※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
シンカナース株式会社(証券コード506A)は、2026年1月22日に東京証券取引所へ上場申請を行い(申請受付日)、2026年2月5日に上場承認を受けて、2026年2月20日にTOKYO PRO Market(TPM)に上場しました。担当J-Adviserは宝印刷株式会社です。医療機関に看護助手を派遣する事業を、外国人人材も対象にして展開している東京都中央区銀座の会社です。本記事では、JPXのTPM新規上場会社情報に掲載された同社の書類(全70ページ)を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。
結論からいえば、シンカナースの事例は「公募・売出しを行わないTPM上場では、上場時の書類が『発行者情報』になること」と「監査を受けた期間が最近1年間(1期)でも上場できるTPMの仕組み」を、実際の書類で確かめられる事例です。共同創業者2名が44.60%ずつを保有する株主構成、赤字の2期を経て中間期に黒字へ転じた業績、J-Adviser契約の解除条項を詳しく書いた事業等のリスク、監査役会設置会社を選んだ理由の説明など、TPM上場を検討する会社がそのまま検討項目にできる論点が並んでいます。
この記事の見出し
- シンカナースはどんな会社で、いつ、どの市場に上場したのか
- 事業内容と収益モデル:何で稼いでいるのか
- 沿革と上場までの道のり
- なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
- TPMの上場の仕組みをシンカナースの書類で確かめる
- 一般市場(グロース・スタンダード)とは何が違うのか
- 業績の推移:2期の赤字から中間期に黒字へ
- 資本政策と株主構成:共同創業者2名が44.60%ずつ
- コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社を選んだ理由まで説明
- 内部監査・内部統制:独立した内部監査室に1名
- 会計・開示の論点:収益認識、税効果、監査報酬
- 事業等のリスクとJ-Adviser契約
- 一般市場へのステップアップを考える会社への示唆
- 上場準備会社がシンカナースの事例から学べること
- よくある質問
- まとめ
- 本記事の根拠
シンカナースはどんな会社で、いつ、どの市場に上場したのか
まず基本情報です。シンカナースは、看護師として働いていた中友美氏(現 代表取締役社長)と、松谷容範氏(現 代表取締役会長)が、同時期に明治大学大学院のビジネススクールへ入学し、2006年1月に東京都中央区茅場町で「A-LINE株式会社」として創業した会社です。2018年7月に現在の商号に変更しました。決算期は12月で、書類に掲載されている最近事業年度は第19期(2024年12月期)、直近の中間期は第20期中間会計期間(2025年1月〜6月)です。
子会社や関連会社はなく、財務諸表は単体のみです。事業は「看護助手派遣事業」の単一セグメントです。従業員数は2025年11月30日現在で232名(ほかに臨時従業員4名)で、最近1年間で44名増えています。増加の理由は、日本各地へ派遣する範囲を拡大し、派遣社員を新規採用したことと説明されています。一方で、本社の従業員は2025年6月30日現在で17名と少人数です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | シンカナース株式会社(SINKANURSE, Inc.) |
| 証券コード | 506A |
| 市場 | TOKYO PRO Market(東京証券取引所) |
| 申請受付日 | 2026年1月22日(書類の公表日も同日) |
| 上場承認日 | 2026年2月5日 |
| 上場日 | 2026年2月20日 |
| 担当J-Adviser | 宝印刷株式会社 |
| 本店 | 東京都中央区銀座四丁目5番1号 |
| 設立 | 2006年1月(A-LINE株式会社として設立) |
| 決算期 | 12月 |
| 事業 | 看護助手派遣事業(単一セグメント) |
| 従業員数 | 232名(臨時4名)、平均年齢38.6歳(2025年11月30日現在) |
| 上場時の公募・売出し | なし(特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しない) |
| 監査法人 | 監査法人Bloom |
表の最後の2行は、TPM上場ならではの特徴です。シンカナースは上場に際して株式の募集(公募)や売出しを行っていません。また、財務諸表の監査は監査法人Bloomが行っていますが、監査を受けているのは第19期(2024年12月期)の1期だけです。これらの点は、後の節で詳しく見ていきます。
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事業内容と収益モデル:何で稼いでいるのか
シンカナースは「医療の人材不足を解決する」というMissionを掲げ、2006年2月に有料職業紹介事業許可、同年6月に一般労働者派遣事業許可を取得しました。現在は、医療機関に対して、外国人人材も対象とした看護助手に特化した派遣事業を行っています。
看護助手は、病院で看護師をサポートする職種です。ベッドメイキングや病室の清掃、患者の移送・付添い、おむつ・シーツ交換、医療器具・検体の運搬などを担い、注射や採血などの医療行為は行いません。特定の資格も必要ありません。書類では、看護師よりも人件費を抑えられる看護助手を育成し、看護師の業務を部分的に看護助手へタスクシフトすることで、医療の人材不足の解決と医療費の抑制につながる、と説明しています。
図1 医師から看護師へ、看護師から看護助手へと業務を移すことで看護に関わる人員を増やす、という事業の背景(発行者情報「事業の内容」「事業等の概要」をもとに作成)
収益の流れはシンプルです。顧客である医療機関と個別に交渉して決めた派遣料金を請求して売上高を計上し、派遣スタッフに支払う給与や法定福利費を売上原価に計上します。第19期の売上原価明細書を見ると、売上原価454,203千円の100.0%が労務費です。つまり、粗利は「派遣料金と派遣スタッフの人件費の差」で決まるビジネスです。
同社の特徴として、書類は次の2点を挙げています。1つは、派遣を始める前に、医療機関に対して外国人看護助手との協働や定着についてのコンサルティングを行うこと。もう1つは、看護助手専用のラーニングセンターを開設し、外国人人材向けの独自のテキストブックで、日本の医療機関で働く際のマナーや看護師との協業に必要な内容を教育していることです。配置の際には、経験が豊富なリーダースタッフを先に配置し、後から配置されるメンバーへの説明や看護師との調整を担わせる、チーム単位の配置を行っていると記載されています。
図2 外国人人材も対象に採用・教育した看護助手を医療機関へ派遣し、派遣料金を受け取る構造です(発行者情報「事業の内容」をもとに作成)
外国人看護助手の派遣は2014年12月に始まり、2025年8月末現在の外国人看護助手の派遣人員数は176人で、派遣人員数全体の81%を占めます(2023年12月末比85%増)。顧客数と派遣人員数は、2024年12月期が41件・174名(うち外国人126名)、2025年中間期が45件・214名(うち外国人171名)と増えています。
主要な販売先は大学病院などで、2024年12月期は日本大学医学部附属板橋病院が売上高の25.0%、聖マリアンナ医科大学病院が12.7%、同愛記念病院が12.5%を占めます。最大顧客への依存度は、2023年12月期の32.0%から、2024年12月期は25.0%、2025年中間期は17.7%へと下がっています。
図3 特定の得意先への依存度は年々下がっています(発行者情報「生産、受注及び販売の状況」より)
上場準備の観点では、顧客集中は審査でも開示でも必ず説明を求められる論点です。シンカナースは「対処すべき課題」の1番目に得意先への依存を挙げ、「事業等のリスク」でも、日本大学医学部附属板橋病院とは長期契約を締結していないことまで記載しています。依存度の数字、契約の性質、低減策をセットで書く、という開示の組み立て方は参考になります。許認可を前提とする事業の上場準備については、IPOで許認可はどこまで見られるかも参考になります。
沿革と上場までの道のり
沿革を見ると、シンカナースは看護職の人材サービスとして始まり、2011年4月に日本大学医学部附属板橋病院で看護助手の業務請負を開始、2014年4月に同院への看護助手派遣、2014年12月に外国人看護補助者の派遣を開始しました。2016年10月には看護助手の仕事の周知と営業活動のための自社メディア「シンカナース(現 シンカナ)」を立ち上げ、2018年7月に現在の商号に変更しています。2021年9月には聖マリアンナ医科大学病院への派遣を開始しました。
上場に向けた株式の整理は、2022年12月の株式分割(1株を2,000株)、2023年3月の第1回新株予約権の発行、2023年4月のA種株式の廃止(全株式を普通株式に)、2025年8月の臨時株主総会での単元株制度(1単元100株)の採用という順に進んでいます。2025年8月15日の臨時株主総会では、現在の取締役・監査役の任期の起点となる選任も行われています。
図4 2006年の設立から2026年2月のTOKYO PRO Market上場までの流れ(発行者情報「沿革」「株式等の状況」をもとに作成)
なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
シンカナースの書類には、TPMを上場先に選んだ理由や上場の目的を直接説明した記載は見当たりません。そのため、本記事では同社の理由を推測せず、TPMという市場の一般的な特徴を整理します。
東京証券取引所は2026年4月3日、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、新規上場時に「上場目的」(なぜTPMに上場するか、どう活用するか)を検討・開示するよう求める「お願い」を公表しました。これは規程上の義務ではなく東証の要請で、2026年6月15時点の集計では、開示した会社の上場目的の上位は社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」は11社(10%)にとどまります。シンカナースの上場(2026年2月)はこの要請の公表より前です。
TPMの主な特徴は、数値による形式基準がないこと、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認すること、上場前の監査期間が最近1年間であること、四半期開示や内部統制報告書が任意であることなどです。シンカナースのように公募・売出しを行わずに上場する会社にとっては、資金調達ではなく、上場会社としての体制や開示の経験を積むことが中心になると考えられます。上場準備全体の流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で整理しています。
TPMの上場の仕組みをシンカナースの書類で確かめる
ここからは、TPMの上場制度のポイントを、シンカナースの書類の記載に沿って確認します。制度の説明は、JPXの「上場ガイドブック TPM編」やTPMの概要ページなどの公表資料に基づいています。
担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する
TPMには、プライム・スタンダード・グロースのような株主数・流通株式・利益の額などの数値による形式基準がありません。その代わりに、東証から資格認証を受けたJ-Adviserが、上場適格性要件への適合状況を調査・確認します。上場適格性要件は、①企業としての相応性(上場予定日から12か月間の運転資金の確保などを含む)、②事業を公正かつ忠実に遂行していること、③企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制、④適正な開示体制、⑤反社会的勢力との関係がないことなど、の5項目です。
「形式基準がない」ことは「審査がない」ことを意味しません。担当J-Adviserは調査の結果を「上場適格性に係る宣誓書」として東証に提出し、東証も上場申請の前に面談を行います。ガイドブックでは、J-Adviser契約の締結後、担当J-Adviserの調査・確認、上場申請日の30営業日程度前までの意向表明、上場申請、上場承認という流れが示され、東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認するとされています。
シンカナースの場合、申請受付日が2026年1月22日、上場承認日が2026年2月5日、上場日が2026年2月20日です。担当J-Adviserは宝印刷株式会社で、証券会社ではありません。J-Adviserには証券会社のほか、コンサルティング会社、M&A仲介会社、印刷会社などがあり、一般市場の「主幹事証券」とは別の概念です。
図5 上段はJPXの上場ガイドブック(TPM編)に示された手続の流れ、下段はシンカナースの実際の日付です
上場時の書類は「特定証券情報」か「発行者情報」か
TPMでは、一般市場のような有価証券届出書や目論見書は作成しません。特定投資家だけを相手方とする取得勧誘(いわゆるプロ私募。法令上は特定投資家向け取得勧誘)や売付け勧誘等を行う発行者は、金融商品取引法第27条の31に基づき「特定証券情報」を提供又は公表します。上場後は、年次と中間の年2回、期末から3か月以内に「発行者情報」を公表します。
シンカナースの書類は、表紙の公表書類名が「発行者情報」となっており、公表日は2026年1月22日です。表紙には「上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表いたします」と書かれています。JPXの新規上場会社情報では「特定証券情報」の欄に掲載されていますが、公募・売出しを伴わない上場であるため、書類そのものは発行者情報の形式で作られている、ということです。
したがって、シンカナースのTPM上場は「公募による資金調達」を伴うものではありません。書類の冒頭には、発行者情報に虚偽や重要な情報の欠落があった場合に、公表時の役員が取得者に対して損害賠償責任を負う旨の注意事項も記載されています。簡素な開示であっても、役員の責任は軽くないことを示す記載です。
図6 上場に際して特定投資家向けの取得勧誘・売付け勧誘等を行わないため、特例第110条第3項により発行者情報に相当する情報を公表した、という記載を図にしたものです
監査は「最近1年間」、中間は期中レビュー
TPMでは、上場前に監査を受ける期間は「最近1年間」です。シンカナースの主要な経営指標等の推移には第17期から第19期までの3期と第20期中間期の数値が並んでいますが、注記で、第19期(2024年1月1日〜12月31日)の財務諸表は監査法人Bloomの監査を受けている一方、第17期と第18期は監査を受けていないと明記しています。第20期中間期の中間財務諸表は、同じく監査法人Bloomの期中レビューを受けています。いずれも特例第110条第5項の規定に基づくものです。
会計監査の状況を見ると、2024年12月期の監査を執行した公認会計士は2名で、いずれも継続監査年数は1年です。監査の期間が短くてよいとはいえ、監査そのものは必要です。1期分の監査を受けるためにも、期首の残高の検証や内部統制の整備状況の確認など、監査法人が準備する時間は必要になります。監査法人の選定時期については監査法人はいつまでに決めるかもご覧ください。
図7 TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」です。シンカナースは第19期のみ監査を受け、第17期・第18期は監査を受けていません(発行者情報「主要な経営指標等の推移」注記より)
特定投資家向けの市場であること
TPMは金融商品取引法上の「特定取引所金融商品市場」で、買付けができるのは特定投資家等(適格機関投資家、上場会社、資本金5億円以上の株式会社、一定の要件を満たして移行した個人など)です。一般投資家は取引所で株式を買うことはできませんが、保有している株式を売ることはできます。シンカナースの書類の「投資者に対する注意事項」も、TPMは特定投資家等を対象とした市場であり、上場会社は高い投資リスクを含んでいる場合があると冒頭で注意喚起しています。
一般市場(グロース・スタンダード)とは何が違うのか
TPMと一般市場の違いを、JPXの公表資料で確認できる範囲で表にまとめます。TPMは一般市場の一種ではなく、別の市場です。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード) |
|---|---|---|
| 買付けができる投資者 | 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、保有株の売却は可) | 一般投資家を含む |
| 形式基準(数値基準) | なし | 株主数・流通株式などの形式要件あり |
| 上場適格性の調査 | 担当J-Adviserが調査・確認し宣誓書を提出 | 東証の上場審査(主幹事証券の引受審査もある) |
| 上場申請から承認まで | 原則10営業日(申請前に意向表明・面談) | 東証の審査期間を経て承認 |
| 上場前の監査期間 | 最近1年間 | 直前2期 |
| 上場時の開示書類 | 特定証券情報(シンカナースは発行者情報に相当する情報) | 新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)・有価証券届出書 |
| 上場後の法定開示 | 発行者情報(年次・中間、期末後3か月以内) | 有価証券報告書・半期報告書 |
| 四半期開示 | 任意 | 取引所規則による四半期決算短信 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 上場後に提出が必要 |
| 会計基準 | 日本基準・米国基準・IFRS及び同等と認められる基準 | 日本基準・米国基準・IFRS等 |
| コーポレートガバナンス・コード | 本記事では断定しない(JPXは適用市場としてプライム・スタンダード・グロースを掲げる) | グロースは基本原則、スタンダードは全原則 |
表のとおり、TPMは「上場までのハードルが低い市場」というより、「J-Adviserという仕組みを通じて、会社の規模や成熟度に応じた上場を認める市場」と理解するのが正確です。ガバナンスや内部管理体制について、一般市場のような機関設計の形式要件はありませんが、上場適格性要件として、規模や成熟度等に応じた整備と運用が求められます。一般市場の審査の考え方についてはIPOの実質審査基準とはで解説しています。
業績の推移:2期の赤字から中間期に黒字へ
シンカナースの主要な経営指標等の推移は次のとおりです。第17期と第18期は監査を受けていない数値であることに注意してください。
| 単位:千円 | 第17期 2022/12 | 第18期 2023/12 | 第19期 2024/12 | 第20期中間 2025/6 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 881,296 | 698,945 | 675,588 | 435,693 |
| 経常利益(△は損失) | 84,117 | △21,385 | △45,419 | 25,430 |
| 当期(中間)純利益(△は損失) | 57,470 | △20,444 | △45,624 | 25,311 |
| 純資産額 | 317,647 | 297,202 | 251,578 | 276,889 |
| 総資産額 | 464,131 | 381,889 | 354,851 | 396,043 |
| 自己資本比率(%) | 68.4 | 77.8 | 70.9 | 69.9 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 100,319 | △83,062 | △22,469 | 22,259 |
| 現金及び現金同等物 | 385,884 | 301,734 | 279,264 | 301,414 |
| 従業員数(臨時) | 209(19) | 172(4) | 193(-) | 228(3) |
図8 第20期は中間期(2025年1〜6月)の6か月分です。第17期・第18期は監査法人の監査を受けていない数値です(発行者情報「主要な経営指標等の推移」より)
売上高は第17期の881,296千円から第18期に698,945千円へ減少し、第19期も675,588千円(前期比3.3%減)でした。第19期の売上原価は、同一労働同一賃金に対応してスタッフの時給を見直したことによる人件費の増加で454,203千円(前期比1.6%増)となり、売上総利益は221,384千円(前期比12.2%減)、営業損失は45,964千円でした。書類では、営業の改革で新規顧客が増え、業績が上向いたのは下半期だったため、通期では上半期の損失を補えなかったと説明しています。
第20期中間期は、新規顧客の開拓を日本全国に広げ、看護助手の需要に対応して派遣料金の見直しに努めた結果、売上高435,693千円、営業利益25,061千円、経常利益25,430千円、中間純利益25,311千円と黒字になりました。中間期の売上高は6か月分で、第19期の通期売上高の約64%にあたります。
図9 2期連続の経常損失の後、第20期中間期に経常利益へ転じています(発行者情報「主要な経営指標等の推移」より)
図10 売上原価はほぼ全額が派遣スタッフの労務費です(第19期の売上原価明細書では労務費が100.0%)。中間損益計算書より作成
財務面では、借入金はなく、財務活動によるキャッシュ・フローは各期とも発生していません。自己資本比率は70%前後で推移しています。販売費及び一般管理費の主な内訳は、第19期で役員報酬92,520千円、給料手当80,009千円、支払報酬料22,361千円です。
上場適格性要件の1つに「上場予定日から12か月間の運転資金の確保」があります。シンカナースは「運転資本の状況の分析」の項で、上場予定日(2026年2月20日)から12か月間の運転資本は、自己資本及び借入れによる資金調達が可能であり十分であると認識している、と記載しています。主な資金需要は看護社員と本社社員の人件費で、自己資金で対応しているとの説明です。赤字の期を含む会社がTPM上場を目指す場合、この運転資金の説明は特に丁寧に準備しておきたい部分です。
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資本政策と株主構成:共同創業者2名が44.60%ずつ
シンカナースの発行済株式総数は普通株式1,120,000株、発行可能株式総数は4,000,000株、資本金は13,000千円です。株主は個人5名だけで、金融機関、ベンチャーキャピタル、事業会社などの法人株主はいません。自己株式もありません。
株主の状況を見ると、代表取締役会長の松谷容範氏と代表取締役社長の中友美氏がそれぞれ500,000株(44.60%)を保有し、ほかに石田昌宏氏・石田千絵氏が各50,000株(4.46%)、川田剛氏が20,000株(1.78%)を保有しています。従業員の瀧亜希子氏の1,000株(0.09%)は、新株予約権による潜在株式です。上場時に公募・売出しを行っていないため、この株主構成は、書類に記載された時点のものとして読む必要があります。
図11 株主は個人5名のみで、共同創業者の2名が44.60%ずつを保有しています。瀧氏の1,000株は新株予約権による潜在株式です(発行者情報「株主の状況」より)
共同創業者の2名が同じ比率で株式を持ち、2名とも代表取締役を務めている点は、この会社の大きな特徴です。書類の「事業等のリスク」では、両氏が経営方針や事業戦略の意思決定に重要な役割を果たしていること、両氏の経営方針に重大な齟齬が生じた場合やいずれかが退任する場合に影響があり得ること、両氏が株式を売却した場合に市場価格や流通状況に影響を及ぼす可能性があることを、それぞれリスクとして記載しています。創業者の持株比率の考え方については創業者の持株比率はどこまで下げてよいかで解説しています。
株式分割とA種株式の廃止
発行済株式総数の推移を見ると、2022年12月1日に1株を2,000株とする株式分割を行い、普通株式756,000株とA種株式364,000株になりました。その後、2023年4月28日にA種株式を廃止し、全ての株式を普通株式としています(A種株式364,000株が普通株式に)。この間、資本金は13,000千円のまま変わっていません。A種株式の内容や保有者は書類に記載されていません。
上場の前に種類株式を整理して普通株式に一本化し、上場申請の前に単元株制度(1単元100株、2025年8月15日の臨時株主総会で採用)を導入する、という順序は、一般市場の上場準備でもよく見られる手順です。種類株式の扱いについては種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかもご覧ください。
図12 株式分割、ストック・オプションの付与、A種株式の廃止、単元株制度の採用を経て、普通株式1,120,000株で上場申請しています(発行者情報「株式等の状況」「第三者割当等の概況」より)
第1回新株予約権(ストック・オプション)
シンカナースは2023年3月27日の第17回定時株主総会の決議に基づき、取締役3名と従業員5名に第1回新株予約権を付与しました。目的となる株式は35,000株、行使時の払込金額は1株441円、行使期間は2025年3月28日から2033年3月27日までです。行使価格は、DCF法と類似上場会社法で算出した価格を総合的に勘案して決めたと記載されています。
行使の条件は、権利行使時にも当社の取締役・監査役・従業員などの地位にあること、当社株式がいずれかの金融商品取引所に上場していること、相続人による行使を認めないこと、1個単位で行使することです。第19期末の残数は5,000株(第19期中に30,000株が減少)、公表日の前月末(2025年12月31日)の残数は1,000株で、付与対象者は現在、従業員1名となっています。
会計処理については、付与日時点で未公開企業であり、単位当たりの本源的価値が0円であるため、費用計上はしていないと注記されています。本源的価値の算定の基礎となる自社株式の価値はDCF法で算定しています。
図13 付与時35,000株のうち、退職等による権利の喪失で残数が減り(上場前のため権利行使はできません)、公表日の前月末(2025年12月31日)時点では1,000株(従業員1名)です(発行者情報「新株予約権等の状況」等より)
TPMにも、上場前の第三者割当等について継続所有の確約の仕組みがあります。書類の注記によれば、特例第115条と施行規則第107条により、新規上場申請日の直前事業年度の末日の1年前の日から上場日の前日までの期間に第三者割当等を行っている場合、割当を受けた者は担当J-Adviserに対して継続所有などの確約を行います。シンカナースの直前事業年度の末日は2024年12月31日であり、第1回新株予約権(2023年3月発行)の「保有期間等に関する確約」の欄は「-」となっています。一般市場の継続所有の確約については上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。なお、特別利害関係者等の株式等の移動状況は「該当事項はありません」です。
コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社を選んだ理由まで説明
シンカナースは、株主総会、取締役会、監査役会を置く監査役会設置会社です。取締役会は取締役6名(うち社外取締役2名)で構成され、原則月1回の定例取締役会と必要に応じた臨時取締役会を開催します。監査役会は常勤監査役1名と社外監査役2名の3名で、こちらも原則月1回開催です。さらに、代表取締役会長・代表取締役社長・各部長で構成する経営会議を原則月1回開き、経営課題、リスクマネジメント、コンプライアンスに関する事項を共有・協議しています。
図14 取締役会6名(うち社外2名)、監査役会3名(うち社外2名)、内部監査室1名、会計監査は監査法人Bloomという体制です(発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成)
書類では、監査役会設置会社を選んだ理由を具体的に説明しています。監査役の任期が監査等委員や監査委員より長いため、事業や業界の知識を蓄積して充実した監査ができること、監査役は独任制で個々の判断で機動的に監査できること、現在の規模では取締役会が大きくなり過ぎず効率的に運営できること、歴史が長く確立された制度で運用の混乱が少ないこと、の4点です。TPMには一般市場のような機関設計の形式要件はなく柔軟な設計も可能とされていますが、この会社は監査役会と会計監査人を置く体制を選び、その理由を自社の言葉で説明しています。機関設計の比較は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で解説しています。
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(書類の記載より) |
|---|---|---|
| 代表取締役会長 | 松谷 容範 | 外資系企業等でEマーケティング等に従事、2006年1月当社設立 |
| 代表取締役社長 | 中 友美 | 看護師として病院に勤務後、銀行・人材会社を経て2006年1月当社設立 |
| 取締役 コンサルティング部長 | パンデイ・ラジェンドラ | 銀行勤務等を経て2023年11月入社、2024年3月取締役 |
| 取締役 経営管理部長 | ヴィライヴァン・ヴィラサイ | 2023年9月入社、2025年3月取締役、同年5月経営管理部長 |
| 社外取締役 | 木村 亮一 | 運輸会社の取締役(現任)、2008年9月当社取締役 |
| 社外取締役 | 江渡 春美 | 大学病院で看護師長を歴任、2024年3月当社取締役 |
| 常勤監査役 | 塩田 隆三 | 事業会社で経理部長・常勤監査役等、当社財務経理部長を経て2019年4月就任 |
| 社外監査役 | 若山 純 | 社会保険労務士、2021年4月就任 |
| 社外監査役 | 谷口 久和 | リース会社等で監査部長・常勤監査役等、2022年4月就任 |
役員は男性7名・女性2名(女性比率22%)です。社外取締役2名・社外監査役2名を選任していますが、社外役員の独立性に関する基準や方針について特段の定めはなく、選任に際しては経験や取引関係を考慮していると記載されています。社外監査役に社会保険労務士がいることは、労働者派遣法や同一労働同一賃金への対応が重要な派遣事業の会社らしい人選といえます。常勤監査役は、当社の財務経理部長を経て就任した社内出身者です。
役員報酬は、役員報酬規程に従い、株主総会で承認された上限の範囲内で、報酬委員会の答申を踏まえて取締役会が個別の報酬を決議します。報酬委員会は代表取締役会長と社外取締役2名の3名で構成されます。2024年12月期の役員報酬は合計92,520千円で、すべて固定報酬です。小規模な会社でも、社外取締役が過半数を占める任意の報酬委員会を置き、決定の手順を明文化している点は参考になります。
図15 役員報酬規程に従い、株主総会で承認された上限の範囲内で、報酬委員会の答申を踏まえて取締役会が個別の報酬を決議します(発行者情報「役員の報酬等」をもとに作成)
定款では、取締役は7名以内、監査役は3名以内とし、取締役の選任決議は議決権の3分の1以上を有する株主が出席しその過半数で行い、累積投票によらないこととしています。会社法第426条第1項による取締役会決議での責任免除、第427条第1項による非業務執行取締役・監査役との責任限定契約を締結できる旨の定め、取締役会決議による自己株式の取得や中間配当の定めも置いています。関連当事者との取引は、第18期・第19期とも「該当事項はありません」です。
内部監査・内部統制:独立した内部監査室に1名
内部監査は、独立した内部監査室に1名を配置して実施しています。監査役と内部監査室は、相互の監査計画の交換、その説明や報告、業務の効率性(財務報告の適正性を含む)の状況、内部統制への対応などについて連携して監査を行っていると記載されています。監査役会は内部監査担当者及び監査法人とも情報交換や意見交換を行い、監査役は代表取締役と半期ごとに報告聴取・意見交換を行っています。
図16 監査役と内部監査室は監査計画の交換や報告で連携し、監査役会は内部監査担当者・監査法人とも情報交換を行うと記載されています(発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成)
内部統制については、取締役会で「内部統制システム構築の基本方針」を決議し、取締役会規程、業務分掌規程、職務権限規程などで業務と権限を分担して、特定の組織や担当者への集中を避けるよう努めているとしています。リスク管理はリスク管理規程を定め、経営会議が主体となって毎月1回、事業等のリスクについて報告を行う体制です。情報管理については、個人情報管理規程や研修、内部監査によるチェックを挙げています。
TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、上場適格性要件として、企業の規模や成熟度等に応じた内部管理体制の整備・運用が求められます。内部監査担当者が1名の場合は、内部監査室自体の業務を誰が監査するかという「自己監査の回避」の手当ても検討しておく必要があります。考え方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)で解説しています。
会計・開示の論点:収益認識、税効果、監査報酬
派遣売上は「一定期間にわたり」収益を認識
収益認識の会計方針は、看護助手派遣事業では派遣期間にわたり役務を提供することから、一定期間にわたり履行義務が充足されると判断し、派遣契約に定められた金額に基づき収益を認識する、というものです。単一の事業で収益の性質や計上時期に重要な違いがないため、収益の分解情報は省略されています。契約負債の残高はなく、残存履行義務に配分した取引価格も「-」です。
派遣事業は収益認識の論点が比較的少ない業種ですが、上場準備では、派遣契約の単価・稼働時間の集計から請求、売上計上までの流れが内部統制として整っているかが確認されます。第19期の売掛金は58,622千円で、回収率90.15%、滞留期間32.47日と記載されています。信用リスクについては、売上代金管理規程・債権管理規程・与信管理規程に従い、取引先ごとに月末の債権残高を確認していると説明しています。収益認識の審査上の論点は上場審査で問われる収益認識をご覧ください。
繰延税金資産は全額に評価性引当額
重要な会計上の見積りとして挙げられているのは、繰延税金資産の回収可能性です。第19期末の繰延税金資産は、税務上の繰越欠損金14,815千円を含めて小計16,572千円ありますが、全額に評価性引当額を計上し、貸借対照表の計上額はゼロです。評価性引当額は14,343千円増加しており、主に税務上の繰越欠損金の発生によるものと説明されています。将来の課税所得の見積りは中期経営計画等を基礎とし、売上高予測を主要な仮定としています。
このほか、第18期には本社の建物と工具器具備品について減損損失2,940千円を計上しています(回収可能価額は使用価値をゼロとして評価)。また、新しいリース会計基準(企業会計基準第34号)は2028年12月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中とされています。本社は賃借で、年間賃借料は14,420千円です。
監査報酬と監査法人
監査法人Bloomへの報酬は、最近事業年度で監査証明業務に基づく報酬11,000千円、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報酬は、会社規模、特性、監査日数等を考慮し、監査役会の同意を得たうえで取締役会で決議すると記載されています。財務諸表は財務諸表等規則に基づき、特例第110条第6項で認められた会計基準のうち日本の会計基準に準拠して作成しています。
事業等のリスクとJ-Adviser契約
事業等のリスクは、法的規制、事業内容、事業運営体制、事業環境、担当J-Adviserとの契約の5つに分けて記載されています。主な項目は次のとおりです。
| 区分 | 主なリスク | 書類に記載された内容の要点 |
|---|---|---|
| 法的規制 | 労働者派遣法 | 欠格事由への該当や法令違反、法改正の影響 |
| 法的規制 | 入管法 | 在留資格の認定・更新が認められなくなった場合の影響、行政処分 |
| 法的規制 | 同一労働同一賃金 | 支払給与等の売上原価の増加と、料金への転嫁の遅れ |
| 事業内容 | 特定取引先への依存 | 2024年12月期の売上高の25%が1病院、長期契約なし |
| 事業内容 | 特定事業への集中 | 単一セグメント。上場後はシナジーのある新ビジネスを創出・推進 |
| 事業運営体制 | 特定経営者への依存・大株主 | 共同創業者2名が代表取締役で各44.6%を保有 |
| 事業運営体制 | 人材の確保と育成・情報の取扱い | リーダースタッフの育成、患者の個人情報への接触 |
| 事業環境 | 少子高齢化・競合・風評・訴訟・災害 | 医療保険制度改正や就労人口減少、感染症による病棟閉鎖等 |
| J-Adviser契約 | 契約の解除・解約 | 代わりのJ-Adviserを確保できない場合は上場廃止につながる可能性 |
TPM上場会社に特有なのが、最後のJ-Adviser契約のリスクです。書類によれば、特例第102条によりTPM上場会社はJ-Adviserと契約を締結する義務があり、シンカナースは宝印刷と契約しています。契約上の義務は、特例第113条に定める上場適格性要件を継続的に満たすこと、適時適切な会社情報の開示に努めること、上場会社の義務を履行することです。
義務の不履行や契約違反があった場合、相手方は相当の期間(特段の事情のない限り1ヶ月)を定めて書面で催告し、是正されなければ契約を解除できます。また、両当事者は書面による合意又は1ヶ月以上前の書面通知で、いつでも契約を解約できます。さらに、債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、反社会的勢力の関与など20の事由に該当した場合は、催告なしで契約を解除できると定められています。株主総会の特別決議を経て上場廃止申請書を提出した場合も上場廃止となります。公表日時点では、これらの事象は発生していないとされています。
図17 発行者情報の「事業等のリスク」に記載された宝印刷とのJ-Adviser契約の解除・解約の定めを図にしたものです
TPMでは、債務超過や発行者情報等の提出遅延などの事由が、J-Adviser契約の解除事由という形でも、会社と担当J-Adviserの契約に組み込まれています。上場後に担当J-Adviserが替わることは適時開示事項であり、契約が解除された後、必要な期間内に新たなJ-Adviserと契約できなければ上場廃止となります。上場準備の段階から、契約条項を自社のリスクとして理解しておくことが大切です。
一般市場へのステップアップを考える会社への示唆
シンカナースの書類には、将来グロース市場やスタンダード市場へ移ることについての記載はありません。そのため、同社の方針については触れず、一般論として整理します。
TPMから一般市場へ移る場合は、市場区分の変更ではなく、TPMでの上場を申請により廃止したうえで、一般市場に新規上場する手続になります。東証は2026年4月の資料で、TPMでの実績を勘案した一般市場の上場審査の効率化や、開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に予定していると公表していますが、本記事の執筆時点で実施済みかどうかは確認できていません。
一般市場への新規上場では、直前2期の監査、有価証券届出書やⅠの部の作成、内部統制報告書への対応などが必要になります。シンカナースの書類を一般市場の視点で見ると、監査を受けた期間(1期)、株主の数(5名)、四半期開示の扱いなど、追加で準備が必要になる項目が見えてきます。将来のステップアップを考える会社は、TPM上場の段階から一般市場の要件との差を把握し、監査期間や開示体制を計画的に整えておくとよいでしょう。資本政策全体の考え方は上場準備の資本政策で解説しています。
上場準備会社がシンカナースの事例から学べること
ここまでの内容から、上場準備会社、特にTPM上場を検討する会社が学べるポイントを8つにまとめます。
1つ目は、公募・売出しを伴わない上場では、上場時の書類が「発行者情報」に相当する情報になることです。2つ目は、監査は最近1年間で足りるものの、監査そのものは必要で、監査法人を早めに決める必要があることです。3つ目は、J-Adviser契約の解除・解約条項を、上場維持の前提として理解しておくことです。4つ目は、赤字の期を含む場合、上場予定日から12か月間の運転資金の説明を準備しておくことです。
5つ目は、種類株式やストック・オプションを上場前に整理し、残数と行使条件を明確にしておくことです。6つ目は、機関設計を選んだ理由を自社の言葉で説明できるようにすることです。7つ目は、顧客集中、許認可、外国人人材の在留資格など、事業に固有のリスクを数字とあわせて開示することです。8つ目は、小規模な組織でも、独立した内部監査室や任意の報酬委員会など、牽制の仕組みを形にしておくことです。
図18 本記事で取り上げた論点を、上場準備会社が自社に当てはめて確認しやすいように整理しました
- 自社の上場で、特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を行うか(書類が特定証券情報か発行者情報相当か)を決めている
- 最近1年間の財務諸表について監査を受ける監査法人と契約し、期首残高の検証の段取りができている
- 担当J-Adviser候補と契約条項(義務、催告期間、解約通知期間、解除事由)を確認している
- 上場予定日から12か月間の運転資金の確保を、資金計画で説明できる
- 種類株式・新株予約権の整理と、上場前1年以内の第三者割当等の確約の要否を確認している
- 機関設計、社外役員の選任理由、報酬の決定手順、内部監査体制を文書で説明できる
よくある質問
いいえ。シンカナースは上場に際して特定投資家向けの取得勧誘・売付け勧誘等を行っておらず、公募による資金調達は行っていません。2026年6月15時点の東証の集計でも、上場目的に「増資」を挙げた会社は11社(10%)にとどまります。
数値による形式基準はありませんが、担当J-Adviserが上場適格性要件(5項目)への適合を調査・確認し、宣誓書を東証に提出します。東証も上場申請の前に面談を行います。審査がないわけではありません。
いいえ。上場前の監査期間は最近1年間で、一般市場の直前2期より短いものの、監査は必要です。シンカナースも第19期について監査法人の監査を、第20期中間期について期中レビューを受けています。
一般投資家は取引所で買付けをすることはできませんが、保有している株式を売却することはできます。買付けができるのは特定投資家等です。
最初の一歩は「どの書類で、どの監査期間で上場するか」を決めること
TPM上場を検討するなら、まず上場時に特定投資家向けの勧誘を行うかどうか、つまり資金調達を伴う上場にするかを決め、そのうえで監査を受ける事業年度と担当J-Adviserの候補を固めることが出発点になります。シンカナースのように、監査を受けた期の決算の後、中間期の期中レビューを経て申請に進むスケジュールは、逆算の具体例として役立ちます。
まとめ
シンカナース株式会社は、2006年に看護職の人材サービスとして創業し、外国人人材も対象とした看護助手の派遣に特化して成長してきた会社で、2026年2月20日にTOKYO PRO Marketに上場しました。担当J-Adviserは宝印刷株式会社で、上場時の公募・売出しは行っていません。
書類からは、発行者情報に相当する情報による上場、監査を受けた期間が1期であること、J-Adviser契約の解除条項、共同創業者2名に集中した株主構成、監査役会設置会社を選んだ理由の説明、任意の報酬委員会など、TPM上場の実務を具体的に読み取ることができます。TPM上場や一般市場へのステップアップを検討している方は、本記事のチェックリストで自社の準備状況を確認してみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「シンカナース 特定証券情報」(書類名:発行者情報、2026年1月22日公表)
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「J-Adviser制度」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 日本取引所グループ「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示のお願い」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示状況」(2026年6月15日時点)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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