決算後に資産が増えたことを申し立てるには、中間決算または月次決算を作り、公認会計士の監査証明または合意された手続実施結果報告書を添えます。
このとき何より効くのが、決算書の整備状況です。月次決算が組めている会社なら数週間で終わりますが、記帳が遅れていれば帳簿を追いつかせるところから始まります。
この記事では、どの日付を選ぶか、決算書に求められる水準、そろえる資料と実施される手続を、実務の順序にそって説明します。
- 中間決算と月次決算のどちらを使うか
- 対象とする日付の決め方
- 月次決算に求められる整備の水準
- 実施される手続の内容
- そろえていただく資料の一覧
この記事の見出し
📌 中間決算でも月次決算でもよい
決算後に資産が増えたことを申し立てる場合、要領が認めているのは中間決算または月次決算です。どちらでなければならない、という定めはありません。
実務では月次決算を使うことが多くなります。事業年度の途中の任意の月末を基準にできますので、いちばん残高が整っている日付を選べるからです。
ただし、選んだ日付の数字はまとめて置き換わります。要領は、基準資産額、負債の総額および自己名義の現金・預金の額のいずれについても当該中間決算または月次決算により確認するものとする、としています。基準資産額だけを新しい日付で見て、負債は前の決算のままにする、という使い方はできません。
📌 どの日付を選ぶか
日付選びは、次の2つで決まります。1つ目は、その日の残高で3つの要件をすべて満たしているか。2つ目は、その日の残高を裏づける資料をそろえられるかです。
日付は、要件の充足と資料の入手可能性の両方から決めます。
増資をした月であれば、払込みの日以後の月末を選びます。登記が完了していることも確認してください。
注意したいのが預金です。月末に大きな入金があり、翌営業日に支払いで出ていく会社では、月末の残高が実態より大きく見えます。手続の中で前後の動きも確認されますので、たまたま多かった日を選ぶという発想は避けてください。
申請の予定日から見て古すぎる日付も避けます。何か月前までなら認められるかについて要領に一律の定めはありませんので、事業主管轄労働局に確認したうえで決めるのが確実です。
📌 決算書に求められる水準
月次決算といっても、試算表を出力しただけでは足りません。手続の対象になるのは決算書ですので、次の点を整えておく必要があります。
第1に、現金と預金がすべての口座について記帳され、残高が合っていること。第2に、売掛金と買掛金と未払金が発生の事実にもとづいて計上されていること。第3に、借入金の残高が返済予定表と一致していること。第4に、減価償却費が月割りで計上されていること。第5に、棚卸資産や前払費用など、期末にだけ調整している項目が反映されていること。
年に一度しか決算を組んでいない会社では、この整備に時間がかかります。記帳が数か月遅れているようであれば、まず帳簿を追いつかせるところから始まります。
📌 実施される手続
合意された手続の場合、日本公認会計士協会の専門業務実務指針4450が手続の例を示しています。
挙げられているのは、月次決算書と総勘定元帳の突合、年度決算書と納税申告書や納税証明書との突合、現金および預金の銀行残高証明書との突合、差異が生じた事項についての説明の確認、そして売掛金や未払金や借入金や資本金などについて取引を抽出しての証憑の確認です。
いずれも、決算書の数字が帳簿と資料に裏づけられているかを確かめるものです。監査証明の場合はこれに加えて、意見を表明するために必要な手続が行われます。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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📌 そろえていただく資料
依頼を受けてから最初にお願いするのが資料の準備です。おおむね次のものが必要になります。
| 資料 | 確認したいこと |
|---|---|
| 直近の事業年度の決算書と申告書 | 出発点となる数字と、申告との整合 |
| 対象日の試算表と総勘定元帳 | 決算書と帳簿が一致しているか |
| 全口座の残高証明書 | 現金・預金の実在性。同一日付でそろえます |
| 売掛金と未払金の明細 | 主要な残高の内訳 |
| 借入金の返済予定表と残高証明書 | 負債の総額の網羅性 |
| 増資をした場合の登記事項証明書と払込みの記録 | 基準資産額が増えた事実 |
| 固定資産台帳 | 有形固定資産と減価償却の状況 |
残高証明書は取得までに日数がかかります。金融機関によっては2週間ほど要しますので、日付を決めたらすぐに依頼してください。複数の証明書を用いる場合は、同一日付のものでそろえます。
📌 差異が出たときにどうなるか
突合の結果、差異が見つかることがあります。合意された手続では、差異があったという事実がそのまま報告書に記載されます。隠すことはできません。
とはいえ、差異が見つかること自体が問題なのではありません。記帳の漏れであれば、修正して正しい決算書に直したうえで手続を実施すれば足ります。手続の途中で見つかった差異は、その場でご確認いただき、必要な修正を反映してから進めます。
困るのは、修正しても要件を満たさないと分かった場合です。この場合は日付を変えるか、別の打ち手に切り替えるかの判断になります。だからこそ、最初の段階で試算をしておくことが大切です。
📌 準備の順序
順序をまとめます。まず、直近の決算書と現在の残高で試算し、要件を満たす日付の見当をつけます。次に、その日付を対象に決算書を整備します。残高証明書の取得はこの段階で始めます。
決算書が固まったら手続を実施し、報告書を作成します。あわせて、労働者派遣事業計画書(様式第3号)の資産等の状況の欄など、労働局に提出する書類の数字と報告書の数字が合っているかを確認します。
月次決算が組めている会社であれば、日付を決めてから報告書のお渡しまで数週間です。記帳の巻き直しが必要な場合はさらに時間がかかりますので、更新申請の期限から逆算して早めに動いてください。
総勘定元帳と証憑があれば、決算書を組み立てるところから対応できます。記帳の巻き直しを含めて、報告書のお渡しまで一式でお引き受けします。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の監査証明と合意された手続に対応している公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。業務の内容と進め方は労働者派遣・有料職業紹介の監査証明のページにまとめています。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. どちらでも認められます。実務では、事業年度の途中の任意の月末を基準にできる月次決算を使うことが多くなります。
A. できません。要領は、基準資産額、負債の総額および自己名義の現金・預金の額のいずれについても、その中間決算または月次決算により確認するものとする、としています。3つがまとめて置き換わります。
A. 要領に一律の定めはありません。申請の予定日から見て古すぎる日付は避け、事業主管轄労働局に確認したうえで決めてください。
A. 日付を決めたらすぐに依頼してください。金融機関によっては2週間ほどかかります。複数の証明書を用いる場合は同一日付のものでそろえます。
A. 合意された手続では、差異があったという事実がそのまま報告書に記載されます。記帳の漏れであれば、修正して正しい決算書に直したうえで手続を実施します。
📄 まとめ
申し立てに使えるのは中間決算または月次決算です。実務では月次決算を使うことが多くなります。
日付は、その日の残高で3つの要件を満たすことと、残高を裏づける資料をそろえられることの両方から決めます。
月次決算は試算表の出力では足りません。全口座の記帳、発生にもとづく債権債務の計上、借入金残高の一致、減価償却費の月割計上が必要です。
手続では、決算書と総勘定元帳の突合、残高証明書との突合、主要な科目の証憑の確認などが行われます。残高証明書の取得には日数がかかりますので、早めに動いてください。
⚖ 本記事の根拠
- 労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3(基準資産額または自己名義の現金・預金の額が増加する旨の申し立てがあったときは、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限り、基準資産額、負債の総額および自己名義の現金・預金の額のいずれについても確認する)
- 同要領 第3(個人の場合の預金残高証明書について、複数の預金残高証明書を用いる場合は同一日付のものに限る)
- 職業紹介事業の業務運営要領 第3(監査証明。許可の有効期間更新申請に限っては合意された手続実施結果報告書も可)
- 日本公認会計士協会 専門業務実務指針4450(月次決算書と総勘定元帳の突合、年度決算書と納税申告書等との突合、現金および預金の銀行残高証明書との突合、主要な科目の取引抽出による証憑の確認などの手続の例)
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。