※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
NOK Group株式会社(証券コード641A)は、NOK株式会社とイーグル工業株式会社が共同株式移転によって設立する共同持株会社です。2026年9月1日に東京証券取引所の上場承認を受け、設立登記日である2026年10月1日に東証プライム市場へ上場しました。公募や売出しによって新たに株主を募る通常のIPOではなく、すでに上場していた2社の株式が新しい持株会社の株式に置き換わる「テクニカル上場」です。本記事では、東京証券取引所に提出された「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」を読み、持株会社化とテクニカル上場の実務を整理します。
結論からいえば、NOK GroupのⅠの部は「すでに資本関係のある上場会社2社が、共同株式移転でグループ経営体制をつくる場合に、どのような手続・利益相反対策・株式数の調整・機関設計が必要になるか」を一通り確認できる資料です。株式移転計画書の全文、2社の第三者算定機関による算定の前提、特別委員会の運営状況、関係会社間の株式(NOKが保有するイーグル工業株式)の処理、監査等委員会設置会社としての役員構成と株式報酬の承継まで、持株会社化を検討する会社がそのまま検討項目にできる論点が並んでいます。
この記事の見出し
- NOK Groupとはどんな会社で、どのように上場したのか
- なぜ持株会社化なのか:経営統合の背景と目的
- 共同株式移転とテクニカル上場の手続はどう進んだのか
- 株式移転比率1対1はどのように決められたのか
- 利益相反をどう管理したのか:公正性担保措置と特別委員会
- 統合前の両社の業績と「統合財務情報」をどう読むか
- 資本政策と株式:発行済株式数・自己株式・大株主はどう決まったか
- 持株会社のコーポレート・ガバナンスはどう設計されたか
- 内部監査・内部統制・リスク管理はどう引き継がれるのか
- 会計・開示ではどこに注意すべきか
- 事業等のリスクには何が書かれ、どこが問われやすいか
- 上場準備会社・持株会社化を検討する会社が学べること
- よくある質問
- まとめ
- 本記事の根拠
NOK Groupとはどんな会社で、どのように上場したのか
まず基本情報です。NOK Groupの英訳名はNOK Group Corporation、本店は東京都港区芝大門一丁目12番15号、代表者は代表取締役 グループCEOの鶴正雄氏です。資本金は50億円、決算期は3月31日で、最初の事業年度は設立日から2027年3月31日までと定款附則に定められています。純資産と総資産は、Ⅰの部の提出時点では「確定しておりません」と記載されています。
Ⅰの部の表紙には、上場申請会社としてNOK Group、提出会社としてNOKとイーグル工業の2社が並んでいます。提出日は2026年9月1日ですが、この時点でNOK Groupはまだ設立されていません。注記には、Ⅰの部が設立予定日である2026年10月1日現在の状況を説明する「事前提出書類」であり、特に必要のある場合を除き予定・見込みである旨の表現は使っていない、と書かれています。会社がまだ存在しない段階で上場申請書類を作る、というのがテクニカル上場の書類の大きな特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名(証券コード) | NOK Group株式会社(641A) |
| 市場 | 東京証券取引所 プライム市場(テクニカル上場) |
| 上場承認日/上場日 | 2026年9月1日/2026年10月1日(設立登記日) |
| 設立の方法 | NOK株式会社とイーグル工業株式会社の共同株式移転 |
| 株式移転比率 | NOK1株に1株、イーグル工業1株に1株 |
| 本店所在地 | 東京都港区芝大門一丁目12番15号 |
| 資本金 | 50億円(資本準備金3,700億円) |
| 決算期 | 3月31日(最初の事業年度は2027年3月31日まで) |
| 機関設計 | 監査等委員会設置会社(取締役9名、うち社外4名) |
| 会計監査人 | 監査法人日本橋事務所(設立時会計監査人) |
| 発行済株式数(予定) | 普通株式188,604,377株(単元株式数100株) |
| 旧会社の上場廃止日 | 2026年9月29日(両社とも、予定として記載) |
持株会社自体は「傘下子会社及びグループの経営管理並びにこれに付帯又は関連する業務」を行う予定とされています。事業の実体は完全子会社となる2社にあります。NOKは1941年にゴム製オイルシールの製造・販売を行う日本ベアリング製造株式会社として創立され、1969年には日本メクトロン株式会社(現在のメクテック株式会社)を設立してフレキシブルプリント基板の事業を育ててきました。イーグル工業は1964年にNOKのメカニカルシール製造部門が独立し、日本シールオール株式会社として設立された会社です。
両社はもともと資本関係にあり、NOKはイーグル工業の発行済株式総数(自己株式を除く)の32.03%(2025年9月30日現在)を保有する「その他の関係会社」でした。NOKの連結財務諸表では、イーグル工業は持分法適用会社です。今回の統合は、この関係を、持株会社の下に2社が並ぶ形へ組み替えるものです。
図1 NOKはイーグル工業の発行済株式総数(自己株式を除く)の32.03%(2025年9月30日現在)を保有するその他の関係会社。統合後は両社が共同持株会社の完全子会社になる(Ⅰの部「組織再編成の目的等」をもとに作成)
Ⅰの部では、テクニカル上場の位置づけも明記されています。両社は新設する共同持株会社の株式について東証プライム市場に「テクニカル上場」を行う予定であり、上場日は設立登記日の2026年10月1日、両社は共同持株会社の完全子会社となるため、共同持株会社の上場に先立ち2026年9月29日にそれぞれ上場廃止となる予定、という説明です。上場準備の一般的な流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で整理していますが、テクニカル上場は「すでに上場している会社が器を入れ替える」手続であり、資金調達や株主の拡大を目的とするIPOとは発想が異なります。
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なぜ持株会社化なのか:経営統合の背景と目的
Ⅰの部の第一部「組織再編成に関する情報」は、経営統合の背景から始まります。両社はこれまで、日本国内の自動車向け製品の販売でNOKがイーグル工業の販売代理店を担うほか、原材料の購入や人事交流でも関係を続けてきました。一方で、自動車業界をはじめとする主要市場ではカーボンニュートラルに向けた取り組みが進み、次世代モビリティ・次世代エネルギー市場に向けた新製品の開発や海外への販路拡大という課題を両社が共有していたと書かれています。
NOKの主力製品はオイルシール、イーグル工業の主力製品はメカニカルシールです。素材や機能の違いからそれぞれ独自に研究開発・生産・販売を進めてきましたが、回転機械の軸封部の「封じる=シール」機能は「シーリング・ソリューション」という点で共通しており、統合によって顧客満足度の向上と課題解決につながる製品・サービスを提供できる、という結論に至ったと説明されています。そのために「グループ一体となった経営体制」を構築することが企業価値向上に資するとして、共同持株会社の設立による経営統合に最終合意しました。
期待する効果としては、次の3点が挙げられています。第一に、グループ資源の最適化による事業成長です。NOKのゴムを中心とする有機材から、イーグル工業の金属・セラミックを中心とする無機材まで、素材技術を幅広く持つことで製品ラインアップを拡充する余地があるとしています。第二に、効率的な事業運営による収益力の強化です。物流の効率化や営業拠点の運用、グローバル拠点の有効活用、治工具・金型の内製化の拡大、購買力の向上が挙げられています。第三に、より効果的な経営資源の配分です。持株会社に間接部門を集約・統合し、M&Aを含めた事業投資やキャッシュ・フローの配分を、グループ全体を俯瞰して戦略的に進めることを目指すとされています。
なお、シナジーについては「今後の統合準備プロセスの中でさらに精査」するとされ、後で見るとおり、株式移転比率の算定に使われた財務予測にもシナジーは織り込まれていません。持株会社化の目的を開示する際は、期待効果を定性的に示しつつ、数値化できていない部分をそのように書く、という姿勢が参考になります。
図2 NOKのセグメントとイーグル工業の5つの事業。従業員数は2026年3月31日現在の連結(Ⅰの部「事業の内容」「従業員の状況等」をもとに作成)
完全子会社となる2社の規模も確認しておきます。NOKグループは2026年3月31日時点でNOK、子会社83社、関連会社15社の99社で構成され、セグメントはシール事業、電子部品事業、その他事業の3つです。連結従業員数は36,655名(臨時従業員2,339名は外数)で、うちシール事業が20,093名、電子部品事業が16,260名です。イーグル工業グループはイーグル工業、子会社43社、関連会社42社とその他の関係会社で構成され、自動車・建設機械、一般産業機械、半導体、舶用、航空宇宙の5つの業界向け事業を展開しています。連結従業員数は6,188名(臨時従業員1,207名は外数)です。
持株会社自身の従業員数や人材戦略、労働組合の状況は「新設会社であるため、未定です」と記載されています。経営方針・対処すべき課題、サステナビリティ、MD&A、研究開発、設備の状況なども「新設会社であるため、該当事項はありません」としたうえで、両社が2026年6月22日に提出した有価証券報告書を参照する形です。テクニカル上場のⅠの部では、第二部(企業情報)の多くが「該当なし+子会社の有価証券報告書を参照」となり、情報の中心は第一部の組織再編成の説明に置かれます。Ⅰの部とⅡの部の役割の違いはⅠの部とⅡの部は何が違うかもあわせてご覧ください。
共同株式移転とテクニカル上場の手続はどう進んだのか
ここからが本記事の中心です。共同株式移転は、複数の会社が共同して新しい完全親会社を設立し、各社の発行済株式の全部をその新会社に取得させる会社法上の組織再編です。各社の株主は、もとの株式に代えて新会社の株式を受け取ります。NOK Groupの場合、NOKの株主はNOK株式1株につき1株、イーグル工業の株主はイーグル工業株式1株につき1株の持株会社株式を受け取ります。
手続の起点は2025年6月20日です。イーグル工業はこの日にNOKから経営統合の提案を受領し、以降、独立した検討体制を構築したと記載されています。その後、2025年11月10日に両社の取締役会決議に基づいて株式移転計画を作成し、同日、経営統合契約を締結しました。2026年5月21日には、経営統合契約と株式移転計画の別紙(共同持株会社の定款)の変更に関する覚書を締結しています。株式移転計画は、イーグル工業の2026年6月24日の定時株主総会、NOKの2026年6月25日の定時株主総会でそれぞれ承認されました。
図3 提案受領から設立・上場までの主な日程(Ⅰの部「組織再編成に関する手続」「上場申請会社の参考情報」等をもとに作成。2026年9月以降は予定として記載されている日程)
| 日程 | 手続(Ⅰの部「株主総会等の組織再編成に係る手続の方法及び日程」) |
|---|---|
| 2025年11月10日(月) | 経営統合契約及び株式移転計画承認取締役会決議、契約締結・計画作成(両社) |
| 2026年3月31日(火) | 定時株主総会に係る基準日(両社) |
| 2026年5月21日(木) | 本覚書の締結(両社) |
| 2026年6月24日(水) | 株式移転計画承認定時株主総会(イーグル工業) |
| 2026年6月25日(木) | 株式移転計画承認定時株主総会(NOK) |
| 2026年9月28日(月) | 東京証券取引所最終売買日(両社・予定) |
| 2026年9月29日(火) | 東京証券取引所上場廃止日(両社・予定) |
| 2026年10月1日(木) | 株式移転効力発生日(共同持株会社設立登記日)、共同持株会社株式上場日(予定) |
この日程から読み取れるのは、株式移転計画の承認を臨時株主総会ではなく定時株主総会で行っていることです。株式移転計画には「2026年6月に開催予定の定時株主総会において、本計画の承認及び本株式移転に必要な事項に関する決議を行う」と定められていました。定時総会に議案を載せるには、計画作成から総会までの期間に、事前備置書類の準備や有価証券届出書の提出を間に合わせる必要があります。Ⅰの部によれば、会社法803条1項と会社法施行規則206条に基づく事前備置書類は、NOKが2026年6月10日、イーグル工業が2026年6月9日に本店に備え置いています。
備置された書類は、①株式移転計画、②株式移転比率とその算定根拠、共同持株会社の資本金・準備金の額が相当であることを説明した書類、③相手方の最終事業年度(2026年3月期)の計算書類等、④相手方の最終事業年度末日後に生じた重要な財産の処分等、⑤自社の最終事業年度末日後に生じた重要な財産の処分等、の5種類です。相手方の計算書類まで備え置く点は、共同株式移転ならではの実務です。
金融商品取引法上の手続も並行して進められています。上場申請会社であるNOK Groupは、2026年6月5日に有価証券届出書(組織再編成・上場)を関東財務局長に提出し、6月25日と7月1日に訂正届出書を提出しています。株式移転で新会社の株式を多数の株主に交付する場合、組織再編成に係る届出が必要になる場合がある点は、持株会社化を計画する上場会社にとって押さえておきたいポイントです。両社はまた、統合関連の臨時報告書とその訂正報告書を提出しており、Ⅰの部の「その他の参考情報」に一覧が掲載されています。
株式移転計画書には何が書かれているか
Ⅰの部には、株式移転計画書の写しが全文で掲載されています。条項は全15条で、新会社の目的・商号・本店・発行可能株式総数(第2条)、設立時取締役・設立時監査等委員・設立時会計監査人(第3条)、交付する株式の数と割当て(第4条)、資本金及び準備金(第5条)、成立日(第6条)、株式上場と株主名簿管理人(第7条)、承認株主総会(第8条)、自己株式の消却(第9条)、剰余金の配当等(第10条)、事業の運営等(第11条)、条件変更・中止(第12条)、計画の効力(第13条)、合意管轄(第14条)、協議(第15条)という構成です。
実務上とくに注目したいのは、第9条と第10条です。第9条では、両社が基準時に保有する自己株式の全部を、成立日の前日までに開催する取締役会の決議により基準時に消却するとしています。反対株主の株式買取請求に応じて取得する自己株式も含みますが、役員報酬BIP信託の信託財産として受託者が管理する株式は含まれません。自己株式に持株会社株式が割り当てられることを避けるための定めです。第10条では、統合までの期間の配当を、両社とも2026年3月31日基準で1株65円、2026年9月30日基準で1株70円を限度とし、NOKは成立日の前日までに総額30,000百万円を限度に自己株式を取得できる、と定めています。統合比率を決めた後に一方の会社だけが大きく株主還元を行うと比率の前提が崩れるため、統合までの資本政策の枠を計画に書き込んでおくわけです。
図4 2025年11月10日付の株式移転計画書(2026年5月21日付覚書による変更後)の要旨(Ⅰの部「株式移転計画の内容」をもとに作成)
第3条では、設立時の役員として、取締役(監査等委員である取締役を除く)4名、監査等委員である取締役5名、そして会計監査人として監査法人日本橋事務所が定められています。新設会社は設立と同時に機関がそろっていなければならないため、役員と会計監査人を株式移転計画で決めておく必要があります。定款は計画の別紙として添付されており、2026年5月21日の覚書で変更された後の内容がⅠの部に掲載されています。
第5条では、新会社の資本金を50億円とし、準備金の額は会社計算規則52条の定めにより両社が決定するとしています。Ⅰの部の「発行済株式総数、資本金等の推移」では、2026年10月1日の資本金は5,000百万円、資本準備金は370,000百万円と記載されています。株式移転で設立される会社の株主資本の額は、受け入れる子会社株式の評価をもとに会社計算規則に従って決まり、そのうちいくらを資本金とし、いくらを準備金とするかを計画で定める、という構造です。
旧会社の上場廃止と新会社の上場はどうつながるか
テクニカル上場の要点は、旧会社の株式の上場廃止と新会社の株式の上場の間に、株主の売買機会をできるだけ空けないことです。NOK Groupでは、両社株式の最終売買日が2026年9月28日(月)、上場廃止日が9月29日(火)、共同持株会社の設立登記日と上場日が10月1日(木)と予定されていました。上場廃止の期日は東京証券取引所の各規則により決定される、と注記されています。
株主の側から見ると、基準時(株式移転の効力発生の直前時)における両社の最終の株主名簿に記載・記録された株主に持株会社株式が割り当てられ、自己の振替口座に持株会社の普通株式が記録されることで株式を受け取ります。新たな払込みは不要です。100株未満の持株会社株式の割当てを受ける株主は、会社法192条1項に基づき持株会社に単元未満株式の買取りを請求できる旨も説明されています。
図5 最終売買日・上場廃止日・上場日はⅠの部に「予定」として記載。上場廃止の期日は東京証券取引所の各規則により決定される(Ⅰの部「上場廃止となる見込み及び共同持株会社の上場申請等に関する取扱い」をもとに作成)
また、株式移転に反対する株主には、会社法806条に基づく株式買取請求権があります。Ⅰの部では、各社の定時株主総会に先立って反対する旨を通知し、総会で反対し、そのうえで会社が行う通知または公告の日から20日以内に株式数を明らかにして請求する、という手順が具体的に書かれています。議決権行使の方法(郵送、インターネット、代理人、不統一行使)も詳しく説明されており、株主に対する手続の透明性を重視した記載です。両社とも新株予約権や新株予約権付社債を発行していないため、新株予約権の承継の問題は生じていません。
上場審査の観点では、テクニカル上場は通常の新規上場とは異なる取扱いがJPXの規則で設けられており、上場会社が組織再編で完全子会社となる場合に、その完全親会社の株式を速やかに上場させるための仕組みです。一方で、プライム市場の上場会社となる以上、上場後はコーポレートガバナンス・コードの全原則(プライム市場向けの原則を含む)への対応が求められます。通常のIPOにおける実質審査の考え方はIPOの実質審査基準とはで解説しています。
株式移転比率1対1はどのように決められたのか
共同株式移転では、各社の株主に新会社の株式を何株ずつ割り当てるか(株式移転比率)が最大の交渉事項になります。NOK Groupの比率はNOK1.00、イーグル工業1.00です。Ⅰの部によれば、NOKはフィナンシャル・アドバイザー兼第三者算定機関として大和証券を、法務アドバイザーとして森・濱田松本法律事務所外国法共同事業を選定し、イーグル工業はフィナンシャル・アドバイザー兼第三者算定機関としてみずほ証券を、法務アドバイザーとして西村あさひ法律事務所・外国法共同事業を選定しました。両社は2025年11月7日付でそれぞれの算定機関から株式移転比率算定書を取得しています。
両社は、算定結果と助言、相互に実施したデュー・ディリジェンスの結果、財務状況、業績動向、資産の状況、将来の見通し、株価の動向などを総合的に勘案し、交渉・協議を重ねて2025年11月10日の取締役会で比率を決定しました。さらに、比率の合意から一定期間が経過したことを踏まえ、NOKは2026年5月20日、イーグル工業は2026年5月21日の取締役会で、2026年3月期の決算内容や株価などの状況変化を踏まえても比率は引き続き妥当であり変更の必要はないと判断しています。合意から効力発生まで1年近くかかる統合では、途中で前提を再確認したことを記録に残しておくことが重要です。
図6 NOK1株に持株会社株式1株を割り当てる場合の、イーグル工業1株に割り当てる株式数のレンジ。算定基準日は2025年11月7日。合意した比率は1.00(Ⅰの部「株式移転比率の算定根拠等」をもとに作成)
算定手法を見てみます。大和証券は、両社が東証プライム市場に上場していて市場株価が存在することから市場株価基準法を、将来の事業活動を評価に反映するためDCF法を採用しました。イーグル工業1株に割り当てる株式数のレンジは、市場株価基準法で0.97~1.01、DCF法で0.57~1.50です。みずほ証券は、市場株価基準法、類似企業比較法、DCF法の3つを採用し、レンジはそれぞれ0.97~1.01、0.82~1.29、0.72~1.34です。市場株価基準法の算定基準日は公表日の前営業日である2025年11月7日で、算定基準日の終値と、過去1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月の終値単純平均値が使われています。
類似企業比較法では、NOKの類似企業として豊田合成とニフコ、イーグル工業の類似企業としてTHK、ハーモニック・ドライブ・システムズ、椿本チエイン、キッツ、オイレス工業が選ばれ、企業価値に対するEBITDAの倍率で1株あたりの価値が算定されました。非上場会社の株価算定でも同じ手法の組合せがよく使われます。考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで解説しています。
| みずほ証券のDCF法の前提 | NOK | イーグル工業 |
|---|---|---|
| 割引率(加重平均資本コスト) | 8.3%~9.3% | 8.4%~9.4% |
| 永久成長率 | 1.5%~2.5% | 1.5%~2.5% |
| 継続価値(永久成長法) | 387,032~542,504百万円 | 139,863~194,781百万円 |
| EXITマルチプル(EV/EBITDA) | 3.8倍~4.8倍 | 5.6倍~6.6倍 |
| 継続価値(EXITマルチプル法) | 292,522~383,249百万円 | 121,180~147,785百万円 |
| 2027年3月期の売上高(予測) | 706,526百万円 | 178,000百万円 |
| 2029年3月期の売上高(予測) | 780,453百万円 | 192,000百万円 |
| 2029年3月期の営業利益(予測) | 50,077百万円 | 14,500百万円 |
みずほ証券のDCF法では、両社が作成した2026年3月期から2029年3月期までの4期分の財務予測が使われ、その具体的な数値がⅠの部に掲載されています。たとえばNOKは、2026年3月期(9ヶ月)の売上高555,033百万円、営業利益25,898百万円から、2029年3月期には売上高780,453百万円、営業利益50,077百万円を見込んでいます。イーグル工業は、2026年3月期(9ヶ月)の売上高132,511百万円、営業利益8,702百万円から、2029年3月期には売上高192,000百万円、営業利益14,500百万円を見込んでいます。
財務予測に大幅な増減がある年度については、その理由も説明されています。NOKでは、2027年3月期にシール事業の設備投資額が一時的に増加すること等によりフリー・キャッシュ・フローが40.2%減少し、2028年3月期は営業利益が43.9%増益となる一方、運転資本の増加等によりフリー・キャッシュ・フローが31.9%減少する見込みです。NOKが保有するイーグル工業株式については、持分法による投資利益をEBITDAに加算することでフリー・キャッシュ・フローで勘案した、という処理も書かれています。相手方の株式を持っている状態での価値算定では、二重計上を避けるためにこうした調整が必要になります。
もう一点、両社とも「本経営統合の実行により実現することが期待されるシナジーについては、現時点において収益に与える影響を具体的に見積もることが困難であるため」財務予測に加味していない、と明記されています。また、両社はいずれの算定機関からも、株式移転比率が財務的見地から妥当である旨の意見書(いわゆるフェアネス・オピニオン)を取得していません。算定機関は提供された情報を正確かつ完全なものとして前提にし、資産・負債の独自の評価・査定を行っていない、という前提条件も記載されています。
みずほ証券については、グループ会社のみずほ銀行が両社の株主であり融資取引もあることから、情報隔壁措置などの利益相反管理体制が構築されていること、イーグル工業が第三者算定機関としての独立性が確保されていると判断した理由が説明されています。みずほ証券の報酬に本経営統合の成立等を条件とする成功報酬が含まれていることも開示されています。算定機関の独立性と報酬体系は、利益相反が問題となる取引では必ず問われる項目です。
利益相反をどう管理したのか:公正性担保措置と特別委員会
この統合の大きな論点は、NOKがイーグル工業の32.03%を保有する「その他の関係会社」である点です。Ⅰの部は、本株式移転はイーグル工業にとって支配株主との重要な取引には該当しないものの、NOKがイーグル工業のその他の関係会社であることから、イーグル工業に東京証券取引所の有価証券上場規程第441条に規定される「MBO等に係る遵守事項」が適用される場合に該当する、と整理しています。そのうえで、株式移転比率その他の公正性を担保するため、ア〜カの6つの措置を講じたと説明しています。
ア.独立した第三者算定機関からの算定書の取得、イ.独立した法律事務所からの助言、ウ.イーグル工業における利害関係を有しない特別委員会からの答申書の取得、エ.イーグル工業における利害関係を有しない取締役(監査等委員である取締役を含む)全員の承認、オ.イーグル工業における独立した検討体制の構築、カ.他の買収者による買収機会の確保(マーケット・チェック)の6つです。上場会社グループ内の取引の公正性は、上場審査でも関連当事者取引や親会社等からの独立性の観点から問われるテーマであり、構造的な利益相反への対処の実例として参考になります。
図7 NOKがイーグル工業のその他の関係会社であるため、イーグル工業に有価証券上場規程第441条「MBO等に係る遵守事項」が適用される場合に該当するとして講じられた措置(Ⅰの部「公正性を担保するための措置」をもとに作成)
特別委員会の運営は具体的に記載されています。委員は、NOK及びイーグル工業と利害関係を有しない、イーグル工業の社外取締役1名、社外取締役で監査等委員の3名、社外有識者1名(公認会計士)の計5名です。委員長は委員の互選により監査等委員の社外取締役が選定され、委員は設置当初から変わっていません。諮問事項は、①本経営統合の目的の正当性・合理性(企業価値向上に資するかを含む)、②取引条件(株式移転比率を含む)の公正性、③手続の公正性、④本経営統合が一般株主にとって公正か、の4つです。
イーグル工業の取締役会は、委員会が統合を一般株主にとって不利益と判断した場合には統合に賛同しないことを決議し、委員会に(a)アドバイザー等の指名・承認、(b)委員会独自のアドバイザーの選任、(c)補助者の選任、(d)取締役・従業員等への出席・説明の要求、(e)条件交渉またはその指示、という権限を与えました。委員会の報酬は答申内容にかかわらず設置期間に応じた額で、成功報酬は含まれていません。委員会は2025年6月25日から11月7日までに計14回、合計約19.7時間、全ての回に委員全員が出席して開催され、11月7日付で委員全員の一致により答申書を提出しました。これを受けて、イーグル工業は11月10日の取締役会で、利害関係を有しない取締役12名の全員一致で経営統合契約の締結と株式移転計画の作成を決議しています。
図8 委員会は社外取締役1名、社外取締役(監査等委員)3名、社外有識者(公認会計士)1名の5名で構成。報酬は答申内容にかかわらず設置期間に応じた額で、成功報酬は含まない(Ⅰの部をもとに作成)
マーケット・チェックについては、両社が経営統合契約で取引保護条項(第三者に対して統合と矛盾・抵触する取引の提案・勧誘をしない)を設けつつ、効力発生日の14日前までにイーグル工業が真摯な対抗提案を受けた場合には、善管注意義務を果たすために必要かつ合理的な範囲で情報提供や協議ができること、特別委員会が答申内容を撤回し、かつ対抗提案に応じないことが取締役の善管注意義務に違反すると合理的に判断した場合に契約を終了できるFiduciary Out条項があることが記載されています。公表から効力発生予定日まで約11ヶ月、株主総会まで約8ヶ月の期間があることから、間接的なマーケット・チェックが実施されていると整理しています。積極的なマーケット・チェックは行っていないことも明記されています。
上場準備会社にとっては、親会社や大株主との取引を行う際に、誰が・どのような独立した立場で・どれだけの時間をかけて検討したかを記録として残すことの重要性がよくわかる記載です。IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引)でも、取引の必要性と条件の妥当性の説明が中心になります。
統合前の両社の業績と「統合財務情報」をどう読むか
通常のIPOでは、上場申請会社自身の5期分の経営指標と財務諸表がⅠの部の中心になります。しかしNOK Groupは新設会社のため、Ⅰの部の「統合財務情報」では「本報告書提出日現在において財務情報はありません」とされ、代わりに完全子会社となる両社の連結経営指標が5期分掲載されています。第二部の「主要な経営指標等の推移」も、この統合財務情報を参照する形です。
参考として、両社の最終連結会計年度(2026年3月期)の主要指標を合算した数値も示されています。売上高885,424百万円、営業利益46,486百万円、経常利益63,832百万円、親会社株主に帰属する当期純利益52,993百万円です。ただし、この数値は「本経営統合以前から持分法適用関係であった両社の連結決算数値の合算値に一部修正を加えた数値に過ぎず、監査法人の監査証明を受けていない」と注意書きがあります。一部修正が加えられており両社の数値の単純な合計とは一致しないため、統合後の業績をイメージする参考値として読むのが適切です。
| NOK(連結) | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高(百万円) | 682,507 | 709,956 | 750,502 | 766,859 | 738,434 |
| 経常利益(百万円) | 46,168 | 26,557 | 40,285 | 48,057 | 49,835 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益(百万円) | 25,835 | 13,320 | 31,602 | 30,320 | 46,338 |
| 純資産額(百万円) | 554,355 | 577,346 | 639,001 | 623,421 | 670,270 |
| 総資産額(百万円) | 857,324 | 862,750 | 952,379 | 898,667 | 951,650 |
| 自己資本比率(%) | 58.6 | 60.6 | 61.5 | 64.4 | 65.7 |
| 自己資本利益率(%) | 5.38 | 2.60 | 5.70 | 5.21 | 7.70 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー(百万円) | 54,999 | 46,030 | 89,153 | 91,594 | 68,156 |
| 従業員数(人) | 37,613 | 37,913 | 38,097 | 37,958 | 36,655 |
| イーグル工業(連結) | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高(百万円) | 140,842 | 157,380 | 167,042 | 168,172 | 177,488 |
| 経常利益(百万円) | 10,811 | 12,277 | 13,799 | 12,024 | 17,170 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益(百万円) | 5,713 | 6,796 | 7,491 | 4,877 | 9,828 |
| 純資産額(百万円) | 103,094 | 112,930 | 125,671 | 122,519 | 142,621 |
| 総資産額(百万円) | 180,955 | 193,232 | 209,914 | 203,484 | 228,581 |
| 自己資本比率(%) | 52.1 | 54.0 | 55.6 | 55.9 | 58.2 |
| 自己資本利益率(%) | 6.4 | 6.8 | 6.8 | 4.2 | 8.0 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー(百万円) | 12,238 | 12,323 | 17,741 | 13,692 | 22,037 |
| 従業員数(人) | 6,393 | 6,300 | 6,280 | 6,268 | 6,188 |
図9 各期3月期の連結売上高。共同持株会社は新設会社のため財務情報はなく、両社の数値として掲載されている(Ⅰの部「統合財務情報」をもとに作成)
表を見ると、NOKの売上高は2025年3月期の766,859百万円から2026年3月期は738,434百万円に減少していますが、親会社株主に帰属する当期純利益は30,320百万円から46,338百万円に増加しています。2023年3月期は経常利益26,557百万円、当期純利益13,320百万円と、5期の中で最も低い水準でした。イーグル工業の売上高は掲載された5期を通じて毎期増加しており(140,842百万円→177,488百万円)、2026年3月期は177,488百万円、当期純利益は9,828百万円です。2025年3月期は当期純利益が4,877百万円と前期の7,491百万円から減少しています。両社とも5期を通じて黒字で、2026年3月期の自己資本比率はNOK65.7%、イーグル工業58.2%です。
なお、両社とも潜在株式は存在しないため、潜在株式調整後1株当たり当期純利益は記載されていません。1株当たり情報の算定では、役員報酬BIP信託と従業員持株会信託型ESOPが保有する自社株式を控除しています(NOKは役員報酬BIP信託が2022年8月、従業員持株会信託型ESOPが2023年2月から開始)。通常のIPOではIPO審査の「企業の継続性及び収益性」が審査の中心の一つになりますが、テクニカル上場の場合は、上場会社として開示してきた子会社の業績と開示書類がそのまま判断材料になります。
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資本政策と株式:発行済株式数・自己株式・大株主はどう決まったか
通常のIPOの資本政策は、公募・売出し、第三者割当、ストック・オプション、株式分割などを組み合わせて、上場時の株主構成をつくることが中心です。テクニカル上場では新たな資金調達はなく、株式移転比率と、自己株式・相互保有株式の処理によって新会社の株式数と株主構成が決まります。NOK Groupでは、ストック・オプション制度やライツプランは該当がなく、その他の新株予約権等もありません。種類株式発行会社でもなく、発行するのは完全議決権株式である普通株式のみです。
Ⅰの部の「発行済株式」には、2026年10月1日時点で普通株式188,604,377株を発行する予定と記載されています。算出の前提は、NOKの発行済株式総数160,903,090株とイーグル工業の発行済株式総数49,757,821株(いずれも2026年3月31日時点)です。そこから、基準時までに消却する予定の自己株式として、NOKの3,737,433株(2026年8月7日時点)とイーグル工業の3,506,542株(2026年3月31日時点)を除いています。さらに、本株式移転以前にNOKが保有していたイーグル工業株式14,812,559株も発行済株式総数に含めていません。
図10 Ⅰの部「発行済株式」の注記をもとに作成。NOKの自己株式は2026年8月7日時点、その他は2026年3月31日時点。千株未満四捨五入(合計は188,604,377株)。縦軸は140,000千株から表示
この14,812,559株の扱いは、親子・関連会社間で共同株式移転を行う場合の典型的な論点です。Ⅰの部によれば、当該株式については、会社法第135条第3項の規定に基づき、2026年10月1日にNOKから当社(NOK Group)へ現物配当を実施し、当社は当該株式の消却を決議する予定であるため、発行済株式総数に含めていない、とされています。会社法135条は子会社による親会社株式の取得を原則として禁止し、例外的に取得した場合でも相当の時期に処分することを求めています。株式移転によってNOKが持株会社の完全子会社になると、NOKが持っていたイーグル工業株式に対応して、子会社が親会社株式を持つ形が生じるため、それを親会社への現物配当と消却で解消する、という流れです。
ちなみに、第一部の「株式移転比率」の注記では、共同持株会社が交付する新株式数(予定)が207,154,136株と記載されています。こちらはNOKの自己株式を2026年3月31日時点の233株として計算し、NOKが保有するイーグル工業株式の処理を差し引く前の数値です。同じⅠの部の中でも、記載箇所によって算出時点と前提が異なるため、株式数を引用する際は、どの時点の、どの前提による数値かを確認することが大切です。
図11 子会社が親会社株式を持つ状態を解消する流れ。②は一般的な説明で、③④はⅠの部の記載(「発行済株式」の注記)による
持株会社は、株式移転の効力発生時点で自己株式を保有しません。一方、完全子会社となる両社の2026年3月31日時点の自己株式等は、NOKが自己保有株式200株と相互保有株式(昭和機器工業、東伸運輸、東輝産業)292,000株の計292,200株、イーグル工業が自己株式3,506,500株(発行済株式総数の7.05%)と記載されています。役員報酬BIP信託が保有する株式(NOK1,583,307株、イーグル工業802,798株)と、NOKの従業員持株会信託型ESOPが保有する383,100株は、自己保有株式には含まれていません。
想定される大株主は、両社の2026年3月31日現在の株主データに基づいて記載されています。筆頭はフロイデンベルグ・エス・エー(ドイツ)で47,257千株・25.06%です。NOKは1960年から同社と資本及び技術提携を行っており、事業等のリスクでも「パートナー企業として重要な位置付け」と記載されています。以下、日本マスタートラスト信託銀行(信託口)8.53%、第一生命保険5.70%、正和地所4.65%、日本カストディ銀行(信託口)4.32%と続き、上位10名の合計は107,330千株・56.91%です。この比率は統合前のデータに基づく想定であり、上場後の実際の株主構成とは異なり得る点に注意が必要です。
図12 両社の2026年3月31日現在の株主データに基づき、Ⅰの部に記載された想定。発行済株式(自己株式を除く)の総数に対する割合で、上場後の実際の株主構成とは異なり得る(Ⅰの部「大株主の状況」をもとに作成)
所有者別状況を見ると、2026年3月31日時点でNOKは株主数16,984人、外国法人等の所有割合が44.87%、金融機関が28.27%です。イーグル工業は株主数20,717人、その他の法人が32.63%、個人その他が27.90%です。統合によって、個人株主の比率が比較的高いイーグル工業の株主と、外国法人等の比率が高いNOKの株主が、一つの会社の株主になります。プライム市場では流通株式に関する上場維持基準がありますが、その数え方は流通株式比率の計算式と調べ方で解説しています。
配当政策については、具体的な方針は未定としつつ、NOKのこれまでのキャピタルアロケーション方針と同様に、持続的な企業価値向上のための事業投資を最優先としながら、累進配当による1株当たり配当額の段階的な向上を目指す予定と記載されています。剰余金の配当は、法令に別段の定めがある場合を除き取締役会決議で行うことができる旨を定款で定め、期末配当の基準日は3月31日、中間配当の基準日は9月30日です。
持株会社のコーポレート・ガバナンスはどう設計されたか
NOK Groupは監査等委員会設置会社を選択しています。理由は「取締役及び取締役会の監督機能を強化し、経営の透明性・公正性の向上を図るため」で、取締役会で議決権を持つ監査等委員である取締役による監査・監督の体制を構築するとしています。取締役会は取締役(監査等委員である取締役を除く)4名と監査等委員である取締役5名の計9名で構成され、原則として月1回の定時開催と必要に応じた臨時開催を予定しています。監査等委員会も5名で構成され、原則月1回開催し、監査等基準や監査方針を決定し、監査状況等の報告を受ける予定です。
完全子会社となるNOK、イーグル工業もともに監査等委員会設置会社であり、持株会社も同じ機関設計を選んだことになります。機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で比較しています。
図13 取締役会・監査等委員会は原則月1回の定時開催を予定。持株会社の内部監査体制はⅠの部では「新設会社のため該当事項なし」とされている(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成)
定款に定める主なガバナンス事項も確認しておきます。取締役(監査等委員である取締役を除く)は8名以内、監査等委員である取締役は6名以内です。任期は、監査等委員でない取締役が1年、監査等委員が2年です。取締役の選任決議は議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その過半数で行い、累積投票によらないとしています。株主総会の特別決議の定足数は3分の1以上に緩和されています。
また、会社法426条1項による取締役会決議での責任免除と、427条1項による業務執行取締役等以外の取締役との責任限定契約を定款で定めています。監査等委員会設置会社の特徴である、重要な業務執行の決定の取締役への委任(会社法399条の13第6項)も定款に置かれています。剰余金の配当等を取締役会で決定できる旨(会社法459条1項)、取締役会決議による中間配当(会社法454条5項)の定めもあります。一方、それ以外の事項は「共同持株会社は新設会社であるため、未定」とされています。
取締役会の構成と社外取締役
2026年10月1日に就任予定の役員は、男性8名・女性1名(女性比率11.1%)です。業務執行側は、代表取締役 グループCEOの鶴正雄氏、取締役 グループCFOの武田睦史氏、取締役 グループCTOの佐藤祐樹氏、そしてイーグル工業の代表取締役会長兼社長である鶴鉄二氏の4名です。監査等委員は、常勤の林一茂氏と、社外取締役の藤岡誠氏、島田直樹氏、今田素子氏、梶谷篤氏の5名です。
グループCFOの武田氏は、製薬会社と精密機器メーカーでCFOを務めた後、2025年4月にNOKに入社した経歴です。常勤監査等委員の林氏は、NOKの財経本部経理部長、財経本部副本部長を経て2024年6月にNOKの内部監査室長に就き、2026年6月にNOKの取締役(常勤監査等委員)に就任しています。経理と内部監査の両方を経験した人材を常勤監査等委員に置く設計です。
| 役職(予定) | 氏名 | 主な経歴(Ⅰの部より要約) | 割り当てられる株式数 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役 グループCEO | 鶴 正雄 | 2021年NOK代表取締役社長、2024年同社グループCEO | 106,100株 |
| 取締役 グループCFO | 武田 睦史 | アステラス製薬・オリンパスでCFO、2025年NOKグループCFO | - |
| 取締役 グループCTO | 佐藤 祐樹 | NOK技術本部長等、2024年同社グループCTO | 3,600株 |
| 取締役 | 鶴 鉄二 | 1989年イーグル工業代表取締役社長、2018年同社代表取締役会長兼社長 | 169,133株 |
| 取締役(常勤監査等委員) | 林 一茂 | NOK財経本部経理部長、2024年同社内部監査室長 | 3,500株 |
| 取締役(監査等委員・社外) | 藤岡 誠 | 元通商産業省、元駐UAE大使、NOK指名・報酬諮問委員会委員長 | 14,100株 |
| 取締役(監査等委員・社外) | 島田 直樹 | ピー・アンド・イー・ディレクションズ代表取締役 | 20,000株 |
| 取締役(監査等委員・社外) | 今田 素子 | メディアジーン代表取締役 | 600株 |
| 取締役(監査等委員・社外) | 梶谷 篤 | 弁護士、元NOK監査役 | 4,800株 |
社外取締役は9名中4名(44.4%)です。プライム市場向けのコーポレートガバナンス・コード原則4-10(2026年7月改訂前は原則4-8)では、独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任することが求められています。Ⅰの部では、共同持株会社は新設会社であり社外取締役を選任するための独立性に関する基準又は方針は定めていないものの、選任にあたっては東京証券取引所の独立役員の独立性に関する判断基準を参考にする予定、と記載されています。
社外取締役の利害関係も具体的に開示されています。藤岡氏は日本製紙の社外取締役を兼務しており、イーグル工業は同社と設備関連等の取引がありますが、年間取引額は両社グループの連結売上高のいずれも1%未満とされています。今田氏が代表取締役を務めるメディアジーンとNOKの間には広告制作委託等の取引がありますが、同じく1%未満です。取引がある場合に、その内容と規模を示したうえで独立性に影響しない理由を説明する書き方は、上場準備会社が社外役員を選ぶ際の参考になります。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かをご覧ください。
図14 2026年10月1日に就任予定の役員。社外取締役4名はいずれも監査等委員。報酬枠は定款附則で定め、両社の定時株主総会で承認されたもの(Ⅰの部「役員の状況」「役員の報酬等」をもとに作成)
役員報酬:定款附則で当初の報酬枠を定める
新設会社には、報酬枠を決める株主総会がまだ開かれていません。そこでNOK Groupは、株式移転計画の別紙である定款の附則に、設立日から最初の定時株主総会終結時までの報酬額を定めています。監査等委員でない取締役の金銭報酬は年額460百万円以内(うち社外取締役分は年額30百万円以内)、監査等委員である取締役は年額100百万円以内です。監査等委員でない取締役の個別の報酬額は取締役会に一任されます。この定めは両社の定時株主総会で承認されています。
報酬の決定方針は「今後策定する予定」とされ、株主総会の決議で限度額を定めたうえで、監査等委員でない取締役は取締役会、監査等委員である取締役は監査等委員会の協議で具体的な額を決める予定です。役員報酬の決定方針や決定権限者の開示は有価証券報告書の記載事項であり、持株会社として最初の有価証券報告書までに方針を固める必要があります。
金銭報酬とは別枠で、業績連動型株式報酬制度(役員報酬BIP信託)も附則に定められています。対象は取締役及び執行役員で、監査等委員である取締役、社外取締役、国内非居住者は除かれます。NOKとイーグル工業がそれぞれ三菱UFJ信託銀行と締結した2022年8月5日付の役員報酬BIP信託契約について、2026年10月1日をもって持株会社が契約上の地位と権利義務を承継し、その後に2つの信託を統合する予定です。信託への拠出上限は670百万円に対象期間の年数を乗じた額(3年で2,010百万円)、交付等の上限は36万株に年数を乗じた株数(3年で108万株)です。
毎年付与される基準ポイントの50%は業績連動部分で、原則3年経過後に相対TSR(TOPIX)に応じた業績連動係数(0~200%)を乗じます。残り50%は非業績連動部分です。受益者要件を満たした役員は、ポイントの50%相当を株式で受け取り、残りは信託内で換価した金銭で受け取ります。非違行為が取締役会で確認された場合には交付等を行わず、または返還を求めることができ、信託内の株式の議決権は行使しません。既存の株式報酬制度を持株会社へどう引き継ぐかは、持株会社化の実務で見落とされがちな論点です。
図15 対象は取締役及び執行役員(監査等委員である取締役、社外取締役、国内非居住者を除く)。対象期間は成立日から2029年3月末日に終了する事業年度まで(Ⅰの部 定款附則第2条をもとに作成)
内部監査・内部統制・リスク管理はどう引き継がれるのか
Ⅰの部では、持株会社自体の監査等委員会監査、内部監査、会計監査、監査報酬はいずれも「新設会社であるため、該当事項はありません」とされ、完全子会社となる両社の状況が記載されています。持株会社の会計監査人には監査法人日本橋事務所を選任する予定です。社外取締役との連携については、社外取締役が過半数を占める監査等委員会で、内部監査、会計監査及び内部統制部門とそれぞれの監査計画・監査結果を報告・共有し、相互に連携する予定であり、詳細は未定と記載されています。
NOKの内部監査は、監査等委員会設置会社への移行に伴い、業務執行部門からの独立性を確保し監査等委員会の監査機能を支援・補助するため、グループCEO直轄の内部監査室が担っています。内部監査室は「内部監査規程」に基づき、業務執行部門と子会社の業務執行が内部統制システムに則って適切に行われているか、各業務統轄部門(コーポレート部門)の所管業務が適法・適正に実施されているかを確認・評価します。財務報告に係る内部統制の評価業務も担い、評価結果を監査等委員と会計監査人に提供しています。
特徴的なのは、内部監査室がグループCEOへの報告に加え、取締役会及び監査等委員会に直接報告を行う「デュアルレポーティングライン」を構築していることです。内部監査の報告先を経営トップだけにすると、トップ自身に関わる問題を取り上げにくくなります。報告先の考え方は内部監査の報告先は社長だけでよいのかで解説しています。
イーグル工業の内部監査は、社長により任命された内部監査員10名で構成され、子会社を含めたコンプライアンスやリスク管理体制の整備状況の確認、財務報告に係る内部統制の有効性の評価を行っています。監査等委員会への定期的な報告・意見交換に加え、本部長室長会や取締役会でも定期的に報告しています。イーグル工業の監査等委員会は、常勤監査等委員が各事業部門の主要会議体、サステナビリティ委員会、リスクマネジメント分科会に出席し、拠点の往査や内部監査部門・会計監査人の監査への同行を通じて得た情報を委員会で共有していると記載されています。
図16 持株会社の内部監査はⅠの部では「新設会社のため該当事項なし」。両社の現在の体制として記載された内容(Ⅰの部「監査の状況」をもとに作成)
持株会社化すると、内部監査の対象は持株会社自身とグループ会社全体に広がり、子会社の内部監査部門との役割分担を決める必要があります。また一般に、監査等委員や内部監査の担当者が、自らが過去に関与した業務を監査することにならないよう配慮することも求められます。内部監査の担当者の独立性については内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、監査等委員会・内部監査・会計監査人の連携については監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で整理しています。
リスク管理では、NOKが「損失発生リスク」を、会社経営に重大な影響を及ぼす可能性のある危機の種類(操業停止、法令違反等、従業員の死亡等、訴訟、その他)と原因ごとに区分しています。各業務統轄部門は、予防対策を行う前の「固有リスク」を、発生頻度(1年あたりの平均発生回数で4段階)と損失規模(1回あたりの損害金額で5段階)の積で評点化し、予防対策や保険などの有効性(4段階)を差し引いた「残余リスク」で定量評価しています。そのうえで重要性・緊急性を考慮して優先順位を付け、重要なリスクは各部門のリスク管理項目に掲げて対策し、定期的に見直しています。
図17 各業務統轄部門が想定リスクを定量評価し、優先順位を付けて対策する仕組み(Ⅰの部「事業等のリスク」NOKの損失発生リスクをもとに作成)
イーグル工業は、リスクマネジメント方針・リスクマネジメント規程に基づき、サステナビリティ委員会の傘下にリスクマネジメント分科会を設置し、定期的に予防保全体制を確認しています。個別のリスク事象は事例検討会で検討し、活動方針・状況はサステナビリティ委員会で協議した後に取締役会へ定期報告しています。NOKは緊急事態の際に緊急対策本部を設置するほか、「NOKグループBCM委員会」を設置して事業継続計画(BCP)の立案と事業継続マネジメント(BCM)活動を推進しています。持株会社のもとで、2つの異なるリスク管理の仕組みをどう統合するかが、統合後の課題になります。
会計・開示ではどこに注意すべきか
NOK Groupは新設会社であり、Ⅰの部提出時点で決算期を迎えていないため、「経理の状況」と第四部の財務諸表はすべて「該当事項はありません」とされています。両社の会計方針や注記は、各社の有価証券報告書(2026年6月22日提出)を参照する形です。Ⅰの部には、共同持株会社の連結財務諸表でどちらの会社を取得企業とするのか、のれんがいくら生じるのかといった記載はありません。
一般論として、企業結合に関する会計基準では、共同株式移転により持株会社を設立する場合、いずれかの完全子会社を取得企業として決定します。取得企業とされた会社の資産・負債は帳簿価額を基礎として引き継ぎ、被取得企業とされた会社については時価を基礎として取得原価を算定し、取得原価と識別可能な資産・負債の時価との差額をのれん(または負ののれん)として処理します。取得企業がすでに被取得企業の株式を保有していた場合には、連結財務諸表上、支配を獲得した時点の時価で再測定する段階取得の論点も生じます。NOKのように相手方の株式を持分法で保有している会社が共同株式移転を行う場合は、こうした論点を早い段階で会計監査人と協議しておくことが重要です。
図18 企業結合に関する会計基準等の一般的な枠組みを簡略化したもの。NOK Groupでどちらが取得企業とされるか、のれんの額などはⅠの部には記載されていない
持株会社の個別財務諸表でも、子会社株式の取得原価の算定、資本金・準備金の額の決定(会社計算規則52条)、子会社から受け取った自社株式(NOKから現物配当を受ける株式)の処理と消却など、設立直後から会計処理が必要な取引が続きます。のれんが生じた場合の審査や減損の見方はIPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるかでも触れています。
開示面では、テクニカル上場の場合でも、上場日から上場会社としての適時開示義務を負います。NOK Groupの場合、上場申請会社として有価証券届出書(組織再編成・上場)と2回の訂正届出書を提出し、両社も臨時報告書と訂正報告書を提出しています。統合手続の各段階でどの開示が必要になるかを一覧にしておくことは、持株会社化を計画する際の基本作業です。適時開示体制の整備はIPOの適時開示体制をご覧ください。
事業等のリスクには何が書かれ、どこが問われやすいか
事業等のリスクは3部構成です。まず共同持株会社固有のリスクとして「経営統合に関するリスク」が挙げられ、株式移転計画の内容が変更になるリスク、経済情勢の急激な悪化や金融市場の混乱等により予定どおりに経営統合が進まないリスク、経営統合により期待されるシナジー効果が十分に発揮されないリスクが例示されています。そのうえで、持株会社の設立後は両社の事業等のリスクが持株会社のリスクとなり得るとして、NOKとイーグル工業のリスクがそれぞれ掲載されています。
| 区分 | 主な内容(Ⅰの部「事業等のリスク」より要約) |
|---|---|
| 経営統合 | 計画変更、統合の遅延、シナジーが十分に発揮されないリスク |
| NOK:事業戦略 | 主要顧客(自動車・建機・電子機器メーカー等)の業績への依存、フロイデンベルグ社との提携、燃料電池自動車・電気自動車の普及の影響 |
| NOK:市場 | 海外売上高比率約7割による為替変動、金利、株式市場、原材料(鋼板・合成ゴム・銅箔・樹脂フィルム・金等)の価格 |
| NOK:損失発生 | 法的規制・訴訟・知的財産・環境規制、カントリーリスク、自然災害・感染症、情報流出・サイバー攻撃・品質問題 |
| イーグル工業 | 製品の約5割が自動車・自動車部品業界向け、技術変化、品質、海外展開とイーグルブルグマンジャーマニー社との合弁、調達、情報セキュリティ、災害・パンデミック |
NOKのリスク記載では、主要製品であるオイルシール等が主に内燃機関に用いられることから、燃料電池自動車や電気自動車の普及の影響を「現時点において将来…見通すことは困難」としつつ、搭載可能な新製品の研究開発を進めていると説明しています。イーグル工業も、製品の約5割が自動車業界及び自動車部品業界向けであり、電気自動車等の普及進展による内燃機関向け既存製品の減少の影響を受けると記載しています。統合の目的として挙げられた次世代モビリティ・次世代エネルギー市場への対応は、このリスクへの対応策としても読めます。
上場準備会社にとっては、リスクを並べるだけでなく、発生した場合の影響と現在講じている対策をセットで書くという記載の型が参考になります。NOKの記載のように、リスクの評価方法(固有リスクと残余リスク)まで説明すると、リスク管理体制が実際に機能していることを示しやすくなります。
上場準備会社・持株会社化を検討する会社が学べること
NOK GroupのⅠの部から、上場準備会社や、将来の持株会社化を検討する会社が実務に生かせるポイントを7つにまとめます。
| 論点 | NOK Groupの記載から学べること |
|---|---|
| ① スケジュール | 提案受領(2025年6月)から設立・上場(2026年10月)まで約1年3ヶ月。定時総会で承認を得る日程から逆算して準備する |
| ② 計画の書き込み | 自己株式の消却、統合までの配当・自己株式取得の上限、条件変更・中止の要件を株式移転計画に明記する |
| ③ 比率の根拠 | 複数の手法による算定と、財務予測・割引率などの前提を開示し、状況変化後に比率の妥当性を再確認する |
| ④ 利益相反 | 関係会社間の統合では特別委員会を設置し、権限・報酬・開催回数を記録して公正性を説明できるようにする |
| ⑤ 株式数の調整 | 自己株式、相互保有株式、子会社が持つ親会社株式の処理(現物配当と消却)で発行済株式数が変わる |
| ⑥ 機関と報酬 | 設立時役員・会計監査人を計画で定め、当初の報酬枠を定款附則に置き、株式報酬の信託契約を承継する |
| ⑦ 監査・内部統制 | 内部監査の報告ライン、子会社との役割分担、異なるリスク管理の仕組みの統合を設立前から設計する |
とくに①と④は、IPOを目指す会社にも共通する論点です。上場準備では、主幹事証券や監査法人との協議、株主総会の開催時期、届出書類の提出期限などが連動し、どこか一つが遅れると全体がずれます。スケジュール管理の要点は上場スケジュールはどこで遅れるかで解説しています。また、大株主や関係会社との取引について、独立した立場の検討過程を記録として残すことは、上場審査の「企業経営の健全性」の説明に直結します。
- 持株会社化の目的と期待効果を、定性的な説明と数値化できない部分の扱いまで含めて整理しているか
- 株式移転計画に、自己株式の消却、統合までの配当・自己株式取得の上限、中止要件を定めているか
- 株式移転比率について、複数の算定手法と前提条件(財務予測・割引率等)を説明できるか
- 大株主・関係会社との取引で、特別委員会など独立した検討体制と記録を用意しているか
- 自己株式・相互保有株式・子会社が持つ親会社株式の処理と、発行済株式数への影響を計算しているか
- 設立時役員・会計監査人、当初の報酬枠、株式報酬制度の承継、内部監査の報告ラインを設立前に決めているか
よくある質問
既上場会社が株式移転などで新設した持株会社の株式を上場させるもので、公募・売出しによる資金調達や新たな株主の募集は行いません。NOK Groupの場合、両社株式が2026年9月29日に上場廃止となり、設立登記日の10月1日に持株会社株式が上場する日程が予定されていました。株主は1株につき1株の持株会社株式を受け取ります。
第一部「組織再編成に関する情報」に、統合の目的、株式移転計画書の全文、株式移転比率の算定根拠、公正性担保措置、手続の日程、両社の経営指標が記載されています。第二部の企業情報は、多くの項目が「新設会社であるため該当事項なし」とされ、両社の有価証券報告書を参照する形です。
Ⅰの部によれば、NOKが保有していたイーグル工業株式14,812,559株については、会社法135条3項に基づき2026年10月1日にNOKから持株会社へ現物配当を実施し、持株会社は当該株式の消却を決議する予定です。そのため発行済株式総数188,604,377株には含まれていません。
監査等委員会設置会社で、取締役9名のうち4名が社外取締役です。監査等委員会は常勤1名と社外取締役4名の5名で構成されます。会計監査人は監査法人日本橋事務所の予定で、内部監査など一部の事項は新設会社のため未定とされています。
最初の一歩は、資本関係と株式数の整理から
持株会社化や組織再編を伴う上場を検討する場合、最初に取り組みたいのは、現在の資本関係(相互保有株式、関係会社が持つ自社株式、自己株式、株式報酬信託が持つ株式)を一覧にし、組織再編後に新会社の株式が誰に何株割り当てられるかを試算することです。NOK GroupのⅠの部が示すように、発行済株式数は株式移転比率だけでは決まらず、こうした株式の処理によって変わります。そのうえで、機関設計、役員報酬、内部監査の体制をどこまで設立前に決めておくかを、会計監査人や法務アドバイザーと一緒に洗い出していくのが現実的な進め方です。
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まとめ
NOK Groupは、NOKとイーグル工業の共同株式移転により2026年10月1日に設立され、同日に東証プライム市場にテクニカル上場しました。Ⅰの部からは、株式移転計画に統合までの資本政策の枠を書き込むこと、2つの算定機関による比率算定とその前提の開示、その他の関係会社との統合における特別委員会を中心とした公正性担保措置、親会社株式の現物配当と消却による発行済株式数の調整、監査等委員会設置会社としての役員構成と株式報酬の承継といった、持株会社化の実務が具体的に読み取れます。
一方で、持株会社自身の内部監査、役員報酬の決定方針、会計処理(取得企業の決定やのれん)などは、Ⅰの部の時点では未定または記載がありません。持株会社化はゴールではなく、グループ経営の仕組みを作り直すスタートです。上場準備中の会社にとっても、組織再編を伴う資本政策を考える際の具体的な教材として、ぜひ原資料にあたってみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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