労働者派遣事業の許可には、資産の要件があります。基準資産額が2,000万円、自己名義の現金・預金が1,500万円。事業所の数を乗じた額が必要です。
この2つに加えて、基準資産額が負債の総額の7分の1以上であることも求められます。3つのうち1つでも欠ければ、許可は下りません。
この記事では、厚生労働省の労働者派遣事業関係業務取扱要領にそって、3つの要件と基準資産額の計算方法を整理します。
- 資産要件が3つあることと、それぞれの金額
- 基準資産額の定義と、純資産との違い
- 事業所を増やすと必要額がどう変わるか
- 負債の7分の1という条件でつまずく場面
- 決算後に資産が増えた場合の取扱い
この記事の見出し
📌 資産の要件は3つある
労働者派遣事業の許可を受けるには、財産的基礎の要件を満たす必要があります。根拠は労働者派遣法7条1項4号です。同号は、申請者が当該事業を的確に遂行するに足りる能力を有するものであること、とだけ定めており、具体的な金額は厚生労働省の労働者派遣事業関係業務取扱要領に置かれています。
ここが最初のつまずきどころです。金額の基準は法律や政令ではなく、許可の審査基準として要領に書かれています。改正があれば要領が変わりますので、申請の時期に応じて最新版を確認する必要があります。
要領が定める要件は次の3つです。3つすべてを満たさなければなりません。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 基準資産額 | 2,000万円に事業所の数を乗じた額以上 |
| 負債とのバランス | 基準資産額が負債の総額の7分の1以上 |
| 自己名義の現金・預金 | 1,500万円に事業所の数を乗じた額以上 |
📌 基準資産額とは何を指すか
基準資産額は、要領に定義があります。資産(繰延資産および営業権を除く。)の総額から負債の総額を控除した額、です。
純資産の額とは一致しません。貸借対照表の純資産の部の合計から、繰延資産と営業権を差し引いた金額になります。創立費や開業費や株式交付費を繰延資産として計上している会社、のれんを計上している会社では、その分だけ基準資産額が小さくなります。
要領は、繰延資産と営業権の意味も特定しています。繰延資産とは会社計算規則74条3項5号に規定する繰延資産をいい、営業権とは無形固定資産の1つである会社計算規則第2編第2章第2節ののれんをいう、とされています。
基準資産額は、繰延資産と営業権を除いた資産から負債を引いて求めます。
計算は貸借対照表または労働者派遣事業計画書(様式第3号)の資産等の状況の欄で確認されます。手元の決算書で先に計算しておけば、申請の前に足りるかどうかが分かります。
📌 事業所が増えると必要額も増える
基準資産額と現金・預金は、いずれも事業所の数を乗じた額です。事業所を1つ増やすたびに、基準資産額は2,000万円、現金・預金は1,500万円ずつ増えます。
| 事業所の数 | 基準資産額 | 自己名義の現金・預金 |
|---|---|---|
| 1 | 2,000万円 | 1,500万円 |
| 2 | 4,000万円 | 3,000万円 |
| 3 | 6,000万円 | 4,500万円 |
| 5 | 1億円 | 7,500万円 |
ここでいう事業所とは、労働者派遣事業を行う事業所です。支店を出す計画がある場合は、開設のタイミングで要件が引き上がることを先に見込んでおいてください。
負債とのバランスの要件だけは比率ですので、事業所の数では変わりません。
📌 負債の7分の1という条件
2つ目の要件は、基準資産額が負債の総額の7分の1以上であることです。言い換えると、負債の総額が基準資産額の7倍を超えていないこと、です。
この要件は、基準資産額が2,000万円を超えていても引っかかることがあります。たとえば基準資産額が2,500万円で負債の総額が2億円の会社は、7分の1が約2,857万円ですので、1つ目の要件は満たしていても2つ目で外れます。
借入金の多い会社ほど、この条件が効いてきます。決算書を見るときは、純資産だけでなく負債の総額もあわせて確認してください。
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📌 現金・預金は資産の中に含まれている
3つ目の要件は、事業資金として自己名義の現金・預金の額が1,500万円に事業所の数を乗じた額以上であることです。
誤解が多いのは、この現金・預金が基準資産額とは別に必要だと考えてしまう点です。現金・預金は資産の一部ですので、基準資産額の中に含まれています。1事業所であれば、基準資産額2,000万円のうち1,500万円以上が現金・預金であること、という関係になります。
自己名義であることも条件です。代表者個人の口座に置いてある資金は、法人の自己名義の預金ではありません。役員からの借入れとして法人の口座に入れれば現金・預金は増えますが、同時に負債も増えますので、基準資産額は増えません。
📌 いつの時点で満たしていればよいか
資産の要件は、常に満たしていなければならないものではありません。有料職業紹介事業の業務運営要領には、資産は常時基準資産以上あることを必要とするものではなく、新規の許可申請時または許可の有効期間更新申請時においてこれを満たせば足りる、と明記されています。
労働者派遣事業でも、審査の対象は申請の時点です。原則としては直近の事業年度の決算にもとづいて判断されますが、決算のあとに増資などで基準資産額や現金・預金が増えているときは、その旨を申し立てることができます。
その場合、要領は確認の方法を限定しています。公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限り、基準資産額、負債の総額および自己名義の現金・預金の額のいずれについても、その中間決算または月次決算により確認するものとする、とされています。
📌 足りないと分かったときにできること
決算書で計算して足りなかった場合、打つ手は大きく3つです。1つ目は増資や役員借入金の資本組入れなどで基準資産額そのものを増やすこと。2つ目は事業所の数を見直すこと。3つ目は、決算後に増えているのであれば、中間決算または月次決算で申し立てることです。
3つ目を選ぶ場合、公認会計士または監査法人の関与が必要になります。新規の許可申請では監査証明、許可の有効期間の更新申請では合意された手続実施結果報告書でも認められています。
いずれの手も、決算日と申請日の関係で使えるものが変わります。許可の有効期間の満了日が近い場合は、早い段階で試算しておくことをおすすめします。
直近の決算書と現在の預金残高があれば、3つの要件を満たすかどうかはその日のうちに試算できます。足りない場合の打ち手まで含めてご一緒します。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の監査証明と合意された手続に対応している公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。業務の内容と進め方は労働者派遣・有料職業紹介の監査証明のページにまとめています。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 同じではありません。基準資産額は、資産(繰延資産および営業権を除く。)の総額から負債の総額を控除した額です。繰延資産やのれんを計上している場合、その分だけ純資産より小さくなります。
A. 別に必要なわけではありません。現金・預金は資産の一部ですので、基準資産額の中に含まれています。1事業所であれば、基準資産額2,000万円のうち1,500万円以上が現金・預金である必要がある、という関係です。
A. 認められません。要件は事業資金として自己名義の現金・預金の額です。法人名義の口座にある残高で判断します。
A. あります。基準資産額が負債の総額の7分の1以上であることが2つ目の要件です。借入金が多い会社では、基準資産額が2,000万円を超えていてもこの条件で外れることがあります。
A. 原則として直近の事業年度の決算です。決算後に基準資産額や現金・預金が増えている場合は、その旨を申し立てることができますが、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限られます。
📄 まとめ
労働者派遣事業の資産要件は3つです。基準資産額が2,000万円に事業所の数を乗じた額以上、基準資産額が負債の総額の7分の1以上、自己名義の現金・預金が1,500万円に事業所の数を乗じた額以上。
基準資産額は、資産(繰延資産および営業権を除く。)の総額から負債の総額を控除した額です。純資産の額とは一致しません。
現金・預金は基準資産額の中に含まれています。別枠で用意するものではありません。
直近の決算で足りない場合でも、決算後に増えているなら申し立てができます。ただし公認会計士または監査法人が関与した中間決算または月次決算による場合に限られます。
⚖ 本記事の根拠
- 労働者派遣法7条1項4号(申請者が当該事業を的確に遂行するに足りる能力を有するものであること)
- 労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 許可の要件(イ)財産的基礎に関する判断(基準資産額2,000万円、負債の総額の7分の1、現金・預金1,500万円)
- 同要領 第3(d)(基準資産額または自己名義の現金・預金の額が増加する旨の申し立てがあったときは、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限り確認する)
- 会社計算規則74条3項5号(繰延資産として計上することが適当であると認められるもの)、同規則第2編第2章第2節(のれん)
- 職業紹介事業の業務運営要領 第3(資産は常時基準資産以上あることを必要とするものではなく、新規の許可申請時または許可の有効期間更新申請時においてこれを満たせば足りる)
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。