収益認識の本人と代理人の判定(総額か純額か)
顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与する場合、企業がその財又はサービスを顧客に提供される前に支配していれば本人として対価の総額を、他の当事者による提供を手配するだけであれば代理人として報酬又は手数料の金額(純額)を収益に計上します(収益認識適用指針 第39項から第43項)。支配しているかどうかは、履行に対する主たる責任、在庫リスク、価格設定の裁量権という3つの指標を手がかりに判断します(第47項)。
- 判定は顧客に約束した特定の財又はサービスごとに行い、同じ契約の中で本人と代理人が混在することもある(第41項)
- 法的所有権を一時的に得ても、顧客に瞬時に移転されるなら支配しているとは限らない(第45項)
- 判定が変わっても利益は変わらないが、売上高と売上原価の金額が大きく変わる
2026年10月12日更新
他社の商品やサービスを顧客に提供する取引では、受け取った対価の総額を売上高にするのか、そこから仕入額を差し引いた純額にするのかが問題になります。基準は、企業が本人として行動しているか、代理人として行動しているかで区別します。
この記事では、本人と代理人の判定の考え方と3つの指標、そして判定が財務諸表に与える影響を整理します。売上高の金額そのものが変わるため、上場準備会社にとって影響の大きい論点です。
- 本人か代理人かを判定する基準と、3つの指標
- 判定が変わると損益計算書がどう変わるか
- 業種別の判定の傾向と、契約ごとに確認すべき点
- 上場準備で判定が問題になる場面
図 本人か代理人かの判定
📌 判定の基準は支配
本人か代理人かの判定は、顧客に財またはサービスが移転される前に、企業がその財またはサービスを支配しているかどうかで決まります。支配していれば本人であり、対価の総額を収益として認識します。支配しておらず、他社が提供する財またはサービスを手配しているにすぎなければ代理人であり、手数料または報酬の純額を収益とします。
支配しているかどうかが判定の基準で、3つの指標はその判断を助けるものです。
ここでいう支配は、顧客に移転する前の一時点でも成立します。商品を仕入れて在庫として保有し、注文を受けて出荷するのであれば、保有している間は支配しています。一方、顧客の注文を受けてから仕入先に発注し、仕入先から顧客へ直送されるのであれば、支配していたといえるかは慎重な判断が必要です。
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📘 適用指針の条文で判定の手順を確認する
本人と代理人の区分は、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」の第39項から第47項に定められています。判定の流れを項番号に沿って並べると次のとおりです。
| 項 | 定めている内容 |
|---|---|
| 第39項 | 財又はサービスを企業が自ら提供する履行義務であれば本人に該当し、対価の総額を収益として認識する |
| 第40項 | 他の当事者による提供を手配する履行義務であれば代理人に該当し、受け取る報酬又は手数料の金額(他の当事者に支払う額を控除した純額である場合もある)を収益として認識する |
| 第41項 | 判定は顧客に約束した特定の財又はサービスごとに行う。1つの契約に本人となる部分と代理人となる部分が含まれることがある |
| 第42項 | 判定は2段階で行う。(1) 顧客に提供する財又はサービスを識別し、(2) それが顧客に提供される前に企業が支配しているかを判断する |
| 第43項 | 提供される前に支配していれば本人、支配していなければ代理人 |
| 第44項 | 本人に該当するのは、(1) 他の当事者から受領して顧客に移転する財又は他の資産、(2) 他の当事者が履行するサービスに対する権利、(3) 他の当事者から受領して自社の財又はサービスと統合する財又はサービス、のいずれかを企業が支配している場合 |
| 第45項 | 法的所有権を一時的に獲得しても、顧客に瞬時に移転される場合は、必ずしも支配していることにはならない |
| 第47項 | 支配しているかの判断に使う指標として、(1) 履行に対する主たる責任、(2) 在庫リスク、(3) 価格設定の裁量権を示している |
実務で迷いやすいのは第42項の(1)、つまり顧客に提供するものが何かの識別です。たとえば旅行の手配で、顧客に提供するものを「航空券」と見るか「航空会社による輸送サービスを受ける権利」と見るかで、支配の検討の対象が変わります。先に提供するものを特定し、その後で支配の有無を検討するという順番を守ると、判断の根拠を説明しやすくなります。
また、第47項の3つの指標は、支配の判断を助けるためのものです。指標の当てはまる数で決めるのではなく、取引の実態に照らして、顧客に提供される前に企業が支配しているかという第43項の問いに答えるために使います。
代理人として行動する取引がある場合は、収益を理解するための基礎となる情報の注記(履行義務に関する情報)で、他の当事者が顧客に財又はサービスを提供するよう手配する履行義務がある旨などを記載します(収益認識に関する会計基準 第80-14項)。
📌 3つの指標
支配しているかどうかの判断が難しい場合、基準は3つの指標を示しています。これらは判定の条件ではなく、判断を助けるための手がかりです。
3つのうち多く当てはまるほど本人である可能性が高くなりますが、多数決ではありません。
履行に対する主たる責任は、商品に欠陥があったときに誰が責任を負うか、サービスの品質に問題があったときに誰が対応するかで見ます。顧客からのクレームを自社が受け、自社の責任で解決するのであれば、主たる責任を負っているといえます。
在庫リスクは、売れ残った場合の損失を誰が負うかです。返品条件付きで仕入れ、売れなければ返せるのであれば、在庫リスクは負っていません。価格の裁量権は、販売価格を自社で決められるかです。仕入先が価格を指定し、自社の取り分が手数料として固定されているなら、裁量権はありません。
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📌 業種による傾向
取引の型ごとに、判定の傾向があります。ただし同じ業種でも契約条件により結論が変わるため、あくまで出発点として使います。
同じ業種でも契約条件により結論が変わります。契約ごとの確認が必要です。
とくに注意したいのが、電子商取引と広告です。自社のサイトで他社の商品を販売する場合、在庫を持たずに注文だけを取り次いでいるなら代理人です。一方、買取仕入で在庫を保有し、価格も自社で決めているなら本人です。同じ会社の中で両方の取引が混在していることもあります。
📊 記載例
同じ取引を本人として処理した場合と代理人として処理した場合の比較です。
前提 顧客から1,000千円を受け取り、仕入先に800千円を支払う取引。差額200千円が自社の取り分となる。
| 項目 | 本人として処理 | 代理人として処理 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,000 | 200 |
| 売上原価 | 800 | - |
| 売上総利益 | 200 | 200 |
| 売上高総利益率 | 20.0パーセント | 100.0パーセント |
利益の金額は同じですが、売上高が5分の1になります。
売上高を経営指標としている会社では、成長率の見え方が大きく変わります。上場準備の過程で判定が変わると、事業計画の作り直しが必要になることがあります。
会社名と数値は架空です。判定が変わっても利益は変わらないという点が、説明の出発点になります。
この違いは、上場審査でも投資家向けの説明でも必ず問われます。判定の根拠を契約条件と結びつけて説明できる状態にしておく必要があります。
📌 上場準備で問題になる場面
判定が変わると売上高が大きく減るため、成長率や規模の見え方が変わります。事業計画を売上高ベースで作っている会社では、計画そのものを作り直すことになります。上場審査では、売上高の計上方法とその根拠が必ず確認されます。
実務では、取引の類型ごとに契約書の条項を確認し、3つの指標をどう評価したかを記録します。とくに、顧客からのクレーム対応の実態、返品の可否、価格決定の権限については、契約書の文言だけでなく実際の運用も確認します。契約書では返品可能となっていても、実際には返品したことがないという状況では、実態としての在庫リスクの評価が変わることがあります。
取引類型ごとの契約条項の確認から、3つの指標の評価、判断根拠の文書化までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 収益認識適用指針の第39項から第47項です。第42項の2段階(提供する財又はサービスの識別、提供前に支配しているかの判断)で判定し、第47項の3つの指標を判断の手がかりにします。
A. 利益の金額は変わりません。変わるのは売上高と売上原価の表示です。ただし売上高を基準にした指標や、事業計画の見え方は大きく変わります。
A. 多数決ではありません。3つは支配しているかどうかを判断するための手がかりであり、取引の実態に応じてどの指標を重視するかが変わります。
A. 問題ありません。取引の類型ごとに判定します。ただし、どの取引をどちらで処理しているかを整理しておきます。代理人として行動する取引がある場合は、履行義務に関する情報の注記でその旨などを記載します(収益認識に関する会計基準 第80-14項)。
📄 まとめ
本人か代理人かは、顧客に移転する前にその財またはサービスを支配していたかで判定します。履行に対する主たる責任、在庫リスク、価格の裁量権の3つが判断の手がかりです。
判定が変われば売上高が大きく変わりますが、利益は変わりません。上場準備の過程では、判定の根拠を契約条項と実際の運用の両面から説明できるようにしておくことが求められます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準委員会) 第39項から第47項
- 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準委員会) 第80-14項
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)
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