IFRSの子会社への関与の注記|支配の判断と連結の範囲

連結の範囲をどこまでとするかは、IFRSでは支配という1つの概念で判断します。議決権の過半数を持っているかどうかは判断の出発点にすぎず、実質的にその会社の活動を左右できるかどうかで決まります。日本基準の支配力基準と発想は近いものの、除外規定の有無や決算日の統一など、実務では違いが出ます。

この記事では、上場準備会社がIFRSを任意適用する場面を想定して、支配の判断の枠組みと、子会社への関与について注記で何を書くのかを整理します。

この記事でわかること

  • 支配の判断に用いる3つの要素と、議決権比率との関係
  • 連結の範囲について日本基準と結論が変わりうる場面
  • 重要な非支配持分がある場合に必要になる要約財務情報
  • 決算日と会計方針の統一で必要になる準備

📌 支配は3つの要素で判断する

IFRSでは、投資先に対するパワー、変動するリターンへのエクスポージャー、そしてパワーを用いてリターンに影響を与える能力という3つの要素をすべて満たす場合に、支配があると判断します。議決権の過半数を保有していれば通常はこの3要素を満たしますが、それは事実上の推定であって、絶対の基準ではありません。

支配の有無を判断する3つの要素投資先に対するパワーを持っているか投資先への関与により変動するリターンにさらされているかパワーを用いてリターンの額に影響を与える能力があるか3つすべてを満たす場合に支配があると判断する状況が変わった場合は判断を見直す

議決権の過半数は判断の出発点にすぎず、実質的な支配の有無で決まります。

逆に、議決権が過半数に満たなくても支配があると判断される場面があります。他の株主が広く分散していて、実質的に会社の提案が常に可決される状態にある場合や、契約により重要な意思決定を左右できる場合です。上場準備会社では、共同出資で設立した会社や、投資事業組合を通じて保有する会社について、この判断が問題になることがあります。

📌 日本基準と結論が変わりうる場面

日本基準では、支配していても重要性が乏しい会社を連結の範囲から除外できる扱いがあります。IFRSにはこの除外規定がなく、重要性の判断は財務諸表全体への影響という観点でのみ行われます。休眠会社や小規模な子会社を非連結としていた会社は、移行時に連結の範囲を見直すことになります。

日本基準との主な違い論点日本基準IFRS連結の範囲支配力基準に加え、一定の除外規定がある支配の3要素で判断し、規模による除外はない決算日の差異3か月以内であれば統一を要しない原則として統一し、差異は3か月以内で仮決算などが必要会計方針の統一一定の場合に統一を要しない扱いがある統一が原則支配の喪失段階的に処理残存持分を公正価値で再測定する

決算日と会計方針の統一は、移行時に体制の整備が必要になりやすい論点です。

決算日の統一も実務上の負担になります。日本基準では決算日の差異が3か月以内であればそのまま取り込めますが、IFRSでは原則として決算日を統一します。統一できない場合は仮決算を行うなどの対応が必要で、海外子会社を持つ会社では体制の整備に時間がかかります。適用時期を決める段階で、この点の見通しを立てておくべきです。

📌 非支配持分がある場合の追加開示

グループにとって重要な非支配持分がある子会社については、その子会社の要約財務情報を注記で示します。資産、負債、収益、当期利益、キャッシュ・フローといった主要な項目を、内部取引消去前の金額で開示するのが一般的です。少数株主が実質的に関与している子会社の状況を、投資家が把握できるようにするための開示です。

子会社に関する注記の主な内容区分記載する内容グループの構成子会社の名称、所在地、議決権比率、主要な事業内容重要な非支配持分非支配持分の比率、要約財務情報、非支配持分への配当判断の説明議決権が過半数でないのに支配していると判断した理由、その逆の場合の理由制限と支援資産の使用や資金の移転に対する制限、子会社への財務的支援の内容

議決権比率と支配の判断が一致しない場合は、その理由の説明が必須になります。

重要かどうかの判断は会社が行いますが、非支配持分の金額や、その子会社の利益がグループ全体に占める割合を目安にします。判断の基準を毎期変えると比較可能性が損なわれるため、社内で基準を定めておくのが望ましい対応です。

📌 制限と支援も記載する

子会社の資産を使用したり、子会社から資金を移転したりすることに制限がある場合は、その内容と金額を記載します。海外子会社の所在国の規制により配当に制限がある場合や、借入契約により資金の移動が制限されている場合が典型です。連結財政状態計算書には資産として計上されていても、実際には自由に使えない部分があることを示すための開示です。

また、契約上の義務がないにもかかわらず子会社に財務的支援を行った場合や、今後行う意向がある場合も記載の対象になります。上場準備会社では、赤字の子会社に対して親会社が資金を供給している状況が珍しくありません。この場合、支援の内容と理由を説明することになります。

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📌 支配を失った場合の処理

子会社の株式を一部売却して支配を失った場合、IFRSでは残っている持分を支配喪失時の公正価値で再測定します。この再測定による差額は純損益に計上されるため、実際には売却していない部分についても損益が生じます。日本基準の処理と結論が異なる代表的な場面です。

一方、支配を維持したまま持分比率だけが変わる取引は、資本取引として扱い、損益は生じません。子会社株式の追加取得で持分比率を高めた場合も、のれんは追加計上されず、資本の内部での振替になります。上場準備の過程で少数株主から株式を買い集めるケースでは、この違いが影響します。

📊 記載例

子会社に関する注記の例です。グループの構成と、重要な非支配持分がある場合の要約財務情報を示します。

設例 子会社および非支配持分

(1)グループの構成

子会社の一覧
会社名 所在地 議決権の所有割合 主要な事業内容
株式会社サンプル製作所 日本 100.0パーセント 製品の製造
サンプル販売株式会社 日本 70.0パーセント 製品の販売
サンプル・アジア社 シンガポール 100.0パーセント 海外販売

(2)重要な非支配持分がある子会社の要約財務情報(サンプル販売株式会社)

要約財務情報(単位:百万円)
項目 金額
流動資産 1,840
非流動資産 420
流動負債 960
非流動負債 120
資本 1,180
売上収益 4,200
当期利益 180
当期包括利益 180
非支配持分(単位:百万円)
項目 金額
非支配持分の割合 30.0パーセント
非支配持分に帰属する当期利益 54
非支配持分に対して支払った配当

(3)資産の使用および資金の移転に対する制限

在外子会社の一部について、所在地国の規制により、資金の送金に制限があります。

会社名と数値は架空です。要約財務情報は持分相当額ではなく、その子会社の金額そのものを示すのが原則です。

議決権の所有割合が過半数でないのに連結している場合、または過半数でも連結していない場合は、その判断の理由をこの注記に続けて説明します。

📁 実際の開示事例

重要な子会社の一覧と、非支配持分の割合、支配の喪失を伴わない持分変動を示している例です。

実際の開示事例 味の素株式会社(証券コード2802)

16.子会社 (1) 重要な子会社の詳細(抜粋)

重要な子会社
会社名 主要な事業内容 所在地 当社グループが保有する普通株式の割合 非支配持分が保有する普通株式の割合
味の素冷凍食品㈱ 冷凍食品 日本 100.0パーセント
味の素AGF㈱ 栄養・加工食品 日本 100.0パーセント
タイ味の素社 調味料 タイ 99.8パーセント 0.2パーセント
インドネシア味の素社 調味料 インドネシア 51.0パーセント 49.0パーセント
ベトナム味の素社 調味料 ベトナム 100.0パーセント

(2) 支配の喪失を伴わない子会社に対する所有持分の変動

支配の喪失を伴わない子会社に対する所有持分の変動による資本剰余金への影響は、前連結会計年度27百万円、当連結会計年度は該当ありません。

(3) 子会社の支配喪失に伴う損益

前連結会計年度において子会社の支配喪失に伴う所有持分の変動について認識した損益(税効果前)は△21百万円であり、連結損益計算書上、その他の営業費用のその他に計上しております。

出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 16.子会社

▶ 読み方 子会社の一覧では、自社の持分割合と非支配持分の割合を並べて示します。持分比率が51.0パーセントで非支配持分が49.0パーセントという子会社があり、非支配持分の存在が一目で分かります。もうひとつ注目したいのが(2)です。支配を維持したまま持分比率が動いた取引は、のれんを動かさず資本剰余金の変動として処理します。この金額を独立して示すのがIFRSの様式です。

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❓ よくある質問

Q. 議決権が50パーセント以下でも連結する場合がありますか。

A. あります。他の株主が分散していて実質的に議決を左右できる場合や、契約により重要な活動を指図できる場合です。この場合、支配していると判断した理由を注記で説明する必要があります。

Q. 休眠会社も連結の対象になりますか。

A. 支配している以上、原則として対象になります。ただし財務諸表全体への影響が乏しければ、重要性の観点から連結しないという判断もありえます。その判断の根拠は記録しておきます。

Q. 海外子会社の決算日が親会社と異なります。どうすればよいですか。

A. 原則は統一です。統一が実務上困難な場合は、差異が3か月以内であることを前提に仮決算を行うなどの対応をとります。いずれにせよ体制整備に時間がかかるため、早めの着手が必要です。

📄 まとめ

連結の範囲は支配という1つの概念で決まり、規模による除外規定がありません。日本基準で非連結としていた子会社がある会社は、移行時に範囲の見直しが必要になります。

注記では、グループの構成に加えて、支配の判断が議決権比率と一致しない場合の理由、重要な非支配持分がある子会社の要約財務情報、資産の使用や資金移転の制限までを示します。いずれも会計帳簿だけでは作れない情報なので、子会社ごとの契約と規制の棚卸しから始めることをおすすめします。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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