ハートアップのTOKYO PRO Market上場|資金調達なしの上場と公的報酬モデル【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

株式会社ハートアップ(証券コード510A)は、福岡県久留米市に本拠を置き、サッカーを活用した療育「カラーズFC」を中心に放課後等デイサービス事業を営む会社です。2026年2月4日に上場申請が受け付けられ、2026年2月19日に上場承認を受け、2026年2月27日に東京証券取引所の TOKYO PRO Market(以下「TPM」)に上場しました。担当J-Adviserは株式会社日本M&Aセンターです。本記事では、上場申請時にJPXの新規上場会社情報に掲載された開示書類(全70ページ)を読み、上場準備を進める経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。

結論からいえば、ハートアップの事例は「公募や売出しを行わず、株主2名のまま、直前1期の監査でTPMに上場する」という、TPMならではの上場の形を具体的に確認できるケースです。同社は上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行っておらず、開示書類の表題も「特定証券情報」ではなく「発行者情報」となっています。あわせて、売上の大部分を国民健康保険団体連合会(以下「国保連」)からの報酬が占める公的制度依存のビジネスモデル、子会社の吸収合併による単体化、上場直前の株式分割、J-Adviser契約の解除事由の開示など、上場準備の論点が小さな会社の規模感で凝縮されています。

ハートアップとはどんな会社で、いつTOKYO PRO Marketに上場したのか

ハートアップは2015年2月に福岡県久留米市で設立され、同年5月に放課後等デイサービス事業を始めました。放課後等デイサービスは、児童福祉法に基づく障害福祉サービスで、発達支援が必要な子どもを対象に療育支援を行うものです。同社の特徴は、サッカー療育に特化した「カラーズFC」というブランドで、サッカー活動を通して社会性や非認知能力、自己肯定感を育てるプログラムを提供している点にあります。

登記上の本店は久留米市野中町ですが、実際の業務は久留米市諏訪野町で行っていると記載されています。決算期は5月31日で、子会社はなく、財務諸表は単体のみです。従業員は2026年1月31日現在で79名(ほかに臨時雇用者21名)、平均年齢37.1歳、平均勤続年数3.6年、平均年間給与3,458千円です。上場時点の概要を表にまとめます。

項目 内容
会社名 株式会社ハートアップ(Heart Up Co.,Ltd.)
証券コード 510A
市場 東京証券取引所 TOKYO PRO Market
申請受付日(書類の公表日) 2026年2月4日
上場承認日 2026年2月19日
上場日 2026年2月27日
担当J-Adviser 株式会社日本M&Aセンター
設立 2015年2月(福岡県久留米市)
決算期 5月31日(2024年に12月決算から変更)
事業 放課後等デイサービス事業(単一セグメント)
従業員 79名(臨時21名)、2026年1月31日現在
資本金 9,000千円
発行済株式数・株主数 36,000株・2名(単元株式数100株)
監査 監査法人やまぶき(第11期の財務諸表)
上場時の勧誘 特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等は実施せず

TPMでは、上場申請から原則として10営業日後に東証が上場を承認する仕組みになっています。ハートアップも、2月4日の申請受付から2月19日の上場承認まで約2週間、承認から8日後の2月27日に上場しています。ただし、申請の前には担当J-Adviserによる調査・確認や、東証への意向表明といった準備期間があります。主な日程を図にすると次のとおりです。

ハートアップの上場までの主な日程2024年8月現在の役員体制(社外役員3名)2025/5/31第11期末(監査対象期)2025/11/12株式分割1→200単元株100株2026/2/4上場申請受付発行者情報公表2026/2/19上場承認TPMでは、上場申請から原則10営業日後に上場承認(申請前に担当J-Adviserの調査と意向表明がある)2026年2月27日TOKYO PRO Market上場

図1 発行者情報の記載とJPXの新規上場会社情報(申請受付日・上場承認日・上場日)をもとに作成

TPMの制度の全体像を先に押さえたい方は、一般市場向けの解説ですが IPO準備の全体像(N-3期〜N期) もあわせてご覧ください。準備の段取りそのものは、市場が違っても共通する部分が多くあります。

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事業内容と収益モデル:売上の95%超が国保連からの報酬

ハートアップの売上は、放課後等デイサービスの提供に対する報酬です。各事業所は、児童福祉法に基づいて都道府県知事、政令指定都市市長又は中核市市長から「指定障害児通所支援事業者」の指定を受ける必要があり、指定は6年ごとの更新制です。新規開設時には自治体との事前協議や、人員・設備基準を満たすことも求められます。

発行者情報の「主要な相手先別の販売実績」を見ると、第11期(2024年6月1日〜2025年5月31日)の売上高325,786千円のうち、福岡県の国保連向けが176,826千円(54.3%)、佐賀県が97,157千円(29.8%)、千葉県が36,114千円(11.1%)で、3県の国保連だけで95.2%を占めます。つまり、利用者である子どもや保護者にサービスを提供し、その対価の大部分は公的制度を通じて国保連から支払われる、という構造です。期末の売掛金55,025千円の内訳にも、3県の国保連のほか「利用者」1,514千円が載っています。

放課後等デイサービス事業の収益の流れ子ども・保護者(利用者)ハートアップカラーズFC等(8事業所)国民健康保険団体連合会都道府県・市町村療育・送迎利用者負担報酬の請求報酬の支払指定(6年更新)・補助金補助金収入 45,640千円(営業外収益)処遇改善加算交付金、県市町村補助金、人材開発支援助成金 等売上高の95.2%が3県の国保連向け(第11期:福岡54.3%・佐賀29.8%・千葉11.1%)

図2 発行者情報「事業の内容」「主要な相手先別の販売実績」「補助金収入」の注記をもとに作成。事業所数は2025年5月31日現在の主要な設備の状況による

事業所は、2025年5月31日現在の主要な設備の状況によれば、福岡県久留米市の「発達未来塾カラーズ」、福岡県八女郡の「カラーズFC広川町」、福岡県柳川市の「カラーズFC柳川」、佐賀県鳥栖市の「カラーズFC大正町」「カラーズFC鳥栖」「カラーズFCプリマヴェーラ」、千葉県長生郡の「アクティブハート長南Ⅰ・Ⅱ」の8か所です(このほか本社)。

サービスの特長としては、児童指導員がサッカー活動を療育の視点でサポートすること、心理担当職員・理学療法士(PT)・作業療法士(OT)などの専門職員による個別支援計画、感覚統合療法やABA(応用行動分析学)の導入、良い行動を認めて褒める「グリーンカードシステム」、保護者の負担を減らす送迎サービスなどが挙げられています。地域連携として、福岡のプロサッカーチームの「ゴールドシャレンパートナー」となり、久留米大学と協力して「D&Iサッカーフェスタ」を年1回開催していることも記載されています。

今後の方向性としては、ウェアラブル端末や顔認証・声認証を用いて運動・睡眠・精神データを取得・解析する生体データ解析システムの開発・導入、公式TikTok(フォロワー1万2,000人)やYouTube(登録者4,000人)を活用したブランド確立と新卒・第二新卒層の採用、地域の障害児福祉計画と連携した新規拠点の検討が挙げられています。

主要な相手先別の販売実績(第11期)福岡県国保連176,826千円(54.3%)佐賀県国保連97,157千円(29.8%)千葉県国保連36,114千円(11.1%)その他15,689千円(4.8%)公的制度にもとづく報酬が売上の大部分を占める構造

図3 第11期(2024年6月1日〜2025年5月31日)の売上高325,786千円の内訳。「その他」は売上高から3県分を差し引いた額

指定と報酬改定、定員超過の基準をどう開示しているか

公的報酬で成り立つ事業は、制度の変更がそのまま業績に響きます。ハートアップは「事業等のリスク」の最初の項目で、報酬が3年ごとに改定されること、指定に人員・設備・運営の基準があること、過去に基準違反による営業取消事由は発生していないことを記載しています。

特に具体的なのが定員超過の記載です。厚生労働省の通知では、単日で定員の150%、3か月平均で定員の130%(定員12人以上の場合は125%)を超えると報酬の減算対象となり、減算対象となる超過を指導に従わず続けると指定の取消しが検討される、と説明したうえで、同社は「減算の対象とならない範囲において一部の拠点で定員を超過した運営を行って」いると開示しています。自治体の運用や通知が変われば、定員を超過した運営ができなくなる可能性がある、というリスクの書き方です。

許認可や公的報酬に依存する事業では、「どの規制が、どの数字で、どう業績に効くのか」を具体的に書くことが、審査でも開示でも説得力につながります。許認可が審査でどう見られるかは IPOで許認可はどこまで見られるか で詳しく解説しています。

事業所の指定と報酬の減算基準自治体との事前協議人員・設備・運営の基準を満たす指定障害児通所支援事業者の指定指定は6年ごとの更新制定員超過と報酬の減算(厚労省通知)単日:定員の150%を超える3か月平均:定員の130%を超える(定員12人以上は125%)減算対象の超過を継続 → 指定取消の検討当社:減算の対象とならない範囲で一部の拠点が定員を超過して運営報酬は3年ごとに改定され、改定内容が業績に影響し得る(事業等のリスク)

図4 発行者情報「事業の内容」「事業等のリスク(法的規制等)」の記載をもとに作成

沿革と上場までの道のり:拠点の拡大とグループの単体化

沿革を見ると、ハートアップは久留米市の1拠点から始まり、佐賀県鳥栖市、福岡県八女郡、柳川市へと拠点を広げてきました。2020年3月にカラーズFC合同会社、2021年2月に合同会社サッカー療育研究所を設立し、2023年1月にカラーズFC合同会社を吸収合併しています。2023年11月には株式会社アクティブハートの株式を全株譲り受け、千葉県長生郡の拠点が加わりました。

設立から上場までの沿革2015年2月久留米市で設立2015年5月放課後等デイサービス開始2016年11月カラーズFC大正町(鳥栖)2018年9月カラーズFC広川町2022年4月カラーズFC柳川2023年1月カラーズFC合同会社を吸収合併2023年2月鳥栖・プリマヴェーラ開設2023年11月アクティブハート株式を全株譲受2024年6月子会社2社を吸収合併2026/2/27TOKYO PROMarket上場

図5 発行者情報「沿革」の主要項目と上場日をもとに作成

上場準備の観点で目を引くのは、2024年6月1日に100%子会社のアクティブハートとサッカー療育研究所の2社を吸収合併し、子会社のない単体の会社になったことです。合併は2024年4月25日の臨時株主総会で決議され、目的は「経営効率化」とされています。会計上は、企業結合に関する会計基準と同適用指針に基づき「共通支配下の取引」として処理され、第11期に抱合せ株式消滅差益896千円(特別利益)と抱合せ株式消滅差損4,443千円(特別損失)が計上されました。合併で引き継いだ資産は7,713千円(うち現金及び現金同等物4,043千円)、負債は2,160千円です。

グループ会社が複数ある状態で上場準備を進めると、連結決算や子会社管理の体制整備が必要になります。合併で単体化すれば、決算・監査・開示の範囲は単純になります。一方で、合併の会計処理(抱合せ株式消滅差損益)が上場前の損益に表れることになり、本件のように特別損益として説明が必要になります。

もう一つの準備は決算期の変更です。2024年2月2日の臨時株主総会で決算期を12月31日から5月31日に変更したため、第10期(2024年1月1日〜5月31日)は5か月の変則決算になっています。そのため第11期の業績については、前期との比較情報が記載されていません。

子会社2社の吸収合併(2024年6月1日)合併前(2024年5月期末)ハートアップアクティブハートサッカー療育研究所100%100%2024年6月1日吸収合併合併後ハートアップ(単体)子会社なし・連結なし共通支配下の取引として処理(企業結合会計基準・同適用指針)抱合せ株式消滅差益 896千円(特別利益)抱合せ株式消滅差損 4,443千円(特別損失)

図6 発行者情報「企業結合等関係」「キャッシュ・フロー計算書関係」の注記をもとに作成

業績の推移:営業損失を補助金収入で補う損益構造

発行者情報の「主要な経営指標等の推移」には、第9期から第11期までの3期分が掲載されています。決算期変更があるため、第10期だけが5か月の数値である点に注意してください。

項目(単位:千円) 第9期(2023年12月期・12か月) 第10期(2024年5月期・5か月) 第11期(2025年5月期・12か月)
売上高 281,222 124,267 325,786
経常利益 22,338 15,579 4,666
当期純利益又は純損失 15,339 △9,178 △1,560
純資産額 78,335 69,156 67,595
総資産額 286,329 284,397 288,691
自己資本比率 27.36% 24.32% 23.41%
営業活動によるCF - 31,445 △1,710
現金及び現金同等物の期末残高 - 182,071 193,959
従業員数(臨時) 43名(16名) 49名(18名) 73名(15名)
監査の有無 監査なし 監査なし 監査法人やまぶきの監査

第11期の売上高は325,786千円で、12か月決算だった第9期の281,222千円を上回っています。一方、損益を段階ごとに見ると、売上原価226,799千円の93.0%(211,027千円)が人件費で、販売費及び一般管理費143,507千円を差し引くと営業損失は44,520千円です。これを、補助金収入45,640千円を含む営業外収益49,273千円が補い、経常利益は4,666千円となっています。補助金収入の内容は「処遇改善加算交付金」「県市町村補助金」「人材開発支援助成金」等と注記されています。

同社は業績の概要で「さらなる事業拡大に向けて積極的に人材に投資を行って」いると説明しており、従業員数は第10期の49名から第11期の73名に増えています。特別損益では、前述の抱合せ株式消滅差損益のほか、原告との和解による損害賠償金3,134千円が特別損失に計上され、当期純損失は1,560千円でした。第10期には投資有価証券評価損20,000千円が計上されています。

売上高・経常利益・当期純損益の推移売上高経常利益0100,000200,000300,000400,000第9期第10期第11期281,222124,267325,78606,00012,00018,00024,000第9期第10期第11期22,33815,5794,66612か月5か月12か月当期純損益15,339△9,178△1,560

図7 単位:千円。第10期は決算期変更による5か月決算。第9期・第10期の財務諸表は監査を受けていない(発行者情報「主要な経営指標等の推移」注記)

第11期の損益の構造(売上高から経常利益まで)売上高325,786売上原価-226,799販管費-143,507営業外収益+49,273営業外費用-86経常利益4,666売上原価の93.0%は人件費(211,027千円)、販管費には役員報酬43,120千円を含む

図8 第11期(2024年6月1日〜2025年5月31日)の損益計算書をもとに作成。単位:千円。営業損失44,520千円を、補助金収入45,640千円を含む営業外収益49,273千円が上回り、経常利益4,666千円となった

上場準備会社が気をつけたいのは、営業外収益や特別損益の性質を説明できるようにしておくことです。補助金のように毎期発生し得るものと、和解金や評価損のような一時的なものを分けて説明できれば、業績の実力値を読み手が判断しやすくなります。なお、第9期・第10期の財務諸表は監査を受けていない旨が注記されています。TPMの上場では監査期間が「最近1年間」とされているため、監査済みの数値は第11期のみです。

キャッシュ・フローと借入金

第11期の営業活動によるキャッシュ・フローは△1,710千円でした。補助金の受取額44,100千円などで資金が増えた一方、税引前当期純損失や法人税等の支払額17,118千円などで減少しています。投資活動によるキャッシュ・フローは貸付金の回収4,130千円などで11,373千円の収入、財務活動によるキャッシュ・フローは長期借入金の返済で△1,820千円です。期末の現金及び現金同等物は193,959千円でした。

借入金は期末残高177,800千円、平均利率0.35%、返済期限は2026年〜2037年です。事業等のリスクでは、2025年5月末時点の外部借入の依存度が負債・純資産合計の61.6%であると開示しています。また、TPMの上場適格性の要件の一つとして上場予定日から12か月間の運転資金の確保が挙げられていますが、同社は「上場予定から12ヶ月間の運転資本は、自己資金及び借入による資金調達が可能であることから十分である」と記載しています。

長期借入金の返済予定(2025年5月31日)長期借入金 177,800千円(平均利率0.35%、返済期限2026年〜2037年)030,00060,00090,000120,0001年以内1〜2年2〜3年3〜4年4〜5年5年超9,81616,47217,59217,59217,59298,736外部借入の依存度は負債・純資産合計の61.6%(2025年5月末、事業等のリスク)

図9 発行者情報「金融商品関係」「借入金等明細表」をもとに作成。単位:千円

なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか:書類に理由の記載はない

まず事実として、ハートアップの発行者情報には、上場の目的やTPMを選んだ理由についての記載はありません。そのため本記事では、同社がTPMを選んだ理由を推測することはせず、一般論としてTPMにどのような特徴があるのかを整理します。

TPMは、2009年6月に開設されたTOKYO AIMを前身とし、2012年7月から東証が運営している、特定投資家等を対象とする市場です。JPXの説明によれば、株主数・流通株式・利益の額などの形式基準(数値基準)がなく、上場の可否は担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する仕組みです。一般投資家は取引所で株式を買い付けることはできませんが、保有している株式を売却することはできます。上場前の監査期間は「最近1年間」で、四半期開示や内部統制報告書は任意とされています。

なお、東証は2026年4月から、新規上場の際に「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請しています。これは規程上の義務ではなく「お願い」という位置づけです。ハートアップの書類は2026年2月4日の公表で、この要請が始まる前のものです。

TOKYO PRO Marketの主な特徴TOKYO PRO Market(特定投資家等を対象とする市場)株主数・流通株式・利益などの形式基準(数値基準)がない担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する一般投資家は買付けできない(保有株式の売却は可能)上場前の監査期間は「最近1年間」開示書類は特定証券情報・発行者情報(日本語又は英語)四半期開示・内部統制報告書は任意ハートアップの発行者情報には、上場目的やTPMを選んだ理由の記載はない

図10 JPXの「TOKYO PRO Market概要」「上場基準」「特定投資家制度の概要」等の公表資料をもとに作成

TOKYO PRO Marketの上場の仕組みを、ハートアップの書類で確かめる

J-Adviserの調査と上場適格性

TPMには一般市場のような形式基準はありませんが、「上場審査がない」わけではありません。JPXの上場ガイドブックでは、上場適格性要件として、①企業としての相応性(予算統制や上場予定日から12か月間の運転資金の確保などを含む)、②事業を公正かつ忠実に遂行していること、③企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制、④企業内容等の開示を適正に行える体制、⑤反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5つが示されています。

これを調査・確認するのが担当J-Adviserで、担当J-QS(J-Adviser資格者)が調査を行い、「上場適格性に係る宣誓書」を東証に提出します。申請の30営業日程度前までに東証へ意向表明を行い、東証との面談を経て上場申請に進み、東証は原則として申請から10営業日後に上場を承認します。ハートアップの場合、申請受付日が2026年2月4日、上場承認日が2026年2月19日でした。

TOKYO PRO Marketの上場手続の流れJ-Adviser契約の締結J-Adviserの調査・確認意向表明(申請の約30営業日前まで)上場申請(対外公表)上場承認原則、申請の10営業日後2026/2/42026/2/19申請前に、担当J-QS(J-Adviser資格者)による調査と東証との面談を経て申請に進む上場日2026年2月27日

図11 JPX「上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」の記載をもとに作成。日付はハートアップの実際の日程

上場時の書類が「発行者情報」になっている理由

TPMでは、特定投資家向け取得勧誘(いわゆるプロ私募)や特定投資家向け売付け勧誘等(いわゆる特定投資家私売出し)を行う場合、金融商品取引法27条の31に基づき「特定証券情報」を提供・公表します。上場時の特定証券情報は、一般市場の新規上場で用いられる有価証券届出書やⅠの部に相当する役割の書類です。

ところがハートアップの書類の表紙には、「上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表」すると書かれています。つまり同社は、上場時に株式の募集も売出しも行っておらず、新たな資金調達を伴わない上場です。書類の表題が「発行者情報」になっているのはそのためで、内容は、企業の概況、事業の状況、設備の状況、発行者の状況、経理の状況などの企業情報と、株式公開情報で構成されています。

上場後は、事業年度と中間会計期間のそれぞれの末日から3か月以内に「発行者情報」を作成・公表します。TPMでは書類名が「有価証券報告書」「半期報告書」ではない点も押さえておきましょう。書類の冒頭には、発行者情報の公表時の役員が、重要な事項の虚偽や欠落について損害賠償責任を負う旨の注意事項が置かれています。

J-Adviser契約は上場を維持する前提

同社は事業等のリスクの最後に「J-Adviserとの契約について」という項目を置き、契約の内容をかなり詳しく開示しています。TPMの上場会社は、特例第102条の定めにより、東証から認定を受けたいずれかのJ-Adviserと契約を締結する義務があると説明されています。

契約上、同社には、特例に定める上場会社の義務を履行し、J-Adviserに必要な協力をすること、取締役会や株主総会の資料、経営管理に関する資料などを遅滞なく提出すること、指導・助言に従って行動することが求められます。義務違反があれば1か月の期間を定めた書面の催告を経て解除でき、また書面による合意や1か月前の書面通知で、いつでも解約できる旨の定めもあります。さらに、債務超過、銀行取引の停止、破産・再生・更生手続、虚偽記載や不適正意見、発行者情報等の提出遅延、反社会的勢力の関与などが、催告なしに解除できる事由として①〜⑱の番号を付して列挙されています(このうち④は、再建計画を開示した場合には原則として解除しない旨の定めです)。代わりのJ-Adviserを確保できない場合などは上場廃止につながる可能性がある、という書き方です。

なお、本記事の執筆時点で、TPMの規程上、J-Adviser契約の解除後に新たなJ-Adviserと契約するまでの「必要な期間」が具体的に何か月なのかは確認できていないため、ここでは数字を挙げません。

J-Adviser契約の関係と契約の終了東京証券取引所担当J-Adviser日本M&Aセンターハートアップ(上場会社)資格認証・特定業務の委託上場契約・適時開示契約の締結・資料の提出適格性の調査・助言・指導契約の終了・義務違反:1か月の催告後に解除可・書面合意又は1か月前の書面通知で いつでも解約可催告なしの解除事由(①〜⑱)債務超過、銀行取引停止、破産手続等、虚偽記載・不適正意見、提出遅延、反社会的勢力の関与 など代わりのJ-Adviserを確保できない場合などは、上場廃止につながる可能性(同社の記載)

図12 発行者情報「事業等のリスク(J-Adviserとの契約について)」とJPXの「J-Adviser制度」の説明をもとに作成

一般市場(グロース・スタンダード)とは何が違うのか

TPMは、プライム・スタンダード・グロースの一般市場とは別の市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」と位置づけられています。「グロース市場の一種」ではありません。主な違いをJPXの公表資料に基づいて表にまとめます。

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
主な投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可) 一般投資家を含む投資家全般
形式基準 なし(株主数・流通株式・利益の額などの数値基準がない) 株主数・流通株式などの形式基準あり
上場適格性の調査・審査 担当J-Adviserが調査・確認し、東証が申請から原則10営業日後に承認 東証の上場審査
上場前の監査期間 最近1年間 直前2期
上場時の開示書類 特定証券情報(勧誘を行わない場合は発行者情報に相当する情報) 有価証券届出書、Ⅰの部など
上場後の定期開示 発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) 有価証券報告書・半期報告書
四半期開示 任意 取引所規則に基づく四半期決算短信
内部統制報告書 任意 提出が必要
会計基準・開示言語 日本基準・米国基準・IFRS等、日本語又は英語 日本基準・米国基準・IFRS等
上場維持の前提 担当J-Adviserとの契約の維持 上場維持基準への適合

表のとおり、TPMは「入口の数値基準」がない代わりに、J-Adviserが上場前から上場後まで継続的に関与する仕組みです。上場前の監査期間が1年で足りる点や、四半期開示・内部統制報告書が任意である点は、管理部門が小規模な会社にとって準備の負担を抑えられる要素です。一方で、上場会社としての適時開示の義務はTPMでも同様にあり、決算情報や担当J-Adviserの異動などは適時開示の対象です。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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資本政策と株主構成:株主2名のまま上場

ハートアップの株主は、発行者情報の公表時点で2名です。代表取締役管理本部長の天童淑巳氏が21,600株(60.00%)、代表取締役の辻榮勇人氏の資産管理会社である子どもの未来を明るくする株式会社が14,400株(40.00%)を保有しています。役員の状況では、辻榮氏の所有株式数14,400株は資産管理会社が保有する株式数を含むと注記されています。新株予約権(ストック・オプション)、自己株式、種類株式はなく、第三者割当等による株式の発行もありません。

上場前の株式の動きとしては、2025年5月21日に辻榮勇人氏から資産管理会社へ株式72株(株式分割前)が移動しています。価格は1,800,000円(単価25,000円)で、「当事者間での協議の上決定した価格」、移動理由は「移動前所有者の資産管理の一環」と記載されています。発行者情報の注記では、特例第115条等により、上場日から5年間、2023年6月1日から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式等の移動の状況について記録を保存することとされている旨が説明されています。

さらに、2025年11月12日付で普通株式1株を200株に分割し(発行済株式180株→36,000株、発行可能株式総数は144,000株)、同日の臨時株主総会決議で100株を1単元とする単元株制度を導入しています。株式分割の目的は「当社株式の流通性向上」です。

株主構成と上場前の株式の動き天童 淑巳(代表取締役管理本部長)21,600株 60.00%子どもの未来を明るくする㈱14,400株 40.00%代表取締役 辻榮勇人氏の資産管理会社上場前の株式の動き2025年5月21日代表取締役から資産管理会社へ72株(単価25,000円)を移動2025年11月12日1株を200株に分割発行済180株→36,000株2025年11月12日単元株制度を導入1単元=100株(360単元)株主2名・新株予約権なし・第三者割当なし・自己株式なし(発行者情報公表日現在)

図13 発行者情報「株主の状況」「特別利害関係者等の株式等の移動状況」「株式の総数等」をもとに作成。持株比率は発行者情報公表時点(2026年2月4日時点の記載)

項目 内容(発行者情報の記載)
発行済株式数 36,000株(2025年11月12日の1株→200株の分割後)
発行可能株式総数 144,000株
単元株式数 100株(議決権の数360個)
株主数・所有者別 2名(その他の法人1名40.00%、個人その他1名60.00%)
新株予約権・自己株式 いずれも該当なし
第三者割当等 該当なし
上場前の株式移動 2025年5月21日、代表取締役から資産管理会社へ72株(単価25,000円、分割前)
配当 実績なし。継続的かつ安定的な実施を基本方針とし、中間配当を取締役会決議で行える旨を定款に規定

一般市場では、流通株式の数や比率、株主数などの形式基準を満たすために、上場時の公募・売出しで株主を増やすのが通常です。TPMにはこうした数値基準がないため、本件のように株主2名・資金調達なしで上場する形も取り得ます。ただし、上場前の株式の移動価格や移動理由は開示の対象になります。資本政策の基本と、上場前の株式移動の考え方は 上場準備の資本政策、上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約) で解説しています(いずれも一般市場を前提とした記事です)。

コーポレート・ガバナンス:取締役会5名と社外監査役1名

ハートアップは監査役設置会社で、取締役会は5名(うち社外取締役2名)、監査役は社外監査役1名です。監査役会や委員会の記載はありません。役員は男性5名・女性1名(女性比率16.7%)で、代表取締役が2名いるのが特徴です。

役職 氏名 主な経歴(発行者情報の記載から抜粋)
代表取締役 辻榮 勇人 宮城県警、医療法人松田会を経て2015年2月の当社設立時に入社、2017年4月から代表取締役
代表取締役 管理本部長 天童 淑巳 ㈱ハウスドゥ専務取締役、㈱フォーシーズHD代表取締役社長などを経て2024年8月から現職(2015年2月に当社代表取締役の経歴あり)
取締役 放課後等デイサービス事業部長 辻榮 彩 病院勤務を経て当社入社、2024年8月から取締役。代表取締役 辻榮勇人氏の妻
取締役(社外) 杉野 貴彦 ㈱リクルート、㈱日本介護福祉グループなどを経て㈱ダンデライオン代表取締役(現任)
取締役(社外) 藤 優之 福岡監査法人、トーマツコンサルティング、福岡県庁、複数社の取締役CFOなどを経て㈱バリューアップファクトリー代表取締役(現任)
監査役(社外) 柄目 貴弘 中小企業金融公庫、㈱日本M&Aセンターなどを経て、複数社の代表取締役(現任)

取締役会は毎月1回の定例取締役会と必要に応じた臨時取締役会で運営され、取締役は業務執行状況を取締役会に報告し、取締役会がこれを監督するとされています。社外取締役2名については「特別な利害関係を有しておらず、一般株主との利益相反のおそれはありません」と記載され、社外監査役も人的関係・資本的関係・取引関係その他の利害関係はないとされています。一方、社外役員の独立性に関する基準や方針は特に定めていない、とも明記されています。

役員報酬は、2025年5月期に取締役(社外取締役を除く)3名に38,120千円、社外役員3名に5,000千円で、いずれも基本報酬のみです。定款では、取締役の員数を3名以上、監査役を1名以上と定め、取締役会決議による自己株式の取得や中間配当、取締役・監査役の責任免除、社外監査役との責任限定契約などを規定しています。

TPMについては、一般市場のような機関設計の形式要件は示されておらず、JPXは「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」と説明しています。ただし、上場適格性要件では、企業の規模や成熟度等に応じてガバナンスと内部管理体制が整備・機能していることが求められ、J-Adviserが取締役会や監査役の運営状況を調査します。なお、代表取締役の配偶者が取締役に就いています。また同社は、事業等のリスクで代表取締役への依存を挙げ、権限委譲や役員・幹部社員の情報共有を通じて過度に依存しない体制の整備を進めていると記載しています。機関設計の考え方は IPO審査の「機関設計」とは もご参照ください。

ハートアップの機関設計株主総会取締役会(5名)社内3名・社外2名/毎月1回監査役(1名・社外)監査役規程に基づく監査選任選任監査代表取締役 2名辻榮 勇人・天童 淑巳管理本部放課後等デイサービス事業部監査法人やまぶき特例110条5項に基づく監査連携社外役員3名(社外取締役2名・社外監査役1名)

図14 発行者情報「役員の状況」「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成

内部監査・内部統制:管理本部と業務部門の相互監査

小規模な会社の内部監査で必ず問題になるのが、内部監査を担う部署が自分自身を監査してしまう「自己監査」をどう避けるかです。ハートアップでは、管理本部が内部監査の主管部署として業務部門を監査し、管理本部自体の監査は業務部門が行う「相互に牽制する体制」としています。監査結果と改善点は内部監査担当者から代表取締役と被監査部門に報告され、必要に応じて改善を指示し、改善状況を継続的に確認するとされています。

三様監査の連携については、内部監査担当者が監査法人と定期的に面談して情報を共有し、監査役は内部監査担当者から随時報告を受けるとともに、代表取締役や監査法人と定期的に意見交換を行うと記載されています。内部統制については、職務権限規程の遵守によって業務を分担し、特定の組織や担当者に権限が集中しないよう内部牽制を働かせる、という説明です。リスク管理は管理本部が主管部署として情報を一元化し、必要に応じて弁護士等の専門家の助言を受ける体制です。

事業面の統制として、事業等のリスクには、全施設の定期的な巡回による運営基準の遵守状況の確認、報酬請求の相互チェックによる過誤請求の予防、内部監査による再確認・改善指導が挙げられています。公的報酬の請求は売上そのものですから、請求の正確性を確かめる統制は内部監査の重点項目になります。内部監査の担当者と兼務の考え方は 内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、三様監査は 監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査) で詳しく解説しています。

内部監査の相互牽制と三様監査の連携管理本部(内部監査の主管部署)業務部門業務部門を監査管理本部を監査代表取締役結果の報告・改善指示内部監査担当者監査役監査法人やまぶき随時報告意見交換定期的な面談(情報共有)定期的に意見交換

図15 発行者情報「内部監査及び監査役の状況」をもとに作成

会計・開示の論点:収益認識、繰延税金資産、監査

財務諸表は財務諸表等規則に基づき、特例第110条第6項で認められた会計基準のうち日本の会計基準に準拠して作成されています。TPMでは日本基準のほか、米国基準やIFRSなども採用できますが、同社は日本基準です。

収益認識の方針は2つに分かれています。主な履行義務である放課後等デイサービスの役務の提供は、役務の提供時点で収益を認識します(一時点で移転されるサービス:第11期318,636千円)。一方、放課後等デイサービス事業のコンサルティング(ノウハウの提供)は、時の経過に伴い履行義務が充足されるため、契約期間にわたり期間按分して収益を認識しています(一定期間にわたり移転されるサービス:同7,150千円)。顧客との契約から生じた債権は期首56,401千円、期末62,137千円です。

売掛金の回収状況も開示されており、第11期の回収率は85.42%、滞留期間は59.17日です。公的報酬は請求から入金までのサイクルが比較的定型的なため、請求データと入金の照合が収益の実在性を確かめる基本的な手続になります。収益認識の論点は 上場審査で問われる収益認識 でも整理しています。

収益を認識する時点放課後等デイサービスの役務提供(主な履行義務)役務の提供時点で収益を認識一時点:318,636千円放課後等デイサービス事業のコンサルティング(ノウハウ提供)契約期間にわたり期間按分一定期間:7,150千円役務の提供報酬の請求(相互チェック)国保連等からの入金期末売掛金55,025千円

図16 発行者情報「重要な会計方針(重要な収益及び費用の計上基準)」「収益認識関係」「主な資産及び負債の内容」をもとに作成。金額は第11期

重要な会計上の見積りとして挙げられているのは、繰延税金資産の回収可能性です。繰延税金資産は将来の事業計画に基づく課税所得の発生時期と金額で見積もっており、評価性引当額7,216千円を控除した純額は3,701千円です。防衛特別法人税の創設に伴い、2026年6月1日以後に開始する事業年度以降に解消が見込まれる一時差異については法定実効税率を34.09%から34.94%に変更しており、影響は軽微とされています。

未適用の会計基準として、新しいリース会計基準(企業会計基準第34号等)を2028年5月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中と記載されています。事業所の賃借を伴う事業では、適用時に使用権資産とリース負債の計上が論点になり得ます。

会計監査は監査法人やまぶきで、業務を執行した公認会計士は2名(継続監査年数はいずれも7年以内)、補助者は公認会計士4名・その他2名です。監査証明業務に基づく報酬は6,600千円で、非監査業務の報酬はありません。関連当事者情報は「重要性が乏しいため」記載が省略されています。監査法人の選定時期については 監査法人はいつまでに決めるか をご覧ください。

事業等のリスクと、上場準備で問われやすい点

事業等のリスクは16項目です。法的規制等、人材の確保、個人情報保護、競合、自然災害・感染症、事業所における事故、訴訟、事業所展開、特定人物への依存、法令違反・法改正、風評、有利子負債、内部管理体制の構築・拡充、知的財産権、配当政策、J-Adviserとの契約が並びます。

このうち内部管理体制について、同社は「小規模な組織となっており、内部管理体制もそれに応じたものとなって」いると率直に書いたうえで、事業拡大に応じた体制の構築・拡充を重点事項とする方針を示しています。対処すべき課題でも、提供サービスの品質向上、人材の確保と育成、関係法令の遵守と内部管理体制の強化(管理部門の人材採用や内部監査の実施)が挙げられています。

TPMの上場適格性要件には「企業の規模や成熟度等に応じて」ガバナンスと内部管理体制が整備・機能していることが含まれます。規模に見合った体制であることを説明しつつ、成長に応じた拡充の方針を示すという書き方は、TPMを目指す会社にとって参考になります。

事業等のリスクの全体像(16項目)制度・規制人材・組織事業運営財務・市場法的規制等(指定・報酬改定・定員超過)法令違反・法改正個人情報保護人材の確保特定人物への依存内部管理体制の構築・拡充事業所での事故訴訟・風評自然災害・感染症競合事業所展開知的財産権有利子負債(依存度61.6%)配当政策J-Adviserとの契約巡回による基準の確認、報酬請求の相互チェック、内部監査などの対応もあわせて記載

図17 発行者情報「事業等のリスク」の見出しを4つに分類して作成(分類は筆者による)

一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆

ハートアップの発行者情報には、将来の一般市場への上場(市場変更)についての記載はありません。そのため、同社の今後について述べることはせず、TPMから一般市場への上場を考える会社にとっての一般的なポイントだけを整理します。

まず、TPMから一般市場へ移る場合は、市場区分の変更ではなく、TPMでの申請による上場廃止と一般市場への新規上場として扱われます。実例として、AlbaLink(5537)は2025年12月14日にTPMを上場廃止となり、翌15日にグロース市場に新規上場しています。東証の資料では、TPMから一般市場への上場の審査は非上場企業と同様に一から確認が行われ、相応の負担があるという現状認識が示されており、2026年秋をめどにTPMでの実績を勘案した審査の効率化を予定していると公表されています(本記事の執筆時点で実施済みかどうかは確認できていません)。

次に、一般市場では直前2期の監査、形式基準、内部統制報告書などが求められます。TPMの上場時に監査が直前1期だけの会社は、一般市場を視野に入れるなら、監査期間を早めに積み上げておく必要があります。ハートアップの事例でいえば、決算期変更や子会社の合併による単体化は、どの市場を目指す場合にも決算・監査の範囲を整理する準備として参考になります。一般市場の審査の考え方は IPOの実質審査基準とは で解説しています。

上場準備会社が学べること

ハートアップの書類から、上場準備会社が実務に生かせる点を6つにまとめます。

1.資金調達を伴わない上場の形がある。同社は特定投資家向けの勧誘を行わず、特例第110条第3項に基づき発行者情報に相当する情報を公表して上場しました。上場の目的が資金調達以外にある場合の選択肢として、制度を正確に理解しておく価値があります。

2.監査は直前1期から始まる。監査済みの財務諸表は第11期だけで、第9期・第10期は監査を受けていない旨が注記されています。TPMの「最近1年間」の監査期間を前提にしても、監査法人との契約と初年度監査の準備は早めに進める必要があります。

3.上場直前に株式の単位を整える。1株を200株に分割し、単元株制度を導入して、上場会社として売買できる株式の単位を整えています。

4.小さな組織でも自己監査を避ける工夫ができる。管理本部と業務部門が互いを監査する形は、専任の内部監査室を置けない規模の会社でも採用しやすい方法です。

5.規制リスクは数字で書く。指定の6年更新、報酬の3年ごとの改定、定員超過の減算基準(150%・130%・125%)を具体的に書くことで、読み手がリスクの大きさを判断できます。

6.J-Adviser契約は上場維持の前提。契約上の義務や解除事由を把握し、資料提出や指導への対応を日常業務に組み込んでおくことが、上場後の安定につながります。

ハートアップの事例から学べること資金調達を伴わない上場の形がある監査は直前1期から(第11期のみ監査)上場直前の株式分割と単元株制度の導入小さな組織でも相互監査で自己監査を回避公的報酬モデルの規制リスクを開示J-Adviser契約が上場維持の前提

図18 本記事の整理による

  • 上場の目的(資金調達の有無を含む)と、TPMと一般市場のどちらが合うかを整理しているか
  • 直前期の財務諸表について、監査法人と監査契約を結び、初年度監査の準備ができているか
  • 子会社や関係会社を含めた決算・監査・開示の範囲を、合併等も含めて整理しているか
  • 許認可や公的報酬に関するリスクを、基準や数値を示して説明できるか
  • 内部監査で自己監査を避ける体制(相互監査や外部委託)を決めているか
  • J-Adviserに提出する資料(取締役会・株主総会資料、経営管理資料)を遅滞なく出せる運用になっているか

よくある質問

Q1. TOKYO PRO Marketには上場審査がないのですか?

いいえ。株主数や利益の額といった形式基準(数値基準)はありませんが、担当J-Adviserが5つの上場適格性要件を調査・確認し、東証も意向表明後に面談を行います。そのうえで東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認します。

Q2. ハートアップは上場で資金を調達したのですか?

発行者情報の表紙には、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しない旨が記載されています。株式の募集・売出しを行わない上場であり、書類も「発行者情報」に相当する情報として公表されています。

Q3. TPMに上場すると、一般投資家は株式を買えないのですか?

一般投資家は取引所で株式を買い付けることはできませんが、保有している株式を売却することは可能です。TPMは特定投資家等を対象とする市場と位置づけられています。

Q4. TPMに上場した会社は、そのまま市場変更でグロース市場に移れますか?

市場区分の変更ではなく、TPMを申請により上場廃止し、一般市場に新規上場する扱いです。一般市場の上場審査を受ける必要があり、直前2期の監査などの準備も必要になります。

最初の一歩は、上場の目的と市場を言葉にすること

TPMと一般市場では、監査期間、開示書類、投資家の範囲、上場後の義務が大きく異なります。まずは「何のために上場するのか」「資金調達は必要か」「将来どの市場を目指すのか」を経営陣で言葉にし、それに合わせて監査法人やJ-Adviser、主幹事証券など関与する専門家を選ぶことが、準備の遠回りを防ぐ第一歩です。現状の課題を洗い出す方法としては ショートレビューとは も参考になります。

まとめ

株式会社ハートアップは、サッカー療育を核とする放課後等デイサービス事業を営む福岡県久留米市の会社で、2026年2月4日の申請受付、2月19日の上場承認を経て、2026年2月27日にTOKYO PRO Marketに上場しました。担当J-Adviserは日本M&Aセンターです。上場に際して特定投資家向けの勧誘は行わず、株主2名のまま、監査済みの直前1期の財務諸表で上場しています。

書類からは、売上の95.2%を3県の国保連向けが占める公的報酬モデルと、その規制リスクの具体的な開示、子会社の吸収合併による単体化と決算期変更、上場直前の株式分割と単元株制度の導入、管理本部と業務部門の相互監査、J-Adviser契約の解除事由まで、TPM上場の準備の要点を読み取ることができます。TPMを検討する会社は、本記事のチェックリストで準備状況を確認してみてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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