※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
DCF法で企業価値を計算するとき、事業計画の5年分のフリー・キャッシュ・フロー(FCF)だけでは評価は終わりません。会社は6年目以降も事業を続けるからです。その「6年目以降の価値」を1つの数字にまとめたものが継続価値(ターミナルバリュー、TV)です。株価算定書を受け取った経営者やCFOの方から「事業価値の大半が継続価値になっているが、これで良いのか」という質問をいただくことがよくあります。
結論からいえば、継続価値は「最終年度のFCFを正常化したうえで永久成長率法で計算し、エグジットマルチプル法で逆算した倍率や成長率が、類似会社の水準や長期の成長見通しと整合しているかを確かめる」のが基本です。本記事では、架空の会社の数字を使って2つの方法を計算し、クロスチェック、感応度分析、Excelでの組み立て方までを順に説明します。
この記事の見出し
継続価値とは何か|なぜ事業価値の大半を占めるのか
DCF法では、予測期間の各年のFCFをWACC(加重平均資本コスト)で割り引いて現在価値にします。ただし、事業計画を10年、20年と作り込むことは現実的ではありません。そこで、予測期間の最終年度の状態がその後も続くと仮定して、6年目以降のFCFをまとめて評価します。これが継続価値です。FCFの作り方はDCF法の基本|フリー・キャッシュ・フローの作り方と計算例、割引率は割引率(WACC)の求め方|株主資本コスト・ベータ・サイズプレミアムで説明しています。
図1 予測期間(本例は5年)の各年FCFの現在価値と、6年目以降を1つにまとめた継続価値の現在価値を合計して事業価値を求めます(架空例)。
ここからは架空のX社(決算期は3月、金額は百万円)を例にします。事業計画のFCFは1年目120、2年目140、3年目160、4年目175、5年目185です。WACCは8%、5年目のEBITDA(営業利益+減価償却費)は330とします。各年の現在価値は次のとおりです。
| 年度 | FCF | 割引係数(8%) | 現在価値 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 120 | 0.9259 | 111.1 |
| 2年目 | 140 | 0.8573 | 120.0 |
| 3年目 | 160 | 0.7938 | 127.0 |
| 4年目 | 175 | 0.7350 | 128.6 |
| 5年目 | 185 | 0.6806 | 125.9 |
| 合計 | 780 | − | 612.7 |
※割引係数は1÷1.08^t。現在価値は端数処理の関係で、各年の合計と一致しない場合があります。予測期間の現在価値は約613です。これに後で計算する継続価値の現在価値1,817を加えると、事業価値は2,429になります。継続価値が全体の約75%を占めています。成長企業ほど足元のFCFが小さく、この割合は8割、9割と高くなります。
図2 継続価値の現在価値が事業価値の約75%を占めます。予測期間の数字を細かく作り込んでも、継続価値の前提が粗ければ結果は大きく動きます。
永久成長率法(定率成長モデル)の計算
永久成長率法は、6年目以降のFCFが一定の率g(永久成長率)で永久に伸び続けると仮定する方法です。算式は「継続価値=6年目のFCF÷(WACC−g)」です。この値は5年目末時点の価値なので、5年目の割引係数を掛けて現在価値にします。
図3 6年目のFCFを使う点と、計算した継続価値を「5年目の割引係数」で割り引く点が、よくある誤りの分かれ目です(架空例・百万円、WACC8%、g1%)。
X社でg=1%とすると、6年目のFCFは185×1.01=186.85です。継続価値は186.85÷(8%−1%)=2,669、現在価値は2,669×0.6806=1,817です。実務でよく見る誤りは次の3つです。1つ目は、分子に6年目ではなく5年目のFCFをそのまま使うこと。2つ目は、継続価値を6年目の割引係数で割り引くこと(1年分割り引きすぎます)。3つ目は、gをWACCに近づけすぎることです。WACC−gが小さくなるほど継続価値は急激に大きくなり、g=WACCでは計算できません。
gの水準は、その会社が長期的に、物価上昇や経済全体の成長を大きく上回り続けることは考えにくい、という前提で決めるのが一般的です。予測期間の売上成長率が20%の会社でも、継続価値のgは0〜2%程度に置くことが多いのはこのためです。高い成長を見込むなら、予測期間を延ばして成長が落ち着くところまで計画を作るほうが説明しやすくなります。
エグジットマルチプル法の計算
エグジットマルチプル法は、5年目末に事業を売却したと仮定し、その売却価格を類似会社の倍率で見積る方法です。EV/EBITDA倍率を使うことが多く、倍率の求め方は類似会社比較法(マルチプル法)|EV/EBITDA・PER・PBRの使い方で詳しく説明しています。
図4 5年目のEBITDAに倍率を掛けて「5年目末に売却したらいくらか」を求め、5年目の割引係数で現在価値にします(架空例・百万円)。
X社の5年目EBITDA 330に、類似会社のEV/EBITDA倍率7.0倍を掛けると継続価値は2,310、現在価値は2,310×0.6806=1,572です。予測期間の613と合わせて事業価値は2,185になります。この方法はM&Aの実務家にとって直感的ですが、DCF法の中に「現在の市場の評価」を持ち込むことになります。株式市場全体が割高な時期の倍率を使えば、5年後も同じ倍率で売れるという前提を置くことになる点に注意が必要です。
2つの方法を比べてクロスチェックする
図5 同じ予測期間でも、継続価値の求め方だけで事業価値に約245百万円の差が出ます。差の理由を説明できることが大切です。
同じ予測期間でも、継続価値の求め方だけで事業価値に約245の差が出ました。大切なのは、差が出たことそのものではなく、差の理由を説明できることです。そのために、互いの前提を逆算します。
図6 永久成長率法の継続価値を倍率に直すと約8.1倍、7.0倍の倍率を成長率に直すとほぼ0%です。どちらの前提が実態に近いかを検討します(架空例)。
永久成長率法の継続価値2,669を5年目EBITDA 330で割ると約8.1倍です。逆に、倍率7.0倍の継続価値2,310が成り立つ成長率を算式から逆算すると、g=(2,310×8%−185)÷(2,310+185)でほぼ0%になります。つまり「類似会社の倍率7.0倍は、X社が6年目以降まったく成長しない前提と同じ」ということです。X社が今後も緩やかに成長する事業なら永久成長率法の結果を、成熟した事業なら倍率法の結果を重視する、という判断ができます。
| 項目 | 永久成長率法 | エグジットマルチプル法 |
|---|---|---|
| 考え方 | FCFが一定率で永久に伸びる | 5年目末に類似会社の倍率で売却する |
| 主な前提 | WACC、永久成長率g | EV/EBITDA倍率 |
| 長所 | DCF法の理論と一貫している | 市場の実感に近く説明しやすい |
| 注意点 | gの小さな差で結果が大きく動く | 評価時点の市場水準を将来に持ち込む |
| クロスチェック | 逆算した倍率が類似会社と整合するか | 逆算した成長率が現実的か |
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最終年度FCFの正常化|継続価値の前提を整える
継続価値は、最終年度の状態が永遠に続くという前提です。最終年度に一時的な要因が入っていると、その誤差が永久に引き延ばされます。事業計画の検証の考え方は事業計画の検証|バリュエーションの前提をどう確かめるかで説明していますが、継続価値については特に次の6点を確認します。
図7 継続価値は最終年度の状態が永遠に続く前提です。一時的な数字のまま使うと、誤差が永久に引き延ばされます。
たとえばX社の事業計画で、5年目だけ設備投資を絞ったためにFCFが230になっていたとします。そのまま使うと継続価値の現在価値は約2,259となり、正常化した185を使う場合より約442大きくなります。予測期間の1年分の差45が、継続価値では約10倍に膨らむわけです。成長を続ける前提なら、設備投資は減価償却費と同程度かそれ以上、運転資本も売上の伸びに応じて増える形に整えます。
感応度分析とレンジの示し方
継続価値の前提には幅があるため、1つの数字だけで結論を出さず、WACCとgの組合せごとの事業価値を表にして示します。株価算定書でもよく見る形です。
図8 中央(WACC8%・g1%)が基本ケースです。WACCと成長率がそれぞれ0.5%動くだけで、事業価値は最大で1割強(−11%〜+15%)動きます(架空例)。
X社では、WACCを7.5〜8.5%、gを0.5〜1.5%の範囲で動かすと、事業価値はおおむね2,150〜2,801の範囲に収まります。売り手は表の右上、買い手は左下を見たくなるものですが、交渉ではまず基本ケースの前提の根拠をそろえることが先です。評価手法の併用とレンジの考え方は評価手法の併用と重み付け|評価結果をレンジで示す考え方で扱います。
もう1つ、FCFが年間を通じて平均的に生じると考えて、各年のFCFを期央(0.5年、1.5年…)で割り引く「期央割引(ミッドイヤー・コンベンション)」という方法もあります。どちらを採るかで結果が変わるので、算定書でどちらを使っているかは確認しておきたい点です。
| 項目 | 期末割引(本例) | 期央割引 |
|---|---|---|
| 割引の時点 | 1年目=1.0年…5年目=5.0年 | 1年目=0.5年…5年目=4.5年 |
| 予測期間の現在価値 | 612.7 | 636.7 |
| 継続価値の現在価値 | 1,816.7 | 1,887.9 |
| 事業価値 | 2,429.4 | 2,524.7 |
※期央割引の欄は、継続価値も4.5年で割り引いた場合の試算です(架空例・百万円)。
Excelでの組み立て方|シート構成とセル配置の例
継続価値の計算そのものは単純ですが、前提を差し替えたときに数式が壊れやすい部分でもあります。前提(Inputs)シートにWACC、g、倍率を集め、計算シートはそのセルを参照するだけにしておくと安全です。感応度表は、Excelの「データテーブル(What-If分析)」機能を使えば、前提セルを行・列に割り当てるだけで作れます。
図9 前提を1枚に集め、計算シートは前提セルを参照するだけにすると、感応度分析や前提の差し替えが安全にできます。
| セル(例) | 内容 | 式の例 |
|---|---|---|
| 前提!C5 | WACC | 8.0%(入力) |
| 前提!C6 | 永久成長率g | 1.0%(入力) |
| 前提!C7 | EV/EBITDA倍率 | 7.0(入力) |
| FCF!H20 | 6年目FCF | =G20×(1+前提!C6) |
| TV!C5 | 継続価値(永久成長率法) | =FCF!H20/(前提!C5−前提!C6) |
| TV!C6 | 継続価値(倍率法) | =FCF!G12×前提!C7 |
| TV!C8 | 逆算倍率 | =TV!C5/FCF!G12 |
| EV!C10 | 事業価値 | =SUM(各年現在価値)+TV!C5×G15 |
セル番号は一例です。ポイントは、入力セルと計算セルの色を分けること、5年目の割引係数のセルを継続価値の割引に参照させること(6年目の係数を参照する誤りを防ぐ)、逆算倍率と逆算成長率を必ず同じシートに並べて表示することの3つです。
M&A・IPOの場面で継続価値をどう読むか
M&Aの売り手・買い手にとって、継続価値は交渉の争点になりやすい部分です。売り手は高い成長率を、買い手は保守的な倍率を主張しがちですが、上で見たとおり、逆算すれば両者の前提を同じ物差しで比べられます。事業価値から株式価値へのつなぎ方は企業価値・事業価値・株式価値の違い|ネットデットと非事業資産の調整を参照してください。X社のネットデットが300なら、株式価値は永久成長率法で約2,129、倍率法で約1,885です。
IPO準備会社のCFO・経営企画の方にとっては、第三者割当増資やストックオプションの発行価格の根拠となる株価算定で継続価値が使われます。算定方法の選び方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うか、インカム・アプローチの別の算式は残余利益方式の算式を分解するも参考になります。また、買収後は継続価値の前提がのれんの減損判定の見積りとも関係してきます(のれんの減損はいつ判定するか)。
- 継続価値の分子に6年目(予測期間の翌年)のFCFを使っている
- 継続価値を5年目(予測期間の最終年)の割引係数で割り引いている
- 永久成長率gはWACCより十分に低く、長期の成長見通しと整合している
- 最終年度のFCFから一時的な要因を除き、設備投資・運転資本を正常化している
- 永久成長率法と倍率法の両方を計算し、逆算した倍率・成長率を確認した
- WACCとgの感応度表を作り、結果をレンジで説明できる
よくある質問
成長段階の会社では珍しくありません。予測期間のFCFが小さいか、投資が先行しているためです。ただし割合が高いほど前提の影響が大きくなるので、最終年度の正常化と感応度分析を丁寧に行い、必要なら予測期間を延ばして成長が落ち着くまで計画を作ることを検討します。
市場が縮小していく事業などでは、マイナスの成長率を置くこともあります。大切なのは事業の実態と整合していることで、0%以上でなければならない決まりはありません。
計算はできますが、DCF法の中に評価時点の市場水準を持ち込むことになります。永久成長率法と併用し、逆算した成長率が現実的かを確認したうえで使うのが望ましいです。
どちらも実務で使われています。FCFが期中に平均的に生じる事業なら期央割引が実態に近いといえます。重要なのは、採用した方法を算定書に明記し、比較する場合は同じ方法でそろえることです。
最初の一歩は、算定書の「継続価値の割合」と「逆算倍率」を確認することです
手元に株価算定書や事業計画のDCFモデルがあれば、まず事業価値に占める継続価値の割合と、継続価値を最終年度のEBITDAで割った倍率を計算してみてください。割合が高く、倍率が類似会社の水準から大きく離れていれば、前提を見直す価値があります。
まとめ
継続価値は、DCF法の事業価値の大半を占めることが多い重要な部分です。永久成長率法では6年目のFCFと5年目の割引係数を使うこと、エグジットマルチプル法では評価時点の市場水準を持ち込むことに注意します。2つの方法を逆算でクロスチェックし、最終年度のFCFを正常化し、感応度表でレンジを示せば、売り手・買い手、投資家、監査人のいずれに対しても説明しやすい評価になります。
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