収益認識基準の導入にあわせて、法人税法にも収益の額に関する規定が整備されました。会計と税務の考え方は大枠で整合していますが、完全に一致するわけではありません。差異が生じる部分については申告調整が必要になります。
この記事では、会計上の収益認識と法人税法上の取扱いの関係を整理し、申告調整が必要になる場面と、税効果会計への影響を扱います。
- 会計と税務で収益の計上時期がどう整理されているか
- 変動対価、返品、貸倒れの扱いの違い
- 申告調整が必要になる場面と調整の内容
- 一時差異として税効果会計の対象になるもの
図 申告調整が必要になるかの判定(一時差異は税効果会計の対象になります)
📌 大枠は整合している
法人税法では、資産の販売等に係る収益の額は、原則としてその引渡しの日または役務の提供の日の属する事業年度の益金の額に算入するとされています。あわせて、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、引渡しの日に近接する日に収益として経理した場合には、その日の属する事業年度の益金とすることも認められています。
この規定により、会計上で支配の移転時点として収益を認識した場合、税務上もその時期が認められることになります。会計処理を出発点として税務が組み立てられている構造です。
大枠は整合していますが、貸倒れと返品の扱いに差があります。
📌 差異が生じる部分
整合しない部分もあります。最も明確なのが、貸倒れの可能性と返品の可能性の扱いです。法人税法では、収益の額を算定するにあたって、貸倒れや返品の可能性がないものとした場合の価額とすることとされています。
会計上は、返品が見込まれる部分の収益を認識せず、返金負債として計上します。税務上はこの調整を認めないため、返品見込み分も益金に算入されます。この差異について申告調整を行います。
返品や貸倒れの見積りを反映した部分は、調整が必要になります。
📊 記載例
返品権付き販売について、会計と税務で処理が分かれる例です。
前提 販売価格1,000千円、原価600千円の商品を返品権付きで販売した。返品率の見込みは5パーセント。
| 項目 | 会計上の処理 | 税務上の取扱い | 差異 |
|---|---|---|---|
| 収益 | 950 | 1,000 | 50 |
| 原価 | 570 | 600 | 30 |
| 利益 | 380 | 400 | 20 |
税務上は返品の可能性を収益の額に反映させないため、1,000千円が益金となります。
会計上の収益950千円との差額50千円と、原価の差額30千円について申告調整を行います。差引20千円の加算です。
| 状況 | 税務上の扱い |
|---|---|
| 実際に返品を受けた | 返品を受けた事業年度で減額する |
| 返品されなかった | 前期の調整を洗い替える |
会社名と数値は架空です。返金負債と返品資産に対応する差異は、一時差異として税効果会計の対象になります。
この差異は毎期発生するため、申告調整と税効果の計算を毎期行うことになります。集計の仕組みを作っておかないと、決算のたびに手作業が発生します。
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📌 変動対価の扱い
変動対価のうち、値引きや割戻しについては、税務上も一定の場合に減額が認められます。その事業年度終了の日までに値引き等の事実が生じていない場合でも、過去の実績など客観的な基準にもとづいて見積られていれば、収益の額を減額できます。
ただし、客観的な基準という要件があるため、会計上の見積りがそのまま認められるとは限りません。見積りの根拠として、過去の実績データや契約上の算定式を示せることが必要です。
📌 税効果会計への影響
会計と税務の差異は、多くの場合一時差異です。返品見込み分の収益は、実際に返品されるか返品期間が終了した時点で解消します。したがって、繰延税金資産または繰延税金負債を計上することになります。
実務では、差異の一覧を作り、それぞれについて発生と解消のタイミングを管理します。返金負債、契約負債、契約資産といった科目ごとに残高を把握し、税務上の取扱いとの差額を集計する仕組みが必要です。
📌 消費税との関係
消費税では、資産の譲渡等を行った時点で課税売上を認識します。会計上の収益認識の時期とずれる場合があります。契約資産として計上している段階でも、資産の譲渡が済んでいれば課税売上が生じます。
とくに、履行義務を複数に分けて収益を認識する場合や、返品見込み分を収益から除く場合に、会計上の売上高と課税売上高が一致しなくなります。申告時に両者の差異を説明できるよう、集計表を整備しておくことをおすすめします。
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❓ よくある質問
A. 大枠は整合していますが、貸倒れと返品の可能性の扱いが異なります。これらについては申告調整が必要です。
A. 返品権付き販売が継続する限り毎期発生します。前期の調整を洗い替え、当期分を新たに調整するという処理を繰り返します。
A. 値引きや割戻しについては、客観的な基準にもとづく見積りであれば減額が認められます。過去の実績データや契約上の算定式を根拠として示せることが必要です。
📄 まとめ
法人税法は会計処理を出発点としており、収益の計上時期については大枠で整合しています。ただし貸倒れと返品の可能性については、税務上は収益の額に反映させないため、申告調整が必要です。
差異の多くは一時差異であり、税効果会計の対象になります。返金負債や契約負債の残高を科目ごとに管理し、税務上の取扱いとの差額を集計できる仕組みを整えてください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
- 契約資産と契約負債
- 契約コスト
- 法人税との差異(この記事)
- 上場審査で問われる論点
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)