フェリエストのTOKYO PRO Market上場|株主2名・公募なしと決算期変更【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

株式会社フェリエスト(証券コード557A)は、2026年3月23日に上場申請を行い、4月6日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年4月20日に TOKYO PRO Market(TPM)へ上場しました。担当J-Adviserは宝印刷株式会社です。企業・自治体の公式SNSアカウントの運用代行と、ショート動画・ショートドラマの制作などを手がけるSNSマーケティング会社で、2016年8月の設立から約10年でのTPM上場です。本記事では、同社が上場に際して公表した「発行者情報」を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできる点を整理します。

結論からいえば、フェリエストは「株主2名のオーナー会社が、公募・売出しを行わず、監査1期分の決算でTPMに上場するまでに何を整えたか」を具体的に追える事例です。株主は代表取締役社長とその資産管理会社だけ、取締役は3名で社外取締役はおらず、監査役は社外監査役1名という小規模な体制ですが、決算期の変更、子会社の合併、資産管理会社への株式の移動、1:10,000の株式分割と単元株制度の導入、J-Adviser契約の締結といった準備が、上場の2年ほど前から順を追って行われています。一般市場の新規上場とは前提が大きく異なる点も含めて、TPMの制度と結びつけながら読み解きます。

フェリエストはどんな会社で、いつTOKYO PRO Marketに上場したのか

まず基本情報です。フェリエストは2016年8月に東京都渋谷区桜丘でSNSマーケティング事業を目的として設立され、同時にSNSアカウント運用代行サービスを始めました。発行者情報の沿革によれば、代表取締役社長の吉田大太氏は、フラッシュマーケティング事業の創業・売却や芸能プロダクションの運営を通じてSNSの広告価値を実感し、「価値ある商品・サービスが埋もれている現状を変えたい」との想いから同社を設立したとされています。本店はその後、渋谷区鶯谷、港区を経て、2026年2月に東京都中央区晴海へ移転しています。

決算期は8月です。2024年7月15日の臨時株主総会で決算期を3月31日から8月31日に変更したため、第9期(2024年4月1日〜8月31日)は5か月の変則決算となっています。発行者情報に掲載された直近の事業年度は第10期(2025年8月期)で、子会社はなく、財務諸表は単体のみです。2025年12月31日現在の従業員数は42名(ほかに臨時従業員9名)、平均年齢は28.5歳、平均勤続年数は1.0年、平均年間給与は4,471千円で、最近1年間で10名増えたと記載されています。若い組織が急速に人員を増やしている段階にあることが読み取れます。

項目 内容
会社名 株式会社フェリエスト(Feriest Co.,Ltd.)
証券コード 557A
市場 TOKYO PRO Market
上場日 2026年4月20日
上場承認日 2026年4月6日
申請受付日 2026年3月23日(発行者情報の公表日も同日)
担当J-Adviser 宝印刷株式会社(J-Adviser契約の締結は2024年12月1日)
上場時の公募・売出し なし(特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しない)
公表書類 発行者情報(特例第110条第3項に基づく、発行者情報に相当する情報)
本店 東京都中央区晴海一丁目8番10号
設立 2016年8月
決算期 8月(2024年に3月決算から変更)
事業 SNSマーケティング事業(単一セグメント)
従業員数 42名(臨時9名、2025年12月31日現在)
監査法人 監査法人アヴァンティア

上場までの流れを見ると、2024年に決算期の変更と子会社の合併を行い、同年12月にJ-Adviser契約を結ぶと同時に取締役(経営管理部長)と監査役が就任しています。2025年11月には定時株主総会で単元株制度の導入などの定款変更を行い、翌日付で株式分割を実施しました。第10期の財務諸表の監査報告書は2026年3月17日付で、その6日後の3月23日に上場申請と発行者情報の公表を行い、10営業日後の4月6日に上場承認、4月20日に上場という日程です。

フェリエストの上場までの日程2024年12月1日J-Adviser契約2026年3月17日監査報告書3月23日申請受付・発行者情報公表4月6日上場承認4月20日TPM上場申請受付から10営業日後に上場承認(暦日14日)、上場承認から上場日まで暦日14日上場に際して公募・売出し(特定投資家向け取得勧誘等)は行っていない

図1 J-Adviser契約の締結日は発行者情報「事業等のリスク」、監査報告書日は監査報告書、申請受付日・上場承認日・上場日はJPXの新規上場会社情報による

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何で稼いでいる会社なのか(事業内容と収益モデル)

フェリエストは「自他共に認めるNo.1のSNSマーケティング会社になること」をビジョンに掲げ、コンテンツの企画・制作から運用代行、プロモーション、分析までを一気通貫で支援する「SNSマーケティング事業」を営んでいます。セグメントは単一ですが、サービスは「SNSアカウント運用代行」と「ショート動画制作、その他」の2つに大別されます。

SNSアカウント運用代行は、企業・自治体などの公式SNSアカウントについて、戦略設計、コンテンツ制作、日々の投稿やコミュニティ対応、広告連携、レポーティングによる効果測定までを提供するサービスです。X、Instagram、TikTok、YouTubeなどプラットフォームごとにKPIを設計し、社内のクリエイティブ部門で撮影・制作を行い、専任のカスタマーサクセスチームが各クライアントを担当します。定例報告のレポートはAIでインサイトを抽出して自動生成していると記載されており、TikTok Shopの運用代行も提供しています。

ショート動画制作・その他には、ショート動画制作サービス「ヒビミル」、ショートドラマ制作サービス「ヒビドラ」、インフルエンサーPR、SNS広告運用代行、キャスティング・撮影が含まれます。発行者情報では「500社以上のアカウント運用で培ったデータとノウハウ」を持つ専門チームが支援し、企画から撮影・手配まで自社で完結できることが強みとして説明されています。

フェリエストの事業の構造(SNSマーケティング事業)企業・自治体(クライアント)フェリエストSNSアカウント運用代行戦略設計・制作・運用・分析ショート動画制作・その他ヒビミル・ヒビドラ・PR等SNSプラットフォームInstagram・TikTokX・YouTube社内クリエイティブ部門・自社スタジオ・一部外注

図2 発行者情報「事業の内容」をもとに作成。セグメントはSNSマーケティング事業の単一セグメントで、サービスは2つに大別される

第10期の販売実績は、SNSアカウント運用代行が265,757千円、ショート動画制作・その他が284,134千円で、合計549,891千円です。2つのサービスがほぼ半分ずつを占めています。売上高の10%以上を占める相手先はなく、特定の顧客に依存していない構成です。新規顧客の開拓は、自社ウェブサイトからの問い合わせと既存顧客からの紹介が中心と記載されています。

収益モデルとして見ると、継続的な月次運用の契約(運用代行)と、案件ごとの制作(動画・ドラマ制作など)を組み合わせた構造です。業績の概要では「月次運用案件の増加、顧客単価の向上」を目指してきたと書かれており、継続課金型の運用代行を軸に、制作案件で単価を積み上げる考え方が読み取れます。この違いは、後で見る収益認識の方法(期間にわたる認識か、検収時点の認識か)にもそのまま表れています。

サービス別の販売実績(第10期、千円)SNSアカウント運用代行265,757(48.3%)ショート動画制作・その他284,134(51.7%)合計 549,891千円(2つのサービスがほぼ半分ずつ)

図3 発行者情報「生産、受注及び販売の状況」より。第10期は2024年9月1日〜2025年8月31日。構成比は販売実績から算出。売上高の10%以上を占める相手先はない

沿革から見える上場までの道のり

沿革を時系列で並べると、事業の拡大と上場準備が重なり合って進んできたことがわかります。2020年7月に通信販売・EC向けの完全子会社「株式会社FtoC」を設立し、同年12月には自社メディアの運用、インフルエンサーPR、SNS広告運用代行を始めました。2023年にはInstagram画像制作の「トラスタ」とショート動画制作の「ヒビミル」、2024年8月にTikTok AIレポートの「カチレポ」、2025年6月にショートドラマ制作の「ヒビドラ」とTikTok Shop関連サービスをリリースしています。

上場準備の観点で注目したいのは2024年です。7月に決算期を8月に変更し、8月に「経営の効率化を目的として」子会社FtoCを合併、12月にJ-Adviser契約を締結しました。同じ12月には、複数の企業で経営企画・管理部門の責任者を務めてきた前田真嗣氏が取締役経営管理部長に、税理士の野口力彌氏が監査役に就任しています。グループを単体にまとめ、決算期をそろえ、管理部門の責任者と監査役を置いてからJ-Adviserの調査を受ける、という順序で準備が進められたと読むことができます。

沿革のタイムライン2016年8月設立・SNS運用代行を開始2020年7月子会社FtoCを設立2020年12月インフルエンサーPR・広告運用2023年トラスタ・ヒビミル開始2024年7月決算期を8月に変更2024年8月FtoCを合併・カチレポ開始2024年12月J-Adviser契約・取締役等就任2025年6月ヒビドラ・TikTok Shop2025年11月株式分割・単元株導入2026年4月TPM上場

図4 発行者情報「沿革」「役員の状況」「株式等の状況」等をもとに主要な出来事を抜粋

子会社の合併は、上場準備では見落とされがちな論点です。子会社があれば連結決算の体制が必要になり、監査の範囲も広がります。フェリエストは合併により、第10期以降は単体の財務諸表だけで開示が完結しています。

なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

上場準備会社が最初に考えるべきことの一つが「なぜ上場するのか、どの市場に上場するのか」です。ただし、フェリエストの発行者情報には、上場の目的やTPMを選んだ理由を直接説明した記載は見当たりません。対処すべき課題の「内部管理体制の強化」の中で「上場企業としての社会的責任を果たすため」と触れられている程度です。そのため本記事では同社の理由を推測せず、TPMという市場の一般的な特徴を整理するにとどめます。

TPMは、金融商品取引法上の「特定取引所金融商品市場」として運営されるプロ投資家向けの市場で、プライム・スタンダード・グロースの一般市場とは別の市場です。上場株式を買い付けられるのは特定投資家等に限られ、一般投資家は買付けができません(保有している株式の売却は可能です)。株主数・流通株式・利益の額といった形式基準(数値基準)がなく、東証は「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」と説明しています。上場前の監査期間は最近1年間で、開示書類は特定証券情報・発行者情報という簡素な体系になっています。

東証は2026年4月3日、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、新規上場時に「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請しています。これは規程上の義務ではなく「お願い」ですが、東証が集計した上場目的では社内体制の強化や営業力・採用力の強化が上位にあり、増資を目的とする会社は一部にとどまります。TPM上場は必ずしも資金調達のためのものではない、という点は押さえておきたいところです。

TPMの上場の仕組みを、フェリエストの記載に沿って読む

J-Adviserの調査と上場適格性

TPMには一般市場のような形式基準がない代わりに、東証が資格を認定した「J-Adviser」が上場適格性を調査・確認する仕組みがあります。上場適格性要件は、企業としての相応性、事業の公正・忠実な遂行、企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制、適正な開示を行える体制、反社会的勢力との関係がないことなどの5項目です。担当J-Adviserが調査結果をもとに「上場適格性に係る宣誓書」を作成して東証に提出し、東証も意向表明の後に面談を行います。「TPMには上場審査がない」というのは誤りで、審査の主体と方法が一般市場と異なる、と理解するのが正確です。

フェリエストの発行者情報の冒頭にある「投資者に対する注意事項」でも、TPMの上場会社は特例に従ってJ-Adviserを選任する必要があり、J-Adviserの役割には上場適格性要件に関する助言・指導と上場申請手続のマネジメントが含まれると説明されています。同社のJ-Adviser契約は2024年12月1日の締結で、上場申請(2026年3月23日)まで約1年4か月の期間がありました。

TOKYO PRO Marketの上場手続と上場適格性要件J-Adviser契約・調査意向表明申請の約30営業日前まで上場申請発行者情報等を公表上場承認原則申請から10営業日後上場日担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認し「上場適格性に係る宣誓書」を作成形式基準(株主数・利益の額などの数値基準)はない。東証も意向表明後に面談を行う上場適格性要件(5項目)企業としての相応性事業の公正・忠実な遂行ガバナンス・内部管理体制適正な開示を行える体制反社会的勢力との関係なし等フェリエスト:2024年12月契約 → 2026年3月23日申請 → 4月6日承認 → 4月20日上場

図5 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

手続の流れは、J-Adviser契約と調査、意向表明(上場申請の30営業日程度前まで)、上場申請、上場承認、上場という順です。東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認するとしており、フェリエストも3月23日の申請受付から10営業日後の4月6日に承認を受けています。上場申請の時点では、J-Adviserによる調査の大半が終わっている必要がある、ということです。運転資本についても、同社は「上場予定日から12か月間の運転資本は、自己資金及び借入による資金調達が可能であることから十分である」と記載しており、上場適格性要件の一つである資金面の確認に対応した記載になっています。

公募・売出しのない上場と「発行者情報」

フェリエストの公表書類の表紙は「発行者情報」です。表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」には、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、特例第110条第3項の規定により発行者情報に相当する情報を公表する、と書かれています。

金融商品取引法では、特定投資家のみを相手方とする取得勧誘(特定投資家向け取得勧誘)や売付け勧誘等を行う場合に、有価証券届出書ではなく「特定証券情報」を提供・公表することになっています(金融商品取引法27条の31)。上場時にこうした勧誘を行わない会社は、その代わりに発行者情報に相当する情報を公表して上場します。つまりフェリエストは、上場時に新株の発行や株主による売出しを行っていない、資金調達を伴わない上場です。

上場時の開示書類はどう決まるか(フェリエストのケース)上場時に特定投資家向け取得勧誘等を行うか行う場合特定証券情報を提供・公表(金融商品取引法27条の31)フェリエスト:行わない特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表上場後は、年次・中間の「発行者情報」を各期末後3か月以内に公表する(有価証券報告書・半期報告書ではない。開示言語は日本語又は英語)行う行わない

図6 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成

上場後は、年次と中間の「発行者情報」を、それぞれ期末後3か月以内に公表します。一般市場の会社が提出する有価証券報告書・半期報告書とは名称も根拠も異なる書類です。四半期の開示(決算短信)と内部統制報告書は任意とされていますが、決算情報を含む適時開示の義務は他市場と同様にあります。8月決算のフェリエストであれば、年次の発行者情報は11月末まで、中間(2月末)の発行者情報は5月末までが期限の目安になります。

監査期間は「最近1年間」

発行者情報の「主要な経営指標等の推移」には第7期から第10期までの4期分の数値が並んでいますが、注記によれば、監査法人アヴァンティアの監査を受けているのは第10期(2024年9月1日〜2025年8月31日)の財務諸表だけで、第7期・第8期・第9期は監査を受けていません。監査報告書の「その他の事項」にも、2024年8月31日に終了した前事業年度の財務諸表は監査されていないと明記されています。

TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」とされており、一般市場の新規上場で直前2期の監査が求められるのとは大きく違います。ただし監査が不要なわけではなく、無限定適正意見の監査報告書が必要です。また上場後は、中間の発行者情報の財務諸表にも中間監査又はレビューの意見・結論が付く建付けです。監査法人の選定と、監査に耐える月次・年次決算の体制づくりは、TPMでも早めに着手する必要があります(参考:監査法人はいつまでに決めるか)。

発行者情報に含まれる財務数値と監査の範囲第7期2023年3月期監査なし第8期2024年3月期監査なし第9期(5か月)2024年8月期監査なし第10期2025年8月期監査あり(適正意見)特例110条5項に基づき、第10期の財務諸表について監査法人アヴァンティアの監査を受けている監査報告書の「その他の事項」:前事業年度(第9期)の財務諸表は監査されていないTPMの上場前の監査期間は「最近1年間」(一般市場の新規上場は直前2期)

図7 発行者情報「主要な経営指標等の推移」の注記と監査報告書をもとに作成。第9期は決算期変更による5か月決算

監査報酬を見ると、最近事業年度の監査証明業務に基づく報酬は7,800千円、非監査業務に基づく報酬は1,500千円で、非監査業務の内容は「株式公開に向けた短期調査業務」と記載されています。いわゆるショートレビューを、監査を担当する監査法人に依頼したケースです。上場準備の最初の段階で課題を洗い出す手続として、TPMでも一般市場と同じように活用されていることがわかります(参考:ショートレビューとは)。

J-Adviser契約は上場維持の前提

TPMの上場会社は、担当J-Adviserとの契約を維持し続ける必要があります。フェリエストは事業等のリスクの一つとして「J-Adviserとの契約について」を挙げ、契約の解除条項を詳しく開示しています。

それによると、同社が上場適格性要件の継続的な充足や適時適切な開示などの義務を怠った場合、J-Adviserは相当の期間(特段の事情がない限り1か月)を定めて書面で催告し、期間内に是正されなければ契約を解除できます。また、両当事者の書面による合意や、相手方への1か月前以上の書面による通知によって、いつでも解約できる旨の定めもあります。さらに、債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載や不適正意見、反社会的勢力の関与など、①〜⑳として列挙された事由(④は再建計画を開示した場合に原則として解除しない旨の例外規定)に該当した場合は、催告なしで解除できるとされています。契約が解除され、他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止となります。

担当J-Adviser契約の解除と上場廃止の関係フェリエスト(上場会社)宝印刷(担当J-Adviser)催告による解除義務違反等を書面で催告(特段の事情がない限り1か月)無催告解除債務超過・虚偽記載・反社会的勢力の関与など合意・通知による解約書面合意又は1か月前以上の書面通知他の担当J-Adviserを確保できない場合TOKYO PRO Marketから上場廃止契約上の義務:上場適格性要件の継続充足、適時適切な開示、特例上の義務の履行J-Adviser契約(2024年12月1日)

図8 発行者情報「事業等のリスク(12)J-Adviserとの契約について」をもとに作成。無催告解除の事由は①〜⑳として列挙されている(④は解除しない場合の例外規定)

上場後に「J-Adviserが契約を続けられる会社であり続けること」が、そのまま上場維持の条件になります。なお、公表日現在で解除条項に該当する事象は生じていないと記載されています。

一般市場(グロース・スタンダード)と何が違うのか

ここまでの内容を、一般市場の新規上場と比べて整理すると次のとおりです。TPMの欄はJPXの公表資料に基づく一般的な内容で、フェリエストの欄は同社の発行者情報の記載です。

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード) フェリエストの場合
買付けできる投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、保有株の売却は可) 制限なし -
形式基準 なし(株主数・流通株式・利益の額などの数値基準がない) 株主数・流通株式などの基準がある 株主2名で上場
上場適格性の調査 担当J-Adviserが調査・確認し宣誓書を作成。東証は原則申請から10営業日で承認 東証の上場審査(主幹事証券の引受審査も行われる) 宝印刷が担当。申請受付から10営業日で承認
上場前の監査期間 最近1年間 直前2期 第10期のみ監査
上場時の開示書類 特定証券情報(勧誘を行わない場合は発行者情報に相当する情報) 有価証券届出書・新規上場申請のための有価証券報告書 発行者情報
上場後の定期開示 発行者情報(年次・中間、期末後3か月以内) 有価証券報告書・半期報告書など -
四半期開示・内部統制報告書 いずれも任意 四半期決算短信、内部統制報告書 -
コーポレートガバナンス・コード JPXのコード適用対象の説明にTPMの記載はない スタンダードは全原則、グロースは基本原則 -
J-Adviser 契約の維持が上場の前提 該当なし 2024年12月1日に契約

比べてみると、TPMは「数値基準ではなく、J-Adviserが会社の規模や成熟度に応じた体制かどうかを確認する市場」だとわかります。フェリエストのように株主が2名で、公募・売出しも行わない会社が上場できるのは、この仕組みがあるからです。反対に、一般市場では株主数や流通株式の基準を満たすために公募・売出しが事実上必要になり、2期分の監査と東証の審査を経ることになります(参考:IPO準備の全体像(N-3期〜N期))。

業績はどう推移しているか

発行者情報に掲載されている業績は次のとおりです(単体、単位:千円)。第9期は決算期変更による5か月決算のため、他の期とそのまま比べることはできません。また、監査を受けているのは第10期のみです。

項目 第7期(2023年3月期) 第8期(2024年3月期) 第9期(2024年8月期・5か月) 第10期(2025年8月期)
売上高 269,954 290,021 129,420 549,891
経常利益 47,801 42,081 △29,291 42,609
当期純利益 35,010 30,793 △51,650 22,413
純資産額 100,157 138,282 86,631 104,045
総資産額 209,921 221,555 179,096 321,638
自己資本比率 47.7% 59.1% 48.4% 32.3%
営業キャッシュ・フロー - - △22,613 35,483
従業員数 14名 21名 34名 38名(ほか臨時14名)
業績の推移(単体、千円)0150,000300,000450,000600,000第7期(23/3)第8期(24/3)第9期(24/8)第10期(25/8)269,954290,021129,420549,891経常利益47,80142,081△29,29142,609当期純利益35,01030,793△51,65022,413棒:売上高

図9 発行者情報「主要な経営指標等の推移」より。第9期は2024年4月〜8月の5か月決算。第10期のみ監査済みで、第7〜9期は監査を受けていない

第10期は売上高549,891千円、営業利益36,187千円、経常利益42,609千円、当期純利益22,413千円でした。決算期変更のため前期比較は記載されていませんが、12か月決算の第8期(売上高290,021千円)と比べると、事業規模が大きく拡大していることがわかります。従業員数も第7期末の14名から第10期末の38名へ増えています。

第9期は5か月で売上高129,420千円、営業損失29,321千円、当期純損失51,650千円でした。純損失の大きな要因は、特別損失に計上された貸倒損失53,350千円です。一方で、子会社FtoCの合併による抱合せ株式消滅差益9,532千円が特別利益に計上され、法人税等調整額△21,488千円(税金費用のマイナス)も計上されています。発行者情報には貸倒損失の相手先や内容の説明はありませんが、税効果会計の注記には、貸倒損失に係る繰延税金資産17,874千円(第10期末、評価性引当額控除前)が計上されていることが示されています。

第10期の売上総利益から当期純利益まで(千円)売上総利益323,817販管費-287,630営業利益36,187営業外+6,422経常利益42,609特別利益+791税引前43,401法人税等-20,987純利益22,413

図10 発行者情報の損益計算書より。営業外損益は営業外収益8,160千円から営業外費用1,738千円を差し引いた額、特別損益は固定資産売却益。法人税等は法人税、住民税及び事業税と法人税等調整額の合計

第10期の損益の内訳を見ると、売上原価226,074千円のうち労務費が65,639千円、経費が164,169千円(主に制作費89,402千円と外注費74,767千円)で、原価計算は実際原価による個別原価計算です。販売費及び一般管理費は287,630千円で、役員報酬33,600千円、給料賃金62,288千円、販売促進費35,377千円などが主な費目です。営業外収益には補助金収入3,200千円と雇用助成金1,790千円が含まれています。

税引前当期純利益43,401千円に対して法人税等は20,987千円で、税効果会計適用後の負担率は48.4%と法定実効税率33.6%を大きく上回っています。主な差異要因は評価性引当額の増減(17.2ポイント)で、評価性引当額が7,316千円増えた主な理由は「貸倒損失に係る評価性引当額の増加」と説明されています。第9期の一時的な損失が、翌期の税金費用にも影響していることがわかります。

キャッシュ・フローと財務の状況

第10期の営業キャッシュ・フローは35,483千円の収入で、売上債権が28,669千円増えた分、税引前当期純利益より少なくなっています。財務キャッシュ・フローは80,771千円の収入で、短期借入金の純増33,310千円と長期借入れ64,000千円が主な内容です。期末の現金及び預金は190,579千円、借入金等の残高は短期借入金33,310千円、1年内返済予定の長期借入金13,068千円、長期借入金47,468千円などで、リース債務を含めた合計は94,914千円です。

総資産が321,638千円に増えた一方で純資産は104,045千円にとどまり、自己資本比率は32.3%に下がりました。資金調達は金融機関からの借入による方針と記載されており、中央区への本社移転に伴う内装設備等23,633千円も自己資金でまかなう計画です。

資本政策と株主構成:株主2名・公募なしで上場するための株式の整理

フェリエストの資本政策は非常にシンプルです。発行済株式は1,000,000株で、株主は株式会社Big Thick(750,000株、75.0%)と吉田大太氏(250,000株、25.0%)の2名だけです。Big Thickは吉田氏が代表取締役を務める資産管理会社で、発行者情報の役員の状況では、吉田氏の所有株式数は資産管理会社分を含めた実質所有株式数として1,000,000株と記載されています。新株予約権(ストック・オプション)、種類株式、自己株式はいずれもなく、第三者割当等による株式の発行もありません。

上場申請時点の株主構成(発行済株式1,000,000株)株式会社Big Thick 750,000株(75.0%)吉田 大太250,000株(25.0%)株主数2名(2026年2月28日現在)。代表取締役社長の実質所有株式数は1,000,000株新株予約権(ストック・オプション)、種類株式、自己株式はいずれもないBig Thickは代表取締役社長の資産管理会社(役員等が議決権の過半数を所有する会社)

図11 発行者情報「株主の状況」「所有者別状況」より。比率は発行者情報記載時点のもの

一般市場であれば、上場時に株主数や流通株式の基準を満たす必要があるため、このような株主構成のまま上場することはできません。TPMには形式基準がないため、オーナーが実質的に100%を保有したままでも上場が可能です。他方で、上場後に株式の流通をどう考えるのか、従業員へのインセンティブをどう設計するのかといった論点は、別途検討が必要になります(参考:上場準備の資本政策)。

資産管理会社への株式移動と価格の決め方

発行者情報の「第四部 株式公開情報」には、特別利害関係者等の株式等の移動状況が1件記載されています。2023年9月28日、吉田氏から株式会社Big Thickへ75株(株式分割前)が移動しました。価格は1株1,029,000円、総額77,175,000円で、移動理由は「個人資産の管理の一部として移動」です。

注目したいのは価格の決め方です。注記によれば、移動価格は当事者間の協議の上、会社法第774条の2に定める株式交付制度に基づき、財産評価基本通達における原則的評価方式により決定した価格とされています。株式交付は、ある株式会社が他の株式会社を子会社とするために、その株主から株式を譲り受け、対価として自社の株式を交付する制度です。資産管理会社に株式を集約する方法としてこの制度を使い、価格の根拠を税務上の評価方法に置いたことが開示から読み取れます。

2023年9月の特別利害関係者等の株式移動吉田 大太(代表取締役社長)株式会社Big Thick(資産管理会社)移動理由:個人資産の管理の一部として移動価格:1株1,029,000円(総額77,175,000円)会社法774条の2の株式交付制度に基づき、財産評価基本通達の原則的評価方式で決定公表日時点の持株(分割後):Big Thick 750,000株(75.0%)、吉田氏 250,000株(25.0%)75株を移動(2023年9月28日)

図12 発行者情報「第四部 株式公開情報」より。株数・単価は2025年11月の株式分割(1:10,000)前のもの

上場前の株式の移動は、価格の妥当性や移動の目的が後から確認される論点です。発行者情報の注記では、特例第115条及び同施行規則第106条により、新規上場申請日の直前事業年度の末日から2年前(2023年9月1日)から上場日の前日までの特別利害関係者等による株式等の移動について、上場日から5年間、記録を保存するものとされていると説明されています。フェリエストの株式移動(2023年9月28日)はこの期間に入っているため開示対象になっています。株式を動かすときは、目的、価格の算定方法、決議の手続を記録に残しておくことが大切です(参考:上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)、未上場株式の株価算定はどの方法を使うか)。

株式分割と単元株制度の導入

分割前の発行済株式数は100株でした。フェリエストは2025年11月28日の定時株主総会で単元株制度を導入する定款変更を行い、2025年11月14日の取締役会決議に基づいて、11月29日付で1株を10,000株に分割しました。これにより発行済株式数は1,000,000株、発行可能株式総数は4,000,000株となり、1単元100株で10,000単元という構成になっています。

分割の目的は「株式単位当たりの金額の引下げを行うことで株式の流動性を高めること」、単元株制度の採用は全国証券取引所の「売買単位の集約に向けた行動計画」を考慮したものと説明されています。1株当たりの金額が大きすぎる株式は取引の単位として扱いにくいため、上場前に分割で調整するのは一般市場でもTPMでも共通の手続です。発行者情報の1株当たり情報は、分割が前事業年度の期首に行われたと仮定して算定されています。

上場に向けた株式数・単元の整え方分割前発行済100株2025年11月28日定時株主総会単元株の定款変更2025年11月29日1株→10,000株に株式分割分割後発行済1,000,000株10,000単元目的:株式単位当たりの金額を引き下げ、流動性を高める(分割)全国証券取引所の「売買単位の集約に向けた行動計画」を考慮し、1単元を100株とする

図13 発行者情報「株式等の状況」「重要な後発事象」より

配当は内部留保の充実を優先し、実施及びその時期は未定とする方針です。なお、第9期末を基準日とする配当(総額5,000千円)が2024年9月17日の臨時株主総会決議で行われています。

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コーポレート・ガバナンス:取締役3名・監査役1名の機関設計

フェリエストは取締役会と監査役を置く会社です。取締役会は3名の取締役で構成され、定時取締役会を毎月1回開き、必要に応じて臨時取締役会を開いて経営の重要事項を決定しています。取締役と各部の部長・マネージャーが業務執行状況を取締役会に報告し、取締役会が取締役の職務執行を監督する仕組みです。監査役は1名(非常勤)で、社外監査役です。社外取締役は選任していません。定款では取締役を4名以内、監査役を3名以内と定めています。

役職 氏名 主な経歴(発行者情報の記載から抜粋)
代表取締役社長 吉田 大太 2007年セレブレッド株式会社設立・代表取締役社長、2009年株式会社ユニーク取締役副社長、2016年8月当社設立
取締役 経営管理部長 前田 真嗣 複数の企業で経営企画室長・管理部長等を歴任、2024年8月当社入社、2024年12月取締役
取締役 クリエイティブ部長 組野 航 2022年4月当社入社、2024年4月クリエイティブ部長、2025年11月取締役
監査役(社外・非常勤) 野口 力彌 税理士、野口力彌税理士事務所を開設、2024年12月当社監査役
フェリエストの機関設計と会議体株主総会取締役会(3名)定時:毎月1回監査役(1名・非常勤)社外監査役・税理士代表取締役社長内部監査担当(1名)代表取締役が指名経営会議月2回リスク・コンプライアンス委員会四半期ごと監査法人アヴァンティア特例110条5項の監査定款:取締役4名以内、監査役3名以内。監査役会は置いていない選任選任監査選定・監督指名報告連携

図14 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成。社外取締役は選任しておらず、監査役は社外監査役1名(非常勤)

TPMでは、機関設計について一般市場のような形式要件は示されておらず、上場適格性要件として「企業の規模や成熟度等に応じて」ガバナンスと内部管理体制が整備・機能していることが求められます。フェリエストは、取締役会設置会社・監査役設置会社という会社法上の基本的な形をとりつつ、監査役会や社外取締役は置かない設計を選んでいます。社外監査役の野口氏は税理士で、会社との間に人的関係、資本的関係、取引関係その他の利害関係はないと記載されています。社外役員の独立性に関する基準や方針は特に定めていないものの、取引関係等を考慮して選任しているとされています。

機関設計を検討するときは、「上場する市場で何が求められるか」と「自社の規模で実際に機能する体制は何か」の両方から考えることが大切です。一般市場を目指す場合は、監査役会設置会社か監査等委員会設置会社を選び、独立社外取締役を確保することが一般的です(参考:IPO審査の「機関設計」とは、常勤監査役は必要か)。

会議体と役員報酬

取締役会のほかに、取締役と事業部のマネージャーで構成する「経営会議」が月2回開かれ、経営数字の進捗、予算達成に向けた課題と解決策、各事業部の課題などを協議・決定しています。また、取締役を中心に構成する「リスク・コンプライアンス委員会」が四半期ごとに開かれ、内部通報の受付や調査、クレーム・事故・労務状況の報告、コンプライアンス違反の再発防止策の審議、従業員研修を担当しています。少人数の取締役会を、現場に近い会議体で補う構成です。

第10期(2025年8月期)の役員報酬は、取締役(社外取締役を除く)3名に31,800千円、社外役員1名に1,800千円で、いずれも基本報酬のみです。賞与やストック・オプションはありません。報酬の決定方針や決定方法についての記載はありません。

関連当事者取引と支配株主との取引

関連当事者との取引の注記は「該当事項はありません」です。オーナー会社では、代表者からの借入や債務保証、代表者が関係する会社との取引が残っていることが多く、上場準備で解消を求められる典型的な論点ですが、フェリエストの発行者情報にはそうした取引の記載はありません。

一方で、代表取締役社長とその資産管理会社が株式の全部を保有している以上、支配株主との取引をどう管理するかは重要な論点です。同社は「支配株主との取引を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針」として、一般の取引と同様の適切な条件で行うことを基本方針とし、取引理由・必要性、取引条件・決定方法の妥当性などを取締役会で十分審議した上で意思決定すると記載しています(参考:IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引))。

内部監査・内部統制・リスク管理の体制

内部監査は、代表取締役が指名した内部監査人(担当者1名)が、内部監査規程に基づいて実施しています。特徴的なのは「クロス監査方式」を採用していると記載されている点で、部門間の相互チェックを通じて監査の客観性を高めるとしています。監査結果は代表取締役と監査役に提出・報告され、必要に応じて改善指導やフォローアップを行います。

小規模な会社では専任の内部監査部門を置くことが難しく、内部監査担当者が自分の所属部署を監査してしまう「自己監査」をどう避けるかが論点になります。部門間で相互に監査し合う方式は、限られた人員でこの問題に対応する方法の一つです(参考:内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避))。

クロス監査方式の内部監査と三様監査の連携クロス監査方式内部監査人(1名)代表取締役が指名部門A部門B部門間の相互チェックで客観性を高める監査役(1名)内部監査担当監査法人アヴァンティア監査結果は代表取締役および監査役に提出・報告し、必要に応じて改善指導・フォローアップを行う随時報告意見交換連携

図15 発行者情報「内部監査及び監査役の状況」をもとに作成。内部監査人は代表取締役が指名した担当者1名

監査役は、内部監査担当者から監査の実施状況について随時報告を受け、代表取締役や監査法人と定期的に意見交換を行うとされています。内部監査担当者も監査役・監査法人と連携しているとされており、監査役監査・内部監査・会計監査のいわゆる三様監査の連携が記載されています(参考:監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。

内部統制については、職務権限規程の遵守により業務を合理的に分担し、特定の組織や担当者に業務や権限が集中しないようにして、内部牽制が働くよう努めていると記載されています。リスク管理は主管部署の経営管理本部が情報を一元化し、必要に応じて弁護士等の専門家から助言を受ける体制です。また、金融商品の注記では、営業債権について担当者が回収状況を定期的にモニタリングし、金額等の重要性が高い取引は取締役会で取引実行の決定や回収状況の報告を行うとされています。売上債権の管理は、上場準備で与信管理規程や回収状況の報告ルールとして整備しておきたい領域です。

会計・開示の論点

収益認識:運用代行は期間、制作は検収時点

収益認識の方法は、2つのサービスで異なります。SNSアカウント運用代行の主な履行義務は顧客の公式SNSアカウントの運用を代行することで、運用期間にわたって履行義務が充足されるため、その期間にわたって収益を認識しています。ショート動画制作その他の主な履行義務は制作物等を提供することで、制作物等の検収時点で収益を認識しています。ただし、役務提供期間にわたって履行義務が充足されるものは、その期間にわたって収益を認識するとされています。対価は概ね1年以内に受領しており、重要な金融要素は含まれていません。

2つのサービスの収益認識の判断SNSアカウント運用代行履行義務:SNSアカウントの運用代行運用期間にわたり収益を認識(一定の期間にわたり充足)ショート動画制作・その他履行義務:制作物等の提供役務提供期間にわたり充足するものか期間にわたり収益を認識検収時点で収益を認識契約負債(前受金):期首24,700千円 → 期末33,040千円。期首残高は全額が当期の収益に対価は概ね1年以内に受領し、重要な金融要素は含まれない該当該当しない

図16 発行者情報「重要な会計方針 4.収益及び費用の計上基準」「収益認識関係」注記をもとに作成

契約負債は前受金で、第10期の期首24,700千円から期末33,040千円に増えています。期首の契約負債24,700千円は全額が当期の収益として認識されたと記載されています。顧客との契約から生じた債権(売掛金)は34,479千円から63,148千円へ増えました。主な資産・負債の内訳では、売掛金の回収率は89.1%、滞留期間は32.8日、前受金の最大の相手先は株式会社カイタックファミリー(29,589千円)と示されています。

運用代行のように一定期間にわたって役務を提供する契約と、制作物を納品して検収を受ける契約が混在する会社では、契約ごとに履行義務と充足の時点を判定し、前受金・売掛金と売上の計上を突き合わせる仕組みが必要です。月額で請求していても、契約期間の途中で解約や追加発注があれば計上額の調整が必要になります。検収時点で認識する制作案件では、期末をまたぐ案件の検収日の確認が、期ズレを防ぐうえで重要です(参考:上場審査で問われる収益認識)。

原価計算と労務費の区分

売上原価明細書を見ると、第10期は労務費65,639千円が売上原価に含まれていますが、第9期は労務費がゼロで、経費47,450千円だけが計上されています。注記によれば、第9期の労務費は販売費及び一般管理費に含めて計上しており、その理由は、動画制作・画像制作部門が製造機能に加えて営業活動も兼務しており、純粋な製造原価部分と営業活動に係る部分を合理的に区分することが困難だったためと説明されています。

第10期には期末仕掛品3,734千円(給料賃金等1,260千円、制作費184千円、外注費2,289千円)も計上されており、案件ごとに人件費や外注費を集計する個別原価計算が行われています。制作を伴うサービス業では、どの人件費を原価とし、どこまでを仕掛品として資産計上するかが、利益の期間配分と売上総利益率に直接影響します。上場準備では、工数管理と原価計算の仕組みを監査を受ける期より前に整えておくことが大切です。

決算期の変更と変則決算

先に触れたとおり、フェリエストは2024年7月15日の臨時株主総会で決算期を3月31日から8月31日に変更しました。その結果、第9期は5か月の変則決算となり、第10期の業績の概要や販売実績には前期との比較が記載されていません。第7期・第8期はキャッシュ・フロー計算書も作成していなかったと注記されています。

決算期の変更と事業年度第8期2024年3月期(12か月)第9期5か月第10期2025年8月期(監査対象)第11期2026年8月期2023年4月2024年4月2024年9月2025年9月・2024年7月15日 臨時株主総会で決算期変更を決議(第9期中)・2026年4月20日 TPM上場(第11期中)。第10期の業績は前期比較を記載していない

図17 2024年7月15日の臨時株主総会で決算期を3月31日から8月31日に変更。第9期は2024年4月1日〜8月31日の5か月決算

発行者情報に決算期を変更した理由の記載はありませんが、結果として「監査を受けた12か月の事業年度」として第10期が上場申請の直前事業年度となっています。変則決算を挟むと業績の比較が難しくなるため、変更する場合は時期と開示上の影響を早めに検討しておく必要があります。

重要な会計上の見積りとその他の注記

重要な会計上の見積りとして識別されているのは繰延税金資産です(第10期末9,406千円、第9期末21,488千円)。予算及び中期経営計画により見積もった将来の課税所得に基づいて計上しており、実際の課税所得の時期や金額が見積りと異なれば翌期の計上額に重要な影響を与える可能性があると説明されています。繰延税金資産の内訳では、貸倒損失17,874千円が最も大きく、評価性引当額は11,305千円です。

そのほか、資産除去債務は、敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、当期の負担分を費用に計上する方法(負債計上に代える方法)を採っています。未適用の会計基準として新しいリース会計基準(企業会計基準第34号等)を挙げ、2028年8月期の期首から適用予定としています。財務諸表は、特例第110条第6項で認められた会計基準のうち、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されています。

論点 発行者情報の記載 上場準備で確認したいこと
収益認識 運用代行は運用期間にわたり、動画制作その他は検収時点(期間充足のものは期間にわたり) 契約類型ごとの履行義務の判定、前受金・売掛金との整合
原価計算 第10期は個別原価計算で労務費を原価に計上。第9期は販管費に含めていた 工数管理、原価と販管費の区分ルール、仕掛品の集計
会計上の見積り 繰延税金資産(予算・中期経営計画による課税所得) 事業計画の合理性と実績との比較
特別損益 第9期に貸倒損失53,350千円、抱合せ株式消滅差益9,532千円 一時的な損益の内容と再発防止の説明
監査 第10期のみ監査(無限定適正意見)。監査報酬7,800千円、短期調査1,500千円 監査法人の早期選定、ショートレビューでの課題把握

事業等のリスクと、上場準備で説明が求められやすい点

発行者情報の事業等のリスクには12項目が挙げられています。SNSマーケティングという事業の性質を反映したものが多く、上場準備の段階で「リスクをどう認識し、どう手当てしているか」を説明できるようにしておくべき項目が並んでいます。

リスク項目 発行者情報の主な記載 会社の対応として記載されている内容
経済状況・広告市場 景気後退時に企業が広告宣伝費を削減する 売上向上に直結する施策の提案、解約率低減のための顧客満足度向上
特定のSNSプラットフォームへの依存 Meta、ByteDance、X、Google等の規約・仕様・アルゴリズムの変更や障害 (影響を完全に回避できない旨を記載)
競合の激化 参入障壁が比較的低く、フリーランスの参入も増加、価格競争 AI分析ツール「カチレポ」やデータに基づくコンサルティングで差別化
法的規制 景品表示法のステルスマーケティング規制、個人情報保護法、特定商取引法など 顧問弁護士との連携、コンプライアンス体制と従業員教育
炎上等のレピュテーション 運用代行した投稿やキャンペーンが批判を受ける 投稿前の複数人によるチェック体制、ガイドラインの策定
特定人物への依存 創業者である代表取締役社長が経営方針・主要取引先の開拓で重要な役割 経営幹部への権限委譲と情報の共有化
情報セキュリティ・個人情報 顧客の機密情報や個人情報の漏洩 プライバシーマーク取得、情報セキュリティ管理規程、定期的な教育
J-Adviserとの契約 契約が解除され他のJ-Adviserを確保できない場合は上場廃止 解除条項に該当する事象は生じていない旨を記載

このほか、技術革新への対応と人材の採用・定着も挙げられています。対処すべき課題には、事業ポートフォリオの多角化(AIを活用したコンサルティング領域への進出等)、顧客開拓力の強化と営業体制の組織化、人材の採用・育成(研修プログラム「フェリエストグロースアカデミー」など)、業務生産性の向上、競争優位性の維持・強化、内部管理体制の強化の6項目が記載されています。

上場準備の観点では、特に「法的規制」と「炎上」は、運用代行という業務の性質上、日々の業務プロセスの中でどう統制しているかが問われやすい項目です。広告であることの表示、投稿前のチェック、顧客との責任分担を、規程・マニュアル・チェックリストの形で示せるようにしておくことが、J-Adviserの調査や監査役監査への対応でも役立ちます。また、代表者への依存は創業者が率いるオーナー会社に共通する論点で、権限委譲と会議体による意思決定の記録が、その手当ての裏付けになります。

一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆

フェリエストの発行者情報には、将来の一般市場への上場(市場の変更)についての記載はありません。そのため、ここでは同社の方針には触れず、TPMから一般市場を目指す場合の一般的な仕組みだけを整理します。

TPMから一般市場への移行は、市場区分の変更ではなく、TPMを申請により上場廃止し、一般市場へ新規上場する形で行われます。たとえばAlbaLinkは2025年12月14日にTPMの上場を廃止し、翌15日にグロース市場へ新規上場しました。東証の資料では、TPMから一般市場への上場の審査は非上場企業と同様に一から確認が行われ相応の負担があるという現状認識が示され、「26年秋めど」にTPMでの実績を勘案した一般市場の上場審査の効率化を予定していると公表されています(本記事の執筆時点で、実施済みかどうかは確認できていません)。

TPMから一般市場へ移る場合の流れ(一般論)TOKYO PROMarket上場一般市場の上場準備・審査TPMを申請により上場廃止一般市場へ新規上場TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではない(例:AlbaLinkはTPM上場廃止の翌日にグロース市場へ新規上場)東証は「26年秋めど」にTPM実績を勘案した審査の効率化を予定と公表している

図18 JPXの公表資料(AlbaLinkの新規上場、TPMの今後の方向性)をもとに一般的な流れを整理したもの。フェリエストの発行者情報には将来の市場変更等についての記載はない

仮にTPM上場会社が一般市場を目指す場合、本記事で見た論点の多くを改めて整える必要があります。具体的には、直前2期の監査、株主数・流通株式などの形式基準を満たすための株式の分散(公募・売出し)、市場区分に応じたコーポレートガバナンス・コードへの対応と独立社外取締役の確保、内部統制報告制度への対応などです。TPMでの開示と内部管理の運用実績は、その準備の土台になります(参考:IPO準備 完全ガイド)。

上場準備会社がフェリエストの事例から学べること

1. 上場の目的と市場の選択を、最初に言語化する

フェリエストの発行者情報には上場目的の明示的な記載はありませんが、東証は2026年4月以降、新規上場時に上場目的の検討・開示を求めています。資金調達を伴わないTPM上場では、信用力、採用、営業、社内体制のどれに効かせたいのかを最初に決めておくと、準備の優先順位がはっきりします。

2. グループ構成と決算期を、監査を受ける期の前に固める

同社は2024年に子会社の合併と決算期の変更を済ませ、第10期を監査対象の事業年度としました。連結の有無や決算期は、監査の範囲と上場スケジュールを左右します。監査を受ける期が始まる前に決めておくのが理想です。

3. 株式の移動は、目的と価格の根拠を記録に残す

資産管理会社への株式移動では、株式交付制度と財産評価基本通達の原則的評価方式という根拠が開示されています。上場前の株式の移動は特例により記録の保存が求められ、発行者情報にも記載されます。後から説明できる形で手続を残しておくことが重要です。

4. 株式数と単元を、上場の直前に整える

発行済株式100株を1:10,000の分割で1,000,000株にし、1単元100株とする手続は、定時株主総会と取締役会の決議を組み合わせて行われています。分割の比率、発行可能株式総数、単元株式数をまとめて設計しておくと、定款変更の手続が一度で済みます。

5. 機関設計は規模に応じて選び、会議体で補う

取締役3名・社外監査役1名という小さな機関設計でも、月2回の経営会議と四半期ごとのリスク・コンプライアンス委員会で、現場の情報と統制の仕組みを補っています。形だけの組織ではなく、議事録と報告の流れで「機能している」ことを示せるかが要点です。

6. 内部監査は少人数でも自己監査を避ける工夫をする

内部監査人1名の体制でも、クロス監査方式で部門間の相互チェックを取り入れ、結果を代表取締役と監査役に報告する流れを作っています。人数よりも、独立性と報告ルートの設計が問われます。

7. 収益認識と原価計算を、サービスの実態に合わせる

運用代行(期間)と制作(検収)で収益認識を分け、労務費を原価に含める個別原価計算に移行しています。サービスの契約形態ごとに会計処理を決め、工数管理と前受金管理を仕組みにすることが、監査を受けるための前提になります(参考:IPO審査の「内部監査」とは)。

上場準備のチェックリスト

  • 上場の目的と、TPMか一般市場かという市場の選択を、経営陣で言語化しているか
  • 子会社の有無・決算期など、監査を受ける事業年度の前提を固めているか
  • 監査法人を選定し、ショートレビューで課題を洗い出しているか
  • 資産管理会社への移動を含む株式の移動について、目的・価格の根拠・決議を記録しているか
  • 取締役会・監査役・内部監査の役割分担と報告ルートを決め、議事録で運用を示せるか
  • 収益認識・原価計算・前受金管理を、サービスの契約形態ごとに整理しているか

よくある質問

Q1. 株主が2名だけでもTOKYO PRO Marketに上場できるのですか?

TPMには株主数や流通株式などの形式基準がありません。フェリエストは、代表取締役社長とその資産管理会社の2名が株式の全部を保有する状態で上場しています。ただし、担当J-Adviserが上場適格性要件(ガバナンス、内部管理体制、開示体制など)を調査・確認する点は他の上場会社と同じです。

Q2. 上場時に監査を受けた決算は何期分必要ですか?

TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」です。フェリエストは第10期(2025年8月期)の財務諸表について監査法人アヴァンティアの監査を受け、それより前の期は監査を受けていません。一般市場の新規上場では直前2期の監査が必要とされる点と異なります。

Q3. 公募や売出しをしないと、どの書類で上場するのですか?

上場時に特定投資家向け取得勧誘や売付け勧誘等を行わない会社は、特例第110条第3項により「発行者情報に相当する情報」を公表して上場します。フェリエストの公表書類の表紙も「発行者情報」となっています。上場後は年次・中間の発行者情報を各期末後3か月以内に公表します。

Q4. J-Adviserとの契約が終わるとどうなりますか?

TPMの上場会社は担当J-Adviserとの契約を維持する必要があり、契約が解除され、他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止となります。フェリエストは、催告による解除、合意・通知による解約、①〜⑳として列挙された無催告解除事由を発行者情報で開示しています。

最初の一歩は「グループ構成・決算期・株式」の棚卸しから

TPMを検討し始めたら、まず子会社の有無と決算期、株主名簿と過去の株式の移動、そして監査を受ける事業年度をいつにするかを一覧にしてみてください。フェリエストの事例が示すように、これらは上場申請の2年ほど前から順を追って整える必要があり、後から動かすほど監査や開示の負担が大きくなります。棚卸しの結果をもとに、監査法人とJ-Adviserの選定、ショートレビューへと進むのが現実的な順序です。

まとめ

フェリエストは、SNSアカウント運用代行とショート動画制作を2本柱とするSNSマーケティング会社で、2026年4月20日に公募・売出しを行わずにTOKYO PRO Marketへ上場しました。株主は代表取締役社長と資産管理会社の2名、監査を受けた決算は第10期の1期分、取締役3名と社外監査役1名という体制は、形式基準がなく、担当J-Adviserが規模や成熟度に応じた体制を確認するTPMの制度だからこそ成り立つものです。

一方で、子会社の合併と決算期の変更、株式交付制度を使った資産管理会社への株式移動、株式分割と単元株制度の導入、クロス監査方式の内部監査、サービスごとの収益認識と個別原価計算など、上場に向けた準備の中身は一般市場を目指す会社にも参考になるものばかりです。市場の違いを理解したうえで、自社の上場目的に合った準備の順序を描くことが、上場準備の出発点になります。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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