※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
株式会社レイヤード(証券コード634A)は、2026年8月24日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年9月25日に東証スタンダード市場へ上場しました。1998年7月に福岡市で医療機関向けデジタルサイネージの会社として設立され、現在は「医療をもっと、わかりやすく。」をPurposeに、WEB問診・予約・患者管理・電話自動応答などのSaaSを医療機関に提供しています。本記事では、東京証券取引所に提出された「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(2026年8月24日提出)を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。
結論からいえば、レイヤードのⅠの部は「赤字と黒字を行き来した中小規模のSaaS企業が、上場前の数年間で機関設計・株式・会計開示をどう整えたか」を具体的に追える事例です。2024年7月の監査等委員会設置会社への移行、上場申請直前の任意の指名報酬委員会の設置、兼任3名の内部監査室による相互監査、代表者を委託者とする時価発行新株予約権信託、代表者から役職員への株式の無償譲渡、そして「ストック(期間)」「イニシャル(一時点)」「広告(期間)」に分かれた収益認識と、監査未了の最新期決算の掲載など、準備中の会社がそのまま検討項目にできる論点が並んでいます。
この記事の見出し
- レイヤードはどんな会社で、いつ、どの市場に上場したのか
- レイヤードは何で稼いでいるのか:3つの事業区分と販売代理店
- 沿革と上場までの道のり:サイネージの会社が医療DXへ
- 業績はどう推移してきたのか:赤字の期をどう説明しているか
- 資本政策と株主構成:創業経営陣の持株、事業会社・ファンド、2種類の新株予約権
- コーポレート・ガバナンス:監査等委員会設置会社への移行と任意の指名報酬委員会
- 内部監査・内部統制:兼任3名の内部監査室はどう自己監査を避けているか
- 会計・開示の論点:収益認識、見積り、監査法人と監査報酬
- 事業等のリスクと、審査で問われやすい点
- 上場準備会社がレイヤードのⅠの部から学べること
- 自社でチェックしたい6つのポイント
- よくある質問
- まとめ
- 本記事の根拠
レイヤードはどんな会社で、いつ、どの市場に上場したのか
まず基本情報です。レイヤードは1998年7月、医療現場における情報のわかりにくさを解消するため、医療機関向けデジタルサイネージの医療コンテンツ制作及びディスプレイ販売を目的として、福岡市東区和白に「株式会社メディアコンテンツファクトリー」として設立されました。2022年7月に現在の商号に変更しています。本店は福岡市博多区博多駅中央街で、代表者は代表取締役社長の毛塚牧人氏です。社名は医療者と生活者の「重なり」を意味する「LAYERED」に由来すると記載されています。
決算期は6月です。Ⅰの部の最近事業年度は第27期(2024年7月1日〜2025年6月30日)で、直近の期間として第28期中間会計期間(2025年7月〜12月)と第28期第3四半期累計期間(2025年7月〜2026年3月)の財務諸表が掲載されています。さらに、Ⅰの部の「その他」には、2026年8月13日の取締役会で承認された第28期(2026年6月期)の財務諸表も掲載されていますが、こちらは有価証券上場規程第204条第6項に基づく監査が未了で、監査報告書は受領していないと明記されています。本記事で第28期通期の数値を使う場合は、その旨を付記します。
子会社はなく、財務諸表は単体のみです。関連会社として、訪問診療専用スケジュール管理ソフトを開発するクロスログ株式会社(議決権の所有割合30.0%、持分法非適用)があります。親会社等はありません。従業員数は2026年7月31日現在で107名(ほかに臨時雇用者66名)、平均年齢35.6歳、平均勤続年数4.1年、平均年間給与5,660,653円です。セグメントは医療DX事業の単一セグメントです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社レイヤード(LAYERED Inc.) |
| 証券コード・市場 | 634A/東京証券取引所スタンダード市場 |
| 上場承認日・上場日 | 2026年8月24日承認/2026年9月25日上場 |
| 設立 | 1998年7月(旧商号:株式会社メディアコンテンツファクトリー) |
| 本店 | 福岡市博多区博多駅中央街 |
| 代表者 | 代表取締役社長 毛塚 牧人 |
| 決算期 | 6月(最近事業年度:第27期 2025年6月期) |
| 事業 | 医療機関向けSaaS等(医療DX事業の単一セグメント) |
| 従業員数 | 107名(臨時66名)※2026年7月31日現在 |
| 機関設計 | 監査等委員会設置会社(2024年7月30日移行) |
| 会計監査人 | 有限責任監査法人トーマツ(継続監査期間2年間) |
スタンダード市場の上場審査では、実質審査基準として「企業の継続性及び収益性」「企業経営の健全性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「企業内容等の開示の適正性」「その他公益又は投資者保護の観点」が見られます。またスタンダード市場の上場会社には、コーポレートガバナンス・コードの全原則が適用されます。審査基準の全体像はIPOの実質審査基準とは、収益性の見られ方はIPO審査の「企業の継続性及び収益性」で解説しています。以下では、この審査の観点を意識しながらⅠの部を読んでいきます。
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レイヤードは何で稼いでいるのか:3つの事業区分と販売代理店
レイヤードの主要顧客は、保険診療を主とする医科診療所です。近年は国立病院を含む病院や自治体にも顧客を広げています。提供するプロダクトは、WEB問診・電子同意書・オンライン診療の「Symview」、予約システム「Wakumy」、患者管理システム(PRM)「Kakarite」、電話自動応答「Iver」、医療向けデジタルサイネージ「Medicastar」、医療機関専用WEB制作の「Wehub」、そして2026年6月に提供を開始したAI電話エージェント「Capai」です。これに加えて、他社の「VoiceChart」「Pay CAS POS for clinic」などを代理店として販売しています。
特徴は、統合型の基幹システムではなく、各プロダクトを個別に利用でき、かつ複数のプロダクトを連携させられる「マルチプロダクト戦略」です。医療機関の特性や規模に応じて段階的に導入できる点を強みとして記載しています。利用医療機関数は2026年6月時点で約6,000施設、WEB問診の回答数は月間200万件超と記載されています。
図1 医療機関に患者接点のSaaSを提供し、待合室のデジタルサイネージ等を広告媒体としても活用する。Ⅰの部「事業の内容」「事業系統図」の記載をもとに作成
図2 統合型の基幹システムではなく、各プロダクトを個別に導入でき、連携もできる「マルチプロダクト戦略」。Ⅰの部「事業の内容」をもとに作成
セグメントは単一ですが、Ⅰの部ではサービスの提供先や収益構造の観点から、売上高を3つの事業区分に分けて説明しています。
1つ目の「医療DXストック事業」は、SaaS製品の月額利用料(定額及び従量課金)による収益で、クラウドサーバーの運用保守、機能アップデート、カスタマーサクセス・サポートを含みます。2つ目の「医療DXイニシャル事業」は、新規導入時の初期費用による収益で、医療機関ごとの運用に即したコンサルテーション、システム設定支援、受付スタッフへのレクチャーなどです。3つ目の「広告事業」は、Medicastarや Symviewの一部領域を広告媒体として活用し、製薬企業・食品メーカー・自治体などの広告を、法令や業界ガイドラインに照らして審査・編集したうえで配信するものです。デジタルサイネージは2025年10月時点で3,500面を超えると記載されています。
図3 第27期(2025年6月期)は監査済み、第28期(2026年6月期)はⅠの部「その他」に掲載された監査未了の財務諸表の数値。Ⅰの部をもとに作成
第27期の事業区分別売上高は、ストック864,910千円(前期比25.5%増)、イニシャル356,893千円(同45.2%増)、広告239,377千円(同5.3%増)で、合計1,461,181千円です。監査未了の第28期では、ストック1,093,747千円、イニシャル626,928千円、広告259,988千円、合計1,980,664千円となっています。
経営上の指標として、Ⅰの部は売上高と経常利益を基本指標とし、サブスクリプション型のビジネスモデルであることから「契約医療機関数及び総アカウント数」と「チャーンレート(解約率)」をKPIとして挙げています。総アカウント数は医療機関が利用する当社プロダクト数の合計、チャーンレートは月次チャーンレートの平均(アカウント数ベース)と定義されています。複数プロダクトの導入でARPU(利用医療機関あたり平均単価)を高め、解約率を下げるという循環が成長の基盤だと説明しています。
販売代理店とメディパルグループへの依存はどう開示されているか
ビジネスモデルを理解するうえで重要なのが販売チャネルです。Ⅰの部の事業等のリスクでは、2026年6月期の契約医療機関数のうち、販売代理店経由で契約した医療機関が全体の約7割を占め、なかでも株式会社メディパルホールディングスのグループ経由が契約数全体の約4割を占めると記載しています。同社グループとは、2022年12月に同社が組成するMEDIPAL Innovation投資事業有限責任組合から出資を受け(同ファンドを通じた保有比率は4.4%、2026年6月30日現在)、2024年7月には業務提携契約を締結しています。さらに、上場時に同社が新規発行株式の一部を取得する予定であることも記載されています。
一方で、売上高の10%以上を占める顧客はないとセグメント関連情報に記載されています。契約獲得の経路としての依存と、売上の相手先としての集中は別の論点です。上場準備会社が自社の依存度を開示する場面では、「誰から売上を受け取っているか」と「どの経路で契約を獲得しているか」を分けて整理すると、審査での説明がしやすくなります。資本関係のある取引先がいる場合は、取引条件の妥当性も合わせて確認されます。
沿革と上場までの道のり:サイネージの会社が医療DXへ
沿革を見ると、レイヤードは1999年に医療機関向けデジタルサイネージの提供を始め、2008年に毛塚牧人氏が代表取締役に就任、同年にデジタルサイネージ広告配信(メディア事業)を始めています。2011年には創業者から毛塚牧人氏・田澤悟郎氏が株式を取得しました。その後、2018年にWEB問診「Symview」、2021年に電話自動応答「Iver」、2023年に予約システム「Wakumy」、2024年にPRM「Kakarite」と、患者接点のプロダクトを順に追加しています。
資本・提携面では、2021年2月にクロスログ株式会社へ出資(30.0%)、2022年12月にメディカル・データ・ビジョン株式会社と資本業務提携、2024年7月にメディパルホールディングスと業務提携、2024年8月に株式会社日本経営の「Wevery!」と業務提携しています。ガバナンス面では、2023年7月13日に「内部統制システムに関する基本方針」を取締役会で決議し、2024年7月30日に監査等委員会設置会社へ移行しました。
図4 Ⅰの部「沿革」「企業統治の体制」等をもとに作成
業績はどう推移してきたのか:赤字の期をどう説明しているか
主要な経営指標等の推移は次のとおりです。レイヤードは連結財務諸表を作成していないため、単体の数値のみです。注記によれば、第26期・第27期の財務諸表は財務諸表等規則に基づいて作成し、有限責任監査法人トーマツの監査を受けています。一方、第23期から第25期は会社計算規則に基づいて算出した数値で、監査を受けていません。第28期は前述のとおり監査未了です。
| 単体(千円) | 第23期 2021/6 | 第24期 2022/6 | 第25期 2023/6 | 第26期 2024/6 | 第27期 2025/6 | 第28期 2026/6(監査未了) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 645,407 | 705,231 | 927,373 | 1,162,268 | 1,461,181 | 1,980,664 |
| 経常利益 | 41,414 | △101,550 | 2,077 | △15,449 | 128,737 | 337,040 |
| 当期純利益 | 17,627 | △101,946 | 2,993 | △2,982 | 100,161 | 239,697 |
| 純資産額 | 144,661 | 42,715 | 295,708 | 292,725 | 392,887 | 632,584 |
| 総資産額 | 302,762 | 282,424 | 619,519 | 584,820 | 776,101 | 1,109,750 |
| 自己資本比率(%) | 47.46 | 14.78 | 47.57 | 49.89 | 50.50 | - |
| 営業CF | - | - | - | △20,836 | 113,900 | 277,202 |
| 従業員数(臨時) | 48(43) | 56(50) | 61(54) | 79(59) | 88(61) | - |
第28期の自己資本比率と従業員数は、監査未了の財務諸表の部分には記載がないため「-」としています。表のとおり、売上高は5期連続で増加していますが、経常損益は第24期(△101,550千円)と第26期(△15,449千円)が赤字です。Ⅰの部はその理由を経営指標の注記で明示しています。第24期は「全社的な商号変更に伴うブランドイメージの刷新による広告宣伝費の増加や人件費の増加」、第26期は「人材採用による採用費の増加や人件費の増加」です。
上場準備会社にとってのポイントは、赤字の期があること自体よりも、その原因が一時的な投資なのか、構造的なものなのかを説明できることです。Ⅰの部の注記で赤字理由を簡潔に書けるのは、管理会計で費用の増加要因を把握している会社です。スタンダード市場の「企業の継続性及び収益性」の審査では、事業計画の前提と実績の関係が問われるため、過去の赤字の理由を数字で説明できるように準備しておくことが重要です。
図5 第23〜25期は会社計算規則に基づく数値で監査を受けていない。第26・27期は監査済み。第28期はⅠの部「その他」に掲載された監査未了の数値。Ⅰの部をもとに作成
図6 第24期は商号変更に伴うブランド刷新の広告宣伝費と人件費、第26期は採用費と人件費の増加により経常損失。第28期は監査未了。Ⅰの部をもとに作成
第27期は、売上高1,461,181千円(前期比25.7%増)、営業利益127,305千円(前期は営業損失17,726千円)、経常利益128,737千円、当期純利益100,161千円となり、黒字に転じています。MD&Aでは、主力のSymview・Wakumy・Kakariteを「予約DXキャンペーン」として展開し、資本提携先を含む販売代理店との連携を強めた結果、受注件数が前期を上回ったと説明しています。
利益率の改善要因として、売上原価率が37.4%と前期から4.5ポイント改善したことが挙げられています。主力のストック事業では、売上が拡大してもサポート人件費やサーバー費用などの原価が逓増しにくい性質を持つため、原価の増加が限定的だったという説明です。売上原価明細書を見ると、第27期の当期総製造費用555,587千円のうち労務費が306,547千円(55.2%)、経費が227,815千円(41.0%)で、経費の主な内訳はシステム利用料126,539千円と外注費74,304千円です。原価計算は実際個別原価計算と記載されています。
販売費及び一般管理費は787,210千円(前期比13.7%増)で、主な費目は役員報酬98,800千円、給料及び賃金269,826千円です。特別利益として保険解約返戻金3,487千円を計上し、税引前当期純利益は132,225千円、法人税等合計32,064千円を差し引いて当期純利益100,161千円となっています。
図7 損益計算書より。営業外損益は営業外収益2,893千円と営業外費用1,461千円の差額、特別利益は保険解約返戻金。Ⅰの部をもとに作成
直近の期間を見ると、第28期中間会計期間は売上高918,006千円、営業利益145,625千円、中間純利益94,446千円、第3四半期累計期間は売上高1,454,046千円、営業利益261,640千円、四半期純利益168,108千円です。監査未了の第28期通期は、売上高1,980,664千円、営業利益344,462千円、経常利益337,040千円、当期純利益239,697千円となっています。営業外費用には「上場関連費用」が計上されており、第28期は9,346千円です。
キャッシュ・フローは、第26期の営業CFが△20,836千円だったのに対し、第27期は113,900千円、監査未了の第28期は277,202千円です。第27期の財務CFには長期借入れによる収入80,000千円があり、期末の借入金(1年内返済予定を含む)は131,676千円、平均利率は1年以内返済分1.43%、長期分1.36%と記載されています。
| 期間(千円) | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 |
|---|---|---|---|---|
| 第28期中間(2025/7〜12) | 918,006 | 145,625 | 143,961 | 94,446 |
| 第28期3Q累計(2025/7〜2026/3) | 1,454,046 | 261,640 | 255,579 | 168,108 |
| 第28期通期(監査未了) | 1,980,664 | 344,462 | 337,040 | 239,697 |
この会社の資料で目を引くのは、Ⅰの部の提出日(2026年8月24日)時点で決算日(2026年6月30日)を過ぎていた第28期について、取締役会で承認した財務諸表を「その他」に掲載し、監査が未了である旨をはっきり書いている点です。上場準備会社がⅠの部やⅡの部をどう作り分けるかについてはⅠの部とⅡの部は何が違うかも参考になります。上場スケジュールが決算期をまたぐ場合、どの数値が監査済みで、どの数値が期中レビューのみか、どれが監査未了かを開示上も社内資料上も区別して管理しておくことが大切です。
資本政策と株主構成:創業経営陣の持株、事業会社・ファンド、2種類の新株予約権
次に資本政策です。レイヤードの株式は普通株式のみで、種類株式はありません。発行済株式総数は2,250,000株、発行可能株式総数は9,000,000株、単元株式数は100株です。自己株式はありません。発行済株式総数と資本金の推移には、次の4つの出来事が記載されています。
第一に、2021年3月31日の1株を500株とする株式分割(発行済株式100,000株へ)。第二に、2022年12月23日の有償第三者割当12,500株(発行価格20,000円、資本組入額10,000円)で、割当先はメディカル・データ・ビジョン株式会社、MEDIPAL Innovation投資事業有限責任組合、FFGストラテジー投資事業有限責任組合第1号です。これにより資本金は135,000千円、資本準備金は125,000千円となりました。第三に、2023年6月28日の資本金の減少(△35,000千円、資本金100,000千円へ)で、同年6月19日の臨時株主総会決議により「財務体質の健全化を目的として」行ったと記載されています。貸借対照表では、その他資本剰余金35,000千円が計上されています。第四に、2026年4月30日の1株を20株とする株式分割と、同日付の単元株制度(100株)の採用です。
図8 株数・価格は記載時点のもの。2022年12月の第三者割当の発行価格20,000円は、2026年4月の1:20分割後に換算すると1,000円となる(筆者計算)。Ⅰの部をもとに作成
資本金の減少は、会社法上は株主総会の決議(会社法447条)と債権者保護手続が必要な手続です。資本金の額を減らすこと自体は会社財産を外部に流出させるものではなく、減少した額はその他資本剰余金になります。税務上の外形標準課税や均等割の区分に影響することがあるため、上場準備の過程で資本金の額を見直す会社は少なくありません。ただし、資本の部の動きは株価算定や資本政策全体と連動するため、実施の時期と目的を説明できるよう記録を残しておくことが大切です。
2026年4月の株式分割は、後発事象の注記で「当社株式の流動性の向上と投資家層の拡大を図ることを目的として」実施したと記載されています。株式分割と単元株制度の採用、発行可能株式総数の変更は、上場前に投資単位を整える定番の手続です。なお、2022年12月の第三者割当の発行価格20,000円は、1:20の分割後に換算すると1,000円となり、2024年に付与した第2回新株予約権の行使価額1,000円(分割後)と同じ水準です(換算は筆者計算)。
大株主の構成をどう読むか
第四部「株主の状況」によると、Ⅰの部記載時点の主要株主(潜在株式を含む総数2,524,360株に対する比率)は、株式会社nanos 680,000株(26.94%)、田澤悟郎氏 602,500株(23.87%、うち潜在株式2,500株)、毛塚牧人氏 600,000株(23.77%)、新株予約権信託の受託者である吉居大希氏 200,000株(7.92%、すべて潜在株式)、MEDIPAL Innovation投資事業有限責任組合 100,000株(3.96%)、FFGストラテジー投資事業有限責任組合第1号 100,000株(3.96%)、メディカル・データ・ビジョン株式会社 50,000株(1.98%)と続きます。株式会社nanosは毛塚牧人氏の資産管理会社で、役員一覧の毛塚氏の所有株式数1,280,000株にはnanosの680,000株が含まれています。
この比率は上場申請時点のものであり、上場時の公募・売出し後の比率とは異なる点に注意が必要です。事業等のリスクには、新規上場時の流通株式比率が30.4%となる見込みであると記載されています。流通株式からは、上場株式数の10%以上を所有する主要株主や役員等(役員の配偶者及び二親等内の血族を含む)、役員等が議決権の過半数を所有する会社などの所有株式が除かれます。創業経営陣と資産管理会社の保有比率が高い会社では、売出しなどで流通株式を確保する設計が必要です。計算方法は流通株式比率の計算式と調べ方で解説しています。
図9 割合は潜在株式274,360株を含む2,524,360株に対する比率で、上場時(公募・売出し後)の比率ではない。ファンドの正式名称はMEDIPAL Innovation投資事業有限責任組合、FFGストラテジー投資事業有限責任組合第1号。取締役3名の合計と「従業員その他」は筆者計算。Ⅰの部「株主の状況」より作成
2種類の新株予約権:時価発行新株予約権信託と役職員向けストック・オプション
レイヤードには2種類の新株予約権があります。提出日の前月末(2026年7月31日)現在の新株予約権による潜在株式数は274,360株で、事業等のリスクでは発行済株式総数2,250,000株の12.2%に相当すると記載されています。株主の状況の表では、潜在株式を含む総数に対する比率として10.87%と示されています。どちらの分母で計算した比率かを確認して読むことが大切です。
| 項目 | 第1回新株予約権 | 第2回新株予約権 |
|---|---|---|
| 決議・付与 | 2021年6月30日(臨時株主総会決議に基づく) | 2024年6月(付与日2024年6月30日) |
| 付与対象者 | 当社新株予約権の受託者1名(信託) | 取締役4名・使用人117名(提出日前月末:取締役4名・従業員103名) |
| 目的となる株式数(分割後) | 200,000株 | 74,360株(付与時79,920株) |
| 行使価額(分割後) | 107円(当初2,123円) | 1,000円 |
| 行使期間 | 2023年7月1日〜2031年6月30日 | 2026年7月1日〜2034年6月25日 |
| 主な行使条件 | 地位の継続、2023年6月期の売上高750,000,000円以上 等 | 地位の継続、相続人の行使不可 |
| 株式評価の方法(注記) | 時価純資産法により算出した価格を総合的に勘案 | DCF法により算出した価格を総合的に勘案 |
第1回新株予約権は、代表取締役社長の毛塚牧人氏を委託者、吉居大希氏を受託者とする「第1回新株予約権信託」に割り当てられたものです。信託期間の満了時に、役職員ごとの職責、人事評価及び業績貢献に応じて付与されたポイントの多寡に応じて、受益者適格要件を満たす役職員に新株予約権10,000個(1個あたり分割後20株)が分配される仕組みで、交付日は「発行会社の普通株式が日本国内の金融商品取引所に上場した日から6か月が経過した日」とされています。Ⅰの部は、将来時点の人事評価をもとに分配の多寡を決められること、将来採用された役職員にも採用時期によって過度な差が生じないように分配できることを、この仕組みの趣旨として説明しています。
第1回は有償で発行され(払込金額は新株予約権1個あたり98.37円、合計983千円)、行使時の株式の発行価格は2,221.37円(分割後111.92円。行使価額2,123円〔同107円〕と払込金額の合計)です。貸借対照表の純資産の部には新株予約権983千円が計上されています。ストック・オプション等関係注記では、ストック・オプションに係る費用計上額は「該当事項はありません」と記載され、公正な評価単価は未公開株式であることから単位当たりの本源的価値で見積もっていると説明されています。
図10 2021年6月30日の臨時株主総会決議に基づき設定。株数・行使価額は2026年4月30日の1:20分割後。Ⅰの部「新株予約権等の状況」より作成
時価発行新株予約権信託(いわゆる信託型ストック・オプション)については、権利行使時の課税関係について国税庁が考え方を示した経緯があり、導入済みの会社では課税関係や源泉徴収の要否を専門家と確認しておく必要があります。また、権利確定条件付き有償新株予約権は、企業会計基準委員会の実務対応報告第36号により、ストック・オプションに準じて会計処理することとされています。「有償だから会計上の費用は生じない」と単純に考えるのではなく、付与の形態・条件ごとにどの基準が適用されるかを会計監査人と確認することが大切です。税制適格の要件については税制適格ストックオプション、信託型の課税の論点は信託型ストックオプションはなぜ給与課税かで解説しています。
第2回新株予約権は、2024年6月25日の株主総会決議に基づき、取締役4名と使用人117名に付与されたストック・オプションです。第四部「第三者割当等の概況」には、発行価格(分割後)1,000円、発行数79,920株、発行価額及び行使価額は「DCF法、純資産方式及び類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案して」決定したと記載されています。退職による権利喪失(従業員14名)で、発行数は74,360株となっています。取得者の概況には、取締役の田澤悟郎氏・三角健二郎氏・二階義元氏・伊藤愛氏が各2,500株(分割後)を取得したことが記載されています。
第三者割当等の概況の注記では、有価証券上場規程施行規則第272条により、基準事業年度の末日から起算して1年前より後に役員・従業員等へ報酬として新株予約権を割り当てた場合には、継続所有等の確約が必要になると説明されています。レイヤードの基準事業年度の末日は2025年6月30日で、第2回新株予約権の付与日は2024年6月30日です。付与日が規則の定める期間(基準事業年度の末日から起算して1年前より後)に入らないため、Ⅰの部の「保有期間等に関する確約」欄は「-」となっています。上場前に株式や新株予約権を動かす場合のルールは上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で整理しています。
代表者から役職員への無償譲渡はどう説明されているか
第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2024年9月30日付で、毛塚牧人氏から役職員への株式の無償譲渡が記載されています。譲受人と株数(分割後)は、従業員の小倉佳浩氏5,000株、取締役の三角健二郎氏・二階義元氏・伊藤愛氏が各4,000株、当社従業員3,000株で、移動理由はいずれも「経営参画への意識向上のため」です。小倉氏はこの移動により大株主上位10名となり、特別利害関係者等に該当することになったと注記されています。
注記では、取締役については経営への参画意識の一層の強化、役員以外については株主としての立場を付与することで中長期的かつ全社的な視点での意思決定を促すことが目的であり、有償による取得では対象者の資金状況等によって取得の可否や時期に差が生じうることから、経営体制の一体性及び円滑な経営参画の観点から無償譲渡にしたと説明しています。
図11 株数は2026年4月30日の1:20分割後。移動理由はいずれも「経営参画への意識向上のため」。合計20,000株は筆者計算。Ⅰの部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」より作成
上場前の株式移動は、価格の妥当性と理由が審査で確認されます。無償や時価と異なる価格での移動は、贈与税・所得税などの課税関係が生じうるため、実行前に税務上の取扱いを確認しておく必要があります。また、Ⅰの部の記載対象期間(このケースでは基準事業年度の末日から2年前の日である2023年7月1日から上場日の前日まで)に入る移動は、日付・移動前後の所有者・株数・価格・理由がすべて開示されます。会社は上場日から5年間、記録を保存することとされています。理由を後から説明できるよう、取締役会資料や契約書を整えておくことが実務上のポイントです。
コーポレート・ガバナンス:監査等委員会設置会社への移行と任意の指名報酬委員会
レイヤードは、2024年7月30日の臨時株主総会で定款変更を決議し、同日付で監査等委員会設置会社へ移行しています。会社法上の機関として株主総会、取締役会、監査等委員会、会計監査人を置き、日常的な監査の役割として内部監査室を設置しています。役員の任期の注記によれば、監査等委員である取締役の任期は2024年7月30日の臨時株主総会終結時から始まっています。監査等委員のうち坪谷敏郎氏(2022年9月)と佐藤孝幸氏(2023年9月)はもともと当社の監査役で、移行時に監査等委員へ就任しています。定款には、監査等委員会設置会社への移行前の行為に関して、監査役であった者の責任を法令の限度で免除できる旨の規定も置かれています。
取締役会は9名で、監査等委員でない取締役6名(うち社外取締役1名)と監査等委員である取締役3名(全員社外取締役)で構成され、社外取締役は合計4名です。議長は代表取締役社長が務め、原則毎月1回開催しています。2025年6月期は14回開催され、全取締役が全回出席(田村茂氏は就任後の13回すべてに出席)と記載されています。主な検討事項として、月次業績・予算差異分析、年度事業計画・中期経営計画、内部統制システムの整備・運用状況の確認、関連当事者取引の承認、適時開示事項の承認などが挙げられ、社外取締役には資料を原則として事前に配布しています。
図12 2024年7月30日の臨時株主総会で定款を変更し、監査等委員会設置会社へ移行した。指名報酬委員会は2026年7月21日設置の任意の諮問機関。Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」より作成
| 氏名 | 役職 | 主な経歴の要点 |
|---|---|---|
| 毛塚 牧人 | 代表取締役社長 | PwC(現日本IBM)、アイチケット取締役を経て2008年3月から代表取締役社長 |
| 田澤 悟郎 | 専務取締役 メディア本部長 | NTT、PwC、アイチケット取締役を経て2008年3月から専務取締役 |
| 三角 健二郎 | 取締役 管理本部長 | 2003年入社、各本部長を経て2021年4月から取締役管理本部長 |
| 二階 義元 | 取締役CTO | 2017年入社、2022年9月から取締役CTO エンジニアリング本部長 |
| 伊藤 愛 | 取締役CMO | 2010年入社、2022年9月から取締役CMO マーケティング本部長 |
| 吉澤 尚 | 社外取締役 | 弁護士・弁理士。上場会社の社外役員経験、2023年9月就任 |
| 坪谷 敏郎 | 社外取締役(常勤監査等委員) | 公認会計士・税理士。監査法人勤務、複数社の監査役経験 |
| 佐藤 孝幸 | 社外取締役(監査等委員) | 弁護士。上場会社の社外監査役・監査等委員の経験 |
| 田村 茂 | 社外取締役(監査等委員) | 銀行、上場会社CFO、医療関連会社の代表取締役等を経験 |
社外取締役4名については、独立性に関する具体的基準は定めていないものの、取引所の独立役員の独立性に関する判断基準等を勘案して選任していると記載され、各氏とも過去及び現在において当社との取引関係、人的関係、資本関係がある団体に所属していない旨が説明されています。弁護士2名、公認会計士1名、経営者・CFO経験者1名という構成で、専門性の分担が明確です。役員は男性8名・女性1名(女性比率11.1%)です。
機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で比較していますが、監査等委員会設置会社では監査等委員である取締役の過半数が社外取締役であることが会社法上求められます。レイヤードの監査等委員会は3名全員が社外で、うち1名が常勤です。常勤の監査等委員を置くことは法律上の義務ではありませんが、日常的な情報収集や内部監査との連携を担う役割として、常勤者を置く上場準備会社は多くあります。
指名報酬委員会は上場申請の直前に設置された
役員の報酬等の項目には、2026年5月14日の取締役会で指名報酬委員会規程を制定し、2026年7月21日の取締役会で任意の諮問機関として指名報酬委員会を設置することを決議したと記載されています。委員は3名で、委員長は社外取締役の吉澤尚氏、ほかに社外取締役(監査等委員)の田村茂氏と取締役管理本部長の三角健二郎氏です。開催頻度は年4回程度を予定し、本書提出日現在で3回開催、今後取締役会へ答申を予定していると記載されています。
報酬の決め方は、株主総会で取締役(監査等委員を除く)の報酬限度額を年額150,000千円以内(使用人分給与を含まない)、監査等委員である取締役を年額20,000千円以内と決議し(いずれも2024年7月30日の臨時株主総会)、取締役の報酬は職責に応じて他社水準・業績・従業員給与の水準等を総合的に勘案して取締役会で協議・決定、監査等委員の報酬は監査等委員会で協議・決定する仕組みです。今後、取締役の報酬の内容と方針は指名報酬委員会の審議・答申を踏まえて決定するとしています。第27期の報酬総額は、取締役(監査等委員を除く)6名で90,000千円、社外取締役(監査等委員)3名で8,800千円で、いずれも固定報酬のみです。
図13 指名報酬委員会規程は2026年5月14日に制定、委員会は同年7月21日に設置。本書提出日現在で3回開催し、今後取締役会へ答申予定と記載されている。Ⅰの部「役員の報酬等」より作成
役員報酬の決定方針や決定手続の開示は、有価証券報告書の記載事項(企業内容等の開示に関する内閣府令)に基づくものです。上場後は、Ⅰの部の記載がそのまま有価証券報告書の記載の出発点になります。任意の委員会を設置した場合は、構成・委員長の属性・開催実績・答申の扱いを毎期説明することになるため、設置の時点で運用の頻度や議事録の残し方まで決めておくと、上場後の開示がスムーズです。
関連当事者との取引:役員による債務保証
関連当事者情報には、役員及び主要株主との取引として、福岡本社建物の賃貸借契約に対する債務被保証が記載されています。保証しているのは代表取締役の毛塚牧人氏と専務取締役の田澤悟郎氏で、取引金額(年間賃借料)はそれぞれ16,363千円と11,031千円、保証料の支払いは行っていません。前々期にあたる第26期には、これに加えて銀行借入に対する毛塚氏の債務被保証(期末借入残高33,867千円)も記載されていましたが、第27期と監査未了の第28期の表には銀行借入の保証の記載はなく、本社建物の賃貸借の保証のみが記載されています。
| 期 | 相手 | 取引の内容 | 取引金額(千円) |
|---|---|---|---|
| 第26期 | 毛塚 牧人(代表取締役) | 本社建物の賃貸借に対する債務被保証 | 16,363 |
| 第26期 | 毛塚 牧人(代表取締役) | 銀行借入に対する債務被保証 | 33,867 |
| 第26期 | 田澤 悟郎(専務取締役) | 本社建物の賃貸借に対する債務被保証 | 11,031 |
| 第27期 | 毛塚 牧人(代表取締役) | 本社建物の賃貸借に対する債務被保証 | 16,363 |
| 第27期 | 田澤 悟郎(専務取締役) | 本社建物の賃貸借に対する債務被保証 | 11,031 |
代表者による会社の債務保証は、多くの中小企業で見られる取引です。上場審査では「企業経営の健全性」の観点から、関連当事者取引の必要性と取引条件の妥当性、解消の見通しが確認されます。Ⅰの部では、取締役会の主な検討事項として「関連当事者取引の承認」が明記されています。取引を継続する場合は承認手続と開示を、解消する場合は金融機関や賃貸人との交渉の時期を、上場スケジュールの中に組み込んでおくことが実務上のポイントです。解消の進め方は社長個人と会社の取引はどう解消するか、審査での見られ方はIPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)で解説しています。
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内部監査・内部統制:兼任3名の内部監査室はどう自己監査を避けているか
内部監査は、代表取締役直轄の内部監査室が行っています。体制は室長1名・室員2名で、いずれも兼任です。コーポレート・ガバナンスの概要では、管理本部1名(室長)とサポート本部2名の体制で、「自己監査とならないよう、各担当は自己が所属している部門以外の部門の内部監査を担当」していると説明しています。
監査の流れは、年間の内部監査計画を策定し、各部署に監査を実施し、結果を代表取締役へ報告するとともに、指摘事項は改善指示書を被監査部門長に交付し、被監査部門長が改善報告書を作成・提出するというものです。短期間で対応できる事項は期中にフォローアップし、一定期間を要する事項は翌期以降の監査で継続的に是正状況を確認しています。監査の進捗と結果は、代表取締役社長のほか、取締役会と監査等委員会にも定期的に報告すると記載されています。
図14 内部監査室は室長1名・室員2名で、いずれも兼任。各担当は自己が所属している部門以外の部門を監査する。Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」「監査の状況」より作成
規模の小さい上場準備会社では、専任の内部監査人を置けず、他部門との兼任で内部監査を行うことがよくあります。その場合に審査で確認されるのが、自分が所属する部門を自分で監査する「自己監査」をどう避けているかです。レイヤードのように、所属部門の異なる担当者を複数置き、互いの部門を監査する体制は、兼任でも独立性を確保する代表的な方法です。兼任の考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、人数の目安は内部監査の人数と体制で解説しています。
三様監査の連携と、リスク・コンプライアンス委員会
監査等委員会は社外の監査等委員3名(常勤1名、非常勤2名)で構成され、原則毎月1回開催しています。2025年6月期は12回開催され、3名とも全回出席しています。監査等委員会と内部監査室は監査計画の立案段階から協議・意見交換を行い、常勤監査等委員が内部監査結果を定期的に査閲し、重要案件に同席しています。会計監査人とは、監査等委員会が四半期ごとに、内部監査室が会計及び内部統制に関する事項について概ね3か月ごとに意見交換の場を設けています。
図15 監査等委員会と会計監査人は四半期ごと、内部監査室と会計監査人は概ね3か月ごとに意見交換の場を設けている。Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」より作成
リスク管理の中心は、代表取締役を委員長とするリスク・コンプライアンス委員会です。常勤取締役4名、社外取締役4名、本部長2名で構成され、原則として四半期に1回開催しています。営業、レピュテーション、事務、情報漏洩、システム、人事労務などのリスクを管理し、代表取締役社長から指示があった対応事項・要改善事項は議事録に記録して次回以降に報告させ、フォローアップしています。事業に関する法令・ガイドラインを「法令・ガイドライン一覧」として一覧化し、半期に1回その改廃状況を確認・更新している点も具体的です。
このほか、2023年7月13日の取締役会で決議した「内部統制システムに関する基本方針」に基づき、リスク・コンプライアンス規程、内部通報制度規程、文書管理規程、内部監査規程、個人情報及び特定個人情報管理規程、業務分掌規程、職務権限規程、経理規程などを整備しています。財務報告の信頼性を確保する体制として、経理・財務担当者4名(うち日商簿記2級合格者3名)を中心に、管理本部向けの毎月の勉強会、外部研修への参加、監査法人との協議を通じた人材育成を行っていることも記載されています。情報セキュリティでは、全社でISO/IEC27001(ISMS)を取得していると事業等のリスクに記載されています。子会社はないため、子会社管理の体制は該当なしです。
監査役(監査等委員)と内部監査の連携の考え方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)、内部通報の見られ方は内部通報体制は上場審査でどこまで見られるかも参考にしてください。
会計・開示の論点:収益認識、見積り、監査法人と監査報酬
収益認識:ストックは期間、イニシャルは一時点
重要な会計方針の「収益及び費用の計上基準」では、3つの事業区分ごとに履行義務と収益を認識する時点が説明されています。医療DXストック事業は、クラウドで提供するサービスについて契約期間にわたりサービスを提供する義務を負っているため、サービス提供期間にわたり収益を認識します。医療DXイニシャル事業は、利用環境の構築、医療者向けの導入支援や運用レクチャーについて、設定したサービスを提供した一時点で収益を認識します。ただし、一部のコンサルティングサービスは契約期間にわたり認識します。広告事業は、契約期間にわたり広告を掲出することで履行義務が充足されるとして、期間にわたり認識しています。
対価の受領時期は、ストックが「サービス提供開始後概ね2ヶ月以内もしくはサービス提供終了後概ね1ヶ月以内」、イニシャルと広告が「履行義務を充足してから概ね5ヶ月以内」で、いずれも重要な金融要素は含まないとしています。収益の分解情報では、第27期の売上高1,461,181千円のうち、一時点で移転されるサービスが303,520千円(すべてイニシャル)、一定の期間にわたり移転されるサービスが1,157,661千円です。監査未了の第28期では、一時点が574,867千円、一定の期間が1,405,797千円となっています。
図16 イニシャル事業のうち一部のコンサルティングサービスは期間にわたり認識(第27期53,373千円)。対価の受領はストックが提供開始後概ね2か月以内または提供終了後概ね1か月以内、イニシャル・広告が履行義務の充足後概ね5か月以内。Ⅰの部「重要な会計方針」「収益認識関係」より作成
SaaS企業の上場準備では、初期費用を「一時点」で認識するのか、継続的なサービスと一体として「期間」で認識するのかが、会計監査人と議論になりやすい論点です。初期設定や導入支援が顧客にとって独立した便益をもたらすか(別個の履行義務か)を、契約書や作業内容に即して説明できる資料を残しておく必要があります。レイヤードのように一時点の売上が増える局面では、期末の売掛金も増えやすくなります。第27期末の売掛金は199,946千円(期首161,248千円)で、主な資産及び負債の内容では回収率88.6%、滞留期間41日と記載されています。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識で詳しく扱っています。
重要な会計上の見積り:ソフトウエアと繰延税金資産
重要な会計上の見積りとして、第26期は「ソフトウエア及びソフトウエア仮勘定の減損損失」と「繰延税金資産の回収可能性」の2項目、第27期以降は「繰延税金資産の回収可能性」の1項目が開示されています。第26期のソフトウエアは55,684千円、ソフトウエア仮勘定は361千円で、管理会計上の区分でグルーピングし、減損の兆候はないと判断したと記載されています。主要な仮定はいずれも、需要予測を勘案した将来売上高と営業利益率です。
税効果会計の注記を見ると、第27期末の繰延税金資産小計35,283千円から評価性引当額17,956千円を控除し、繰延税金負債956千円と相殺した純額16,370千円を計上しています。法人税等の負担率は24.2%で、賃上げ促進税制による税額控除(△3.5%)や評価性引当額の増減(△6.4%)が差異の要因です。監査未了の第28期では純額25,648千円、負担率28.9%となっています。
図17 税効果会計関係注記より。将来減算一時差異等に係る評価性引当額を控除した後の額を計上している。重要な会計上の見積りとして「繰延税金資産の回収可能性」を開示。Ⅰの部をもとに作成
このほか、会計・開示の面では次のような記載があります。関連会社クロスログ株式会社の株式は貸借対照表計上額0千円で、税効果の注記には関係会社株式評価損に係る一時差異が計上されています。資産除去債務は本社建物の原状回復義務で、使用見込期間を主に10年から18年と見積もっています。退職給付は確定拠出制度です。未適用の会計基準として、新リース会計基準(2028年6月期の期首から適用予定、影響は評価中)と、後発事象に関する会計基準が挙げられています。新リース会計基準では、事務所の賃借など借手のリースが原則として貸借対照表に計上されるため、賃借物件の多い会社は早めに影響を把握しておく必要があります。
会計監査人と監査報酬
会計監査人は有限責任監査法人トーマツで、継続監査期間は2年間、業務を執行した公認会計士は2名、補助者は公認会計士5名、公認会計士試験合格者4名、その他7名です。監査報酬(監査証明業務)は、最近事業年度の前事業年度が15,000千円、最近事業年度が20,000千円で、非監査業務の報酬はありません。監査等委員会は、日本監査役協会の実務指針などに基づき監査法人を評価し、報酬については監査計画・監査日数・見積りの算定根拠を確認したうえで会社法第399条第1項の同意をしたと説明しています。
上場申請には直前2期の財務諸表の監査が必要です。レイヤードは第26期・第27期の2期分について上場規程第204条第6項に基づく監査を受けています。監査法人の選定時期は監査法人はいつまでに決めるか、全体のスケジュールはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
事業等のリスクと、審査で問われやすい点
事業等のリスクは、「事業環境及び事業内容」「事業運営体制」「法務・コンプライアンス」「その他」の4つに分けて記載され、各項目の見出しに影響度・発生可能性・発生時期が付されています。影響度「大」・発生可能性「低」とされたものが多く、事業環境の変化・技術革新(生成AIの普及による既存サービスの陳腐化リスクを含む)、医療ヘルスケア市場(診療報酬改定などの影響)、特定業界への依存、個人情報の管理・情報セキュリティ、システム障害、知的財産権、訴訟、事業に関する法的規制が該当します。影響度・発生可能性ともに「中」とされているのは、人材の確保及び育成です。
図18 各リスクの見出しに付された(影響度、発生可能性)を整理。発生時期はいずれも「特定時期なし」。Ⅰの部「事業等のリスク」より作成
審査の観点から特に注目したいのは、次の3点です。1つ目は特定人物への依存で、代表取締役社長の毛塚牧人氏が経営方針・事業戦略の立案、主要顧客・パートナーとの関係構築などで中心的な役割を担っているとしたうえで、各事業本部内の意思決定を各本部長が担う体制を整えていると説明しています。2つ目は販売代理店との取引関係で、前述のとおり代理店経由が約7割、メディパルグループ経由が約4割です。3つ目は個人情報で、医療・健康分野の機微な情報を扱うことから、リスク・コンプライアンス委員会で情報セキュリティの確保を特に重視していると記載されています。
システム障害については、AWSを主要なインフラとし、主要サーバーを東京・大阪に分散設置していると記載されています。法的規制については、電気通信事業法、景品表示法等の規制を受けていると記載されています。許認可がある事業では、取得状況や更新の管理体制が確認されるため、IPOで許認可はどこまで見られるかもあわせて確認しておくとよいでしょう。リスクの記載は、上場後の有価証券報告書でも毎期見直すことになります。発生可能性や影響度を付す場合は、社内でその評価をどの会議体で決めたのかを説明できるようにしておくことが大切です。
上場準備会社がレイヤードのⅠの部から学べること
ここまでの内容を、上場準備会社の実務に引き直すと、次のような示唆が得られます。
- 赤字の期は理由を一文で説明できるようにする。レイヤードは第24期と第26期の経常損失について、広告宣伝費・採用費・人件費の増加という理由を注記で示しています。費用の増加要因を管理会計で把握しておくことが前提です。
- 機関設計の移行は、既存の監査役の役割を引き継ぐ形で設計する。監査役2名が監査等委員に移行し、常勤者を置き、移行前の責任免除の定款規定も整えています。
- 任意の委員会は「設置して終わり」にしない。指名報酬委員会は上場申請直前の設置ですが、開催実績と答申の予定まで記載されています。運用の頻度と記録の方法を決めておきましょう。
- 兼任の内部監査でも、相互監査で自己監査を避けられる。所属の異なる担当者が互いの部門を監査し、改善指示書と改善報告書で是正を追う仕組みは、小規模な会社でも導入しやすい方法です。
- 新株予約権は形態ごとに会計・税務・開示を確認する。信託型と通常のストック・オプションでは、仕組み、行使条件、課税関係の論点が異なります。付与前に専門家と確認しましょう。
- 上場前の株式移動は、価格と理由を記録に残す。無償譲渡の理由まで詳しく開示されている点は参考になります。課税関係の確認も必須です。
- 収益認識は事業区分ごとに説明できるようにする。期間認識と一時点認識が混在するSaaS企業では、初期費用の扱いが重要な論点です。
- 監査済み・レビュー済み・監査未了の数値を区別して管理する。決算期をまたぐスケジュールでは、開示資料ごとに数値のステータスを明示することが求められます。
自社でチェックしたい6つのポイント
- 赤字の期がある場合、その原因を費用項目と金額で説明できるか
- 機関設計の移行時期と、監査役・監査等委員の引継ぎ方法を決めているか
- 内部監査の担当者が自部門を監査しない体制になっているか
- 新株予約権の形態ごとに、会計処理・課税関係・確約の要否を確認したか
- 代表者による債務保証などの関連当事者取引について、継続か解消かの方針を決めているか
- 初期費用と月額利用料の収益認識の時点を、契約内容に基づいて説明できるか
よくある質問
監査等委員会設置会社では、監査等委員である取締役を3名以上とし、その過半数を社外取締役とすることが会社法上求められます。加えて、上場会社にはコーポレートガバナンス・コードが適用されるため、独立社外取締役の人数も検討が必要です。レイヤードでは社外取締役4名のうち3名が監査等委員です。人数の考え方は「社外取締役は何人必要か」の記事で解説しています。
兼任であること自体が直ちに問題になるわけではありません。重要なのは、監査の独立性と実効性を確保できているかです。レイヤードのように、所属部門の異なる担当者が互いの部門を監査する形で自己監査を避ける方法は、兼任体制でよく使われます。監査計画、監査調書、改善報告の記録を残しておくことが前提です。
会社法上、株主間の株式譲渡は可能ですが、上場前の一定期間の移動はⅠの部で開示され、価格や理由が審査で確認されます。また、無償や時価と異なる価格での譲渡には、贈与税や所得税などの課税関係が生じうるため、実行前に税理士等と確認しておく必要があります。
あります。レイヤードでは、提出日時点で決算日を過ぎていた第28期の財務諸表を「その他」に掲載し、上場規程に基づく監査が未了で監査報告書を受領していない旨を明記しています。数値のステータスを明示することが重要です。
最初の一歩は、自社の「数値のステータス」と「株式の動き」を一覧にすること
上場準備を始めたばかりの会社は、まず過去5期分の財務数値について、監査を受けたものか、会社計算規則に基づく数値かを一覧にし、あわせて設立以来の株式の移動・新株予約権の付与・資本金の増減を時系列で整理してみてください。レイヤードのⅠの部に記載された項目は、そのまま自社の整理表の見出しとして使えます。準備の全体像はIPO準備 完全ガイドにまとめています。
無料ダウンロード
レイヤードのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)
レイヤードの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。
まとめ
株式会社レイヤードは、医療機関向けデジタルサイネージの会社として1998年に設立され、WEB問診・予約・患者管理・電話自動応答などのマルチプロダクトで医療DX事業を展開し、2026年9月25日に東証スタンダード市場に上場しました。Ⅰの部からは、赤字の期の理由の開示、2024年7月の監査等委員会設置会社への移行、上場申請直前の任意の指名報酬委員会の設置、兼任3名の内部監査室による相互監査、代表者を委託者とする新株予約権信託と役職員向けストック・オプション、代表者から役職員への株式の無償譲渡、事業区分ごとに異なる収益認識の時点、監査未了の最新期決算の掲載といった論点を具体的に読み取ることができます。
規模の大きくない会社でも、機関設計・内部監査・株式・会計の論点を一つずつ整理していけば、上場審査に耐える体制をつくることができます。本記事のチェックリストを使って、自社の準備状況を確認してみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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