監査証明と合意された手続の違い|派遣の許可申請

労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可で、決算後に資産が増えたことを申し立てるとき、公認会計士に頼むのは監査証明か、合意された手続か。

答えは申請の場面で決まります。新規の許可では監査証明。許可の有効期間の更新では、合意された手続実施結果報告書でも認められます。

この記事では、2つの違いを日本公認会計士協会の実務指針にそって整理し、なぜ新規許可では合意された手続が使えないのかまで説明します。

この記事でわかること

  • 場面ごとにどちらが必要かの一覧
  • 合意された手続が保証業務ではない意味
  • 新規許可で監査証明が求められる理由
  • 実務指針4450が定めていること
  • 報告書の標題と、書かれる内容

📌 労働局が求めているのはどちらか

決算後に基準資産額や現金・預金が増えたことを申し立てる場合、中間決算または月次決算を出すことになります。このとき公認会計士に何を頼めばよいのかは、申請の場面で決まります。

場面 監査証明 合意された手続
労働者派遣事業の新規許可 必要 認められていない
労働者派遣事業の更新 使える 認められている
有料職業紹介事業の新規許可 必要 認められていない
有料職業紹介事業の更新 使える 認められている

労働者派遣事業関係業務取扱要領は、新規の許可の場面では、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限る、としています。合意された手続への言及はありません。

一方、許可の有効期間の更新については、日本公認会計士協会が平成30年12月20日付けで公表した実務指針にもとづいて公認会計士または監査法人が実施した合意された手続業務による中間決算または月次決算でも可能とする、と定めています。

有料職業紹介事業の業務運営要領はもっと端的で、公認会計士または監査法人による監査証明(許可の有効期間更新申請に限っては、合意された手続実施結果報告書も可)を受けた中間決算または月次決算に限り、と括弧書きで示しています。

監査証明と合意された手続の違い監査証明意見を表明する保証業務にあたる新規許可でも更新でも使える手続の範囲は会計士が決める費用と期間は大きめ合意された手続意見も結論も表明しない保証業務ではない更新申請でのみ認められる手続はあらかじめ合意する費用と期間は抑えやすい専門業務実務指針4400および4450

2つは似た場面で使われますが、業務としての性格が違います。

📌 合意された手続は保証業務ではない

なぜ新規の許可では合意された手続が使えないのか。理由は業務の性格にあります。

日本公認会計士協会の専門業務実務指針4400は、合意された手続業務を、業務実施者が、契約により業務実施者、業務依頼者および該当する場合には業務依頼者以外の実施結果の利用者が合意した手続を実施し、実施結果報告書において、実施した合意された手続および手続実施結果を報告する業務、と定義しています。

そのうえで同指針は、合意された手続業務は、監査業務、レビュー業務または監査およびレビュー業務以外の保証業務ではない、としています。さらに、合意された手続業務では、いかなる場合でも、業務実施者が意見または保証の結論を表明することを目的として、証拠を入手することはない、と明記しています。

つまり、合意された手続では、決算書が適正に表示されているという結論は出ません。合意した手続を実施して、その結果を事実として報告するだけです。判断は報告書の読み手が行います。

📌 だから新規許可では監査証明が求められる

新規の許可では、その会社の決算書について何も分かっていない状態から審査が始まります。労働局が判断の拠りどころにできるのは、専門家の意見です。だから監査証明が求められます。

これに対して許可の有効期間の更新では、すでに一度審査を通っており、事業報告も提出されています。要件の充足を確かめるために必要な情報の範囲が限られますので、手続の結果を報告する形でも足りる、という整理になっているものと考えられます。

実務指針4450も、この取扱いを限定つきで説明しています。当面の間、許可の有効期間の更新に係る事後申立てに限り、合意された手続実施結果報告書による取扱いも可とすることとされている、という書き方です。当面の間、更新に限り、事後の申立てに限り。3つの限定がかかっています。

📌 実務指針4450が定めていること

合意された手続を頼む場合、公認会計士は日本公認会計士協会の専門業務実務指針4450にしたがって業務を行います。労働者派遣事業等の許可審査に係る中間または月次決算書に対する合意された手続業務に関する実務指針、という名称です。

この指針は2018年12月20日に公表され、2023年3月16日に改正されています。改正後の指針は2023年7月1日以後に契約を締結する業務から適用され、大規模監査法人以外の監査事務所については2024年7月1日以後に契約を締結する業務から適用されています。

対象は労働者派遣事業と職業紹介事業の両方です。要領が実務指針の名称を挙げて認めていますので、指針にもとづかない独自の手続では、労働局に受け付けてもらえない可能性があります。

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📌 報告書には何が書かれるか

合意された手続の成果物は、独立業務実施者の合意された手続実施結果報告書という標題の書面です。

記載されるのは、報告書の目的および利用制限、業務依頼者と業務実施者の責任、職業倫理と独立性と品質管理に関する事項、そして実施した合意された手続と手続実施結果です。

手続の例としては、月次決算書と総勘定元帳の突合、年度決算書と納税申告書や納税証明書との突合、現金および預金の銀行残高証明書との突合、差異が生じた事項の説明の確認、売掛金や未払金や借入金や資本金などについて取引を抽出しての証憑の確認が挙げられています。

実施結果は事実として書かれます。差異があれば、差異があったという事実がそのまま記載されます。

📌 独立性と利用制限

合意された手続業務では、通常、業務対象に責任を負う者に対する独立性は要求されません。ところが実務指針4450は、この業務が監査証明の代替であることから、独立性を保持することを求めています。

したがって、記帳を代行している顧問税理士が同じ法人の合意された手続を行うことには制約が生じます。誰に頼めるかを最初に確認してください。

利用制限もあります。実施結果報告書は、労働者派遣事業等の許可の有効期間の更新に係る審査の申請に関連して利用される文書であり、これ以外の目的で第三者に利用されることは通常想定されていません。金融機関への提出などに流用できるものではありません。

📌 どちらを頼むか、迷ったときは

判断の順序は単純です。まず、新規の許可か更新かを確認します。新規であれば監査証明の一択です。

更新であれば、合意された手続を選べます。実施する手続をあらかじめ合意しますので、範囲が明確になり、費用と期間を見通しやすくなります。

ただし、決算書そのものの信頼性に不安がある場合や、労働局から個別に求められている事項がある場合は、監査証明を選んだほうがよい場面もあります。最初のご相談で、申請の場面と決算書の状態を確認したうえで決めるのが確実です。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 新規の許可で合意された手続は使えませんか

A. 要領は、新規の許可の場面では公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限る、としています。合意された手続が認められているのは許可の有効期間の更新の場面です。

Q. 合意された手続では決算書が正しいと証明されないのですか

A. 証明されません。専門業務実務指針4400は、合意された手続業務では、いかなる場合でも、業務実施者が意見または保証の結論を表明することを目的として、証拠を入手することはない、としています。実施した手続とその結果が事実として報告されます。

Q. 顧問税理士に合意された手続を頼めますか

A. 実務指針4450は、この業務が監査証明の代替であることから独立性を保持することを求めています。記帳を代行している立場では制約が生じますので、依頼先を決める前にご確認ください。

Q. 報告書は銀行や取引先にも使えますか

A. 使えません。実施結果報告書は、許可の有効期間の更新に係る審査の申請に関連して利用される文書であり、これ以外の目的で第三者に利用されることは通常想定されていません。

Q. どちらのほうが費用は安いですか

A. 一般に、実施する手続をあらかじめ合意する合意された手続のほうが範囲が限定されます。ただし決算書の整備状況によって作業量は変わりますので、資料を拝見したうえでお見積りします。

📄 まとめ

新規の許可では監査証明が必要です。許可の有効期間の更新では、合意された手続実施結果報告書でも認められます。

合意された手続は保証業務ではありません。意見も保証の結論も表明されず、実施した手続とその結果が報告されます。

労働局が認めているのは、日本公認会計士協会の専門業務実務指針4450にもとづく合意された手続業務です。指針によらない独自の手続では受け付けられない可能性があります。

報告書の標題は、独立業務実施者の合意された手続実施結果報告書です。利用の目的は許可審査の申請に関連するものに限られます。

⚖ 本記事の根拠

記載内容の根拠

  • 労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3(新規の許可では、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限る)
  • 同要領 第3 許可の有効期間の更新(日本公認会計士協会が平成30年12月20日付けで公表した実務指針にもとづいて公認会計士または監査法人が実施した合意された手続業務による中間決算または月次決算でも可能とする)
  • 職業紹介事業の業務運営要領 第3(公認会計士または監査法人による監査証明(許可の有効期間更新申請に限っては、合意された手続実施結果報告書も可)を受けた中間決算または月次決算に限り)
  • 日本公認会計士協会 専門業務実務指針4400(合意された手続業務の定義。合意された手続業務は監査業務、レビュー業務または監査およびレビュー業務以外の保証業務ではない)
  • 日本公認会計士協会 専門業務実務指針4450(労働者派遣事業等の許可審査に係る中間または月次決算書に対する合意された手続業務に関する実務指針。当面の間、許可の有効期間の更新に係る事後申立てに限り、合意された手続実施結果報告書による取扱いも可とすることとされている)
👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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