クラサスケミカルの上場|パーシャル・スピンオフとダイレクトリスティング【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

クラサスケミカル株式会社(証券コード646A)は、2026年9月7日に東京証券取引所から上場承認を受け、2026年9月29日に東証スタンダード市場へ上場しました。旧昭和電工(現・株式会社レゾナック・ホールディングス)の石油化学事業を引き継いだ会社で、大分県大分市の大分石油化学コンビナートでエチレンやプロピレンなどの石油化学基礎製品、酢酸エチルなどの誘導品、ポリプロピレンを製造・販売しています。本記事では、東京証券取引所に提出された「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(2026年9月7日提出)を読み、上場準備に取り組む会社の経営者・CFO・管理部門の方が参考にできる点を整理します。

結論からいえば、クラサスケミカルのⅠの部は「事業の切り出し(カーブアウト)と上場を同時に設計するとき、何をそろえる必要があるか」を学ぶのに適した事例です。親会社が保有株式の大部分を株主に現物配当する「パーシャル・スピンオフ」と、公募・売出しを行わない「ダイレクトリスティング」を組み合わせた上場であり、設立から2年足らずの会社が、分割前の期間を補う「部門財務情報」、共通支配下の取引としての吸収分割の会計処理、親会社からの独立性の説明、監査等委員会設置会社への移行と指名・報酬委員会の設置、ナフサ価格に連動する変動対価の見積りなど、通常のIPOとは違う論点を数多く開示しています。

この記事の論点を自社と比べられる「クラサスケミカルのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)」を、記事の後半で無料でお渡ししています。

クラサスケミカルはどんな会社で、どのように上場したのか

まず基本情報を確認します。クラサスケミカルの本店は大分県大分市大字中ノ洲2番地で、東京都港区にも連絡場所(本社事務所)があります。代表者は代表取締役社長執行役員の福田浩嗣氏です。会社としての設立は2024年8月1日で、当初は株式会社レゾナックが100%出資する「吸収分割準備会社」でした。2025年1月1日に、レゾナック・ホールディングス(以下、Ⅰの部にならい「レゾナックHD」)とレゾナックから石油化学事業を吸収分割で承継し、営業を開始しています。決算期は12月で、Ⅰの部の最近事業年度は第2期(2025年12月期)、直近の期間として第3期中間連結会計期間(2026年1月〜6月)の数値が掲載されています。

上場市場は東証スタンダード市場、上場承認日は2026年9月7日、上場日は2026年9月29日です。Ⅰの部の時点では上場は「予定」と書かれており、公募や売出しを伴わない「ダイレクトリスティング」を行う予定であることが明記されています。従業員数は2026年7月31日現在で連結908名、単体615名、単体の平均年齢は39.3歳、平均勤続年数は16.9年(レゾナックHDグループでの勤続年数を通算)、平均年間給与は8,040千円です。

項目 内容
会社名 クラサスケミカル株式会社(Crasus Chemical Inc.)
証券コード・市場 646A・東証スタンダード市場
上場承認日・上場日 2026年9月7日・2026年9月29日(公募・売出しなしのダイレクトリスティング)
本店所在地 大分県大分市大字中ノ洲2番地
設立・営業開始 2024年8月1日設立、2025年1月1日に石油化学事業を承継して営業開始
決算期 12月(最近事業年度は第2期・2025年12月期)
事業 石油化学事業の単一セグメント(オレフィン、有機化学品、合成樹脂、その他の4事業)
従業員数 連結908名・単体615名(2026年7月31日現在)
機関設計 監査等委員会設置会社(2026年3月30日に監査役設置会社から移行)
会計監査人 有限責任 あずさ監査法人(継続監査期間2年間)
親会社 株式会社レゾナック・ホールディングス(Ⅰの部記載時点で議決権の100%を保有。現物配当後は20%未満の予定)

この会社の上場で最も特徴的なのは、上場の「仕組み」です。レゾナックHDは、クラサスケミカル株式の一部(20%未満)を保有したまま、残りを現物配当によって自社の株主に分配する「パーシャル・スピンオフ」を選びました。クラサスケミカルが上場するのは、現物配当によって株式を受け取るレゾナックHDの株主に、売買の機会を確保するためだとⅠの部に書かれています。資金調達を目的とする通常のIPOとは出発点が違うため、公募・売出しを行わず、既存の株式をそのまま上場させるダイレクトリスティングという形がとられました。

パーシャル・スピンオフによる分離・上場の流れ2024年8月1日レゾナックの100%出資で、吸収分割準備会社として当社を設立2025年1月1日レゾナックHD・レゾナックから石油化学事業を吸収分割で承継レゾナック保有の当社株式はHDへ現物配当(HDの100%子会社に)2026年6月12日産業競争力強化法に基づく事業再編計画の認定2026年8月25日レゾナックHDの取締役会が本スピンオフ(現物配当)の実施を決定2026年9月7日東京証券取引所の上場承認(Ⅰの部の提出日)2026年9月29日東証スタンダード市場に上場公募・売出しを行わないダイレクトリスティング2026年10月1日現物配当の効力発生日(予定):HD株式1株に当社株式1株HDの持分は20%未満となり、親会社でなくなる予定

図1 設立から上場、現物配当までの流れ。日付と内容はⅠの部「(はじめに)当社設立の経緯及び今後の組織再編予定について」「重要な後発事象」をもとに作成

上場準備の観点では、この流れを「会社の設立」「事業の承継」「株主の入れ替え」「上場」の4段階に分けて読むと理解しやすくなります。まず受け皿となる会社をつくり、吸収分割で事業を移し、上場承認を受けたうえで、親会社の株主に株式を配って株主構成を一気に広げる、という順番です。上場前の株主はレゾナックHD 1社だけですが、現物配当によって、Ⅰの部の見込みでは株主数は60,000名程度、流通株式比率は60%程度になるとされています。Ⅰの部とⅡの部の役割の違いについてはⅠの部とⅡの部は何が違うかもあわせてご覧ください。

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何で稼いでいるのか:事業内容と収益の構造

クラサスケミカルグループは、当社、子会社3社、関連会社5社で構成され、石油化学事業の単一セグメントです。ただし、製品の種類に応じて「オレフィン事業」「有機化学品事業」「合成樹脂事業」「その他事業」の4つに区分して説明されています。

オレフィン事業は、ナフサを中心に、LPGなどの軽質原料やLNG・灯油・軽油などの重質原料を、大分石油化学コンビナートのエチレンプラントで約800℃の温度で熱分解し、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどの基礎製品を生産する事業です。原料は国内商社からの購入や輸入で調達し、一部は隣接する石油精製企業の製油所からパイプラインで受け入れています。生産した基礎製品は、主にコンビナート内のパイプラインを通じて、コンビナートを構成する企業に販売されます。

有機化学品事業は、エチレンやプロピレンを原料に、酢酸エチル、酢酸ビニル、アリルアルコールなどの誘導品を生産して国内外に販売する事業です。酢酸エチルは独自のエチレン直接付加法で製造していると記載されています。また、中国やインドなどでの誘導品プラントの建設需要を受けて製造技術のライセンスを行い、ライセンスフィーに加えて生産に必要な触媒を継続的に販売しています。合成樹脂事業は連結子会社のサンアロマー株式会社によるポリプロピレンの製造・販売、その他事業は連結子会社の鶴崎共同動力株式会社によるコンビナート構成企業への電気・蒸気・用水などのユーティリティ供給です。

大分コンビナートを核とする事業の流れナフサ・LPG等(輸入・国内商社・隣接製油所)大分コンビナートエチレンプラント(約800℃で熱分解)オレフィン事業エチレン・プロピレン等を販売有機化学品事業酢酸エチル等の誘導品・技術ライセンス合成樹脂事業サンアロマーでポリプロピレンその他事業鶴崎共同動力で電気・蒸気・用水主な販売先:コンビナート構成企業などNSスチレンモノマー 12.3%・日本ポリエチレン 11.7%(第2期の連結売上高に対する割合)

図2 エチレンプラントで生産した基礎製品を、パイプラインでコンビナート構成企業に販売し、誘導品・ポリプロピレン・ユーティリティへ展開する構造(Ⅰの部「事業の内容」「販売実績」をもとに作成)

第2期(2025年12月期)の事業分野別の売上高は、オレフィン事業167,903百万円、有機化学品事業47,790百万円、合成樹脂事業71,037百万円、その他事業17,196百万円で、合計303,926百万円です。地域別では日本257,205百万円、アジア44,799百万円、その他1,923百万円となっています。主な販売先は、NSスチレンモノマー株式会社(37,479百万円、連結売上高の12.3%)と日本ポリエチレン株式会社(35,536百万円、同11.7%)の2社で、いずれも当社の持分法適用関連会社です。コンビナートの中で、自社グループと関連会社が原料と製品をやり取りする構造であることがわかります。

グループの構成(2025年12月末時点)レゾナック・ホールディングス(親会社・議決権の被所有100%)クラサスケミカルサンアロマー(65.0%)ポリプロピレン鶴崎共同動力(49.6%)ユーティリティ日本ポリオレフィン(65.0%)中間持株日本ポリエチレン(42.0%)NSスチレンモノマー(49.0%)日本エラストマー(25.0%)シコク硫炭(23.4%)連結子会社(3社)持分法適用関連会社(4社)

図3 当社、連結子会社3社、持分法適用関連会社4社。レゾナックHDは現物配当の実行日(2026年10月1日予定)に親会社でなくなる予定(Ⅰの部「関係会社の状況」をもとに作成)

事業分野別の売上高(百万円)オレフィン167,90362,051有機化学品47,79024,154合成樹脂71,03738,020その他17,1967,784第2期(通期)第3期中間期

図4 第2期(2025年1月〜12月、連結)と第3期中間期(2026年1月〜6月)。Ⅰの部「経営成績等の状況の概要」の事業分野別売上高をもとに作成

連結子会社のうち鶴崎共同動力株式会社は、議決権の所有割合が49.6%(うち間接所有10.1%)と過半数に満たないものの、実質的に支配しているため子会社としている、と注記されています(関係会社の状況の表には、緊密な者又は同意している者の所有割合40.4%が外数で示されています)。上場準備会社でも、議決権が50%以下の会社を連結に含めるかどうかは、監査法人と早めに整理しておくべき論点です。

第3期中間期(2026年1月〜6月)は、オレフィン事業62,051百万円、有機化学品事業24,154百万円、合成樹脂事業38,020百万円、その他事業7,784百万円でした。設備の定期修理の影響で販売数量が減った一方、国産ナフサ価格の上昇に伴って販売価格が上がった、と説明されています。原料価格が販売価格に連動する事業では、売上高の増減が数量よりも価格で大きく動くため、業績の説明では「数量」と「価格」を分けて語ることが求められます。

沿革と上場までの道のり:なぜスピンオフという形をとったのか

クラサスケミカルの事業の起点は、1939年6月に設立された昭和電工株式会社が1957年に石油化学事業に参入したことにあります。1969年に竣工した大分石油化学コンビナートは「九州唯一のエチレンプラント」として操業を続けてきました。その後、ポリエチレン・ポリプロピレン事業の統合や合弁会社の設立を経て、2016年9月には合成樹脂ポリプロピレンの事業会社サンアロマー株式会社を連結子会社としています。2023年1月に昭和電工はレゾナック・ホールディングスに商号を変更し、持株会社体制に移行しました。

前身事業から上場までの主な沿革1939/6昭和電工設立1957/6石油化学事業に参入1969大分コンビナート操業開始2016/9サンアロマー連結子会社化2023/1レゾナックHDに商号変更2024/8当社設立2025/1石油化学事業を承継2025/7第1回新株予約権を付与2026/3監査等委員会設置会社へ2026/9/29スタンダード市場に上場

図5 前身である昭和電工の石油化学事業から当社上場までの主な出来事(Ⅰの部「沿革」「事業の状況」等をもとに作成)

Ⅰの部によると、石油化学事業はレゾナックHDのケミカルセグメントの主要事業で、連結売上高の約20%(2023年12月期時点)を占める「安定収益事業」と位置づけられていました。一方でレゾナックHDは、半導体・電子材料事業に経営資源を集中する方針を掲げています。石油化学事業は日本の社会インフラとしての公共的な側面があり、将来にわたって持続的・安定的に運営する必要があるため、他の事業から切り離して別会社として経営することが最適と判断した、というのがⅠの部の説明です。レゾナックHDは2024年2月14日にパーシャル・スピンオフを有力な選択肢として検討に入ることを公表し、同年7月23日の取締役会で当社の設立を決め、8月1日に当社が設立されました。

吸収分割については、2024年10月22日に取締役会決議、吸収分割契約の締結、株主総会決議がそろって行われ、2025年1月1日に効力が発生しています。当社はレゾナックHDとレゾナックに普通株式を各1,000株発行し、同時にレゾナックが保有する当社株式の全部をレゾナックHDに現物配当したことで、当社はレゾナックHDの100%子会社になりました。その後、2026年6月12日付で産業競争力強化法に基づく事業再編計画の認定を受け、2026年8月25日のレゾナックHDの取締役会で本スピンオフの実施が決定されています。

本スピンオフと上場の日程8/25(火)HD取締役会現物配当を承認9/28(月)HD株式の権利付最終日9/29(火)権利落ち日当社株式の上場9/30(水)現物配当の基準日10/1(木)効力発生日分配実行日HD株式1株につき当社株式1株を現物配当。HDは20%未満を継続保有し、研究開発等のリソースのシェアを続ける予定

図6 Ⅰの部「本スピンオフの要旨」に記載された日程。上場日はレゾナックHD株式の権利落ち日と同じ日に設定されている

日程を見ると、当社株式の上場日(9月29日)は、レゾナックHD株式の権利落ち日と同じ日に設定されています。現物配当の基準日は9月30日、効力発生日は10月1日の予定です。Ⅰの部は、上場によって、本スピンオフで当社株式を受け取るレゾナックHDの株主に売買の機会が確保されると説明しています。また税務面では、日本の税制上、レゾナックHDは現物配当に係る株式譲渡損益の課税を受けず、株式の分配を受ける株主も課税を受けないこと、株主の取得価額は「分配資産割合」で按分することが説明されています(米国の株主は課税対象の配当として扱われる見込みと記載されています)。

ダイレクトリスティングでは、ブックビルディングで公募価格を決める通常のIPOと違い、上場日の1週間前までに幹事取引参加者が作成した「流通参考値段」に基づいて、東京証券取引所が初値決定前の最初の特別気配値段を定めます。当社は上場後の安定的な株価形成のため、価格発見機能を持つ投資家とのミーティング(インフォメーション・ミーティング)を複数回行ってきたと記載しています。通常のIPOの価格決定の流れはブックビルディングとはで解説していますので、違いを比べてみてください。

業績はどう推移しているか:連結1期分を部門財務情報で補う

クラサスケミカルは2024年8月設立のため、Ⅰの部の連結財務諸表は第2期(2025年12月期)の1期分しかありません。第1期(2024年8月〜12月)は事業を承継する前の期間で、売上高はなく、資本金も0百万円という状態でした。そこで、分割前の2024年1月〜12月について、石油化学事業の「部門連結財務情報」と「部門個別財務情報」が参考情報として掲載されています。これらは東京証券取引所の有価証券上場規程施行規則第204条第1項第11号bに基づき、同取引所の「部門財務情報の作成基準」に準拠して作成されたもので、有限責任 あずさ監査法人のレビューを受けています。

項目(百万円) 2024年12月期(部門連結) 2025年12月期(連結) 2026年中間期(連結)
売上高 333,607 303,926 132,009
営業利益 8,603 4,211 3,564
経常利益 8,737 5,589 4,134
親会社株主に帰属する当期(中間)純利益 4,972 3,096 2,621
純資産 71,272(承継対象部門) 74,649 76,707
総資産 183,181 191,166 217,123
営業活動によるキャッシュ・フロー 記載なし 13,864 △17,938
売上高と経常利益の推移(百万円)売上高経常利益0100,000200,000300,000400,0002024部門2025連結2026中間333,607303,926132,00902,5005,0007,50010,0002024部門2025連結2026中間8,7375,5894,134

図7 2024年は分割前の石油化学事業の部門連結財務情報(東証「部門財務情報の作成基準」に準拠、監査法人のレビュー)、2025年は連結財務諸表(監査済み)、2026年は中間連結財務諸表(1〜6月、期中レビュー)。作成基準と期間が異なるため単純には比較できない

第2期の連結業績は、売上高303,926百万円、営業利益4,211百万円、経常利益5,589百万円、親会社株主に帰属する当期純利益3,096百万円です。自己資本比率は34.8%、自己資本利益率(ROE)は9.3%でした。Ⅰの部は、国内需要の減少と中国を中心とした海外の石油化学プラントの新増設による供給過多で、エチレンに代表される化学製品の需要低迷が続いていると説明しています。第2期は連結財務諸表の作成初年度のため、前年同期との比較分析は行われていません。

損益計算書の構造で目を引くのは、営業外収益2,408百万円のうち持分法による投資利益が1,987百万円を占めている点です。主要な販売先である日本ポリエチレンやNSスチレンモノマーは持分法適用関連会社であり、コンビナート全体の収益が「売上」と「持分法投資利益」の両方を通じて当社の損益に入ってくる構造になっています。税効果会計の注記でも、法定実効税率30.5%に対して持分法投資損益の影響が△11.6%あり、税負担率は19.9%となっています。

第2期の営業利益から親会社株主に帰属する当期純利益まで(百万円)営業利益4,211営業外収益+2,408営業外費用-1,030経常利益5,589特別損益-136法人税等-1,086非支配株主-1,272親会社株主3,096

図8 2025年12月期の連結損益計算書をもとに作成。営業外収益2,408百万円のうち持分法による投資利益が1,987百万円を占める。特別損益は特別利益214百万円と特別損失350百万円の差額

キャッシュ・フローは、第2期は営業活動で13,864百万円の収入、投資活動で5,305百万円の支出、財務活動で9,725百万円の支出でした。これに対し第3期中間期は、営業活動が17,938百万円の支出に転じています。主な要因は棚卸資産の増加16,919百万円と売上債権の増加5,989百万円で、Ⅰの部は原材料価格の上昇を理由に挙げています。この運転資金は短期借入金の純増加15,260百万円で賄われ、中間期末の短期借入金は67,320百万円になりました。

原材料価格の上昇については、事業等のリスクにも具体的な記載があります。2026年2月に米国・イスラエルによるイランへの軍事攻撃に端を発してイランがホルムズ海峡を封鎖したことで、原油価格の高騰やホルムズ海峡経由のナフサの仕入れが滞る事態になり、当社はホルムズルート以外のナフサを確保して必要な稼働を維持し、原材料価格に連動する販売価格の設定で価格転嫁を進めている、と書かれています。外部環境の変化を、事業等のリスクとMD&A(経営者による分析)の両方で一貫して説明している点は、開示の書き方として参考になります。

キャッシュ・フローの状況(百万円)第2期(2025年)営業CF+13,864投資CF△5,305財務CF△9,725第3期中間期(2026年1〜6月)営業CF△17,938投資CF△4,622財務CF+14,683中間期は原料価格の上昇で棚卸資産が16,919百万円増加し、短期借入金で賄った

図9 連結キャッシュ・フロー計算書と中間連結キャッシュ・フロー計算書をもとに作成。中間期の財務CFの主因は短期借入金の純増加15,260百万円

スタンダード市場の上場審査では、実質審査基準の一つとして「企業の継続性及び収益性」が問われます。クラサスケミカルのように会社としての歴史が短い場合でも、承継した事業の過去の実績を部門財務情報で示すことで、事業の継続性や収益の基盤を説明しています。審査の観点についてはIPO審査の「企業の継続性及び収益性」で詳しく解説しています。

資本政策と株主構成:株主1社から6万名程度の見込みへ

クラサスケミカルの資本政策は、ベンチャー企業のIPOで見られるような「増資を重ねて外部株主を増やしていく」形とはまったく異なります。上場申請時点の株主は親会社のレゾナックHD 1社だけで、株主構成を広げる役割は、上場と同時期に行われる現物配当が担います。そのため、資本政策の論点は「親会社株式1株に対して何株を配るか」に合わせて発行済株式総数を設計することに集約されています。

発行済株式総数は、2024年8月1日の設立時に1株、2025年1月1日の吸収分割の対価としての新株発行(レゾナックHDとレゾナックに各1,000株)で2,001株となりました。その後、2025年6月25日付で1株を100株に分割して200,100株に、さらに2026年8月10日付で「普通株式200,100株につき234,415,443株」という割合で分割し、234,415,443株となっています。2026年8月の分割と同時に1単元を100株とする単元株制度を採用し、発行可能株式総数も800,000,000株に増やしました。Ⅰの部の後発事象の注記には、この分割と単元株制度の採用が、レゾナックHD株式1株につき当社株式1株の割合で現物配当を行うことを目的としていると明記されています。資本金は吸収分割の際に110百万円となって以降、変わっていません。

発行済株式総数の推移2024年8月1日設立1株(レゾナックが出資)2025年1月1日吸収分割の対価として新株2,000株を発行2,001株(HD・レゾナックに各1,000株)2025年6月25日株式分割 1:100200,100株2026年8月10日株式分割200,100:234,415,443234,415,443株単元株100株・発行可能株式総数8億株

図10 2026年8月の株式分割と単元株制度の採用は、HD株式1株につき当社株式1株の割合で現物配当を行うことを目的としている(Ⅰの部「発行済株式総数、資本金等の推移」「重要な後発事象」をもとに作成)

株主の状況(Ⅰの部記載時点)を見ると、レゾナックHDが234,415,443株で99.57%、残りの0.43%は役員・執行役員5名が保有する新株予約権による潜在株式です。この比率は新株予約権による潜在株式を含めた総数に対する割合で、上場時点や現物配当後の比率ではありません。現物配当後については、レゾナックHDの持分は20%未満となり、当社はレゾナックHDの連結子会社ではなくなる見込みです。また、レゾナックHDは当社に重要な影響力を有しない見込みのため、持分法の適用対象からも外れる予定とされています。

株主構成:Ⅰの部記載時点とスピンオフ後の見込みⅠの部記載時点(潜在株式を含む)レゾナックHD 99.57%役員・執行役員5名(新株予約権)0.43%本スピンオフ後の見込みHD株主へ現物配当:80%超HDが継続保有:20%未満流通株式比率60%程度・株主数60,000名程度(見込み)

図11 左はⅠの部「株主の状況」(新株予約権による潜在株式を含む総数に対する割合)。右はⅠの部に記載された本スピンオフ後の見込みで、上場時点の確定値ではない

ダイレクトリスティングでは、公募・売出しによって新しい株主を集めないため、株主の分布が偏るリスク(流動性リスク)が生じ得ます。Ⅰの部はこの点を正面から取り上げ、現物配当によって流通株式比率は60%程度、株主数は60,000名程度となる見込みであり、十分な流動性が確保される見込みだと説明しています。同時に、当社株式とレゾナックHD株式の投資物件としての性格は異なるため、上場後に株主属性の入れ替わりが起こり、流通株式比率や株価が変動する可能性にも触れています。スタンダード市場の上場基準には株主数や流通株式比率などの形式要件があり、流通株式比率は25%以上が求められます。流通株式の数え方は流通株式比率の計算式と調べ方で解説しています。

特別利害関係者等の株式移動と第三者割当等の概況

Ⅰの部の第四部「株式公開情報」には、上場前の株式の動きが記載されます。クラサスケミカルの場合、特別利害関係者等の株式等の移動は、2025年1月1日にレゾナックからレゾナックHDへ、保有していた当社株式を「現物配当による譲渡」で移した1件です。注記では、共同支配下における現物配当であることから、移動価格は移動直前に移動前の保有者が付していた適正な帳簿価額に基づいて1株あたりの株価を算出した、と説明されています。上場申請会社は、こうした株式等の移動の記録を上場日から5年間保存することとされています。

第三者割当等の概況には、2025年1月1日の吸収分割の対価としての普通株式の発行と、2025年7月18日の第1回新株予約権の発行の2件が記載されています。吸収分割の対価としての株式には発行価格が定められていません。一方、新株予約権の行使価額は、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)と類似会社比準方式で算出した価格を総合的に勘案して決めた、と書かれています。上場前に株価を決める場面では、どの評価方法をどう組み合わせたかを説明できるように記録を残しておくことが大切です。評価方法の考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかをご覧ください。

上場前に付与されたストック・オプション

上場前に付与されたストック・オプションは第1回新株予約権の1回だけです。2025年6月26日の株主総会決議と2025年7月17日の取締役会決議に基づき、2025年7月18日に当社の取締役3名、監査役1名、執行役員1名の計5名に、864個が付与されました。株式分割を反映した後の目的株式数は1,011,744株、行使価額は1株129円、行使期間は2027年7月18日から2040年7月17日までです。行使の条件として、権利行使時にも当社または子会社の取締役、監査役、執行役員、従業員の地位にあることが求められ(任期満了や定年退職など正当な理由がある場合を除く)、相続は認められません。譲渡には取締役会の承認が必要です。

個人別の割当ては、代表取締役社長執行役員の福田浩嗣氏が374,720株、取締役の橋田裕一氏と山田暢義氏が各187,360株、常勤監査等委員の市村一弘氏が93,680株、執行役員1名が168,624株です(いずれも分割後の株数)。発行済株式総数に対する潜在株式の割合は0.43%と小さく、上場後の希薄化への影響は限られた設計といえます。

第1回新株予約権(ストック・オプション)の概要2025/6/26株主総会決議2025/7/17取締役会決議2025/7/18付与(5名)2027/7/18行使期間開始2040/7/17行使期間満了主な条件行使価額:1株129円対象株式:1,011,744株行使時も役員・従業員等の地位を要する相続不可、譲渡は取締役会の承認が必要会計と上場審査公正な評価単価は本源的価値で見積り(DCF法と類似会社比較法の折衷)本源的価値ゼロ→費用計上額なし継続所有の確約(施行規則272条)

図12 Ⅰの部「新株予約権等の状況」「ストック・オプション等関係」「第三者割当等の概況」をもとに作成。株数と行使価額は2026年8月の株式分割後の数値

会計面では、付与時点で当社株式は未公開株式であったため、ストック・オプションの公正な評価単価を「単位当たりの本源的価値」で見積り、その基礎となる株式の評価はDCF法と類似会社比較法の折衷方式によった結果、本源的価値がゼロとなり、公正な評価単価もゼロと算定されています。そのため、ストック・オプションに係る費用計上額は「該当事項はありません」とされています。ストック・オプション会計基準では、未公開企業は公正な評価単価に代えて本源的価値によることが認められていますが、上場後に付与する分は株価を基礎とした公正な評価単価で費用を計上することになる点に注意が必要です。注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例を参考にしてください。

上場審査との関係では、有価証券上場規程施行規則第272条により、基準事業年度の末日(当社の場合は2025年12月31日)から起算して1年前より後に、役員や従業員等に報酬として新株予約権を割り当てた場合は、割当てを受けた人との間で継続所有などの確約を行い、その書面を取引所に提出することとされています。当社は、原則として割当日から上場日の前日または行使日のいずれか早い日まで所有する等の確約を行っていると記載しています。継続所有の確約と、主幹事証券との合意によるロックアップは別の制度ですので、混同しないようにしましょう。詳しくは上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)で解説しています。

配当政策:DOE5%を目標に

配当政策では、製品の安定供給に資する製造設備の維持更新投資と、安定的な株主還元を優先しつつ、戦略投資と財務健全性を勘案した最適なキャピタルアロケーションを行う方針が示されています。株主還元はDOE(株主資本配当率)5%を目標とし、中間配当と期末配当の年2回を基本とします。剰余金の配当等を、法令に別段の定めがある場合を除き取締役会の決議で決められる旨を定款に定めており、中間配当の基準日は毎年6月末日です。第1期・第2期には配当を行っていません。上場直後から株主数が大きくなる会社では、配当方針の明確さが株主との対話の出発点になります。

コーポレート・ガバナンス:監査等委員会設置会社への移行と指名・報酬委員会

クラサスケミカルは、2026年3月30日をもって監査役設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しました。移行の理由として、取締役会の監督機能の強化、コーポレート・ガバナンス体制のより一層の充実、経営の更なる効率化による企業価値の向上を挙げています。取締役会の機能を補完する機関として、経営会議、リスク&コンプライアンス委員会、指名・報酬委員会を設置しています。会社のガバナンスの基本的な考え方として「安全とコンプライアンスはすべてに優先する」ことをグループ全員が認識する、と書かれているのは、保安の重要性が高い化学プラントを運営する会社らしい記載です。

機関設計の全体像(監査等委員会設置会社)株主総会会計監査人(あずさ)取締役会(6名、うち社外2名)議長:代表取締役社長執行役員監査等委員会(3名、うち社外2名)議長:常勤監査等委員選任選任連携指名・報酬委員会委員長:社外取締役代表取締役社長執行役員諮問・答申選定・監督経営会議(社長の諮問、月1回)リスク&コンプライアンス委員会(四半期に1回)内部監査室(3名)代表取締役社長の直轄報告・連携

図13 2026年3月30日に監査役設置会社から監査等委員会設置会社へ移行した。指名・報酬委員会は2026年2月20日に設置された取締役会の諮問機関(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの概要」をもとに作成)

取締役会は6名で構成され、議長は代表取締役社長執行役員が務めます。原則として月1回開催し、必要に応じて臨時取締役会を開いています。最近事業年度の出席状況は、福田浩嗣氏、橋田裕一氏、山田暢義氏、市村一弘氏、松本仁氏の5名がいずれも16回中16回でした(三浦亮太氏は2026年1月の就任のため最近事業年度の取締役会には参加していません)。機動的な意思決定のため、法令に従い書面等で取締役会決議を行えるようにしています。

監査等委員会は3名で、議長は常勤監査等委員が務め、原則として月1回開催します。移行前の監査役協議会は、最近事業年度(2025年1月〜12月)に12回開かれ、市村氏と松本氏が全回出席しています。申請事業年度は、2026年1月〜3月の監査役協議会が4回(3名全員が全回出席)、2026年3月〜8月の監査等委員会が8回(同)でした。

取締役会の構成(6名)監査等委員でない取締役(3名、任期1年)福田 浩嗣代表取締役社長執行役員橋田 裕一取締役執行役員経営管理本部長山田 暢義取締役執行役員大分コンビナート代表監査等委員である取締役(3名、任期2年)市村 一弘常勤監査等委員(社内)親会社グループの財務・経理出身松本 仁監査等委員(社外)公認会計士・独立役員届出予定三浦 亮太監査等委員(社外)弁護士・独立役員届出予定社外取締役2名は東証の独立性基準を参考に独立役員として届け出る予定

図14 監査等委員でない取締役3名(任期1年)と監査等委員である取締役3名(任期2年、うち社外2名)。男性6名・女性0名。役員の所有株式はなく、社外を除く4名が新株予約権を保有(Ⅰの部「役員の状況」をもとに作成)

役員は男性6名で、社外取締役は監査等委員である松本仁氏と三浦亮太氏の2名です。松本氏は公認会計士として監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)のパートナーやデロイトグローバルのボード副議長などを務めた経歴を持ち、三浦氏は弁護士としてM&A、コーポレート・ガバナンス、危機管理などの企業法務に携わってきた経歴を持ちます。いずれも所属する事務所と当社との間に利害関係はなく、一般株主との利益相反のおそれがないとして、独立役員として届け出る予定とされています。当社は独自の独立性基準を定めておらず、東京証券取引所の基準を参考にしていると記載しています。

スタンダード市場の上場会社には、コーポレートガバナンス・コードの全原則が適用されます。原則4-10(2026年7月改訂前は原則4-8)では、プライム市場以外の上場会社は独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきとされており、当社の構成はこの水準を満たす形になっています。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要か、機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で解説しています。

常勤監査等委員の市村一弘氏は、レゾナック(旧日立化成を含む)の財務・経理部門に長く携わり、財務経理ビジネスパートナー部長などを務めた人物で、Ⅰの部は財務及び会計に関する相当程度の知見を有していると記載しています。親会社グループ出身者を常勤の監査等委員とし、社外の公認会計士・弁護士と組み合わせる構成は、事業への理解と外部の専門性を両立させる一つの形です。

指名・報酬委員会と役員報酬の決め方

指名・報酬委員会は、取締役(監査等委員である取締役を除く)の指名・報酬等に関する取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の諮問機関として2026年2月20日に設置されました。3名以上で構成し、過半数を独立社外取締役とすること、委員長は独立社外取締役の委員から選ぶことがルールとして定められています。現在の構成は、委員長の松本仁氏(社外取締役)、福田浩嗣氏(代表取締役社長執行役員)、三浦亮太氏(社外取締役)の3名で、2026年12月期はⅠの部の記載時点までに6回開催され、3名とも全回出席しています。

取締役(監査等委員である取締役を除く)の報酬限度額は、2026年3月30日の定時株主総会で年額200百万円以内、監査等委員である取締役の報酬限度額は年額60百万円以内と決議されています。報酬は株主総会で決議された総額の範囲内で取締役会が決定し、決議にあたっては指名・報酬委員会に諮問してその結果を十分に踏まえることとされています。報酬の構成は、役位別に定められた固定の基本報酬と業績連動報酬で、業績連動報酬は役員報酬規程に定めた役位別の基準額に、前年度の会社業績に基づく支給率を掛けて決める仕組みです。監査等委員である取締役の報酬は、監査等委員である取締役の協議で決めています。

取締役(監査等委員を除く)の報酬決定の流れ株主総会報酬限度額を決議年額200百万円以内指名・報酬委員会取締役会の諮問に答申取締役会答申を踏まえ報酬を決議支給固定の基本報酬+業績連動報酬業績連動報酬:役位別の基準額 × 前年度の会社業績に基づく支給率(役員報酬規程)監査等委員である取締役:年額60百万円以内、監査等委員の協議で決定

図15 Ⅰの部「役員の報酬等」をもとに作成。報酬限度額は2026年3月30日の定時株主総会で決議

区分(2025年12月期) 報酬等の総額 固定報酬 業績連動報酬 対象人数
取締役(社外取締役を除く) 118百万円 93百万円 25百万円 3名
監査役(社外監査役を除く) 24百万円 24百万円 - 1名
社外役員 13百万円 13百万円 - 1名

2025年12月期の役員報酬の実績は上表のとおりで、連結報酬等の総額が1億円以上の役員はいません。なお、非金銭報酬等として取締役と監査役にストック・オプションを付与したことが注記されています。報酬の決定方針や決定方法の開示は、有価証券報告書の記載事項として求められるものです。上場準備の段階で、役員報酬規程と委員会への諮問の手続を整え、議事録として残しておくことが、Ⅰの部の記載の裏付けになります。

親会社からの独立性と関連当事者取引

親会社がある会社の上場では、親会社からの独立性が審査の重要な論点になります。クラサスケミカルは、本スピンオフ後の親会社グループとの関係について、議決権保有割合は20%未満、競合となる事業はない、役員の兼務はない、親会社による事前承認事項はない、と項目ごとに説明しています。親会社グループとは、石油化学製品の販売や、コンビナート内の親会社グループ企業からの業務受託などの取引が続く予定ですが、取引は僅少で事業の独立性に影響はないとし、関連当事者等管理規程に基づいて取引の合理性と取引条件の妥当性を確認し、取締役会の承認を受けたうえで実施し、承認後も継続的に取締役会へ報告してモニタリングしている、と記載しています。

連結財務諸表の関連当事者情報には、2025年12月期の取引として、親会社からの石油化学事業の承継(レゾナックHDから承継資産31,414百万円・承継負債4,790百万円、レゾナックから承継資産151,767百万円・承継負債107,119百万円)と、レゾナックHDとの資金の借入・返済が記載されています。借入・返済の取引金額は、吸収分割で承継した短期借入金の当連結会計年度末までの純増減額として△46,600百万円、支払利息は322百万円で、期末残高はありません。利率は市場金利を勘案して合理的に決めたとされています。2025年12月末時点で、親会社からの借入の残高はなくなっています。

相手先 関係 取引の内容 取引金額 期末残高
レゾナックHD 親会社 資金の借入・返済(純増減)/支払利息 △46,600百万円/322百万円 -
日本ポリエチレン 関連会社(間接42.0%) 当社製品の販売 35,560百万円 売掛金7,934百万円
NSスチレンモノマー 関連会社(49.0%) 当社製品の販売 37,479百万円 売掛金7,322百万円
日本エラストマー 関連会社(25.0%) 当社製品の販売/商品の仕入 10,388百万円/5,823百万円 売掛金3,416百万円/買掛金1,963百万円

関連会社との取引は、製品の販売や商品の仕入について一般的取引条件と同様に決定している、と注記されています。日本ポリエチレンとの取引金額には、実質的に同社との取引である丸紅ケミックス株式会社に対するものを含めている、という注記もあります。商社を経由する取引でも実質的な相手先で判断して開示している点は、関連当事者の範囲を考えるうえで参考になります。親会社からの独立性についてはIPO審査の「親会社等からの独立性」、関連当事者取引の注記については関連当事者との取引の注記の記載例もあわせてご覧ください。

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内部監査・内部統制:3名の内部監査室と三様監査の連携

内部監査は、代表取締役社長直轄の独立組織である内部監査室が担当しています。体制は内部監査室長と担当者2名の計3名で、当社グループのガバナンス、コンプライアンス、内部統制システムの有効性を監査しています。内部監査は代表取締役社長の承認を得た年度監査計画に従って、当社と関係会社を対象に行い、その結果を代表取締役社長、取締役、監査等委員、監査対象部門長に報告しています。監査で見つかった指摘事項については改善策を提言し、対象組織に改善計画の策定と実行を求め、フォローアップで改善の確認と再発防止を徹底する、という流れです。監査結果や実施状況は監査等委員会にも報告されています。

さらに内部監査室は、金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制の有効性の評価にも対応し、評価結果を経営会議に報告しています。監査等委員、会計監査人、内部監査室の三者は、それぞれの年間監査計画や監査結果について定期的に意見交換を行い、各監査の独立性に配慮しながら連携していると記載されています。会計監査人の監査報告会には、監査等委員と内部監査人が出席して直接報告を受けています。

内部監査室を中心とした三様監査の連携内部監査室(3名)室長+担当者2名・社長直轄代表取締役社長計画承認・結果報告監査等委員会常勤1名・社外2名会計監査人有限責任 あずさ監査法人計画・結果の意見交換監査結果の報告意見交換内部監査の結果は社長・取締役・監査等委員・対象部門長へ報告財務報告に係る内部統制の有効性の評価結果は経営会議へ報告

図16 Ⅰの部「監査の状況」「内部統制システムの整備の状況」をもとに作成。監査等委員会は内部監査室に調査・報告を指示できる体制とされている

内部統制システムの基本方針では、監査等委員会の実効性を確保するための仕組みも具体的に書かれています。監査等委員会の職務を補助する使用人を置き、その人事異動、人事評価、懲戒処分はあらかじめ監査等委員会の同意を得て決めること、補助使用人は監査等委員でない取締役の指揮命令を受けず監査等委員会の指揮命令に従うこと、監査等委員会が内部監査室やリスク&コンプライアンス委員会に調査・報告を指示できること、外部専門家の活用や臨時調査に必要な費用を確保すること、などです。内部通報制度の運用状況も監査等委員会に報告されます。

リスク管理については、代表取締役社長執行役員を委員長とするリスク&コンプライアンス委員会が、原則として四半期に1回開催され、グループの重要リスクの決定と管理、コンプライアンスの遵守体制の整備などを協議・決定しています。協議・決定事項は取締役会に報告され、取締役がリスクマネジメント体制の妥当性と有効性を評価・監督します。子会社については関係会社管理規程に基づき重要事項を承認し、報告を求めるとともに、子会社での法令違反(おそれを含む)や重大な事故・災害・訴訟等はリスク&コンプライアンス委員会を通じて当社の取締役会に報告する体制です。反社会的勢力の排除については、取引開始時とその後定期的に、相手先が反社会的勢力等でないことを確認するとしています。

内部監査部門の人数は会社の規模や拠点の数によって変わりますが、連結908名、コンビナートと複数の子会社を抱える規模で3名体制としている点は一つの目安になります。人数の考え方は内部監査の人数と体制、三様監査の連携は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。

会計・開示の論点:部門財務情報、共通支配下の取引、変動対価

部門財務情報はどう作られているか

事業を切り出して上場する会社にとって、最も実務負担が大きいのが「分割前の期間の財務情報」をどう示すかです。クラサスケミカルは、2024年1月〜12月の石油化学事業について、部門連結財務情報と部門個別財務情報をⅠの部に掲載しました。部門連結財務情報の売上高は333,607百万円、経常利益は8,737百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は4,972百万円、承継対象部門の純資産は71,272百万円です。

この情報は「部門財務情報の作成基準」に準拠しており、部門共通の資産・負債や損益、税金費用の処理などについて、法的に独立した企業に適用される会計基準とは異なる処理が行われている、とⅠの部自身が注意を促しています。具体的には、部門共通資産のうち現金及び預金は、2025年1月1日の吸収分割でレゾナックから承継した15,000百万円を配賦し、部門共通負債のうち短期借入金も同じく承継した46,600百万円を配賦しています。一方、繰延税金資産や全社共通研究に係る資産などの部門共通資産426,464百万円と、社債・長期借入金などの部門共通負債1,097,552百万円は、配賦すると部門の財政状態を適正に表さなくなるとして配賦していません。

損益面では、部門共通費を各部門の利益等の比率で配賦し(販売費及び一般管理費4,118百万円)、税金費用は分割会社の法定実効税率30.49%を税金等調整前当期純利益に掛けて算定し、支払利息はレゾナックの社内金利計算を基礎に、配賦された有利子負債に0.85%を掛けて算定しています。配賦の方法と、配賦しなかった項目の理由を一つずつ明示している点は、カーブアウト型の上場を検討する会社にとって、そのまま作業項目のリストになります。

部門財務情報(2024年)はどう作られたか分割前のレゾナックHDグループの財務情報承継対象部門の資産・負債・損益を抽出共通資産・負債は承継額で配賦(現金15,000・短期借入金46,600)共通費は利益等の比率で配賦(販売費及び一般管理費4,118)税金は実効税率30.49%で算定支払利息は配賦負債×0.85%部門連結財務情報(2024年)監査法人のレビュー金額は百万円。配賦しなかった共通資産426,464・共通負債1,097,552

図17 Ⅰの部「その他」の部門連結財務情報の注記をもとに作成。東証の「部門財務情報の作成基準」に準拠し、法的に独立した企業の連結財務諸表とは異なる処理を含む

部門財務情報を作る過程で、会計方針の統一も行われています。連結子会社のサンアロマーでは、一部の国内の製品販売について、出荷時から支配が顧客に移転するまでの期間が通常の期間である場合に出荷時に収益を認識していましたが、部門連結財務情報の作成にあたってグループ内の会計処理を統一する観点から、納品等の時点で収益を認識する原則的な取扱いに変更しました(影響は軽微)。親会社グループの中では許容されていた処理でも、独立した会社として財務諸表を作る際に見直しが必要になることがある、という好例です。

監査報酬の注記からは、部門連結財務情報と部門個別財務情報のレビュー報酬12百万円について、契約主体はレゾナックHDとレゾナックで、報酬も同社が支払ったことがわかります。切り出しの費用を誰が負担するかも、親会社との間で決めておくべき事項です。

吸収分割は「共通支配下の取引」として処理

2025年1月1日の吸収分割は、企業結合に関する会計基準(企業会計基準第21号)と企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(企業会計基準適用指針第10号)に基づき、共通支配下の取引として処理されています。共通支配下の取引では、移転する資産・負債を原則として移転直前の適正な帳簿価額で引き継ぐため、のれんは生じません。実際に、セグメント情報ではのれんの償却額・未償却残高も負ののれん発生益も「該当事項はありません」とされ、連結株主資本等変動計算書の「吸収分割による増加」の純資産71,272百万円は、部門連結財務情報の承継対象部門の純資産71,272百万円と一致しています。

承継した資産・負債は、流動資産113,006百万円(うち現金及び現金同等物18,503百万円)、固定資産70,176百万円、流動負債100,748百万円、固定負債11,161百万円で、キャッシュ・フロー計算書では承継時の現金を「吸収分割に伴う現金及び現金同等物の増加額」として区分表示しています。単体では、吸収分割による増加として資本金110百万円、その他資本剰余金49,795百万円、土地再評価差額金10,854百万円が計上されています。

承継した土地には、2000年12月31日に「土地の再評価に関する法律」に基づいて行った再評価の効果が残っており、連結貸借対照表に土地再評価差額金10,738百万円と再評価に係る繰延税金負債4,906百万円が計上されています。再評価を行った土地の期末の時価と再評価後の帳簿価額との差額(時価が帳簿価額を下回る金額)は11,342百万円と注記されています。事業等のリスクでも「固定資産の減損」を発生可能性:低、影響度:中として挙げています。

収益認識:納品・船積時点と、ナフサ価格に連動する変動対価

収益認識の方針は、製品の販売について、顧客へ製品の支配が移転し履行義務が充足される納品または船積等の時点で収益を認識する、というものです。特徴的なのは、販売価格のフォーミュラ(算定式)に事後に確定する国産ナフサ価格が含まれる取引の扱いです。この取引では、国産ナフサ価格の予測に基づいて変動対価の額を見積り、不確実性が事後的に解消される際に収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限って取引価格に含めています。

この変動対価は「重要な会計上の見積り」にも挙げられており、2025年12月期の売上高に含まれる変動対価は連結で37,159百万円、単体で44,523百万円です。国産ナフサ価格の予測の主要な仮定は決算月の輸入ナフサ価格で、Ⅰの部は、主要な仮定には経営者の主観的な判断や不確実性が伴い、実績が見積りと異なる場合は翌期の売上高に重要な影響を与える可能性があると説明しています。顧客との契約から生じた債権の期末残高は61,098百万円、契約負債(主に与信管理上の前受金)は30百万円でした。

収益認識の時点と変動対価の見積り製品の引渡し納品または船積等収益を認識支配の移転=履行義務の充足価格が未確定国産ナフサ価格が事後に確定変動対価の見積り決算月の輸入ナフサ価格で予測制約著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り取引価格に含める重要な会計上の見積り売上高に含まれる変動対価連結37,159百万円/単体44,523百万円

図18 Ⅰの部「重要な収益及び費用の計上基準」「重要な会計上の見積り」をもとに作成。金額は2025年12月期

上場準備会社で価格改定条項や原料価格連動の契約がある場合、「決算時点で価格が確定していない売上をどう計上するか」は監査法人と必ず議論になる論点です。見積りの方法(何を主要な仮定とするか)、事後の確定値との差異の検証、社内の承認手続を文書化しておくことが、開示と内部統制の両面で求められます。収益認識の論点は上場審査で問われる収益認識で整理しています。

その他の重要な会計上の見積りと注記

重要な会計上の見積りとして、変動対価のほかに、繰延税金資産2,309百万円と修繕引当金6,074百万円(いずれも連結)が挙げられています。繰延税金資産の回収可能性は将来の事業計画に基づく課税所得の見積りで判断し、主要な仮定は将来の市場動向、主要原料の価格に基づいて変動する販売単価と販売数量です。修繕引当金は製造設備の定期修繕に要する支出に備えるもので、主要な仮定は将来の修繕で使う部材の調達相場と人件費等の単価・数量です。経営方針でエチレンプラントの定期修理周期を4年から6年に延ばす方針が示されていることとあわせて読むと、定期修理の計画が損益と見積りの両方に関わることがわかります。

このほか、2028年12月期の期首から新しいリース会計基準(企業会計基準第34号)等を適用する予定で、影響額は評価中であること、防衛特別法人税の創設に伴い、2027年1月1日以後に開始する連結会計年度以降に解消が見込まれる一時差異について法定実効税率を30.5%から31.4%に変更したこと(影響は軽微)が注記されています。研究開発費は第2期1,528百万円、第3期中間期523百万円で、NEDOのグリーンイノベーション基金事業で日本製鉄株式会社とともにCO2の分離回収技術の開発に取り組んでいることも記載されています。

会計監査人と監査報酬

会計監査人は有限責任 あずさ監査法人で、継続監査期間は2年間です。業務を執行した公認会計士は指定有限責任社員の岩宮晋伍氏、會田大央氏、前田拓哉氏(第3期は岩宮氏と前田氏の2名)で、補助者は公認会計士10名、その他(会計士試験合格者等)25名です。最近連結会計年度の監査証明業務に基づく報酬は、提出会社66百万円、連結子会社16百万円の計82百万円で、非監査業務の報酬はありません。監査報酬は、監査計画の内容をもとに監査工数等の妥当性を勘案・協議し、会社法第399条に基づき監査等委員会の同意を得て決めることとしています。監査法人の選び方とタイミングは監査法人はいつまでに決めるかで解説しています。

事業等のリスクと審査で問われやすい点

クラサスケミカルの事業等のリスクは、各項目に「発生可能性」と「影響度」を付けて記載されています。主な項目を整理すると次のとおりです。

リスク項目 発生可能性 影響度 Ⅰの部に書かれた主な対応
原材料価格の変動 中 中 コストダウン、原材料価格に連動する販売価格の設定
海外情勢(ホルムズ危機など) 中 中 原料・調達元の多様化、ホルムズルート以外のナフサ確保
特有の法的規制(高圧ガス保安法、消防法など) 低 大 法令遵守状況の確認、改廃チェック体制、教育・監査体制
事故・災害(製造拠点が大分コンビナートに集中) 低 大 計画的な検査・補修、BCP、防災訓練
気候変動(移行リスク) 中 大 リスク&コンプライアンス委員会によるモニタリング
人材獲得 高 小 採用体制の強化、研修、ローテーション
情報セキュリティ(サイバーリスク) 高 中 EDR、多要素認証、多層防御、バックアップ運用の見直し

化学プラントを運営する会社として、許認可の記載が具体的なのも特徴です。主な許認可として、大分県の高圧ガス製造許可(高圧ガス保安法)と、大分市の危険物製造所・貯蔵所・取扱所の許可(消防法)を挙げ、それぞれ有効期限と取消事由を表で示したうえで、本書提出日現在、取消しとなる事由に該当する事実はないと記載しています。許認可がどこまで審査で確認されるかはIPOで許認可はどこまで見られるかを参考にしてください。

スタンダード市場の実質審査基準は、「企業の継続性及び収益性」「企業経営の健全性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「企業内容等の開示の適正性」「その他公益又は投資者保護の観点から必要と認める事項」です。Ⅰの部の記載から読み取れる範囲では、継続性・収益性は部門財務情報と連結財務諸表で事業の実績を示すこと、健全性は親会社との取引の管理と独立性の説明、ガバナンスと内部管理は監査等委員会設置会社への移行と内部監査・リスク管理の体制、開示の適正性は部門財務情報の作成方法の明示や見積りの開示、といった形で、それぞれの論点に対応する記載が用意されています。実質審査基準の全体像はIPOの実質審査基準とはで解説しています。

上場準備会社がクラサスケミカルのⅠの部から学べること

ここまでの内容から、上場準備会社、とくに事業の切り出しや親会社のある会社が参考にできるポイントを整理します。

  1. 上場の目的に合った方式を選ぶ。資金調達が目的でなければ、公募・売出しを伴わないダイレクトリスティングも選択肢になります。ただし、株主の分布や流動性をどう確保するかを、具体的な見込み(株主数、流通株式比率)で説明する必要があります。
  2. 分割前の期間の財務情報を早めに設計する。部門財務情報は、共通資産・負債や共通費の配賦方法、税金費用や支払利息の計算方法を決め、監査法人のレビューを受ける必要があります。配賦しない項目とその理由の説明も含めて、作業量を見積っておきましょう。
  3. 会計方針をグループ内で統一する。サンアロマーの収益認識時点の変更のように、独立した会社として財務諸表を作るときに、従来の処理を原則的な取扱いへ見直す場面があります。
  4. 発行済株式総数を「配る株数」から逆算する。現物配当の割当比率に合わせて株式分割の比率を決め、単元株制度と発行可能株式総数を同時に整える流れは、組織再編を伴う上場の資本政策の典型例です。
  5. 親会社からの独立性を項目ごとに説明できるようにする。議決権比率、競合事業、役員の兼務、事前承認事項、取引の管理方法を一つずつ明らかにし、親会社からの借入などの資金面の依存も解消しておくことが重要です。
  6. 機関設計の移行と任意の委員会の設置を上場前に済ませる。監査等委員会設置会社への移行や指名・報酬委員会の設置は、開催実績や出席状況とあわせて開示されます。運用の実績を積む期間を確保しましょう。
  7. 見積りの主要な仮定を言葉にする。変動対価、修繕引当金、繰延税金資産のように、事業の特性に応じた見積りについて「何を主要な仮定にしているか」を説明できるようにしておくことが、監査と開示の両方で求められます。
  8. 外部環境の変化をリスクとMD&Aで一貫して説明する。原材料価格や地政学的な出来事が業績・キャッシュ・フローに与えた影響と、それへの対応を、事業等のリスクとMD&Aで同じ筋道で書くことが、読み手の理解を助けます。

上場準備チェックリスト

  • 上場の目的(資金調達か、株主への売買機会の提供か)と、それに合った上場方式を整理しているか
  • 事業を承継した会社の場合、分割前の期間の財務情報(部門財務情報など)の作成方法と監査法人の関与を決めているか
  • グループ内の会計方針(収益認識の時点など)を独立した会社として統一しているか
  • 親会社との取引について、規程に基づく承認とモニタリングの手続を運用し、記録を残しているか
  • 機関設計の移行や任意の指名・報酬委員会の設置を、運用実績を積める時期に終えているか
  • 変動対価や引当金など重要な会計上の見積りについて、主要な仮定と承認手続を文書化しているか

よくある質問

Q1. ダイレクトリスティングとは何ですか?

公募や売出しを行わず、既存の株式だけを上場させる方法です。クラサスケミカルのⅠの部では、上場日の1週間前までに幹事取引参加者が作成した流通参考値段に基づいて、東京証券取引所が初値決定前の最初の特別気配値段を定めると説明されています。資金調達を伴わないため、株主の分布や流動性をどう確保するかが重要になります。

Q2. パーシャル・スピンオフでは、親会社はどのくらいの株式を持ち続けるのですか?

クラサスケミカルの場合、レゾナックHDは当社株式の80%超を株主に現物配当し、20%未満を保有し続ける予定です。Ⅰの部では、研究開発等におけるリソースのシェアを続けることが双方の競争力向上につながると判断したことが理由として挙げられています。現物配当後、当社はレゾナックHDの連結子会社ではなくなり、持分法の適用対象からも外れる予定です。

Q3. 設立から間もない会社でも、過去の業績を示せるのですか?

会社分割などで事業を承継した場合には、分割前の期間について、東京証券取引所の「部門財務情報の作成基準」に準拠した部門財務情報を作成し、Ⅰの部に掲載する方法があります。クラサスケミカルは2024年1月〜12月の部門連結財務情報と部門個別財務情報を掲載し、監査法人のレビューを受けています。

Q4. 上場前に付与したストック・オプションの費用は計上されないのですか?

未公開企業は、ストック・オプションの公正な評価単価に代えて単位当たりの本源的価値で見積ることが認められています。クラサスケミカルでは本源的価値がゼロと算定されたため、費用計上額はありませんでした。ただし、本源的価値がプラスになる場合や、上場後に付与する場合は費用が生じます。

最初の一歩は、自社の「親会社・グループとの線引き」を書き出すこと

クラサスケミカルのⅠの部から学べることは多くありますが、親会社やグループ会社がある上場準備会社が最初に取り組むべきは、グループとの関係を「資本」「人」「取引」「資金」「会計方針」の5つの観点で書き出してみることです。どの取引が上場後も続くのか、役員の兼務をどう解消するのか、親会社からの借入をいつ返済するのか、グループ共通の会計処理のうち見直すものはあるか。これらを一覧にするだけで、審査で説明が必要になる論点が見えてきます。親会社がある場合の上場については親会社がある状態で上場できるのかも参考になります。

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まとめ

クラサスケミカル株式会社は、レゾナック・ホールディングスの石油化学事業を承継して2025年1月に営業を開始し、2026年9月29日に東証スタンダード市場に上場しました。親会社が保有株式の80%超を株主に現物配当するパーシャル・スピンオフと、公募・売出しを行わないダイレクトリスティングを組み合わせた上場であり、通常のIPOとは異なる設計がⅠの部の随所に表れています。

資本政策では、現物配当の割当比率に合わせた株式分割と単元株制度の採用、ガバナンスでは監査等委員会設置会社への移行と指名・報酬委員会の設置、親会社からの独立性の項目ごとの説明、会計・開示では部門財務情報の作成方法の明示、共通支配下の取引としての吸収分割、ナフサ価格に連動する変動対価の見積りなど、カーブアウト型の上場で求められる要素が一通りそろっています。事業の切り出しや親会社のある状態での上場を検討している会社は、本記事のチェックリストとあわせて、ぜひⅠの部の原文も読んでみてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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