上場準備のガバナンス|機関設計と開示体制の決め方

上場審査では、会計や事業だけでなく会社の意思決定のしくみが見られます。誰が決めて、誰が監視して、それをどう外に出すか。ここが整っていないと、数字が良くても審査は通りません。

やることは多岐にわたります。機関設計を決め、社外役員を選び、内部監査の報告経路を作り、身内との取引を切り、適時開示の体制を組む。それぞれに条文と上場規程の根拠があり、市場区分によって求められる水準も違います。

この記事は、上場準備で決めるべきガバナンスの論点を並べ、それぞれのくわしい解説への入口をまとめたものです。

この記事でわかること

  • 監査役会設置会社と監査等委員会設置会社の選び方
  • 社外取締役の人数が会社法とコードでどう違うか
  • 三様監査の役割分担と、内部監査の報告経路
  • 身内との取引をどこまで切るか
  • 適時開示の対象と、コード・サステナビリティ開示の最新の姿

📌 まず機関設計を決める

非上場のまま監査役1名で来た会社が、上場に向けて選ぶのは監査役会設置会社か監査等委員会設置会社です。どちらを選ぶかで、必要な人数も任期も変わります。

項目 監査役会設置会社 監査等委員会設置会社
員数と社外の割合 監査役3名以上、その半数以上が社外(会社法335条3項) 監査等委員である取締役3名以上、その過半数が社外(331条6項)
常勤者 常勤の監査役を置く義務がある(390条3項) 常勤者を置く義務の定めがない
任期 監査役は4年(336条1項) 監査等委員である取締役は2年、それ以外は1年(332条1項・3項・4項)
業務執行の委任 取締役会から取締役への広い委任はできない 一定の要件のもとで委任できる(399条の13第5項・第6項)

社外取締役については、会社法上の義務と、コーポレートガバナンス・コードが求める人数が別です。市場区分によって求められる人数が変わるため、どの市場を狙うかを先に決めないと必要な人数も決まりません。

監査役に会計の知識が要るかという論点もあります。財務及び会計に関する相当程度の知見は事業報告の記載事項(会社法施行規則121条9号)であって、そういう監査役を置けという条文は見当たりません。それでも実務では監査役会の構成として問われます。

📌 三様監査の役割を分ける

監査役監査、内部監査、会計監査人監査の3つを三様監査と呼びます。見る対象も根拠も違います。

区分 根拠 見る対象
監査役監査 会社法381条1項 取締役の職務の執行
会計監査人監査 会社法396条1項、金融商品取引法193条の2第1項 計算書類および財務諸表
内部監査 会社法上の根拠条文が見当たらない 業務プロセスと内部統制の有効性

内部監査には会社法の根拠がありませんが、報告経路については定めがあります。内部統制の実施基準は、内部監査人が取締役会と監査役会に直接報告できる仕組みを求めています。この一文は2023年4月7日の改訂で新設されました。社長にだけ報告する体制のままでは、審査で問われます。

📌 身内との取引を切る

オーナー会社では、社長個人や親族の会社との取引が残っていることがよくあります。全部やめる必要はありませんが、手続と開示が要ります。

  • 取締役会の承認が要る取引には3つの型があります。事後の報告も義務です
  • 関連当事者の範囲には親族の会社も入ります。開示の対象は11の区分に分かれ、項目ごとに重要性の基準が違います
  • 注記には個人の氏名と職業が載ります。連結財務諸表を作る会社は、個別の財務諸表規則の注記が不要になります
  • 会社法上の注記は会社計算規則112条にあり、省略できる号があります

📌 開示の体制を組む

上場後に何をいつ出すかは、有価証券上場規程に条番号で書かれています。

区分 条項
決定事実 402条1号
発生事実 402条2号
子会社等の情報 403条
決算情報 404条
業績予想の修正等 405条

決定事実の開示は、取締役会決議を待ちません。実質的に決定する機関が事実上決定した時点が起点です。ここを取り違えると、開示が遅れます。

業績予想の修正は、売上高10パーセント、利益30パーセントが目安です。配当予想には軽微基準がありません。判定を月次の締めに組み込んでおくと漏れません。

決算短信の訂正と有価証券報告書の訂正は別の制度です。訂正報告書の根拠は金融商品取引法7条1項後段にあり、適時開示を先に行います。

内部通報体制も見られます。従事者を定める義務、体制を整備する義務、そして整備だけでなく運用実績が問われます。従業員300人以下の会社は努力義務ですが、上場審査では別の話です。

社外役員の選任と機関設計をお引き受けします

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

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📌 コードとサステナビリティ開示は動いている

コーポレートガバナンス・コードは2026年7月版で構造が変わりました。補充原則という区分がなくなり、解釈指針が新設されています。改訂の柱は、経営資源の配分、取締役会、有価証券報告書の総会前開示、ステークホルダーとの関係の4つです。報告書の提出期限は2027年7月末日とされています。

サステナビリティ開示も段階的に始まります。SSBJ基準の適用が義務づけられるのは開示府令19条の9第1項によるもので、平均時価総額3兆円以上は2027年3月期、1兆円以上は2028年3月期からです。スコープ3には初年度に開示しないことができる経過措置があります。

いずれもいまの上場準備会社にすぐ効く話ではありませんが、有価証券報告書の総会前開示は方向として固まりつつあります。総会前開示の実施率は2年で1.8パーセントから88.3パーセントになりました。開示の日程を組むときは、この流れを前提にしてください。

📌 親会社がある場合

親会社や支配株主がいる状態でも上場はできますが、独立性の確保が別途求められます。支配株主の定義は有価証券上場規程2条42号の2と施行規則3条の2にあります。

コードは支配株主を有する上場会社に対し、独立社外取締役をプライム市場で過半数、その他の市場で3分の1以上とするか、独立性のある特別委員会を設置することを求めています。人数の設計は、この要件から逆算することになります。

🔗 論点別のくわしい解説

機関設計と役員

監査の体制

身内との取引

開示の実務

コードとサステナビリティ

❓ よくある質問

Q. 監査役会と監査等委員会、どちらが上場に有利ですか

A. 有利不利はありません。決め手は、常勤者を置けるか、社外の人を何人集められるか、取締役会からの委任をどこまで使いたいかです。人を集められる見通しから逆算して選ぶのが実務的です。

Q. 内部監査は誰が担当すればよいですか

A. 会社法に根拠条文がないため、法律上の資格要件はありません。ただし報告経路は問われます。社長にだけ報告する形ではなく、取締役会と監査役会に直接報告できる仕組みを作ってください。被監査部門から独立していることも必要です。

Q. 社長個人との取引は全部やめる必要がありますか

A. 全部やめる必要はありません。取締役会の承認を取り、事後の報告を行い、注記に載せる。この手続が踏まれていることが重要です。ただし賃貸借など継続する取引は、条件の妥当性を説明できるようにしておいてください。

Q. 適時開示の起点はいつですか

A. 決定事実については、取締役会の決議ではなく、実質的に決定する機関が事実上決定した時点です。稟議で実質的に決まっているのに取締役会を待つと、開示が遅れたと判断されることがあります。

Q. コーポレートガバナンス・コードは上場前から対応が要りますか

A. 報告書の提出は上場後ですが、機関設計や社外役員の人数はコードの水準を前提に決めることになります。特に支配株主がいる場合は、独立社外取締役の人数に直結します。

📄 まとめ

上場準備のガバナンスは、機関設計を決めるところから始まります。監査役会設置会社か監査等委員会設置会社かで、必要な人数も任期も変わります。社外役員は集めるのに時間がかかるので、いちばん早く着手すべき項目です。

次に監査の体制です。三様監査はそれぞれ根拠も対象も違います。内部監査には会社法の根拠がありませんが、取締役会と監査役会に直接報告できる経路は実施基準が求めています。

そして身内との取引と開示です。取締役会の承認、事後の報告、注記。適時開示は条番号ごとに対象が決まっていて、決定事実の起点は取締役会決議ではありません。

どれも、人を集めて仕組みを回した実績が必要になります。整備しただけでは足りず、運用の記録が求められます。逆算すると、着手は早いほど楽になります。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。会社法、上場規程、コーポレートガバナンス・コードはいずれも改正されます。実際の制度設計にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

  • 会社法 328条1項(大会社における監査役会等の設置)、327条の2(社外取締役の設置義務)
  • 会社法 335条3項(監査役会設置会社の監査役)、390条2項・3項(監査役会の職務・常勤監査役の選定)
  • 会社法 331条6項(監査等委員である取締役)、329条2項(監査等委員である取締役の選任)
  • 会社法 332条1項・3項・4項(取締役の任期)、336条1項(監査役の任期)
  • 会社法 399条の13第5項・第6項(取締役への委任)
  • 会社法 423条1項、427条1項、429条1項・2項3号(役員等の責任)
  • 会社法 第2条第15号、第327条の2
  • コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)原則4-8、原則4-9、原則4-10
  • 有価証券上場規程 第436条の2、第445条の4、東京証券取引所「独立役員の確保に係る実務上の留意事項」
  • 企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」令和5年4月7日、および新旧対照表 I.4(4)内部監査人
  • コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)原則4-4の解釈指針、原則4-14の解釈指針
  • 金融庁・東京証券取引所「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」2026年7月21日
  • 東京証券取引所 新規上場ガイドブック III 上場審査の内容 3 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
  • 企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」第4項・第5項・第6項・第7項・第8項・第9項・第10項・第11項
  • 企業会計基準適用指針第13号「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」第14項から第20項
  • 会社計算規則 第112条
  • 東京証券取引所 有価証券上場規程 第441条、第441条の2、同施行規則第436条の3、第436条の4
  • 有価証券上場規程 第402条・第403条・第404条・第405条・第408条の3・第411条の2・第411条の3・第413条・第413条の2・第414条・第415条・第416条・第417条・第436条の4
  • 有価証券上場規程施行規則 第401条から第404条(軽微基準)
  • 有価証券上場規程 第503条・第504条・第505条・第505条の2・第506条・第507条・第508条・第509条・第601条
  • 東京証券取引所 会社情報適時開示ガイドブック(2026年7月版)、適時開示が求められる会社情報、適時開示に関する実務要領
  • 規則改正新旧対照表「少数株主保護に関する上場制度の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正」2026年7月3日
  • 業績予想の修正、予想値と決算値との差異等(東京証券取引所) 数値基準と条番号
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