有料職業紹介の資産要件|500万円と現金預金の式

有料職業紹介事業の許可には、基準資産額500万円と、自己名義の現金・預貯金150万円という要件があります。

見落とされやすいのが、現金・預貯金の計算式です。基準資産額は事業所の数を乗じた額ですが、現金・預貯金は150万円に事業所の数から1を減じた数に60万円を乗じた額を加えた額。単純な掛け算ではありません。

この記事では、有料職業紹介事業の資産要件を業務運営要領にそって整理し、労働者派遣事業との違いまで説明します。

この記事でわかること

  • 要件が2つで、負債比率の条件がないこと
  • 基準資産額500万円の計算方法
  • 現金・預貯金の計算式と事業所ごとの早見表
  • 事業資金が現金または預貯金に限られる理由
  • 決算後に増えた場合の監査証明と合意された手続

📌 要件は2つ、負債の比率はない

有料職業紹介事業の許可には財産的基礎の要件があります。根拠は職業安定法31条1項1号で、申請者が、当該事業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有すること、と定められています。具体的な金額は厚生労働省の職業紹介事業の業務運営要領に置かれています。

要件は2つです。基準資産額と、自己名義の現金・預貯金の額。労働者派遣事業にある、基準資産額が負債の総額の7分の1以上という条件は、有料職業紹介事業にはありません。

借入れの多い会社にとっては、この違いが結論を分けることがあります。派遣では負債比率で外れるが、職業紹介なら通る、という場面が実際にあります。

📌 基準資産額は500万円に事業所の数を乗じた額

要領は、資産(繰延資産および営業権を除く。)の総額から負債の総額を控除した額(以下、基準資産額)が500万円に申請者が有料職業紹介事業を行おうとする事業所の数を乗じて得た額以上であること、としています。

基準資産額の定義は労働者派遣事業と同じです。純資産の額ではなく、繰延資産とのれんを除いたうえで計算します。創立費や開業費を繰延資産として計上している会社は、その分だけ小さくなります。

事業所が2つなら1,000万円、3つなら1,500万円です。ここは単純な掛け算です。

📌 現金・預貯金の計算式は掛け算ではない

混乱が起きるのが2つ目の要件です。要領は、事業資金として自己名義の現金・預貯金の額が、150万円に申請者が有料職業紹介事業を行おうとする事業所の数から1を減じた数に60万円を乗じた額を加えて得た額以上となること、としています。

一読して分かりにくいのですが、要するに、最初の1事業所が150万円、2事業所目からは1つにつき60万円ずつ加算する、という式です。基準資産額のような単純な掛け算ではありません。

現金・預貯金の額はどう決まるか最初の1事業所150万円+2事業所目からは1つにつき60万円=必要額合計労働者派遣事業は1事業所につき1,500万円ずつ増えます有料職業紹介事業は2事業所目から60万円ずつです基準資産額は1事業所につき500万円ずつ増えます

現金・預貯金は、最初の1事業所が150万円、2事業所目からは60万円ずつ加算します。

事業所の数 基準資産額 自己名義の現金・預貯金
1 500万円 150万円
2 1,000万円 210万円
3 1,500万円 270万円
5 2,500万円 390万円

労働者派遣事業では現金・預金が1事業所あたり1,500万円ずつ増えますので、増え方がまったく違います。両方の許可を持つ会社は、それぞれ別に計算してください。

📌 事業資金とは何を指すか

要領は、事業資金の意味も説明しています。事業資金は、事業開始後3か月程度の間の運営を賄うためのものであり、基準資産額の資産の一部となるものであり、現金または預貯金として所持するものに限られる、とされています。

ここから2つのことが分かります。1つは、現金・預貯金が基準資産額とは別枠ではなく、その内数だということ。1事業所であれば、基準資産額500万円のうち150万円以上が現金または預貯金である必要がある、という関係です。

もう1つは、現金または預貯金に限られるということ。有価証券や売掛金では代えられません。確認は貸借対照表等の現金および預貯金の欄で行われます。

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📌 資産は常に持っていなくてもよい

要領には、判断の基準日についての記載もあります。資産は、常時基準資産以上あることを必要とするものではなく、新規の許可申請時または許可の有効期間更新申請時においてこれを満たせば足りるものである、という一文です。

つまり、期中に一時的に資金が減っても、それだけで許可が取り消されるわけではありません。見られるのは申請の時点です。

とはいえ、事業報告は毎年提出しますし、更新のたびに要件は確認されます。ぎりぎりの水準で回している会社は、更新の時期に慌てることになります。

📌 決算後に増えたときの扱い

直近の決算では基準資産額が届かないが、そのあとに増資をした。この場合の取扱いも要領が定めています。

基準資産額が増加する旨の申立てがあったときは、公認会計士または監査法人による監査証明(許可の有効期間更新申請に限っては、合意された手続実施結果報告書も可)を受けた中間決算または月次決算に限り、資産の総額、負債の総額および自己名義の現金・預金の額のいずれについても当該中間決算または月次決算により確認するものとする、という書き方です。

括弧書きで、更新申請なら合意された手続実施結果報告書でもよいことが明示されています。厚生労働省が公表している職業紹介事業のパンフレットには、この括弧書きが載っていない版もありますので、パンフレットだけを見て監査証明しか使えないと判断しないでください。

なお、自己名義の預貯金の額が増加する旨の申立てについては、要領は公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算に限る、としています。どちらの数字を動かしたいのかによって求められるものが変わりますので、最初に整理してください。

📌 更新の期限と有効期間

有料職業紹介事業の許可の有効期間は、当該許可の日から起算して3年です(職業安定法32条の6第1項)。更新を受けた場合の有効期間は、更新前の許可の有効期間が満了する日の翌日から起算して5年です(同条5項)。

更新申請は、有効期間が満了する日の3か月前までに事業主管轄労働局に提出することとされています。

中間決算や月次決算を用意する場合は、残高証明書の取得や帳簿の整備に時間がかかります。満了日の4か月前には、要件を満たすかどうかの見立てを立てておいてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 職業紹介にも負債の7分の1という条件はありますか

A. ありません。業務運営要領が定める財産的基礎の要件は、基準資産額と自己名義の現金・預貯金の2つです。負債の総額との比率の条件は労働者派遣事業のものです。

Q. 2事業所だと現金・預貯金はいくら必要ですか

A. 210万円です。150万円に、事業所の数から1を減じた数(1)に60万円を乗じた額(60万円)を加えて計算します。3事業所なら270万円です。

Q. 現金・預貯金は基準資産額とは別に必要ですか

A. 別枠ではありません。要領は、事業資金は基準資産額の資産の一部となるものである、としています。1事業所であれば基準資産額500万円のうち150万円以上が現金または預貯金である必要があります。

Q. 売掛金や有価証券では代えられませんか

A. 代えられません。要領は、現金または預貯金として所持するものに限られる、としています。確認は貸借対照表等の現金および預貯金の欄で行われます。

Q. 決算後に増資しました。何が必要ですか

A. 要領は、基準資産額が増加する旨の申立てがあったときは、公認会計士または監査法人による監査証明(許可の有効期間更新申請に限っては、合意された手続実施結果報告書も可)を受けた中間決算または月次決算に限り確認する、としています。

📄 まとめ

有料職業紹介事業の財産的基礎の要件は2つです。基準資産額が500万円に事業所の数を乗じた額以上、自己名義の現金・預貯金が150万円に事業所の数から1を減じた数に60万円を乗じた額を加えた額以上。

負債の総額との比率の条件はありません。労働者派遣事業との大きな違いです。

事業資金は、事業開始後3か月程度の間の運営を賄うためのもので、現金または預貯金として所持するものに限られます。基準資産額の内数です。

資産は常時必要なのではなく、新規の許可申請時または更新申請時に満たせば足ります。決算後に増えた場合は、監査証明または更新申請であれば合意された手続実施結果報告書で示せます。

⚖ 本記事の根拠

記載内容の根拠

  • 職業安定法31条1項1号(申請者が、当該事業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有すること)
  • 職業紹介事業の業務運営要領 第3 許可基準(基準資産額が500万円に事業所の数を乗じて得た額以上。自己名義の現金・預貯金が150万円に事業所の数から1を減じた数に60万円を乗じた額を加えて得た額以上)
  • 同要領 第3(事業資金は、事業開始後3か月程度の間の運営を賄うためのものであり、現金または預貯金として所持するものに限られる)
  • 同要領 第3(資産は常時基準資産以上あることを必要とするものではなく、新規の許可申請時または許可の有効期間更新申請時においてこれを満たせば足りる)
  • 同要領 第3(基準資産額が増加する旨の申立てがあったときは、公認会計士または監査法人による監査証明(許可の有効期間更新申請に限っては、合意された手続実施結果報告書も可)を受けた中間決算または月次決算に限り確認する)
  • 職業安定法32条の6第1項および5項(許可の有効期間は3年、更新後は5年)
👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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