デジタル・ナレッジのTOKYO PRO Market上場|公募なし・1期監査の上場設計【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

※本記事は、株式会社デジタル・ナレッジが東京証券取引所に提出・公表した「発行者情報」(2026年1月23日公表)及び「訂正発行者情報」(2026年2月16日公表)の公開情報と、日本取引所グループ(JPX)が公表しているTOKYO PRO Marketの制度資料に基づき、上場準備の実務解説を目的として作成したものです。投資の勧誘を目的とするものではありません。

株式会社デジタル・ナレッジ(証券コード507A)は、2026年1月23日に上場申請が受け付けられ、2月6日に上場承認を受けて、2026年2月20日に東京証券取引所のプロ向け市場であるTOKYO PRO Market(TPM)に上場しました。担当J-Adviserは株式会社SBI証券です。1995年12月に設立されたeラーニングの会社で、自社開発の学習管理システム(LMS)「KnowledgeDeliver」を中核に、学校・塾・スクール・企業内研修部門などの教育事業者へシステムとサービスを提供しています。ウズベキスタンでは子会社が私立大学(JDU大学)を運営しています。本記事では、同社が上場時に公表した書類を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が参考にできるポイントを整理します。

結論からいえば、デジタル・ナレッジの事例は「公募・売出しを行わず、発行者情報の形で上場時の情報を公表してTPMに上場した会社」が、1期分の監査、従業員持株会への自己株式の処分と継続所有の確約、内部監査人3名による相互監査、海外子会社の減損といった論点をどう開示したかを学べる事例です。本シリーズは通常「特定証券情報」を読み解きますが、同社は上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を実施しないため、特定証券情報ではなく「発行者情報に相当する情報」を公表しています。この違いも含めて、TPM上場の実務を具体的に見ていきます。

デジタル・ナレッジとTOKYO PRO Market上場の概要

まず、会社と上場の基本情報を確認します。同社の決算期は11月で、上場時の書類には第29期(2023年12月1日〜2024年11月30日)の連結財務諸表と、第30期中間連結会計期間(2024年12月1日〜2025年5月31日)の中間連結財務諸表が掲載されています。グループは当社と連結子会社Japan Digital University LLC.(ウズベキスタン共和国タシケント市、議決権所有割合100%)の2社で構成されています。

項目 内容
会社名 株式会社デジタル・ナレッジ(Digital Knowledge Co., Ltd.)
証券コード 507A
市場 TOKYO PRO Market(東京証券取引所)
申請受付日 2026年1月23日
上場承認日 2026年2月6日
上場日 2026年2月20日
担当J-Adviser 株式会社SBI証券
上場時の公表書類 発行者情報(2026年1月23日)、訂正発行者情報(2026年2月16日)
公募・売出し なし(特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しない)
本店所在地 東京都台東区上野五丁目3番4号
設立 1995年12月(テレコム学習ネットワーク有限会社として設立。2000年1月に株式会社へ組織変更)
代表者 代表取締役社長兼CEO 𡌶 弘明
決算期 11月
事業 教育DX事業(eラーニング)、教育輸出事業(ウズベキスタンでの大学運営)
従業員数 連結232名、単体179名(2025年11月30日現在)
監査法人 EY新日本有限責任監査法人

上場までの日程を並べると次のとおりです。監査報告書と期中レビュー報告書はいずれも2026年1月15日付で、その後1月23日に申請受付と発行者情報の公表、2月6日に上場承認、2月16日に訂正発行者情報の公表、2月20日に上場という流れでした。

デジタル・ナレッジの上場までの日程(2026年)1月15日監査報告書・レビュー報告書1月23日申請受付・発行者情報公表2月6日上場承認2月16日訂正発行者情報公表2月20日TPM上場申請受付から上場承認まで14日、上場承認から上場日まで14日(いずれも暦日での計算)公募・売出し(特定投資家向け取得勧誘等)は行わずに上場

図1 監査報告書・期中レビュー報告書の日付から上場日までの流れ。日付は発行者情報・訂正発行者情報及びJPXの新規上場会社情報による

単体の従業員179名の平均年齢は40.9歳、平均勤続年数は8.4年、平均年間給与は6,101千円です。連結の従業員232名のうち62名は教育輸出事業に所属しています(うち9名は当社の従業員)。労働組合は結成されていません。

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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

上場準備会社にとって最も気になるのは「なぜ一般市場ではなくTPMだったのか」という点でしょう。ただし、同社の発行者情報には、TPMを選んだ理由や上場の目的を説明した記載は見当たりません。表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」に、2026年2月20日にTPMへ上場する予定であること、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことが書かれているのみです。そのため本記事では、同社がTPMを選んだ理由は推測せず、TPMという市場の一般的な特徴を整理するにとどめます。

JPXの説明によれば、TPMには株主数・流通株式・利益の額といった形式基準(数値基準)がなく、柔軟なガバナンス設計による上場も可能とされています。上場前の監査期間は「最近1年間」で、開示言語は英語又は日本語を選べます。一方で、TPMは特定投資家等を対象とした市場であり、一般投資家は取引所で株式を買い付けることができません(保有株式の売却は可能です)。

なお、東証は2026年4月から、TPMに新規上場する会社に対して「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請しています。これは東証の「お願い」であり、規程上の義務ではありません。同社の上場はこの要請の開始前(2026年2月)であり、上場時の発行者情報にも上場目的の記載はありません。これからTPM上場を検討する会社は、上場目的を言語化しておくことが実務上ますます重要になります。

TOKYO PRO Marketの上場の仕組み

ここからは、TPMの上場の仕組みを、同社の書類の記載に即して確認します。制度の説明はJPXの公表資料の範囲にとどめます。

J-Adviserが上場適格性を調査する

TPMの最大の特徴は、J-Adviser制度です。ロンドン証券取引所AIMのNomad制度を参考にした仕組みで、東証が資格認証したJ-Adviserが、上場前の上場適格性の調査・確認、上場後の適時開示の助言・指導、上場維持要件への適合状況の調査を担います。同社の発行者情報の「投資者に対する注意事項」でも、TPMではJ-Adviserが重要な役割を担い、その役割には上場適格性要件に関する助言及び指導、上場申請手続のマネジメントが含まれると説明されています。

「形式基準がない=審査がない」と誤解されがちですが、そうではありません。担当J-Adviserが上場適格性要件(企業としての相応性、事業の公正かつ忠実な遂行、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制、企業内容等の開示を適正に行える体制、反社会的勢力との関係がないことその他公益又は投資者保護の観点)を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成して東証に提出します。東証も意向表明の後に面談を行います。上場申請から原則10営業日後に上場承認という短い期間は、申請前にJ-Adviserの調査と意向表明(申請日の30営業日程度前まで)が済んでいることが前提です。

TOKYO PRO Marketの上場手続と上場適格性要件J-Adviser契約・調査意向表明申請の約30営業日前まで上場申請特定証券情報等を公表上場承認原則申請から10営業日後上場日担当J-Adviser(J-QS)が上場適格性を調査・確認し「上場適格性に係る宣誓書」を作成東証も意向表明後に面談を行う(「審査がない市場」ではない)上場適格性要件(5項目)企業としての相応性事業の公正・忠実な遂行ガバナンス・内部管理体制適正な開示を行える体制反社会的勢力との関係なし等

図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

同社の書類からは、適格性要件の一つである運転資金の確保に対応する記載も読み取れます。「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」には、上場予定日(2026年2月20日)から12か月間の運転資本は自己資金で十分であると認識している旨が記載されています。

特定証券情報と発行者情報

TPMの開示書類は、一般市場の有価証券届出書・有価証券報告書とは異なり、金融商品取引法27条の31以下の「特定証券情報」と「発行者情報」です。特定投資家向け取得勧誘や特定投資家向け売付け勧誘等(いわゆるプロ私募・特定投資家私売出し)を行う発行者は、勧誘時までに特定証券情報を提供又は公表する必要があります。上場後は、事業年度と中間会計期間のそれぞれについて、期末後3か月以内に発行者情報を作成・公表します。

同社の場合、表紙に「上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表いたします」と記載されています。つまり、資金調達や株主の売出しを伴わない上場であったため、上場時の書類は「発行者情報」という名称で公表されました。書類の構成は、企業情報(企業の概況、事業の状況、設備の状況、発行者の状況、経理の状況)に加えて、第四部「株式公開情報」(特別利害関係者等の株式等の移動状況、第三者割当等の概況、株主の状況)を含んでいます。

上場時の開示書類はどう決まるか(当社のケース)上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行うか行う場合特定証券情報を提供・公表(金融商品取引法27条の31)当社:行わない特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表上場後は年次・中間の発行者情報を、各期末後3か月以内に公表(年2回)財務諸表には監査証明、中間は期中レビュー等の結論が必要行う行わない

図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成

書類の冒頭には、発行者情報の公表時の役員が、重要な事項についての虚偽や欠落について、金融商品取引法27条の34で準用する22条に基づき損害賠償責任を負う旨の注意事項が置かれています。プロ向け市場の簡素な開示であっても、記載の正確性に対する責任は重いことを意識しておく必要があります。

監査は「最近1年間」

TPMの上場前の監査期間は最近1年間です。同社の主要な経営指標等の推移の注記にも、特例第110条第5項の規定に基づき、第29期の連結財務諸表についてはEY新日本有限責任監査法人の監査を受けているが、第27期及び第28期の連結財務諸表については当該監査を受けていない、と明記されています。第30期中間連結財務諸表については期中レビューを受けています。監査報告書の「その他の事項」にも、2023年11月期の連結財務諸表は監査されていない旨が記載されています。

監査期間が1年で足りるといっても、監査自体が不要になるわけではありません。財務書類には監査法人による無限定適正意見(中間は期中レビュー等の結論)が必要です。上場後も、年次と中間の発行者情報の財務諸表には監査証明やレビューが求められる建付けであり、監査法人の選定と決算体制の整備は一般市場と同様に早めに着手すべき事項です(監査法人はいつまでに決めるか)。

特定投資家向けの市場であること

TPMは金融商品取引法上の「特定取引所金融商品市場」で、上場株式は特定投資家向け有価証券として扱われます。買付けができるのは特定投資家等(適格機関投資家、上場会社・資本金5億円以上の株式会社等、一定の要件を満たし特定投資家へ移行した個人など)と非居住者で、一般投資家は買付けができません。同社の書類の注意事項にも「TOKYO PRO Marketは、特定投資家等を対象とした市場」であり、投資者は自らの責任で投資を行う必要があると書かれています。

一般市場(グロース・スタンダード)との違い

上場準備会社がTPMと一般市場を比較する際の主な違いを、JPXの公表資料に基づいて整理します。数値基準の有無だけでなく、審査の主体、開示書類、監査期間、上場維持の前提となる契約などが異なります。

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
市場の位置づけ 特定取引所金融商品市場(特定投資家等向け) 一般投資家も売買できる市場
買付けできる投資家 特定投資家等・非居住者(一般投資家は買付け不可、売却は可) 制限なし
形式基準(数値基準) なし 株主数・流通株式などの数値基準あり
上場適格性の調査 担当J-Adviserが調査・確認(東証も面談) 取引所の上場審査(主幹事証券の引受審査も行われる)
上場申請から承認 原則10営業日(申請前に意向表明が必要) 取引所の審査期間を経て承認
上場前の監査期間 最近1年間 直前2期(一般的な取扱い)
開示書類 特定証券情報・発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) 有価証券届出書・有価証券報告書・半期報告書
四半期開示 任意 取引所規則上の四半期決算短信
内部統制報告書 任意 提出が必要
会計基準・言語 日本基準・米国基準・IFRS等/英語又は日本語 日本語での開示が基本
CGコード JPXの適用対象の記載なし スタンダードは全原則、グロースは基本原則
上場維持の前提 J-Adviser契約の維持 J-Adviser契約は不要

表のとおり、TPMは一般市場より負担を抑えた設計になっています。ただし、上場適格性要件として「企業の規模や成熟度等に応じた」コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の整備・運用が求められること、適時開示の義務があることは変わりません。一般市場の上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で整理していますので、比較の参考にしてください。

事業内容と収益モデル

同社グループは、ITを活用して教育を流通する「学びの架け橋」を作ることを掲げ、教育DX事業と教育輸出事業の2つのセグメントで事業を行っています。教育DX事業は当社が、教育輸出事業はウズベキスタンの子会社Japan Digital University LLC.(以下「JDU」)が担います。

デジタル・ナレッジグループの事業モデルデジタル・ナレッジ自社開発LMS「KnowledgeDeliver」を中核に提供教育DXライセンス期間で収益認識教育DXインテグレーション検収時点で収益認識教育事業者学校・塾・スクール通信教育・出版社企業内研修部門Japan DigitalUniversity LLC.(ウズベキスタン)JDU大学の運営通常学費20%後払学費80%JDU大学の学生(在籍768名)セグメント:教育DX事業(当社)/教育輸出事業(Japan Digital University LLC.)

図4 発行者情報「事業の内容」「重要な収益及び費用の計上基準」をもとに作成

教育DX事業:4階層のインテグレーションモデル

教育DX事業では、自社開発のLMS「KnowledgeDeliver」と主要パッケージ製品を基幹システムとして、教育事業者にeラーニングサービスを提供するBtoBビジネスを展開しています。同社はこれを「インテグレーション4階層モデル」と呼び、全顧客共通の基幹システムから個別ニーズに合わせた専門開発までを組み合わせて提供しています。

階層 区分 主なサービス 主な売上区分
第1階層 基幹システム LMS「KnowledgeDeliver」「ナレッジデリ」(教材作成・学習・運用管理の3大機能) 教育DXライセンス
第2階層 各種モジュール 動画教材「Video+」、Web会議連携、受講者対応の自動化(AMS)、顔認証、アシスタントAI、デジタルバッジ 教育DXライセンス
第3階層 機能拡張セミオーダー 二段階認証、就業時間受講制御、オンラインCBT、IRT、外部システム連携 教育DXインテグレーション
第4階層 個別カスタマイズ 顧客ニーズに基づく大小様々なシステムカスタマイズ 教育DXインテグレーション

売上は「教育DXライセンス」と「教育DXインテグレーション」に区分されます。ライセンスは、LMSに用途別モジュールをオプション提供して計上するライセンス運用・保守売上で、クラウドや専用サーバー等の環境提供も含みます。インテグレーションは、導入時の機能拡張セミオーダーや個別カスタマイズの開発受注のほか、コンテンツ制作、操作説明会、ICT機材の調達等の売上です。事業の特徴として、自社開発のためカスタマイズ対応力が高いこと、LMSを年4回バージョンアップし顧客は追加料金なく最新版を使えること、システム・教育・市場の3つのノウハウを持つこと、ワンストップでサービスを提供できることが挙げられています。主要な販売先は、いずれも総販売実績の10%未満であり、特定顧客への依存はないと読めます。

教育輸出事業:JDU大学の運営

教育輸出事業では、JDUがウズベキスタンで私立大学(JDU大学)を運営し、日本の通信制大学6校及びウズベキスタン国立世界言語大学と提携して授業を提供しています。学生は最大で3つの大学の卒業資格を取得できます。特徴的なのは学費の構造で、学生の負担を軽減するため、在校中に支払う通常学費(学費総額の20%)と、卒業・就業後に支払う後払学費(学費総額の80%)で構成されています。

JDU大学の学費の構造と滞納の状況通常学費20%後払学費80%(卒業・就業後に支払)在校中に支払う通常学費役務提供期間にわたり収益認識(会計方針の記載)卒業・就業後に回収在学中での売上計上を「検討することになります」(リスク)滞納の状況:在籍768名中702名が通常学費を滞納滞納総額7,919百万スム(102百万円)、滞納率16.4%(リスクの発生可能性「高」)

図5 発行者情報「事業の内容」「事業等のリスク」「重要な収益及び費用の計上基準」をもとに作成

この構造は、売上と資金回収の両面で論点になります。事業等のリスクでは、在籍768名のうち702名が通常学費を滞納し、滞納総額は7,919百万スム(102百万円)、滞納率は16.4%と開示され、発生可能性は「高」とされています。後払学費については「会計ルールに基づき在学中での売上計上を検討することになります」と記載されており、回収が卒業・就業後になることがリスクとして示されています。

沿革と上場までの道のり

同社は1995年12月、eラーニングシステム開発のためにテレコム学習ネットワーク有限会社として東京都渋谷区で設立され、2000年1月に株式会社へ組織変更して現在の商号になりました。2003年7月にLMS「KnowledgeDeliver」の販売を開始し、2005年にASPサービス「ナレッジデリ」、2010年に「DKクラウド」、2012年に動画教材配信「Video+」とサービスを広げてきました。

デジタル・ナレッジの沿革(主な出来事)会社の節目1995年12月テレコム学習ネットワーク設立2000年1月株式会社化・商号変更2003年7月LMS販売開始(KD)2020年7月JDU LLC.設立ウズベキスタン2026年2月20日TPM上場サービスの節目2005年2月ASP「ナレッジデリ」2010年7月「DKクラウド」開始2023年4月オープンバッジの「Skill+」開始2024年7月アシスタントAIサービス開始

図6 発行者情報「沿革」から主な項目を抜粋

グループの組織再編の履歴も沿革から読み取れます。2015年に設立した株式会社N-Academyと2016年に設立した株式会社デジタル・ナレッジ教育テクノロジ研究所は2019年9月に吸収合併し、一部の会社は全株を売却しています。2020年7月にはウズベキスタンにJDUを設立し、現在の2社体制になりました。上場準備では、グループ会社の位置付けを整理しておくことが重要です。同社は、持分法を適用しない関連会社(株式会社デジタル・エデュケーショナル・サポート)について、影響が軽微であるため持分法の適用範囲から除外していると説明しています。

業績の推移と読み方

主要な経営指標等の推移は次のとおりです。第27期・第28期は監査を受けていない数値である点に注意が必要です(監査を受けているのは第29期の連結財務諸表、期中レビューを受けているのは第30期中間連結財務諸表)。

項目(千円) 第27期(2022年11月期) 第28期(2023年11月期) 第29期(2024年11月期) 第30期中間(2025年5月)
売上高 3,198,672 3,263,602 3,014,029 1,646,084
経常利益 457,607 432,857 112,098 119,994
親会社株主に帰属する当期(中間)純利益 315,118 242,811 △159,172 31,778
純資産額 1,685,916 1,941,896 1,783,872 1,762,106
総資産額 2,667,152 2,832,253 3,007,093 3,033,622
自己資本比率(%) 63.2 68.6 59.3 58.1
営業活動によるキャッシュ・フロー 300,762 114,569 △233,075 445,164
監査等 監査なし 監査なし 監査(無限定適正意見) 期中レビュー

第29期は、売上高3,014,029千円(前期比7.7%減)、営業利益118,703千円(同73.3%減)、経常利益112,098千円(同74.1%減)、当期純損失159,172千円と、減収減益で最終赤字となりました。売上区分で見ると、教育DXライセンスは2,083,555千円(同2.3%増)と堅調だった一方、教育DXインテグレーションは779,472千円(同24.6%減)と落ち込み、教育輸出事業も151,001千円(同22.0%減)となっています。インテグレーションの減少について同社は、アフターコロナに伴う対面教育サービスへの移行等によりeラーニングシステム等への新規投資が伸び悩んだと説明しています。

売上区分別の売上高(百万円)06251,2501,8752,500教育DXライセンス教育DXインテグレーションJDU(教育輸出)2,0362,0841,034779193151第28期(2023年11月期)第29期(2024年11月期)

図7 連結財務諸表注記「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」より。百万円未満四捨五入

セグメント別に見ると、教育DX事業の利益375,691千円に対し、教育輸出事業は250,485千円の営業損失(前期は110,372千円の損失)で、グループの営業利益を大きく押し下げています。JDUについては、国立大学の募集学生数の増加や私立大学の新設等で入学者数が減少し、経営環境が悪化したと説明されています。また中間期の説明では、在校中に学生から受領する学費が約2割であるため、売上高が売上原価及び販売管理費の総額を大幅に下回ったとされています。

第29期のセグメント利益から営業利益まで(百万円)教育DX事業376教育輸出事業-250調整額-7営業利益119教育DX事業の利益の約3分の2を教育輸出事業の損失が相殺する構造(本記事の計算)

図8 セグメント情報より。百万円未満四捨五入。教育輸出事業はJDU大学の運営

最終赤字の主因は、JDUの大学校舎設備等に係る減損損失144,515千円です。営業利益118,703千円から経常利益112,098千円となり、減損損失を特別損失に計上して税金等調整前当期純損失は32,417千円になりました。さらに法人税等合計126,755千円を計上した結果、当期純損失は159,172千円となっています。前期の税効果会計の注記では、法定実効税率34.59%に対して負担率43.90%で、差異の主な要因として連結子会社の適用税率差異9.49%が挙げられています。赤字の海外子会社を抱える場合、連結上の税負担率が高くなりやすい点は、業績計画を作る際にも押さえておきたいポイントです。

第29期(2024年11月期)の損益の流れ営業利益118,703千円経常利益112,098千円減損損失△144,515千円税金等調整前当期純損失△32,417千円当期純損失△159,172千円法人税等合計126,755千円(法人税、住民税及び事業税112,789千円、法人税等調整額13,966千円)減損はJDUの大学校舎設備等(建物及び構築物101,213千円、工具器具備品43,301千円)営業活動から生じる損益が継続してマイナスの資産グループ

図9 連結損益計算書より

第30期中間連結会計期間は、売上高1,646,084千円、営業利益103,489千円、経常利益119,994千円、中間純利益31,778千円で、黒字を確保しています。教育DX事業は売上高1,556,234千円(前年同期比12.2%増)、営業利益229,478千円(同49.0%増)と回復しました。一方、教育輸出事業は営業損失126,621千円で、JDUでは日本の提携大学への3年次転入の導入等、コスト削減への取組みを開始したとされています。なお、前中間連結会計期間は中間連結財務諸表を作成していないため、連結ベースの前年同期比較は行われていません。

キャッシュ・フローにも特徴があります。第29期の営業キャッシュ・フローは△233,075千円で、売上債権の増加156,427千円や法人税等の支払214,443千円が影響しました。財務活動では運転資金として長期借入金500,000千円を調達しています。中間期は売上債権の回収が進み、営業キャッシュ・フローは445,164千円のプラスに転じました。リスク情報では、多くの顧客が決算期を迎える3月末と、その3〜6か月前の9月〜12月に納品・検収が集中し、第2四半期と第4四半期の売上高・利益の割合が高くなる傾向があると説明されています。季節性のある会社は、期末の売上債権の増減でキャッシュ・フローが大きく振れることを、事業計画の段階から説明できるようにしておく必要があります。

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資本政策と株主構成

同社の株式は普通株式のみで、発行済株式総数は1,450,000株です。2019年10月17日付で1株を500株とする株式分割を行って以降、発行済株式総数は変わっていません。資本金は40,450千円、資本準備金は25,000千円です。2025年9月8日の臨時株主総会で定款を変更し、100株を1単元とする単元株制度を導入しています。自己株式は172,700株(発行済株式総数の11.9%)を保有しています。

株主の状況(発行者情報記載時点)代表取締役社長兼CEO78.98%代表取締役COO5.97%(うち潜在4.86%)従業員持株会3.63%取締役(近藤氏)2.53%(うち潜在1.08%)三菱UFJキャピタル1.74%その他7.14%(役員・従業員等。その他132名を含む)潜在株式(新株予約権)は合計163,503株(11.35%)自己株式172,700株(発行済株式総数の11.9%)は分母に含まれない

図10 発行者情報 第四部「株主の状況」より。比率は自己株式を除く株式総数に新株予約権の潜在株式を加えた1,440,803株に対する割合

株主の状況を見ると、代表取締役社長兼CEOの𡌶弘明氏が1,138,000株(78.98%)を保有し、続いて代表取締役COOの𠮷田自由児氏(5.97%、うち新株予約権による潜在株式4.86%)、デジタル・ナレッジ従業員持株会(3.63%)、取締役の近藤寿子氏(2.53%)、三菱UFJキャピタル株式会社(1.74%)の順です。この比率は、自己株式を除く株式総数に新株予約権の潜在株式を加えた1,440,803株を分母としたもので、発行者情報の記載時点のものです。所有者別状況(2025年11月30日現在)では株主数は9名(その他の法人1、個人その他8)で、創業者が大半を保有する株主構成のまま上場していることがわかります。TPMには株主数や流通株式の形式基準がないため、こうした株主構成でも上場が可能です。

上場までの資本政策の時系列2019年10月株式分割1:500第3回SO2020〜2022年第4回〜第6回SO2025年9月8日単元株制度(100株)導入2025年9月24日自己株式13,118株を持株会へ処分2026年2月20日TPM上場公募・売出しなし発行済株式総数は2019年10月の分割以降1,450,000株で変わらず(資本金40,450千円)新株予約権4回分の行使価額は800円・1,200円・1,500円・1,900円

図11 発行者情報「株式の総数等」「新株予約権等の状況」「第三者割当等の概況」より

新株予約権(ストック・オプション)

同社は、役員及び従業員へのインセンティブとして4回の新株予約権を発行しています。いずれも臨時株主総会で決議され、新株予約権1個につき1株、行使期間は募集事項を決定する取締役会決議から2年を経過した日から10年を経過する日までとされています。

回号(決議日) 付与対象者 目的となる株式数(2025年12月末) 行使価額 行使期間
第3回(2019年10月17日) 取締役3名・従業員101名 136,790株 800円 2021年10月18日〜2029年10月17日
第4回(2020年11月30日) 取締役1名 8,000株 1,200円 2022年12月1日〜2030年11月30日
第5回(2021年11月1日) 取締役4名・従業員40名 17,593株 1,500円 2023年11月2日〜2031年10月31日
第6回(2022年11月17日) 従業員23名 1,120株 1,900円 2024年11月26日〜2032年11月16日
合計 ― 163,503株 ― ―

行使の条件として、権利行使時に当社又は子会社の取締役・監査役・従業員の地位にあること(取締役会が正当な理由があると認めた場合を除く)、相続人による行使は認めないことに加え、「当社の普通株式が、いずれかの金融商品取引所に上場されていること」が定められています。ストック・オプションの注記では、未公開株式であるため公正な評価単価を本源的価値で見積もり、その算定基礎となる自社の株式価値は純資産方式及びDCF法等の結果を総合的に勘案して決定したとされ、費用計上額は「該当事項はありません」となっています。潜在株式163,503株は、株主の状況の分母の11.35%に当たります。

上場準備会社にとっての実務上のポイントは、行使条件に「上場」をどう定義するかです。条件の文言が「いずれかの金融商品取引所に上場」であれば、TPMへの上場との関係を含め、契約の文言に照らして整理しておく必要があります。将来TPMへの上場を経て一般市場を目指す可能性がある会社は、発行時点で「どの市場への上場を想定しているのか」を明確にしておくとよいでしょう。ストック・オプションの注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例も参考になります。

従業員持株会への自己株式の処分と継続所有の確約

第四部「第三者割当等の概況」によると、同社は2025年9月24日に、第三者割当の方法により自己株式13,118株をデジタル・ナレッジ従業員持株会に処分しています。処分価格は1株2,142円、総額は28,098,756円で、DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)により算出した価格を参考として当事者間で協議の上決定したと説明されています。自己株式の処分であるため、資本組入額はありません。保有自己株式は185,818株から172,700株に減少しました。

TPMにも、上場前の第三者割当に関する継続所有の確約の仕組みがあります。同社の注記によれば、特例第115条及び同施行規則第107条により、新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して1年前から上場日の前日までの期間に第三者割当による募集株式の割当て等を行った場合、割当てを受けた者に、担当J-Adviserに対して一定期間の所有などを確約させることとされています。同社の直前事業年度の末日は2024年11月30日で、従業員持株会との間で確約を行っていると記載されています。

上場前の自己株式処分と継続所有の確約2025年9月24日持株会へ処分2026年2月20日上場日上場日以後6か月を経過処分日から1年を経過確約の期間:割当日から上場日以後6か月を経過する日まで所有その日に割当から1年を経過していない場合は、割当から1年を経過する日まで本件は上場日以後6か月の時点で割当から1年未満となるため、計算上は処分日から1年を経過する日(2026年9月)が終期の目安

図12 発行者情報 第四部「第三者割当等の概況」の注記をもとに作成。終期の時期は本記事での計算による目安

確約の期間は、割当てを受けた日から上場日以後6か月を経過する日まで(その日に割当てから1年を経過していない場合は、割当てから1年を経過する日まで)です。同社のケースでは、上場日以後6か月の時点ではまだ処分から1年を経過しないため、計算上は処分日から1年を経過する2026年9月が終期の目安になります。上場直前に従業員持株会へ株式を移す場合、持株会の規約上の引出しや売却のルールが確約と整合しているかを確認しておくことが大切です。一般市場における確約の考え方は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)、持株会の設計は従業員持株会はいつ作るかで解説しています。なお、第四部の「特別利害関係者等の株式等の移動状況」は「該当事項はありません」とされています。

コーポレート・ガバナンス

同社は、会社法上の機関として株主総会、取締役会、監査役会を設置する監査役会設置会社です。日常的に事業を監視する役割として内部監査担当を置き、監査法人と監査契約を締結しています。社外取締役1名と社外監査役2名を選任し、外部からの視点や専門的な視点から経営監督機能を強化していると説明しています。TPMでは一般市場のような機関設計の形式要件は示されておらず、柔軟なガバナンス設計が可能とされていますが、同社は一般市場の上場会社と同様の監査役会設置会社の形を採っています。

デジタル・ナレッジの機関設計株主総会取締役会(7名)うち社外取締役1名月1回の定時+臨時監査役会(3名)常勤1名・社外2名原則月1回代表取締役社長兼CEO(各取締役の報酬額を委任)会計監査EY新日本有限責任監査法人内部監査人3名自己の部門以外を監査コンプライアンス推進委員会リスク管理委員会(全役員)選任選任選定・監督監査連携命令・報告

図13 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成

区分 氏名 主な経歴など
代表取締役社長兼CEO 𡌶 弘明 1995年の設立時から取締役、2000年から代表取締役社長。創業者
代表取締役COO 𠮷田 自由児 1997年入社、2016年から代表取締役COO
取締役 近藤 寿子/野口 保之/齋藤 陽亮 いずれも当社入社後に取締役に就任
取締役 多喜 良夫 証券会社出身。事業会社の取締役・監査役を経て2019年に就任
社外取締役 上原 真二 金融機関・ベンチャーキャピタルの実務経験。2021年就任
常勤監査役 猪股 和昭 社内出身。経営推進部長を経て2019年就任
社外監査役 弓塲 啓司 公認会計士。2018年就任
社外監査役 片倉 秀次 弁護士。2019年就任

取締役会は議長の𡌶弘明氏を含む7名で構成され、月1回の定時取締役会に加えて必要に応じて臨時取締役会を開催しています。監査役会は常勤監査役の猪股和昭氏を議長とする3名で、原則月1回開催しています。監査役会の主な検討事項として、監査報告の作成、監査計画の策定、会計監査人の再任・不再任及び報酬の同意、各四半期における会計監査人とのレビュー内容を含む意見交換、稟議書等の社内決裁内容の確認が挙げられています。役員は男性9名・女性1名(女性比率10.0%)で、執行役員制度も導入しています(執行役員1名)。

社外役員の独立性に関する記載にも注目です。社外監査役の弓塲啓司氏については、同氏が代表取締役を務める会社から、同社が原価計算ツール導入に関する業務支援サービスを受けていたことが開示されています。社外役員と会社との取引は、金額の多寡にかかわらず開示と説明が求められる論点であり、上場準備の段階で棚卸ししておく必要があります。一方、関連当事者との取引の注記は、前期・当期とも「該当事項はありません」とされています。

役員報酬は固定報酬のみで、業績連動報酬や退職慰労金はありません。取締役の報酬は株主総会で決議された限度額(年200,000千円以内)の範囲で取締役会が決定し、各取締役の具体的な金額は取締役会決議により代表取締役社長に委任されています。代表取締役社長は、人事担当取締役の報酬案を勘案して各取締役を評価した後、社外役員との審議を経て報酬案を決定します。2024年11月期の報酬等の総額は、取締役(社外取締役を除く)6名で169,770千円、監査役(社外監査役を除く)1名で14,665千円、社外役員3名で8,520千円です。報酬決定を代表取締役に委任する場合でも、社外役員の関与のプロセスを設けて説明できるようにしておくことが、上場会社としての透明性の観点から有用です。機関設計の考え方はIPO審査の「機関設計」とはもあわせてご覧ください。

このほか、定款では取締役の定数を7名以内、監査役を4名以内とし、取締役の選任決議の定足数を3分の1以上に緩和し累積投票によらないこと、取締役会決議による自己株式の取得や中間配当を可能とすることなどを定めています。社外取締役及び監査役との間では責任限定契約を締結しています。なお、コーポレートガバナンス・コードの適用対象としてJPXが示しているのはプライム・スタンダード・グロースの各市場であり、本記事ではTPM上場会社への適用関係については扱いません。

内部監査・内部統制

同社は独立した内部監査室を設置していません。代わりに、代表取締役の命を受けた内部監査人3名が、自己の属する部門を除く当社グループ全体の業務監査を実施し、代表取締役に結果を報告しています。代表取締役は報告に基づき被監査部門に改善を指示し、その結果を報告させます。子会社のJDUも定期的な内部監査の対象です。専任部署を置かない会社にとって、内部監査人を複数の部門から選び、自分の部門は監査しない「相互監査」の形にすることで自己監査を回避する方法は、現実的な選択肢の一つです(内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避))。

内部監査人3名による相互監査(自己監査の回避)代表取締役内部監査人①自部門は監査しない内部監査人②自部門は監査しない内部監査人③自部門は監査しない監査対象:自己の属する部門を除く当社グループ全体(子会社も定期的な内部監査の対象)結果は代表取締役へ報告し、代表取締役が被監査部門に改善を指示・報告させる監査役会・監査法人と定期的に会合し、会計監査・業務監査の結果を共有(三様監査)

図14 発行者情報「内部監査の状況」をもとに作成。独立した内部監査室は置かず、代表取締役の命を受けた内部監査人3名が監査する

監査役と内部監査人は定期的に会合を持ち、会計監査及び業務監査の結果を共有しています。監査役会・会計監査人・内部監査担当者も定期的な会合を設けて相互に意見交換を行っており、いわゆる三様監査の連携体制が説明されています(監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。

内部統制の面では、2019年8月22日と2021年7月21日の取締役会で「内部統制システムに関する基本方針」を決議しています。経営推進部をコンプライアンスの統括部署とし、全役員で構成するコンプライアンス推進委員会とリスク管理委員会を原則月1回開催しています。部門長会を週1回開催して取締役会の方針を部門長に伝達し、子会社については「関係会社管理規程」に定める承認事項・報告事項を当社へ報告させ、定期的な会議で経営管理情報を共有する体制です。反社会的勢力の排除については、「反社会的勢力対策規程」と対応マニュアルを整備し、取引先の確認や外部専門機関との連携を行うとされています。TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、基本方針では財務報告の信頼性確保のために全社的な統制活動と業務プロセスの統制活動を強化する旨が述べられています。

会計・開示の論点

収益認識:期間か、一時点か

連結財務諸表は日本基準(特例第110条第6項で認められた会計基準のうち、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準)で作成されています。収益認識の方針は売上区分ごとに明確に書き分けられています。教育DXライセンスは契約期間にわたり均一のサービスを提供するため、時の経過に応じて期間にわたり収益を認識します。教育DXインテグレーションは一時点で移転されるサービスとして、顧客の検収完了時点で収益を認識します。JDUの大学教育は在学中にわたり均一のサービスを提供するため、通常学費については役務を提供する期間にわたり収益を認識しています。

売上区分ごとの収益認識の時点教育DXライセンス教育DXインテグレーションJDU(教育輸出)システム利用ライセンス保守・運用運用サポートシステム設計・開発サーバー構築教材制作、作業代行等大学教育の提供通常学費と後払可能学費に分類期間にわたり認識(時の経過に応じて)一時点で認識(顧客の検収完了時点)通常学費は期間にわたり認識第29期:ライセンス2,083,555千円/インテグレーション779,472千円/JDU151,001千円

図15 連結財務諸表注記「重要な収益及び費用の計上基準」をもとに作成

インテグレーションが検収基準であることは、事業等のリスクで説明されている季節性(3月末や9月〜12月に検収が集中)と結びついています。契約負債(前受金)は第29期末で220,024千円、期首の契約負債から当期に収益認識した額は250,658千円です。検収基準を採る場合、検収書の入手や期末をまたぐ案件の管理が監査上の重要な確認ポイントになります。収益認識の全体像は収益認識基準 完全ガイドで解説しています。

海外子会社の減損と決算日の違い

第29期の減損損失144,515千円は、ウズベキスタンのJDUの大学校舎設備等(建物及び構築物101,213千円、工具器具備品43,301千円)に係るものです。同社は原則として事業セグメント単位で資産のグルーピングを行い、営業活動から生じる損益が継続してマイナスで帳簿価額を全額回収できる可能性が低いと判断した資産グループについて、帳簿価額を回収可能価額まで減額しています。回収可能価額は使用価値により測定していますが、割引前将来キャッシュ・フローがマイナスであるため使用価値を零と評価し、割引率は使用していないと説明されています。中間期にも工具器具備品3,104千円の減損損失を計上しています。

JDUの資産グループの減損判定(第29期)資産グループ(事業セグメント単位)営業損益が継続してマイナスか回収可能価額=使用価値(事業計画に基づく将来CF)割引前将来CFがマイナスか使用価値をゼロと評価減損損失144,515千円中間期にも3,104千円を計上はいはい

図16 連結財務諸表注記「減損損失」の記載をもとに判断の流れを整理したもの

なお、重要な会計上の見積りの注記は前期・当期とも「該当事項はありません」とされています。また、JDUの決算日は9月30日で、連結に当たっては9月30日現在の仮決算により作成した財務諸表を使用しています。在外子会社の資産・負債と収益・費用は決算日の直物為替相場で換算され、中間期には為替換算調整勘定が53,544千円減少しました。海外子会社を持つ会社は、決算日の統一や仮決算の要否、現地監査との連携(JDUは当社監査法人と同一ネットワークのメンバーファームに監査証明業務の報酬411百万スムを支払っています)を上場準備の早い段階で検討する必要があります。

監査法人と監査報酬

会計監査はEY新日本有限責任監査法人が担当し、2024年11月期の業務執行社員は2名、補助者は公認会計士9名、その他6名です。監査証明業務に基づく報酬は22,500千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。上場直前の2026年2月16日には、ストック・オプション等関係の注記で第3回新株予約権の付与日を「2019年10月17日」から「2019年10月18日」に訂正する訂正発行者情報が公表されています。注記の細部まで書類間の整合を確認する体制が、上場後の開示でも求められることがわかります。

事業等のリスクとJ-Adviser契約

同社は23項目の事業等のリスクを挙げ、それぞれに発生可能性・時期・影響度を付しています。主なものは次のとおりです。

リスク 発生可能性 影響度 要点
経営環境の変化 中 大 顧客のIT投資マインドが減退すると新規契約数が鈍化する可能性
人材の確保 中 大 コーディネータ(営業)、ディレクタ、エンジニアの確保が不可欠
JDU大学の学費回収 高 中 通常学費の滞納率16.4%。後払学費は卒業・就業後に回収
海外事業展開 中 中 ウズベキスタンの法令・政治経済情勢・為替等のカントリーリスク
特定の人物への依存 低 中 創業者である代表取締役社長兼CEOへの依存度は高いと認識
内部管理体制の構築 低 大 事業拡大に応じた内部管理体制の構築に遅れが生じるリスク
J-Adviserとの契約 低 中 契約が解除され他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止

TPM上場会社に特有なのが、J-Adviser契約に関するリスクです。同社は、担当J-AdviserであるSBI証券との契約がTPMにおける新規上場及び上場維持の前提となる契約であり、契約を解除し、かつ、他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止になると説明しています。そのうえで、債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、反社会的勢力の関与など、即日無催告解除の事由を詳細に開示しています。

J-Adviser契約と上場維持の関係担当J-Adviser株式会社SBI証券デジタル・ナレッジ指導・助言・審査J-Adviser契約(業務を委託)解除事由の例:債務超過、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載 等J-Adviser契約の解除(即日無催告・催告等)他の担当J-Adviserを確保できないTPMから上場廃止催告解除の是正期間は特段の事情のない限り1か月。合意解除のほか、1か月前の書面通知でも解除可能

図17 発行者情報「事業等のリスク(J-Adviserとの契約について)」をもとに作成

契約違反の場合の催告解除(是正期間は特段の事情のない限り1か月)、合意解除、1か月前の書面通知による解除の定めも開示されています。上場後も、決算・発行者情報の期限管理や適時開示の体制を整えておくことが、J-Adviser契約の維持、ひいては上場の維持に直結します(IPOの適時開示体制)。

一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆

同社の発行者情報には、将来の市場変更や一般市場への上場に関する記載はありません。そのため同社の方針は推測しませんが、TPM上場を一般市場への足がかりと考える会社に向けて、制度上のポイントを整理しておきます。

第一に、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMの申請による上場廃止と一般市場への新規上場という形で行われます。実例として、AlbaLinkはTPMの上場廃止日の翌日にグロース市場へ新規上場しています。第二に、東証は2026年4月の資料で、TPMでの実績を勘案した一般市場上場審査の効率化や開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に予定していると公表していますが、本記事執筆時点(2026年10月7日)で実施済みかどうかは確認できていません。第三に、一般市場では上場前の監査期間が直前2期とされるのが一般的であり、TPM上場時に1期分の監査しかない会社は、上場後の発行者情報の監査を積み重ねることが前提になります。同社のように、上場後も年次・中間の発行者情報で監査・レビューを受け続けること自体が、将来の選択肢を広げる準備になります。

上場準備会社が学べること

デジタル・ナレッジの事例から学べること公募なしでも上場発行者情報で上場監査は最近1年間未監査期は明記自己株式の処分と継続所有の確約SOの行使条件と「上場」の設計内部監査人3名の相互監査海外子会社の減損と学費回収

図18 本記事で取り上げた論点のまとめ

1. 公募・売出しがなくても上場はできる。同社は特定投資家向け取得勧誘等を行わず、発行者情報に相当する情報を公表して上場しました。TPM上場は資金調達と同義ではなく、上場の目的を自社で整理しておくことが出発点です。

2. 監査は最近1年間でも、未監査期は明記される。第27期・第28期が未監査であることは書類に明記されます。過年度の数値の信頼性を高めるためにも、決算体制の整備は早めに進めましょう。

3. 上場前の自己株式の処分は確約とセットで考える。従業員持株会への処分価格の根拠(DCF法を参考に協議)と継続所有の確約がセットで開示されています。

4. ストック・オプションの行使条件の「上場」を明確に。行使条件に上場を置く場合、どの市場への上場を想定しているかを発行時に整理しておくと、後の解釈の余地を減らせます。

5. 専任部署がなくても相互監査で内部監査は回せる。内部監査人3名が自部門以外を監査する形で、自己監査を回避しています。

6. 海外子会社は減損・回収・決算日の論点を同時に抱える。JDUの減損、学費の滞納、9月決算の仮決算と為替換算は、海外展開する会社が上場前に整理すべき典型的な論点です。

7. J-Adviser契約の維持が上場維持の前提。解除事由や期限管理を理解し、上場後の開示体制を整えておくことが欠かせません。

  • 自社がTPMに上場する目的(なぜTPMか、どう活用するか)を言語化しているか
  • 上場時に特定投資家向け取得勧誘等を行うかどうか(公表書類が特定証券情報か発行者情報か)を整理したか
  • 最近1年間の監査に耐える決算体制と監査法人を確保しているか
  • 上場前1年程度の間に第三者割当や自己株式の処分を行う場合、継続所有の確約を織り込んでいるか
  • ストック・オプションの行使条件の「上場」の定義を確認したか
  • J-Adviser契約の解除事由と、発行者情報・適時開示の期限管理の体制を整えたか

よくある質問

Q1. TPMに上場すると、誰でも株式を買えるようになりますか。

いいえ。TPMは特定投資家等を対象とした市場で、一般投資家は取引所で買付けができません。保有している株式を売却することは可能です。

Q2. TPMには上場審査がないのですか。

形式基準(数値基準)がないだけで、担当J-Adviserが上場適格性要件を調査・確認し、東証も意向表明後に面談を行います。上場申請から原則10営業日で承認されるのは、申請前にこうした手続が済んでいるためです。

Q3. 上場時の書類が「特定証券情報」ではなく「発行者情報」なのはなぜですか。

デジタル・ナレッジの場合、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は売付け勧誘等を実施しないため、特例第110条第3項の規定により発行者情報に相当する情報を公表したと記載されています。

Q4. TPM上場後に一般市場へ移るのは簡単ですか。

市場区分の変更ではなく、TPMの上場廃止と一般市場への新規上場として扱われます。東証はTPM実績を勘案した審査の効率化を予定と公表していますが、実施状況は最新の公表資料で確認が必要です。

最初の一歩は「上場の目的」と「監査を受ける1年」を決めること

TPM上場を検討する会社は、まず上場の目的を整理し、どの事業年度から監査を受けるかを決めることから始めるとよいでしょう。そのうえでJ-Adviser候補と相談し、上場適格性要件に照らして、ガバナンス、内部監査、開示体制、反社会的勢力の確認、運転資金の見通しを一つずつ確認していきます。現状の課題を洗い出す方法としてはショートレビューとはも参考にしてください。

まとめ

株式会社デジタル・ナレッジは、2026年1月23日の申請受付、2月6日の上場承認を経て、2026年2月20日にTOKYO PRO Marketに上場しました。担当J-AdviserはSBI証券で、上場に際して公募・売出しを行わず、特例第110条第3項に基づき発行者情報に相当する情報を公表しています。書類からは、1期分の監査と期中レビュー、創業者が大半を保有する株主構成、従業員持株会への自己株式の処分と継続所有の確約、上場を行使条件とする4回のストック・オプション、監査役会設置会社としての機関設計と内部監査人3名による相互監査、ライセンスとインテグレーションで異なる収益認識、そしてウズベキスタンの子会社に係る減損と学費回収のリスクを読み取ることができます。

TPMは形式基準がない分、自社の目的と体制を自ら説明する力が問われる市場です。上場準備会社の方は、本記事のチェックリストを使って、自社の準備状況を確認してみてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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