株価算定書の構成と読み方|日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

M&Aや第三者割当増資、株式の譲渡などで、公認会計士や評価機関から「株価算定書」を受け取る機会があります。ところが、算定書を受け取った経営者の多くは、結論の金額だけを見て終わってしまいがちです。算定書には、その金額がどのような前提と手法で導かれたのかが書かれており、そこを読まなければ、金額の意味や使い方を誤るおそれがあります。

結論からいえば、株価算定書は「目的・評価基準日」「前提条件と利用の制限」「評価手法の選定理由」「主要なインプットと感応度」の順に読むのがおすすめです。日本公認会計士協会の経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」は、算定書(評価報告書)の記載事項や評価手法の考え方を示しており、算定書を読むときの共通の物差しになります。

企業価値評価ガイドラインとは

企業価値評価ガイドラインは、日本公認会計士協会が公表した経営研究調査会研究報告第32号です。平成19年5月16日に公表され、平成25年7月3日に改正されています。公認会計士が企業価値評価業務を行う際の実務上の指針として、評価の考え方、評価アプローチと評価法、報告書の記載事項などをまとめています。

構成は、Ⅰ総論、Ⅱ企業価値評価基本ガイドライン、Ⅲ企業価値評価における価値形成要因、Ⅳ評価アプローチと評価法、Ⅴ取引目的の企業価値評価業務、Ⅵ裁判目的の企業価値評価業務、Ⅶ今後の企業価値評価業務と検討課題、Ⅷ書式集の8章です(図1)。取引目的と裁判目的で章を分けていることからもわかるように、評価の目的によって業務の進め方や報告書の書き方が変わります。

なお、このガイドラインは研究報告であり、算定書の様式を法令のように強制するものではありません。ただ、実務で広く参照されているため、算定書を読む側にとっても、記載が十分かどうかを確かめる目安になります。

ガイドラインの構成(全8章)Ⅰ 総論Ⅱ 基本ガイドラインⅢ 価値形成要因Ⅳ 評価アプローチと評価法Ⅴ 取引目的の評価業務Ⅵ 裁判目的の評価業務Ⅶ 今後の業務と検討課題Ⅷ 書式集平成19年5月16日公表、平成25年7月3日改正

図1 企業価値評価ガイドラインは、総論から書式集までの8章で構成されています。

ガイドラインのⅤ章(取引目的)とⅥ章(裁判目的)では、それぞれの目的に応じた業務の進め方が示されています。取引目的の評価は依頼人の意思決定を補助するためのものであるのに対し、裁判目的の評価では、当事者や裁判所との協議のうえで決められた前提事項を鑑定書に記載するなど、手続が異なります。算定書を読むときは、まず自分が手にしている報告書がどちらの目的で作られたものかを確かめましょう。株式の価格が裁判で争われた例については非流動性ディスカウントとコントロールプレミアムで扱っています。

株価算定書の一般的な構成

株価算定書の構成は算定人によって異なりますが、ガイドラインが報告書の記載事項として示す内容に沿うと、おおむね図2のようになります。表紙には報告書の名称、日付、宛先、算定人が書かれ、続いて算定の目的、対象、評価基準日、算定結果の要約が示されます。

その後に、前提条件や制約条件、利用の制限が書かれ、採用した評価アプローチと評価法、その選定理由、算定の過程が続きます。最後に、事業計画や類似会社のデータなどの添付資料が付きます。依頼人や評価対象会社との利害関係についての記載も、確認しておきたい事項です。

報告書の名称には、評価書、評価報告書、算定書、算定報告書、検討書、鑑定書などがあります。名称の違いは、次に述べる業務の種類の違いと関係しています。

株価算定書の一般的な構成表紙・宛先・算定人・日付算定の目的・対象・評価基準日算定結果の要約前提条件・制約条件・利用の制限評価アプローチ・評価法と選定理由、算定過程添付資料(事業計画・類似会社データ等)

図2 結論の要約から始まり、前提条件、評価手法と算定過程、添付資料へと続くのが一般的な構成です。

記載事項 主な内容 読むときの確認点
目的・対象・評価基準日 何のために、どの株式を、いつ時点で評価したか 自社の利用目的と一致しているか
算定結果の要約 評価法ごとの結果と総合評価 単一の金額かレンジか
前提条件・制約条件 提供情報の扱い、保証ではない旨 検証していない事項は何か
評価法と選定理由 採用した手法と採用しなかった理由 会社の状況に合った手法か
算定過程・添付資料 事業計画、割引率、倍率、修正項目 主要な前提の根拠は何か

算定・検討・鑑定:どの業務の報告書かを確かめる

ガイドラインでは、「評価」を総称として使い、業務の内容に応じて区別しています(図3)。依頼人の意思決定の参考として価値を算定するのが算定で、その報告書が算定書です。他者が行った算定の結果について合理性を検討するのが検討で、報告書は検討書です。裁判所の命令によって行うのが鑑定で、報告書は鑑定書です。

算定書は、原則として依頼人に対して報告するものです。たとえば、売主が依頼した算定書は、売主の意思決定の参考資料として作られています。買主がそれを受け取った場合でも、買主のために作られたものではない点を理解しておく必要があります。買主の立場で価格の妥当性を確かめたいなら、自ら算定を依頼するか、受け取った算定書の検討を依頼する方法があります。

取引目的の評価では、算定結果は依頼人が意思決定するための参考資料であり、最終的な取引価格は当事者の交渉で決まります。算定書の金額が、そのまま取引価格になるわけではありません。

算定・検討・鑑定の違い算定依頼人の意思決定の参考となる価値を算定→ 算定書検討他者の算定結果の合理性を検討→ 検討書鑑定裁判所の命令により価値を鑑定→ 鑑定書どの業務の報告書かで、読み方と使い方が変わります

図3 「評価」は総称で、業務の内容に応じて算定書・検討書・鑑定書などの報告書が作られます。

評価アプローチと評価法の選定理由を読む

ガイドラインは、評価法をインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの3つに分類しています(図4)。インカム・アプローチは、将来期待される利益やキャッシュ・フローに基づいて評価する方法で、フリー・キャッシュ・フロー法(DCF法)、調整現在価値法、残余利益法、配当還元法、利益還元法があります。

マーケット・アプローチは、上場している同業他社や類似の取引事例などと比較して評価する方法で、市場株価法、類似上場会社法(倍率法)、類似取引法、取引事例法があります。ネットアセット・アプローチは、貸借対照表の純資産に注目する方法で、簿価純資産法、時価純資産法(修正簿価純資産法)があります。各手法の詳細はDCF法の基本、類似会社比較法(マルチプル法)、純資産法(時価純資産法)で解説しています。

算定書を読むときは、どの手法を採用したかだけでなく、なぜその手法を選んだのか、なぜ他の手法を採用しなかったのかの説明を確かめます。たとえば、成長段階で赤字の会社に純資産法だけを使っていれば、将来の収益力が反映されていない可能性があります。手法の選び方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかも参考にしてください。

3つの評価アプローチと主な評価法インカム・アプローチマーケット・アプローチネットアセット・アプローチフリー・キャッシュ・フロー法調整現在価値法残余利益法配当還元法・利益還元法市場株価法類似上場会社法(倍率法)類似取引法取引事例法簿価純資産法時価純資産法(修正簿価純資産法)将来の収益・市場の評価・純資産のどこに注目するかの違いです

図4 ガイドラインは、インカム・マーケット・ネットアセットの3つのアプローチに評価法を分類しています。

また、上場会社の株式であれば市場株価法が重視されますが、非上場会社では市場株価がないため、インカム・アプローチやマーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチを組み合わせることが一般的です。会社の成長段階や評価の目的に照らして、選ばれた手法の組み合わせが自然かどうかを考えながら読みましょう。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

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評価結果のまとめ方:単独法・併用法・折衷法

複数の評価法を適用した場合、その結果をどうまとめるかも算定書の重要な部分です。ガイドラインは、1つの評価法だけを適用する単独法、複数の評価法を適用して一定の幅をもって算出されたそれぞれの評価結果の重複等を考慮しながら評価結果を導く併用法、それぞれの評価結果に一定の折衷割合を適用して加重平均値から評価結果を導く折衷法を示しています。

架空の例で考えます。発行済株式10,000株の会社について、DCF法で5.40〜6.07億円、類似会社比較法で4.8〜6.0億円、時価純資産法で4.2億円という結果が出たとします(図5)。併用法で、DCF法と類似会社比較法の重なる範囲を重視すれば、評価結果は5.40〜6.00億円、1株あたり54,000〜60,000円です。

折衷法で、DCF法の中央値5.735億円に50%、類似会社比較法の中央値5.4億円に30%、時価純資産法4.2億円に20%の割合を適用すると、2.8675+1.62+0.84=5.3275億円、1株あたり約53,275円となります(図6)。時価純資産法の結果に割合を置いた分、併用法の範囲より低くなっています。どちらのまとめ方を採り、なぜその割合にしたのかの説明が、結論を読み解く鍵になります。重み付けの考え方は評価手法の併用と重み付けで詳しく扱っています。

評価結果のレンジ(架空例、単位:億円)DCF法類似会社比較法時価純資産法4.24.85.46.06.07重なる範囲 5.40〜6.00

図5 DCF法5.40〜6.07億円、類似会社比較法4.8〜6.0億円、時価純資産法4.2億円の例です。重なる範囲は5.40〜6.00億円です。

併用法と折衷法複数の評価法の結果併用法重なりを考慮して5.40〜6.00億円折衷法(50:30:20)加重平均で約5.33億円

図6 併用法は評価結果の重なりを考慮して導き、折衷法は一定の折衷割合で加重平均して導きます。

評価法 評価結果 折衷割合 加重後
DCF法 5.40〜6.07億円(中央値5.735億円) 50% 2.8675億円
類似会社比較法 4.8〜6.0億円(中央値5.4億円) 30% 1.62億円
時価純資産法 4.2億円 20% 0.84億円
折衷法による結果 ― 100% 5.3275億円(1株約53,275円)

主要なインプットと感応度分析を読む

算定書の結論は、事業計画、割引率(WACC)、永久成長率、類似会社の倍率など、いくつかの主要なインプットに大きく左右されます。そのため、多くの算定書には、主要な前提を変えたときに結論がどう動くかを示す感応度分析が付いています。

図7は、翌年度のフリー・キャッシュ・フローを0.6億円、ネットデットを0.6億円とした単純なモデルで、WACCと永久成長率を変えたときの株式価値です。WACC10%、成長率0%では5.40億円ですが、WACCを1%下げると6.07億円、成長率を1%上げても6.07億円になります。WACC9%・成長率1%なら6.90億円、WACC11%・成長率0%なら4.85億円で、前提の小さな違いで2億円以上の幅が生まれます。

算定書を読むときは、結論の金額が感応度分析のどのあたりにあるのか、採用したWACCや成長率の根拠が示されているかを確かめましょう。割引率と継続価値については割引率(WACC)の求め方、継続価値(ターミナルバリュー)の計算を参照してください。

感応度分析:WACCと永久成長率(架空例、株式価値・億円)WACC\成長率0%1%9%6.076.9010%5.406.0711%4.855.40株式価値=0.6÷(WACC−成長率)−0.6

図7 翌年度FCF0.6億円、ネットデット0.6億円とした単純なモデルです。前提の小さな変化で結論が大きく動くことがわかります。

感応度分析が付いていない算定書を受け取った場合は、算定人に主要な前提を変えたときの結果を依頼するか、自社で簡単な試算をしてみるとよいでしょう。本文の例のように、フリー・キャッシュ・フローを割引率と成長率の差で割る単純な式でも、結論がどの程度動くかの感覚はつかめます。結論が前提に敏感な場合は、単一の金額ではなくレンジで捉え、交渉や意思決定の幅として使うことが大切です。

前提条件と利用の制限を必ず確認する

算定書を読む順番としては、結論より先に、目的・評価基準日、前提条件、手法の選定理由を確かめるのがおすすめです(図8)。特に前提条件の欄は読み飛ばされがちですが、算定書の性質を理解するうえで最も重要な部分です。

ガイドラインでは、取引目的の評価について、結論が信頼性の保証や意見の表明ではない旨を報告書に記載することとしています。また、算定人は、依頼人から提供された情報の真実性・正確性・網羅性について、原則として検証する義務を負うものではないとされています(図9)。つまり、事業計画や財務数値に誤りがあれば、算定結果もその影響を受けます。財務数値の確かめが必要な場合は、財務デューデリジェンスなど別の手続が必要です。

さらに、算定書には利用目的や開示先の制限が書かれています。たとえば、第三者割当増資の発行価格の検討のために作られた算定書を、別の取引や税務上の時価の説明に流用すると、目的や評価基準日が合わず、説明として不十分になるおそれがあります。上場前の株価の考え方は上場準備の資本政策、上場前の株価の決め方も参考にしてください。

算定書を読む順番目的・評価基準日前提条件・制約手法の選定理由主要なインプット結論と感応度特に「前提条件」と「利用の制限」は必ず確認します

図8 結論の金額から読むのではなく、目的と前提から読むと、結論の意味を正しく理解できます。

前提条件で確認すること提供情報の真実性・正確性・網羅性は原則として検証しない結論は信頼性の保証や意見の表明ではない事業計画は依頼人(経営者)が作成したもの目的以外の利用・第三者への開示の制限利害関係の有無の記載もあわせて確認します

図9 算定書は保証や意見表明ではなく、依頼人から提供された情報の正確性を原則として検証していない点を理解して読みます。

株価算定を依頼するときのポイント

算定書を読む力は、算定を依頼するときにも役立ちます。依頼の段階で、算定の目的、評価基準日、評価の対象(普通株式か種類株式か、何株か)、報告書の提出先と利用の範囲をはっきりさせておくと、目的に合った算定書を受け取れます。

また、算定人に渡す資料の準備も大切です。直近数期の決算書と税務申告書、月次の試算表、事業計画とその前提、株主名簿、過去の株式の取引の記録などが基本的な資料です。事業計画は算定結果に大きく影響するため、計画の前提(売上の伸び、利益率、設備投資)を説明できるようにしておきます。事業計画の確かめ方は事業計画の検証を参照してください。

当事務所の株価算定は、一括30万〜80万円(税別)、期間は2〜6週間が目安です。評価の目的や会社の規模、採用する評価法の数によって変わるため、事前にお見積りをお出しします。

依頼時に決めること 内容 決めないと起こること
目的 M&A、増資、株式譲渡、SOの発行など 手法や前提が目的に合わない
評価基準日 直近の決算日や取引の予定日 取引時点とずれて説明できない
対象 株式の種類と株数、支配権の有無 ディスカウント等の扱いがあいまいになる
利用の範囲 提出先(税務署、相手方、取締役会など) 目的外の利用で説明が不十分になる
  • 算定書の目的・対象・評価基準日が、自社の利用目的と一致しているか
  • 算定・検討・鑑定のどの業務の報告書かを確かめたか
  • 採用した評価法と、採用しなかった評価法の理由を読んだか
  • 併用法・折衷法などのまとめ方と、その理由を確かめたか
  • 主要なインプットと感応度分析で、結論の幅を把握したか
  • 前提条件(検証していない事項)と利用の制限を確認したか

よくある質問

Q1. 株価算定書の金額は、そのまま取引価格になりますか。

取引目的の算定書は、依頼人の意思決定の参考資料であり、最終的な取引価格は当事者の交渉で決まります。算定書の金額やレンジは、交渉の根拠や判断材料として使います。

Q2. 算定書があれば、財務数値の正しさも確かめられたことになりますか。

なりません。算定人は、提供された情報の真実性・正確性・網羅性を原則として検証する義務を負わないとされています。財務数値を確かめるには、財務デューデリジェンスや監査などの別の手続が必要です。

Q3. 相手方から受け取った算定書は、どう扱えばよいですか。

算定書は原則として依頼人のために作られたものです。自社の立場で妥当性を確かめたい場合は、前提条件や手法の選定理由を読み込んだうえで、必要に応じて別の専門家に検討を依頼する方法があります。

最初の一歩は、算定書の「前提条件」の欄を読むことです

算定書を受け取ったら、結論のページをめくる前に、目的・評価基準日と前提条件の欄を読みましょう。何が検証され、何が検証されていないのかがわかれば、結論の金額をどこまで頼ってよいかが見えてきます。手法の全体像は企業価値評価(バリュエーション)とは?手法と進め方の全体像で確認できます。

まとめ

株価算定書は、結論の金額だけでなく、目的・評価基準日、前提条件と利用の制限、評価手法の選定理由、主要なインプットと感応度を読むことで、はじめて正しく使えます。日本公認会計士協会の経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」は、報告書の記載事項や評価アプローチ、併用法・折衷法などの考え方を示しており、算定書を読むときの物差しになります。

数値例はすべて架空のものです。実際の算定書の内容は、評価の目的や会社の状況によって異なります。読み方に迷う点があれば、算定人に前提や根拠を確認しましょう。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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