ストックオプションの評価|行使価額の決め方と公正な評価単価

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

ストックオプションを設計するとき、最初に決めなければならないのが行使価額です。行使価額を低くすれば役員・従業員の利益は大きくなりますが、低すぎると税制適格の要件を外れ、行使時に給与所得として課税されるおそれがあります。会計上の費用の額も、行使価額と株価の評価額の関係で変わります。

結論からいえば、税制適格ストックオプションの行使価額は「付与契約時の1株当たりの価額」以上にする必要があり、未上場会社はその株価を、原則方式(売買実例・類似会社・純資産価額等)のほか、2023年7月の通達改正により一定の条件の下で財産評価基本通達の例による特例方式でも算定できます。直近の増資は売買実例として扱われるため、どちらの方式を使えるかを先に確かめることが重要です。

ストックオプションで価格が問われる3つの場面

ストックオプション(新株予約権)の「価格」は、税務・会計・資本政策の3つの場面で問題になります。税務では税制適格の要件として行使価額と付与契約時の株価の関係が問われ、会計では付与したオプションの価値を費用として計上します。資本政策では、行使価額×株数が将来の払込額となり、潜在株式による希薄化の大きさにも関わります。

本記事は、このうち特に誤りやすい税務上の行使価額の決め方と、会計上の評価を中心に解説します。税制適格ストックオプションの制度全体は既存記事の税制適格ストックオプションもご覧ください。

ストックオプションで「価格」が問われる3つの場面税務行使価額 ≧付与契約時の株価会計公正な評価単価(未公開は本源的価値)資本政策行使価額×株数=将来の払込額同じ「株価」でも、目的ごとに求め方が違う

図1 税務・会計・資本政策で見る数字が違う

税制適格ストックオプションの要件と課税の流れ

租税特別措置法29条の2の税制適格ストックオプションは、要件を満たせば付与時・行使時には課税されず、行使で取得した株式を売却したときに譲渡所得として課税されます。要件を満たさない(税制非適格の)無償のストックオプションは、行使時に、行使時の株価と行使価額の差額(経済的利益)が給与所得等として課税されます。

主な要件の一つが行使価額です。国税庁の「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(令和5年5月作成、令和6年11月改訂)は、1株当たりの権利行使価額が、付与に係る契約の締結時における1株当たりの価額に相当する金額以上であることを要件として示しています。そのほか、年間の権利行使価額の合計額の限度、行使期間、株式の保管の委託(または発行会社による管理)などの要件があります。

税制適格ストックオプションの課税の流れ付与時課税なし行使時課税なし(要件充足)株式売却時譲渡所得として課税

図2 付与時・行使時は課税されず、売却時に譲渡所得として課税

項目 税制適格 税制非適格(無償型)
付与時 課税なし 課税なし
行使時 課税なし(要件充足が前提) 経済的利益(行使時の株価−行使価額)に給与所得等として課税
株式売却時 (売却価額−行使価額)に譲渡所得として課税 (売却価額−行使時の株価)に譲渡所得として課税
行使価額の要件 付与契約時の1株当たりの価額以上 要件なし(低い価額も設定可能)

付与契約時の株価はどう算定するか

国税庁のQ&A(問7)は、付与契約時の株価は所得税基本通達23~35共-9の例によって算定する(原則方式)とし、取引相場のない株式である場合には、一定の条件の下、財産評価基本通達の例によって算定することもできる(特例方式)と説明しています。

原則方式では、売買実例があるものは適正と認められる売買価額、類似会社があるものはその価額に比準した価額、どちらもないものは純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額を用います。Q&Aは、売買実例とは最近(概ね6月以内)に売買の行われた株式をいい、1事例でも売買実例に当たること、増資は売買実例として取り扱うこと、新株予約権の発行や行使は売買実例に当たらないことを示しています。

付与契約時の株価の算定方法取引相場のない株式の付与契約時の株価原則方式所基通23~35共-9の例(売買実例・類似会社・純資産等)特例方式財産評価基本通達の例(一定の条件の下)

図3 国税庁Q&A(問7・問8)の整理

特例方式は、2023年(令和5年)7月の租税特別措置法通達の改正で明確化された取扱いです。財産評価基本通達の例により算定する場合の条件として、①新株予約権を与えられた者が発行会社にとって「中心的な同族株主」に該当するときは、発行会社を常に「小会社」に該当するものとして評価すること、②発行会社が土地や上場有価証券を持っているときは、純資産価額の計算で付与契約時の価額によること、③純資産価額の計算で評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除しないこと、が示されています。

種類株式(優先株式)を発行している会社では、Q&A(問9)のとおり、純資産価額から優先株式の優先分配額を控除し、その残額を優先株式を含む発行済株式総数で割って普通株式の1株当たりの価額を算定するなど、種類株式の内容を勘案して個別に普通株式の価額を算定します。詳しくは種類株式・優先株式の価値評価|残余財産の優先分配とウォーターフォールをご覧ください。

特例方式の3つの条件① 中心的な同族株主に該当するときは発行会社を常に「小会社」として評価② 土地・上場有価証券は付与契約時の価額で評価③ 純資産価額の計算で、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しない

図4 措置法通達(2023年7月改正)による取扱いの要旨

方式 根拠 株価の求め方 向いている場面
原則方式 所得税基本通達23~35共-9の例 売買実例価額→類似会社比準→純資産価額等の参酌 直近に第三者との増資・売買がある
特例方式 財産評価基本通達の例(措置法通達・2023年7月改正) 類似業種比準・純資産価額など(3つの条件付き) 取引相場のない株式で、条件に従って算定できる

Q&A(問10)は、この通達改正の前に税制適格の要件を満たす契約をしていた場合について、改正後に行使価額を引き下げる契約変更を行い、変更後の行使価額が要件を満たすときは、税制適格として認められると説明しています。通常は契約の変更で税制適格を外れるおそれがあるため、変更する場合はQ&Aの条件に沿っているかを確かめてください。

行使価額以外の税制適格の要件

行使価額を正しく決めても、他の要件を外れると税制適格になりません。国税庁のQ&A(問6)は、税制適格ストックオプションの主な要件として、発行会社の取締役等に無償で付与されたものであること、行使期間、年間の権利行使価額の合計額、行使価額、譲渡の禁止、会社法238条1項に定める事項に反しない株式の交付、行使により取得した株式の保管の委託(または発行会社による管理)を挙げています。

行使期間は、付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までが原則で、設立5年未満の非上場会社など一定の要件を満たす会社は15年とされています。保管の委託は、令和6年度改正で、譲渡制限株式について発行会社が管理する方法も認められました。上場前に付与して上場後に行使する場合は、証券会社への保管の委託の手配も必要になります。

要件 内容(Q&A問6の要旨)
付与対象者・無償 発行会社の取締役等に無償で付与されたもの
行使期間 付与決議の日後2年を経過した日から10年(一定の会社は15年)を経過する日まで
年間の権利行使価額 合計1,200万円以下(設立5年未満は2で除し、5年以上20年未満の一定の会社は3で除して判定)
行使価額 付与契約の締結時の1株当たりの価額相当額以上
譲渡の禁止 ストックオプションの譲渡が禁止されていること
株式の保管・管理 金融商品取引業者等への保管の委託、または発行会社による管理(譲渡制限株式)

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行使価額と年間権利行使価額の限度額

税制適格の要件には、年間の権利行使価額の合計額が1,200万円を超えないことがあります。令和6年度の税制改正で、付与決議の日において設立から5年未満の会社は行使価額を2で除した金額で、5年以上20年未満の会社(非上場であることなど一定の要件を満たすもの)は3で除した金額で判定することとされました。つまり実質的な上限は、それぞれ2,400万円、3,600万円です。

行使価額は、この限度額を通じて「1年に行使できる株数」に直結します。設立3年の会社で限度額を2,400万円とすると、行使価額500円なら年間4万8,000株まで、1,500円なら1万6,000株までです。行使価額が高いほど、1人が1年に行使できる株数は少なくなります。

行使価額によって年間に行使できる株数が変わる013,20026,40039,60052,800行使価額500円行使価額1,500円年間限度額÷行使価額=年間に行使できる株数の上限

図5 設立5年未満(限度額2,400万円として判定)の例(架空)

行使価額 1,200万円で判定(本来の上限) 2,400万円相当(設立5年未満) 3,600万円相当(5年以上20年未満の一定の会社)
500円 2万4,000株 4万8,000株 7万2,000株
1,500円 8,000株 1万6,000株 2万4,000株

税制適格と非適格で手取りはどう変わるか

架空の数値例で比べます。行使価額500円のストックオプションを1万株分行使し、上場後に1株3,000円で売却したとします。税制適格であれば、売却時に(3,000円−500円)×1万株=2,500万円が譲渡所得となり、所得税・住民税等の合計20.315%で約508万円(507万8,750円)の税額になります。

税制非適格(無償型)の場合は、行使時の株価と行使価額の差額が給与所得等として累進税率で課税され、しかも株式を売る前に税金が発生します。行使価額を1,500円に上げて税制適格を確実にした場合、譲渡所得は1,500万円、税額は約305万円(304万7,250円)です。行使価額を下げて非適格になるより、要件を満たす範囲で行使価額を決めるほうが、結果として手取りが大きくなることが多いのはこのためです。

税制適格と非適格の手取りの違い税制適格売却時に譲渡所得2,500万円×20.315%=約508万円税制非適格(無償型)行使時の経済的利益に給与所得として課税(累進税率)非適格では、株式を売る前に税金が発生する点にも注意

図6 行使価額500円・1万株・売却時3,000円の例(架空、住民税等を含む単純化した試算)

なお、信託型ストックオプションについては、国税庁のQ&A(問3)で、信託から役員等に交付された新株予約権の行使による経済的利益は給与所得として課税される旨が示されています。経緯は既存記事の信託型ストックオプションはなぜ給与課税かをご覧ください。

会計上の公正な評価単価と本源的価値

会計では、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」により、付与したストック・オプションの公正な評価額を、権利確定までの期間にわたって費用として計上します。公開企業は、ブラック・ショールズ式などの株式オプション価格算定モデルで公正な評価単価を見積ります。

未公開企業は、公正な評価単価に代えて、単位当たりの本源的価値(算定時点の株価の評価額と行使価額の差額)の見積りによることができます(同基準第13項)。税制適格を意識して行使価額を株価の評価額以上に設定すると、本源的価値はゼロとなり、費用は計上されません。ただし、上場後に付与するストック・オプションは公正な評価単価で評価するため、モデルの前提が重要になります。注記の書き方は既存記事のストック・オプションの注記の記載例を参考にしてください。

会計上の評価:公開企業と未公開企業公開企業公正な評価単価(ブラック・ショールズ等の株式オプション価格算定モデル)未公開企業単位当たりの本源的価値=株価の評価額 − 行使価額(マイナスならゼロ)行使価額を株価の評価額以上にすると本源的価値はゼロ

図7 企業会計基準第8号の考え方の要旨

ブラック・ショールズ式の結果は、株価の変動性(ボラティリティ)に大きく左右されます。株価1,000円・行使価額1,000円・予想残存期間5年・無リスク利子率0.5%・配当なしの架空例で、ボラティリティを40%、50%、60%と変えると、1個当たりの価値は約353円、431円、504円となります。予想残存期間を3年にすると、ボラティリティ50%で約340円です。上場直後は自社の株価データが少ないため、類似会社の株価からボラティリティを推定するのが一般的です。類似会社の選び方は類似会社の選び方と倍率の調整|上場会社が少ない業種での工夫が参考になります。

ボラティリティでオプションの価値は変わる0138.6277.1415.7554.3σ=40%σ=50%σ=60%1個当たりの価値(円)

図8 株価1,000円・行使価額1,000円・5年・無リスク利子率0.5%のBS式(架空)

ボラティリティ 予想残存期間 1個当たりの価値(BS式)
40% 5年 約353円
50% 5年 約431円
60% 5年 約504円
50% 3年 約340円

行使価額を決めるときの実務の手順

実務では、①直近6か月以内に増資や株式の売買がないかを確認し、②原則方式によるか特例方式によるかを決め、③付与契約時の株価を算定し、④年間限度額と付与株数の関係を確認し、⑤決議・契約・算定の記録を保存する、という順に進めます。直近に優先株式でVCから資金調達している場合は、その価格が普通株式の価格にどう影響するかを整理しておく必要があります。

ストックオプションの付与は、上場前の第三者割当増資と同じ時期に行われることが多く、価格の整合性が問われます。上場前の株価全体の考え方は上場前の株価の決め方|第三者割当増資の発行価格と税務上の時価、資金調達ラウンドの価格との関係は資金調達ラウンドのバリュエーション|プレマネー・ポストマネーとJ-KISSで解説しています。

行使価額を決めるまでの手順直近6か月の取引を確認原則か特例か方式を選ぶ株価を算定限度額と株数を確認決議・契約記録保存

図9 付与の決議前に確認する

なお、付与のたびに算定方式を変えると、後から価格の整合性を説明しにくくなります。同じ時期に複数回付与する場合や、上場準備の過程で何回かに分けて付与する場合は、どの方式で、どの基準日の財務数値を使ったかを付与の回ごとに一覧にしておくと、上場審査や税務調査の際にも説明がしやすくなります。

  • 付与契約日の直近6か月以内に増資・株式の売買がないか確認したか
  • 原則方式と特例方式のどちらで株価を算定するか決めたか
  • 特例方式の3つの条件(小会社扱い・時価・法人税額等不控除)に従ったか
  • 種類株式がある場合、優先株式への分配を考慮して普通株式の価額を算定したか
  • 年間権利行使価額の限度額(設立年数による判定)と付与株数を確認したか
  • 算定書・決議・付与契約書を保存し、会計上の評価(本源的価値)と整合させたか

よくある質問

Q1. 直近にVCが優先株式で増資しています。その価格が行使価額の下限になりますか?

増資は売買実例として扱われますが、優先株式と普通株式では権利内容が違います。原則方式では種類株式の内容の違いを考慮して普通株式の価額を考える必要があり、特例方式ではQ&A(問9)のように優先株式への分配額を控除して普通株式の価額を算定します。どちらの場合も算定の根拠を残してください。

Q2. 特例方式を使えば必ず株価は低くなりますか?

純資産価額が小さい会社では低くなることが多いですが、必ずではありません。また条件に従わずに算定した価額は特例方式として認められないため、算定の過程を記録しておくことが大切です。

Q3. 行使価額を株価より低くした場合、どうなりますか?

税制適格の要件を満たさず、行使時に経済的利益が給与所得等として課税されるおそれがあります。会計上も、未公開企業では本源的価値が生じて費用計上が必要になります。

Q4. 上場後に付与するストックオプションも同じ考え方ですか?

上場後は市場価格があるため、税務上の付与契約時の株価は市場の株価が基準になり、会計上も公正な評価単価(オプション価格算定モデル)で評価します。

最初の一歩は、直近の株式取引の洗い出しから

付与を予定している日から遡って6か月以内の増資、株式の譲渡、新株予約権の発行を一覧にしてください。売買実例があるかどうかで、使える算定方式と行使価額の下限が大きく変わります。

まとめ

税制適格ストックオプションの行使価額は、付与契約時の1株当たりの価額以上にする必要があります。未上場会社はその株価を原則方式で算定するほか、2023年7月の通達改正で認められた特例方式(財産評価基本通達の例、3つの条件付き)でも算定できます。行使価額は年間限度額を通じて行使できる株数にも影響し、会計上は未公開企業なら本源的価値で評価します。直近の増資の有無を確認し、方式の選択と算定の過程を記録しておくことが重要です。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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