※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
「社外取締役も増やしたし、委員会も設置した。それでも取締役会が機能しているか自信がない」。CGコードの2026年改訂を前に、取締役会事務局からこうした相談を受けることがあります。
結論からいえば、2026年改訂の「取締役会の機能強化」は、人数や比率といった新たな数値基準を設けるものではなく、取締役会の監督機能を質的に向上させることを目的としています。本記事では、取締役会が何を議論すべきかという問題意識から改訂の内容を整理し、議題の絞り込み、情報提供、実効性評価の見直し方を解説します。
この記事の見出し
2026年改訂で取締役会について何が変わったか
2026年改訂の主な改訂項目の一つが「取締役会の機能強化」です。成長投資の促進と並ぶ柱と位置付けられています。改訂前のコードに記載のあった取締役会の中核的な責務は原則に記載し、具体的な例示等の部分は解釈指針に移管したうえで、必要に応じて加筆が行われました。
あわせて、独立社外取締役の役割・責務の強調、質・数の確保、独立性確保の重要性が原則と解釈指針で示されました。議長や独立社外取締役を含めた取締役を支援する事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化を推進すべき旨や、リスク管理に関する取締役会の責任の強調も、改訂の内容に含まれています。
| 項目 | 改訂の主な内容 | 関連する原則 |
|---|---|---|
| 取締役会の責務 | 中核的な責務を原則に、具体例を解釈指針に整理 | 基本原則4、原則4-1〜4-3 |
| リスク管理 | 内部統制と全社的リスク管理体制の整備を独立の原則に | 原則4-4 |
| 独立社外取締役 | 役割・責務、質、数、独立性をそれぞれ明確化 | 原則4-8〜4-11 |
| 審議の活性化 | 情報提供と事務局機能の強化を推進 | 原則4-14 |
ここで重要なのは、今回の改訂が取締役会に新たな権限や義務を付与するものではないという点です。人数や社外取締役比率などの数値基準を設けるのではなく、取締役会が実効的に機能するためには何が必要かという観点から、その運営基盤を強化することに重点が置かれています。形式的な体制整備ではなく、企業価値向上を実現するための「監督機能の質」を高めることが求められているといえます。
改訂の背景にある「取締役会は何を議論すべきか」
2015年のコード策定以降、多くの上場会社で独立社外取締役の選任が進み、取締役会の実効性評価も定着しました。他方で、社外取締役が十分な情報を得られず形式的な議論に終始している例や、取締役会が個別案件の承認機関にとどまり、中長期的な経営課題について十分な議論が行われていない例も指摘されてきました。
わが国の取締役会では、個別案件の承認に多くの時間が費やされ、中長期的な経営課題について十分な議論を行うことが難しいとの指摘がありました。一方、欧米企業では、一定の権限を経営陣に委任し、取締役会は経営戦略、資本配分、CEOの評価・後継者計画、リスク管理など、企業価値に直結する事項に重点を置く運営が一般的といわれています。
図1 個別案件の承認が不要になるわけではありません。時間の配分を見直す視点の比較です。
今回の改訂は、わが国企業に対しても、個別案件の承認機関としての役割に加え、企業価値向上に向けた戦略的な監督機関としての機能を一層発揮することを期待するものです。基本原則4が掲げる三つの役割、すなわち企業戦略等の大きな方向性を示すこと、経営陣による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと、独立した客観的な立場から実効性の高い監督を行うことを、改めて運営の中心に据える必要があります。
図2 基本原則4が示す役割を、企業価値の向上に向けて並べました。
議題を絞り込む|執行への委任を見直す
取締役会が重要な戦略を議論する時間を確保するには、何を取締役会で決め、何を執行に任せるのかを整理することが出発点になります。そのためには、取締役会規程や権限委譲規程を見直し、執行側へ委任できる事項を整理することも重要な検討課題となります。
図3 委任の範囲は取締役会規程や権限委譲規程で定め、定期的に見直します。
もっとも、委任の範囲は機関設計によって異なります。監査役会設置会社では会社法上、重要な財産の処分や多額の借財など取締役会で決定すべき事項が定められており、委任できる範囲には限りがあります。監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社では、より広く委任できる仕組みがあります。法令上の制約を確認したうえで、付議基準の金額や対象を見直すことになります。
委任した事項についても、取締役会が関与をやめるわけではありません。定期的な報告を受け、全体の状況を監督できるようにしておくことが前提です。委任と報告をセットで設計することで、取締役会は個別の決裁から離れ、方向性と結果の監督に時間を使えるようになります。
年間アジェンダで中長期テーマを計画的に扱う
議題を絞り込んだうえで、中長期のテーマを年間でどう扱うかを計画します。決算や株主総会といった定例事項だけでなく、中期経営計画のレビュー、資本政策、人材戦略、サステナビリティ、サイバーセキュリティなどを、年間を通じて計画的に議論する機会を設けることが望ましい場合があります。
図4 決算や総会などの定例事項に加え、中長期のテーマを年間で計画的に扱う例です。
| 時期(例) | 重点テーマの例 | 準備する主な資料 |
|---|---|---|
| 第1四半期 | 総会の振り返り、後継者計画 | 議決権行使結果、対話の記録、候補者の育成状況 |
| 第2四半期 | 中期経営計画のレビュー、資本政策 | 事業別の収益性、投資の進捗 |
| 第3四半期 | 人材戦略、全社的リスクの評価 | 人的資本の指標、リスク評価の結果 |
| 第4四半期 | 実効性評価、次年度の計画 | 評価結果、前年の課題の改善状況 |
情報提供と審議の活性化(原則4-14)
社外取締役がその役割を十分に果たすためには、必要な情報を適時に入手できる環境が整備されていなければなりません。議案説明が取締役会当日に初めて行われるような運営では、社外取締役が十分に検討を行うことは困難です。
改訂後の原則4-14とその解釈指針は、こうした趣旨を踏まえたものと考えられます。解釈指針では、取締役会資料の提供タイミング、取締役会資料以外での十分な情報提供、年間スケジュールや審議事項の事前決定、審議事項数や開催頻度の適切な設定、審議時間の確保などについて言及されています。
図5 原則4-14の解釈指針が挙げる取組みを、会議の流れに沿って並べました。
重要案件については、事前説明や個別ブリーフィングを充実させるとともに、社外取締役が経営陣や各部門と継続的に対話する機会を設けることが望まれます。このほかにも、工場や研究開発拠点の視察、主要事業部門との意見交換、重要な投資案件に関する事前説明などを通じて、自社事業への理解を深める機会を設けることが考えられます。
図6 架空の例です。報告の時間を減らし、論点の議論に時間を振り向けるイメージを示しています。
会議の時間配分も見直しの対象です。詳細な報告は事前資料で共有し、会議では要点の確認にとどめれば、論点の議論と意思決定に時間を振り向けられます。報告を聞いて終わる会議から、選択肢を比べて判断する会議へ移すことが、審議の活性化の具体的な姿といえます。
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議長の役割と議論の進め方
取締役会の議論の質は、議長の進行に大きく左右されます。改訂版コードは、議長や独立社外取締役を含めた取締役を支援する事務局の機能強化を求めていますが、その前提として、議長自身が議論をどう進めるかという意識を持つことが大切です。
たとえば、議案の冒頭で何を決めるのか、どのような選択肢があるのかを確認し、社外取締役に発言を促す。結論が出ない場合は、次回までに何を確認するかを明確にして議題を閉じる。こうした進行の工夫だけでも、報告を聞いて終わる会議から、判断する会議へと変わっていきます。
議長を社長が兼ねている会社も多くありますが、その場合は、執行の責任者として説明する立場と、議論を公平に進める立場の両方を担うことになります。社外取締役の意見を引き出す工夫や、筆頭独立社外取締役との事前の打合せなどを通じて、議論の公平性を保つことが考えられます。議長と執行の分離を検討するかどうかは各社の判断ですが、実効性評価の中で議長の進行について意見を聞くことは、どの会社でも始められる取組みです。
実効性評価を「次の運営」につなげる
取締役会の実効性評価についても見直しが求められると考えられます。従来は、アンケートを実施し、その結果を概要として開示する企業が多くみられました。今後は、成長戦略や資本配分について十分な議論が行われているか、社外取締役への情報提供は適切か、リスク管理や後継者計画が継続的に議論されているかなど、取締役会の実質的な監督機能に着目した評価が重要となります。
図7 アンケートの点数だけでなく、議論の中身に着目した観点の例です。
また、評価結果については、翌年度の年間アジェンダや取締役会運営の改善に結び付けることが重要であり、PDCAサイクルを意識した運用が期待されます。評価で見つかった課題が、翌年の議題設定や資料の作り方にどう反映されたかを追えるようにしておくと、評価が形式に陥るのを防げます。
図8 評価結果を概要として開示するだけでなく、翌年度の年間アジェンダや運営改善に結び付けます。
| 観点 | 質問の例 | 改善策の例 |
|---|---|---|
| 議題 | 中長期のテーマに十分な時間を使えたか | 年間アジェンダの見直し、付議基準の改定 |
| 情報 | 判断に必要な情報が事前に届いたか | 資料送付の前倒し、事前説明の実施 |
| 議論 | 異なる意見が出て、結論に反映されたか | 論点の明示、選択肢の比較形式の資料 |
| フォロー | 決定事項の進捗を追えたか | フォローアップ表の導入 |
監査役会設置会社では、取締役会で決定すべき事項が多く、議題を絞り込める範囲に限りがあります。その場合でも、決議事項の説明を簡潔にし、事前資料で論点を共有しておけば、会議時間の多くを中長期のテーマに充てることは可能です。機関設計の変更を検討する前に、現在の枠組みの中で運営を改善できる余地がないかを確認してみる価値はあります。
また、取締役会の下に任意の委員会を設けている会社では、委員会での議論が取締役会に十分に共有されているかも確認が必要です。委員会で詳細に議論した結果を、取締役会では結論だけ報告して終わらせていると、委員でない取締役が判断の背景を理解できません。論点と結論、残された課題を簡潔に報告する様式を決めておくと効果的です。
取締役会を支える体制づくり
取締役会の機能強化は、取締役会だけで完結するものではありません。執行側が論点と選択肢を整理して提示し、社外取締役が知見と独立した視点で議論に参加し、事務局が情報と議論をつなぐ。三者がそれぞれの役割を果たして初めて、監督が実質的に機能します。
図9 執行・社外取締役・事務局の三者がそれぞれの役割を果たすことで、監督が機能します。
金融庁は改訂版コードと同時に「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」を公表しています。同事例集は、取締役会の機能強化に関連した企業の具体的な取組みを集約・分析したものであり、各社において必要に応じて参照し、取組みを実践するために活用することが期待されています。自社の運営を見直す際の比較材料として有用です。
取締役会事務局の役割については「取締役会事務局をどう強化する?コーポレートセクレタリーの実務」で、独立社外取締役については「独立社外取締役に何が求められる?役割・独立性・選任の要点」で詳しく取り上げています。
実務上、つまずきやすい点
よくあるのは、付議基準の金額だけを引き上げ、委任した事項の報告の仕組みを作らないケースです。取締役会の議題は減っても、執行の状況が見えなくなれば監督は弱まります。委任と報告は必ずセットで見直します。
また、実効性評価で毎年同じ課題が挙がっているのに、具体的な改善策が実行されていないケースも少なくありません。課題ごとに担当者と期限を決め、翌年の評価で改善状況を確認する。この単純な仕組みがあるだけで、評価の意味は大きく変わります。
- 取締役会で決める事項と執行に委任する事項を整理したか
- 委任した事項について、定期的な報告の仕組みがあるか
- 中長期のテーマを年間アジェンダに組み込んでいるか
- 資料の事前送付と事前説明のルールを定めているか
- 実効性評価の課題を翌年度の運営改善に反映しているか
よくある質問
今回の改訂は、人数や比率といった新たな数値基準を設けるものではありません。監督機能の質を高めることが求められており、情報提供や議題の設定など運営面の見直しが中心になります。
機関設計と会社法上の制約によって異なります。法令上取締役会で決定すべき事項を確認したうえで、委任と報告の仕組みをあわせて設計します。
必須ではありません。外部の視点を入れる方法も選択肢ですが、評価の方法よりも、見つかった課題を翌年度の運営に反映できているかが重要です。
他社の取組みをそのまま導入するのではなく、自社の課題に近い事例を比較材料として参照し、必要に応じて取組みを検討する使い方が想定されています。
最初の一歩は、直近一回の取締役会を振り返ること
見直しを始めるには、直近の取締役会を一回分取り上げ、議題ごとの時間配分、結論が出なかった議題とその理由、次回までに確認する事項を整理してみることをお勧めします。議事録の長さではなく、次の行動と責任者が読み取れるかを確認します。これなら大規模な制度改編の前にも着手できます。
図10 大きな制度改編の前でも始められる見直しの手順です。
まとめ
2026年改訂の「取締役会の機能強化」は、数値基準ではなく監督機能の質を問うものです。決める・任せる・聞くの整理で議論の時間を確保し、情報提供と年間アジェンダで審議の質を高め、実効性評価を翌年度の運営改善につなげる。このPDCAを回すことが、形式的なコード対応にとどまらない取締役会運営の要点です。
付議基準と委任範囲の整理、年間アジェンダの設計、実効性評価の見直しまで、現在の規程や議事録を基に論点を整理します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)(基本原則4、原則4-1〜4-4・4-14および各解釈指針)
- コーポレートガバナンス・コード改訂(2026年)の概要
- 取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026
- 新谷亜紀子・福田輝人・金子慧史・日野雄介「コーポレートガバナンス・コード改訂版の解説」『経理情報』No.1787(2026年9月20日号)42〜46頁
- 樋口隆明「CGコード改訂に伴う取締役会の機能強化」『経理情報』No.1787(2026年9月20日号)51〜53頁
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。