国税庁の有識者会議が、取引相場のない株式の評価について残余利益方式という考え方を検討しています。2026年8月20日の第5回で骨格が示され、9月16日の第6回では算式と試算が出ました。
この記事は、その算式そのものを読みます。どこから何を引くのか、還元率とは何か、しんしゃく率がどこに掛かるのか、5年という期間はどこから来たのか。数字の置き方がまだ動くからこそ、構造を先に押さえておく意味があります。
資本政策への影響という切り口は別の記事で扱っていますので、ここでは計算の中身に絞ります。
- 会計検査院が示した、類似業種比準価額と純資産価額の開き
- 残余利益方式の算式と、そこで使われる用語の意味
- 還元率、しんしゃく率、加算期間が、いずれも仮置きであること
- 残余利益方式になじまない会社として示されている四つの類型
- 確定を待つあいだに、手元でできること
この記事の見出し
📌 出発点は会計検査院の指摘
話の起点は、会計検査院の令和5年度決算検査報告です。相続税と贈与税の申告のうち、取引相場のない株式を含むもの1,600件、評価会社にして延べ1,785社を検査した結果が載っています。
そこに二つの中央値が並んでいます。類似業種比準価額の中央値が11,622円、純資産価額の中央値が42,648円。前者は後者の27.2%です。
図 純資産価額に対する申告評価額の割合を会社規模別に見ると、中央値は大会社で0.32倍、中会社で0.50倍、小会社で0.61倍でした。規模が大きいほど開きます。
会計検査院は、異なる規模区分の評価会社の株式を取得した者のあいだでの評価の公平性や、社会経済の変化を考慮して、評価制度の在り方を様々な視点から検討していくことが肝要である、という趣旨の所見を示しました。
図 この所見を受けて国税庁が有識者会議を設けました。第1回が2026年4月20日、第6回が9月16日です。通達改正の時期は示されていません。
📌 いまの計算は、どこで差がつくのか
取引相場のない株式の評価は、まず同族株主等が取得するかどうかで分かれます。同族株主等であれば原則的評価方式、それ以外の少数株主であれば配当還元方式です。
図 見直しの議論が向いているのは、左側の原則的評価方式です。会社規模で計算方法が変わるという、いまの建て付けそのものが論点になっています。
原則的評価方式のなかでは、会社規模によって類似業種比準価額と純資産価額の組み合わせ方が変わります。大会社なら類似業種比準価額、小会社なら純資産価額が中心、中会社はその中間です。
そして類似業種比準価額そのものにも、規模による調整が入っています。配当金額、利益金額、簿価純資産価額の三つを上場会社の平均と比べたうえで、しんしゃく率を乗じます。大会社が0.7、中会社が0.6、小会社が0.5です。
図 比べる要素は三つですが、最後に乗じるしんしゃく率が規模で変わります。ここが、純資産価額との開きを生む仕組みの一部です。
📌 残余利益方式という組み立て
有識者会議が示している案は、考え方の土台を入れ替えるものです。第5回の資料には、簿価純資産に数年分の超過収益を加減して株式評価額を求める、という式が置かれています。
図 ここで土台になるのは時価ではなく簿価純資産です。含み益のある不動産を持っていても、その含み益が直接に評価額へ乗るわけではありません。
超過収益という言い方がわかりにくければ、通常の儲けを超えた部分と読み替えてください。会社が持っている純資産からは、ふつうに運用しても一定の利益が生まれるはずです。その分を超えて稼いでいる会社は、その超過分だけ株式の価値が上乗せされる。そういう発想です。
図 各年の残余利益は、その年の利益金額から、前期末の純資産に還元率を乗じた額を差し引いて求めます。これを5年分、現在価値に割り引いて合計します。
第6回の資料では、5年分を合計したあとにしんしゃく率を乗じる形になっています。しんしゃく率という言葉は現行の類似業種比準価額にも出てきますが、掛かる場所も意味合いも別のものです。
もうひとつ押さえておきたいのが、6年目以降の価値を加算しない、という整理です。企業価値評価では、予測期間の後ろに継続価値を置くのが一般的ですが、資料は、その算定が困難であること、残余利益は年数とともに逓減していくことを理由に、安全性を考慮して加算しないこととしてはどうか、としています。
❓ 数字は決まったのか
決まっていません。ここが実務でいちばん誤解されやすいところです。
図 還元率も、試算に使われた8%という数値も、しんしゃく率の0.7から1.0という幅も、5年という加算期間も、いずれも検討中の置き方です。
還元率については、上場株式の平均期待収益率等を参考に、資本資産価格モデルにより算定してはどうか、という提案が置かれています。つまり、算定の考え方が示されている段階で、率そのものが決まっているわけではありません。
加算期間についても、5年分が良いのではないかという意見があった、という書き方です。予測として現実的な年数であり、かつできるだけ長い期間を取りたい、という理由が添えられています。
会社規模による区分については、これを廃止して広範の企業を共通の評価方式で評価することが考えられるか、という論点が出ています。もしそうなれば、大会社と小会社で計算方法が違うという現在の構造そのものがなくなります。
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📌 残余利益方式になじまない会社
すべての会社をこの方式で評価するわけではありません。第6回の資料には、別の扱いをする会社として四つの類型が挙がっています。
図 保有資産の価値が大半を占める会社、技術上むずかしい会社、継続企業の前提に疑義がある会社、それを欠く会社。これらは純資産価額方式で評価する整理です。
一つめの類型については、判定の基準として二つの割合が示されています。特定資産の帳簿価額の合計が資産の帳簿価額の総額の70%以上であるか、特定資産の運用収入が総収入の75%以上であるか。いわゆる資産管理会社の判定です。
株式や不動産を保有するための会社を作っている場合、この判定に触れるかどうかで評価方法が変わります。いまの特定の評価会社の判定とは基準が異なりますので、自社がどちらに転ぶかは、案が固まった段階で確かめる必要があります。
📌 待つあいだにできること
通達の改正時期は示されていません。示されていない以上、いつからという前提で計画を固めるのは危険です。それでも、手元で進められることはあります。
図 いまの評価額を出しておけば、案が固まったときに差を測れます。測れる状態にしておくことが、いまできる準備です。
具体的には、類似業種比準価額と純資産価額の両方を出しておくこと。次に、直近の利益金額と、前期末の純資産に一定の率を乗じた額を並べてみること。前者が後者を大きく超えている会社は、残余利益が積み上がる会社です。逆に、純資産は厚いが利益が薄い会社では、残余利益はほとんど乗りません。
そして資産の中身です。特定資産の割合が高い会社は、そもそも残余利益方式の対象から外れる可能性があります。この点は、持株会社や不動産保有会社を使っている場合にとくに効いてきます。
資本政策の組み立てにどう響くかについては、別の記事で整理しています。あわせてご覧ください。非上場株式の評価見直し案|残余利益方式と資本政策への影響
❓ よくある質問
A. 時期は示されていません。有識者会議は2026年4月20日の第1回から9月16日の第6回まで議論を重ねていますが、公表されている資料に施行時期の記載はありません。
A. 会社によって向きが変わります。簿価純資産が土台になり、そこに超過収益が乗る組み立てですので、純資産に比べて利益の薄い会社では上乗せがほとんど生じません。逆に、少ない純資産で大きく稼いでいる会社では上乗せが大きくなります。
A. 資料が土台に置いているのは時価ではなく簿価純資産です。ただし、特定資産の帳簿価額の合計が資産の帳簿価額の総額の70%以上といった判定に該当すると、残余利益方式ではなく純資産価額方式で評価する整理になっています。
A. 決まっていません。第6回の資料で試算に用いられた仮の数値です。還元率そのものについては、上場株式の平均期待収益率等を参考に資本資産価格モデルにより算定してはどうか、という提案の段階です。
A. 一般論として、決まっていない制度を前提に時期を早めることはおすすめできません。まず現行方式での評価額を把握し、自社が上乗せの生じやすい会社か、そうでないかを見ておくのが先です。そのうえで、通達改正の内容が公表された段階で判断されることをおすすめします。
📄 まとめ
会計検査院が、類似業種比準価額の中央値が純資産価額の中央値の27.2%であることを示し、評価制度の在り方の検討を求めました。これを受けて国税庁が有識者会議を設け、2026年4月20日から9月16日まで6回の議論が公表されています。
示されているのは、簿価純資産に数年分の超過収益を加減する残余利益方式です。各年の残余利益は、その年の利益金額から前期末の純資産に還元率を乗じた額を差し引いて求め、5年分を現在価値に割り引いて合計し、しんしゃく率を乗じます。6年目以降の価値は加算しない整理です。
ただし、還元率も、しんしゃく率も、加算期間も、いずれも検討中の置き方です。試算に出てくる8%という数値を、決まったものとして扱うことはできません。会社規模による区分を廃止するかどうかも、論点として置かれている段階です。
いまできるのは、現行方式での評価額を押さえ、利益と純資産の関係、そして資産の中身を確かめておくことです。案が固まったときに差を測れる状態にしておけば、判断は速くなります。
⚖ 本記事の根拠
- 会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4章 相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(2026年8月20日)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)」資料(2026年9月16日)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(2026年4月20日)
- 財産評価基本通達(類似業種比準価額、純資産価額、配当還元価額、特定の評価会社)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の会計処理および税務上の判断は、監査人および顧問税理士にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
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