GinzaのTOKYO PRO Market上場|公募なしの上場と支配株主ガバナンス【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年11月3日時点の公表資料に基づきます。

水回りリフォームを手がける株式会社Ginza(以下「Ginza」)は、2026年12月7日にTOKYO PRO Marketへ上場する予定です。2026年11月2日に上場申請が公表され、同日に「発行者情報」が公表されました。担当J-Adviserは株式会社ジャパンインベストメントアドバイザーです。Ginzaは上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行わないため、表紙の書類名は「特定証券情報」ではなく「発行者情報」です。

結論からいえば、この事例の見どころは「公募・売出しを行わない上場」「監査を受けた期間が直近1期であること」「創業者が株式の大半を持つ会社の牽制の仕組み」の3点です。本記事では、発行者情報とコーポレート・ガバナンス報告書(以下「CG報告書」)の記載に沿って、上場準備会社が実務で参考にできるポイントを整理します。

Ginzaとはどんな会社か|会社と上場の概要

Ginzaは、居住マンション等のキッチン、浴室、トイレ、洗面所等の水回り設備の入替え設置を中心とした住宅リフォーム事業を営んでいます。報告セグメントは「住宅リフォーム事業」の単一セグメントで、関東、関西及び中部地域にショールームを構えています。本店は東京都中央区銀座のGINZA SIX 8階です。

現代表取締役社長の池田馨氏が1989年1月に大阪府吹田市で前身の「近畿流通」を創業し、1992年12月7日に法人改組しました。決算期は2月末で、直近の事業年度は第35期(2025年3月1日〜2026年2月28日)です。従業員数は2026年10月31日現在で50名(臨時雇用者1名を外数)、平均年齢44歳2ヵ月、平均勤続年数9年1ヵ月と記載されています。子会社・関連会社はなく、財務諸表は単体のみです。

項目 内容
会社名 株式会社Ginza(Ginza Corporation)
証券コード 672A
市場 TOKYO PRO Market
上場申請の公表日 2026年11月2日
上場承認日 未公表(2026年11月3日時点)
上場予定日 2026年12月7日
担当J-Adviser 株式会社ジャパンインベストメントアドバイザー
公表書類 発行者情報(特例110条3項に基づく公表)
事業 水回り設備を中心とした住宅リフォーム事業(単一セグメント)
設立 1992年12月7日
決算期 2月末
従業員数 50名[臨時1名](2026年10月31日現在)
発行済株式総数 830,000株(上場時も830,000株)
監査法人 みおぎ監査法人

上場までの流れを図にすると次のとおりです。TOKYO PRO Marketでは、上場申請は上場承認を希望する日の少なくとも10営業日前までに行い、東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認するという建付けです。Ginzaの上場承認日は、本記事執筆時点(2026年11月3日)ではJPXの一覧に記載されていません。

上場までのスケジュール(Ginzaの場合)担当J-Adviserの調査・確認上場申請の公表2026年11月2日上場承認原則10営業日後上場予定日2026年12月7日発行者情報・CG報告書等を公表※上場承認日はJPXの一覧に未記載(2026年11月3日時点)

図1 上場申請の公表日と上場予定日は発行者情報・JPXの公表による。上場承認日は2026年11月3日時点で未公表のため、制度上の原則(申請から10営業日後)を示した。

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なぜTOKYO PRO Marketなのか|上場の仕組みと一般市場との違い

発行者情報とCG報告書には、GinzaがTOKYO PRO Marketを選んだ理由や上場目的についての記載はありません。そのため本記事では会社の理由を推測せず、TOKYO PRO Marketという市場の特徴を一般論として整理します。なお東証は2026年4月から、新規上場時に「上場目的」を検討・開示するよう要請しています(東証の「お願い」であり、規程上の義務ではありません)。今後の適時開示で上場目的が示される可能性はありますが、本記事の時点では確認できていません。

TOKYO PRO Marketは、金融商品取引法上の「特定取引所金融商品市場」で、プライム・スタンダード・グロースの一般市場とは別の市場です。上場株式を買い付けられるのは特定投資家等に限られ、一般投資家は買付けができません(保有株式の売却は可能です)。株主数や流通株式、利益の額といった形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性要件への適合を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を東証に提出します。

TOKYO PRO Marketの上場の仕組み株式会社Ginza(申請会社)担当J-Adviserジャパンインベストメントアドバイザー東京証券取引所(上場の承認)発行者情報CG報告書 等特定投資家等(買付けが可能)調査・助言宣誓書の提出公表売買の場投資判断の材料

図2 J-Adviserが上場適格性を調査・確認し、東証が上場を承認する。公募・売出しを行わないGinzaは、上場時に発行者情報に相当する情報を公表している。

上場適格性要件は、①企業としての相応性(上場予定日から12か月間の運転資金の確保などを含む)、②事業を公正かつ忠実に遂行していること、③企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の整備・機能、④企業内容等の開示を適正に行える体制、⑤反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点、の5項目です。Ginzaの発行者情報にも、運転資本について「上場予定日(2026年12月7日)から12ヵ月間の当社の運転資本については、現状の自己資金の規模から、十分であると認識」との記載があります。

比較項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード等)
買付けできる投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可・売却は可) 制限なし
形式基準 なし(上場適格性要件5項目) 株主数・流通株式などの基準あり
審査の担い手 担当J-Adviserが調査・確認。東証は原則として申請から10営業日後に承認 取引所の上場審査(主幹事証券の引受審査も並行)
上場前の監査期間 最近1年間 通常、直前2期
上場時の開示書類 特定証券情報(勧誘を行わない場合は発行者情報に相当する情報) 有価証券届出書・新規上場申請のための有価証券報告書
上場後の定期開示 発行者情報(年次・中間、いずれも期末後3か月以内) 有価証券報告書・半期報告書
四半期開示 任意 取引所規則上の四半期決算短信
内部統制報告書 任意 提出が必要
開示言語 英語又は日本語 日本語

「発行者情報」で上場するとはどういうことか

TOKYO PRO Marketへの上場時に特定投資家向け取得勧誘(いわゆるプロ私募)や特定投資家向け売付け勧誘等を行う会社は、「特定証券情報」を公表します。これに対してGinzaの表紙には、「上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表」すると書かれています。東証の会社概要でも「特定投資家向け取得勧誘及び特定投資家向け売付け勧誘の予定」は「なし」、上場時発行済株式総数は830,000株で、現在の発行済株式総数と同じです。

つまりGinzaの上場は、公募による資金調達や既存株主の売出しを伴わないものです。TOKYO PRO Marketでは「上場=資金調達」とは限らず、2026年6月15日時点の東証の集計でも、上場目的として「増資」を挙げた会社は11社(10%)にとどまり、社内体制強化・営業力強化・採用力強化が上位でした。公募を行わない上場は、TOKYO PRO Marketではめずらしい形ではありません。

J-Adviserとの契約は上場維持の前提でもあります。Ginzaの発行者情報では、J-Adviser契約上の義務(上場適格性要件を継続的に満たすこと、適時適切な開示に努めること等)と、契約解除に関する条項が詳しく記載されています。義務違反の場合は、相当の期間(特段の事情のない限り1カ月)を定めた書面による催告を経て解除できるほか、合意解除や1カ月前の書面通知による解除の定めもあります。即日無催告解除の条項は①〜⑱の番号で列挙されていますが、このうち④は「③に該当することとなった場合でも、所定の再建計画を開示したときは原則として解除しない」という例外の定めであり、解除事由そのものは④を除く17項目です。

区分 J-Adviser契約の即日無催告解除事由(発行者情報より要約)
財務・倒産関係 ①債務超過、②銀行取引の停止、③破産手続・再生手続・更生手続(④は③の例外規定)
事業・組織再編 ⑤事業活動の停止、⑥不適当な合併等、⑬完全子会社化、⑯全部取得
開示・監査 ⑧発行者情報等の提出遅延、⑨虚偽記載又は不適正意見等
株式・株主の権利 ⑪株式事務代行機関への委託、⑫株式の譲渡制限、⑭指定振替機関における取扱い、⑮株主の権利の不当な制限
健全性・その他 ⑦支配株主との取引の健全性の毀損、⑩法令違反及び上場規程違反等、⑰反社会的勢力の関与、⑱その他

担当J-Adviserから契約解除の通知を受けた上場会社が、必要な期間内に別のJ-Adviserと契約を締結できなかった場合には上場廃止となります。Ginzaもリスク情報の中で、催告期間内に義務の履行や違反の是正ができない場合、又は代わりのJ-Adviserを確保できない場合には上場廃止につながる可能性があると記載しています。TOKYO PRO Marketを目指す会社にとって、J-Adviserとの関係は上場時だけでなく上場後も続く、という点は押さえておきたいところです。

事業内容と収益モデル|水回りに特化し、施工は外部に委託

Ginzaは自社を「水のプロ」と位置づけ、住宅設備の中でも使用頻度の高い水回りのリフォームの提案と施工を行っています。発行者情報では、事業の特徴として①水回り設備のリフォームに特化していること、②共通仕様の中低層マンションが中心であること(施工ノウハウの集約や仕入のボリュームディスカウントにつながる)、③同一の施工業者が複数工程を手がけることで、一般的に3〜4日程度かかる施工を1日程度で仕上げていること、④1年間無料点検、365日24時間サポート、3年・10年・15年保証などのアフターフォロー、の4点が挙げられています。

顧客は一般消費者で、売上高の10%以上を占める相手先はありません。受注後に、ユニットバスやシステムキッチン等の設備を販売代理店経由で発注し、設備は施工当日にメーカーから顧客宅へ直送されます。施工は全て委託先の施工業者に委託しており、当社の営業担当者が施工に立会って施工監督・品質管理を行う、という役割分担です。

Ginzaの事業モデル(水回りリフォーム)顧客(一般消費者)中低層マンション中心Ginza提案・受注・施工管理販売代理店仕入上位2社81.4%住宅設備メーカー(ユニットバス等)施工業者(全件を外部委託)発注・代金施工・保証設備発注発注施工委託施工当日に顧客宅へ直送

図3 受注後に販売代理店経由で設備を発注し、設備は施工当日にメーカーから顧客宅へ直送される。施工は全て外部の施工業者に委託し、営業担当者が立会う。

営業手法は、チラシ配布や広告掲載による「反響営業」が中心で、リフォームフェアやモデルルーム内覧会による「イベント営業」、ホームページや公式LINEを使った「Web営業」、OB顧客からの紹介による「紹介営業」を組み合わせています。施工後も一定の保証期間にわたって不具合箇所の修理やメンテナンスを無料で行い、既存顧客とのコミュニケーションを維持するとしています。

業務プロセスの流れ営業反響・イベントWeb・紹介受注工事請負契約仕入販売代理店へ発注施工外部施工業者(1日程度)アフター1年無料点検長期保証施工当日は営業担当者が立会い、施工監督・品質管理を行う

図4 発行者情報の「業務プロセスの概要と特徴」をもとに作成。施工は同一の施工業者がほぼ1名で行い、施工から仕上がりまで1日程度としている。

原価の構成を見ると、外部委託の比重がよくわかります。第35期の完成工事原価1,129,941千円の内訳は、材料費613,820千円(54.3%)、外注費504,175千円(44.6%)、労務費11,945千円(1.1%)です。地域別の売上高は、収益認識関係の注記で関東・関西・中部に分解されており、第35期は関東地域が1,698,992千円で、発行者情報のリスク情報では関東地域の売上高の占有率を81.4%(2026年2月期実績)としています。仕入面でも、卸販売代理店の上位2社が総仕入額の81.4%(2026年2月期)を占めると記載されています。

項目 第34期(2025年2月期) 第35期(2026年2月期)
売上高:関東地域 1,622,227千円 1,698,992千円
売上高:関西地域 492,324千円 344,457千円
売上高:中部地域 49,917千円 44,987千円
売上高 合計 2,164,469千円 2,088,437千円
完成工事原価:材料費 609,289千円(51.4%) 613,820千円(54.3%)
完成工事原価:外注費 538,411千円(45.4%) 504,175千円(44.6%)
完成工事原価:労務費 38,696千円(3.3%) 11,945千円(1.1%)

上場準備の観点では、施工を外部に委託するビジネスでは、委託先の選定・管理と品質の確保が内部管理の論点になります。Ginzaは委託先の施工業者を施工実績、施工品質、技術力、工期遵守力、接客力、コスト等の観点から厳選し、定期的な研修会を実施していると記載しています。また、営業面では消費者契約法、特定商取引法、景品表示法等、施工面では建設業法などの規制を受けており、国土交通大臣の一般建設業許可(内装仕上工事業・建築工事業、有効期限 令和11年9月13日)と東京都知事登録の一級建築士事務所登録(有効期限 令和9年3月19日)を取得しています。許認可の有効期間は法務担当者が継続的に更新できるよう配慮しているとのことです。許認可の管理についてはIPOで許認可はどこまで見られるかもあわせてご覧ください。

沿革と上場までの道のり

Ginzaの沿革は、地域ごとの分社化と再統合の歴史でもあります。1997年に東京支店、1998年に名古屋支店をそれぞれ分社化して100%子会社とし、2003年10月には当時の会社(現Ginza)を純粋持株会社化しました。その後2006年3月に、KRK株式会社を存続会社として、ケーアールケー株式会社、ケーアールケー株式会社大阪本店及び有限会社ユニティプランを吸収合併し、本社を東京都府中市に移しています。2008年4月に本社を銀座へ移して銀座ショールームを出店し、2008年9月にリモード銀座株式会社、2009年10月に現在の株式会社Ginzaへ商号を変更しました。

許認可や認証の取得も沿革に記載されています。2003年3月に都道府県知事の建設業許可、2007年3月に東京都一級建築士事務所登録、2007年12月に国土交通大臣の建設業許可を取得し、2004年12月にISO14001、2009年11月にプライバシーマークを取得しています。現在は子会社がなく、単体で事業を行っています。

沿革(主なできごと)1989年1月前身を創業(大阪府吹田市)1992年12月近畿流通㈱を設立2003年10月純粋持株会社化KRK㈱に商号変更2006年3月3社を吸収合併本社を府中市へ2007年12月国土交通大臣建設業許可2008年4月銀座へ本社移転銀座SRを出店2009年10月株式会社Ginzaに商号変更2026年12月7日TOKYO PRO Market上場予定

図5 発行者情報の沿革をもとに作成。2026年12月7日は上場予定日。

過去にグループ再編を行った会社が上場準備に入る場合、合併や持株会社化の経緯、許認可の承継、過去の会計処理が整理されているかを説明できるようにしておくことが大切です。Ginzaは発行者情報の中で、企業再編の変遷を図示しています。沿革は単なる年表ではなく、事業と組織がどう変わってきたかを読み手に伝える場所だといえます。

業績の推移|売上高は減少、経常利益は増加

発行者情報に掲載された主要な経営指標は、第33期から第35期までの3期分です。売上高は第33期2,281,542千円、第34期2,164,469千円、第35期2,088,437千円と推移しています。一方、経常利益は78,576千円、124,101千円、129,050千円と推移しました。第35期の当期純利益は39,353千円で、前期の71,264千円から44.8%減少しています。

項目 第33期(2024年2月期) 第34期(2025年2月期) 第35期(2026年2月期)
売上高 2,281,542千円 2,164,469千円 2,088,437千円
経常利益 78,576千円 124,101千円 129,050千円
当期純利益 37,328千円 71,264千円 39,353千円
純資産額 2,884,760千円 2,951,044千円 2,982,928千円
総資産額 3,180,828千円 3,254,537千円 3,322,470千円
自己資本比率 90.69% 90.67% 89.78%
自己資本利益率 1.30% 2.44% 1.33%
営業活動によるCF 102,964千円 119,277千円 141,577千円
1株当たり配当額 6.00円 9.00円 5.00円
従業員数 64名[3] 55名[2] 51名[1]
監査 監査を受けていない 監査を受けていない みおぎ監査法人の監査
業績の推移(第33期〜第35期)売上高0600,0001,200,0001,800,0002,400,000第33期第34期第35期2,281,5422,164,4692,088,437経常利益・当期純利益040,00080,000120,000160,000第33期第34期第35期経常利益当期純利益経常純利益78,576124,101129,05037,32871,26439,353

図6 単位:千円。第35期のみみおぎ監査法人の監査を受けており、第33期・第34期は監査を受けていない。

第35期について、発行者情報は売上高2,088,437千円(前年度比3.5%減)、営業利益122,734千円(同4.9%増)、経常利益129,050千円(同4.0%増)、当期純利益39,353千円(同44.8%減)と説明しています。物価高騰や消費の先送りの影響等により厳しい営業活動を余儀なくされた一方、手配達によるチラシ配布、リフォーム紹介サイトからの受注獲得、費用効果の高い営業活動や販売費及び一般管理費の節減に取り組んだとしています。リスク情報の「人材の確保及び育成について」では、「従業員の減員による減収基調が継続」しているとの会社自身の認識も示されています。

当期純利益の減少は、特別損失46,588千円(減損損失44,663千円、固定資産除却損1,924千円)によるところが大きく、法人税等の負担率も52.28%と法定実効税率34.60%を上回っています。税効果会計の注記では、その差異の主な要因として評価性引当額の増減(16.11%)が挙げられています。営業利益から当期純利益までの流れを図にすると次のとおりです。

第35期 営業利益から当期純利益まで営業利益122,734営業外収益+7,603営業外費用-1,287経常利益129,050特別損失-46,588税引前利益82,462法人税等-43,109当期純利益39,353

図7 単位:千円。第35期(2026年2月期)の損益計算書より。特別損失は減損損失44,663千円と固定資産除却損1,924千円の合計。

監査を受けたのは直近1期だけ

発行者情報の注記には、第35期の財務諸表は特例第110条第5項の規定に基づきみおぎ監査法人の監査を受けている一方、第33期及び第34期の財務諸表は監査を受けていない旨が明記されています。TOKYO PRO Marketの上場前の監査期間は「最近1年間」とされており、一般市場の新規上場で通常求められる直前2期の監査とは異なります。中間期の財務情報は今回の発行者情報には掲載されていません。

したがって、上の表のうち第33期・第34期の数値は監査を受けていない数値です。上場後は年次と中間の発行者情報をそれぞれ期末後3か月以内に公表する必要があり、中間の財務諸表にも中間監査意見又は期中レビューの結論などが求められる建付けです。監査法人をいつ決めるかは監査法人はいつまでに決めるかで詳しく解説しています。

監査を受けた期間第33期(2024年2月期)監査を受けていない第34期(2025年2月期)監査を受けていない第35期(2026年2月期)みおぎ監査法人の監査TOKYO PRO Marketで求められる上場前の監査期間:最近1年間(一般市場の新規上場では、通常、直前2期分の監査が求められる)

図8 第35期の財務諸表は特例110条5項に基づきみおぎ監査法人の監査を受けている。第33期・第34期は監査を受けていない。

財政状態では、第35期末の総資産3,322,470千円に対して純資産2,982,928千円、自己資本比率89.8%です。借入金等明細表は「該当事項はありません」とされ、金融商品の注記でも「必要な資金を自己資金で賄って」いると記載されています。一方で有形固定資産は2,154,074千円(うち土地1,346,715千円、建物797,825千円)と総資産の大きな割合を占めており、主要な設備の状況を見ると、府中、横浜菊名、名古屋、自由が丘、成城、埼玉浦和などのショールームの多くが自社保有の土地・建物です。この点は後で述べる減損の論点につながります。

資本政策と株主構成|株主3名、創業者が大半を保有

Ginzaの発行済株式総数は830,000株(普通株式のみ、単元株式数100株)で、発行可能株式総数は3,200,000株です。2018年11月13日に1株を20株とする株式分割を行い、現在の株式数になっています。種類株式や自己株式はありません。所有者別状況(2026年10月31日現在)では、株主数は3名(区分はいずれも「個人その他」)です。

CG報告書の大株主の状況では、池田馨氏が797,000株(96.0%)、池田香氏が30,000株(3.6%)、株式会社Ginza従業員持株会が3,000株(0.4%)で、支配株主は池田馨氏と記載されています。発行者情報の「株主の状況」では、新株予約権による潜在株式28,300株を含めた858,300株を分母として、池田馨氏92.86%、池田香氏3.50%、従業員持株会0.35%、潜在株式3.30%と表示されています。いずれも上場申請時点の数値であり、上場時に公募・売出しを行わないため、上場時の発行済株式総数も830,000株のままです。

株主 所有株式数 発行済株式に対する割合 潜在株式を含む総数に対する割合
池田 馨(代表取締役社長) 797,000株 96.0% 92.86%
池田 香(取締役副社長・社長の配偶者) 30,000株 3.6% 3.50%
株式会社Ginza従業員持株会 3,000株 0.4% 0.35%
新株予約権(取締役2名・従業員) 潜在株式28,300株 ― 3.30%
合計 830,000株(潜在株式を含め858,300株) 100% 100.00%
株主構成(2026年10月31日現在)発行済株式(830,000株)池田 馨 797,000株(96.0%)池田 香 30,000株(3.6%)・従業員持株会 3,000株(0.4%)潜在株式を含む総数(858,300株)池田 馨 92.86%池田 香 3.50%・持株会 0.35%・新株予約権(潜在株式28,300株)3.30%

図9 上段は発行済株式830,000株に対する比率(CG報告書の大株主の状況)、下段は新株予約権の潜在株式を含む858,300株に対する比率(発行者情報「株主の状況」)。いずれも上場申請時点の数値。

株主数や流通株式の形式基準がないTOKYO PRO Marketでは、このように株主がごく少数のまま上場することもできます。一方で、支配株主がいる会社では、支配株主との取引の健全性や少数株主の保護が上場適格性の観点からも重要になります。J-Adviser契約の解除事由にも「支配株主との取引の健全性の毀損」が含まれています。創業者の持株比率の考え方は創業者の持株比率はどこまで下げてよいかで整理しています。

第10回新株予約権と従業員持株会

Ginzaは、2025年2月25日の臨時株主総会及び臨時取締役会の決議により、取締役及び従業員を対象とする第10回新株予約権(ストック・オプション)を付与しました。当初は290個(29,000株)で、退職等により従業員3名の合計700株分の権利が喪失し、2026年10月31日現在は283個(28,300株)です。行使時の払込金額は1株3,800円、行使期間は2027年2月26日から2035年2月25日までで、株式が国内又は国外の金融商品取引所に上場していること、行使時に当社の取締役・監査役・従業員の地位にあること(任期満了による退任、定年退職その他正当な理由がある場合を除く)などが行使の条件です。

取得者の概況では、取締役の田村康博氏が6,000株、栗田俊一氏が4,000株、従業員の内田卓氏・小川正幸氏が各3,000株、加藤南斗氏・吉原友樹氏が各2,000株と記載され、目的となる株式が1,000株以下の従業員22名(合計8,300株)の記載は省略されています。

第10回新株予約権(ストック・オプション)の概要2025年2月25日臨時株主総会・取締役会で決議付与対象取締役2名・従業員行使価額3,800円行使期間2027年2月26日〜2035年2月25日主な行使条件株式の上場行使時の在籍残高:283個・28,300株(従業員3名分700株が権利喪失)公正な評価単価:本源的価値で見積り株式報酬費用の計上額:なし

図10 発行者情報の新株予約権等の状況・ストック・オプション等関係注記より。権利確定条件・対象勤務期間の定めはない。

会計面では、ストック・オプション等関係の注記で、付与時点で未公開株式であったため公正な評価単価を単位当たりの本源的価値で見積もり、その算定基礎となる株式価値を簿価純資産価額方式と収益還元方式の折衷法で算定したと記載されています。販売費及び一般管理費の株式報酬費用は「-」で、権利確定条件と対象勤務期間の定めはありません。未公開企業がストック・オプションを付与する場合、公正な評価単価に代えて本源的価値によることができるため、行使価額が株式価値を下回らなければ費用が生じないことになります。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例、税制面の論点は税制適格ストックオプションが参考になります。

同じ2025年2月25日には、代表取締役社長の池田馨氏から従業員持株会へ300株が1株3,800円(総額1,140,000円)で譲渡されています。移動理由は「従業員の士気向上のため」で、価格は簿価純資産価額方式及び収益還元方式により算定された価格を参考に、譲渡人と譲受人が協議して決定したとされています。新株予約権の発行価格(行使価額)も同じく簿価純資産価額方式及び収益還元方式により算定した価格を参考にしており、同じ日の2つの取引で価格の根拠がそろっていることがわかります。未上場株式の価格の決め方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うか、持株会については従業員持株会はいつ作るかで解説しています。

TOKYO PRO Marketでも、上場前の株式等の移動や第三者割当等には規制があります。発行者情報によれば、特例第115条及び同施行規則第106条により、新規上場申請日の直前事業年度の末日(2026年2月28日)から起算して2年前(2024年3月1日)から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式等の移動について、上場日から5年間、記録を保存することとされています。また同施行規則第107条により、直前事業年度の末日から起算して1年前から上場日の前日までに第三者割当等による募集株式や新株予約権の割当て等を行った場合には、割当てを受けた者に、上場日以降6か月を経過する日(割当日以後1年間を経過していない場合は割当日から1年間を経過する日)までの継続所有等をJ-Adviserに対して確約させることとされています。どの取引が対象期間に入るかは、日付で機械的に判定されます。

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コーポレート・ガバナンス|取締役会と監査役の少人数体制

Ginzaは会社法上の機関として取締役会と監査役を設置しており、CG報告書の組織形態は「監査役設置会社」、監査役会は「設置していない」とされています。この体制を選んだ理由として、人員及び組織規模が大きくないこと、住宅リフォーム事業の専業であること、コンプライアンス等の事業リスクに応じて一定の牽制性が必要とされること等が挙げられています。TOKYO PRO Marketには一般市場のような機関設計の形式要件はなく、柔軟なガバナンス設計による上場も可能とされる一方、上場適格性要件として、企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が整備され、機能していることが求められます。機関設計の基本はIPO審査の「機関設計」とはをご覧ください。

Ginzaの機関設計株主総会取締役会(5名)うち社外取締役1名(公認会計士)議長:代表取締役社長/毎月開催監査役2名(監査役会なし)常勤1名・社外1名(弁護士)任意の監査役協議会:毎月代表取締役社長内部監査室専任1名コンプライアンス・リスク管理委員会みおぎ監査法人(特例に基づく監査)選任選任監査選定・監督連携三様監査ミーティング(原則年2回)

図11 発行者情報・CG報告書より作成。監査役会は設置しておらず、任意の機関として監査役協議会を置いている。

取締役は5名で、社外取締役は公認会計士の塙健一郎氏1名です。取締役会は毎月の定時開催に加え、必要に応じて臨時に開催し、議長は代表取締役社長が務めます。議長が利害関係を有する意思決定を行う場合には、あらかじめ取締役会で決定した代行順位に従って他の取締役が代行するとされています。取締役会の開催回数や出席状況は、発行者情報には記載されていません。

監査役は2名で、常勤監査役の髙田新一氏と、弁護士で社外監査役の佐藤亮氏です。監査役会は置いていませんが、任意の機関として監査役協議会を設置し、常勤監査役を議長として毎月開催しています。社外監査役が弁護士であることから、事業上のコンプライアンスに関する監査を重点的な監査事項と位置付けているとのことです。社外取締役・社外監査役ともに、兼任先と当社との間に人的関係、資本関係、取引関係その他の利害関係はないと記載されています。なお、CG報告書では独立役員に指定されている人数は「-」とされています。

役職 氏名 主な経歴・属性
代表取締役社長 池田 馨 1989年に前身を個人創業、1992年当社設立。797,000株を所有
取締役副社長 CS推進本部長 池田 香 代表取締役社長の配偶者。30,000株を所有
取締役 営業本部長 田村 康博 1999年入社。新株予約権6,000株
取締役 管理本部長 栗田 俊一 2009年入社。新株予約権4,000株
社外取締役 塙 健一郎 公認会計士。塙公認会計士事務所 所長、㈱未来力 代表取締役
常勤監査役 髙田 新一 2015年に当社入社(法務部長)、取締役を経て2024年5月監査役
社外監査役 佐藤 亮 弁護士。Kollectパートナーズ法律事務所 代表

このほか、経営の効率化や経営幹部の育成等を目的に執行役員制度を導入しており、4名の執行役員のうち1名は内部監査室長です。役員は男性6名・女性1名(女性比率14%)です。社外取締役の人数の考え方については社外取締役は何人必要か、常勤監査役については常勤監査役は必要かで一般論を整理しています。

親族役員と支配株主への牽制

取締役副社長の池田香氏は代表取締役社長の配偶者です。発行者情報のリスク情報では、創業者である代表取締役社長への依存を「発生可能性:中、影響度:大」と位置づけたうえで、「取締役会の構成は、親族取締役を過半数としない方針であり、また、決裁権限基準においても、両名のみで意思決定が完結しないよう、牽制的な経営体制を構築」していると説明しています。現在の取締役5名のうち親族は2名です。

支配株主との取引については、原則として支配株主を含む関連当事者との取引は行わない方針で、やむを得ず行う場合は取締役会で取引の必要性や取引条件の妥当性を慎重かつ厳格に協議するとしています。CG報告書では、一般顧客と同等額かつ金額軽微なものを除いて取締役会で審議する方針が示されています。発行者情報には、2026年2月期に支配株主である代表取締役社長との間で住居のリフォーム設備の販売及び設置取引があったことも記載されており、関連当事者取引の状況は開示基準に準じて開示するとしています。

支配株主との取引の判断(方針)支配株主等との取引例:社長の住居のリフォーム設備の販売・設置一般顧客と同等額かつ金額軽微か取締役会で必要性・条件の妥当性を審議して意思決定取締役会審議の対象から除く基本方針:支配株主を含む関連当事者との取引は原則として行わないいいえはい

図12 CG報告書・発行者情報の「支配株主との取引を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針」をもとに作成。

リフォーム会社の社長が自社に自宅のリフォームを依頼するのは自然なことですが、上場会社になると、その取引条件が一般顧客と同じかどうかを説明できるようにしておく必要があります。取引の有無を把握する仕組み、承認のルール、記録の残し方まで決めておくことが実務上のポイントです。関連当事者取引の考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)と社長個人と会社の取引はどう解消するかで詳しく扱っています。

役員報酬の決め方

2026年2月期の役員報酬は、取締役(社外取締役を除く)4名に78,000千円、監査役(社外監査役を除く)1名に5,280千円、社外役員3名に4,890千円、合計88,170千円で、すべて基本報酬です。非金銭報酬等は支給していません。取締役の個人別報酬は、株主総会で決議された報酬総額の範囲内で、代表取締役社長が貢献実績や業績、世間相場や一般社員とのバランス等を勘案した個別報酬案を取締役会に上程し、社外取締役を含む全取締役による協議で決定します。監査役は、常勤監査役が個別報酬案を監査役協議会に上程し、社外監査役を含む全監査役の協議で決定する仕組みです。任意の指名委員会・報酬委員会は設置していません(CG報告書)。

役員報酬の決定の流れ取締役株主総会報酬総額を決議代表取締役社長個別報酬案を上程取締役会社外取締役を含む全取締役で協議個人別の報酬額を決定監査役株主総会報酬総額を決議常勤監査役個別報酬案を上程監査役協議会社外監査役を含む全監査役で協議個人別の報酬額を決定

図13 発行者情報「役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針」より。2026年2月期の役員報酬総額は88,170千円で、全額が基本報酬。

内部監査・内部統制|専任1名の内部監査室と三様監査

Ginzaの内部監査室は、代表取締役社長の直下に置かれた独立的な内部監査の専門部署で、専任の内部監査室長1名で構成されています。執行役員4名の一覧にも、内部監査室長が記載されています。内部監査室は代表取締役社長の指示により、原則として毎年、全部署を対象に、業務の適正性や効率性、規程や法令等の遵守状況について網羅的な内部監査を実施します。必要に応じて、独立的な他部署の者や社外の支援会社と連携した内部監査も行うとしています。

指摘事項は被監査部門にフィードバックされ、被監査部門が改善策を検討・実施し、その内容を内部監査室に報告します。改善策の実施状況と結果は、フォローアップ監査で再度確認し、PDCAサイクルを回しています。内部監査室、監査役及び監査法人は、原則として年2回の三様監査ミーティングで監査計画・監査方法・監査結果を共有し、常勤監査役と内部監査室長は日々コミュニケーションを密にしていると記載されています。

内部監査のサイクルと三様監査監査計画社長の指示内部監査全部署を網羅的に指摘事項を被監査部門へフォローアップ監査で確認内部監査室(専任1名)三様監査ミーティング原則年2回みおぎ監査法人(会計監査)監査役常勤1名・社外1名PDCAサイクル日々の連携

図14 内部監査室は代表取締役社長直下の専任1名。必要に応じて独立的な他部署の者や社外の支援会社と連携した内部監査も実施する。

内部監査を1名で担う場合、論点になりやすいのは「網羅性」と「自己監査の回避」です。担当者が1名だと、監査計画どおりに全部署を回れるか、担当者が過去に所属していた部署や自らが関与した業務をどう監査するかを説明できるようにしておく必要があります。Ginzaのように、独立的な他部署の者や社外の支援会社と連携する選択肢を用意しておくことは、少人数体制の会社にとって参考になります。体制づくりは内部監査の人数と体制と内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、三様監査の進め方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。

リスク管理については、「リスク管理規程」を定め、コンプライアンス・リスク管理委員会を設置しています。委員長は代表取締役社長、委員は取締役(社外取締役を除く)、執行役員及び内部監査室長で、原則として3ヶ月に1回開催します。同委員会では、金融庁の企業内容等開示ガイドラインや上場会社の有価証券報告書の開示内容を参考に、開示すべきリスクの抽出・協議を行うほか、各部署で発生した重要性の高いインシデントやトラブル等の報告と対処策の協議を行っています。顧客とのトラブル事例を社内報告書や同委員会を通じて全社で共有し、再発防止につなげている点は、リスク情報の「レピュテーションリスク」「訴訟リスク」の項でも触れられています。

内部統制システムの基本方針は、取締役及び使用人の職務執行の法令・定款適合性、情報の保存・管理、損失の危険の管理、職務執行の効率性、財務報告の信頼性、監査役の補助使用人、監査役への報告体制、反社会的勢力の排除など9項目で構成され、「現時点においては、これらの整備が完了し、安定運用フェーズに移行」していると記載されています。コンプライアンス規程と倫理行動基準を役職員に配布し、内部通報制度も整備しています。なお、TOKYO PRO Marketでは内部統制報告書の提出は任意です。

会計・開示の論点|収益認識、減損、税効果

収益認識:工事完成時に一時点で認識

Ginzaの売上高は、損益計算書上「完成工事高」として表示されています。重要な会計方針では、顧客との工事請負契約について工事を施工・完成させる履行義務を負い、「契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短いため、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識」すると記載されています。施工が1日程度で終わる水回りリフォームの特徴が、会計方針にもそのまま表れています。

工事契約は本来、一定の期間にわたり充足される履行義務に該当する場合がありますが、収益認識適用指針には、期間がごく短い工事契約について一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識できる代替的な取扱いがあります。Ginzaの会計方針はこの考え方に沿った記載です。収益認識関係の注記では、契約負債(前受け)が第35期首50,780千円から期末66,707千円に、顧客との契約から生じた債権が34,056千円から38,261千円になっています。完成工事未収入金には信販会社向けのローン債権が含まれ、回収率98.4%、滞留期間6日と記載されています。

収益認識の考え方(工事請負契約)工事請負契約(顧客と締結)履行義務工事の施工・完成期間がごく短いか完全に充足した時点で一時に認識一定の期間にわたり認識を検討(一般論)契約負債:第35期首50,780千円 → 第35期末66,707千円はいいいえ

図15 発行者情報の重要な会計方針より作成。「いいえ」の分岐は一般論として示した。

上場準備では、契約書の締結から着工・完工・引渡し・入金までのどの時点で売上を計上するかを、業務フローと証憑(工事完了の確認書など)で裏付けられるようにしておくことが重要です。Ginzaのように施工後に顧客と一緒に仕上がりを確認する業務フローがある場合、その確認記録が収益認識の根拠資料にもなります。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識で整理しています。

重要な会計上の見積り:固定資産の減損

Ginzaは重要な会計上の見積りとして「固定資産の減損」を挙げています。事業用資産は継続的に損益を把握している管理会計上の区分で、遊休資産は物件単位でグルーピングし、減損の兆候がある資産グループについて割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に、回収可能価額まで減額します。回収可能価額は外部専門家から入手した不動産鑑定評価結果等に基づく正味売却価額です。

第35期には、愛知県名古屋市の事業用資産(建物及び土地)について営業損失の継続により27,286千円(建物4,895千円、土地22,390千円)、奈良県橿原市・三重県四日市市・島根県隠岐郡の遊休資産(土地)について時価の下落により17,376千円、合計44,663千円の減損損失を計上しました。賃貸等不動産の注記では、事業用資産から遊休資産への振替92,829千円が記載され、遊休不動産の期末の貸借対照表計上額は75,452千円、期末時価は83,770千円です。

固定資産の減損(第35期)グルーピング事業用:管理会計区分遊休:物件単位減損の兆候営業損失の継続時価の下落認識の判定割引前将来CFが帳簿価額を下回る測定回収可能価額(不動産鑑定評価)事業用資産(愛知県名古屋市)27,286千円(建物4,895・土地22,390)遊休資産(土地)17,376千円(奈良・三重・島根)第35期の減損損失 合計44,663千円

図16 第35期の減損損失は合計44,663千円。回収可能価額は不動産鑑定評価額等に基づく正味売却価額による。

拠点を自社保有する会社では、ショールームごとの損益管理と、不動産の時価の把握が会計上の見積りに直結します。Ginzaもリスク情報で固定資産の減損を「発生可能性:中、発生する可能性のある時期:決算期末、影響度:小」としています。上場準備会社は、どの単位で損益を把握しているか(グルーピング)、減損の兆候をどの指標で判定するかを、管理会計の仕組みとあわせて説明できるようにしておきましょう。

そのほかの注記と監査報酬

税効果会計の注記では、繰延税金資産小計50,280千円に対して評価性引当額△27,334千円を計上し、繰延税金資産は22,945千円です。防衛特別法人税の創設に伴い、2026年4月1日に開始する事業年度以降に解消が見込まれる一時差異については法定実効税率を34.60%から35.44%に変更して計算しており、影響は軽微とされています。資産除去債務11,500千円は社有建物の解体時のアスベスト除去費用等です。未適用の会計基準として、新しいリース会計基準(企業会計基準第34号)を2029年2月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中と記載されています。

会計監査は、みおぎ監査法人が特例第110条第5項に基づいて実施しています。2026年2月期の業務執行社員は2名で、いずれも継続監査年数は7年以内、補助者は公認会計士8名です。監査証明業務に基づく報酬は9,500千円で、非監査業務の報酬はありません。財務諸表は財務諸表等規則と建設業法施行規則により作成し、会計基準は日本基準によっています。

事業等のリスクと上場準備で問われやすい点

Ginzaの事業等のリスクは17項目で、各項目に発生可能性・発生する可能性のある時期・影響度が付されています。発生可能性が「高」とされているのは、競合、施工業者、人材の確保及び育成の3項目です。影響度が「大」とされているのは、仕入商材(ナフサを基礎原料とする石油由来樹脂が多く使われる水回り設備の確保や価格転嫁)と、特定の人物(創業者である代表取締役社長)への依存の2項目です。

事業等のリスクの位置づけ影響度小中大発生可能性高発生可能性中発生可能性低―競合施工業者人材の確保・育成―固定資産の減損施工品質・仕入先レピュテーション仕入商材特定の人物への依存新株予約権の希薄化J-Adviserとの契約訴訟・法的規制個人情報・システム障害自然災害・配当政策―

図17 発行者情報の「事業等のリスク」に記載された発生可能性・影響度をもとに配置した(17項目)。

上場準備の観点から見ると、これらのリスクは内部管理の仕組みと結びつけて説明されている点が特徴です。たとえば施工品質のリスクには、施工能力の事前確認、定期的な技術教育、施工管理者による品質確認、顧客による仕上がり確認、保証サービスが対応策として示されています。個人情報の流出リスクには、個人情報管理規程、全社教育、定期的な社内監査、プライバシーマークの認証機関による定例監査が挙げられています。リスク情報を書く際は、「リスクの内容」と「会社としての対応」と「それでも残る影響」をセットで書くと、読み手に伝わりやすくなります。

また、自然災害等のリスクの項では、関東地域の売上高の占有率81.4%(2026年2月期実績)が示されています。仕入先上位2社の占有率81.4%とあわせ、特定の地域・取引先への集中度を数値で示している点は、リスク開示の書き方として参考になります。

上場準備会社が学べること

Ginzaの事例から、上場準備会社が実務で参考にできるポイントを整理します。

  1. 公募を行わない上場という選択肢:TOKYO PRO Marketでは、特定投資家向けの勧誘を行わずに、発行者情報に相当する情報を公表して上場することができます。上場の目的が資金調達以外にある会社にとっての一つの形です。
  2. 監査期間は最近1年間でも、準備は前倒しで:上場前の監査期間は短くても、上場後は年次・中間の発行者情報を期末後3か月以内に公表する体制が必要です。決算の早期化と監査対応は上場前から整えておきましょう。
  3. 支配株主・親族役員への牽制を仕組みで示す:「親族取締役を過半数としない」「決裁権限基準で両名のみで意思決定が完結しない」といった具体的なルールは、説明の説得力を高めます。
  4. 支配株主との取引のルールを決めておく:取引を原則として行わない方針、例外の線引き(一般顧客と同等額かつ金額軽微か)、取締役会での審議を、事前に決めておくことが大切です。
  5. 少人数の内部監査を連携で補う:専任1名の内部監査室でも、他部署や社外の支援会社との連携、三様監査ミーティング、常勤監査役との日常的な情報共有で網羅性を補う設計ができます。
  6. 自社保有不動産は減損の見積りが論点:拠点ごとの損益管理と不動産鑑定評価の入手が、重要な会計上の見積りの根拠になります。
  7. ストック・オプションと株式移動の価格の根拠をそろえる:同じ時期の取引で、株式価値の算定方法を一貫させておくと、価格の説明がしやすくなります。
Ginzaの事例から学べる主なポイント公募なしでも上場できる(発行者情報の公表)監査は直近1期準備は前倒しで支配株主・親族役員への牽制を仕組みで少人数の内部監査を三様監査で補う自社保有不動産は減損の見積りが論点SOと株式移動の価格の根拠をそろえる

図18 本文の「上場準備会社が学べること」の要点。

上場準備のセルフチェック

  • 上場の目的(資金調達の要否を含む)と、それに合う市場・開示書類を整理しているか
  • 監査法人の監査を受ける期間と、上場後の年次・中間の開示スケジュールを逆算しているか
  • 支配株主・親族役員との取引のルール(把握・承認・記録)を規程で定めているか
  • 内部監査の担当者が自部署を監査しない仕組み(自己監査の回避)を用意しているか
  • 収益認識の時点を業務フローと証憑で裏付けられるか
  • 拠点別の損益と保有不動産の時価を把握し、減損の兆候を判定できるか

よくある質問

Q1. TOKYO PRO Marketでは公募をしなくても上場できますか?

できます。Ginzaは上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行わず、特例第110条第3項に基づき発行者情報に相当する情報を公表しています。上場時の発行済株式総数も830,000株で、現在と同じです。

Q2. 上場前の財務諸表は何期分の監査が必要ですか?

TOKYO PRO Marketの上場前の監査期間は「最近1年間」とされています。Ginzaの発行者情報でも、第35期は監査を受け、第33期・第34期は監査を受けていない旨が記載されています。一般市場の新規上場では、通常、直前2期分の監査が求められます。

Q3. 監査役会を置かずに上場できますか?

TOKYO PRO Marketには一般市場のような機関設計の形式要件はなく、企業の規模や成熟度等に応じたガバナンス体制が求められます。Ginzaは取締役会と監査役(2名)を置き、監査役会は設置せずに任意の監査役協議会を毎月開催しています。

Q4. 上場承認はいつ出るのですか?

TOKYO PRO Marketでは、東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認します。Ginzaの上場申請は2026年11月2日に公表されましたが、上場承認日は2026年11月3日時点でJPXの一覧に記載されていません。上場予定日は2026年12月7日です。

最初の一歩は「上場の目的」と「開示の体制」の整理から

TOKYO PRO Marketを検討する場合、最初に取り組みたいのは、なぜ上場するのか(資金調達、信用力の向上、採用、将来の一般市場への上場の準備など)を整理し、それに合わせて必要な開示と監査の体制を逆算することです。J-Adviserの候補と早めに対話し、会社の規模に応じたガバナンス・内部監査の設計と、年2回の発行者情報を作成できる決算体制を準備していきましょう。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で解説しています。

まとめ

株式会社Ginzaは、水回りに特化した住宅リフォーム事業を営み、2026年12月7日にTOKYO PRO Marketへの上場を予定しています(上場申請の公表は2026年11月2日、上場承認日は未公表)。上場に際して特定投資家向けの勧誘は行わず、発行者情報に相当する情報を公表しています。監査を受けた期間は第35期の1期で、株主は創業者夫妻と従業員持株会の3名です。

取締役5名(社外1名)と監査役2名(社外1名)の少人数体制のなかで、親族取締役を過半数にしない方針、決裁権限基準による牽制、支配株主との取引のルール、専任1名の内部監査室と三様監査ミーティングといった仕組みが記載されています。会計面では、工事完成時に一時点で認識する収益認識と、自社保有不動産の減損が主な論点です。会社の規模に応じた体制をどう設計し、どう説明するかを考えるうえで、参考になる事例といえます。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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