and USのTOKYO PRO Market上場|子会社合併と資産管理会社への株式集約【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

2026年7月15日、富山市に本社を置く株式会社and US(アンダス)が、東京証券取引所のTOKYO PRO Market(以下「TPM」)に上場しました。アイサロンなど美容サロン向けの「サロン専売コスメ」を企画・販売する会社で、上場に際して特定投資家向け取得勧誘等(一般市場の公募・売出しに当たる勧誘)は行わず、「発行者情報」を公表しての上場です。本記事では、JPXの新規上場会社情報に掲載された同社の発行者情報を読み、上場準備の実務で参考になる点を公認会計士の視点で整理します。

結論からいえば、and USのケースは「売上高5.5億円・従業員20名の地方のファブレス型コスメ会社が、直前1期の監査と担当J-Adviserの調査を経て、資金調達を伴わずにTPMへ上場した例」です。直前期に子会社2社を吸収合併して抱合せ株式消滅差損を計上したこと、創業者夫妻から資産管理会社への株式移動と資産管理会社への第三者割当で株主が3名に集約されていること、監査役1名と任意の諮問委員会という小さな会社なりのガバナンス設計など、規模の小さい会社がTPMを使うときに論点になりやすい項目がそろっています。

and USはどんな会社で、いつTPMに上場したのか

and USは、現専務取締役の廣岡香織氏が2009年11月に石川県野々市で始めた個人のアイサロンを前身とし、2012年6月に法人化された会社です。発行者情報によれば、法人化の背景は、サロン事業の拡大に伴う社会的信用の獲得と、永続的な経営基盤の構築(組織化)でした。現在は「美容で地域に灯美を」を経営理念に掲げ、美容サロン経営者の経営課題の解決を支援しながら、サロン専売コスメの企画・販売を主力としています。決算期は11月で、上場時点の直前事業年度は第14期(2025年11月期)です。

上場の手続面では、2026年6月11日に新規上場の申請が受け付けられ(同日に発行者情報を公表)、6月25日に上場承認、7月15日に上場しました。担当J-Adviserはフィリップ証券株式会社で、発行者情報の「事業等のリスク」によれば、取締役会決議に基づき2024年8月30日に担当J-Adviser契約を締結しています。申請受付から上場承認までは10営業日で、TPMで「原則として上場申請から10営業日後に上場承認」とされている流れどおりの日程です。

上場までの日程(and US)2024年8月30日J-Adviser契約締結2025年5月26日子会社2社を吸収合併2026年2月28日株式分割(1株→500株)2026年6月11日申請受付・発行者情報公表2026年6月25日上場承認2026年7月15日TPM上場申請受付から上場承認まで10営業日公募・売出し(特定投資家向け取得勧誘等)は行わずに上場

図1 発行者情報の記載とJPXの新規上場会社情報(申請受付日・上場承認日・上場日)をもとに作成

項目 内容
会社名 株式会社and US(アンダス)、証券コード597A
市場 東京証券取引所 TOKYO PRO Market
上場日 2026年7月15日
上場承認日 2026年6月25日
申請受付日 2026年6月11日(発行者情報の公表日)
担当J-Adviser フィリップ証券株式会社(2024年8月30日契約締結)
上場時の開示書類 発行者情報(特例110条3項。特定投資家向け取得勧誘等なし)
本店 富山県富山市
設立 2012年6月(創業は2009年11月の個人サロン)
決算期 11月(直前事業年度は第14期・2025年11月期)
事業 コスメ事業(サロン専売コスメの企画・販売、学習サービス「サロスタ」)、BLT(サロン)事業
従業員 20名(臨時3名)、平均年齢25.7歳(2026年6月11日現在)
会計監査 フェイス監査法人(第14期の財務諸表を監査)

従業員20名の内訳は、コスメ事業14名、BLT(サロン)事業4名、全社(共通)2名です。平均年齢25.7歳、平均勤続年数2.7年と若い組織で、発行者情報の「対処すべき課題」でも、新卒に加えて第二新卒や経験豊富なベテラン人材の採用を進め、組織の同質化を防ぐことが挙げられています。台湾に100%子会社(安達思燈美國際有限公司、2025年8月設立)がありますが、重要性が乏しいとして連結財務諸表は作成しておらず、発行者情報の財務諸表は単体です。

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なぜTOKYO PRO Marketだったのか

まず確認しておきたいのは、and USの発行者情報には「上場目的」や「TPMを選んだ理由」を独立して説明した項目がないことです。そのため、本記事では同社がTPMを選んだ理由を推測しません。発行者情報から読み取れる関連の記載は、株式分割の目的を「投資単位当たりの金額を引き下げることにより、より投資しやすい環境を整え、投資家層の拡大を図ること」としている点、「対処すべき課題」で「上場企業としての社会的責任を果たし、適正な運営を継続するための管理部門の質的向上」を掲げている点、事業資金について「資金調達手段の多様化に取り組む」としている点です。

一般論としては、TPMには、①株主数や利益の額などの形式基準(数値基準)がない、②上場適格性の調査・確認を担当J-Adviserが行う、③上場前の監査期間が「最近1年間」とされている、④開示は英語又は日本語で、四半期開示や内部統制報告書は任意とされている、といった特徴があります。一方で、TPMは特定投資家等を対象とした市場であり、一般投資家は取引所での買付けができません(保有株式の売却は可能です)。上場によって不特定多数の個人投資家から資金を集める市場ではない、という点は理解しておく必要があります。

東証は2026年4月3日にTPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、新規上場時に「上場目的」(なぜTPMに上場し、どう活用するか)を検討・開示するよう要請しています。これは東証の「お願い」であり規程上の義務ではありませんが、これからTPMを検討する会社は、自社が上場によって何を実現したいのかを言葉にしておくと、J-Adviserとの協議や社内の意思統一がしやすくなります。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。

TPMの上場の仕組みをand USの記載に当てはめる

TPMには一般市場のような形式基準がなく、上場適格性要件(企業としての相応性、事業の公正・忠実な遂行、ガバナンス及び内部管理体制、適正な開示を行える体制、反社会的勢力との関係がないこと等)を担当J-Adviserが調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を東証に提出します。「審査がない市場」ではなく、審査の主体が異なると理解するのが正確です。

and USの発行者情報にも、この仕組みが表れています。たとえば「運転資本」の項目では「上場予定日(2026年7月15日)から12か月間の当社の運転資本は、自己資金及び借入による資金調達が可能であることから十分である」と記載されています。上場適格性要件の「企業としての相応性」では、上場予定日から12か月間の運転資金の確保が確認項目とされており、それに対応する記載だと読めます。また、監査は第14期の財務諸表についてのみフェイス監査法人から受けており、第12期・第13期の数値は監査を受けていない旨が明記されています。これはTPMの監査期間が「最近1年間」であることと整合しています。

TOKYO PRO Marketの上場手続と上場適格性要件J-Adviser契約・調査意向表明申請の約30営業日前まで上場申請特定証券情報等を公表上場承認原則申請から10営業日後上場日担当J-Adviser(J-QS)が上場適格性を調査・確認し「上場適格性に係る宣誓書」を作成東証も意向表明後に面談を行う(「審査がない市場」ではない)上場適格性要件(5項目)企業としての相応性事業の公正・忠実な遂行ガバナンス・内部管理体制適正な開示を行える体制反社会的勢力との関係なし等

図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

上場時の書類にも注意が必要です。TPMでは、上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行う会社は「特定証券情報」を提供・公表しますが、and USはこれを行わないため、表紙に「特例110条3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表いたします」と記載した「発行者情報」で上場しています。上場後は、年次と中間の発行者情報を各期末後3か月以内に公表することになります。上場後の書類名は「有価証券報告書」「半期報告書」ではなく「発行者情報」です。

上場時の開示書類はどう決まるか(and USのケース)上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行うか行う場合特定証券情報を提供・公表(金融商品取引法27条の31)and US:行わない特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表上場後は年次・中間の発行者情報を、各期末後3か月以内に公表(年2回)財務諸表には監査証明、中間は中間監査又はレビューの意見・結論が必要行う行わない

図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成

一般市場(グロース・スタンダード)と何が違うのか

TPMはプライム・スタンダード・グロースの一般市場とは別の、特定投資家向けの市場(法令上は「特定取引所金融商品市場」)です。「グロース市場の一種」や「新興市場」と考えると、開示書類や審査の仕組みを取り違えます。主な違いを、JPXの公表資料をもとに整理すると次のとおりです。

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
買付けできる投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、保有株の売却は可能) 制限なし
形式基準(数値基準) なし 株主数・流通株式等の基準あり
上場適格性の調査 担当J-Adviserが調査・確認(宣誓書を提出) 東証の上場審査
申請から承認まで 原則10営業日(申請前に意向表明と面談) 審査期間を要する
上場前の監査期間 最近1年間 直前2期
上場時の開示書類 特定証券情報(又は発行者情報) 有価証券届出書・Ⅰの部等
上場後の定期開示 発行者情報(年次・中間、期末後3か月以内) 有価証券報告書・半期報告書
四半期開示 任意 取引所規則上の四半期決算短信
内部統制報告書 任意 必要

TPMの会社が将来一般市場を目指す場合でも、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではありません。JPXの公表事例では、TPMを申請により上場廃止したうえで一般市場に新規上場する形で行われています。東証は「26年秋めど」にTPM実績を勘案した一般市場上場審査の効率化や開示様式の共通化・簡素化を予定していると公表していますが、本記事の執筆時点(2026年10月7日)で実施済みかどうかは確認できていません。and USの発行者情報には、一般市場への市場変更など将来の計画の記載はありません。

何で稼いでいるのか:ファブレスのサロン専売コスメ

and USの事業は「コスメ事業」と「BLT(サロン)事業」の2セグメントです。主力のコスメ事業では、アイサロン・ヘアサロン・エステサロン・ネイルサロン向けの「サロン専売コスメ」を企画・販売しています。発行者情報によれば、当社は製品コンセプトの立案や仕様の策定を主導し、株式会社WSPをはじめとする製造販売許可を持つ製造販売業者に製品の供給を依頼し、完成品を仕入れて美容サロンに販売しています。薬事上の管理体制を専門業者に委託しつつ、美容サロンへのコンサルティングと営業に経営資源を集中する「ファブレス型」のビジネスモデルです。

主力ブランドは2017年に発売した目元特化型の「omeme(オメメ)」で、コスメ事業の売上の大部分を占めます。2025年3月に主力のまつ毛美容液(メーカー希望小売価格4,290円・税込)を大人女性向けにリブランディングし、導入店舗数は6,500店舗以上、商品数は2026年5月時点で10種類と記載されています。2023年10月にはヘアケア・スキンケアブランド「BIOteA(ビオテア)」を立ち上げ、市場をアイサロン中心からヘアサロン・エステサロンへ広げようとしています。

事業モデル:ファブレスのサロン専売コスメ(and US)製造販売業者(株式会社WSP等)製造・品質保証and US企画・仕様策定営業・物流美容サロンアイ・ヘア・エステネイルサロン来店客(店販で購入)eyedeal自社アイサロン現場検証の拠点サロスタサブスク型学習サービスコスメ事業:売上高495,755千円(第14期) BLT(サロン)事業:54,931千円主力ブランド「omeme」が売上の大部分、導入店舗6,500店舗以上代理店経由の売上はコスメ事業全体の3割以内に抑える方針完成品販売使用感・顧客の声経営支援

図4 発行者情報「事業の内容」をもとに作成。製造は製造販売業者に委託し、当社は完成品を仕入れて美容サロンに販売する

特徴的なのは、自社のアイサロン「eyedeal」を、コスメ事業の「現場検証・フィードバック拠点」と位置づけている点です。新製品の開発段階で、自社サロンの施術者が施術時の扱いやすさや仕上がりの維持感を検証し、来店客の満足度も直接集めています。また、美容サロン経営者向けのサブスクリプション型学習サービス「サロスタ」(月額0円・3,900円・7,800円の3プラン、動画コンテンツ200以上)を通じて、製品販売と経営支援の両面から顧客との関係を築いています。

商品企画・開発は製造元と分担しています。企画・商品の概要決定は当社のみ、試作品の作成や見積り、実際の製造は製造元、試作品の検証や発注は当社という分担が、発行者情報に表で示されています。ファブレス型の会社では、どこまでを自社が担い、どこからを委託先が担うのかが、品質責任や在庫リスクの所在を考えるうえでの出発点になります。

商品企画・開発の工程と担当工程担当企画・商品の概要決定当社のみ商品仕様の策定製造元と当社試作品の作成製造元試作品の検証当社見積り作成製造元発注(販売価格決定・稟議)当社商品の詳細仕様決定製造元と当社製造製造元に完全委託

図5 発行者情報「事業の内容」の工程表をもとに作成。企画・検証・発注は当社、試作・見積り・製造は製造元が担う

販売は、自社による直接販売が中心です。テレアポやDMによるプッシュ型営業、WEBサイトからの資料請求、既存顧客からの紹介で新規顧客を開拓し、導入後はサロン向けのECシステムで受注して自社の物流チームが発送します。代理店も一部活用していますが、代理店経由の売上高比率をコスメ事業全体の3割以内に抑える方針をとり、代理店とは代理店顧客への直接営業を行わない等の営業ルールを定めています。販売チャネルごとのルールを文書化しておくことは、上場準備で販売管理体制を説明する際にも役立ちます。

コスメ事業の販売チャネルand USコスメ事業(ア)自社による直接販売テレアポ・DM・資料請求・紹介オンライン商談中心サロン向けECで受注・自社物流(イ)代理店を活用した販売理念・営業手法を理解し専門的な説明ができる代理店に限定代理店経由は3割以内の方針導入後も店販のアフターフォロー・販売推進支援(「伴走型営業」)

図6 発行者情報「事業の内容」をもとに作成。代理店とは代理店顧客への直接営業を行わない等の営業ルールを定めている

沿革:個人サロンから上場まで

沿革を見ると、個人サロンとして始まった事業が、自社サロンの運営、コスメブランドの立ち上げ、教育事業へと広がってきたことが分かります。2016年1月に自社企画コスメのEC事業・HP制作事業を行う子会社コ・クリエーションを設立、2017年10月にOmeme.ブランドを立ち上げ、2020年8月に美容サロン向け教育事業(現サロスタ)をリリースしました。2024年8月には海外進出を目的に株式会社7VEERSの株式65%を取得して子会社化し、同月にフィリップ証券と担当J-Adviser契約を締結しています。

上場直前期の第14期には、2025年3月にコ・クリエーションと7VEERSを完全子会社化し、同年5月26日に両社を吸収合併しました。8月には台湾子会社を設立しています。上場準備期間中にグループの組織再編を行い、上場会社となる法人に事業を集約した形です。

沿革の主なできごと(and US)2009年11月個人サロン事業を開始2012年6月法人化(高岡市)2014年3月自社サロンeyedeal開業2017年10月Omeme.ブランド立上げ2020年8月教育事業(現サロスタ)2023年10月BIOteA立上げ2024年8月7VEERS子会社化J-Adviser契約2025年3月omemeへリブランディング2025年5月子会社2社を吸収合併2025年8月台湾子会社設立2023年以降:ブランド拡充と上場準備2023年10月のBIOteAは「事業の内容」、2024年8月のJ-Adviser契約は「事業等のリスク」の記載による

図7 発行者情報「沿革」等をもとに作成

業績はどう推移しているか

発行者情報の「主要な経営指標等の推移」には、第12期から第14期までの3期分の単体の数値が載っています。売上高は351,096千円、463,593千円、550,687千円と増収が続いています。一方、第14期は経常利益981千円に対して当期純損失26,379千円となり、純資産は11,331千円、自己資本比率は3.38%まで低下しました。なお、監査を受けているのは第14期の財務諸表のみで、第12期・第13期は監査を受けていない旨が注記されています。

項目(千円) 第12期(2023年11月期) 第13期(2024年11月期) 第14期(2025年11月期)
売上高 351,096 463,593 550,687
経常利益 2,405 8,821 981
当期純利益又は当期純損失(△) 1,785 2,388 △26,379
純資産額 35,321 37,710 11,331
総資産額 214,454 359,383 335,713
自己資本比率 16.47% 10.49% 3.38%
営業活動によるキャッシュ・フロー ― 30,713 △43,100
現金及び現金同等物の期末残高 ― 147,969 79,653
従業員数(臨時) 16(2) 21(1) 20(3)
売上高と利益の推移(単体)売上高0150300450600第12期第13期第14期351.1463.6550.7経常利益・当期純損益経常利益2.4経常利益8.8経常利益1.0当期純利益1.8当期純利益2.4当期純損失△26.4第12期第13期第14期第14期は抱合せ株式消滅差損30.8百万円を特別損失に計上して当期純損失

図8 発行者情報「主要な経営指標等の推移」をもとに作成(単位:百万円、千円単位を四捨五入)。監査を受けているのは第14期のみ

第14期の売上高は前期比18.8%増でした。発行者情報によれば、まつ毛美容液シリーズのリブランディングに合わせて「ブラックコーティング」を新たに発売したこと、既存顧客への販売促進、多店舗展開サロンの新規開拓が増収の要因です。営業利益は4,488千円(前期比13.6%増)でしたが、支払利息4,917千円などの営業外費用があり、経常利益は981千円にとどまりました。

セグメント別では、コスメ事業が売上高495,755千円(前期比21.7%増)、セグメント利益87,076千円(同35.0%増)、BLT(サロン)事業が売上高54,931千円(同2.5%減)、セグメント利益18,857千円(同2.5%減)です。BLT(サロン)事業は、売上構成比の高いメンバーが傷病休暇で長期欠勤した影響で2月から5月の売上が計画を下回ったと説明されています。両セグメントの利益合計105,934千円から、各セグメントに配分していない全社費用101,446千円を差し引くと、営業利益4,488千円になります。

第14期のセグメント利益から営業利益へコスメ事業+87,076BLT事業+18,857セグメント計105,934全社費用-101,446営業利益4,488営業利益4,488千円に営業外収益1,518千円、営業外費用5,025千円を加減して経常利益981千円

図9 発行者情報「セグメント情報」をもとに作成(単位:千円)。全社費用は各報告セグメントに配分していない費用

セグメント(千円) 第13期 売上高 第13期 セグメント利益 第14期 売上高 第14期 セグメント利益
コスメ事業 407,238 64,520 495,755 87,076
BLT(サロン)事業 56,355 19,346 54,931 18,857
調整額(全社費用) ― △79,914 ― △101,446
財務諸表計上額 463,593 3,952 550,687 4,488

収益の分解情報を見ると、コスメ事業の売上高は「化粧品売上」483,927千円と「コンサルティングサービス売上」11,827千円で構成されています。主要な販売先については、第13期に株式会社シンビシンへの売上高が79,339千円(17.1%)ありましたが、第14期は売上高の10%以上を占める相手先はありません。また、アイサロン業界は季節的な需要変動の影響を受けやすく、6月から12月に売上が偏る特性があると記載されています。月次の予算統制や中間期の業績を読む際には、この季節性を前提にする必要があります。

赤字の理由と純資産の変動

第14期の当期純損失の主な要因は、子会社2社の吸収合併に伴って特別損失に計上した「抱合せ株式消滅差損」30,832千円です。発行者情報の「事業等のリスク」でも、前事業年度は子会社の吸収合併による抱合せ株式消滅差損の計上で赤字になったこと、純資産11,331千円はこれが原因であることが説明されています。

その後、2026年5月26日に資産管理会社を割当先とする第三者割当(10,000株、総額10,000千円)の払込みが完了しています。また、2026年3月には北國銀行から50,000千円、北陸銀行と富山信用金庫から各20,000千円の計90,000千円を借り入れています。第14期末の有利子負債は262,388千円、有利子負債依存度は78.1%で、事業資金を主に金融機関からの借入で調達してきたことが分かります。

純資産と自己資本比率の変動第13期末37,710当期純損失-26,379第14期末11,3312026年5月26日 第三者割当10,000株・10,000千円自己資本比率10.49% → 3.38%有利子負債(第14期末)262,388千円(依存度78.1%)第三者割当後の純資産額は記載なし

図10 発行者情報の財務諸表・後発事象・株式の状況をもとに作成(単位:千円)。第三者割当は第14期末後の2026年5月26日

キャッシュ・フローを見ると、第14期の営業活動によるキャッシュ・フローは43,100千円の支出でした。税引前当期純損失29,851千円に加え、棚卸資産が39,394千円増加したことが主な要因です。発行者情報では、現預金の減少はリブランディング後の商品の仕入れによるもので、今後は大規模な仕入れを予定していないと説明されています。投資活動では、研修・民泊施設「RETREAT PLACE ASAHI」(富山県下新川郡朝日町)の建築などで有形固定資産の取得による支出が34,812千円ありました。

子会社2社の吸収合併はどう処理されたか

and USは2025年5月26日、完全子会社であった株式会社コ・クリエーション(WEBデザイン、マーケティング支援)と株式会社7VEERS(オンラインスクールの運営、美容用品の販売)を吸収合併しました。目的は「経営資源の効率化、組織及び事業の合理化」です。会計処理は「企業結合に関する会計基準」と同適用指針に基づく共通支配下の取引として行われています。

親会社が子会社を吸収合併する場合、親会社は子会社の資産・負債を合併直前の適正な帳簿価額で引き継ぎ、子会社株式の帳簿価額との差額を損益(抱合せ株式消滅差益又は差損)として処理します。発行者情報によれば、承継した資産・負債は、コ・クリエーションが資産4,428千円・負債6,151千円、7VEERSが資産1,919千円・負債6,929千円で、いずれも負債が資産を上回っています。前期末の関係会社株式16,350千円が当期末には2,548千円(台湾子会社)となっており、合併によって子会社株式が消滅したことが読み取れます。

子会社2社の吸収合併(共通支配下の取引)and US(吸収合併存続会社)株式会社コ・クリエーションWEBデザイン・マーケ支援2016年1月設立の子会社株式会社7VEERSオンラインスクール・美容用品2024年8月に65%取得2025年3月に完全子会社化 → 5月に吸収合併子会社株式の帳簿価額と承継した純資産の差額を「抱合せ株式消滅差損」30,832千円として特別損失に計上

図11 発行者情報「企業結合等関係」「沿革」等をもとに作成。効力発生日は2025年5月26日

上場準備の観点では、上場直前期に組織再編を行うと、①比較可能性が下がる、②損益に一時的な影響が出る、③再編の目的と会計処理を説明する必要が出る、という3点に注意が必要です。and USは、合併により前期比較が困難になることから、参考情報として合併前の連結経営指標(第12期・第13期、監査なし)も併記しています。子会社の整理を上場準備のどの段階で行うかは、上場準備の資本政策とあわせて早めに検討しておきたい論点です。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

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資本政策と株主構成:資産管理会社への集約

上場申請時点の株主は3名です。株式会社羽廣屋万九郎が228,000株(68.06%)、代表取締役の廣岡伸弥氏が57,500株(17.16%)、専務取締役の廣岡香織氏が49,500株(14.78%)を保有しています。羽廣屋万九郎は、廣岡伸弥氏とその近親者が議決権の100%を保有する資産管理会社です。発行済株式は普通株式335,000株のみで、新株予約権(ストック・オプション)や自己株式はありません。

上場申請時点の株主構成株式会社羽廣屋万九郎(資産管理会社)68.06%(228,000株)廣岡 伸弥(代表取締役)17.16%(57,500株)廣岡 香織(専務取締役・代表の配偶者)14.78%(49,500株)株主は3名、発行済株式335,000株(2026年6月11日現在)。新株予約権・自己株式なし

図12 発行者情報「株主の状況」をもとに作成。比率は発行済株式総数に対する所有株式数の割合

上場前の株式の動きは、次の3段階です。第一に、2025年11月30日(第14期末日)に、廣岡伸弥氏が235株、廣岡香織氏が201株を、資産管理会社の羽廣屋万九郎に1株19,716円で譲渡しました(株数・単価は株式分割前)。移動理由は「資産管理会社設立のため」で、価格は「原則的評価方式を参考として、当事者間での協議の上決定した価格」と記載されています。第二に、2026年2月28日に普通株式1株を500株に分割し、発行済株式は650株から325,000株になりました。単元株式数は100株です。第三に、2026年5月26日に羽廣屋万九郎を割当先とする第三者割当で10,000株(1株1,000円、総額10,000千円、全額を資本金に組入れ)を発行し、資本金は6,500千円から16,500千円、発行済株式は335,000株になりました。資金使途は新商品の開発・仕入・広報費用と海外市場への展開費用です。

上場前の株式の動き上場前発行済650株創業者夫妻が保有2025年11月30日資産管理会社へ436株を譲渡2026年2月28日株式分割1→500325,000株2026年5月26日第三者割当10,000株→335,000株株式移動の価格1株19,716円(分割前)原則的評価方式を参考に当事者間の協議で決定第三者割当1株1,000円・総額10,000千円全額を資本金に組入れ割当先は資産管理会社

図13 発行者情報「特別利害関係者等の株式等の移動状況」「第三者割当等の概況」「発行済株式総数、資本金等の推移」をもとに作成

TPMでは、上場日から5年間、直前事業年度末日の2年前(and USの場合は2023年12月1日)から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式等の移動状況について記録を保存することとされており、発行者情報の「株式公開情報」にその状況が開示されます。株式の移動や第三者割当の価格は、時期や方法によって異なり得るため、上場準備会社は「いつ、誰に、いくらで、なぜ」を算定根拠とともに記録しておくことが重要です。株価算定の考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うか、上場前の株式移動の注意点は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。

なお、TPMには一般市場のような株主数や流通株式の形式基準がありません。and USのように創業家と資産管理会社だけが株主という状態でも上場が可能であることは、TPMの特徴をよく表しています。他方で、株式分割の目的として「投資家層の拡大」が掲げられている点も記載されています。

ガバナンス:取締役6名・監査役1名と任意の諮問委員会

and USの取締役会は、取締役6名(うち社外取締役1名)と監査役1名(社外監査役)で構成され、毎月1回開催されます。議長は代表取締役の廣岡伸弥氏です。監査役制度を採用していますが、監査役は社外監査役1名で、監査役会は置いていません。社外監査役の大屋貴裕氏は税理士の資格を持ち、大学教授として経営学の学識経験を有すると記載されています。

TPMの上場適格性要件では、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が「企業の規模や成熟度等に応じて」整備され、機能していることが求められ、一般市場のような機関設計の形式要件は示されていません。and USの体制は、従業員20名規模の会社が、取締役会・監査役・会計監査という基本的な枠組みに、任意の諮問委員会を組み合わせた設計だといえます。機関設計の考え方はIPO審査の「機関設計」とは、監査役の常勤・非常勤については常勤監査役は必要かも参考になります。

機関設計(and US)株主総会取締役会(毎月1回)取締役6名(うち社外1名)議長:代表取締役監査役 1名(社外監査役)税理士諮問委員会(任意)社外取締役・社外監査役・外部有識者代表取締役内部監査管理部⇄業務部会計監査フェイス監査法人特例110条5項の監査選任選任監査諮問報告書・改善要望書

図14 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成。監査役会は置かず、監査役1名(社外)の体制

役職 氏名 主な経歴(発行者情報の記載から抜粋)
代表取締役 廣岡 伸弥 日本メナード化粧品を経て2012年の設立時に専務取締役、2016年1月から代表取締役
専務取締役 廣岡 香織 2009年11月にアイサロンを開業、2012年の設立時に代表取締役、2016年1月から専務取締役(代表取締役の配偶者)
常務取締役 浅川 海嵐 KIRIKAE株式会社代表取締役社長(現任)、2022年10月コ・クリエーション取締役、2026年2月から当社常務取締役
取締役管理部長 藤掛 和音 2019年2月入社、2025年2月から取締役管理部長
取締役営業部長 河内 湧矢 2020年4月入社、2025年2月から取締役営業部長
社外取締役 砂子 貴紀 合同会社くものうえ代表社員(現任)、2025年2月就任
社外監査役 大屋 貴裕 大屋会計事務所主宰、金沢星稜大学教授(2015年就任)、2025年2月就任

役員構成で目を引くのは、2025年2月に管理部長・営業部長の内部昇格者、社外取締役、社外監査役が一斉に就任し、2026年2月に常務取締役が加わっている点です。上場準備の過程で、管理と営業の責任者を取締役に加え、社外の目を入れる体制に移行したことが読み取れます。社外取締役・社外監査役とも、当社との人的関係、資本的関係、取引関係その他の利害関係はないと記載されています。

取締役会の諮問機関として、社外取締役1名、社外監査役1名、外部の有識者で構成する任意の諮問委員会を置き、取締役の選解任や報酬等に関する事項を審議・答申しています。第14期の役員報酬総額は82,015千円(取締役4名78,415千円、社外役員2名3,600千円、すべて固定報酬)です。社外役員が少ない会社でも、選解任や報酬の決定に外部の視点を入れる仕組みとして参考になります。定款では、取締役の員数を7名以内、監査役を3名以内とし、社外取締役・社外監査役との責任限定契約(会社法427条1項)も締結しています。

代表者の債務保証はどう整理されたか

関連当事者情報には、代表取締役の廣岡伸弥氏による債務保証が開示されています。金融機関からの借入に対する債務保証は、第13期末残高31,664千円でしたが、2025年5月に解消されています(解消時点の残高29,162千円)。一方、事業所等の賃貸借契約に対する債務保証は継続しており、保証対象物件の賃料合計は第13期9,383千円、第14期10,965千円です。いずれも保証料の支払はありません。2026年3月の新規借入も、無担保・無保証(北國銀行)又は富山県信用保証協会の保証付きと記載されており、代表者保証に頼らない調達に移行していることがうかがえます。

代表者による債務保証は、上場準備で「解消するのか、残すのか、残すならその理由は何か」を整理する代表的な関連当事者取引です。進め方は社長個人と会社の取引はどう解消するかで解説しています。

代表者による債務保証の状況代表取締役廣岡 伸弥金融機関からの借入の債務保証第13期末残高 31,664千円2025年5月に解消(解消時点の残高 29,162千円)事業所等の賃貸借契約の債務保証継続中保証対象物件の賃料合計第13期9,383千円・第14期10,965千円上場準備では、代表者保証の解消時期と残る取引の扱いを説明できるようにしておく

図15 発行者情報「関連当事者情報」をもとに作成。いずれも保証料の支払はない

内部監査と内部統制:小規模組織の相互牽制

内部監査は、管理部が主管部署として各部の業務を監査し、管理部自体の監査は業務部が行う「相互牽制」の体制です。各部の監査結果と改善点は、内部監査担当から代表取締役に報告書と改善要望書として提出されます。内部監査担当は監査役及び監査法人と連携し、三様監査を実施していると記載されています。

専任の内部監査部門を置く余裕がない会社では、内部監査の担当部署が自部署を監査する「自己監査」をどう避けるかが論点になります。and USのように主管部署の監査を別の部署が担う方法は、小規模な会社でよく使われる設計です。考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、三様監査の連携は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で詳しく解説しています。

内部監査の相互牽制と三様監査管理部(内部監査の主管部署)業務部代表取締役監査役監査社外監査役1名内部監査管理部・業務部会計監査フェイス監査法人三様監査(連携)各部の業務を監査管理部を監査報告書・改善要望書

図16 発行者情報「内部監査及び監査役監査の状況」をもとに作成

内部統制システムについては、職務権限規程の遵守により業務を分担し、特定の組織や担当者に業務や権限が集中しないようにしていると記載されています。リスク管理は管理部が主管部署として情報を一元化し、必要に応じて弁護士等の専門家から助言を受ける体制です。また、事業等のリスクでは、SNS広告や公式サイト等の表現が薬機法や景品表示法に抵触するリスクに対し、すべての広告物とSNS投稿について、コンプライアンス担当者(又は外部専門家)によるチェックを必須としていると説明されています。コスメを扱う会社にとって、広告表現の事前チェックは販売管理と並ぶ重要な統制です。

「対処すべき課題」では、外部のプロフェッショナル人材を活用しながら社内へのナレッジ移転を進め、管理業務の内製化を促進すること、監査役と内部監査担当者の連携を密にすることが挙げられています。TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、上場適格性要件として内部管理体制の整備・運用は求められます。小規模な会社ほど、体制図だけでなく、誰がどの統制を実際に運用しているかを説明できるようにしておくことが大切です。

会計・開示の論点

財務諸表は財務諸表等規則に基づき、日本の会計基準に準拠して作成されています。収益認識は、コスメ事業では商品等を顧客に引き渡した時点で収益を認識し、国内販売では出荷時から支配が顧客に移転されるまでの期間が通常の期間である場合には出荷時に認識しています。BLT(サロン)事業は、サービスの提供時点で収益を認識しています。出荷基準を使う場合は、出荷から引渡しまでの期間が「通常の期間」であることを説明できるようにしておく必要があります。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識も参考にしてください。

重要な会計上の見積りには、棚卸資産の評価と繰延税金資産の回収可能性が挙げられています。棚卸資産は移動平均法による原価法(収益性の低下に基づく簿価切下げ)で評価し、製造時点から一定期間が経過した商品や販売を停止した商品、関連する原材料等は処分見込価額まで切り下げています。第14期は商品評価損3,584千円を売上原価に含めています。ファブレス型で完成品を仕入れる会社では、リブランディングや旧パッケージの扱いが在庫評価に直結します。

収益認識と重要な会計上の見積りコスメ事業商品等の引渡時に収益認識国内販売は支配移転までが通常の期間であれば出荷時に認識BLT(サロン)事業サービスの提供時点で履行義務を充足→提供時点で収益認識見積り①棚卸資産の評価商品及び製品76,151千円原材料及び貯蔵品10,584千円一定期間経過品・販売停止品は処分見込価額まで切下げ(評価損3,584千円)見積り②繰延税金資産の回収可能性繰延税金資産3,849千円(純額)将来の課税所得の見積りは事業計画が基礎第14期は税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産3,761千円を計上

図17 発行者情報「重要な会計方針」「重要な会計上の見積り」をもとに作成

このほか、第14期は税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産3,761千円を計上しており、繰延税金資産の純額は3,849千円です。新しいリース会計基準(企業会計基準第34号等)は2028年11月期の期首から適用予定で、影響額は評価中とされています。監査については、フェイス監査法人が特例110条5項に基づき第14期の財務諸表を監査しており、監査証明業務に基づく報酬は7,000千円、非監査業務はありません。業務を執行した公認会計士は2名、補助者は公認会計士3名です。監査法人の選定時期の考え方は監査法人はいつまでに決めるかで解説しています。

事業等のリスクとJ-Adviser契約

事業等のリスクでは、主力ブランド「omeme」の約6割を株式会社WSPに依存していること(omeme製品10種類のうち8種類の製造販売元)が具体的に開示されています。契約期間は契約締結から2年間で、その後は1年ごとの自動更新、更新しない場合は3か月前までに書面で通知するとされ、契約解除事由も列挙されています。「対処すべき課題」では、新たな製造工場や製造販売元とのネットワークを構築し、製造占有率を段階的に分散する方針が示されています。依存の事実だけでなく、契約条件と対応方針まで書くことで、読み手がリスクの大きさを判断しやすくなります。

また、TPM上場会社に特有のリスクとして「J-Adviserとの契約について」が記載されています。担当J-Adviser契約はTPMにおける新規上場及び上場維持の前提となる契約であり、契約が解除され、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止になります。発行者情報には、債務超過、銀行取引の停止、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見などの即日無催告解除の条項(①から⑳。このうち④は、再建計画を開示した場合には原則として解除しない旨の定めで、解除事由ではありません)と、1か月の書面催告による解除、合意解除、1か月前の書面通知による解除の条項が開示されています。

発行者情報に記載された主な事業等のリスク事業内容特定仕入先への依存(omemeの約6割がWSP)特定業界・ブランドへの依存季節変動(6月~12月に偏重)在庫・品質・薬機法・景品表示法事業運営体制小規模組織代表取締役への依存内部管理体制個人情報の取扱い財務継続的な投資及び赤字計上純資産額(第14期末11,331千円)有利子負債依存度78.1%配当実績なしJ-Adviserとの契約契約解除+後任を確保できない場合は上場廃止解除条項①~⑳と事前催告の条項を開示

図18 発行者情報「事業等のリスク」の見出しをもとに作成(抜粋)

上場準備会社が学べること

and USの発行者情報から、TPMを含む上場準備で参考になる点を整理します。

論点 and USの記載 上場準備での示唆
上場の目的 上場目的の独立した記載はない。株式分割の目的に投資家層の拡大 TPMの性格(特定投資家向け)を理解し、上場で何を実現するかを言葉にしておく
監査期間 第14期のみ監査、第12・13期は未監査と明記 TPMの監査期間は最近1年間。監査法人との契約時期から逆算する
組織再編 上場直前期に子会社2社を吸収合併し、抱合せ株式消滅差損30,832千円 再編の時期・目的・会計処理を早めに決め、比較情報の示し方も検討する
株主構成 資産管理会社68.06%、創業者夫妻と合わせて株主3名 株式移動・第三者割当の価格根拠と記録を残す
ガバナンス 取締役6名(社外1名)、監査役1名、任意の諮問委員会 規模に応じた体制でも、外部の視点を入れる仕組みを用意する
内部監査 管理部が主管、管理部は業務部が監査 自己監査を避ける設計を明文化する
関連当事者 借入の代表者保証は2025年5月に解消、賃貸借の保証は継続 解消時期と残る取引の理由を整理する
財務基盤 純資産11,331千円、有利子負債依存度78.1% 上場後12か月の運転資本の説明を資金計画で裏付ける

特に、上場直前期の組織再編と株主構成の整理は、どの市場を目指す場合でも「やり直しがきかない」論点です。TPMは形式基準がない分、J-Adviserとの協議の中で、自社の規模や成熟度に応じた体制をどう説明するかが問われます。発行者情報は、その説明の結果が公開される書類だと考えると、準備段階から「何を書くことになるか」を意識しておくことができます。

  • 上場の目的(なぜTPMか、上場をどう活用するか)を社内で言語化している
  • 直前1期の監査に間に合うよう、監査法人と契約し、期首から監査対応できる体制にしている
  • 子会社の整理や合併などの組織再編の時期と会計処理を、監査法人・J-Adviserと協議している
  • 株式移動・第三者割当の価格の算定根拠と経緯を書面で残している
  • 内部監査で自己監査を避ける仕組み(相互監査等)を規程に定めている
  • 代表者保証などの関連当事者取引を洗い出し、解消又は継続の理由を整理している

よくある質問

Q1. and USは上場時に資金調達をしたのですか?

上場に際しての特定投資家向け取得勧誘等(一般市場の公募・売出しに当たるもの)は行っていません。上場前の2026年5月26日に、資産管理会社を割当先とする第三者割当(10,000株、総額10,000千円)を行っています。

Q2. TPMでは監査は何期分必要ですか?

TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」とされています。and USも第14期(2025年11月期)の財務諸表についてフェイス監査法人の監査を受けており、第12期・第13期は監査を受けていない旨を明記しています。

Q3. 株主が創業家と資産管理会社だけでもTPMに上場できるのですか?

TPMには株主数や流通株式などの形式基準(数値基準)がありません。and USも株主3名の状態で上場しています。ただし、担当J-Adviserによる上場適格性の調査・確認は行われます。

Q4. TPMに上場すれば、そのままグロース市場に移れますか?

TPMから一般市場への移行は市場区分の変更ではなく、TPMを申請により上場廃止したうえで一般市場に新規上場する形で行われています。and USの発行者情報には一般市場への移行計画の記載はありません。

最初の一歩は「上場の目的」と「直前1期の監査」の確認から

TPMを検討する会社が最初に行うべきことは、上場によって何を実現したいのかを整理し、そのうえで直前1期の監査に間に合うスケジュールを引くことです。J-Adviserとの契約、監査法人の選定、組織再編や株主構成の整理は、互いに影響し合います。まずは現状の体制と課題を棚卸しし、どの順番で手を付けるかを決めるところから始めましょう。準備の全体像はIPO準備 完全ガイドにまとめています。

まとめ

and USは、富山市を拠点にサロン専売コスメを企画・販売するファブレス型の会社で、2026年7月15日にTPMに上場しました。担当J-Adviserはフィリップ証券、上場時の書類は発行者情報で、公募・売出しは行っていません。発行者情報からは、直前期の子会社2社の吸収合併と抱合せ株式消滅差損、資産管理会社への株式の集約、取締役6名・監査役1名と任意の諮問委員会による体制、管理部と業務部の相互監査、代表者保証の解消、特定の製造委託先への依存とJ-Adviser契約の解除条項など、小規模な会社がTPMを使う際の論点を具体的に読み取ることができます。形式基準がないTPMだからこそ、自社の規模に応じた体制を「なぜこの形なのか」まで説明できるよう準備しておくことが大切です。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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