決算書で計算したら、基準資産額が2,000万円に届かなかった。派遣の許可の相談で、いちばん多い場面です。
ここであきらめる必要はありません。審査で見られるのは申請の時点であり、決算日のあとに資産が増えているなら、その事実を示す道が要領に用意されています。
この記事では、資産要件を満たさないときの打ち手を3つに整理し、更新申請でだけ使える取扱いまで説明します。
- 審査で見られるのが申請の時点であること
- 基準資産額を増やす方法と、効き方の違い
- 事業所の数を見直すという選択
- 決算後の増加を申し立てる手順と要件
- 更新申請で使える教育訓練投資の取扱い
この記事の見出し
📌 まず、いつの数字で見られるかを確かめる
決算書で計算したら基準資産額が足りなかった。この時点であきらめる必要はありません。審査で見られるのは申請の時点であり、直近の決算がそのまま結論になるわけではないからです。
厚生労働省の要領は、基準資産額または自己名義の現金・預金の額が増加する旨の申し立てがあったときの取扱いを定めています。決算日のあとに資産が増えているなら、その事実を示す道が用意されています。
つまり、まず確認すべきは2つです。1つは、いまの残高で計算したら要件を満たすのか。もう1つは、許可の有効期間の満了日または事業開始の予定日まで、どれだけ時間があるのか。この2つで、選べる打ち手が決まります。
打ち手は大きく3つ。組み合わせて使うこともできます。
📌 打ち手1 基準資産額そのものを増やす
いちばん確実なのは、決算日までに基準資産額を増やしておくことです。方法はいくつかあります。
増資は、払い込まれた金額がそのまま資産と純資産を増やしますので、基準資産額と現金・預金の両方に効きます。役員からの借入金がある場合は、その借入金を資本に振り替えることで負債が減り、基準資産額が増えます。ただし現金・預金は増えませんので、3つ目の要件には効きません。
債務の免除を受けた場合も負債が減りますので、基準資産額は増えます。免除益に対する課税が生じますので、税負担とあわせて検討してください。
利益の積み上げも当然に基準資産額を増やしますが、決算日までに間に合うかどうかが問題になります。決算日の3か月前になって気づくのでは遅い、というのが実務の感覚です。
📌 打ち手2 事業所の数を見直す
基準資産額も現金・預金も、事業所の数を乗じた額です。2事業所であれば基準資産額4,000万円、現金・預金3,000万円が必要になります。
実態として派遣事業を行っていない事業所が許可の対象に含まれているのであれば、その事業所を廃止することで必要額は下がります。1事業所減らすだけで、必要な基準資産額が2,000万円、現金・預金が1,500万円下がる計算です。
新しく事業所を出す予定がある場合は、その時期を申請のあとにずらす、という選択もあります。開設のタイミングで要件が引き上がりますので、申請の前後どちらに置くかで見え方が変わります。
ただし、事業所の廃止は営業体制の話でもあります。数字のためだけに動かすと、あとで別の問題が出ます。
📌 打ち手3 決算後の増加を申し立てる
決算日のあとに増資をした、あるいは利益が積み上がっている。この場合は、中間決算または月次決算で判断してもらうことができます。
要領は、基準資産額または自己名義の現金・預金の額が増加する旨の申し立てがあったときは、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限り、基準資産額、負債の総額および自己名義の現金・預金の額のいずれについても当該中間決算または月次決算により確認するものとする、としています。
ここで押さえておきたいのは、3つの数字がまとめて置き換わるという点です。基準資産額だけを新しい日付で見て、負債は決算のままにする、という都合のよい使い方はできません。
許可の有効期間の更新申請であれば、監査証明のほかに合意された手続実施結果報告書でも認められています。要領は、日本公認会計士協会が公表した実務指針にもとづいて公認会計士または監査法人が実施した合意された手続業務による中間決算または月次決算でも可能とする、と定めています。新規の許可申請ではこの取扱いはありませんので、監査証明が必要です。
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📌 更新申請なら、もう1つ使える取扱いがある
許可の有効期間の更新の場面には、教育訓練への投資についての取扱いがあります。
要領は、教育訓練のために既に利用されているか1年以内に利用することが確実であると認められる施設、機器等に教育訓練の機会の確保の観点から投資を行った結果、要件を満たさなくなった場合は、負債の総額から当該施設、機器等に要した金額を控除して算定して差し支えない、としています。
対象になるのは、派遣元事業主が自ら雇用する派遣労働者を主たる対象として行う教育訓練に必要な土地の購入、教室や実習場等の建物の新設や増改築に要した金額、その教育訓練に必要な機器や備品等の購入に要した金額です。しかも、満了する許可の有効期間中に取得したもので、貸借対照表に有形固定資産として記載されている金額に限られます。
研修施設に投資したせいで負債比率の要件を満たさなくなった、という会社は、この取扱いを確認する価値があります。売買契約書や領収証の写しなどの添付が必要です。
📌 やってはいけないこと
申請の直前に第三者から資金を借り入れて口座に入れ、許可が下りたら返す。こうした対応は避けてください。
借入れで入れた資金は、現金・預金を増やすと同時に負債も増やします。基準資産額は変わらず、負債の総額が増えることで7分の1の要件はむしろ厳しくなります。数字の上でも効果は限定的です。
そもそも資産の要件は、派遣労働者への賃金支払いを担保するために置かれています。申請のためだけの資金は、この趣旨に沿いません。中間決算や月次決算に対して公認会計士が手続を実施する場面では、期末前後の資金の動きも確認の対象になります。
📌 満了日から逆算する
許可の有効期間の更新申請は、有効期間が満了する日の3か月前までに行う必要があります。中間決算や月次決算を作って報告書を得るには、そこからさらに時間が必要です。
月次決算が組めている会社であれば、残高証明書の取得と手続の実施で数週間。記帳が追いついていない会社では、帳簿の整備から始めることになります。満了日の4か月前には状況を把握しておきたいところです。
新規の許可申請の場合も、事業開始の予定日から逆算します。労働局の審査には一定の期間がかかりますので、資産の要件を満たす見通しは早めに立ててください。
決算書と現在の残高を拝見すれば、どの打ち手が使えるかは早い段階で見立てが立ちます。中間決算の整備から報告書の作成まで対応します。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の監査証明と合意された手続に対応している公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。業務の内容と進め方は労働者派遣・有料職業紹介の監査証明のページにまとめています。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 中間決算または月次決算で判断してもらうことができます。要領は、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限り確認する、としています。更新申請であれば合意された手続実施結果報告書でも認められます。
A. 負債が減りますので基準資産額は増えます。ただし現金・預金は増えませんので、1,500万円に事業所の数を乗じた額という3つ目の要件には効きません。3つの要件をそれぞれ確認してください。
A. おすすめしません。借入れは現金・預金と同時に負債も増やしますので、基準資産額は変わらず、負債の総額の7分の1という要件はむしろ厳しくなります。
A. 下がります。基準資産額は1事業所あたり2,000万円、現金・預金は1事業所あたり1,500万円ですので、1つ減らせばその分だけ必要額が下がります。ただし営業体制への影響もあわせて判断してください。
A. 許可の有効期間の更新の場面では、教育訓練のための施設や機器等への投資により要件を満たさなくなった場合に、負債の総額からその金額を控除して算定して差し支えないとする取扱いがあります。対象になる範囲と添付書類が定められていますので、要領をご確認ください。
📄 まとめ
資産要件は申請の時点で判断されます。直近の決算で足りなくても、決算後に増えているなら申し立てができます。
打ち手は3つです。基準資産額そのものを増やす、事業所の数を見直す、決算後の増加を中間決算または月次決算で示す。
3つ目を選ぶ場合、新規の許可申請では監査証明が必要です。許可の有効期間の更新申請では、合意された手続実施結果報告書でも認められます。
更新申請では、教育訓練のための施設や機器等への投資額を負債の総額から控除できる取扱いがあります。研修施設に投資した会社は確認してください。
⚖ 本記事の根拠
- 労働者派遣法7条1項4号(申請者が当該事業を的確に遂行するに足りる能力を有するものであること)
- 労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3(d)(基準資産額または自己名義の現金・預金の額が増加する旨の申し立てがあったときは、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算または月次決算による場合に限り、基準資産額、負債の総額および自己名義の現金・預金の額のいずれについても確認する)
- 同要領 第3 許可の有効期間の更新(日本公認会計士協会が平成30年12月20日付けで公表した実務指針にもとづいて公認会計士または監査法人が実施した合意された手続業務による中間決算または月次決算でも可能とする)
- 同要領 第3 更新前後の許可内容の同一性の判断(教育訓練のために利用される施設、機器等への投資により要件を満たさなくなった場合は、負債の総額から当該施設、機器等に要した金額を控除して算定して差し支えない)
- 労働者派遣法10条2項(許可の有効期間の更新)
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。