労働者派遣事業の許可の更新でも、資産要件は新規と同じです。基準資産額2,000万円、負債の総額の7分の1、現金・預金1,500万円。金額が下がることはありません。
ただし更新の場面には、新規の許可にはない取扱いがあります。教育訓練のための施設や機器等に投資した金額を、負債の総額から控除して算定できるという定めです。
この記事では、更新申請でだけ使える2つの取扱いを、要領の記載にそって整理します。
- 更新でも資産要件は同じ金額であること
- 教育訓練投資を負債から控除できる場面
- 控除できる金額の範囲と必要な添付書類
- 小規模事業主の当分の間の措置が使える人
- 更新で合意された手続が認められていること
この記事の見出し
📌 更新でも資産要件は見られる
労働者派遣事業の許可の有効期間は、新規の許可では3年、更新後は5年です(労働者派遣法10条1項および4項)。更新申請は、有効期間が満了する日の3か月前までに行う必要があります。
更新のときも、資産要件は新規と同じです。基準資産額が2,000万円に事業所の数を乗じた額以上、基準資産額が負債の総額の7分の1以上、自己名義の現金・預金が1,500万円に事業所の数を乗じた額以上。金額が下がることはありません。
要領は、更新の判断について、当初の許可時および過去の有効期間更新時において適合していると認めた許可要件について、特段の事情変更がないことを確認しなければならない、としています。財産的基礎はこの確認の対象です。
📌 教育訓練に投資した分は負債から引ける
更新の場面には、新規の許可にはない取扱いが2つあります。1つ目が、教育訓練への投資についての取扱いです。
要領は、教育訓練のために既に利用されているか1年以内に利用することが確実であると認められる施設、機器等に教育訓練の機会の確保の観点から投資を行った結果、負債の総額の7分の1という要件を満たさなくなった場合は、負債の総額から当該施設、機器等に要した金額を控除して算定して差し支えない、としています。
派遣元事業主には、派遣労働者へのキャリア形成支援が求められています。その要請にこたえて研修施設や機材に投資した結果、財務の要件を満たさなくなるのでは筋が通りません。この取扱いは、その矛盾を埋めるために置かれているものと読めます。
教育訓練のための投資額を負債の総額から控除して算定できます。
📌 控除できる金額の範囲は限定されている
ただし、教育訓練に関係する支出なら何でも引ける、というわけではありません。要領は、当該施設、機器等に要した金額に該当するものを次のように限定しています。
派遣元事業主が自ら雇用する派遣労働者を主たる対象として行う教育訓練に必要な土地の購入、または教室や実習場等の建物の新設もしくは増改築に要した金額。そして、その教育訓練に必要な機器や備品等の購入に要した金額です。
さらに条件があります。満了する許可の有効期間中に購入または新設もしくは増改築した土地、建物、機器、備品等に係る金額のうち、申請に添付する貸借対照表の有形固定資産として記載されている金額に限る、とされています。
したがって、外部の研修サービスへの支払いや、講師への報酬といった費用は対象になりません。有形固定資産として計上されているかどうかが分かれ目です。
📌 添付する書類
控除を主張する場合、金額の確認のために書類の添付が必要です。要領が挙げているのは次のとおりです。
土地または建物の購入であれば売買契約書の写しと領収証の写し。建物の新設または増改築であれば請負契約書の写しと領収証の写し。機器や備品等の購入であれば領収証の写し。
あわせて、法人であれば固定資産の取得および処分ならびに減価償却費の明細書または固定資産台帳の写しと、法人税法施行規則別表16の写しが必要です。個人の場合は青色申告の区分に応じて求められる書類が変わります。
領収証を保管していない、固定資産台帳に載せていない、という状態では主張ができません。研修施設や機材に投資したときは、その時点で書類をまとめておいてください。
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📌 もう1つの取扱いは、対象が限られている
更新の場面のもう1つの取扱いが、小規模な派遣元事業主に対する当分の間の措置です。1つの事業所のみを有し、常時雇用している派遣労働者が10人以下である中小企業事業主について、基準資産額1,000万円以上、負債の総額の7分の1以上、現金・預金800万円以上とするものです。
この措置は、誰でも使えるわけではありません。要領は対象を限定しており、平成28年9月30日以降は、改正法附則6条1項の規定により引き続き行うことができることとされ、平成27年9月30日以降、暫定的な配慮措置により許可を受けて労働者派遣事業を行っている者、およびそれ以外の者で平成27年9月30日から平成28年9月29日までの間に、暫定的な配慮措置により新規許可または許可の更新を受けて労働者派遣事業を行っている者からの申請に限る、としています。
つまり、これから新しく派遣事業を始める会社や、通常の基準で許可を受けた会社は使えません。過去の経過措置を引き継いでいる事業主のための取扱いです。金額だけを見て使えると考えると、申請の段階でつまずきます。
なお、常時雇用している派遣労働者の人数は、過去1年間の月末における派遣労働者の平均人数で判断され、様式第17号による報告で確認されます。常用換算数ではありません。
📌 更新では合意された手続が使える
更新の場面で使えるもう1つの道が、合意された手続です。
要領は、許可の有効期間の更新については、日本公認会計士協会が平成30年12月20日付けで公表した労働者派遣事業等の許可審査に係る中間または月次決算書に対する合意された手続業務に関する実務指針にもとづいて公認会計士または監査法人が実施した合意された手続業務による中間決算または月次決算でも可能とする、としています。
決算後に増資などで資産が増えているのであれば、この道を使えます。実施する手続をあらかじめ合意しますので、範囲と費用の見通しが立てやすいのが利点です。
教育訓練投資の控除で足りるのか、中間決算まで必要なのか。この見極めは、決算書と固定資産台帳を並べれば早い段階でつきます。満了日の4か月前には確認しておくことをおすすめします。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. なりません。基準資産額2,000万円に事業所の数を乗じた額以上、負債の総額の7分の1以上、現金・預金1,500万円に事業所の数を乗じた額以上という要件は、新規の許可と同じです。
A. 引けません。対象は、教育訓練に必要な土地の購入、教室や実習場等の建物の新設または増改築、教育訓練に必要な機器や備品等の購入に要した金額で、しかも貸借対照表に有形固定資産として記載されている金額に限られます。外部研修への支払いなどの費用は対象外です。
A. 当分の間の措置ですが、対象が限定されています。要領は、平成27年9月30日以降に暫定的な配慮措置により許可を受けている者などからの申請に限る、としています。これから新たに許可を受ける会社は使えません。
A. 有効期間が満了する日の3か月前までです。中間決算や月次決算を用意する場合は、そこからさらに時間が必要ですので、満了日の4か月前には状況を確認してください。
A. 実施する手続をあらかじめ合意しますので、作業の範囲が明確になり、費用と期間の見通しが立てやすくなります。認められているのは、日本公認会計士協会の実務指針にもとづいて実施されたものです。
📄 まとめ
労働者派遣事業の許可は新規で3年、更新後は5年です。更新申請は有効期間の満了日の3か月前までに行います。
更新では、教育訓練のために既に利用されているか1年以内に利用することが確実な施設、機器等への投資額を、負債の総額から控除して算定できます。
控除できるのは、有効期間中に取得し、貸借対照表に有形固定資産として記載されている金額に限られます。契約書や領収証の写しの添付が必要です。
小規模事業主の当分の間の措置は、過去の暫定的な配慮措置を引き継いでいる事業主に限られます。更新では合意された手続実施結果報告書も認められます。
⚖ 本記事の根拠
- 労働者派遣法10条1項および4項(許可の有効期間は3年、更新後は5年)、同条2項(更新)
- 労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 更新前後の許可内容の同一性の判断(教育訓練のために既に利用されているか1年以内に利用することが確実であると認められる施設、機器等に投資を行った結果、要件を満たさなくなった場合は、負債の総額から当該施設、機器等に要した金額を控除して算定して差し支えない)
- 同要領 第3(控除の対象は、満了する許可の有効期間中に購入または新設もしくは増改築した土地、建物および機器、備品等に係る金額のうち、貸借対照表の有形固定資産として記載されている金額に限る)
- 同要領 第3(1つの事業所のみを有し、常時雇用している派遣労働者が10人以下である中小企業事業主の財産的基礎に関する当分の間の措置。基準資産額1,000万円以上、負債の総額の7分の1以上、現金・預金800万円以上。対象は平成27年9月30日以降に暫定的な配慮措置により許可を受けている者等からの申請に限る)
- 同要領 第3 許可の有効期間の更新(合意された手続業務による中間決算または月次決算でも可能とする)
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。