のれんとPPA(取得原価の配分)|買収価格が取得後の決算に与える影響

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

会社を買収すると、買収価格のうち対象会社の純資産を超える部分が「のれん」として買主の連結貸借対照表に計上されます。ただし、のれんの金額は単純に「買収価格−簿価純資産」ではありません。対象会社の資産・負債を時価で評価し、顧客との関係や技術などの無形資産を識別したうえで、残った部分がのれんになります。この手続を取得原価の配分(PPA、Purchase Price Allocation)といいます。

結論からいえば、日本基準では、取得原価を識別可能な資産・負債の時価を基礎として企業結合日以後1年以内に配分し、残りをのれんとして20年以内で規則的に償却します。PPAで無形資産を多く識別するほど、のれんは小さくなりますが、無形資産の償却が加わるため、買収後の毎年の利益への影響の出方が変わります。

買収価格は、どのようにのれんになるのか

のれんとは、取得原価が、受け入れた資産と引き受けた負債に配分された純額を上回る部分です。買収価格には、対象会社の資産・負債の価値だけでなく、将来の収益力や買収による相乗効果への期待が含まれています。そのうち、個別の資産として識別できない部分がのれんになります。

図1は、本記事で使う架空の数値例です。取得原価6.0億円のうち、簿価純資産が3.0億円、時価評価による差額(税効果後)が1.19億円で、残りの1.81億円がのれんです。バリュエーションで決めた買収価格が、そのまま買主の決算に引き継がれることがわかります。買収価格の決め方はM&Aで株式価値から譲渡価格を決めるを参照してください。

企業結合の会計処理は、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下、企業結合会計基準)で定められています。以下では、取得による企業結合(買主が対象会社の支配を獲得する場合)を前提に解説します。

買収価格からのれんまでの分解取得原価6.0億円簿価純資産3.0億円時価評価差額(税効果後)1.19億円のれん1.81億円=

図1 取得原価を、識別可能資産・負債の時価(純額)とのれんに分けるのがPPA(取得原価の配分)です。

取得原価の算定と取得関連費用

企業結合の会計処理は、取得企業の決定、取得原価の算定、取得原価の配分、のれんの処理という順で進みます(図2)。取得原価は、原則として、取得の対価となる財の企業結合日における時価で算定します(企業結合会計基準第23項)。現金で買う場合は支払った金額、株式を交付する場合は交付した株式の時価が基礎になります。

業績に応じて追加で支払うアーンアウト(条件付取得対価)は、支払が確実となり時価が合理的に決定可能となった時点で取得原価に加え、のれんを追加で認識します(第27項(1))。詳しくは価格調整条項とアーンアウトで解説しています。

アドバイザーへの報酬などの取得関連費用は、発生した事業年度の費用として処理します(第26項)。ただし、これは連結財務諸表での扱いです。個別財務諸表では、子会社株式の取得原価は金融商品会計の考え方に従い、取得の対価に付随費用を加えて算定します(図3)。そのため、連結と個別で、のれんの計算の出発点となる金額が違ってくる点に注意が必要です。個別の取得価額とのれんの関係は子会社株式の取得価額とのれんの関係で詳しく扱っています。

企業結合の会計処理の流れ(取得)取得企業の決定取得原価の算定識別可能資産・負債の時価のれん/負ののれん償却・減損判定取得原価は原則として支払対価の企業結合日の時価で算定します(第23項)

図2 取得原価の配分は、企業結合日以後1年以内に行います(企業結合会計基準第28項)。

取得関連費用の扱い取得関連費用(0.3億円)連結財務諸表→ 発生年度の費用(第26項)個別財務諸表→ 子会社株式の取得原価に含める

図3 連結財務諸表では発生した事業年度の費用、個別財務諸表では子会社株式の取得原価に含めます。

取得原価の算定では、支払った現金のほかに、対象会社の借入金を買主が肩代わりして返済した金額をどう扱うか、株式の対価として新株予約権を交付したかなども確かめます。取引の形によって、何が取得の対価に当たるかが変わるため、契約書とあわせて検討します。価格調整条項による精算額がクロージング後に確定する場合も、取得原価の算定に反映させる必要があります。

PPA:識別可能資産・負債を時価で評価する

取得原価は、受け入れた資産と引き受けた負債のうち企業結合日時点で識別可能なものの時価を基礎として、企業結合日以後1年以内に配分します(第28項)。対象会社の貸借対照表に載っている資産・負債を時価で評価し直すとともに、貸借対照表に載っていない無形資産も識別します。

架空の例では、対象会社の簿価純資産が3.0億円で、土地に0.5億円の含み益があり、顧客との継続的な取引関係を顧客関連の無形資産として1.2億円と評価しました(図4)。評価差額の合計1.7億円には税効果を考慮し、実効税率30%として繰延税金負債0.51億円を計上します。配分される純額は3.0+1.7−0.51=4.19億円で、のれんは6.0−4.19=1.81億円です。

時価評価は、純資産法で行う修正と似ていますが、目的が違います。純資産法は株式価値を求めるための手法であり、PPAは買主の決算で取得原価を配分するための手続です。純資産法の修正項目は純資産法(時価純資産法)を参照してください。

時価評価と繰延税金負債(架空例、単位:億円)項目金額備考簿価純資産3.00対象会社のB/S土地の評価差額+0.50鑑定等顧客関連の無形資産+1.20耐用年数8年繰延税金負債(30%)▲0.511.70×30%時価純資産(配分額)4.19のれん=6.0−4.19

図4 土地の含み益0.5億円と顧客関連の無形資産1.2億円を認識し、実効税率30%の繰延税金負債0.51億円を計上する例です。

区分 金額(億円) 計算
取得原価 6.00 支払対価の時価
簿価純資産 3.00 対象会社のB/S
評価差額 1.70 土地0.50+顧客関連1.20
繰延税金負債 ▲0.51 1.70×30%
配分される純額 4.19 3.00+1.70−0.51
のれん 1.81 6.00−4.19

どのような無形資産を識別するのか

受け入れた資産に、法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、その無形資産は識別可能なものとして扱います(第29項)。実務では、顧客との関係、技術(特許やソフトウェア)、商標やブランド、ライセンスなどの契約、事業に必要な許認可などが検討の対象になります(図5)。

一方、従業員の能力や組織としての力は、通常、個別の資産としては識別せず、のれんに含まれます。無形資産の評価には、その資産から生じる将来のキャッシュ・フローを見積る方法などが使われ、買収時のバリュエーションで使った事業計画が基礎になります。そのため、バリュエーションの前提とPPAの前提が整合しているかを確かめることが大切です。

識別した無形資産は、それぞれの効果が及ぶ期間(耐用年数)で償却します。顧客関連の無形資産であれば、過去の顧客の離脱率などから耐用年数を見積ります。耐用年数の見積りは、買収後の利益に直接影響します。

無形資産として識別するものの例顧客関連(顧客との関係)技術関連(特許・ソフトウェア)マーケティング関連(商標・ブランド)契約関連(ライセンス等)許認可(事業免許等)人材・組織力→ のれんに含まれる識別した無形資産は、それぞれの耐用年数で償却します

図5 法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産は、識別可能なものとして扱います(第29項)。

無形資産の評価は専門性が高く、外部の評価専門家に依頼することも多い分野です。買主としては、評価の結論だけでなく、どの事業計画を使い、どのような前提で耐用年数を決めたのかを理解しておく必要があります。決算の監査では、その前提の合理性が確かめられます。

のれんの償却と、取得後の利益への影響

のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します(第32項)。償却年数の考え方はのれんの償却年数は何年にする?で解説しています。

架空の例で、のれん1.81億円を10年、顧客関連の無形資産1.2億円を8年で償却するとします。のれん償却は年0.181億円、無形資産の償却は年0.15億円で、無形資産の償却に伴って繰延税金負債が取り崩されるため、税効果後の負担は0.15×(1−30%)=0.105億円です。合計で年0.286億円が税引後の利益を押し下げます。

もし無形資産を識別せず、土地の評価差額だけを配分した場合、のれんは6.0−(3.0+0.5−0.15)=2.65億円となり、10年で償却すると年0.265億円です(図6)。償却期間が同じなら総額は大きく変わりませんが、耐用年数の違いによって毎年の影響額が変わります。また、のれん償却と無形資産の償却は、いずれも営業利益を押し下げますが、EBITDAには影響しません。買収後の業績をEBITDAで説明する会社が多いのは、このためでもあります。

PPAの有無による年間の利益への影響(架空例、単位:億円)00.10.20.20.3無形資産なし無形資産あり(合計)うちのれん償却無形資産あり:のれん0.181+無形資産償却0.15×(1−30%)=0.286

図6 PPAで無形資産を識別すると、のれん償却と無形資産償却(税効果後)に分かれます。耐用年数が違えば、毎年の影響額も変わります。

ケース のれん 年間の影響(税引後)
無形資産を識別しない 2.65億円(10年償却) 0.265億円
顧客関連1.2億円を識別(8年償却) 1.81億円(10年償却) 0.181+0.105=0.286億円
9年目以降(無形資産の償却終了後) 1.81億円(10年償却) 0.181億円

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暫定的な会計処理と、1年以内の確定

PPAは専門的な評価を伴うため、企業結合日後の最初の決算までに終わらないこともあります。その場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させます(第28項、注6)。配分は企業結合日以後1年以内に行うことが求められます(図7)。

暫定的な会計処理を確定させたときは、企業結合日に確定していたものとして処理を見直すため、のれんの額や過去の償却額も修正されます。PPAが1年以内に終わらなかったときの実務は暫定的な会計処理の確定|PPAが1年で終わらなかったときで解説しています。

買主としては、買収の検討段階から、どの無形資産を識別しそうか、評価にどの程度の期間がかかるかを見込んでおくと、決算の日程に余裕が生まれます。財務デューデリジェンスで集めた資料は、PPAの基礎資料としても使えます。

暫定的な会計処理から確定まで企業結合日最初の決算(暫定処理)追加情報の入手1年以内に配分額を確定確定時には、企業結合日に確定していたものとして処理を見直します

図7 決算までに配分が完了しない場合は暫定的に処理し、1年以内に確定させます(第28項、注6)。

負ののれんが生じるとき

取得原価が、受け入れた資産と引き受けた負債に配分された純額を下回る場合は、負ののれんが生じます。架空の例で、買収価格が4.0億円だったとすると、配分される純額4.19億円を0.19億円下回ります。

負ののれんが生じると見込まれる場合には、すべての識別可能資産及び負債が把握されているか、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかを見直します(第33項)。見直しを行っても、なお負ののれんが生じる場合には、その事業年度の利益として処理します(図8)。

負ののれんは、売主が早期の売却を急いだ場合などに生じることがありますが、多くの場合、まず負債の計上漏れや資産の過大評価がないかを疑うべきサインです。財務DDでの発見事項の扱いは財務デューデリジェンスの結果を価格に反映するを参照してください。

のれんと負ののれん取得原価>時価純資産かのれん20年以内で償却識別可能資産・負債と配分を見直す(第33項)なお残れば発生年度の利益はいいいえ

図8 配分された純額を取得原価が上回ればのれん、下回れば負ののれんです。負ののれんは、見直しのうえ発生年度の利益として処理します。

また、負ののれんを利益として計上すると、買収した年度の利益が一時的に大きくなります。投資家や金融機関への説明では、その利益が一過性のものであることを明確にしておくことが大切です。買収価格が純資産を下回る理由(売主の事情、対象会社の将来の赤字見込みなど)も、あわせて整理しておきましょう。

買収後の決算で確認すること

買収後は、毎期、のれんと無形資産の償却費を計上し、無形資産の償却に合わせて繰延税金負債を取り崩します。さらに、対象会社の業績が買収時の事業計画を大きく下回るなど、減損の兆候がないかを確かめます(図9)。のれんの減損の判定についてはのれんの減損はいつ判定するかを参照してください。

買収時に使った事業計画と、買収後の実績との差を説明できるようにしておくことは、減損の判定だけでなく、監査人とのやりとりや投資家への説明でも重要です。買収価格を決める段階から、取得後の決算への影響を試算しておけば、「買収したら利益が想定より大きく減った」という事態を避けられます。

特に、上場会社や上場準備会社では、のれんの償却費が営業利益に与える影響が、業績予想や資本政策にも関わってきます。買収の意思決定の資料に、PPAの見込みと償却費の試算を添えておくのがよいでしょう。

買収後の決算で確認すること償却費を計上(のれん・無形資産)繰延税金負債を取り崩す減損の兆候を確かめる事業計画との差を説明する

図9 のれんと無形資産は、償却だけでなく減損の兆候の有無も毎期確かめます。

バリュエーションとPPAの前提をそろえる

買収価格を決めるときのバリュエーションと、買収後のPPAは、別々の担当者や専門家が行うことが少なくありません。しかし、両者の前提が食い違っていると、監査人から説明を求められたり、買収後すぐに減損の検討が必要になったりします。

たとえば、バリュエーションでは顧客の離脱をほとんど見込まない事業計画を使ったのに、PPAでは顧客関連の無形資産の耐用年数を短く見積った場合、どちらの前提が正しいのかが問われます。また、買収価格に買主固有の相乗効果を織り込んでいる場合、その部分は個別の資産として識別しにくく、のれんに含まれることが多くなります。のれんが大きくなるほど、買収後の減損リスクも大きくなります。

買収の検討段階で、バリュエーションに使った事業計画、割引率、相乗効果の内容を整理しておき、PPAの担当者に引き継ぐことが大切です。財務デューデリジェンスの報告書や価格交渉の記録も、PPAで時価を見積るときの重要な手がかりになります。

比べる前提 バリュエーション PPA
事業計画 買収価格の算定に使った計画 無形資産の評価・減損の判定に使う計画
割引率 株式価値の算定に使ったWACC 無形資産ごとの割引率の基礎
顧客の離脱率 売上の予測に織り込む 顧客関連資産の耐用年数の見積りに使う
相乗効果 価格にどこまで織り込んだか 多くはのれんに含まれる
  • 取得原価に含める支払対価(アーンアウトを含む)を整理したか
  • 取得関連費用の連結・個別での扱いの違いを確かめたか
  • 識別すべき無形資産の候補と評価方法を検討したか
  • 評価差額に税効果(繰延税金負債)を考慮したか
  • のれんと無形資産の償却年数と、毎年の利益への影響を試算したか
  • 暫定的な会計処理となる場合の確定までの日程を見込んだか

よくある質問

Q1. のれんは必ず償却しなければなりませんか。

日本基準では、のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。あわせて、減損の兆候があれば減損の判定を行います。

Q2. PPAで無形資産を識別すると、利益は増えますか、減りますか。

のれんが小さくなる一方で、無形資産の償却が加わります。償却年数が同じであれば総額は大きく変わりませんが、耐用年数の違いによって毎年の影響額が変わります。本文の例では、年間の影響が0.265億円から0.286億円になりました。

Q3. PPAが決算までに終わらない場合はどうしますか。

その時点で入手可能な合理的な情報に基づいて暫定的な会計処理を行い、企業結合日以後1年以内に配分額を確定させます。確定時には、企業結合日に確定していたものとして処理を見直します。

最初の一歩は、買収価格の検討と同時にPPAの見込みを試算することです

バリュエーションで使った事業計画をもとに、識別しそうな無形資産とその耐用年数、のれんの額、毎年の償却費を概算しておきましょう。買収後の決算への影響が見えれば、価格交渉や社内の意思決定にも役立ちます。手法の全体像は企業価値評価(バリュエーション)とは?手法と進め方の全体像で確認できます。

まとめ

買収価格は、PPAを通じて識別可能資産・負債の時価とのれんに配分され、買主の決算に引き継がれます。日本基準では、取得原価の配分を企業結合日以後1年以内に行い、のれんは20年以内で規則的に償却し、負ののれんは見直しのうえ発生年度の利益として処理します。

無形資産をどれだけ識別するか、耐用年数を何年とするかで、毎年の利益への影響の出方が変わります。数値例はすべて架空のものです。実際の案件では、対象会社の状況と監査人の見解を踏まえて検討してください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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