※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
2026年9月29日、運用型広告を起点にマーケティング支援を手がける株式会社オーリーズ(東京都港区、英文表記 All’s & Company)が、東京証券取引所のTOKYO PRO Market(以下「TPM」)に上場しました。上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等(一般市場の公募・売出しに当たる勧誘)は行わず、「発行者情報」を公表しての上場です。本記事では、JPXの新規上場会社情報に掲載された同社の発行者情報(全104ページ)を読み、上場準備の実務で参考になる点を公認会計士の視点で整理します。
結論からいえば、オーリーズのケースは「子会社の売却と取得でグループの形を整え、種類株式を普通株式に戻し、直前1期の監査を受けてTPMに上場した、従業員100名弱のマーケティング支援会社の例」です。連結純資産のマイナスからの回復、A種類株式の廃止、新株予約権の消却と行使条件、2名の「クロス監査」など、規模の小さい会社がTPMを使うときに論点になりやすい項目が具体的に書かれています。
この記事の見出し
- オーリーズはどんな会社で、いつTPMに上場したのか
- なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
- TPMの上場の仕組みは一般市場とどう違うのか
- 事業内容と収益モデル:運用型広告からインサイドセールスまで
- 沿革と上場までの道のり
- 業績の推移と読み方:減収でも営業増益、最終利益は売却益で黒字に
- 資本政策と株主構成:創業者と資産管理会社で約3分の2
- コーポレート・ガバナンス:取締役3名と社外監査役2名
- 内部監査・内部統制:専任部署なしの「クロス監査」
- 会計・開示の論点:役務提供の完了時点と本人・代理人の区分
- 事業等のリスクと上場後に問われる点
- 一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
- 上場準備会社が学べること
- よくある質問
- まとめ
- 本記事の根拠
オーリーズはどんな会社で、いつTPMに上場したのか
オーリーズは2011年9月、東京都中央区で設立された会社です。発行者情報の沿革によれば、当初は社会課題解決型クラウドファンディング事業を通じて社会構造の変革に寄与することを目的に設立され、2013年4月にGoogle広告を中心とした運用型広告事業を始めました。現在は「あなたを、叶える。」をミッションに掲げ、運用型広告を起点としたマーケティング支援事業を展開しています。代表取締役社長は創業者の鈴木多聞氏で、決算期は12月、上場時点の直前連結会計年度は第15期(2025年12月期)です。
2026年8月25日に新規上場の申請が受け付けられ(同日に発行者情報を公表)、9月8日に上場承認、9月29日に上場しました。担当J-Adviserはフィリップ・キャピタル証券株式会社です。申請受付から上場承認までは10営業日で、TPMで「原則として上場申請から10営業日後に上場承認」とされている流れどおりの日程です。
図1 発行者情報の記載とJPXの新規上場会社情報(申請受付日・上場承認日・上場日)をもとに作成
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社オーリーズ(All’s & Company)、証券コード637A |
| 市場 | 東京証券取引所 TOKYO PRO Market |
| 上場日 | 2026年9月29日 |
| 上場承認日 | 2026年9月8日 |
| 申請受付日 | 2026年8月25日(発行者情報の公表日) |
| 担当J-Adviser | フィリップ・キャピタル証券株式会社 |
| 上場時の開示書類 | 発行者情報(特例110条3項。特定投資家向け取得勧誘等なし) |
| 本店 | 東京都港区赤坂 |
| 設立 | 2011年9月 |
| 決算期 | 12月(第15期=2025年12月期) |
| 事業 | マーケティング支援事業の単一セグメント(広告運用支援・マーケティングテクノロジー支援・インサイドセールス支援) |
| グループ | 当社、連結子会社セールスリクエスト、2026年1月に取得したMarooの計3社 |
| 従業員 | 連結97名(臨時16名)、単体74名・平均年齢33.3歳(2026年6月30日現在) |
| 監査 | 太陽有限責任監査法人(第15期の連結財務諸表) |
連結の従業員数は2025年12月期末の89名から2026年6月末には97名になっています。2025年12月期に前期の107名から18名減ったのは、連結子会社だったQetic株式会社の株式を売却して連結から外したためと説明されています。役員5名はすべて男性です。
自社に当てはめるとどうなるか、個別にお答えします
IPO支援:ショートレビュー、資本政策、内部管理体制、Ⅰの部の作成、審査対応まで。初回のご相談は無料、オンラインにも対応しています。
IPO支援の内容を見る / 相談内容を送る
なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
発行者情報を通読した範囲では、TPMを選んだ理由や上場の目的を直接説明する記載は見当たりませんでした。そのため本記事では、同社がTPMを選んだ理由を推測することはせず、TPMという市場の一般的な特徴と、発行者情報に書かれている事実を分けて紹介します。
TPMは、法令上「特定取引所金融商品市場」に当たるプロ向け市場です。株主数や流通株式、利益の額といった形式基準(数値基準)がなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する仕組みです。一般投資家は取引所で株式を買い付けることができず(保有株式の売却は可能)、買い手は特定投資家等に限られます。東証は2026年4月から、新規上場時に「上場目的」を検討・開示するよう要請しています(規程上の義務ではなく「お願い」です)。
なお、発行者情報には将来の市場に関わる記載が2か所(Qetic売却の理由と新株予約権の行使条件)あり、後半で紹介します。
これからTPMを検討する会社は、「何のために上場するのか」を社内で言語化し、上場後に実現状況を評価できる形にしておくことが求められる流れにあります。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
TPMの上場の仕組みは一般市場とどう違うのか
TPMの上場手続は、一般市場とは大きく異なります。上場を目指す会社は、まず東証の資格認証を受けたJ-Adviserと契約し、J-Adviserが上場適格性要件への適合状況を調査・確認します。上場申請の30営業日程度前までに「上場申請意向書」で意向を表明し、東証の担当者との面談を経て上場申請を行います。申請時には特定証券情報等を公表し、東証は原則として申請から10営業日後に上場を承認します。
図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する
上場時に公表する書類は、上場に際して特定投資家向けの勧誘を行うかどうかで変わります。オーリーズは発行者情報の表紙で「上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表」すると記載しています。つまり、上場と同時の資金調達や既存株主の売出しはなく、書類名も「特定証券情報」ではなく「発行者情報」です。
図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成
発行者情報の冒頭には、重要な虚偽や欠落があれば公表時の役員が損害賠償責任を負う旨の注意事項があります。プロ向けの簡素な開示でも、役員の責任は軽くありません。
一般市場(グロース・スタンダード)との比較
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード) |
|---|---|---|
| 買付けができる投資家 | 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、保有株の売却は可) | 制限なし |
| 形式基準(数値基準) | なし | 株主数・流通株式等の基準あり |
| 上場適格性の調査 | 担当J-Adviserが調査・確認し宣誓書を提出 | 東証が上場審査を行う |
| 上場申請から承認 | 原則10営業日(申請前にJ-Adviserの調査・意向表明) | 申請後に東証の審査 |
| 上場前の監査期間 | 最近1年間 | 直前2期 |
| 上場時・上場後の開示書類 | 特定証券情報/発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) | 有価証券届出書/有価証券報告書・半期報告書 |
| 四半期開示 | 任意 | 四半期決算短信 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 提出が必要 |
| J-Adviser | 契約の維持が上場の前提 | 制度なし |
| 開示言語 | 英語又は日本語 | 日本語 |
監査についても一般市場との違いがあります。TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」です。オーリーズは第15期(2025年12月期)の連結財務諸表について太陽有限責任監査法人の監査を受けており、主要な経営指標等の注記で「第14期の連結財務諸表については、当該監査を受けておりません」と明記しています。連結財務諸表の作成も第14期からです。一般市場の新規上場では直前2期の監査が求められるため、監査法人との契約時期の考え方が変わります(監査法人はいつまでに決めるか)。会計基準は、特例110条6項で認められた基準のうち日本の会計基準を採用しています。
事業内容と収益モデル:運用型広告からインサイドセールスまで
オーリーズグループは、当社と子会社のセールスリクエスト、Marooの3社で構成され、マーケティング支援事業の単一セグメントです。サービスは「広告運用支援」「マーケティングテクノロジー支援」「インサイドセールス支援」の3つに分かれます。広告運用支援はオーリーズが担い、各種の運用型広告の戦略立案から運用、効果改善までを一貫して支援し、LPやバナーなどの広告クリエイティブの制作も社内で行います。
マーケティングテクノロジー支援はグループ3社が担い、GA4、CRM/SFA、MA、BIツールの導入・運用定着を支援します。インサイドセールス支援はセールスリクエストとMarooが担い、主にBtoB企業を対象に、Web広告などで獲得したリードに電話・メール・オンライン商談でアプローチし、フィールドセールスへ引き渡す仕組みの構築・運用代行を行います。
図4 発行者情報「事業の内容」をもとに作成。マーケティング支援事業の単一セグメント
同社は、広告による認知・リード獲得から、データ基盤の構築・リード育成、インサイドセールスによる商談化・受注までをグループ内で「一気通貫」で支援できる点を最大の強みとしています。
何が差別化要因とされているのか
広告運用支援の競争優位として挙げられているのは3点です。1人のストラテジストが戦略から運用・効果検証まで担う「非分業型」の体制、1人の担当を4社までに制限していること、NPS(顧客推奨意向)をKPIとした品質管理です。2018年から2025年の平均NPSは34ポイント、2025年下期は52ポイント、平均プロジェクト継続期間は3.2年と記載されています。
図5 発行者情報「事業の内容」の記載を整理。一般的な広告代理店の体制は会社の説明による
売上の集中度も確認しておきましょう。2025年12月期の主要な販売先は、オフィスコム株式会社が165,785千円(売上高の12.2%)、株式会社キーエンスが139,604千円(10.3%)で、2社で約22.5%(本記事の計算)です。事業等のリスクでも「販売先への依存」として取り上げられ、他の販売先との取引拡大で相対的に依存度を下げる方針が示されています。KPIの定義と顧客集中の説明は、事業計画の説明と一体で問われる項目です(IPO審査の「事業計画の合理性」)。
沿革と上場までの道のり
図6 発行者情報「沿革」「発行済株式総数、資本金等の推移」「株式の総数等」等から主な項目を抜粋
沿革を見ると、オーリーズは運用型広告の支援から出発し、M&Aで周辺領域を取り込んできたことがわかります。2022年3月にクリエイティブ領域を強化するためQetic株式会社を、2023年8月にBtoB企業向けの統合マーケティング支援を強化するためセールスリクエストを子会社化しました。
上場前に子会社を入れ替えた
上場準備の観点で目を引くのが、上場前の2年間に行われた子会社の入替えです。2025年1月15日、オーリーズはQeticの全株式を株式会社テー・オー・ダブリューへ現金で譲渡しました。発行者情報の「企業結合等関係」は、クリエイティブ制作では期待どおりのシナジーが出た一方、オフラインイベント事業は市場環境の変化等で業績回復が遅れたため、「東証グロース市場への上場を見据えて経営資源をコア事業であるマーケティング支援へ集中させる」ことにした、と理由を説明しています。
その後、2025年11月21日の取締役会でインサイドセールス支援のMarooの全株式取得を決議し、2026年1月21日に完全子会社化しました。取得の対価は現金200百万円で、デューデリジェンス費用等は5,000千円です。Marooの取得は2025年12月期の連結財務諸表には含まれず、「重要な後発事象」として開示されています。
図7 発行者情報「企業結合等関係」「重要な後発事象」「関係会社の状況」をもとに作成
上場直前期に連結の範囲が動くと、比較可能な業績の説明や、取得した会社の管理体制の整備が論点になります。子会社の管理についてはIPO審査の「経営管理組織」とはも参考になります。
業績の推移と読み方:減収でも営業増益、最終利益は売却益で黒字に
主要な経営指標等は連結の2期分(第14期・第15期)で、監査を受けているのは第15期だけです。
2025年12月期の売上高は1,358,635千円で、前期の1,398,588千円から2.9%減りました。ただし、収益の分解を見ると、前期に208,857千円あった「広告クリエイティブ制作」が、Qeticの売却によりゼロになっています。広告運用支援は909,219千円から992,229千円へ、インサイドセールスは280,511千円から366,406千円へ増えており、広告クリエイティブ制作を除いた売上高で比べると約14.2%の増加です(本記事の計算)。
図8 連結財務諸表注記「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」より。広告クリエイティブ制作はQetic売却により2025年12月期は計上なし
| 項目(連結、千円) | 第14期(2024年12月期) | 第15期(2025年12月期) |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,398,588 | 1,358,635 |
| 売上総利益 | 1,017,848 | 1,110,588 |
| 営業利益 | 3,474 | 32,408 |
| 経常利益 | △2,340 | 25,898 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | △94,670 | 116,846 |
| 純資産額 | △13,419 | 103,427 |
| 総資産額 | 2,429,997 | 2,361,833 |
| 自己資本比率 | △0.6% | 4.4% |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 136,413 | △24,607 |
| 現金及び現金同等物の期末残高 | 1,292,561 | 1,355,325 |
| 従業員数(臨時) | 107名(3名) | 89名(10名) |
売上原価は380,740千円から248,046千円に減り、売上総利益は1,110,588千円(前期比9.1%増)、売上総利益率は72.8%から81.7%に上がりました(本記事の計算)。会社は「売上原価の圧縮により売上総利益は増加し、利益率は改善」と説明しています。一方、販売費及び一般管理費は1,014,373千円から1,078,180千円に増え、なかでも給与手当が428,109千円から500,805千円に増えています。結果として営業利益は3,474千円から32,408千円に増えましたが、営業利益率は2.4%です。
図9 発行者情報「主要な経営指標等の推移」・連結損益計算書より。第14期(2024年12月期)は監査を受けていない数値(第15期のみ監査済み)
営業利益から当期純利益までの動き
2025年12月期は、営業外収益28,395千円(投資事業組合運用益13,855千円、キャッシュバック収入8,366千円など)に対し、営業外費用が34,905千円(支払利息16,479千円、社債発行費8,645千円、社債保証料4,091千円など)あり、経常利益は25,898千円です。ここにQetic株式の売却による関係会社株式売却益111,734千円が特別利益として加わり、税金等調整前当期純利益は137,633千円、親会社株主に帰属する当期純利益は116,846千円となりました。
前期は固定資産除却損22,531千円と投資有価証券評価損59,998千円を計上し、当期純損失94,670千円でした。
図10 連結損益計算書より(千円)。特別利益はQetic株式の売却による関係会社株式売却益
最終利益の黒字転換は主に一時的な売却益によるもので、業績の説明では経常的な収益力と一過性の損益を分けて示すことが基本です。
連結純資産のマイナスはどう解消されたか
2024年12月期末の連結純資産は△13,419千円で、自己資本比率は△0.6%でした。利益剰余金は期首の47,998千円から当期純損失で△46,671千円になり、資本金33,000千円と新株予約権252千円を合わせても純資産はマイナスです。2025年12月期は当期純利益116,846千円で利益剰余金が70,175千円に回復し、純資産は103,427千円、自己資本比率は4.4%になりました。増資は行っていません。
図11 連結株主資本等変動計算書・主要な経営指標等の推移より(千円)。純資産には新株予約権252千円を含む
Qeticは売却時に負債(172,898千円)が資産(75,157千円)を上回っており、売却価額13,993千円との差額が売却益111,734千円となっています。
後で紹介するように、担当J-Adviserとの契約では「債務超過」が即日無催告解除の事由の一つになっています。過去に純資産がマイナスだった会社は、その解消の経緯と再発防止を説明できるようにしておく必要があります。
キャッシュ・フローと資金調達の特徴
2025年12月期の営業キャッシュ・フローは△24,607千円でした。仕入債務の減少56,582千円などが主な要因です。財務キャッシュ・フローは借入れ・社債の発行と返済・償還を差し引いて90,515千円の収入でした。
期末の現金及び預金は1,413,331千円ある一方、社債795,000千円(うち1年内償還260,000千円)と長期借入金651,495千円(うち1年内返済123,144千円)があります。運転資本については「上場予定日(2026年9月29日)から12か月間の当社の運転資本は、現状の自己資金及び金融機関からの借入による資金調達が可能であることから十分」と記載されています。資金調達を伴わない上場では、この運転資本の説明の裏付けとなる資金繰り計画が特に重要になります。
資本政策と株主構成:創業者と資産管理会社で約3分の2
2026年6月30日現在の株主は7名(その他の法人2名、個人5名)、発行済株式は普通株式2,740,000株です。発行者情報の「株主の状況」は新株予約権による潜在株式を含めた株式総数2,962,300株に対する割合で記載されており、筆頭株主は代表取締役社長・鈴木多聞氏の資産管理会社である合同会社T&CO(1,300,000株、43.88%)、次いで鈴木氏本人(660,000株、22.28%)です。取締役副社長の足立誠愛氏と同氏の資産管理会社である合同会社インテグリティがそれぞれ250,000株(各8.44%)を持ち、従業員2名が各110,000株(各3.71%)を保有しています。
図12 発行者情報 第四部「株主の状況」より。※は新株予約権による潜在株式のみ。T&COは鈴木多聞氏、インテグリティは足立誠愛氏の資産管理会社
役員の所有株式数は、鈴木氏が1,960,000株(うちT&CO経由の間接保有1,300,000株)、足立氏が500,000株(うちインテグリティ経由250,000株)で、役員の合計は2,460,000株です。関連当事者注記では、鈴木氏の議決権の被所有割合は直接24.1%、間接47.4%と記載されています。資産管理会社は「役員等により総株主の議決権の過半数が所有されている会社」として特別利害関係者等に当たり、株式移動の記録や開示の対象になります(創業者の持株比率はどこまで下げてよいか)。
資本政策はどのような順番で進められたか
図13 発行者情報「発行済株式総数、資本金等の推移」「新株予約権等の状況」「株式等の移動状況」等から作成。青は新株予約権、橙は株式に関する出来事
2022年11月22日に普通株式1株を2,000株に分割し、発行済株式総数は2,740,000株になりました。資本金は33,000千円で、資本準備金はありません。2024年12月19日には、足立氏から合同会社インテグリティへ250,000株が「所有者の意向による株式譲渡」として移動しています(価格欄は「-」)。TPMでも、特例115条等により、上場前の一定期間の特別利害関係者等の株式移動の記録を上場日から5年間保存することとされています。上場前の株式移動は、価格の根拠と協議の経緯を記録しておくことが大切です(上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約))。
A種類株式を上場前に普通株式へ
2025年12月期末の発行済株式は、普通株式840,000株とA種類株式1,900,000株でした。A種類株式は「優先配当を目的とした株式」で、期末配当の際に普通株式に先立ち、1株につき「直前期末簿価純資産額の30%に相当する金額を発行済A種株式数で除した額」を配当するものです。不足額は翌期以降に累積せず(非累積型)、優先配当金を超えて配当は行わない(非参加型)と定められています。
2026年6月29日の臨時株主総会でA種類株式を廃止して普通株式に転換する定款変更を決議し、T&COの1,300,000株と鈴木氏の600,000株が普通株式になりました。上場する株式は普通株式だけになるよう、種類株式は上場前に整理するのが一般的です(種類株式は上場前に普通株式へ戻すのか)。
4回の新株予約権と行使条件の設計
図14 発行者情報「新株予約権等の状況」「ストック・オプション等関係」より。第4回の付与日・付与対象者は発行者情報に記載が見当たらない
第1回新株予約権は2022年11月24日付で、付与対象者は「本制度に係る信託の受託者1名」、目的となる株式は300,000株、行使価額は32円でした。株価条件付きの設計でしたが、2026年2月18日の取締役会決議に基づき、3月31日付で全部消却されています。信託を使った新株予約権は、税務上の取扱いが論点になってきた仕組みでもあり、上場前に整理するかどうかを含めて検討しておく必要があります(信託型ストックオプションはなぜ給与課税か)。
第2回(2024年5月1日付与、取締役1名・従業員54名、行使価額65円)、第3回(2025年5月12日付与、従業員75名、95円)、第4回(行使価額215円)は、いずれも権利行使時に当社又は子会社の取締役・執行役員・従業員であることに加え、「当社普通株式がいずれかの金融商品取引所(東京プロマーケットその他のプロ投資家向け市場を除く)に上場すること」が行使の条件です。つまり、TPMに上場しただけでは行使できない設計になっています。2026年7月末の残高は第2回93,500株、第3回48,800株、第4回80,000株で、合計222,300株は発行済株式の約8.1%です(本記事の計算)。
ストック・オプションは本源的価値で評価され、費用計上額はありません。発行者情報の「第三者割当等の概況」には第2回・第3回が掲載され、特例115条・同施行規則107条に基づく保有期間等の確約(直前事業年度の末日の1年前(2025年1月1日)以後の割当てについて、割当てを受けた者が担当J-Adviserに継続所有等を確約する仕組み)が注記されています。税制適格要件の検討も含め、SOは発行時点で上場後の行使まで見据えた設計が必要です(税制適格ストックオプション)。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / IPO支援を見る
コーポレート・ガバナンス:取締役3名と社外監査役2名
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(発行者情報より) | 所有株式数 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 鈴木多聞 | 日本エル・シー・エーを経て2011年9月から当社代表取締役 | 1,960,000株(うち間接1,300,000株) |
| 取締役副社長 | 足立誠愛 | ワークスアプリケーションズを経て2013年5月から当社取締役 | 500,000株(うち間接250,000株) |
| 取締役 | 原秀一 | 日本通運、インテリジェンス、弁護士ドットコムを経てセールスリクエスト代表取締役。2024年3月から当社取締役 | - |
| 監査役(社外) | 中村光裕 | 監査法人勤務等を経て公認会計士事務所代表。2023年3月から当社監査役 | - |
| 監査役(社外) | 小松徹也 | 商工組合中央金庫を経て岩田合同法律事務所。2025年4月から当社監査役 | - |
取締役会は3名の取締役で構成され、定例取締役会を毎月1回開催しています。監査役は2名で、いずれも社外監査役です。社外取締役は選任していません。発行者情報には監査役会の記載はなく、「監査役制度を採用しており、2名で構成」と書かれています。社外役員の独立性に関する基準や方針は「特段の定めはありません」とされています。
TPMには一般市場のような機関設計の形式要件はなく、「企業の規模や成熟度等に応じて」ガバナンスが整備・機能していることが求められます。将来一般市場を目指す場合は、機関設計や社外役員の構成をあらためて検討することになります(IPO審査の「機関設計」とは)。
図15 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成
経営会議は原則週1回、リスクコンプライアンス委員会(委員長は代表取締役社長)は四半期ごとに開催されます。内部通報窓口はグループ全体を対象に社内と社外法律事務所に設けられ、リスク管理の主管部署はコーポレート本部です。
役員報酬と関連当事者取引
2025年12月期の役員報酬は、取締役(社外取締役を除く)3名に53,537千円、社外役員3名に12,750千円で、いずれも基本報酬のみ、総額66,287千円です。報酬の決定方針についての記載は見当たりませんでした。
関連当事者との取引としては、代表取締役の鈴木氏による銀行借入及び社債に対する債務被保証が記載されています。保証を受けている借入・社債の期末残高は、2024年12月期末517,442千円、2025年12月期末254,970千円で、保証料の支払いはありません。代表者による債務保証は上場準備でよく見られる論点で、金融機関との交渉を含めて解消の計画を立てておくことが一般的です(社長個人と会社の取引はどう解消するか)。同社は、支配株主との取引について一般の取引条件と同等の条件で決定し、関連当事者取引には取締役会の承認を必要とする方針を示しています。
内部監査・内部統制:専任部署なしの「クロス監査」
オーリーズは「小規模組織であることに鑑み、内部監査を専門とする部署を設置しておりません」と記載し、代表取締役社長が指名した内部監査担当者2名が全部門を対象に業務監査を計画的に行っています。自己監査を避けるため、HR本部に属する1名がコーポレート本部の監査を担当し、コーポレート本部に属する1名がその他の部門の監査を担当する「クロス監査方式」です。監査結果は代表取締役社長と被監査部門に報告され、必要に応じて改善指示を出し、改善状況を継続的に確認します。
図16 発行者情報「内部監査及び監査役の状況」をもとに作成
内部監査担当者が自分の所属部署を監査しないように担当を入れ替える方法は、管理部門の人数が限られる会社でよく採られる設計です。ポイントは、誰がどの部門を監査するかを内部監査規程や年間計画で明確にし、監査の独立性と専門性を説明できるようにしておくことです(内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避))。
三様監査の連携についても具体的に書かれています。監査役は内部監査担当者から随時報告を受け、社長・監査法人と定期的に意見交換し、内部監査担当者も監査法人と定期的に面談しています。対処すべき課題でも「監査役と内部監査の緊密な連携、定期的な内部監査の実施、経営陣および従業員に対する研修の充実」を挙げています(監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。なお、TPMでは内部統制報告書の提出は任意です。
会計・開示の論点:役務提供の完了時点と本人・代理人の区分
収益認識の方針では、マーケティング支援の役務を提供した時点で履行義務が充足されるとして、役務の提供が完了した時点で収益を認識しています。広告運用業務・広告制作業務は「媒体に広告出稿がされた時点や広告制作物を納品した時点」、インサイドセールス支援業務は、契約で定められた営業架電、顧客へのアプローチ、商談設定などを実施し「顧客への業務報告等により当該役務の提供が完了した時点」で収益を認識すると記載されています。取引の対価は履行義務の充足後、主として1年以内に受領し、重要な金融要素は含まれていません。
広告運用の会計で重要なのが、本人取引と代理人取引の区分です。本人としての性質が強いと判断される取引は対価の総額を、財又はサービスを支配しておらず代理人に該当すると判断した取引は対価から関連する原価を控除した純額又は手数料相当額を収益として認識するとしています。広告媒体費を含めて総額で計上するか純額で計上するかで売上高の大きさが大きく変わるため、上場準備では契約ごとの判断根拠を整理しておく必要があります(上場審査で問われる収益認識)。
重要な会計上の見積りと特徴的な注記
「重要な会計上の見積り」の注記は「該当事項はありません」とされています。そのうえで、財務諸表には見積りに関わる項目がいくつかあります。のれんは5年間の定額法で償却しており、残高は132,705千円から98,086千円に減りました(年間の償却額34,618千円)。繰越欠損金に係る繰延税金資産22,171千円は回収可能と判断されています。投資有価証券は93,369千円で、主に投資事業組合への出資です。非上場株式は、実質価額が取得原価に比べて50%以上低下した場合には回復可能性が認められる場合を除いて減損する方針で、2024年12月期に59,998千円の評価損を計上しました。
2026年1月に取得したMarooについては、受け入れた資産・負債の額や発生したのれんの金額は「現時点では確定しておりません」とされています。取得したのれんの評価は、上場後の決算でも論点になりやすい項目です(IPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるか)。
監査法人と監査報酬
会計監査は太陽有限責任監査法人で、業務を執行した公認会計士は本間洋一氏と尾形隆紀氏の2名(継続監査年数はいずれも2年以内)、補助者は公認会計士5名・その他5名です。最近連結会計年度の監査証明業務に基づく報酬は16,800千円、非監査業務に基づく報酬はありません。TPMで求められる監査は直前1期分ですが、監査契約の前に会計処理や決算体制の課題を洗い出しておくと、監査の初年度をスムーズに迎えられます(ショートレビューとは)。
事業等のリスクと上場後に問われる点
事業等のリスクは16項目です。景気動向、競合の増加(フリーランス人材による価格競争)、人材の採用・育成、代表取締役社長への依存、小規模組織であること、販売先への依存、J-Adviserとの契約などが並びます。
配当は実施しておらず、当面は内部留保の拡充を図る方針です。
担当J-Adviserとの契約はTPM上場の前提
TPMならではのリスクが、担当J-Adviserとの契約です。オーリーズはフィリップ・キャピタル証券と担当J-Adviser契約を結んでおり、この契約は「新規上場及び上場維持の前提」で、契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合には上場廃止になると記載しています。発行者情報には、債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、反社会的勢力の関与など、即日無催告で解除できる19項目の事由が詳しく書かれています(このほか④として、破産手続等に該当しても再建計画を開示した場合には原則として解除しない旨が定められています)。
このほか、契約違反時の書面催告(原則1か月)による解除、合意又は1か月前の書面通知による解除も定められています。公表日時点で解除条項に該当する事象は生じていないとされています。
図17 発行者情報「事業等のリスク(16)J-Adviserとの契約について」をもとに作成
J-Adviserは一般市場の主幹事証券とは別の概念で、上場前の適格性の調査だけでなく、上場後の適時開示の助言・指導や上場維持要件への適合状況の調査も担います。TPM上場会社にとっては、J-Adviserとの関係を継続できる管理体制と開示体制を維持すること自体が上場維持の条件になります(IPOの適時開示体制)。
一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
オーリーズの発行者情報には、前述のとおり、Qetic売却の理由として「東証グロース市場への上場を見据えて」という記載があり、第2回〜第4回新株予約権はプロ投資家向け市場を除く取引所への上場を行使条件としています。ただし、一般市場への上場の時期や計画についての記載は見当たらないため、本記事ではそれ以上の推測はしません。
制度面では、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMの申請による上場廃止と一般市場への新規上場として扱われます。東証は2026年秋をめどにTPMでの実績を勘案した一般市場の上場審査の効率化等を予定すると公表しています(本記事執筆時点で実施状況は確認できていません)。
一般市場を視野に入れる場合は、監査期間(直前2期)、株主数・流通株式、内部統制報告書、機関設計などの準備が必要です。グロース市場の準備項目はグロース市場事前チェックリストで確認できます。
上場準備会社が学べること
図18 本記事で取り上げた論点のまとめ
1. 資金調達をしない上場でも、運転資本と資金繰りの説明は必要
公募・売出しのない上場でも、上場予定日から12か月間の運転資本が十分であることの説明は必要です。
2. 監査は直前1期でも、連結の範囲を早く確定させる
監査対象の第15期の期首にQeticを売却し、期末後にMarooを取得しています。連結の範囲が動く時期と監査対象期の関係を早めに整理しておくことが大切です。
3. 非中核事業の整理は、純資産と業績の説明に直結する
Qetic売却で売上高は減ったものの、売上総利益率は上がり、売却益で連結純資産のマイナスも解消しました。
4. 種類株式は上場前に普通株式へ整理する
優先配当付きのA種類株式は、上場前の臨時株主総会で廃止され、普通株式に転換されました。発行可能株式総数や単元株制度の見直しも同じ総会で行っています。
5. SOは消却と行使条件まで含めて設計する
第1回新株予約権は上場前に消却され、残る新株予約権はプロ投資家向け市場を除く取引所への上場を行使条件としています。SOの行使価額、株式移動の価格、評価方法(DCF法・類似会社比準法)を同じ時期の株価の根拠としてそろえて説明できるかが問われます(未上場株式の株価算定はどの方法を使うか)。
6. 小さな組織でも自己監査を避ける設計を
専任の内部監査部署を置かず、2名の担当者で互いの部門を監査する「クロス監査」は、少人数の管理部門でも内部監査の独立性を確保する現実的な方法です。
- 上場目的(なぜTPMか、どう活用するか)を言語化し、上場後に評価できる形にしているか
- 監査を受ける事業年度と連結の範囲の変更時期を整理しているか
- 一過性の損益を除いた収益力と、純資産の推移を説明できるか
- 種類株式・SO・株式移動の価格の根拠を時系列で説明できるか
- 代表者による債務保証など関連当事者取引の解消計画があるか
- 担当J-Adviserとの契約を維持できる開示・管理体制があるか
よくある質問
していません。発行者情報の表紙に、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないため、特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表すると記載されています。
必要です。TPMの新規上場で求められる監査期間は最近1年間で、オーリーズは第15期(2025年12月期)の連結財務諸表について太陽有限責任監査法人の監査を受けています。第14期は監査を受けていない数値です。
オーリーズの第2回〜第4回新株予約権は、プロ投資家向け市場を除くいずれかの金融商品取引所への上場が行使条件とされているため、TPMへの上場だけでは行使できない設計です。
最初の一歩は「上場目的」と「監査対象期」の逆算から
TPMを検討する会社が最初に取り組みたいのは、上場目的を言語化したうえで、監査を受ける事業年度と担当J-Adviserの調査期間から上場時期を逆算することです。オーリーズのように子会社の売買や種類株式の整理、SOの見直しが重なる場合は、それぞれの手続に必要な期間も見込んでおく必要があります。自社の課題の洗い出しにはIPO準備 完全ガイドも活用してください。
まとめ
オーリーズは、運用型広告を起点に、マーケティングテクノロジー支援やインサイドセールス支援までを一気通貫で提供するマーケティング支援会社です。2026年9月29日に、資金調達を伴わない形でTOKYO PRO Marketに上場しました。発行者情報からは、子会社の入替えと純資産の回復、種類株式の転換、新株予約権の設計、2名のクロス監査、J-Adviser契約の解除条項など、規模の小さい会社がTPMを使う際の論点を読み取ることができます。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「オーリーズ 発行者情報」(2026年8月25日公表)
- 日本取引所グループ「新規上場会社情報(TOKYO PRO Market)」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「J-Adviser制度」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 日本取引所グループ「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示のお願い」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(2025年11月13日)
- 日本取引所グループ ニュース「上場廃止の決定:(株)AlbaLink」(2025年11月11日)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
あわせて読みたい