セグメント情報は、会社が事業をどのような単位で管理しているかを外部に示す注記です。IFRSでは、経営者が実際に業績評価と資源配分に使っている区分をそのまま外部に開示するという考え方をとります。これはマネジメント・アプローチと呼ばれ、日本基準も同じ考え方を採用しているため、両者の差は小さい領域です。
この記事では、上場準備会社がIFRSを任意適用する場面を想定して、報告セグメントの決め方、開示する項目、そして実務で問題になりやすい点を整理します。
- 報告セグメントを決める手順と3つの量的基準
- 最高経営意思決定者をどう特定するか
- セグメント情報のほかに求められる製品別・地域別の開示
- 上場準備会社でセグメント区分が問題になりやすい場面
この記事の見出し
📌 経営者が見ている区分をそのまま示す
セグメント情報の出発点は、最高経営意思決定者が業績を評価し、経営資源の配分を決めるために使っている区分です。外部への開示のために新たに区分を作るのではなく、社内で実際に使っている区分をそのまま開示します。したがって、取締役会に提出している月次の業績資料が、そのままセグメント区分の根拠になります。
区分は管理会計の実態から決まるため、社内資料と一致していることが前提です。
最高経営意思決定者は、特定の役職ではなく機能を指します。代表取締役1人であることもあれば、経営会議という合議体であることもあります。誰が資源配分を最終的に決めているかという事実で判断し、注記でその旨を記載します。
📌 量的基準で報告セグメントを絞る
洗い出した事業セグメントのうち、収益、損益、資産のいずれかが全体の10パーセント以上を占めるものが、報告すべきセグメントになります。基準に満たないものは、経済的特徴が類似していれば集約でき、集約できないものはその他としてまとめます。
いずれか1つを満たせば報告セグメントになります。
そのうえで、報告セグメントの外部顧客への収益の合計が、全体の75パーセント以上になっているかを確認します。満たない場合は、基準に満たないセグメントを追加して報告セグメントとし、75パーセントに達するまで加えます。
上場準備会社では、単一のセグメントしかないという結論になることも多くあります。その場合でも、単一である旨を記載したうえで、製品別・地域別の収益と主要な顧客の情報は開示する必要があります。単一セグメントだから開示不要という理解は誤りです。
📌 開示する金額は社内の数値でよい
セグメントごとの損益として開示する金額は、最高経営意思決定者に報告されている金額です。したがって、財務諸表の作成基準とは異なる基準で測定した金額であっても、それが社内で使われている数値であればそのまま開示します。ただし、その測定方法を説明し、財務諸表の金額との差異を調整表で示す必要があります。
実務上、この調整表が最も手間のかかる部分です。社内では管理会計上の配賦ルールで測定していることが多く、全社費用の配賦、内部取引の消去、会計基準の差異といった項目を1つずつ調整していくことになります。管理会計と財務会計の橋渡しを行う資料が社内にない場合、その作成から始める必要があります。
📌 製品別と地域別の情報も必要
セグメント情報とは別に、製品およびサービスの区分ごとの外部顧客への収益と、地域別の収益および非流動資産を開示します。これは会社がどのように管理しているかにかかわらず求められる情報で、セグメント区分と一致していなくてもかまいません。
主要な顧客については、顧客名の記載までは求められていません。
主要な顧客については、単独で収益の10パーセント以上を占める相手先がある場合、その事実と金額、および関連するセグメントを開示します。顧客の名称までは求められていませんが、実務では相手先名を記載する会社と、区分名だけを記載する会社の両方があります。上場準備会社では販売先が集中していることが多く、この開示が実質的に事業リスクの説明になります。
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📌 区分の変更は遡及して示す
組織再編や経営管理の方法の変更によりセグメント区分を変更した場合、比較年度のセグメント情報も新しい区分に組み替えて示します。組み替えが実務上困難な場合は、その旨と理由を記載しますが、区分の変更が見込まれるのであれば、変更前の年度からデータを両方の区分で集計しておくのが安全です。
上場準備の過程では、事業部制の導入や子会社の再編により管理単位が動くことがあります。上場申請の年度に区分が変わると、比較情報の作成に追われることになるため、管理体制の変更は申請の前年度までに済ませておくことをおすすめします。
📊 記載例
セグメント情報の例です。社内で使っている数値をそのまま示し、財務諸表の金額との差を調整表で埋めます。
| 項目 | 報告セグメントA | 報告セグメントB | その他 | 調整額 | 連結 |
|---|---|---|---|---|---|
| 外部顧客への売上収益 | 20,500 | 17,900 | - | - | 38,400 |
| セグメント間の内部売上収益 | 320 | 180 | - | △500 | - |
| 計 | 20,820 | 18,080 | - | △500 | 38,400 |
| セグメント利益 | 2,140 | 1,280 | - | △840 | 3,580 |
| セグメント資産 | 14,200 | 11,400 | 320 | 3,900 | 29,820 |
調整額は、セグメント間取引の消去および各報告セグメントに配分していない全社費用と全社資産であります。
(関連情報)
| 地域 | 金額 |
|---|---|
| 本邦 | 31,200 |
| 本邦以外 | 7,200 |
| 合計 | 38,400 |
外部顧客への売上収益のうち、単一の顧客からのものが4,900百万円あり、報告セグメントAに含まれております。
会社名と数値は架空です。セグメント利益は社内で使っている定義のままで構いませんが、その定義を注記で説明します。
単一の顧客で収益の1割以上を占める相手がある場合は、その事実と金額を示します。相手先の名称までは求められていませんが、記載するかどうかは会社の判断です。
📁 実際の開示事例
報告セグメントの区分と、全社共通費の配分方法を変更して遡及適用した場合の記載例です。
7.セグメント情報 (1) 報告セグメントの概要
当社グループの報告セグメントは、主として製品別のセグメントから構成されており、調味料・食品、冷凍食品、ヘルスケア等の3つを報告セグメントとしております。
いずれの報告セグメントも、当社グループの構成単位のうち、分離された財務情報が入手可能であり、経営会議が、経営資源の配分の決定及び業績を評価するために、定期的に検討を行う対象となっているものです。
各報告セグメントに帰属しない全社共通費は、従来、マネジメント・アプローチに基づき一定の基準で各報告セグメントに配分しておりましたが、各報告セグメントの業績をより適切に評価するため、当連結会計年度より各報告セグメントに配分しない方法に変更しており、前連結会計年度に当該変更を遡及適用しております。
この変更に伴う前連結会計年度のセグメント損益への影響は、以下のとおりです。
配分方法の変更による前連結会計年度への影響(単位:百万円) 区分 セグメント損益の増減 調味料・食品 20,131の増加 冷凍食品 4,974の増加 ヘルスケア等 13,845の増加 その他 911の増加 各報告セグメントに帰属しない全社共通費 39,862の減少
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 7.セグメント情報
▶ 読み方 最初の2段落が、報告セグメントを決めた根拠です。分離された財務情報があること、経営会議が定期的に検討していることの2つを書けば、マネジメント・アプローチに沿った説明になります。後半は配分方法を変更した場合の記載で、変更の理由と、比較年度に与える影響額をセグメントごとに示しています。区分や配分を変えたときは、比較年度を組み替えたうえで、この影響額を示すのが実務の型です。
セグメント区分は、社内の管理資料と一致していることが前提になります。管理会計との調整表の設計から注記の作成まで、IFRSの導入支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 不要ではありません。報告セグメントが単一である旨を記載したうえで、製品およびサービス別の収益、地域別の情報、主要な顧客の情報は開示する必要があります。
A. そのまま開示します。ただし測定方法を説明し、財務諸表の金額との差異を調整表で示します。社内の数値を会計基準に合わせて作り直す必要はありません。
A. 名称の記載までは求められていません。単独で10パーセント以上を占める顧客が存在する事実と金額、関連するセグメントを記載すれば足ります。
📄 まとめ
セグメント情報は、社内で実際に使っている管理単位をそのまま示す注記です。したがって、注記のために新しい区分を作るのではなく、取締役会に出している業績資料の区分が出発点になります。
実務の負担は、区分の決定よりも、管理会計上の数値と財務諸表の金額をつなぐ調整表の作成にあります。管理会計と財務会計の橋渡しの資料を早い段階で整えておくことが、最も効果的な準備になります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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📚 参考(公的な一次情報)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)
- 有価証券上場規程(日本取引所グループ)