※本記事は2026年11月3日時点の公表資料に基づきます。
InfiniCloud株式会社(静岡県静岡市、代表取締役 瀧 康史)は、2026年11月30日に東京証券取引所のTOKYO PRO Market(TPM)へ上場する予定です。2026年10月30日に上場申請が公表され、担当J-Adviserはフィリップ・キャピタル証券株式会社です。上場承認日は、2026年11月3日時点ではJPXの新規上場会社情報にまだ記載がありません。本記事では、同社が2026年10月30日に公表した「特定証券情報」をもとに、上場準備の実務で参考になる論点を整理します。
結論からいえば、この事例の読みどころは3つあります。①上場に際して普通株式60,000株以内の特定投資家向け取得勧誘を行い、手取金の使途を機材購入費用と人件費に具体的に割り当てていること、②地域のファンドが保有していたA種優先株式を取得条項により普通株式へ転換して消却し、その直後に1株を4株とする株式分割を行って資本構成を整えたこと、③監査を受けた財務諸表は直前事業年度(第24期)のみで、中間会計期間は期中レビューという、TPMの「最近1年間」の監査の枠組みに沿った開示になっていることです。兼務者による内部監査の体制や、主要販売先2社への依存度の開示も、小規模な会社の上場準備にとって参考になります。
※本記事は、InfiniCloud株式会社が公表した「特定証券情報」とJPXの公表資料に基づき、上場準備の実務解説を目的として作成したものです。投資の勧誘や個別銘柄の評価を目的とするものではありません。
この記事の見出し
InfiniCloudはどんな会社で、いつどの市場に上場するのか
InfiniCloudは、企業が保有する既存のIT資産を活かしながらクラウドへ移行するための「プライベートクラウドサービス」を提供する会社です。2001年11月に有限会社ジャストプレイヤーとして静岡市で設立され、2006年7月に株式会社へ改組、2021年1月にテラクラウド株式会社、2023年4月に現在のInfiniCloud株式会社へ商号を変更しています。決算期は9月で、直近の通期は第24期(2025年9月期)です。子会社はなく、財務諸表は単体のみです。
上場先はTOKYO PRO Marketです。TPMは、プライム・スタンダード・グロースの一般市場とは別の、特定投資家等を対象とした市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」に当たります。上場の可否は、東証から資格認証を受けた担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する仕組みで、東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認します。同社の上場承認日は本記事の執筆時点で公表されていないため、以下では「上場予定」「上場を申請した」という書き方をしています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | InfiniCloud株式会社(InfiniCloud Co. Ltd.) |
| 本店所在地 | 静岡県静岡市葵区 |
| 設立 | 2001年11月(有限会社ジャストプレイヤーとして設立) |
| 決算期 | 9月(直近通期は第24期=2025年9月期) |
| 事業 | プライベートクラウドサービス(報告セグメントはクラウドサービス事業) |
| 従業員数 | 22名(ほかに臨時従業員3名。2026年9月30日現在) |
| 市場 | TOKYO PRO Market |
| 上場申請の公表日 | 2026年10月30日 |
| 上場承認日 | 未公表(2026年11月3日時点) |
| 上場予定日 | 2026年11月30日 |
| 担当J-Adviser | フィリップ・キャピタル証券株式会社(J-Adviser契約の締結は2026年1月15日) |
| 公表書類 | 特定証券情報(公表日 2026年10月30日) |
| 上場時の取得勧誘 | 普通株式60,000株以内の特定投資家向け取得勧誘(想定公開価格1,700円) |
| 監査法人 | 有限責任監査法人トーマツ(第24期は監査、第25期中間会計期間は期中レビュー) |
上場までの日程は、特定証券情報の「特定投資家向け取得勧誘の要項」に細かく記載されています。11月10日に仮条件を決め、11月11日〜13日に需要の申告を受け付け、11月17日に発行価格を決定、11月18日〜20日が申込期間、払込期日は11月26日、株式の受渡期日である11月30日が上場日の予定です。
図1 特定証券情報に記載された特定投資家向け取得勧誘と上場の予定日程。上場承認日は2026年11月3日時点で未公表です。
ブックビルディング方式に準拠して発行価格を決める点は一般市場のIPOと似ていますが、ここで行われるのは「特定投資家向け取得勧誘」であり、勧誘の相手方は特定投資家に限られます。発行価格の決め方の一般的な流れは、ブックビルディングとはで解説しています。
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事業内容と収益モデル:何で稼いでいるのか
特定証券情報によると、同社の主な顧客は、大規模な基幹システムや長年運用してきたIT資産を持つエンタープライズ企業です。中核サービスは、自社開発の仮想化基盤「InfiniCloud HV」をベースにした「High Response Private Cloud(HRPC)」と、Oracle SolarisのSPARCシステムの移行先として使える「Solaris SPARC Private Cloud」の2つで、VMwareのライセンス体系の変更などを背景としたIT基盤の見直しニーズに対応していると説明されています。
特徴的なのは、データセンターを不動産として自社で保有せず、国内の複数のデータセンター事業者の拠点を自社のネットワークとソフトウエアで連携させる「分散型」の基盤を採っている点です。同社はこの仕組みを「分散+」と呼び、2030年までの経営目標として「日本のクラウドを『分散+』する」ことを掲げています。また、データセンター事業者に自社のクラウド基盤をOEM/ODMの形で提供する取組みや、AI基盤「InfiniCloud AI」の開発・提供も進めています。
図2 特定証券情報の「事業の内容」「経営戦略等」の記載をもとに作成した模式図です。データセンターは自社で保有せず、複数の事業者の拠点を自社ネットワークで連携させています。
主要な設備の状況を見ると、2026年3月31日現在、焼津データセンター(静岡県焼津市)、飯田橋データセンター(東京都文京区)、堂島データセンター(大阪市北区)などにネットワーク設備(工具、器具及び備品)を置いています。事務所とデータセンターの賃借料の総額は53,622千円と記載されています。設備を自社で持ちつつ、拠点は借りるという形です。
収益の内訳は、収益認識の注記(顧客との契約から生じる収益を分解した情報)で確認できます。第24期のクラウドサービス事業の売上高539,124千円のうち、「Cloud Native」が215,813千円、「Conventional Cloud」が188,637千円、「Network」が116,775千円、「InfiniCLOUD」が10,533千円です。このほか、報告セグメントに含まれない「その他」(ライセンス販売を含む商品販売事業、アドバイザリー事業等)が65,193千円あります。
図3 第23期・第24期の収益認識注記の「収益の分解情報」。左の5区分はクラウドサービス事業、右端は報告セグメントに含まれない「その他」(ライセンス販売等)です。
主要販売先2社への依存をどう開示しているか
販売実績の注記には、主な相手先別の販売実績が載っています。株式会社BREXA Holdings(旧 株式会社アウトソーシング)向けは第23期228,665千円(44.5%)、第24期244,543千円(40.5%)、第25期中間会計期間68,106千円(22.4%)、KSG株式会社向けは第23期140,360千円(27.3%)、第24期174,196千円(28.8%)、第25期中間会計期間110,416千円(36.3%)です。また、金融商品の注記では、第24期末の営業債権のうち74.4%が特定の大口顧客に対するものとされています。
図4 「販売実績」の注記による相手先別の割合。第25期は中間会計期間(6か月)の数値です。
事業等のリスクでは、BREXA Holdingsについて、2025年7月に社名変更を伴う大規模な体制変更があったことや営業の状況を踏まえ、今後は売上依存度が20%ほどに下がる見込みであること、販売代理店制度を整備して販路を広げ、依存度を下げる方針であることが書かれています。KSGについては、販売代理店制度を整備する以前から複数の顧客への販売実績がある販売先で、取引の拡大を見込みつつ、他の販売先との取引をそれ以上に拡大して相対的な依存度を下げる方針とされています。
上場準備の実務では、特定の取引先への依存は「隠すもの」ではなく、数値と見通し、対応方針をセットで開示するものです。依存度の推移、契約の形態(直販か販売代理店経由か)、取引が減った場合の影響を自社で説明できるようにしておくと、J-Adviserの調査や投資家への説明がしやすくなります。
沿革と上場までの道のり
同社はゲームソフトウエアの配信事業を目的として創業し、2002年11月にWEBサーバのレンタルサービスを始めたことを「クラウド事業の開始」と位置づけています。その後、2007年2月の第二種電気通信事業者の届出、2012年12月のSolaris SPARC版プライベートクラウドの開始、2014年1月の個人向けオンラインストレージ「Teraクラウド」の開始と、サービスを広げてきました。
図5 特定証券情報の「沿革」等から抜粋。上段から下段へ時系列で並べています。
上場準備に関係する出来事としては、2022年11月14日の取締役会で内部統制基本方針を決議していること、2023年10月に情報セキュリティマネジメントシステム(ISO27001)とクラウドセキュリティ(ISO27017)の認証を取得していること、そして2026年1月15日に担当J-Adviserであるフィリップ・キャピタル証券とJ-Adviser契約を結んだことが挙げられます。J-Adviser契約から上場申請の公表(2026年10月30日)までは約9か月半です。上場準備の全体の流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
なぜTOKYO PRO Marketなのか:TPMの上場の仕組み
特定証券情報を通読した範囲では、同社がTPMを選んだ理由や上場の目的をまとめて説明した記載は見当たりません。そのため、ここでは同社の理由を推測せず、TPMという市場の一般的な特徴を、同社の書類の記載に即して整理します。なお、東証は2026年4月から、新規上場時に「なぜTPMに上場するのか」という上場目的を検討・開示するよう上場会社に要請しています(「上場目的の開示のお願い」)。これは規程上の義務ではなく要請ですが、TPM上場を検討する会社は、自社の上場目的を言葉にしておくとよいでしょう。
TPMの最大の特徴は、形式基準(株主数・流通株式・利益の額などの数値基準)がなく、担当J-Adviserが上場適格性要件への適合状況を調査・確認する点です。上場適格性要件には、企業としての相応性、事業を公正かつ忠実に遂行していること、規模や成熟度に応じたコーポレート・ガバナンスと内部管理体制、企業内容等の開示を適正に行える体制、反社会的勢力との関係がないことなどが含まれます。「審査がない」わけではなく、審査の担い手と方法が一般市場と違う、と理解するのが正確です。
図6 上段はJPXの上場ガイドブック(TPM編)に記載された一般的な流れ、下段は特定証券情報とJPXの新規上場会社情報から分かる当社の日程です。
同社の特定証券情報の冒頭にある「投資者に対する注意事項」でも、TPMは特定投資家等を対象とした市場であること、TPMではJ-Adviserが重要な役割を担い、上場会社は「特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例」に従ってJ-Adviserを選任する必要があることが説明されています。上場申請の約30営業日前までに東証へ意向表明を行い、申請時に特定証券情報などを公表する、という流れもTPM特有です。
一般市場との違いを表で確認する
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード等) |
|---|---|---|
| 買付けができる投資家 | 特定投資家等(一般投資家は買付け不可。保有株式の売却は可能) | 一般投資家を含む |
| 形式基準(数値基準) | なし | 株主数・流通株式などの基準あり |
| 上場適格性の調査 | 担当J-Adviserが調査・確認し、宣誓書を東証に提出 | 主幹事証券の引受審査と東証の上場審査 |
| 申請から承認まで | 原則として申請から10営業日後に承認 | 東証の上場審査を経て承認 |
| 上場前に必要な監査 | 最近1年間 | 直前2事業年度 |
| 上場時の開示書類 | 特定証券情報(又は発行者情報に相当する情報) | 新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)、有価証券届出書など |
| 上場後の定期開示 | 発行者情報(年次・中間。各期末後3か月以内) | 有価証券報告書・半期報告書など |
| 四半期の開示 | 任意 | 取引所規則に基づく四半期決算短信 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 金融商品取引法に基づき提出 |
| 一般市場への移行 | TPMを申請により上場廃止し、一般市場に新規上場する | ― |
一般市場との比較で特に押さえておきたいのは、TPMから一般市場へ移る場合も「市場区分の変更」ではなく、TPMの上場廃止と一般市場への新規上場という扱いになることです。同社の特定証券情報には一般市場への将来の上場についての記載はありませんが、TPMを検討する会社は、TPMの上場をゴールとするのか、一般市場への助走期間と考えるのかで、準備すべき体制(監査期間、開示の範囲、内部統制)が変わってきます。一般市場側の基準の考え方はIPOの実質審査基準とはで整理しています。
特定投資家向け取得勧誘:上場時にいくら調達し、何に使うのか
同社の表紙の書類名が「発行者情報」ではなく「特定証券情報」なのは、上場に際して特定投資家向け取得勧誘(株主割当てによらないもの)を行うためです。特定投資家だけを相手方とする取得勧誘では、有価証券届出書ではなく特定証券情報を提供・公表する仕組み(金融商品取引法27条の31)が使われます。
取得勧誘の対象は普通株式60,000株以内で、想定公開価格1,700円を基礎とした発行価額の総額(見込額)は102,000,000円、資本組入額の総額は51,000,000円です。資本組入額は、会社計算規則14条1項に基づく資本金等増加限度額の2分の1とすることが、2026年10月30日の取締役会で決議されています。発行数は上限であり、申込みのあった株式数が発行される、と注記されています。
図7 想定公開価格1,700円×60,000株で算出した見込額。実際の発行価格と発行数により変わります。充当時期は2027年9月期〜2028年9月期の予定です。
手取金の見込みは、払込金額の総額102,000千円から発行諸費用の概算額5,100千円を差し引いた96,900千円です。使途は、クラウドサービス事業の拡大のための機材購入費用66,900千円と人件費30,000千円で、いずれも2027年9月期〜2028年9月期に支払う予定とされています。実際に充当するまでは安全性の高い金融商品等で運用する方針です。
この取得勧誘では「株式の引受けは実施いたしません」と記載されており、引受手数料は支払わないため、発行諸費用の概算額は引受手数料以外の費用の合計です。申込取扱場所は同社自身、払込取扱場所は株式会社静岡銀行 駅南支店で、ブックランナーにはフィリップ・キャピタル証券が指定されています。一般市場のIPOで一般的な、証券会社が株式を引き受けて投資家に販売する形とは異なる点に注意してください。
ロックアップと継続所有の確約
「その他の記載事項」では、2023年10月1日以後に同社の増資に応じた個人・法人が、担当J-Adviserの事前の書面による同意なしには、上場日後6か月の2027年5月30日まで(割当て又は交付から1年を経過していない場合は、その日から1年間)、株式の譲渡等を行わない旨の書面を差し入れていると記載されています。
これとは別に、第三者割当等の概況では、特例115条・同施行規則107条に基づく継続所有の確約の制度が説明されています。新規上場申請日の直前事業年度の末日(同社では2025年9月30日)の1年前から上場日の前日までに第三者割当等を行った場合、割当てを受けた者に、上場日以後6か月(割当てから1年を経過していなければ1年)を経過する日まで所有することなどを担当J-Adviserに確約させる仕組みです。ロックアップ(当事者間の合意)と継続所有の確約(取引所規則に基づくもの)は別の制度なので、混同しないようにしましょう。一般市場の確約の考え方は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。
業績の推移と読み方
主要な経営指標等の推移には、第22期(2023年9月期)から第24期(2025年9月期)までの3期と、第25期中間会計期間(2025年10月〜2026年3月)が載っています。まず、どの期が監査を受けているかを確認しておきます。特例110条5項に基づき監査を受けているのは第24期の財務諸表のみで、第22期・第23期の財務諸表は監査を受けていないと注記されています。第25期中間会計期間の中間財務諸表は、監査ではなく期中レビューを受けています。
| 項目(千円) | 第22期 2023年9月期 | 第23期 2024年9月期 | 第24期 2025年9月期 | 第25期中間 2026年3月 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 523,378 | 513,287 | 604,318 | 303,946 |
| 経常利益(△は損失) | 3,874 | △50,282 | 36,544 | 9,926 |
| 当期(中間)純利益(△は損失) | 3,288 | △48,201 | 35,957 | 6,983 |
| 純資産額 | 59,561 | 49,760 | 89,318 | 102,301 |
| 総資産額 | 226,975 | 263,416 | 318,426 | 332,844 |
| 自己資本比率 | 26.2% | 18.9% | 28.0% | 30.7% |
| 営業活動によるCF | 95,244 | △48,795 | 113,697 | 19,078 |
| 従業員数(臨時) | 17(3) | 24(3) | 25(3) | 23(3) |
| 監査の状況 | 監査なし | 監査なし | 監査済み | 期中レビュー |
売上高は第22期523,378千円、第23期513,287千円、第24期604,318千円です。第23期は営業損失48,339千円、経常損失50,282千円でしたが、第24期は営業利益28,654千円、経常利益36,544千円となりました。第24期について同社は、既存顧客での環境の追加や入替えを中心に案件獲得が進み、下半期には新規顧客の案件も稼働を始めたと説明しています。費用面では、ライセンス利用料の高騰やエンジニアの増員、機材の購入があった一方、保守契約の見直しや各種原価の抑制により利益を確保したとされています。売上原価明細書でも、経費のうちライセンス利用料は第23期17,026千円から第24期43,379千円に増えています。
図8 第22期〜第24期の通期の数値。監査を受けているのは第24期のみで、第22期・第23期は監査を受けていません。第25期中間会計期間(6か月、期中レビュー)は売上高303,946千円、経常利益9,926千円です。
第24期の損益を分解すると、売上高604,318千円から売上原価310,013千円を引いた売上総利益が294,304千円、販売費及び一般管理費265,650千円を引いた営業利益が28,654千円です。営業外収益には受取手数料9,450千円があり、経常利益は36,544千円となっています。法人税、住民税及び事業税は586千円で、税務上の繰越欠損金があるため通常の税率による法人税等が課されていない状況が、事業等のリスクにも書かれています。
図9 第24期の損益計算書(監査済み)。営業利益28,654千円に営業外収益(受取手数料9,450千円等)と営業外費用を加減し、経常利益は36,544千円です。
第25期中間会計期間は、売上高303,946千円、営業利益15,621千円、経常利益9,926千円、中間純利益6,983千円です。同社は、SSD価格の高騰やデータセンターの移設などで原価が増えた一方、前事業年度の下期に獲得した新規案件が寄与したと説明しています。営業外費用には上場関連費用4,807千円が計上されています。中間の数値は期中レビューを受けたものであり、監査済みの数値ではない点に注意して読む必要があります。
キャッシュ・フローと資金繰り
キャッシュ・フローを見ると、第24期は営業活動によるキャッシュ・フローが113,697千円の収入で、投資活動(主に有形固定資産の取得39,108千円)と財務活動(借入金の返済など)の支出を賄い、期末の現金及び現金同等物は117,782千円になりました。第25期中間会計期間は、有形固定資産の取得による支出91,604千円により投資活動によるキャッシュ・フローが94,735千円の支出となり、中間期末の現金及び現金同等物は57,833千円です。
図10 「主要な経営指標等の推移」から作成。△はマイナス(支出超過)。第25期は中間会計期間(6か月)で、有形固定資産の取得による支出91,604千円が投資CFの主な内訳です。
借入金は、第24期末で短期借入金77,900千円、1年内返済予定の長期借入金26,170千円、長期借入金41,882千円の合計145,952千円です。中間期末には取引銀行2行と当座貸越契約(極度額100,000千円、借入実行残高63,000千円)を結んでいます。特定証券情報の「運転資本」の項目では、上場予定日(2026年11月30日)から12か月間の運転資本は、自己資金と借入による資金調達が可能であることから十分であると認識している、と記載されています。12か月間の運転資金の確保は、TPMの上場適格性要件の「企業としての相応性」の中でも確認される事項です。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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資本政策と株主構成:A種優先株式の転換と株式分割
「発行済株式総数、資本金等の推移」と「第三者割当等の概況」からは、上場までの資本政策の流れが読み取れます。2022年10月に1株を110株とする株式分割を行い(発行済株式88,000株)、2022年11月に法人株主4社へ普通株式13,500株を1株6,000円で発行しました。2024年9月27日には、個人3名への普通株式3,000株と、静岡キャピタル8号投資事業有限責任組合へのA種優先株式3,400株を、いずれも1株6,000円で発行しています。さらに2025年10月1日に、役員4名へ普通株式1,600株を1株6,000円で発行しました。
図11 「発行済株式総数、資本金等の推移」「第三者割当等の概況」から作成。株数・価格は各時点(株式分割前)の数値です。ストック・オプション(2023年11月・2025年10月付与)は省略しています。
A種優先株式はどのように普通株式になったのか
A種優先株式3,400株は、2026年2月24日の取締役会決議により、普通株式を対価とする取得条項に基づいて同社が自己株式として取得し、対価としてA種優先株式1株につき普通株式1株(計3,400株)を交付しました。取得日は2026年3月11日で、取得したA種優先株式は同日付で消却されています(会社法178条に基づく取締役会決議)。自己株式の取得の状況には「会社法第155条第1号に基づくA種優先株式の取得」と記載されています。
1株当たり情報の注記では、A種優先株式が残余財産の分配について普通株式より優先される株式であることから、1株当たり純資産額の算定にあたり、A種優先株式の払込金額20,400千円を純資産の部の合計額から控除しています。一方で、剰余金の配当請求権については普通株式と同等の権利を持つため、1株当たり当期純利益の算定では普通株式と同等の株式として扱っています。種類株式を発行している会社では、こうした注記の作り方も上場準備の論点になります。
上場前に種類株式を普通株式へ揃える実務は一般市場のIPOでも広く見られ、取得条項の設計(取得事由・交付比率)を発行時から決めておくことが重要です。考え方は種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかで解説しています。
1株→4株の株式分割と投資単位
A種優先株式の消却の2日後、2026年3月13日に普通株式1株を4株とする株式分割を行い、発行済株式総数は109,500株から438,000株になりました。株式分割の目的は「上場準備に伴う当社株式の流動性向上および投資単位の適正化」とされています。あわせて、会社法184条2項に基づき、定款の発行可能株式総数を220,000株から1,752,000株に変更しています。単元株式数は100株です。
特定証券情報の1株当たり情報は、第22期の期首に株式分割が行われたと仮定して計算されています。第三者割当の発行価格6,000円やストック・オプションの行使価額6,000円は、分割後の株式数に換算すると1株1,500円に相当します(ストック・オプションは、新株予約権の状況の表で分割後の行使価額1,500円が示されています)。
株価の算定方法:DCF法と純資産方式の使い分け
株価の根拠についての記載も参考になります。第三者割当等の概況に記載された2024年9月・2025年10月の第三者割当の発行価格6,000円と、第2回新株予約権の発行価格(行使価額)6,000円は「DCF法により算出した価格を総合的に勘案して」決定し、第1回新株予約権の発行価格(行使価額)6,000円は「純資産価額法により算出した価格を総合的に勘案して」決定したとされています。
特別利害関係者等の株式等の移動状況には2件の株式譲渡があります。2026年2月26日には、OCP1号投資事業有限責任組合から株式会社田中邦裕事務所へ5,000株が1株4,200円(DCF方式により算出した価格を総合的に勘案)で譲渡されました。2026年3月10日には、代表取締役の瀧 康史氏から同氏の資産管理会社である合同会社瀧事務所へ43,500株が1株617円(純資産方式により算出した価格を総合的に勘案)で譲渡されています。いずれも株式分割前の株数・単価です。
図12 第三者割当(6,000円)、ストック・オプションの行使価額(6,000円)、株式移動(4,200円・617円)は分割前の価格を4で割って換算。想定公開価格1,700円は分割後の価格です。
上場前の株価は、取引の相手方や目的(外部投資家からの資金調達か、資産管理会社への移動か)によって算定方法が変わることがあり、同じ時期に複数の価格が存在すること自体は珍しくありません。大切なのは、それぞれの価格について算定方法と根拠資料を残し、公開価格との関係も含めて説明できるようにしておくことです。算定方法の選び方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかを参照してください。
大株主と所有者別の状況
「株主の状況」には、新株予約権による潜在株式を含む株式総数457,552株(うち潜在株式19,552株)に対する所有割合が記載されています。上位は次のとおりです。比率は上場申請時点(特定証券情報の記載時点)のもので、上場時には取得勧誘による新株が加わるため変わります。
| 株主 | 所有株式数(株) | 割合 |
|---|---|---|
| 合同会社瀧事務所(代表取締役の資産管理会社) | 240,000 | 52.28% |
| 込山 弘貴 | 39,200 | 8.54% |
| 前島 晃一 | 35,200 | 7.67% |
| 小熊 浩典(取締役CTO) | 30,400 | 6.62% |
| 静岡キャピタル8号投資事業有限責任組合 | 26,600 | 5.79% |
| 株式会社田中邦裕事務所 | 20,000 | 4.35% |
| 瀧 康史(代表取締役CEO) | 19,200 | 4.18% |
| 静岡キャピタル株式会社 | 13,000 | 2.83% |
| 株式会社Geolocation Technology | 8,000 | 1.74% |
| 向 正裕(取締役CFO) | 2,836(うち潜在836) | 0.62% |
役員の状況の表では、代表取締役 瀧 康史氏の所有株式数は259,200株で、資産管理会社が所有する240,000株を含むと注記されています。所有者別状況(2026年9月30日現在)では、株主数は13名、その他の法人が61.18%、個人その他が29.32%、金融商品取引業者が9.04%、外国法人等(個人)が0.46%です。
図13 「所有者別状況」(2026年9月30日現在)。上場時には特定投資家向け取得勧誘による新株(60,000株以内)が加わるため、比率は変わります。
TPMには流通株式比率などの形式基準はありませんが、一般市場への上場を将来検討する場合は、流通株式の数え方(主要株主や役員等、役員等が議決権の過半数を所有する会社などの保有分を除く)を意識した株主構成の設計が必要になります。創業者の持株比率の考え方は創業者の持株比率はどこまで下げてよいかで整理しています。
ストック・オプション(新株予約権)の内容
同社は、会社法に基づく新株予約権の発行によるストック・オプション制度を採用しています。公表日の前月末(2026年9月30日)現在の内容は次のとおりです。
| 項目 | 第1回新株予約権 | 第2回新株予約権 |
|---|---|---|
| 決議 | 2023年9月28日 臨時株主総会、2023年10月31日 取締役会 | 2025年9月19日 臨時株主総会、2025年9月26日 取締役会 |
| 付与日(割当日) | 2023年11月1日 | 2025年10月1日 |
| 付与対象者(付与日) | 従業員17名 | 従業員25名 |
| 付与対象者(公表日現在) | 取締役2名、従業員11名 | 従業員23名 |
| 新株予約権の数 | 2,233個 | 2,655個 |
| 目的となる株式の数 | 8,932株 | 10,620株 |
| 行使価額(分割後) | 1,500円 | 1,500円 |
| 行使期間 | 2025年11月1日〜2033年9月27日 | 2027年9月27日〜2035年9月19日 |
| 主な行使条件 | 付与時に従業員であった者は、行使時に取締役・監査役・従業員の地位にあること。相続人による行使は不可 | 同左 |
会計処理については、付与時点で未公開企業であったため、公正な評価単価に代えて単位当たりの本源的価値の見積りによっており、本源的価値の算定の基礎となる株式価値は類似会社比較法により算出した価格を総合的に勘案して決定したと注記されています。付与時の単位当たりの本源的価値は0円で、ストック・オプションに係る費用計上額はありません。未公開企業に認められるこの方法でも、注記で算定方法や権利確定数の見積方法(実績の失効数のみを反映)を説明する必要があります。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例で確認できます。
潜在株式19,552株は、株式総数457,552株に対して4.27%です(株主の状況の注記による)。上場後の希薄化を説明する際の基礎となる数値です。
コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社と社外役員
同社は会社法上の取締役会と監査役会を設置する監査役会設置会社です。取締役会は代表取締役 瀧 康史氏を議長とする取締役5名で、常勤の取締役4名(CEO・COO・CTO・CFO)と非常勤の社外取締役1名で構成され、原則月1回の定時取締役会のほか、必要に応じて臨時取締役会を開いています。監査役会は常勤の社外監査役を議長とする監査役3名で、3名とも社外監査役(常勤1名、非常勤2名)です。監査役会も原則月1回開催されています。
体制を採用する理由として、同社は「事業内容及び会社規模に鑑み、業務執行機能と監督・監査機能のバランスを効率的に発揮する観点」を挙げています。TPMには一般市場のような機関設計の形式要件は示されておらず、企業の規模や成熟度に応じたガバナンス体制が求められる建付けです。どの機関設計を選ぶかは、自社の規模と将来の市場の選択を踏まえて考えることになります。選択肢の比較は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で解説しています。
図14 「コーポレート・ガバナンスの状況」の記載をもとに作成。取締役会・監査役会はいずれも原則月1回開催。内部監査は代表取締役が指名した兼務の担当者が行います。
役員の経歴を見ると、社外取締役は音楽・通信業界などでの勤務経験を持つ人物、常勤社外監査役は富士通グループでの勤務経験を持つ人物です。非常勤の社外監査役2名のうち1名は証券会社や東京証券取引所グループでの勤務経験があり、もう1名は公認会計士・税理士で監査法人の社員を務めています。監査役に会計の専門家がいる構成です(監査役の会計知識の考え方は監査役に会計の知識は必要かを参照)。
定款等に関する記載では、取締役の定数を7名以内とすること、取締役の選任決議の定足数を議決権の3分の1以上とし累積投票によらないこと、株主総会の特別決議の定足数を議決権の3分の1以上とすることが定められています。業務執行取締役等でない取締役と監査役との間では、会社法427条1項に基づく責任限定契約を締結しています。2025年9月期の役員報酬の総額は53,310千円です。任意の指名・報酬委員会についての記載はありません。
役員への第三者割当と代表者による債務保証
2025年10月1日の第三者割当増資(普通株式1,600株、1株6,000円、払込金額の総額9,600千円)の割当先は、取締役CFOの向 正裕氏(500株)、社外取締役の孫 龍活氏(500株)、常勤社外監査役の杉山 悦男氏(500株)、社外監査役の大野 篤氏(100株)の4名で、資金の使途は運転資金とされています。払込みの一部(600株分3,600千円)は第24期末に新株式申込証拠金として計上されていました。役員への割当ては、割当先・価格・目的・決議の経緯を記録し、説明できるようにしておくことが大切です。
関連当事者情報には、代表取締役 瀧 康史氏が同社の金融機関からの借入金について債務保証をしていることが記載されています。取引金額(保証を受けている借入金の期末残高)は第23期末97,195千円、第24期末122,571千円で、保証料の支払いはありません。代表者による債務保証は、上場準備の過程で金融機関との交渉により解消や見直しを検討することが多い取引です。解消の進め方は社長個人と会社の取引はどう解消するかで解説しています。
内部監査・内部統制:兼務者による相互監査
同社の内部監査は、専任の内部監査責任者・担当者を置かず、年間の内部監査計画に従い、代表取締役が指名した内部監査責任者・内部監査担当者3名が全部署を監査する体制です。内部監査責任者・担当者は、自己監査とならないよう、自己が所属している部門以外について内部監査を実施すると記載されています。内部監査責任者は監査結果と改善事項を代表取締役に報告し、各部門に改善事項を通知して改善状況をフォローアップします。
図15 専任の内部監査部門は置かず、代表取締役が指名した内部監査責任者・内部監査担当者3名が、自己の所属部門以外を監査する体制です。部門名は模式的に示しています。
従業員22名規模の会社で専任の内部監査部門を置くのは負担が大きく、兼務者が互いの部門を監査する「相互監査」は小規模な会社でよく見られる方法です。この場合、①誰がどの部門を監査するかを年間計画で明確にする、②担当者の所属部門は別の担当者が監査する、③監査結果の報告先と改善のフォローアップの手順を決めておく、の3点が実務上のポイントです。考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)と内部監査の人数と体制で詳しく解説しています。
三様監査については、監査役、監査法人、内部監査責任者がそれぞれの監査計画、実施状況、監査結果について報告を受け、相互に情報連携と意見交換を行うと記載されています。内部統制システムの基本方針では、監査役と内部監査責任者・担当者が毎月連絡会を開くこと、内部監査の結果(内部統制システムの状況を含む)を監査役へ報告することも定めています。連携の進め方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)を参照してください。
リスク・コンプライアンス委員会と内部統制基本方針
同社は常設の委員会としてリスク・コンプライアンス委員会を置いています。委員長は代表取締役で、各本部長と事務局メンバーで構成され、四半期に1回開催されます。想定されるリスクを洗い出して対応方針を決め、モニタリングするとともに、内部通報窓口を設置しています。内部統制基本方針(2022年11月14日の取締役会決議)では、全役職員を対象とする社内通報制度「ヘルプライン」の設置と通報者の不利益取扱いの禁止、反社会的勢力排除規程の制定(所管は管理本部)と契約書への暴力団排除条項の織込みなども定めています。また、個人情報保護管理規程等を定め、管理本部長を個人情報管理責任者としています。
財務報告の信頼性を確保するための体制として、内部監査責任者・担当者が取締役会の承認した内部統制評価基本計画書に基づいて内部統制を評価し、その結果を取締役会に上程して承認を受けることも基本方針に書かれています。TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、財務報告に係る内部統制を整備・評価する仕組みを上場前から回しておくことは、将来、一般市場を目指す場合にも役立ちます。内部通報制度の論点は内部通報体制は上場審査でどこまで見られるかで解説しています。
会計・開示の論点:収益認識、減損、税効果
収益認識:環境構築等は一時点、利用料は期間にわたり
重要な会計方針では、クラウドサービス事業の収益について、サービス導入までの環境構築等は、同社のプラットフォームサービスを顧客が利用可能な状態にすることで履行義務が充足されると判断して一時点で収益を認識し、その後の利用料は契約期間にわたって収益を認識するとしています。その他(ソフトウエアライセンス等の商品販売)は、商品を引き渡す一時点で収益を認識します。
図16 「重要な会計方針 5.収益及び費用の計上基準」の記載を図にしたものです。クラウドサービスは、導入時の環境構築等と、その後の利用料とで認識の時点が異なります。
契約負債(前受金のうち履行義務を充足していない残高)は第23期末1,521千円、第24期末2,522千円で、増加の理由は「クラウドサービス事業における新規案件の初期費用が発生したため」とされています。残存履行義務については、契約期間が1年以内の契約などを注記の対象から除く実務上の便法を適用しています。
クラウドやSaaSの会社では、初期設定・環境構築の対価をどのように扱うか(独立した履行義務として一時点で認識するのか、利用期間にわたって認識するのか)が、収益認識の典型的な検討事項です。自社の契約の実態に合わせて判断の根拠を文書化しておくことが重要です。詳しくは上場審査で問われる収益認識で解説しています。
重要な会計上の見積り:固定資産の減損
重要な会計上の見積りとして開示されているのは固定資産の減損です。第24期末の有形固定資産は118,829千円、無形固定資産は7,253千円で、減損損失は計上されていませんが、翌事業年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクに鑑みて開示項目としているとされています。事業用資産は管理会計上の区分を考慮して資産グループを決め、共用資産はより大きな単位で減損の兆候を判定します。割引前将来キャッシュ・フローの見積りは取締役会で承認された事業計画が基礎で、既存顧客の追加案件や新規顧客の案件獲得による売上高の増加を前提としているため、将来の案件獲得予測を重要な仮定としています。
図17 「重要な会計上の見積り」に記載された算出方法を図にしたものです。第23期・第24期とも減損損失は計上されていません。
サーバやネットワーク機器などの設備を持つビジネスでは、事業計画と減損の見積りが直結します。事業等のリスクにも「設備投資における固定資産減損リスク」が挙げられており、開示の各所で整合が取られています。
税効果・外形標準課税・新リース会計基準
税効果会計の注記では、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産(法定実効税率を乗じた金額)が第23期末29,580千円、第24期末14,339千円で、いずれも全額に評価性引当額を計上しています。第24期の税効果会計適用後の法人税等の負担率は1.6%です。また、2025年10月1日を払込期日とする第三者割当増資により、翌事業年度から外形標準課税が適用される見込みとなったことが記載されています。この増資で資本金は104,500千円となりました。資本金が1億円を超えると法人事業税の外形標準課税の対象になるため、上場前の増資では税負担への影響も合わせて確認しておく必要があります。
このほか、2024年4月に退職一時金制度の一部を確定拠出年金制度へ移行し、第23期に退職給付制度終了益2,349千円を特別利益に計上していること、未適用の会計基準として「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を2028年9月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中であることも注記されています。
監査法人と監査報酬
会計監査は有限責任監査法人トーマツで、2025年9月期の監査を執行した公認会計士は2名(いずれも継続監査年数は7年以内)、補助者は公認会計士6名です。第24期の監査証明業務に基づく報酬は18,300千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報酬は、規模・特性・監査時間等を勘案し、監査役会の同意を得て取締役会で決定しています。
第24期の監査報告書(2026年10月27日付)は無限定適正意見で、「その他の事項」として、2024年9月30日に終了した前事業年度の財務諸表は監査されていない旨が記載されています。第25期中間会計期間については期中レビュー報告書(同日付)が付され、中間財務諸表が適正に表示していないと信じさせる事項は認められなかったという結論です。TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」なので、このような構成になります。監査法人の選定時期は監査法人はいつまでに決めるかで解説しています。
事業等のリスクとJ-Adviser契約の解除条項
事業等のリスクには20項目が挙げられています。セキュリティ、自然災害、半導体・ソフトウエアのサプライチェーン、個人向けストレージの不正利用、システム障害、取引先の信用、人材の獲得競争、技術トレンドの変化、代表者への依存、ガバナンス、訴訟、法的規制(電気通信事業法、特定商取引法、特定電子メール法、情報流通プラットフォーム対処法など)、税務上の繰越欠損金、資金調達、固定資産の減損、AI関連、計算資源・モデル供給、配当、販売先への依存、J-Adviser契約です。クラウド基盤の事業らしく、海外からの機器調達や電力コスト、AIワークロードに関するリスクまで具体的に書かれているのが特徴です。
TPMの会社に特有なのが、最後のJ-Adviser契約のリスクです。同社は2026年1月15日にフィリップ・キャピタル証券と担当J-Adviser契約を締結しており、この契約はTPMでの新規上場と上場維持の前提で、契約が解除され、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合には上場廃止になると説明されています。契約の解除条項と事前催告に関する事項も、特定証券情報にそのまま記載されています。
| 区分 | 主な内容(特定証券情報の記載の要旨) |
|---|---|
| 即日無催告解除の事由(例) | ①債務超過(猶予期間内に解消できない場合)、②銀行取引の停止、③破産手続・再生手続・更生手続(これに準ずる状態を含む)、⑤事業活動の停止、⑥不適当な合併等、⑦支配株主との取引の健全性の毀損、⑧発行者情報等の提出遅延、⑨虚偽記載又は不適正意見等、⑩法令違反・上場規程違反、⑲反社会的勢力の関与、⑳その他(公益又は投資者保護)など |
| ④の位置づけ | ③に該当した場合でも、所定の要件を満たす再建計画を開示したときは、原則として契約を解除しないとする例外規定(解除事由ではない) |
| 株式・株主の権利に関する事由 | ⑪株式事務代行機関への委託、⑫株式の譲渡制限、⑬完全子会社化、⑭指定振替機関での取扱い、⑮株主の権利の不当な制限、⑯全部取得、⑰株式等売渡請求による取得、⑱株式併合 |
| 事前催告による解除 | 義務違反・契約違反があれば、相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めて書面で催告し、是正されなければ解除できる |
| 合意解除・通知解除 | 合意によりいつでも解除でき、1か月前の書面通知でも解除できる。解除時、J-Adviserはあらかじめ東証に通知する |
解除条項を読むときに注意したいのは、番号の付いた項目のすべてが解除事由ではないことです。④は、③(破産手続等)に該当した場合でも再建計画を開示すれば原則として解除しないという例外を定めたもので、解除事由の数に含めて数えるのは誤りです。同社の場合、本書公表日現在、解除条項に該当する事象は生じていないと記載されています。上場後は、J-Adviserから契約解除の通知を受け、必要な期間内に別のJ-Adviserと契約できなければ上場廃止となる仕組みなので、J-Adviserとの関係は上場維持そのものに直結します。
上場準備会社がこの事例から学べること
最後に、InfiniCloudの特定証券情報から読み取れる、上場準備の実務上のポイントを整理します。
- 上場時の資金調達は、使途と時期を具体的に書く。特定投資家向け取得勧誘の手取金96,900千円(見込み)を、機材購入費用66,900千円と人件費30,000千円に分け、2027年9月期〜2028年9月期という支払予定時期まで示しています。
- 監査済みの期と、そうでない期を区別して開示する。監査は第24期のみで、第22期・第23期は監査なし、中間期は期中レビューです。TPMの「最近1年間」の監査に合わせて、監査法人との契約時期を逆算しておく必要があります。
- 種類株式は取得条項で普通株式に揃え、消却する。A種優先株式を普通株式1株と交換で取得し、同日に消却したうえで株式分割を行っています。発行時点で取得条項を設計しておくと、上場前の整理がスムーズです。
- 株価の算定方法と根拠を取引ごとに残す。第三者割当や第2回新株予約権はDCF法、第1回新株予約権は純資産価額法、株式譲渡はDCF方式と純資産方式と、取引ごとに算定方法が記載されています。
- 兼務の内部監査でも、自己監査を避ける仕組みを作る。専任者を置かず3名が自部門以外を監査し、監査役とは毎月連絡会を開く体制です。
- 取引先の集中は、数値と方針をセットで開示する。主要2社の比率の推移と、依存度を下げる方針(販売代理店制度の整備など)が具体的に書かれています。
- 上場前の増資は税務への影響も確認する。資本金が1億円を超えたことで外形標準課税が適用される見込みとなったことが、税効果の注記に記載されています。
図18 特定証券情報の記載から読み取れる、上場準備の実務上のポイントを整理したものです。
- 上場時の資金調達(特定投資家向け取得勧誘の有無)と、手取金の使途・充当時期を決めているか
- 監査法人と、上場前の「最近1年間」の監査と中間期の期中レビューのスケジュールを合意しているか
- 種類株式の取得条項・転換の手続(取締役会決議、消却、定款変更)を整理しているか
- 第三者割当・株式移動・新株予約権の価格について、算定方法と根拠資料を残しているか
- 内部監査の担当者が自己の所属部門を監査しない計画になっているか
- 主要取引先への依存度、代表者による債務保証など、開示が必要な事項を洗い出しているか
よくある質問
上場に際して特定投資家向け取得勧誘や売付け勧誘等を行う会社は、特定証券情報を公表します。InfiniCloudは普通株式60,000株以内の特定投資家向け取得勧誘を行うため、表紙が特定証券情報になっています。勧誘を行わない会社は、発行者情報に相当する情報を公表して上場するのが一般的です。
TPMでは上場前の監査期間は「最近1年間」です。InfiniCloudも監査を受けたのは第24期(2025年9月期)のみで、第22期・第23期は監査を受けていないと記載されています。中間会計期間は期中レビューを受けています。
東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認します。InfiniCloudの上場申請は2026年10月30日に公表されていますが、上場承認日は2026年11月3日時点で公表されていません。
担当J-Adviser契約はTPMでの上場維持の前提です。契約が解除され、必要な期間内に別のJ-Adviserと契約できなければ上場廃止になります。InfiniCloudの特定証券情報には、即日無催告解除の事由と事前催告に関する事項が記載されています。
最初の一歩は、自社の「監査を受ける1年」を決めること
TPMへの上場を検討するなら、まず「どの事業年度を監査対象の最近1年間とするか」を決め、そこから逆算して監査法人の選定、J-Adviserとの契約、内部監査や規程の整備のスケジュールを引くことをおすすめします。あわせて、上場時に特定投資家向け取得勧誘で資金を調達するかどうかを早めに決めておくと、開示書類の種類や資本政策の組み立てが明確になります。準備の全体像はIPO準備 完全ガイドもご覧ください。
まとめ
InfiniCloud株式会社は、2026年10月30日に上場申請が公表され、2026年11月30日にTOKYO PRO Marketへ上場する予定です(上場承認日は2026年11月3日時点で未公表)。特定証券情報からは、特定投資家向け取得勧誘による資金調達と手取金の使途、A種優先株式の取得条項による普通株式への転換と株式分割、TPMの「最近1年間」の監査に沿った財務情報の開示、兼務者による相互監査の内部監査、主要販売先2社への依存度の開示など、小規模な会社の上場準備に役立つ具体例を読み取ることができます。TPMを検討する会社は、自社の上場目的と、J-Adviserとの関係を含めた上場後の体制まで見据えて準備を進めることが大切です。
J-Adviserの調査への対応、特定証券情報・発行者情報の作成、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「InfiniCloud株式会社 特定証券情報」(2026年10月30日公表)
- 日本取引所グループ「新規上場会社情報(TOKYO PRO Market)」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 日本取引所グループ「J-Adviser制度」
- 日本取引所グループ「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 日本取引所グループ「上場目的の開示のお願い」(2026年4月3日)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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