※本記事は2026年11月3日時点の公表資料に基づきます。
株式会社Ginza(Ginza Corporation、証券コード672A)は、2026年11月2日に東京証券取引所へ上場を申請し(申請受付・発行者情報の公表)、2026年12月7日に TOKYO PRO Market(TPM)へ上場する予定です。担当J-Adviserは株式会社ジャパンインベストメントアドバイザーです。キッチン・浴室・トイレ・洗面所といった「水回り」の設備入替えに特化した住宅リフォーム会社で、本社は東京都中央区銀座のGINZA SIXにあります。2026年2月期(第35期)の売上高は2,088,437千円、従業員は50名(2026年10月31日現在)です。なお、2026年11月3日時点で上場承認はまだ出ておらず(JPXの一覧の上場承認日欄は空欄)、本記事は上場申請時に公表された資料をもとにしています。
結論からいえば、Ginzaの発行者情報は「公募・売出しを行わず、創業者が株式の大半を持つオーナー企業が、直前1期の監査と、規模に応じた機関設計(取締役会+監査役)で上場を目指す」というTPMらしい上場設計を具体的に示している資料です。一般市場への上場を目指す会社にとっても、親族役員がいる場合の牽制、1人体制の内部監査の補い方、不動産を多く持つ会社の減損の見積り、ストック・オプションと株式移動の価格根拠など、上場準備で押さえておきたい論点が多く含まれています。
この記事の見出し
Ginzaと上場の概要
まず、上場の基本情報を整理します。原文は東証の TOKYO PRO Market 新規上場会社情報に掲載された書類で、表紙の公表書類名は「発行者情報」、公表日は2026年11月2日です。
表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」には、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないため、「特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例」第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表する旨が書かれています。つまり、今回の上場では新株の発行や既存株式の売出しによる資金調達は行われません。既存の株式をそのまま上場させる形です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社Ginza(Ginza Corporation) |
| 証券コード | 672A |
| 市場 | TOKYO PRO Market |
| 上場予定日 | 2026年12月7日 |
| 上場申請日(申請受付・発行者情報の公表) | 2026年11月2日 |
| 上場承認日 | 未定(申請中。東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認) |
| 担当J-Adviser | 株式会社ジャパンインベストメントアドバイザー |
| 上場時の公募・売出し | なし(特例第110条第3項により発行者情報に相当する情報を公表) |
| 本店 | 東京都中央区銀座六丁目10番1号 GINZA SIX 8階 |
| 代表者 | 代表取締役社長 池田 馨 |
| 設立 | 1992年12月(前身の「近畿流通」は1989年1月に個人創業) |
| 事業 | 水回りを中心とした住宅リフォーム事業(単一セグメント) |
| 決算期 | 2月末(第35期:2025年3月1日~2026年2月28日) |
| 従業員 | 50名(ほか臨時雇用者1名、2026年10月31日現在) |
| 発行済株式総数 | 830,000株(普通株式のみ、2026年11月2日現在) |
| 監査法人 | みおぎ監査法人(第35期の財務諸表を監査) |
TPMの上場手続は、一般市場とは流れが異なります。東証の上場ガイドブック(TPM編)によると、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認したうえで、申請会社が上場申請の意向を表明し、東証の面談を経て上場申請(対外公表)に進みます。上場申請は上場承認を希望する日の少なくとも10営業日前までに行い、東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認します。Ginzaの場合、申請と公表が2026年11月2日、上場予定日が2026年12月7日で、2026年11月3日時点では承認前の段階です。
図1 申請(公表)日と上場予定日は発行者情報の表紙・東証の新規上場会社情報による。上場承認日は2026年11月3日時点で未定(申請中)。
上場準備の全体像を一般市場と比べながら確認したい方は、IPO準備の全体像(N-3期〜N期)もあわせてご覧ください。
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なぜTOKYO PRO Marketなのか――TPMの仕組みと一般市場との違い
Ginzaの発行者情報には、TOKYO PRO Marketを選んだ理由や上場目的についての記載はありません。そのため、ここでは会社の理由を推測せず、TPMという市場の仕組みを一般論として整理します。
なお、東証は2026年4月から、TPMへの新規上場時に「上場目的」(なぜTPMに上場するか、どう活用するか)を検討・開示するよう上場会社に要請しています。これは東証の「お願い」であり、規程上の義務ではありません。上場目的を別途開示するかどうかは、今後の会社の開示で確認することになります。
図2 東証のTPM概要ページ・上場ガイドブック(TPM編)の記載を整理。Ginza固有の記載ではない。
TPMは、金融商品取引法上の「特定取引所金融商品市場」で、プライム・スタンダード・グロースという一般市場とは別の市場です。特定投資家(適格機関投資家など)等を対象とした市場であり、一般投資家は取引所で買付けを行うことができません(保有株式の売却は可能です)。Ginzaの発行者情報の冒頭にも、TPMが特定投資家等を対象とした市場であり、上場会社は高い投資リスクを含んでいる場合があること、TPMではJ-Adviserが重要な役割を担うことなどの注意事項が掲げられています。
TPMには株主数・流通株式・利益の額といった形式基準(数値基準)がありません。その代わりに、担当J-Adviserが「上場適格性要件」を調査・確認します。上場適格性要件は、企業としての相応性(上場予定日から12か月間の運転資金の確保などを含む)、事業の公正・忠実な遂行、規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制、企業内容等の開示体制、反社会的勢力との関係がないことその他公益又は投資者保護の観点、の5つです。Ginzaの発行者情報にも「上場予定日(2026年12月7日)から12ヵ月間の当社の運転資本については、現状の自己資金の規模から、十分であると認識しております」という記載があります。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード等) |
|---|---|---|
| 形式基準 | なし(数値基準がない) | 株主数・流通株式などの形式基準がある |
| 上場適格性の確認 | 担当J-Adviserが調査・確認し、東証は原則として申請から10営業日後に承認 | 東証の上場審査(主幹事証券の引受審査も行われる) |
| 投資家 | 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可) | 一般投資家を含む |
| 上場時・上場後の開示書類 | 特定証券情報(または発行者情報に相当する情報)、発行者情報(年次・中間、期末後3か月以内) | 有価証券届出書、有価証券報告書など |
| 上場前の監査期間 | 最近1年間 | 一般に直前2期 |
| 四半期開示 | 任意 | 取引所規則に基づく四半期決算短信 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 上場後に提出が必要 |
| J-Adviser | 契約の維持が上場の前提 | J-Adviser制度はない |
監査期間が「最近1年間」であることは、Ginzaの数字にもはっきり表れています。主要な経営指標等の推移には第33期から第35期の3期分が載っていますが、注記で「第35期の財務諸表については……みおぎ監査法人の監査を受けておりますが、第33期及び第34期の財務諸表については、監査を受けておりません」と明記されています。後で業績を読むときも、第33期・第34期は監査を受けていない数値であることを前提にする必要があります。
TPMから一般市場へ移る場合は、市場区分の変更ではなく、TPMを申請により上場廃止して一般市場に新規上場する扱いになります。Ginzaの発行者情報には一般市場への移行に関する記載はありませんので、本記事でもその予定については触れません。一般市場の審査の考え方はIPOの実質審査基準とはで解説しています。
事業内容と収益モデル――「水のプロ」の住宅リフォーム
Ginzaは創業以来、居住マンション等のキッチン、浴室、トイレ、洗面所等の水回り設備の入替え設置を中心とした住宅リフォーム事業に特化してきた会社です。報告セグメントは「住宅リフォーム事業」の単一セグメントで、関東、関西及び中部地域にショールームを構えています。発行者情報は事業の特徴として、次の4点を挙げています。
- 水回り設備のリフォームに特化:屋根・外壁・間取り変更など幅広く対応する一般的な事業者に対し、水回りに人的資源とノウハウを集中。
- 共通仕様の中低層マンションが中心:共通仕様の水回り設備を扱うケースが多く、施工技術の集約や仕入のボリュームディスカウントにつながる。
- 同一施工者による短工期:一般的な事業者は工程ごとに施工業者が異なり、施工から仕上がりまで3〜4日程度が通例であるのに対し、複数工程を同一の施工業者が手掛けることで1日程度の工期を実現。
- 工事後のアフターフォロー:1年間無料点検サービス、365日24時間サポート、3年・10年・15年保証サービス等を提供。
図3 発行者情報「事業の内容」「事業等のリスク」の記載をもとに作成。仕入先上位2社の占有率は2026年2月期の総仕入額に対する割合。
お金とモノの流れを見ると、Ginzaは顧客(一般消費者)から工事を受注し、水回り設備や部材をメーカーの販売代理店等を通じて発注します。設備は施工当日にメーカーから顧客宅へ直送されます。施工は全て委託先の施工業者に委託しており、施工当日はGinzaの営業担当者が立ち会って施工監督・品質管理を行い、施工後は顧客と一緒に仕上がりを確認します。
発行者情報によれば、施工を委託することで施工原価を精緻に見積もることができ、施工コストの固定費化も回避できるとされています。仕入は卸販売代理店を経由しており、総仕入額に対する代理店上位2社の占有率は81.4%(2026年2月期)です。
図4 発行者情報「事業の内容(業務プロセスの概要と特徴)」の記載を整理。
営業手法は、チラシ配布や広告掲載による「反響営業」を中心に、リフォームフェアやモデルルーム内覧会などの「イベント営業」、ホームページや公式LINEを使った「Web営業」、リフォーム実績のある顧客(OB顧客)から知人・隣人を紹介してもらう「紹介営業」を組み合わせています。顧客は一般消費者で、売上高の10%以上を占める相手先はありません。
地域別の売上高は、収益認識関係の注記で開示されています。第35期は関東地域1,698,992千円、関西地域344,457千円、中部地域44,987千円で、関東地域の売上高の占有率は81.4%(2026年2月期実績)です。事業等のリスクでも、関東地域への集中を自然災害等のリスクと関連づけて記載しています。
図5 発行者情報の収益認識関係注記「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」による。第34期(2025年2月期)は監査を受けていない期の数値。
上場準備の観点では、「顧客が一般消費者」「施工は外部委託」「仕入は特定の代理店に集中」という構造は、それぞれ審査やJ-Adviserの調査で確認されやすいポイントです。一般消費者向けの訪問・反響型の営業には特定商取引法や消費者契約法などの規制がかかり、施工面では建設業法などの規制を受けます。Ginzaも発行者情報で、これらの法令による規制と、一般建設業許可(内装仕上工事業・建築工事業、国土交通大臣(般-1)第22481号)、一級建築士事務所登録(東京都知事登録第61470号)の状況を開示し、本書公表日現在で許認可の取消事由に抵触する事象は生じていないと記載しています。許認可の確認の考え方はIPOで許認可はどこまで見られるかで詳しく解説しています。
沿革と上場までの道のり――分社化と再統合を経た銀座の会社
Ginzaの歴史は、現代表取締役社長の池田馨氏が1989年1月に大阪府吹田市で、住宅の水回り工事を事業目的として「近畿流通」を創業したことに始まります。1992年12月7日に法人改組し、近畿流通株式会社を設立しました。
その後、名古屋支店(1994年2月)・東京支店(1997年7月)を開設し、それぞれを分社化して子会社を設立、2003年10月には純粋持株会社化と商号変更を行い、2006年3月にKRK株式会社を存続会社としてグループ会社を吸収合併しています。2008年4月に東京都中央区銀座へ本社を移転して銀座ショールームを出店し、2009年10月に現在の商号「株式会社Ginza」に変更しました。現在、子会社・関係会社はなく、連結財務諸表は作成していません。
図6 発行者情報「沿革」「発行済株式総数、資本金等の推移」の記載から抜粋。
発行者情報には、企業再編の変遷を図示したページも設けられています。過去に分社化・持株会社化・吸収合併を繰り返してきた会社は、上場準備で「現在の法人格が何を承継してきたか」「過去の組織再編の手続や税務処理に問題がないか」を説明できるよう、沿革と再編の経緯を資料として整えておくことが大切です。2018年11月13日には1株を20株とする株式分割を行い、発行済株式総数は830,000株になっています。
業績の推移と読み方――減収のなかで経常利益は増加
主要な経営指標等の推移(単体)は次のとおりです。第33期・第34期は監査を受けていない期の数値です。
| 項目 | 第33期(2024年2月期) | 第34期(2025年2月期) | 第35期(2026年2月期) |
|---|---|---|---|
| 売上高(千円) | 2,281,542 | 2,164,469 | 2,088,437 |
| 経常利益(千円) | 78,576 | 124,101 | 129,050 |
| 当期純利益(千円) | 37,328 | 71,264 | 39,353 |
| 純資産額(千円) | 2,884,760 | 2,951,044 | 2,982,928 |
| 総資産額(千円) | 3,180,828 | 3,254,537 | 3,322,470 |
| 自己資本比率(%) | 90.69 | 90.67 | 89.78 |
| 1株当たり配当額(円) | 6.00 | 9.00 | 5.00 |
| 営業活動によるCF(千円) | 102,964 | 119,277 | 141,577 |
| 従業員数(人)[臨時] | 64[3] | 55[2] | 51[1] |
| 監査 | 未監査 | 未監査 | みおぎ監査法人の監査 |
図7 発行者情報「主要な経営指標等の推移」による。第35期(2026年2月期)のみ、みおぎ監査法人の監査を受けている。第33期・第34期は監査を受けていない。
3期の数字を並べると、売上高は第33期の2,281,542千円から第35期の2,088,437千円へと、第34期・第35期とも前期を下回っています。一方で経常利益は78,576千円、124,101千円、129,050千円と増加しています。第35期について会社は、手配達(社員による直接投函)によるチラシの配布やリフォーム紹介サイトからの受注獲得、費用効果の高い営業活動、販売費及び一般管理費の節減等に取り組んだものの、物価高騰や消費の先送りの影響等により厳しい状況での営業活動を余儀なくされたと説明しています。結果は売上高が前年度比3.5%減、営業利益122,734千円(同4.9%増)、経常利益129,050千円(同4.0%増)、当期純利益39,353千円(同44.8%減)です。
当期純利益が減ったのは、特別損失として減損損失44,663千円を計上したことが大きく影響しています。営業利益から当期純利益までの流れを図にすると、次のようになります。
図8 発行者情報の損益計算書(第35期:2025年3月1日~2026年2月28日)による。営業外損益は営業外収益7,603千円から営業外費用1,287千円を差し引いた額。特別損失は減損損失44,663千円と固定資産除却損1,924千円。
第35期は税引前当期純利益82,462千円に対し法人税等合計が43,109千円で、税効果会計適用後の法人税等の負担率は52.28%です。税率差異の注記では、評価性引当額の増減が16.11%と最も大きな調整項目になっています。繰延税金資産の注記では、評価性引当額が前期13,502千円から当期27,334千円に増えています。
原価構成も見ておきましょう。完成工事原価報告書によると、第35期の完成工事原価1,129,941千円の内訳は、材料費613,820千円(54.3%)、労務費11,945千円(1.1%)、外注費504,175千円(44.6%)です。施工を全て外部に委託するビジネスモデルが、原価の構成にそのまま表れています。
図9 発行者情報「完成工事原価報告書」による。第34期は監査を受けていない期の数値。施工は全て委託先の施工業者に委託している。
財政状態では、第35期末の総資産3,322,470千円に対し純資産が2,982,928千円で、自己資本比率は89.8%です。借入金等明細表は「該当事項はありません」で、金融商品の注記でも必要な資金を自己資金で賄っていると記載しています。総資産のうち土地が1,346,715千円、建物(純額)が797,825千円を占めており、事業拠点の多くを自社保有物件としていることが特徴です。第35期には定期預金の預入による支出300,000千円があり、投資活動によるキャッシュ・フローは228,969千円の支出となりました。
事業等のリスクの「人材の確保及び育成」では、会社自身が「従業員の減員による減収基調が継続しており」と記載し、事業成長には牽引する人員の拡大が必要と認識していると述べています。対処すべき課題でも、人材の採用・確保・育成を最初に挙げています。業績の数字と課題認識が一貫して説明されている点は、開示書類をまとめるうえで参考になります。
資本政策と株主構成――創業者が9割超を持つオーナー企業
Ginzaの発行済株式総数は830,000株(普通株式のみ、単元株式数100株)で、所有者別状況の株主数は3名です(2026年10月31日現在)。種類株式や自己株式はありません。株主の状況(第四部)では、新株予約権による潜在株式を含めた総数858,300株に対する割合が示されています。
図10 発行者情報「株主の状況」による。割合は潜在株式(新株予約権)を含む総数858,300株に対する割合で、上場時の割合ではない。
| 株主 | 所有株式数(株) | 割合(%) | 属性 |
|---|---|---|---|
| 池田 馨 | 797,000 | 92.86 | 代表取締役社長・大株主上位10名 |
| 池田 香 | 30,000 | 3.50 | 取締役副社長・社長の配偶者 |
| 田村 康博 | 6,000(うち潜在6,000) | 0.70 | 取締役 |
| 栗田 俊一 | 4,000(うち潜在4,000) | 0.47 | 取締役 |
| 株式会社Ginza従業員持株会 | 3,000 | 0.35 | 大株主上位10名 |
| その他従業員(新株予約権、筆者集計) | 18,300(すべて潜在) | 2.13 | 従業員 |
| 計 | 858,300(うち潜在28,300) | 100.00 |
この割合は上場申請時点(2026年10月31日現在)のもので、分母に潜在株式を含んでいます。今回の上場では公募・売出しを行わないため、上場によって株主構成が変わるわけではありませんが、新株予約権が行使されれば割合は変わります。
上場前の主な資本政策上の動きは、2025年2月25日に集中しています。同日の臨時株主総会・臨時取締役会の決議で第10回新株予約権(ストック・オプション)を発行し、同じ日に池田馨氏から株式会社Ginza従業員持株会へ300株(単価3,800円、総額1,140,000円)が「従業員の士気向上のため」に移動しています。株式移動の価格は「簿価純資産価額方式及び収益還元方式により算定された価格を参考として、譲渡人と譲受人が協議の上、決定」、新株予約権の発行価格(行使価額)3,800円も「簿価純資産価額方式及び収益還元方式により算定した価格を参考」としたと記載されています。
図11 発行者情報「発行済株式総数、資本金等の推移」「特別利害関係者等の株式等の移動状況」「第三者割当等の概況」による。
第10回新株予約権の主な内容は、行使価額1株3,800円、行使期間2027年2月26日〜2035年2月25日、目的となる株式の数は2026年10月31日現在で28,300株(283個)です。行使の条件として、行使時に当社又は当社子会社の取締役・監査役・従業員の地位にあること(任期満了による退任、定年退職その他正当な理由がある場合を除く)、当社株式が国内又は国外の金融商品取引所に上場すること、相続人による行使は認めないことなどが定められています。第三者割当等の概況では、退職等により従業員3名の合計700株分の権利が喪失したことも記載されています。
ストック・オプションの注記では、付与時点で未公開株式であったため公正な評価単価を単位当たりの本源的価値で見積もり、その基礎となる株式価値は簿価純資産価額方式と収益還元方式の折衷法で算定したとしています。株式報酬費用の計上額はありません(「-」)。未上場会社で本源的価値を用いる場合、行使価額が株式価値以上であれば本源的価値はゼロとなり、費用は生じません。株式移動の単価と行使価額をそろえていることは、価格の根拠を一貫して説明するうえで意味があります。株価算定の方法については未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで解説しています。
TPMでも、上場前の株式の動きには規制があります。発行者情報によると、特例第115条及び同施行規則第106条により、新規上場申請日の直前事業年度の末日(2026年2月28日)から起算して2年前(2024年3月1日)から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式等の移動について、上場日から5年間、記録を保存することとされています。また、特例第115条及び同施行規則第107条により、直前事業年度の末日から起算して1年前から上場日の前日までの期間に第三者割当等を行った場合には、割当を受けた者に担当J-Adviserへの継続所有等の確約を行わせることとされています。一般市場の継続所有の確約については上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)をご覧ください。
配当は、株主に対する利益還元を経営の最重要課題とし、当面は配当性向10%程度を目安とした安定配当を目標とする方針です。第35期は1株当たり5円(配当金総額4,150千円、配当性向10.5%)でした。従業員持株会制度も導入しており、持株会の設計については従業員持株会はいつ作るかも参考になります。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
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コーポレート・ガバナンス――取締役会+監査役という規模に応じた設計
Ginzaは、会社法上の機関として取締役会及び監査役を設置しています。監査役会ではありません。発行者情報は、その理由として「人員及び組織規模が大きくないこと、住宅リフォーム事業の専業であること、コンプライアンス等の事業リスクに応じて一定の牽制性が必要とされること等」を挙げています。TPMには一般市場のような機関設計の形式要件がなく、柔軟なガバナンス設計による上場も可能とされています。そのうえで上場適格性要件として、規模や成熟度等に応じてガバナンスと内部管理体制が整備・機能していることが求められます。
図12 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」による。監査役協議会は任意の機関。監査法人は特例第110条第5項に基づく監査を行っている。
取締役会は5名(うち社外取締役1名)で構成され、議長は代表取締役社長です。議長が利害関係を有する意思決定を行う場合などは、あらかじめ取締役会で決めた代行順位に従って他の取締役が代行します。毎月の定時取締役会で重要事項や法定事項の協議・決議のほか、月次財務状況や業務執行取締役の職務執行状況の報告を行い、緊急時は臨時取締役会を開催できるようにしています。発行者情報には、取締役会の開催回数や出席状況の記載はありません。
監査役は2名(うち社外監査役1名)で、常勤監査役を選定しています。監査役会がない代わりに、任意の機関として「監査役協議会」を設置し、常勤監査役を議長として毎月、定時取締役会の議案事項に関する意見交換や監査役監査の実施状況の報告を行っています。法定の監査役会を置かずに、実務上の協議の場を任意で設けている点は、規模の小さい会社が監査の実効性を確保する工夫として参考になります。機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で比較しています。
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(発行者情報の略歴から) | 所有株式数(株) |
|---|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 池田 馨 | 1989年1月個人創業、1992年12月当社設立・代表取締役社長就任 | 797,000 |
| 取締役副社長 CS推進本部長 | 池田 香 | 社長の配偶者。2018年5月取締役CS推進室長、2024年9月取締役副社長CS推進本部長 | 30,000 |
| 取締役 営業本部長 | 田村 康博 | 1999年7月当社入社、2003年10月取締役就任、2024年3月取締役営業本部長 | - |
| 取締役 管理本部長 | 栗田 俊一 | 2009年10月当社入社、2013年5月取締役管理部長、2023年9月取締役管理本部長 | - |
| 取締役(社外) | 塙 健一郎 | 公認会計士。2017年5月当社取締役就任 | - |
| 常勤監査役 | 髙田 新一 | 2015年7月当社入社(法務部長)、取締役を経て2024年5月監査役就任 | - |
| 監査役(社外) | 佐藤 亮 | 弁護士。2025年5月当社監査役就任 | - |
役員は男性6名・女性1名(女性比率14%)です。社外取締役の塙健一郎氏は公認会計士で、財務及び会計を中心とした見識を理由に選任されています。社外監査役の佐藤亮氏は弁護士で、事業上のコンプライアンスに関する監査を重点的な監査事項と位置づけていると記載されています。いずれも兼任先を含めて当社との間に人的関係、資本関係、取引関係その他の利害関係はないとされています。社外取締役・社外監査役それぞれ1名とは、会社法第427条第1項に基づく責任限定契約を締結しています。
常勤監査役の髙田新一氏は、2015年7月に当社に入社し、法務部長、取締役法務部長、取締役コーポレート部長を経て2024年5月に監査役に就任しています。社内出身の常勤監査役は業務への理解が深い一方、過去に自ら関与した業務を監査する場面もありうるため、一般論として、監査計画の段階で対象や担当の分担を工夫しておくことが望まれます。常勤監査役の役割は常勤監査役は必要かで解説しています。
ガバナンス上、特に注目したいのは親族役員の扱いです。取締役副社長の池田香氏は代表取締役社長の配偶者です。発行者情報の事業等のリスク「特定の人物への依存について」では、「取締役会の構成は、親族取締役を過半数としない方針であり、また、決裁権限基準においても、両名のみで意思決定が完結しないよう、牽制的な経営体制を構築しております」と記載しています。創業者への依存と親族役員の存在は、TPMに限らず上場準備でよく論点になります。リスクとして開示したうえで、方針と決裁権限の仕組みで牽制を説明する書き方は参考になります。
支配株主との取引については、「原則として、支配株主を含む関連当事者との取引は行わない」ことを基本方針とし、やむを得ず行う場合は取締役会で取引の必要性や取引条件の妥当性を慎重かつ厳格に協議するとしています。そのうえで、2026年2月期に支配株主である代表取締役社長との間で、住居のリフォーム設備の販売及び設置取引があったことを記載しています。このような取引がある場合、上場準備では取引条件が一般顧客と同等かどうか、取締役会でどう承認したかを説明できるようにしておく必要があります。考え方は社長個人と会社の取引はどう解消するかで整理しています。
| 役員区分 | 報酬等の総額(千円) | うち基本報酬(千円) | 対象人数 |
|---|---|---|---|
| 取締役(社外取締役を除く) | 78,000 | 78,000 | 4名 |
| 監査役(社外監査役を除く) | 5,280 | 5,280 | 1名 |
| 社外役員 | 4,890 | 4,890 | 3名 |
| 計 | 88,170 | 88,170 | 8名 |
役員報酬は2026年2月期の総額88,170千円で、すべて基本報酬です(賞与・ストック・オプションなし、非金銭報酬等も支給していない)。取締役の個人別報酬は、株主総会で決めた報酬総額の範囲内で、代表取締役社長が貢献実績や業績、世間相場、一般社員とのバランス等を勘案した個別報酬案を取締役会へ上程し、社外取締役を含む全取締役の協議で決定します。監査役は、常勤監査役が個別報酬案を監査役協議会へ上程し、全監査役の協議で決定しています。代表者に一任せず取締役会の協議で決める流れを明記している点は、報酬決定プロセスの透明性を示すうえで参考になります。
定款では、取締役6名以内・監査役3名以内、取締役の選任決議の定足数を3分の1以上に緩和、特別決議の定足数を3分の1以上に緩和、取締役会決議による自己株式の取得、取締役会決議による中間配当(毎年8月31日基準)などを定めています。
内部監査・内部統制――専任1名の内部監査室をどう支えるか
内部監査は、代表取締役社長直下の独立した専門部署である内部監査室が担当しています。内部監査室は専任の内部監査室長1名で構成され、室長は執行役員でもあります(執行役員 小川正幸氏、内部監査室長)。内部監査室は、代表取締役社長の指示により、原則として毎年、全部署を対象に、業務の適正性や効率性、規程や法令等の遵守状況などについて網羅的な内部監査を実施しています。
専任1名という体制を補うため、「必要に応じて、独立的な他部署の者や社外の支援会社と連携した内部監査も実施」していると記載されています。指摘事項は被監査部門にフィードバックされ、被監査部門が改善策を検討・実施し、その内容が内部監査室に戻され、フォローアップ監査で実施状況を確認するPDCAサイクルを回しています。
内部監査担当者が1名の場合、一般論として、内部監査室自体の業務(内部監査室の規程遵守状況など)を誰が監査するかという「自己監査」の問題が生じます。他部署の者を起用する場合も、その人が自分の所属部署を監査しないよう分担を決めておくことが重要です。Ginzaの発行者情報は「独立的な他部署の者」と表現しており、独立性を意識した書き方になっています。考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)と内部監査の人数と体制で詳しく解説しています。
図13 発行者情報「内部監査及び監査役監査の状況」による。三様監査ミーティングは原則として年2回。
内部監査室、監査役及び監査法人は、原則として年2回、三様監査ミーティングを開催し、監査計画、監査方法、監査結果等について情報交換しています。特に常勤監査役と内部監査室長は、日々コミュニケーションを密にしていると記載されています。三様監査の連携は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。
リスク管理の中心は「コンプライアンス・リスク管理委員会」です。委員長は代表取締役社長、委員は取締役(社外取締役を除く)、執行役員及び内部監査室長で、原則3か月に1回開催します。議長は事務局である人事総務部を管掌する取締役です。委員会では、金融庁の企業内容等開示ガイドラインや上場会社の有価証券報告書の開示内容を参考に、投資家保護の観点から開示すべきリスクを抽出・協議しているほか、各部署で発生した重要なインシデントやトラブルの報告と対処策を協議しています。事業等のリスクの「レピュテーションリスク」「訴訟リスク」でも、トラブルやクレーム事例をこの委員会で全社共有し、再発防止につなげていると書かれています。
内部統制システムの基本方針(取締役・使用人の職務執行の法令・定款適合、情報の保存・管理、損失の危険の管理、職務執行の効率性、財務報告の信頼性、監査役の補助使用人、監査役への報告体制、反社会的勢力の排除など)も掲げられており、「現時点においては、これらの整備が完了し、安定運用フェーズに移行しております」と記載されています。反社会的勢力から接触を受けた場合の対応部署は人事総務部で、警察・弁護士等の外部機関と連携するとしています。なお、TPMでは内部統制報告書の提出は任意です。
会計・開示の論点――収益認識、減損、税効果
工事請負契約の収益認識:工期がごく短い工事の取扱い
Ginzaの売上高は、損益計算書上「完成工事高」として表示されています。重要な会計方針では、住宅リフォーム事業の工事請負契約について「工事を施工・完成させる履行義務」を負っており、「契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短いため、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識」していると記載しています。
収益認識会計基準では、一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たす工事契約は、履行義務の充足に係る進捗度に応じて一定の期間にわたり収益を認識しますが、収益認識適用指針(企業会計基準適用指針第30号)には、期間がごく短い工事契約について、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識できる代替的な取扱いがあります。施工が1日程度というGinzaのビジネスモデルは、この取扱いを適用する前提と整合しています。
図14 発行者情報の重要な会計方針「収益及び費用の計上基準」、収益認識関係注記、主な資産及び負債の内容による。残高は第35期の期首→期末(千円)。
関連する残高を見ると、第35期の契約負債は期首50,780千円から期末66,707千円に、顧客との契約から生じた債権(完成工事未収入金)は34,056千円から38,261千円になっています。完成工事未収入金の回収率は98.4%、滞留期間は6日で、信販会社向けのローン債権も含まれると注記されています。上場準備では、契約・完成・引渡しの証憑と売上計上日を突き合わせ、期末をまたぐ工事の計上時期(カットオフ)を説明できるようにしておくことが基本になります。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識をご覧ください。
固定資産の減損:自社保有のショールーム
重要な会計上の見積りとして挙げられているのは「固定資産の減損」です。Ginzaは事業用資産については継続的に損益を把握している管理会計上の区分で、遊休資産については物件単位で資産をグルーピングしています。減損の兆候がある資産グループについて、割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に、帳簿価額を回収可能価額まで減額します。回収可能価額は、外部専門家から入手した不動産鑑定評価結果等に基づく正味売却価額によっています。
図15 発行者情報の「重要な会計上の見積り」と損益計算書関係注記(減損損失)による。金額は千円。
第35期の減損損失は44,663千円です。内訳は、愛知県名古屋市の事業用資産(建物及び土地)が営業損失の継続により27,286千円(建物4,895千円、土地22,390千円)、奈良県橿原市・三重県四日市市・島根県隠岐郡の遊休資産(土地)が時価の下落により17,376千円です。賃貸等不動産の注記では、事業用資産から遊休資産への振替92,829千円を含め、遊休不動産の期末の貸借対照表計上額が75,452千円、期末時価が83,770千円と開示されています。
事業拠点の多くを自社保有物件とする会社では、拠点ごとの損益管理と減損の兆候判定、不動産鑑定評価の取得が毎期の決算作業に組み込まれます。上場準備では、管理会計上の区分が減損のグルーピングとして使える精度で運用されているかが問われます。
税効果・その他の注記
繰延税金資産の注記では、減損損失に係る繰延税金資産が前期2,353千円から当期18,234千円に、評価性引当額が13,502千円から27,334千円に増えています。法定実効税率は34.60%で、「防衛特別法人税」の創設に伴い、2026年4月1日に開始する事業年度以降に解消が見込まれる一時差異については35.44%で計算しています。
このほか、退職一時金制度について簡便法を採用していること、社有建物の解体時のアスベスト除去費用等について資産除去債務11,500千円を計上していること、長期預金100,000千円が期限前解約特約付預金(マルチコーラブル預金)であることなどが注記されています。未適用の会計基準として、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)を2029年2月期の期首から適用予定で、影響額は評価中としています。
財務諸表は財務諸表等規則と建設業法施行規則に基づいて作成され、第35期(2025年3月1日〜2026年2月28日)についてみおぎ監査法人の監査を受けています。2026年2月期の監査を執行した公認会計士は渡邉健悟氏・高野将一氏の2名で、補助者は公認会計士8名です。監査報酬は監査証明業務に基づく報酬9,500千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査法人の選び方とタイミングは監査法人はいつまでに決めるかで解説しています。
事業等のリスクとJ-Adviser契約――TPMならではの開示
Ginzaの事業等のリスクは、事業、コンプライアンス、社内体制、その他の4区分で17項目が記載されており、各項目に「発生可能性」「発生する可能性のある時期」「影響度」が付されています。会社の記載どおりに配置すると、次のようになります。
図16 発行者情報「事業等のリスク」の17項目を、会社が記載した発生可能性・影響度で配置。番号は発行者情報の項目番号。
影響度が「大」とされているのは、(5)仕入商材(ナフサを基礎原料とする石油由来樹脂が多く使われていることによる地政学リスクや価格高騰)と、(12)特定の人物への依存(創業者である代表取締役社長)の2項目です。発生可能性が「高」とされているのは、(1)競合、(3)施工業者(慢性的な人手不足と高齢化、外注委託費の上昇)、(13)人材の確保及び育成の3項目で、いずれも事業の担い手に関わるリスクです。
リスクごとに「当社の対応」と「それでも残る影響」を書き分ける構成は一般市場の有価証券報告書と同じで、発行者情報もこれに沿っています。リスク開示の抽出をコンプライアンス・リスク管理委員会で行っている点は、前述のとおりです。
TPMならではの項目が、(17)J-Adviserとの契約についてです。TPM上場会社は、特例第102条の定めにより担当J-Adviserと契約を締結する義務があり、Ginzaはジャパンインベストメントアドバイザーとの契約で、上場適格性要件を継続的に満たすこと、適時適切な会社情報の開示に努めること、上場会社の義務を履行することが求められています。
図17 発行者情報「事業等のリスク(17)J-Adviserとの契約について」による。④は「再建計画を開示した場合は原則として解除しない」旨の例外規定で、解除事由ではない。
契約の解除については、(1)義務の不履行や契約違反があった場合に、相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めて書面で催告し、期間内に是正されないときに解除できる定め、(2)合意によりいつでも解除でき、また1か月前の書面通知で解除できる定め、(3)一定の事由に該当する場合の即日無催告解除の定めがあります。
即日無催告解除の条項は①から⑱まで番号が付されていますが、このうち④は「前号(③破産手続・再生手続・更生手続)に該当することとなった場合においても、一定の再建計画を開示した場合には、原則として本契約の解除は行わない」という例外規定で、解除事由ではありません。解除事由として列挙されているのは④を除く17項目で、債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、法令違反及び上場規程違反等、株式事務代行機関への委託、株式の譲渡制限、完全子会社化、指定振替機関における取扱い、株主の権利の不当な制限、全部取得、反社会的勢力の関与、その他です。
催告期間内に義務の履行や違反の是正ができない場合や、代わりの担当J-Adviserを確保できない場合は、TPMの上場廃止につながる可能性があると記載されています。このほか、株主総会の特別決議を経て上場廃止申請書を提出した場合も上場廃止となります。
上場準備会社が学べること
Ginzaの発行者情報から、上場準備会社が実務に生かせるポイントを8つにまとめます。
図18 本文「上場準備会社が学べること」の要点。
- 資金調達を伴わない上場という選択肢:Ginzaは特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行わず、発行者情報に相当する情報を公表して上場する予定です。上場の目的が資金調達でない場合、TPMでは公募・売出しを行わない設計も可能です。自社にとって上場で何を得たいのかを先に整理することが出発点になります。
- 監査済みの期と未監査の期を区別して開示する:3期分の指標のうち監査済みは第35期だけで、そのことが注記で明記されています。TPMの監査期間は最近1年間ですが、過去期の数値を載せる以上、その位置づけを読み手に明確に伝える必要があります。
- 規模に応じた機関設計と、任意の会議体での補完:監査役会を置かず取締役会+監査役とし、任意の監査役協議会を毎月開くという設計は、規模に応じた体制の一例です。法定の機関にこだわるだけでなく、実効性をどう確保するかを説明できることが大切です。
- 親族役員がいる場合の牽制を明文化する:「親族取締役を過半数としない方針」「両名のみで意思決定が完結しない決裁権限基準」という具体的な仕組みを書いています。創業者依存のリスクは、開示とあわせて仕組みで説明するのが基本です。
- 1人の内部監査を連携で補う:専任1名の内部監査室を、独立的な他部署の者や外部の支援会社との連携、年2回の三様監査、常勤監査役との日常的な連携で支えています。人数が少ない会社ほど、連携の設計が重要です。
- 不動産を多く持つ会社は減損の見積りに備える:自社保有の拠点が多いGinzaでは、拠点別損益によるグルーピング、不動産鑑定評価による回収可能価額の算定が重要な会計上の見積りになっています。減損は税効果(評価性引当額)にも波及します。
- 株式移動とストック・オプションの価格根拠をそろえる:持株会への譲渡単価と新株予約権の行使価額をいずれも3,800円とし、どちらも簿価純資産価額方式と収益還元方式による価格を参考にしたと説明しています。同時期の価格に一貫した根拠があることは、資本政策の説明で重要です。
- J-Adviser契約の解除条項を理解しておく:TPMではJ-Adviser契約の維持が上場の前提です。解除事由と、解除後に代わりのJ-Adviserを確保できない場合の帰結を、経営陣が理解しておく必要があります。
資本政策の基本的な考え方は上場準備の資本政策、ガバナンス全体は上場準備のガバナンスで解説しています。
- 上場の目的(資金調達の有無を含む)を整理し、TPMと一般市場のどちらが合うかを検討したか
- 監査を受ける期と、開示書類に載る未監査の期の位置づけを整理したか
- 会社の規模に応じた機関設計と、それを補う会議体(監査役協議会など)を決めたか
- 親族役員・創業者依存について、取締役会構成の方針や決裁権限基準で牽制を設計したか
- 内部監査の人数に応じて、他部署・外部支援・三様監査との連携と自己監査の回避策を決めたか
- 株式移動・新株予約権の価格の算定方法と、J-Adviser契約の解除条項を経営陣が理解しているか
よくある質問
2026年11月3日時点では、上場承認はまだ出ていません(JPXの一覧の上場承認日欄は空欄)。2026年11月2日に上場申請(申請受付・発行者情報の公表)を行い、2026年12月7日にTOKYO PRO Marketへ上場する予定です。TPMでは、東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認します。
発行者情報の表紙によると、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないため、特例第110条第3項により発行者情報に相当する情報を公表しています。公募・売出しによる資金調達は行わない上場です。
TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」です。Ginzaの発行者情報でも、監査を受けているのは第35期(2026年2月期)の財務諸表で、第33期・第34期は監査を受けていないと明記されています。
TPMには一般市場のような機関設計の形式要件はなく、規模や成熟度等に応じてガバナンス・内部管理体制が整備・機能していることが上場適格性要件として求められます。Ginzaは取締役会と監査役(2名)を設置し、任意の監査役協議会を毎月開催しています。
最初の一歩は「自社の規模に合った体制」を言葉にすること
Ginzaの発行者情報が示しているのは、大きな組織をつくることではなく、自社の規模と事業リスクに合った体制を選び、その理由と補完策を言葉で説明することの大切さです。まずは、現在の取締役会・監査・内部監査の体制を書き出し、「なぜこの体制なのか」「足りない部分を何で補っているのか」を一文ずつ説明できるか確かめてみてください。説明できない部分が、上場準備で最初に手を付けるべき課題です。
まとめ
株式会社Ginzaは、2026年11月2日にTOKYO PRO Marketへの上場を申請し、2026年12月7日に上場を予定している水回り専門の住宅リフォーム会社です(2026年11月3日時点で上場承認前)。公募・売出しを行わず、創業者が潜在株式を含む総数の92.86%を持つオーナー企業として、直前1期(第35期)の監査、取締役会+監査役の機関設計、専任1名の内部監査室と三様監査による連携という体制で上場に臨んでいます。
業績面では、第33期から第35期にかけて売上高が減少するなかで経常利益は増加し、第35期は減損損失44,663千円の計上で当期純利益が減少しました。自己資本比率89.8%・借入金なしという財務基盤と、自社保有不動産の減損という会計上の見積りが表裏の関係にある点も特徴です。上場準備会社にとっては、規模に応じた体制の選び方と、その説明の仕方を学べる事例といえます。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「株式会社Ginza 発行者情報」(2026年11月2日公表)
- 日本取引所グループ「新規上場会社情報(TOKYO PRO Market)」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 日本取引所グループ「上場ガイドブック(TOKYO PRO Market編)」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 東京証券取引所「上場目的の開示のお願い」(2026年4月3日)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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