労働者派遣と有料職業紹介の許可|財産的基礎の要件と監査証明

労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可には、財産的基礎の要件があります。派遣は3つ、紹介は2つ。1つでも欠けると許可は下りません。

根拠は労働者派遣法7条1項4号と職業安定法31条1項1号ですが、条文は的確に遂行するに足りる能力、健全に遂行するに足りる財産的基礎としか定めていません。具体的な金額は法令ではなく、厚生労働省の要領(許可基準)に置かれています。改正があれば要領が変わるため、申請の時期に応じて最新版を確認する必要があります。

この記事は、要件の全体像と、論点ごとの記事への入口をまとめたものです。自社がどこでつまずいているかを先に特定してから、該当する記事に進んでください。

この記事でわかること

  • 労働者派遣の3要件と有料職業紹介の2要件の早見表
  • 基準資産額が純資産と一致しない理由
  • 事業所を1つ増やすと必要額が3,500万円変わること
  • 満たさないと分かったときに取れる3つの打ち手
  • 監査証明と合意された手続を使い分ける場面
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  • 労働者派遣の3要件と、基準資産額の正しい計算式
  • 記入式の自己診断シート(BSから6項目を書き写すだけ)
  • 満たさないと分かったときの3つの打ち手
  • 監査証明と合意された手続の場面別対応表

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📌 派遣は3つ、有料職業紹介は2つ

まず全体像です。同じ許可でも、派遣と紹介では要件の数も金額の決め方も違います。

区分 労働者派遣事業 有料職業紹介事業
基準資産額 2,000万円に事業所の数を乗じた額以上 500万円に事業所の数を乗じた額以上
負債とのバランス 基準資産額が負債の総額の7分の1以上 定めなし
自己名義の現金預金 1,500万円に事業所の数を乗じた額以上 150万円に、事業所の数から1を減じた数に60万円を乗じた額を加えた額以上
根拠 労働者派遣法7条1項4号/労働者派遣事業関係業務取扱要領 職業安定法31条1項1号/職業紹介事業の業務運営要領

派遣は単純な掛け算ですが、紹介の現金預貯金は加算方式です。2事業所なら派遣は3,000万円、紹介は210万円。ここを掛け算で計算してしまう誤りが実務でよく起きます。

もう1つの分かれ目が負債比率です。紹介には7分の1の条件がありません。借入れの多い会社が、紹介は通るのに派遣で外れるのは、たいていこの条件です。

紹介の事業資金は、事業開始後3か月程度の間の運営を賄うためのもので、基準資産額の資産の一部を、現金または預貯金として所持するものに限られます。

📌 基準資産額は、純資産と一致しない

要領の定義は、資産(繰延資産および営業権を除く。)の総額から負債の総額を控除した額です。貸借対照表の純資産の部の合計とは一致しません。

基準資産額 = 資産の総額 −(繰延資産 + のれん)− 負債の総額

繰延資産とは会社計算規則74条3項5号に規定するもの、営業権とは同規則第2編第2章第2節ののれんをいう、と要領は特定しています。創立費・開業費・株式交付費を資産に残している会社、のれんを計上している会社は、そのぶん基準資産額が小さくなります。

一方で、繰延税金資産は控除しません。同条3項4号ホで投資その他の資産に区分されるものだからです。ソフトウエアも同じく控除の対象ではありません。計算の細かい部分は基準資産額の計算方法|繰延資産とのれんを除くで扱っています。

📌 事業所を1つ増やすと、必要額が3,500万円変わる

派遣では、基準資産額2,000万円と現金預金1,500万円がどちらも事業所の数に比例します。事業所が1つ増えれば、必要額は合計で3,500万円増えます。この1件の数え違いが、要件充足の判定をまるごとひっくり返します。

要領は事業所を、労働者の勤務する場所または施設のうち事業活動が行われる場所で相当の独立性を有するものとし、雇用保険の適用事業所と基本的に同じ考え方で、場所的な独立、経営(業務)単位としての独立性、一定期間の継続と施設としての持続性の3つを勘案するとしています。登記簿上の本店または支店に該当するときは、もとより1つの事業所です。

許可が必要なのは派遣元事業所、すなわち就業条件の明示、労働契約の締結もしくは登録、雇用管理の実施等の事務処理機能を有し、派遣労働者が帰属する事業所です。営業だけを行う拠点を数に入れていないか、逆に実態として派遣事業を行っている拠点が漏れていないかを、申請の前に確かめてください。数え方の詳細は事業所の数え方|派遣で必要な資産額が変わるにまとめています。

📌 満たさないと分かったときの3つの打ち手

判定して1つでも欠けた場合、取れる手は3つです。

打ち手 内容 どの要件に効くか
増資と資本振替 払い込まれた金額がそのまま資産と純資産を増やす。役員借入金を資本に振り替えれば、負債が減って基準資産額が増える 基準資産額、現金預金、負債とのバランス
事業所数の見直し 申請する事業所を1つ減らせば必要額が3,500万円下がる(紹介なら基準資産額500万円と現金60万円) 必要額そのもの
中間決算または月次決算 決算日のあとに増資や利益の積み上がりがある場合、期中の数字で申し立てる 3要件すべて(公認会計士または監査法人の関与が必要)

やってはいけないのは、申請の直前に一時的な借入れで現金を積むことです。負債が増えるため、派遣では負債とのバランスがかえって悪化します。借りた金額の7分の1を超える基準資産額が別途必要になる構造だからです。

打ち手ごとの副作用は派遣の資産要件を満たさないとき|3つの打ち手で整理しています。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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📌 監査証明と合意された手続は、使える場面が違う

期中の数字で申し立てる場合、公認会計士または監査法人の関与が必要になります。ここで2つの選択肢が出てきますが、どちらでもよいわけではありません。

場面 使えるもの
労働者派遣の新規許可 監査証明のみ
労働者派遣の更新 監査証明/合意された手続
有料職業紹介の新規許可 監査証明のみ
有料職業紹介の更新(基準資産額) 監査証明/合意された手続
有料職業紹介の更新(自己名義の預貯金) 監査証明

理由は業務の性質にあります。日本公認会計士協会の専門業務実務指針4400は、合意された手続業務について、監査業務、レビュー業務またはそれ以外の保証業務ではなく、いかなる場合でも意見または保証の結論を表明することを目的として証拠を入手することはない、としています。意見を述べない業務なので、新規許可の審査では代替になりません。

更新で使える根拠は、要領が実務指針4450にもとづく合意された手続業務による中間決算または月次決算でも可能とする、と定めていることにあります。ただし実務指針4450は、当面の間、更新に限り、事後の申立てに限りという3つの限定を置いています。この3つを外れると使えません。

違いと選び方は監査証明と合意された手続の違い|派遣の許可申請で、期中の決算をどう整えるかは派遣の中間決算と月次決算|監査証明を受ける準備で扱っています。

📌 日程と公的な費用

更新申請には期限があります。有効期間が満了する日の3箇月前まで。要領は申請日の超過は認められないと明記しています。中間決算や月次決算を使う場合は、そこからさらに前倒しが必要です。残高証明書の取得だけでも2週間ほどかかります。

項目 金額
許可申請の手数料 120,000円に、事業所の数から1を減じた数に55,000円を乗じた額を加えた額
更新申請の手数料 55,000円に事業所の数を乗じた額
登録免許税(新規のみ) 許可1件当たり9万円

有効期間は新規が3年、更新後は5年です。更新のときだけ使える取扱いとして、教育訓練に投資した金額を負債の総額から控除できる場合があります。対象は限定されているため、派遣の教育訓練投資|更新時に負債から控除できる範囲で条件を確認してください。逆算のスケジュールは派遣許可の更新|費用と日程を逆算するにあります。

満了日が半年以内に迫っている方へ

いまの決算書で要件を満たすかどうかは、資料を拝見すればすぐに分かります。足りない場合の段取りと、必要な日数の見通しまでお示しします。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の監査証明と合意された手続に対応している公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。業務の内容と進め方は労働者派遣・有料職業紹介の監査証明のページにまとめています。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

🔗 論点別のくわしい解説

ここから先は、つまずいている場所ごとに読み分けてください。

まず要件を確かめる

足りないときの手当て

証明の種類と日程

❓ よくある質問

Q. 純資産が2,000万円あれば要件を満たしますか

A. 満たすとは限りません。基準資産額は、資産の総額から繰延資産とのれんを除き、負債の総額を控除して求めます。創立費や開業費を資産に残している場合、純資産より小さくなります。また、負債の総額の7分の1以上という条件と、現金預金1,500万円という条件も別に満たす必要があります。

Q. 決算後に増資したのですが、決算書では要件を満たしません

A. 増加した旨を申し立てることができます。ただし、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限られます。更新の場面では、合意された手続実施結果報告書による取扱いも認められています。

Q. 有料職業紹介でも負債が多いと通りませんか

A. 有料職業紹介には、負債の総額の7分の1という条件がありません。基準資産額500万円に事業所の数を乗じた額と、自己名義の現金預貯金の額を満たしていれば、借入れが多くても要件そのものは満たします。

Q. 資産は常に基準額以上を維持する必要がありますか

A. 有料職業紹介の要領は、資産は常時基準資産以上あることを必要とするものではなく、新規の許可申請時または許可の有効期間更新申請時においてこれを満たせば足りる、としています。

Q. 更新の申請が3か月前を過ぎてしまいました

A. 要領は申請日の超過は認められないとしています。日程が厳しい場合は、期中の決算で申し立てる準備と並行して、早い段階で管轄の労働局に相談してください。

📄 まとめ

労働者派遣の財産的基礎は3つ、有料職業紹介は2つです。派遣は事業所の数を掛ける方式、紹介の現金預貯金は加算方式で、紹介には負債比率の条件がありません。この違いを取り違えると、判定そのものが狂います。

基準資産額は純資産ではありません。繰延資産とのれんを除いた資産から負債を引いた額です。創立費や開業費を任意償却で資産に残している会社ほど、決算書の見た目より小さくなります。

足りないときの手は、増資と資本振替、事業所数の見直し、期中の決算での申立ての3つです。期中の決算を使うときは、新規許可なら監査証明、更新なら合意された手続も選べますが、実務指針4450の3つの限定を外れると使えません。

そして日程です。更新は満了日の3か月前が最終期限で、超過は認められません。先に自社の数字で判定し、不足があるとわかった時点で逆算を始めることが、いちばん確実な手当てです。

⚖ 本記事の根拠

記載内容の根拠

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。金額の基準は法令ではなく審査基準である要領に置かれているため、改正により変わることがあります。申請にあたっては管轄の労働局および専門家にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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