ARCHIONの持株会社化|株式交換による親子逆転と株式交付のテクニカル上場【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

ARCHION株式会社(証券コード543A)は、2026年3月2日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年4月1日に東証プライム市場に上場しました。日野自動車株式会社と三菱ふそうトラック・バス株式会社の経営統合のために設立された持株会社で、トヨタ自動車株式会社とダイムラートラック社(以下、ダイムラートラック)を含む4社の合意に基づいて誕生した会社です。公募や売出しによる通常の新規上場ではなく、上場会社だった日野自動車の株主が組織再編によって新会社の株主となり、新会社が上場する「テクニカル上場」にあたります。本記事では、東京証券取引所に提出された「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(全64ページ)を読み、持株会社化とテクニカル上場の実務を整理します。

結論からいえば、ARCHIONのⅠの部は「株式交換で親子関係を逆転させ、株式交付で非上場会社を取り込む」という2段階の組織再編と、上場時点ではまだ決まっていない事項を「今後決定する予定」と書き分ける開示の仕方を学ぶのに適した事例です。無議決権のA種種類株式で大株主の議決権比率を20%未満に調整する設計、旧会社の上場廃止日と新会社の上場日を連動させる日程管理、効力発生日付での監査等委員会設置会社への移行、2つの異なる内部監査体制を持株会社に集約する方針など、持株会社化を検討する上場会社や、グループ再編を伴って上場を目指す会社にとって参考になる論点が並んでいます。

この記事の論点を自社と比べられる「ARCHIONのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)」を、記事の後半で無料でお渡ししています。

ARCHIONはどんな会社で、どのように上場したのか

まず基本情報です。ARCHIONは2025年6月2日に、本経営統合の準備会社として日野自動車の完全子会社の形で設立されました。設立時の商号はAIB株式会社で、2025年12月1日に現在の商号に変更しています。本店は東京都品川区西品川の住友不動産大崎ガーデンタワーで、決算期は3月です。社名は、英語で弓型の構造物を意味する「ARCH」と、遠い過去から未来まで続く様子を意味する「EON(ION)」を組み合わせたものと説明されています。

Ⅰの部の提出日(2026年3月2日)時点では、ARCHIONは本経営統合を円滑に行うために持株会社として必要な業務を除き、実質的な事業活動を行っておらず、従業員もいないと記載されています。資本金・純資産・総資産の額も「本報告書提出日において未確定」とされ、第1期の決算期を迎えていないため財務諸表もありません。統合後の事業の内容は「本経営統合後の日野自動車及び三菱ふそうの事業に係る経営管理」です。

つまり、このⅠの部は「上場時点で事業会社2社を傘下に持つ予定の、まだ中身のない持株会社」が、統合後の姿を予定として説明する書類です。数値の多くは日野自動車の有価証券報告書や三菱ふそうの経営指標を引用する形で記載されています。Ⅰの部とⅡの部の役割の違いについてはⅠの部とⅡの部は何が違うかもご参照ください。

項目 内容(Ⅰの部の記載)
会社名 ARCHION株式会社(英訳名 ARCHION Corporation)、旧商号 AIB株式会社
証券コード・市場 543A、東京証券取引所プライム市場(テクニカル上場)
上場承認日・上場日 2026年3月2日(Ⅰの部提出日)・2026年4月1日
設立 2025年6月2日(日野自動車の完全子会社として設立)
本店 東京都品川区西品川一丁目1番1号 住友不動産大崎ガーデンタワー
決算期 3月31日
事業の内容 本経営統合後の日野自動車及び三菱ふそうの事業に係る経営管理
提出日時点の従業員 なし(統合後の子会社:日野自動車 連結33,608名、三菱ふそう 連結10,735名)
代表者 提出時:代表取締役 河野昌俊/2026年4月1日就任予定:カール・デッペン
財務諸表 第1期の決算期未到来のため記載なし(日野自動車と三菱ふそうの指標を「統合財務情報」として掲載)

上場の位置付けで押さえておきたいのは、ARCHIONの株式が公募・売出しを経ずに市場に出ている点です。Ⅰの部には、本株式交換により日野自動車の普通株式1株に対してARCHIONの普通株式1株が割り当てられ、日野自動車の普通株式は2026年3月30日に上場廃止、ARCHIONの普通株式は効力発生日と同じ2026年4月1日に上場する予定と記載されていました。新規上場の形をとりますが、実態としては既存の上場株主の持分が持株会社の株式に置き換わる手続です。

自社に当てはめるとどうなるか、個別にお答えします

IPO支援:ショートレビュー、資本政策、内部管理体制、Ⅰの部の作成、審査対応まで。初回のご相談は無料、オンラインにも対応しています。
IPO支援の内容を見る / 相談内容を送る

なぜ持株会社をつくって統合するのか

Ⅰの部の冒頭「組織再編成の目的等」には、本経営統合の目的が詳しく書かれています。4社の企業理念に共通するのは「移動を通じて、豊かな社会に貢献したい」という想いであり、カーボンニュートラルや物流の効率化といった課題の解決には多大な投資がかかる一方、商用車は乗用車に比べて台数が少なく、日本市場で各社が単独で対応するのは難しいと説明されています。そのうえで、日野自動車と三菱ふそうが対等な立場で統合し、商用車の開発・調達・生産の分野で協力するという方針が示されています。

主要戦略として挙げられているのは、大型・中型・小型トラックのプラットフォームを統合して両ブランドの車両を相互に活用する「統合プラットフォーム戦略」、開発・調達・生産・物流・間接機能の統合による「スケールメリットを活かした競争力・効率性の向上」、そして電動化・水素・自動運転・コネクテッドといった「CASE技術を通じた持続可能な社会への貢献」の3つです。生産面では、2028年末までに国内5か所のトラック生産拠点を川崎製作所・古河工場・新田工場の3か所に集約する方針が記載されています。

本経営統合後のグループの全体像(予定)トヨタ自動車持分25%を目指す(議決権19.9%)一般株主(旧日野の株主等)ダイムラートラック持分25%を目指す(議決権26.7%)ARCHION株式会社(持株会社)日野・ふそうの事業に係る経営管理日野自動車(100%子会社)トラック・バス、トヨタ受託生産子会社74社・関連会社20社三菱ふそうトラック・バス(100%子会社)子会社6社・関連会社10社国内のトラック生産拠点は2028年末までに5か所から3か所へ集約する方針

図1 ダイムラートラックとトヨタが持株会社の株式をそれぞれ25%保有することを目指し、持株会社が日野自動車と三菱ふそうの株式を100%保有する構造(Ⅰの部「組織再編成の目的等」をもとに作成)

持株会社の形をとる理由は、対等な統合という建て付けにあります。一方の会社がもう一方を吸収する合併では、存続会社と消滅会社がはっきり分かれます。持株会社の下に2社を並べれば、両社のブランドと法人格を残したまま、開発・調達・生産の統合や資本配分を持株会社のレベルで決めることができます。Ⅰの部でも、日野自動車と三菱ふそうは「両ブランドは市場で切磋琢磨し合う」と書かれており、統合と競争を両立させる構造として持株会社が選ばれていることが読み取れます。

経営陣についても、統合の性格が表れています。代表取締役CEOには三菱ふそうの代表取締役社長・CEOであるカール・デッペン氏、代表取締役CFOには三菱ふそうの代表取締役副社長兼CFOであるヘタル・ラリギ氏、取締役CTOには日野自動車の代表取締役社長である小木曽聡氏が就任する予定と記載されていました。グループ全体の技術ロードマップの策定と技術的シナジーの実現のためにCTOのポジションを設け、透明性・業績・資本配分に関する財務体制の構築のためにCFOを置くという説明です。

日野自動車と三菱ふそうは何で稼いでいるのか

持株会社自体は事業を持たないため、事業の内容は傘下に入る2社の説明になります。日野自動車グループは、日野自動車、親会社、子会社74社、関連会社20社で構成され、トラック・バスの製造販売とトヨタからの受託生産を主な事業としています。三菱ふそうグループは、三菱ふそう、親会社、子会社6社、関連会社10社で構成され、トラック・バスの製造販売と修理を主な事業としています。

日野自動車には、親会社であるトヨタから乗用車と一部の小型トラックの生産を受託し、小型トラックをOEM供給する取引があり、2025年3月期の連結売上高の9.0%をトヨタに依存していると記載されています。この受託生産を担う羽村工場は、日野自動車の100%子会社として設立済みのトヨタ自動車羽村株式会社に承継され、その株式の全部がトヨタに譲渡される予定です。三菱ふそうには、親会社であるダイムラートラックとの間で、製品の供給や調達、共同研究開発、資金調達、従業員の出向、知的財産の使用などの関係があり、統合後も一定期間はサービス提供の契約が締結又は継続される見込みと書かれています。

従業員数は、日野自動車が2025年3月31日現在の連結で33,608名(ほかに期間従業員・派遣社員等8,361名)、三菱ふそうが2025年12月31日現在の連結で10,735名(同1,744名)です。日野自動車のセグメントは日本・アジア・その他の地域別、三菱ふそうは単一セグメントとされています。

項目 日野自動車 三菱ふそう
決算期 3月(最近事業年度:2025年3月期) 12月(最近事業年度:2025年12月期)
グループの構成 子会社74社・関連会社20社 子会社6社・関連会社10社
主な事業 トラック・バスの製造販売、トヨタからの受託生産 トラック・バスの製造販売及び修理
従業員数(連結) 33,608名(臨時8,361名) 10,735名(臨時1,744名)
統合前の親会社 トヨタ自動車 ダイムラートラック
開示の状況 上場会社(有価証券報告書を提出) 非上場(有価証券報告書は作成していない)

統合と同時に、事業ポートフォリオの整理も進められています。日野自動車は、北海道日野自動車など国内販売会社5社の株式の80.0%を台湾の和泰汽車股份有限公司に、静岡日野自動車の株式の88.5%を愛知日野自動車株式会社に、それぞれ2026年4月1日に譲渡する予定と記載されていました。さらに、持分法適用会社である澤藤電機の株式についても、公開買付けとその後の手続を通じて日野自動車の保有株式全部を譲渡する予定です。持株会社化は、グループの範囲そのものを見直す機会にもなっていることがわかります。

組織再編の手順はどう組み立てられているのか

ARCHIONの組織再編で最も特徴的なのは、よく見られる「株式移転による共同持株会社の設立」ではなく、次の手順を組み合わせている点です。Ⅰの部には(ⅰ)から(ⅷ)までの実施方法が順に記載されています。

本経営統合の手順(ⅰ)〜(ⅷ)(ⅰ)2025/6/2日野が当社を子会社として設立(ⅱ)日野がトヨタへ第三者割当(普通+A種)(ⅲ)ダイムラートラックからトヨタへふそう株式一部譲渡(ⅳ)株式交換日野が当社の完全子会社に(ⅴ)株式交付ふそうが当社の完全子会社に(ⅵ)日野保有の当社株式を取得・消却(ⅶ)当社普通株式を東証プライムに上場(ⅷ)トヨタ・DTが持分を25%ずつへ(売出し等)

図2 Ⅰの部に記載された実施方法の要約。(ⅳ)の株式交換と(ⅴ)の株式交付は2026年4月1日に効力発生の予定とされていた(Ⅰの部「上場申請会社の企業集団の概要」をもとに作成)

まず(ⅰ)で、日野自動車が自らの完全子会社としてARCHION(当時のAIB株式会社)を設立します。(ⅱ)で、日野自動車がトヨタに対して普通株式とA種種類株式を第三者割当の方法で発行します。この第三者割当増資の手取金は、トヨタからの借入金の弁済に充て、日野自動車の資本の強化と自己資本比率の改善を図るとともに、無議決権の種類株式を使って統合後のトヨタの議決権比率を19.9%に調整することを目的としていると書かれています。(ⅲ)で、トヨタとダイムラートラックの持分比率を同じ割合にするため、ダイムラートラックからトヨタに三菱ふそう株式の一部を譲渡します。

そのうえで、(ⅳ)ARCHIONを完全親会社、日野自動車を完全子会社とする株式交換と、(ⅴ)ARCHIONを株式交付親会社、三菱ふそうを株式交付子会社とする株式交付を行います。(ⅵ)で、ARCHIONは日野自動車が保有するARCHION株式を自己株式取得又は現物配当等の方法で取得して消却し、(ⅶ)でARCHIONの普通株式を東証プライム市場に上場させます。最後に(ⅷ)で、トヨタとダイムラートラックが、流通株式比率を高めるため、統合後一定期間内に売出し等の方法で持分比率を発行済株式総数の25%ずつに下げる、という流れです。

株式交換で「完全親子関係を逆転」させる

(ⅳ)の株式交換は、もともと日野自動車の子会社だった会社を親会社にするという、親子関係の逆転を目的とするものです。Ⅰの部では、本株式交換は「専ら完全親子関係を逆転させることを目的として行うものであるため、株式交換比率を1対1とすることとしております」と説明され、そのため独立した第三者算定機関による算定書を取得していないと明記されています。

株式交換による「完全親子関係の逆転」効力発生前効力発生後(2026年4月1日)日野自動車の株主日野自動車(上場)当社(AIB株式会社)日野の100%子会社旧日野自動車の株主ARCHION(上場)日野自動車当社の100%子会社普通株式1株→普通株式1株、A種種類株式1株→A種種類株式1株株式交換 1:1

図3 日野自動車の完全子会社として設立した当社を株式交換完全親会社とし、専ら完全親子関係を逆転させることを目的とするため、交換比率を1対1とし、第三者算定機関の算定書は取得していない(Ⅰの部「割当ての内容及びその算定根拠」をもとに作成)

株式交換契約は2025年10月20日に締結され、ARCHION側は代表取締役の決定、日野自動車側は取締役会で承認されました。ARCHIONは2025年11月4日の臨時株主総会で、日野自動車は2025年11月28日の臨時株主総会で、それぞれ契約を承認しています。契約書には、効力発生日を2026年4月1日午前9時とすること、効力の発生はトヨタとの株式引受契約に基づく日野自動車の新株発行の効力発生を停止条件とすること、増加する資本金及び準備金の額は会社計算規則第39条に従い別途定めることなどが定められています。交付する株式数は、普通株式845,069,664株、A種種類株式175,512,774株の予定でした。

上場準備の観点で参考になるのは、株式交換契約の中に「効力発生日において、その発行する普通株式を東京証券取引所プライム市場に上場することを予定する」という条項(第10条)が置かれている点です。テクニカル上場では、組織再編の効力と上場のタイミングを一体で設計する必要があり、その前提が契約書のレベルで共有されています。

株式交付で非上場の三菱ふそうを子会社にする

(ⅴ)の株式交付は、2021年3月施行の改正会社法で新設された制度で、自社の株式を対価として他の株式会社を子会社にする手続です。株式交換と違い、相手会社の株式を100%取得することが前提ではなく、株主から個別に譲渡の申込みを受けて取得します。ARCHIONの場合、三菱ふそうの普通株式1株に対してARCHIONの普通株式310株を交付し、三菱ふそうの全株主から全株式を譲り受けて完全子会社にする計画でした。

株式交付による三菱ふそうの完全子会社化三菱ふそうの株主(ダイムラートラック等)ARCHION三菱ふそう当社の100%子会社に交付する普通株式 1,736,000,310株(予定)株式交換後の発行済株式総数の170.10%株式交付計画は2025年11月4日に作成し、同日の当社臨時株主総会で承認ふそう株式を譲渡当社株式を交付(1株→310株)

図4 当社を株式交付親会社、三菱ふそうを株式交付子会社とし、三菱ふそうの全株主から全普通株式を譲り受けて当社株式を交付する(Ⅰの部「株式等の状況」をもとに作成。株式数は予定)

交付する普通株式は1,736,000,310株の予定で、株式交換後のARCHIONの発行済株式総数1,020,582,438株に対する割合は170.10%と記載されています。株式交付計画は2025年11月4日に作成され、同日のARCHIONの臨時株主総会で承認されました。Ⅰの部では、三菱ふそうの株主から譲渡の申込みがなされる株式数に応じて、実際に発行する株式数が変動することがあるとも注記されています。

旧会社の上場廃止と新会社の上場をどうつなぐか

テクニカル上場の実務で最も気を使うのが日程です。ARCHIONのⅠの部には、組織再編の手続と上場の日程が一覧で示されています。

組織再編と上場の日程2025/6/10経営統合契約(4社で締結)2025/10/20株式交換契約を締結2025/11/4当社臨時総会交換・交付を承認2025/11/28日野臨時総会株式交換を承認2026/3/2上場承認(Ⅰの部提出日)2026/3/30日野普通株式上場廃止2026/4/1 9:00株式交換・株式交付の効力発生2026/4/1ARCHION東証プライム上場

図5 Ⅰの部「組織再編成に関する手続」「沿革」をもとに作成。上場承認日はⅠの部の提出日と同じ2026年3月2日。日程は競争法のクリアランスや前提条件の充足状況等により変更の可能性があると記載されていた

日付 手続(Ⅰの部の記載)
2025年6月10日 日野自動車・三菱ふそう・トヨタ・ダイムラートラックの4社で経営統合契約を締結
2025年10月20日 株式交換契約の承認(ARCHION代表取締役の決定・日野自動車取締役会)と締結
2025年11月4日 株式交付計画の作成、ARCHION臨時株主総会で株式交換契約と株式交付計画を承認
2025年11月28日 日野自動車の臨時株主総会で株式交換契約を承認
2026年3月2日 Ⅰの部の提出(上場承認日)
2026年3月30日 日野自動車の普通株式の上場廃止日
2026年4月1日 株式交換・株式交付の効力発生日、ARCHION普通株式の上場日

旧会社の上場廃止日と新会社の上場日の間には、売買できない期間がわずかに生じます。テクニカル上場では、この空白を最小限にするよう、効力発生日に合わせて新会社を上場させるのが一般的です。日程には注記があり、競争法その他の法令上必要なクリアランス・許認可等の取得、日野自動車のエンジンの認証に関する当局調査と訴訟の状況、第三者割当増資の実施や一定の制裁対象国からの事業撤退を含む前提条件の充足状況などにより、変更される可能性があると書かれていました。上場スケジュールに影響する要因を具体的に列挙しておく姿勢は、通常のIPOでも参考になります。スケジュールの遅れやすい箇所については上場スケジュールはどこで遅れるかで整理しています。

また、株主の権利に関する手続として、反対株主の株式買取請求権(会社法第785条)の行使方法、議決権の行使期限、会社法に基づく事前備置書類の内容も詳しく書かれています。ARCHIONは2025年11月4日から、日野自動車は2025年11月14日から、それぞれ株式交換契約や交換比率の相当性に関する書面を本店に備え置いていました。持株会社化では、上場審査の手続と会社法の組織再編の手続が並行して進むため、両方のスケジュールを1つの工程表で管理することが欠かせません。

「猶予期間入り銘柄」となるリスクも開示されている

もう1つ見落とせないのが、事業等のリスクに記載された上場廃止基準との関係です。本経営統合は上場会社である日野自動車と非上場会社である三菱ふそうとの間で行われるため、ARCHIONの普通株式がプライム市場の上場廃止基準に基づく「合併等による実質的存続性に係る猶予期間入り銘柄」となるリスクがあると記載されています。そのうえで、仮に指定を受けた場合も、猶予期間内に新規上場審査の基準に準じた所定の基準に適合していると判断されるよう最善を尽くすとしています。

一般論として、上場会社が非上場会社と合併や株式交換などを行い、上場会社が実質的な存続会社でないと判断される場合(いわゆる「裏口上場」を防ぐ趣旨)、一定の猶予期間の中で新規上場に準じた審査を受けることになります。非上場の大規模事業を取り込む再編では、テクニカル上場であっても実質的な上場審査に近い論点が残ることを、このリスク記載は示しています。

財務情報がない持株会社は、業績をどう示しているのか

ARCHIONは第1期の決算期を迎えていないため、Ⅰの部の「経理の状況」「最近の財務諸表」はいずれも該当なしで、監査報告書も受領していないと記載されています。その代わりに、第一部の「統合財務情報」として、日野自動車の有価証券報告書(2025年6月24日提出)に記載された連結経営指標等と、三菱ふそうの単体の経営指標等が掲載され、これらが「当社の連結経営指標等に反映されるものと考えられます」と説明されています。経営方針、MD&A、研究開発、設備の状況なども、日野自動車については有価証券報告書と半期報告書を参照する形で、三菱ふそうについては「有価証券報告書を作成しておりませんので、参照すべきものはありません」とされています。

日野自動車の連結業績

日野自動車(連結、百万円) 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 1,498,442 1,459,706 1,507,336 1,516,255 1,697,229
経常損益 12,261 37,986 15,787 △9,233 39,310
親会社株主に帰属する当期純損益 △7,489 △84,732 △117,664 17,087 △217,753
純資産 604,872 516,007 433,409 463,420 251,020
総資産 1,231,495 1,258,350 1,361,735 1,464,375 1,478,180
自己資本比率(%) 45.0 36.4 27.0 26.8 12.1
営業活動によるキャッシュ・フロー 108,429 106,711 △40,799 △110,410 1,128
従業員数(名) 34,527 34,405 34,231 34,072 33,608
日野自動車の連結売上高と経常損益の推移04,5009,00013,50018,0002021年3月期2022年3月期2023年3月期2024年3月期2025年3月期14,98414,59715,07315,16316,972経常損益12,26137,98615,787△9,23339,310売上高(億円)

図6 Ⅰの部「統合財務情報」の日野自動車の主要な連結経営指標等より。売上高は億円未満を四捨五入。経常損益は百万円

日野自動車の売上高は1兆4,000億円台から1兆6,000億円台で推移し、2025年3月期は1,697,229百万円でした。経常損益は2024年3月期の△9,233百万円を除いて黒字です。一方、親会社株主に帰属する当期純損益は5期のうち4期が損失で、2025年3月期は△217,753百万円となっています。事業等のリスクには、2025年3月期に、米国当局との認証問題に関する和解に伴う費用とカナダ訴訟の和解金を北米認証関連損失として、豪州訴訟の和解金を豪州訴訟和解金として、特別損失に計上したと記載されています。

日野自動車の親会社株主に帰属する当期純損益(百万円)△7,489△84,732△117,66417,087△217,7532021年3月期2022年3月期2023年3月期2024年3月期2025年3月期

図7 5期のうち4期が当期純損失。2025年3月期はエンジン認証問題に関する北米認証関連損失・豪州訴訟和解金を特別損失に計上(Ⅰの部「統合財務情報」「事業等のリスク」より)

この結果、純資産は2021年3月期の604,872百万円から2025年3月期には251,020百万円となり、自己資本比率は45.0%から12.1%に低下しました。前述の第三者割当増資は、手取金をトヨタからの借入金の弁済に充て、日野自動車の資本の強化と自己資本比率の改善等の財務状況の改善によって本経営統合を円滑に進めることを目的の1つとしていると記載されています。

日野自動車の自己資本比率と純資産の推移012.52537.5502021年3月期2022年3月期2023年3月期2024年3月期2025年3月期45.0%36.4%27.0%26.8%12.1%純資産6,049億円5,160億円4,334億円4,634億円2,510億円自己資本比率(%)

図8 自己資本比率は45.0%から12.1%へ低下。純資産は億円未満を四捨五入(Ⅰの部「統合財務情報」より)

三菱ふそうの単体業績

三菱ふそう(単体、百万円) 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 657,357 699,316 832,928 794,652 790,982
経常利益 34,388 21,028 39,994 36,632 31,242
当期純利益 24,036 16,012 29,931 28,538 28,778
純資産 252,162 243,886 258,978 257,241 257,450
総資産 479,314 504,895 579,094 558,922 557,504
自己資本比率(%) 52.6 48.3 44.7 46.0 46.2
従業員数(名) 10,058 10,331 10,649 10,633 10,464
三菱ふそう(単体)の売上高と利益の推移02,5005,0007,50010,0002021年12月期2022年12月期2023年12月期2024年12月期2025年12月期6,5746,9938,3297,9477,910経常利益34,38821,02839,99436,63231,242当期純利益24,03616,01229,93128,53828,778売上高(億円)

図9 12月決算。三菱ふそう単体の数値で、統合対象の全てを表すものではない。会社法上の監査は受けているが金融商品取引法に基づく監査は受けていない。売上高は億円未満四捨五入、利益は百万円(Ⅰの部「統合財務情報」より)

三菱ふそうは12月決算で、5期とも経常利益・当期純利益を計上し、自己資本比率は2021年12月期の52.6%から、その後は40%台で推移しています。ただし、Ⅰの部には重要な注記が付されています。記載されているのは三菱ふそう単体の指標であり、統合対象の全てを表すものではないこと、会社法上の計算書類としての監査は受けているものの金融商品取引法に基づく財務諸表としての監査は受けていないこと、非上場会社のためキャッシュ・フロー計算書を作成しておらず、1株当たりの指標は同社の要請により非開示とすること、の3点です。

決算期が異なる2社(3月決算と12月決算)、開示の水準が異なる2社(上場会社と非上場会社)、監査の水準が異なる2社(金商法監査と会社法監査)を1つの持株会社の下にまとめることになるため、統合後の連結決算の体制づくりは大きな課題になります。グループ再編を伴う上場準備では、子会社の決算期の統一や監査の範囲を早めに検討しておくことが重要です。収益性の説明についてはIPO審査の「企業の継続性及び収益性」もご参照ください。

資本政策と株主構成はどうなっているのか

ARCHIONの「株式等の状況」は、2026年4月1日時点の予定として記載されています。発行可能株式総数は普通株式3,600,000,000株、A種種類株式300,000,000株の計3,900,000,000株、発行済株式は普通株式2,581,069,975株(東証プライム市場)とA種種類株式175,512,774株(非上場)の計2,756,582,749株の予定です。普通株式の数は、提出日現在の1株に、株式交換で割り当てる845,069,664株と株式交付で割り当てる1,736,000,310株を加えたものです。

通常のIPOと違い、ストック・オプション制度、ライツプラン、その他の新株予約権はいずれも「該当事項はありません」とされ、自己株式の取得等の状況も該当なしです。特別利害関係者等の株式移動や公募・売出しの記載もありません。資本政策の論点は、組織再編の比率と、種類株式による議決権の調整に集約されています。

大株主2社が4割ずつを持つ構成

氏名又は名称 所有株式数(千株) 所有株式の割合 議決権の割合
Daimler Truck AG 1,142,162 41.43% 44.26%
トヨタ自動車株式会社 1,142,162 41.43% 37.46%
日本マスタートラスト信託銀行株式会社 57,073 2.07% 2.21%
株式会社三菱UFJ銀行 41,333 1.50% 1.60%
三菱重工業株式会社 41,333 1.50% 1.60%
三菱商事株式会社 41,333 1.50% 1.60%
株式会社日本カストディ銀行 19,049 0.69% 0.74%
東京海上日動火災保険株式会社 15,400 0.56% 0.60%
三菱UFJ信託銀行株式会社 12,400 0.45% 0.48%
明治安田生命保険相互会社 12,400 0.45% 0.48%
計 2,524,649 91.59% 91.03%
大株主の所有株式割合と議決権割合(2026年4月1日予定)Daimler Truck AG41.43%44.26%トヨタ自動車41.43%37.46%日本マスタートラスト2.07%2.21%三菱UFJ銀行・三菱重工業・三菱商事(各社)1.50%1.60%所有株式数の割合議決権の割合

図10 Ⅰの部「大株主の状況」より。日野自動車の2025年9月30日現在と三菱ふそうの2025年12月31日現在の株主情報をもとに、第三者割当・交換比率・交付比率を勘案して算出された予定値。所有株式数はA種種類株式を含む

大株主の状況は、日野自動車の2025年9月30日現在と三菱ふそうの2025年12月31日現在の株主情報をもとに、第三者割当、交換比率1対1、交付比率1対310を勘案して算出した予定値です。Daimler Truck AGとトヨタがそれぞれ41.43%を所有する一方、議決権ではDaimler Truck AGが44.26%、トヨタが37.46%と差があります。トヨタの所有株式数にA種種類株式が含まれ、A種種類株式には議決権がないためです。所有者別状況では、普通株式の株主数は51,497人の予定で、外国法人等が47.1%、その他の法人が42.4%を占めます。

なお、これらはⅠの部の記載時点(上場直前)の予定値です。(ⅷ)のとおり、トヨタとダイムラートラックは統合後一定期間内に持分比率を25%ずつに下げる方針であり、上場後の株主構成はこの比率から変わることが前提とされています。

無議決権のA種種類株式で議決権比率を調整する

ARCHIONの資本政策で最も特徴的なのがA種種類株式です。Ⅰの部では、本経営統合によりトヨタが日野自動車の親会社ではなくなる一方で、トヨタが日本で小型トラック事業を営んでいることを踏まえ、ARCHIONの独立した事業運営を尊重する観点や競争法の観点から、トヨタの議決権比率を20%未満とすることが適切と判断したと説明されています。

A種種類株式でトヨタの議決権比率を20%未満に調整する仕組みトヨタ自動車普通株式(上場・議決権あり)A種種類株式(非上場・議決権なし)取得請求権:いつでも普通株式へ転換可能取得比率は1(分割・時価未満の発行等で調整)トヨタが日本で小型トラック事業を営むことを踏まえ、独立した事業運営の尊重と競争法の観点から議決権比率を20%未満に。短期間の取得請求権の行使は見込まれない

図11 本第三者割当増資で日野自動車がトヨタに発行するA種種類株式は、株式交換により1対1で当社のA種種類株式に置き換わる。A種は非上場で議決権がない(Ⅰの部「株式の総数等」「種類株式に関する事項」をもとに作成)

A種種類株式の内容は次のとおりです。剰余金の配当と残余財産の分配は普通株式と同順位で、普通株式1株当たりの額に取得比率を乗じた金額とされます。株主総会での議決権はなく、譲渡には取締役会の承認が必要です。A種種類株主には普通株式を対価とする取得請求権がいつでも認められ、取得比率は1(株式分割・併合や時価を下回る普通株式の発行等の場合に調整)とされています。また、会社法第322条第1項の行為について、法令で要求される場合を除き種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定める予定です。

取得請求権は「いつでも」行使できる設計ですが、トヨタの議決権比率を20%未満とすることが予定されているため、効力発生後の短期間に行使されることは見込まれていないと明記されています。経済的な持分は普通株式と同じにしつつ、議決権だけを切り離す設計です。上場準備会社で種類株式を使う場合は、上場時に普通株式へ転換するのが一般的ですが、ARCHIONのように上場後も非上場の種類株式を残す例もあります。その場合は、種類株式の内容と、転換された場合の議決権への影響を、投資者にわかるように開示することが求められます。種類株式の整理については種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかで詳しく解説しています。

流通株式比率をどう高めていくのか

大株主2社の持分比率と議決権比率の予定(統合直後と将来の目標)統合直後:所有株式数の割合ダイムラートラック41.43%トヨタ41.43%その他統合直後:議決権の割合ダイムラートラック44.26%トヨタ37.46%その他将来の目標:持分比率ダイムラートラック25%トヨタ25%その他の株主将来の目標:議決権比率ダイムラートラック26.7%トヨタ19.9%その他の株主

図12 統合直後の比率はⅠの部「大株主の状況」の予定値。将来の目標は、流通株式比率を高めるため、統合後一定期間内に売出し等の方法で持分比率を25%ずつに減少させるとの記載による

大株主2社の持株比率を足すと、統合直後の予定値で82.86%になります。(ⅷ)には、トヨタとダイムラートラックが「当社の普通株式の流通株式比率を高めるため」、統合後一定期間内に、両社が別途合意する時期と方法(例えば当社の株式の売出し)で、持分比率を発行済株式総数の25%ずつ(議決権比率はトヨタ19.9%、ダイムラートラック26.7%)に下げると記載されています。

一般に、流通株式から除かれるのは、上場株式数の10%以上を所有する者(主要株主)、役員等、役員等が議決権の過半数を所有する会社、自己株式などです。プライム市場では流通株式比率35%以上などの基準があります。大株主の持分が大きいまま上場する場合は、上場後に持分を下げる計画を具体的に示し、実行していくことが重要になります。計算方法は流通株式比率の計算式と調べ方で解説しています。

もう1つの数字として、日野自動車がトヨタに発行する普通株式270,915,798株の希薄化率は47.15%(議決権ベースで47.22%)と記載されています(分母は日野自動車の2025年9月30日現在の発行済株式総数574,580,850株、総議決権5,737,678個)。大規模な希薄化を伴うことを、事業等のリスクの中で数値とともに示しています。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / IPO支援を見る

持株会社のガバナンスはどう設計されているのか

コーポレート・ガバナンスの状況等は、Ⅰの部の提出日現在で予定している内容として記載されています。プライム市場の会社には、コーポレートガバナンス・コードの全原則(プライム市場向けの原則を含む)が適用されます。ARCHIONは「コーポレートガバナンス・コード」に賛同し、その理念や原則の趣旨・精神等を踏まえた施策を講じることを基本方針とすると書いています。

効力発生日付で監査等委員会設置会社へ

ARCHIONは、本経営統合の効力発生日付で監査等委員会設置会社に移行し、取締役会、監査等委員会、会計監査人を設置する予定でした。採用理由として、監査等委員会の監査・監督体制を整備し、取締役会における社外取締役の構成比と多様性を高めること、監査等委員が経営の意思決定に加わることで取締役会の透明性と客観性を高めることが挙げられています。傘下の日野自動車と三菱ふそうはいずれも監査役会設置会社ですが、持株会社は別の機関設計を選んでいる点が特徴です。

ARCHIONの機関設計(2026年4月1日に移行予定の体制)株主総会会計監査人(設置予定)取締役会(9名)うち独立社外取締役4名監査等委員会(5名)うち独立社外取締役3名指名諮問委員会(任意)報酬諮問委員会(任意)経営会議(議長:CEO)CxO+日野CEO・ふそうCEOリスク&コンプライアンス委員会プロダクト委員会(ゲートプロセス)日野自動車・三菱ふそう(100%子会社)と各グループ会社

図13 本経営統合の効力発生日付で監査等委員会設置会社に移行し、任意の指名諮問委員会・報酬諮問委員会と、業務執行側の経営会議を置く予定と記載されていた。各委員会の委員長・構成員は今後決定(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの概要」をもとに作成)

業務執行側では、代表取締役CEOを議長とし、CFO、CTO、CAdO(Chief Administrative Officer)、CHRO、CCLO(Chief Compliance & Legal Officer)、CDO(Chief Digital Officer)に、日野自動車のCEOと三菱ふそうのCEOを加えた経営会議を設置し、意思決定の迅速化を図る予定です。経営会議を支援する機関として、グループのリスク・コンプライアンス事案を監督するリスク&コンプライアンス委員会と、重要な製品プロジェクトのゲートプロセスを監督・承認するプロダクト委員会を置き、取締役会の諮問機関として任意の指名諮問委員会と報酬諮問委員会を設置する予定と書かれています。いずれも委員長と構成員は「本経営統合に向けて今後決定する予定」でした。

持株会社のガバナンスでは、持株会社の取締役会がグループ全体の戦略と資本配分を決め、子会社の取締役会が個社の業務執行を担うという役割分担を明確にすることが出発点になります。子会社のCEOを持株会社の経営会議に入れる設計は、グループ一体の意思決定を図る方法の1つです。機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で比較しています。

9名の取締役と株主4社の関与

取締役会は合計9名で構成される予定です。その内訳は、ダイムラートラックが指名する取締役(監査等委員を兼任)1名、日野自動車が指名する業務執行取締役1名、三菱ふそうが指名する業務執行取締役1名、4社が合意の上で決定する業務執行取締役1名、独立社外取締役4名(うち3名は監査等委員を兼任)、取締役(監査等委員を兼任)1名と記載されています。定款では、監査等委員でない取締役を5名以内、監査等委員である取締役を6名以内とする予定です。

取締役会の構成予定(9名)氏名役職監査等委員独立社外任期カール・デッペン代表取締役・CEO2027/3期ヘタル・ラリギ代表取締役・CFO2027/3期小木曽 聡取締役・CTO2027/3期伊勢 清貴取締役○2028/3期クリスチャン・ヘルマン取締役○2028/3期安部 和志取締役○2027/3期江藤 彰洋取締役○○2028/3期君嶋 祥子取締役○○2028/3期小林 いずみ取締役○○2028/3期男性7名・女性2名(女性比率22.2%)。任期は2027年3月期または2028年3月期に係る定時株主総会の終結時まで

図14 2026年4月1日就任予定の役員一覧より。監査等委員会委員長と取締役会議長は「本経営統合に向けて今後決定」と記載されていた(Ⅰの部「役員の状況」をもとに作成)

独立社外取締役は、安部和志氏、江藤彰洋氏、君嶋祥子氏、小林いずみ氏の4名で、9名中4名です。社外取締役の選任にあたっては、企業経営の経験やガバナンス・リーガル、財務・会計のスキル、当業界への理解、専門性、独立性を総合的に勘案し、4名とも東京証券取引所の「上場管理等に関するガイドライン」の独立性基準を満たしているとして、独立役員に指定する予定と記載されています。役員は男性7名・女性2名で、女性の比率は22.2%です。監査等委員会は、伊勢清貴氏、クリスチャン・ヘルマン氏と、独立社外取締役の江藤氏、君嶋氏、小林氏の5名で構成される予定でした。

株主となる会社が取締役の指名枠を持つ構成は、合弁的な性格を持つ持株会社ではよく見られます。一方で、大株主から独立した立場で少数株主の利益を守る仕組みも欠かせません。Ⅰの部には、利益相反取引を行う場合に株主の利益が害されることを防止するため、独立社外取締役による監督が効果的に機能する体制を整備する予定と書かれています。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かをご参照ください。

定款で取締役会に委ねる事項

定款の定めとして、取締役の選任決議の定足数を議決権の3分の1以上とし累積投票によらないこと、取締役会決議による自己株式の取得(会社法第165条第2項)、取締役会決議による取締役の責任免除(会社法第426条第1項)、剰余金の配当等を取締役会で決定できること(会社法第459条第1項)と9月30日を基準日とする中間配当、株主総会の特別決議の定足数を3分の1以上とすることが記載されています。いずれも効力は本経営統合の効力発生を条件として生じるとされています。非業務執行取締役との責任限定契約は、会社法第425条第1項の額又は1,000万円以上であらかじめ定めた金額のいずれか高い額を限度とする予定です。

一方で、内部統制システムの整備の状況、リスク管理体制、子会社の業務の適正を確保するための体制、補償契約、役員等賠償責任保険契約は、いずれも「本経営統合に向けて今後決定する予定」とされていました。役員報酬についても、報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針は定めておらず、株主総会で決議する総額の範囲内で決定する予定とだけ記載されています。配当の基本方針も「未定」です。統合の効力発生前に提出するⅠの部では、決まっていることと決まっていないことを区別して書くしかなく、その書き分け方自体が参考になります。

内部監査・内部統制は、2つの体制をどう1つにするのか

ARCHION自身の監査等委員会監査、内部監査、会計監査、監査報酬は、提出日現在で「該当すべき事項はありません」とされています。その代わりに、統合後に完全子会社となる日野自動車と三菱ふそうの状況が詳しく記載されています。そして、内部監査については「本経営統合後の内部監査は当社に集約し、当社が日野自動車及び三菱ふそうの各グループ会社に対する適切な内部監査を実施する方向で詳細を検討中」と書かれています。

2つの内部監査体制と統合後の方向性日野自動車:内部監査部29名(専任20名・兼任9名)IIAのグローバル内部監査基準・三線体制CIA 2名・内部監査士 7名2023年度に外部機関の第三者評価開発・認証など技術分野も監査対象三菱ふそう:内部監査室ダイムラートラックの監査を通じて実施ディーラー・サプライヤーも監査対象結果は監査役・CEO等に報告毎年DTマネジメントと品質を協議5年に1度以上、独立第三者の外部評価統合後:内部監査を当社(ARCHION)に集約し各グループ会社に内部監査を実施する方向で検討中

図15 Ⅰの部提出日(2026年3月2日)時点の日野自動車と三菱ふそうの内部監査の状況。統合後は当社に集約する方向で詳細を検討中と記載されていた(Ⅰの部「内部監査の状況」をもとに作成)

日野自動車の内部監査部:29名と三線体制

日野自動車は、取締役会が承認した「内部監査基本規程」に基づき内部監査部を設置しています。内部監査は、不正の予防と企業価値の向上のため、リスク評価に基づいて業務プロセスの適正性と内部統制の状況を評価し、客観的な保証と助言を提供するものとされ、一般の業務監査に加えてJ-SOX(財務報告に係る内部統制報告制度)の経営者評価も担っています。監査対象はリスクの高い業務を優先するリスクベースアプローチで選定し、毎年度の監査方針と監査計画は取締役会の承認を得ています。

人員は2026年3月2日現在で29名(専任者20名、兼任者9名)で、過去5年間で段階的に増強してきたと記載されています。グループ会社18社にも内部監査組織が設置されています。個別の監査は、内部監査人協会(IIA)のグローバル内部監査基準を順守し、結果は個別に社長と常勤監査役に報告され、重要な監査結果は中間期と期末に経営会議と取締役会に報告されます。資格者は、公認内部監査人(CIA)が2名、内部監査士が7名です。

実効性の確保に向けた取組みとしては、2022年10月に発表した「3つの改革」の一つとして掲げた三線体制(1線:現場部署、2線:統括・専門部署、3線:内部監査部)による内部統制の強化、2023年度に受けた外部機関による第三者評価とその後の改善活動、指摘事項に対する改善計画の提出と定期的なフォローアップが挙げられています。さらに、エンジン認証に関わる不正問題の反省を踏まえ、開発・認証業務をはじめとする技術分野にも、必要な知見を持つ人材を配置して監査を行い、ISO9001の内部監査手続では品質保証部門と連携していると書かれています。

日野自動車の三様監査の連携監査役会(4名)2025年3月期 13回開催内部監査部(29名)監査計画は取締役会が承認会計監査人(PwC Japan)毎月 常勤監査役へ報告職務執行状況の報告三線体制:1線 現場部署/2線 統括・専門部署/3線 内部監査部(2022年10月「3つの改革」)J-SOX評価で密に連携

図16 内部監査部は毎月、常勤監査役に活動状況を報告し、会計監査人とはJ-SOXの評価手続で密に連携している。日野自動車の連結財務諸表はPwC Japan有限責任監査法人の監査を受けている(Ⅰの部「監査の状況」「統合財務情報」をもとに作成)

三様監査の連携では、内部監査部が毎月定期的に常勤監査役に主な活動状況を報告し、2024年度は社外監査役が出席する監査役会で個別の監査の結果と課題を報告したとされています。会計監査人とは、J-SOXの評価手続で密に協力・連携し、年度の重要な節目に財務諸表監査と内部統制監査の経過や結果の報告を受けています。日野自動車の監査役会は監査役4名(うち社外監査役2名)で、2025年3月期は13回開催され、4名とも全13回に出席しています。三様監査の考え方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。

三菱ふそうの内部監査室:親会社の監査を通じた体制

三菱ふそうの内部監査は、ダイムラートラックによる監査を通じて内部監査室が行っていると記載されています。対象は三菱ふそうグループが事業を展開する地域全域の事業所と部署に加え、ディーラーやサプライヤーにも及び、各地域の当局の承認を得て非支配株主や合弁事業に関する監査を行うこともあります。結果は監査役とCEOを含むマネジメントに報告されます。品質保証プログラムとして、毎年、内部監査の責任者がダイムラートラックのマネジメントと内部監査の品質確保・改善について協議し、少なくとも5年に一度、ダイムラートラックグループから独立した第三者による外部評価を受けています。

三菱ふそうの監査役会は社外監査役3名で構成され、2025年12月期は9回開催されています。監査役の活動には「親会社内部監査部門との連携」が含まれており、統合前は親会社であるダイムラートラックの監査体制の中に組み込まれていたことがわかります。

持株会社化で内部監査をどう設計するか

ARCHIONのケースは、規模も方法も異なる2つの内部監査体制を、持株会社の下に統合しなければならない例です。日野自動車は自社の内部監査部が中心で、三菱ふそうは親会社の監査を通じた体制でした。統合後、ダイムラートラックは三菱ふそうの親会社ではなくなるため、親会社の監査機能に依存していた部分を持株会社側で引き受ける必要が生じます。

上場準備会社が持株会社化を行う場合も、内部監査を持株会社に集約するか、子会社ごとに置いて持株会社が統括するかを決める必要があります。いずれの場合も、監査計画の承認、結果の報告先(取締役会と監査等委員会への報告経路)、兼任者がいる場合の自己監査の回避策、J-SOXの評価範囲の決定を、持株会社の規程として定めておくことが基本です。人数と体制の考え方は内部監査の人数と体制、J-SOXの進め方はJ-SOXの進め方をご参照ください。

会計・開示の論点は何か

ARCHIONのⅠの部には、会計方針や注記は記載されていません。第1期の決算期を迎えておらず、財務諸表そのものが存在しないためです。資本金等の推移でも、株式交換と株式交付による資本金・資本準備金の増減額は「未定」とされています。それでも、持株会社化とテクニカル上場に固有の会計・開示の論点は、記載から読み取ることができます。

株式交換と株式交付の会計上の取扱い

株式交換契約には、増加する資本金及び準備金の額を会社計算規則第39条に従って別途定めると書かれています。会社法上は、株式交換や株式交付で増加する株主資本の範囲内で、資本金と資本準備金に計上する額を契約や計画で定め、残りをその他資本剰余金とするのが基本的な考え方です。

会計上は、組織再編の性格によって処理が分かれます。一般に、上場会社が株式移転で単独の持株会社を設立する場合は、共通支配下の取引等として、持株会社が受け入れる子会社株式の取得原価を子会社の株主資本の適正な帳簿価額に基づいて算定し、連結財務諸表は従来の企業集団を引き継ぐ形になります。一方、他の企業を株式交付などで子会社にする場合は、企業結合に関する会計基準に基づいて取得企業を決定し、取得と判定されれば、被取得企業の資産・負債を時価で受け入れ、取得原価との差額をのれん(又は負ののれん)として処理します。

ARCHIONの場合、「親子関係の逆転」を目的とする株式交換と、非上場の三菱ふそうを取り込む株式交付が同じ日に効力を生じます。どちらの会社のグループが会計上の取得企業になるのか、のれんが生じるのか、といった点はⅠの部には記載されておらず、第1期の有価証券報告書で確認すべき論点です。のれんが審査や上場後の決算に与える影響についてはIPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるかで解説しています。

開示書類の多さと適時開示

参考情報には、ARCHIONが提出した書類が一覧で記載されています。2025年11月4日に関東財務局長に提出した「有価証券届出書(組織再編成・上場)」と「有価証券届出書(組織再編成)」に対し、それぞれ訂正届出書が複数回提出され、臨時報告書も提出されています。組織再編対象会社である日野自動車も、有価証券報告書と半期報告書のほか、2025年6月から2026年1月までに複数の臨時報告書を提出していました。

持株会社化では、組織再編の進捗、許認可の取得、前提条件の充足などに応じて、届出書の訂正や臨時報告書の提出が繰り返し必要になります。統合後のグループで誰が開示書類を作成し、どこで情報を集約するのかを早めに決めておくことが重要です。適時開示の体制づくりはIPOの適時開示体制をご参照ください。

政策保有株式の縮減

株式の保有状況では、日野自動車の政策保有株式の方針が示されています。基本的に株式は縮減する方針で、取締役会で毎年、銘柄ごとに保有の便益が資本コストに見合っているかといった定量面と、保有意義などの定性面を検証しているとされています。2025年3月期には、上場株式10銘柄を売却価額の合計20,303百万円で、非上場株式3銘柄を同1,526百万円で売却し、期末の保有は非上場株式32銘柄(3,541百万円)、それ以外の株式8銘柄(35,335百万円)でした。プライム市場の会社として、政策保有株式の説明は引き続き重要な開示項目になります。

事業等のリスクと審査で問われやすい点

事業等のリスクは、(1)本経営統合に関するリスク、(2)日野自動車の事業等のリスク、(3)三菱ふそうの事業等のリスクの3つに分けて記載されています。統合後は両社のリスクがARCHIONのリスクとなり得るという整理です。発生可能性や影響度の記載はありません。

事業等のリスクの構成(1)本経営統合のリスク予定どおり完了しない契約内容の変更シナジー不発・費用多額猶予期間入り銘柄の指定(2)日野のリスク(11項目)需要・材料・為替・金利貸倒れ・トヨタとの取引事業活動・法規制・欠陥エンジン認証不正問題統合の成否及び条件等(3)ふそうのリスク(14項目)市場環境・競争と技術革新調達・為替・金利・貸倒れ災害・法令・欠陥・情報ダイムラートラックとの取引訴訟紛争・統合の成否

図17 統合後は日野自動車と三菱ふそうの事業等のリスクが当社のリスクとなり得るとして、3つに分けて記載されていた。赤枠は統合の成否や上場の継続に関わる項目(Ⅰの部「事業等のリスク」をもとに作成)

最も詳しく書かれているのが、日野自動車のエンジン認証不正問題です。日本市場向けエンジンの複数機種で認証手続上の不正が判明し、国土交通省から型式指定の取消等の行政処分を受けたこと、米国では2025年1月16日に米国司法省との間で刑事和解契約を締結して総額5億2,176万米ドルの刑事制裁金を支払うことに合意したこと、米国当局に総額4億4,250万米ドル、カリフォルニア州当局に総額2億3,650万米ドルの民事制裁金等を支払う民事和解契約を締結したことが記載されています。カナダ(総額55百万カナダドル)、豪州(87百万豪ドル)の集団訴訟の和解と、ニュージーランドでの和解の基本合意(1,090万ニュージーランドドル)にも触れ、今後も同様の訴訟を提起される可能性があるとしています。

この問題は、統合の成否にも結び付けられています。認証不正に関連してARCHIONに生じる金銭負担の規模と判明時期によっては、本経営統合契約の前提条件を満たせず統合に至らないおそれがあること、さらに契約の規定に基づいてARCHIONと日野自動車がダイムラートラックとその他の三菱ふそうの株主に対して特別補償の責任を負うおそれがあることが記載されています。三菱ふそう側のリスクにも、他の当事者に対して補償責任を負うおそれが挙げられています。

プライム市場の上場審査では、「企業の継続性及び収益性」「企業経営の健全性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「企業内容等の開示の適正性」「その他公益又は投資者保護の観点」に相当する項目が確認されます。テクニカル上場には審査の特例が設けられていますが、許認可や法令遵守に関わる重大な問題があれば、その再発防止策や内部管理体制の整備状況は当然に問われます。日野自動車の内部監査が技術分野まで対象を広げていることは、その対応の1つとして読むことができます。実質審査基準の全体像はIPOの実質審査基準とは、許認可についてはIPOで許認可はどこまで見られるかをご参照ください。

上場準備会社がARCHIONのⅠの部から学べること

ARCHIONのⅠの部から学べること①スキームを手順で開示(ⅰ)〜(ⅷ)を順に説明②日程を一体で管理上場廃止日と上場日を連動③議決権を種類株式で設計無議決権A種で比率を調整④流通株式の計画大株主の持分を段階的に低減⑤機関設計の移行効力発生日付で監査等委員会設置会社⑥内部監査の統合2つの体制を持株会社へ集約⑦未確定事項の明示「今後決定」の範囲を明確に⑧リスクの重ね合わせ統合と各社のリスクを整理

図18 本記事で取り上げた実務上の示唆の要約

① 組織再編のスキームを手順として開示する。ARCHIONは、設立から第三者割当、持分調整、株式交換、株式交付、自己株式の消却、上場、持分の売出しまでを(ⅰ)〜(ⅷ)の順に書いています。複雑な再編ほど、読み手が順番を追える形で説明することが大切です。

② 旧会社の上場廃止日と新会社の上場日を一体で管理する。株式交換契約に上場の条項を入れ、上場廃止日と効力発生日・上場日を1つの日程表で示しています。日程を変える可能性のある要因も具体的に列挙しています。

③ 議決権の調整に種類株式を使う。経済的な持分は普通株式と同じにしつつ、議決権のないA種種類株式で大株主の議決権比率を20%未満に抑えています。競争法や独立性への配慮を資本構成で実現する方法です。

④ 流通株式を増やす計画を示す。大株主2社が4割ずつを持つ状態で上場し、一定期間内に25%ずつへ下げる方針と、その方法の例(売出し)を記載しています。

⑤ 機関設計の移行日を組織再編の効力発生日にそろえる。監査等委員会設置会社への移行、定款変更、単元株制度の採用、譲渡制限の廃止を、いずれも効力発生日付で行う設計です。

⑥ 内部監査の統合方針を先に示す。2つの異なる内部監査体制を持株会社に集約する方向性を、詳細の検討中であることも含めて開示しています。

⑦ 決まっていない事項を「今後決定」と書き分ける。内部統制システム、リスク管理体制、報酬方針、配当方針など、効力発生前に決まっていない事項を明示しています。通常のIPOでは上場前に決めておくべき事項ですが、書き分けの考え方は参考になります。

⑧ 統合のリスクと各社のリスクを重ねて整理する。統合そのもののリスクと、傘下に入る会社それぞれのリスクを分けて記載し、上場廃止基準との関係まで書いています。

  • 持株会社化の手順(設立・株式交換又は株式移転・株式交付等)と効力発生日を1つの工程表で管理しているか
  • 旧会社の上場廃止日と新会社の上場日の関係、日程を変える要因を整理しているか
  • 種類株式を使う場合、議決権・取得請求権・配当の内容と、転換時の議決権への影響を説明できるか
  • 大株主の持分比率と流通株式比率の見通し、持分を下げる方法と時期を検討しているか
  • 持株会社の機関設計、取締役会と子会社の役割分担、内部監査の集約方法を決めているか
  • 組織再編の会計処理(取得企業の判定、取得原価、のれんの有無)と、決算期・監査範囲の統一を検討しているか

よくある質問

Q1. テクニカル上場は通常のIPOと何が違うのですか?

既に上場している会社が株式移転や株式交換などで持株会社を設けた場合に、上場廃止となる旧会社の株主が新会社の株主となり、新会社が上場する手続です。公募や売出しを行わないのが一般的で、ARCHIONのⅠの部にも公募・売出しやストック・オプションの記載はありません。旧会社の上場実績を踏まえた審査の特例がありますが、非上場会社を取り込む場合は、実質的な存続性の観点から新規上場に準じた基準を問われることがあります。

Q2. 持株会社をつくる方法は株式移転だけですか?

株式移転のほかに、ARCHIONのように既存会社の子会社として新会社を設立し、株式交換で親子関係を逆転させる方法もあります。他の会社を傘下に入れる場合は、株式交換や株式交付も使われます。どの方法を選ぶかで、株主総会の手続、反対株主の買取請求、会計処理、日程が変わるため、目的に合わせて比較することが大切です。

Q3. 上場後も種類株式を残してよいのですか?

上場準備会社の優先株式などは上場前に普通株式へ転換するのが一般的ですが、ARCHIONのように議決権のない種類株式を非上場のまま残す例もあります。その場合は、種類株式の内容、普通株式への取得請求権、転換された場合の議決権比率への影響などを、投資者にわかるように開示しておく必要があります。

Q4. 持株会社の内部監査は、子会社ごとに置くべきですか?

持株会社に集約する方法と、子会社ごとに置いて持株会社が統括する方法があります。ARCHIONは持株会社に集約する方向で検討中と記載していました。いずれの場合も、監査計画の承認、報告経路、自己監査の回避、J-SOXの評価範囲を持株会社の規程として定めることが基本です。

最初の一歩は、自社グループの「再編の手順」と「上場に必要な決定事項」を書き出すこと

持株会社化やグループ再編を伴う上場を検討している会社は、まず、どの会社をどの順番で、どの手続(株式移転、株式交換、株式交付、会社分割など)で動かすのかを、ARCHIONの(ⅰ)〜(ⅷ)のように書き出してみてください。そのうえで、効力発生日までに決めるべき機関設計、内部監査、報酬方針、会計方針を一覧にし、上場審査のスケジュールと照らし合わせることが第一歩です。上場準備の全体像はIPO準備 完全ガイドで確認できます。

無料ダウンロード

ARCHIONのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)

ARCHIONの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。

まとめ

ARCHION株式会社は、日野自動車と三菱ふそうの経営統合のために設立された持株会社で、2026年3月2日に上場承認を受け、2026年4月1日に東証プライム市場にテクニカル上場しました。日野自動車の完全子会社として設立した会社を株式交換で親会社にする「完全親子関係の逆転」と、株式交付による非上場の三菱ふそうの完全子会社化を、同じ日に効力発生させる設計です。

資本政策では、無議決権のA種種類株式でトヨタの議決権比率を20%未満に調整し、大株主2社の持分を将来25%ずつに下げて流通株式比率を高める方針を示しています。ガバナンスでは、効力発生日付で監査等委員会設置会社に移行し、9名中4名を独立社外取締役とする予定です。内部監査は、日野自動車の29名体制と、ダイムラートラックの監査を通じた三菱ふそうの体制を、持株会社に集約する方向で検討していました。

財務諸表のない持株会社のⅠの部は、通常のIPOのⅠの部とは構成が大きく異なりますが、「組織再編と上場を一体で設計する」「決まっていることと決まっていないことを書き分ける」という点で、グループ再編を伴う上場準備の教材になります。自社の準備状況と照らし合わせながら、原文も読んでみてください。

上場準備の体制づくりを相談したい方へ

ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。

相談内容を送る料金・支援内容を見る

公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

IPO支援に強い、公認会計士 IPO支援に強い、公認会計士

ベンチャー・スタートアップ企業の
経営管理支援・IPO支援

お問い合わせ

書くより話すほうが早いときは、お電話でも承ります TEL 03-6820-0406