個が上場日から2年後の応当日等とされています。

会計処理の観点では、実務対応報告第36号により、従業員等に付与する権利確定条件付き有償新株予約権は、原則としてストック・オプションに該当するものとして会計処理することとされています。NOTAの注記では、有償の新株予約権の公正な評価単価をモンテカルロ・シミュレーションで算定しており、例えば第19回は分割後1株7.96円(1個50株換算で398円)、第1回は1.40円(同70円)と、1個あたりの払込金額と同水準の数値が記載されています。そのうえで、ストック・オプションに係る費用計上額は第5期・第6期とも「該当事項はありません」とされています。無償発行分は、付与時点で未公開株式であるため本源的価値で評価し、株式価値はDCF法で算定したと記載されています。

上場準備会社が新株予約権を多く発行する場合は、回ごとの条件、評価方法、費用計上の有無、潜在株式比率を一覧で管理し、監査法人と早い段階で会計処理を合意しておくことが重要です。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例が参考になります。

特別利害関係者等の株式移動で何が開示されているか

「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2024年4月1日以降の移動が記載されています。代表取締役社長の濵渦伸次氏から、当社取締役の二親等内の血族が議決権の過半数を所有する会社や従業員、2025年6月に取締役に就任した杉田浩章氏、関係会社役員などへ、1株224円又は464円で「会社に対する貢献意欲向上のため」に譲渡した記録があります。2026年2月27日には、当時取締役であった申真衣氏へ753,800株を1株500円で譲渡しています。

また、2026年1月22日には多数のB1種優先株主がPleiad-Minerva Japan Growth Opportunities LPと株式会社セコイアに1株989.92円(C1種優先株式の発行価格と同水準)で譲渡しています。Ⅰの部の注記によると、NOTAは上場日から5年間、これらの移動状況の記録を保存し、取引所の提出請求に応じる必要があります。上場前の株式移動は、価格の根拠、移動理由、税務上の取扱いを一件ごとに説明できるよう記録を残しておくことが基本です。

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コーポレート・ガバナンスはどのように組み立てられているか

NOTAは、株主総会、取締役会、監査役会及び会計監査人を設置する監査役会設置会社です。取締役会は取締役4名(うち社外取締役2名)で構成され、毎月1回又は2回の定時取締役会を開催しています。監査役会は常勤監査役1名と非常勤監査役2名の3名で、全員が社外監査役です。取締役会を補完する機関として、経営会議(週1回)、任意の指名報酬委員会、リスク・コンプライアンス委員会を設置し、執行役員制度も導入しています(執行役員等9名)。

機関設計の全体像(監査役会設置会社)株主総会取締役会4名(うち社外取締役2名)監査役会3名(全員社外・常勤1名)指名報酬委員会委員長:社外取締役代表取締役2名会計監査人HLB ESネクスト経営会議週1回内部監査室室長1名・社長直属リスク・コンプライアンス委員会原則年4回

図13 Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの概要」をもとに作成。任意の委員会は取締役会の下に設置されています。

役職 氏名 主な経歴(Ⅰの部の要約) 所有株式数
代表取締役社長 濵渦 伸次 株式会社アラタナ設立・代表取締役、2020年4月当社設立 21,543,650株
代表取締役 江藤 大宗 JPモルガン証券、当社執行役員CFO等を経て2026年1月就任 124,500株
社外取締役 金坂 直哉 マネーフォワード取締役執行役員等 294,100株(注)
社外取締役 杉田 浩章 ボストン・コンサルティング・グループ日本代表等 223,250株
常勤監査役(社外) 德光 悠太 公認会計士・税理士、上場会社の取締役経験 -
監査役(社外) 永井 亮 弁護士(企業法務) -
監査役(社外) 松本 一範 事業会社のコーポレート部門、子会社役員等 -

(注)金坂直哉氏の所有株式数は、同氏の配偶者が代表を務める株式会社透が所有する株式数です。役員は男性7名・女性0名と記載されています。

最近事業年度の取締役会は19回開催され、濵渦氏は19回中18回、社外取締役の金坂氏は19回全てに出席しています。このほか、会社法370条に基づく書面決議が6回ありました。監査役会は11回開催され、3名とも全回出席です。取締役会の構成については、取締役の員数を7名以内とする定款の定め、選任決議の定足数を議決権の3分の1以上とする定め、累積投票によらない定めが記載されています。

社外役員の独立性はどのように判断されているか

NOTAは「社外役員の独立性判断基準」を定め、大株主(総議決権の10%以上を直接・間接に保有する者)やその業務執行者、主要な取引先(直近事業年度の年間連結売上高の2%以上の支払いを行う取引先等)、多額の金銭(年間1,000万円以上)を得ているコンサルタント等に該当しないことを求めています。社外取締役・社外監査役の一部はNOT A HOTELの購入等の通常の商取引を行っていますが、Ⅰの部は、いずれも一般顧客としての利用で取引金額も小規模であり、主要な取引先の基準を大きく下回るため独立性に影響を及ぼさないと判断した、と説明しています。

グロース市場の会社には、コーポレートガバナンス・コードの基本原則のみが適用されますが、独立役員の確保は上場規則上の義務です。なお、取引所は2026年7月の上場規則改正(7月10日施行)で、主要株主(議決権10%以上)やその業務執行者(最近において該当していた者を含む)等は、2026年12月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会の日の翌日から、独立役員の要件を満たさないこととしました。社外役員候補を選ぶ際は、株主構成と取引関係を早めに洗い出しておく必要があります。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かをご覧ください。

取締役報酬はどのように決められているか

取締役の金銭報酬の限度額は年額200百万円(2026年6月30日定時株主総会)、社宅借上げに係る非金銭報酬は年額30百万円以内、監査役の報酬限度額は年額30百万円です。報酬は固定報酬、業績連動賞与及び株式報酬等で構成され、業績連動賞与のKPIには「契約高」が選ばれています。社内取締役の固定報酬と業績連動報酬の標準的な構成割合は83.3:16.7で、社外取締役は固定報酬のみです。

個人別の報酬額は、取締役会の決議に基づき代表取締役社長の濵渦伸次氏に一任されており、その権限の行使にあたっては独立社外取締役が委員長を務める指名報酬委員会に諮問し、答申を踏まえて決定すると記載されています。最近事業年度の報酬総額は、取締役(社外取締役を除く)2名で64百万円(固定46百万円、業績連動18百万円、うち非金銭報酬5百万円)、社外役員6名で20百万円です。

取締役報酬の決め方株主総会年額200百万円以内取締役会代表取締役社長に一任指名報酬委員会諮問・答申代表取締役社長個人別の額を決定固定報酬 83.3社外取締役は固定報酬のみ業績連動賞与 16.7KPI:契約高の目標達成率このほか非金銭報酬(社宅、年額30百万円以内)、有償の新株予約権を付与

図14 Ⅰの部「役員の報酬等」をもとに作成。比率は社内取締役の標準的な構成割合です。

報酬の決定方針や代表取締役への委任の内容は、上場後は有価証券報告書の記載事項(開示府令)となります。代表取締役に個人別の報酬額の決定を委任する場合は、委任の理由と、権限が適切に行使されるための措置(任意の委員会への諮問など)をセットで説明できるようにしておくことが実務上のポイントです。

関連当事者取引はどのように管理されているか

事業等のリスクの「関連当事者等との取引について」では、連結子会社NOT A HOTEL MANAGEMENT株式会社の代表取締役である林亮治氏が議決権の過半数を有する会社又は代表者を兼務する法人との取引が開示されています。取引は「関連当事者取引管理規程」に従って取締役会で必要性と条件の妥当性を審議して事前承認を得ること、承認された取引は四半期に1回、実績とともに妥当性を取締役会で確認することとされています。

相手先 取引の内容 2025年3月期 2026年3月期
株式会社Haku 飲食代の支払い/賃料の受取り 4/8百万円 2/9百万円
バーガンディ株式会社 ワイン等の仕入れ 30百万円 32百万円
株式会社tousen 業務委託費 13百万円 13百万円

さらに、役員が子会社の発行する暗号資産NACのレンディングを行う場合は関連当事者取引として管理し、取締役会で取引の枠組みを審議・決議して定期的に報告していること、役員がNACを売買する場合はガイドラインに基づく事前申請・承認を求めていることも記載されています。関連当事者注記では、社外取締役の金坂直哉氏のNACレンディング(第6期27百万円)や、社外取締役の杉田浩章氏へのライセンス売上(同20百万円)も開示されています。役職員が自社プロダクトを購入・売却する場合については「自社プロダクト売買規程」で購入・売却の制限を定めています。

また、当社の不動産賃借取引について濵渦伸次氏から債務保証を受けていますが、保証料は支払っておらず、債務保証契約は上場日をもって解除される予定です。代表者による債務保証の解消は、上場審査で確認されることが多い項目です。

関連当事者取引の管理の流れ取引の必要性が生じる取締役会で必要性・条件を審議事前承認(規程に基づく)四半期ごとに実績と妥当性を確認子会社代表の関係会社ワイン仕入・業務委託役員のNACレンディング枠組みを取締役会で決議代表者による債務保証上場日をもって解除予定

図15 Ⅰの部「事業等のリスク(13)関連当事者等との取引について」をもとに作成。

関連当事者取引は「取引をゼロにすること」より、「必要性と条件の妥当性を、独立した立場から確認する仕組みがあること」を示すのが基本です。特に、本件のように重要な子会社の代表者が外部で事業を営んでいる場合や、自社発行の暗号資産のように新しい取引類型がある場合は、規程の対象範囲を広めに定義しておくことが有効です。IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)と社長個人と会社の取引はどう解消するかもあわせてご覧ください。

内部監査と内部統制はどのような体制か

内部監査は代表取締役直属の内部監査室が担当し、内部監査室は室長1名(米国公認会計士及び公認内部監査人の有資格者)で構成されています。「内部監査規程」と取締役会の承認を得た事業年度ごとの内部監査計画に基づき、当社グループの各部門の業務監査を行うほか、財務報告に係る内部統制の整備・運用状況の評価、資産の管理・保全の監査も行っています。

監査結果は代表取締役に直接報告され、改善が必要な事項は是正措置を求めてフォローアップします。さらに、事業年度末には年間の内部監査で検出された不備の一覧とその改善状況を、取締役会に直接報告しています。内部監査室と監査役は定期的に意見交換し、その内容は監査役会で共有され、必要に応じて社外取締役にも報告されます。

三様監査の連携監査役会常勤監査役は公認会計士内部監査室室長1名(USCPA・CIA)会計監査人HLB ESネクスト代表取締役へ直接報告年度末に不備一覧を取締役会へ定期的な意見交換監査計画・結果の共有定期的な会合

図16 Ⅰの部「監査の状況」をもとに作成。

内部監査担当者が1名の体制では、一般に審査で「内部監査部門自体の業務を誰が監査するのか(自己監査の回避)」「グループ会社まで計画どおりに監査できるのか」が確認されます。他部署の担当者が内部監査室を監査する相互監査の仕組みを規程に定めておく方法がよく用いられます。体制づくりは内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)と内部監査の人数と体制で解説しています。

リスク管理では、代表取締役の江藤大宗氏を委員長とし、Corporate部長、Legalグループの法務担当者、内部監査室長を委員とするリスク・コンプライアンス委員会を原則年4回開催しています。常勤監査役と社外監査役の永井亮氏もオブザーバーとして参加しています。法務部門が主導する四半期ごとのコンプライアンス研修を全社員必須で実施していることも記載されています。子会社については、「関係会社管理規程」に基づき主管部署が報告を受け、重要事項は当社の承認や取締役会への付議を求め、内部監査室が子会社を監査する体制です。三様監査の連携については監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)も参考にしてください。

会計・開示ではどこが論点になるのか

取引価格の配分と収益認識の時点

収益認識関係の注記では、セカンドハウス及びモビリティの契約における取引価格を、ライセンス、不動産・動産、償却保証金等の履行義務に配分すると記載されています。独立販売価格を直接観察できない場合、不動産・動産及び償却保証金などは「主に見積り原価に利益相当額を加算する方法」で、ライセンスは「取引価格の総額から他の履行義務へ配分した取引価格を控除した残額に基づき見積る方法」で算定しています。

アセット売上については、顧客は施設の利用権ではなく不動産の共有持分や信託受益権を取得し、未開業物件は開業時、既存物件は引渡し完了時に履行義務が充足されると判断しています。未開業施設の対価は通常、契約締結時・中間時・施設完成時に受領しますが、前受けは将来の提供を確保する目的で信用供与ではないため、重要な金融要素は含まないとしています。

第6期末の契約負債は連結貸借対照表で22,736百万円(前期末10,241百万円)、長期契約負債622百万円です。残存履行義務に配分した取引価格は43,054百万円で、1年以内20,409百万円、1年超2年以内17,215百万円、2年超3年以内1,206百万円、3年超4,223百万円と開示されています。第6期に認識した収益のうち期首の契約負債に含まれていた金額は2,394百万円です。

残余アプローチは、同じ財又はサービスを顧客によって幅広い価格帯で販売している場合や、価格が未設定で過去に単独販売したことがない場合に限って認められる見積方法です(収益認識適用指針31項(3))。採用する場合は、なぜその方法が適切か、他の履行義務の独立販売価格をどう見積もったかを文書化し、監査法人と合意しておく必要があります。収益認識基準 完全ガイドもご参照ください。

自社発行の暗号資産をどう会計処理しているか

子会社NOT A HOTEL DAO株式会社は、2024年12月にIEOでNACを発行し20億円を調達しました。Ⅰの部によれば、暗号資産の発行体の会計処理を定めた会計基準は現時点で明確ではないため、ホワイトペーパーの内容、トークンの性質及び資金使途等を踏まえて会計方針を決定したとされています。具体的には、受領した資金を「トークンエコシステムを構築する義務の対価」として契約負債に計上し、取得した資産(建物、附属設備等)の経済的耐用年数に基づき、一定の期間にわたり収益を認識しています。

発行時に自己に割り当てた450,000NACは対価を受領していないため資産として認識せず、第三者との取引が発生した時点で認識します(2026年3月末時点の未認識数量は368,557NAC)。一方、第三者から取得した自己発行NACは、実務対応報告第38号に準じて期末の市場価格で評価しています。NACに関する収益は、収益認識会計基準第3項(7)に該当するため「顧客との契約から生じる収益」には含めず「その他の収益」に区分されています。監査法人や外部の会計・税務専門家と協議したうえで決めた方針であることも記載されています。

自社発行の暗号資産(NAC)の会計処理IEOで20億円を受領契約負債に計上(収益認識基準を準用)物件の取得・耐用年数に応じて収益認識自己割当のNAC資産として認識しない第三者から取得したNAC時価評価(38号に準じる)表示区分「その他の収益」契約負債残高 2025年3月末19.9億円/2026年3月末19.4億円(第6期の収益認識額41百万円)

図17 Ⅰの部「事業等のリスク(31)」及び連結財務諸表注記をもとに作成。

重要な会計上の見積りと監査報酬

重要な会計上の見積りとして識別されているのは「繰延税金資産の回収可能性」で、第6期の計上額は377百万円です。主要な仮定は「プロジェクトごとの契約高、販売口数及び販売単価」とされています。税効果の内訳には「自己発行暗号資産」126百万円が含まれています。このほか、のれんは5年間の均等償却(第6期末残高140百万円)、株式交付費は支出時に全額費用処理、販売用不動産・仕掛販売用不動産は個別法による原価法(収益性の低下による簿価切下げ)です。リース会計基準(企業会計基準第34号)は2028年3月期の期首から適用予定で、影響額は評価中と記載されています。

区分 前連結会計年度 最近連結会計年度
監査証明業務に基づく報酬(提出会社) 22百万円 33百万円
非監査業務に基づく報酬 - -
連結子会社 - -
継続監査期間 - 2年間
業務執行社員 - 根岸 大樹、青木 淳
補助者 - 公認会計士7名、会計士試験合格者等13名、その他6名

このほか、連結子会社のNOT A HOTEL RUSUTSU特定目的会社が南青山監査法人に監査証明業務の報酬として1百万円を支払っています。監査報酬の決定方針は明文化されていないものの、監査計画・監査日数等を勘案し監査役会の同意を得て決定していると記載されています。監査法人の選定時期の考え方は監査法人はいつまでに決めるかで解説しています。

事業等のリスクと審査で問われやすい点は何か

事業等のリスクは32項目にわたり、それぞれに「顕在化可能性」「発生時期」「影響度」が付されています。影響度「大」とされているのは、法的規制、物件開発の遅延及び商品調達の遅滞、ブランドイメージの毀損、資金調達、開発用地の仕入れ、個人情報や営業上の機密情報の漏洩の6項目です。顕在化可能性が「高」とされたのは、リース会計基準の改正、原材料価格・人件費等の上昇、新株予約権の行使による株式価値の希薄化の3項目です。

リスク項目 顕在化可能性 発生時期 影響度
法的規制 中 特定時期なし 大
物件開発の遅延及び商品調達の遅滞 中 特定時期なし 大
資金調達 中 特定時期なし 大
リース会計基準の改正 高 1年以内 中
関連当事者等との取引 中 特定時期なし 中
暗号資産関連事業 中 特定時期なし 中
新株予約権の行使による希薄化 高 特定時期なし 小
特定人物への依存 中 特定時期なし 中
事業体制及び内部管理体制 低 特定時期なし 中

審査の観点では、特に次の点が問われやすいと考えられます。第一に、開業時期が期末をまたぐことで売上高が翌期にずれる可能性があり、Ⅰの部も「当連結会計年度の期末付近に開業・引渡しを予定している案件」で計上時期が後ろ倒しになる可能性を記載しています。グロース市場の「事業計画の合理性」の審査では、開業スケジュールと予算の前提を具体的に説明できることが求められます。第二に、特定人物への依存として、創業者に加え、子会社代表者の林亮治氏が複数の企業で代表取締役を兼務していることが挙げられ、権限移譲や兼務先のモニタリングの取組みが記載されています。第三に、暗号資産規制について、2026年7月に可決された金融商品取引法等の改正により、NACの発行・レンディングサービスに新たな規制が課される可能性が記載されています。

事業計画の審査の考え方はIPO審査の「事業計画の合理性」で詳しく整理しています。

上場準備会社がNOTAのⅠの部から学べること

NOTAのⅠの部から学べる6つの論点種類株式の整理取得条項→消却→定款変更価格算定の根拠DCF法/類似会社比準方式確約の対象範囲268条・270条・272条収益の分解と配分ライセンスは残余で見積り関連当事者の管理事前承認+四半期確認KPIと会計数値未実現売上高と契約負債

図18 本記事の整理。

1.種類株式の整理は「決議→取得・交付→消却→定款変更」の順で逆算する。NOTAは6月の取締役会決議から9月の株式分割まで約3か月で整理を終えています。種類が多いほど株主への説明と事務手続に時間がかかります。

2.発行価格の算定根拠を回ごとに残す。同じ時期でも株式の種類や算定方法(DCF法、類似会社比準方式)で価格が異なり得るため、算定書と決議資料を対応させて保管しておきます。

3.確約の対象を条文ごとに整理する。株式(268条)、報酬としての新株予約権(272条)、それ以外の募集新株予約権(270条)で確約の内容が異なります。基準事業年度末日の1年前より後の割当てを一覧にしておくと漏れを防げます。

4.収益の分解と配分方法を説明できるようにする。1つの契約に複数の履行義務がある場合、配分方法と計上時点の判断を文書化し、KPIとの違いも開示で明確にします。

5.関連当事者取引の対象を広く捉える。子会社代表者の関係会社、役員による自社サービスの利用、自社発行の暗号資産の取引など、事業特有の取引まで規程の対象に含めます。

6.新しい取引類型は会計方針を早く固める。基準が明確でない取引ほど、監査法人や外部専門家との協議の記録が重要になります。

  • 優先株式・J-KISS型新株予約権の転換手順と、定款変更・登記のスケジュールを上場申請日から逆算しているか
  • 第三者割当・株式移動の価格について、算定方法と算定書を回ごとに保管しているか
  • 基準事業年度末日の1年前より後の割当てを一覧化し、継続所有の確約の要否を確認しているか
  • 複数の履行義務がある契約の取引価格の配分方法と、計上時点の判断を文書化しているか
  • 独自KPIの定義・集計範囲と、会計上の数値との違いを開示資料で説明できるか
  • 関連当事者取引の範囲に、子会社役員の関係会社や役員による自社商品の購入等を含めているか

よくある質問

Q1. NOTAはいつ、どの市場に上場する予定ですか。

2026年11月6日に上場承認を受け、2026年12月9日に東京証券取引所グロース市場へ上場する予定です。

Q2. 優先株式はどのように普通株式に変わったのですか。

2026年6月18日の取締役会で取得条項に基づく取得を決議し、7月8日に全ての優先株式を取得して普通株式を1対1で交付し、同日に消却しました。8月26日の臨時株主総会で優先株式に係る定款の定めを廃止しています。

Q3. Ⅰの部の大株主の持株比率は上場後も同じですか。

同じではありません。Ⅰの部の「株主の状況」は上場申請時点の数値で、潜在株式を含む総数に対する比率です。上場時には公募・売出しによって株主構成が変わります。

Q4. 継続所有の確約はロックアップと同じですか。

異なります。継続所有の確約は取引所の上場規程施行規則に基づく制度で、基準事業年度末日の1年前より後の第三者割当等が対象です。ロックアップは主幹事証券との合意に基づく売却制限です。

最初の一歩は、資本政策の履歴と株式移動の記録を一覧にすることから

NOTAのⅠの部は、発行済株式総数の推移、新株予約権の各回の条件、特別利害関係者等の株式移動、第三者割当の算定方法が細かく記載されています。上場準備を始める会社は、まず設立以来の株式・新株予約権の発行と移動を、日付・株数・価格・算定方法・決議機関とともに一覧表にまとめてください。それだけで、資本政策の見直しが必要な箇所や、確約・開示の対象が明らかになります。資本政策の全体像は上場準備の資本政策で解説しています。

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NOTAのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)

NOTAの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。

まとめ

NOTA株式会社は、2026年12月9日に東証グロース市場へ上場する予定の会社です。Ⅰの部からは、8種類の優先株式と20回の新株予約権を上場前に整理した資本政策、ライセンス・アセット・償却保証金に取引価格を配分する収益認識と独自KPIの開示、子会社代表者の関係会社や役員の暗号資産取引まで対象にした関連当事者取引の管理など、上場準備で参考になる論点が多く読み取れます。自社の状況と照らし合わせ、早めに準備を進めてください。

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ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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