非流動性ディスカウントとコントロールプレミアム|判例(最決平成27年3月26日)と実務

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

非上場会社の株式を評価するとき、「上場していないので換金しにくい分を割り引くべきではないか」「経営権を取るのだから上乗せがあってよいのではないか」という議論がよく出てきます。前者が非流動性ディスカウント、後者がコントロールプレミアムです。率の決め方ひとつで価格が2〜3割変わることもあり、M&Aの交渉や株式の買取価格をめぐる裁判でも争点になってきました。

結論からいえば、プレミアムやディスカウントは「基礎となる評価額がどの水準の価値を表しているか」を確かめてから検討するものであり、評価手法の中ですでに考慮されている要素を重ねて調整してはいけません。最高裁平成27年3月26日決定は、収益還元法で算定した価格から非流動性ディスカウントを行うことはできないと判断しました。本記事では、この決定とその後の令和5年5月24日決定の内容を確認し、実務での考え方、架空の計算例、Excelでの整理の仕方を説明します。

非流動性ディスカウントとコントロールプレミアムとは

株式の価値には、いくつかの「水準」があります。会社を支配できる株式(経営権)を取得する場合の価値、上場株式のように少数株主として自由に売買できる場合の価値、非上場会社の少数株主のように自由に売れない場合の価値です。同じ会社の株式でも、どの水準の価値を求めているかによって金額は変わります。

株式価値の「水準」と2つの調整支配権を取得する場合の価値(コントロールベース)少数株主・市場性あり(上場株価の水準)少数株主・市場性なし(非上場株式の少数持分)コントロールプレミアム非流動性ディスカウント

図1 どの水準の価値を求めているかで、プレミアムやディスカウントの要否が決まります

用語 意味 典型的な場面
コントロールプレミアム 支配権を取得することによる価値の上乗せ M&Aで過半数の株式を取得する
マイノリティディスカウント 支配権がないことによる価値の減額 非上場会社の少数株式を取得する
非流動性ディスカウント 市場で自由に売買できないことによる減額 非上場株式の評価(市場性のなさ)

日本公認会計士協会の「企業価値評価ガイドライン」でも、評価アプローチと評価法の中で、コントロール・プレミアムと非流動性ディスカウントが論点として取り上げられています。ただし、何%にすべきかという一律の数字があるわけではありません。

評価手法ごとに、結果に何が含まれているか

プレミアムやディスカウントを検討する前に、基礎となる評価結果がどの水準の価値を表しているかを確かめる必要があります。たとえば類似上場会社法は、上場会社の株価(少数株主が市場で売買する価格)から倍率を求めるため、一般に「少数株主・市場性あり」の水準の価値を表すと考えられています。そのため、支配権の取得を前提とするならプレミアムを、非上場会社の少数株式なら市場性のなさを検討する余地があります。

評価手法ごとの結果の性格(一般的な整理)評価手法結果の性格調整で注意すること類似上場会社法上場株価に基づく少数株主の水準支配権取得ならプレミアムを検討DCF法・収益還元法計画と割引率の前提による市場性の考慮の有無を確認時価純資産法会社全体の純資産の持分少数持分では支配権の有無に注意

図2 算定過程の前提によって変わるため、個別に確かめる必要があります

一方、DCF法や収益還元法は、会社の将来の利益やキャッシュ・フローを割り引いて価値を求める方法で、市場での取引価格と比べる要素はもともと含まれていません。割引率の算定で非上場であることを考慮している場合もあり、その場合にさらにディスカウントを行うと、同じ要素で二度減額することになります。手法の選び方と性格は類似会社比較法(マルチプル法)|EV/EBITDA・PER・PBRの使い方や未上場株式の株価算定はどの方法を使うかもご覧ください。

最高裁平成27年3月26日決定の事案

最高裁判所第一小法廷平成27年3月26日決定(平成26年(許)第39号、民集69巻2号365頁)は、非上場会社が吸収合併で消滅する際に、合併に反対した株主が会社法785条1項に基づいて株式の買取りを請求し、会社法786条2項に基づいて裁判所に買取価格の決定を申し立てた事案です。合併の効力は平成24年10月1日に生じています。

最高裁平成27年3月26日決定までの流れ吸収合併(平成24年)反対株主が買取請求原々審(札幌地裁)札幌高裁1株80円最高裁1株106円

図3 吸収合併に反対した株主が、会社法785条1項に基づき株式の買取りを請求した事案

裁判所が選任した鑑定人は、収益還元法を用いて、将来期待される純利益の現在価値の合計を約3億6158万円と算定しました。そのうえで、非上場会社の株式は換金が難しいことを理由に25%の非流動性ディスカウントを行うのが相当という意見を示しました。原審(札幌高裁平成26年9月25日決定)は、この鑑定意見に沿って買取価格を1株80円と定めていました。

項目 内容
裁判所・日付 最高裁判所第一小法廷 平成27年3月26日決定
事件番号・登載 平成26年(許)第39号、民集69巻2号365頁
手続 会社法785条1項の株式買取請求、786条2項の価格決定申立て
評価手法 収益還元法(将来期待される純利益を資本還元率で還元)
原審までの判断 25%の非流動性ディスカウントを行い、1株80円
最高裁の判断 非流動性ディスカウントは行えないとして、1株106円と決定

最高裁はなぜ非流動性ディスカウントを認めなかったのか

最高裁はまず、合併などに反対する株主の買取請求制度は、会社の基礎に本質的な変更をもたらす行為に反対する株主に会社から退出する機会を与え、退出を選んだ株主に企業価値を適切に分配するものだと位置づけました。そのうえで、非上場会社の株式の価格決定でどの評価手法を使うかは裁判所の合理的な裁量に委ねられるものの、ある評価手法を使う場合に、その手法の内容や性格から考慮するのが相当でない要素を考慮して価格を決めることは許されない、としました。

そして、収益還元法は将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元して株式の現在の価格を求める方法であり、「市場における取引価格との比較という要素は含まれていない」と指摘しました。この手法で算定した価格について、手法に含まれていない市場での取引価格との比較によってさらに減価を行うのは相当でない、と判断したのです。

非流動性ディスカウントの有無による価格(同決定の数値)030609012025%減価後(原審)減価なし(最高裁)80円106円

図4 収益還元法による価値約3億6158万円、発行済株式338万7000株。原審は25%の減価を認めていた

最高裁は原審の決定を破棄し、純利益の現在価値の合計約3億6158万円と発行済株式338万7000株をもとに、買取価格を1株106円と定めました。25%の減価を行った80円と比べると、約3割高い価格です。この決定の判示事項は「裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合」の判断であり、すべての評価手法や場面に一律に当てはまるものではない点に注意が必要です。

令和5年5月24日決定との違い

その後、最高裁判所第三小法廷令和5年5月24日決定(令和4年(許)第8号)は、会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定で、DCF法によって算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができると判断しました。この事案では、原審(広島高裁)がDCF法による評価額から30%の非流動性ディスカウントを行っていました。

最高裁は、144条2項の手続は、会社が譲渡を承認しない場合に、譲渡を希望する株主に投下資本の回収の手段を保障するために設けられたものだとしました。そして、評価額の算定過程で株式に市場性がないことがすでに十分に考慮されている場合には、さらに非流動性ディスカウントを行うことは相当でないとしつつ、本件ではそうした考慮がされていることはうかがわれないとして、ディスカウントを認めました。平成27年決定については「事案を異にし、本件に適切でない」と述べています。

2つの最高裁決定の比較平成27年3月26日決定令和5年5月24日決定会社法785条1項(合併の反対株主)評価手法:収益還元法結論:非流動性ディスカウントは行うことができない会社法144条2項(譲渡制限株式)評価手法:DCF法結論:市場性がないことが考慮されていなければ行うことができる共通する考え方:評価手法の内容・性格や算定過程から見て、二重の減価にならないか

図5 令和5年決定は、平成27年決定を「事案を異にし、本件に適切でない」としています

比較項目 平成27年3月26日決定 令和5年5月24日決定
法廷 第一小法廷 第三小法廷
手続 合併反対株主の買取請求(会社法785条1項) 譲渡制限株式の売買価格決定(会社法144条2項)
評価手法 収益還元法 DCF法
非流動性ディスカウント 行うことができない 市場性のなさが考慮されていなければ行うことができる
判例集 民集69巻2号365頁 集民270号113頁

2つの決定から読み取れるのは、手続の趣旨と評価手法の性格、そして算定過程で何が考慮されているかによって結論が変わるということです。実務では「非上場だから一律に何%割り引く」という扱いは避け、なぜその調整が必要なのか、二重の減価になっていないかを説明できるようにしておく必要があります。

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実務での考え方|二重の調整を避ける

実務でプレミアムやディスカウントを検討するときは、次の順に考えると整理しやすくなります。第一に、基礎となる評価結果がどの水準の価値かを確かめます。第二に、評価の目的と手続(M&Aの交渉、第三者割当、裁判所の価格決定など)から、どの水準の価値が求められているかを確かめます。第三に、両者に差があれば調整を検討し、算定過程ですでに考慮されている要素は重ねて調整しません。

非流動性ディスカウントを検討するときの判断算定過程で市場性のなさをすでに考慮しているかさらに減価しない(二重の減価を避ける)評価の目的・手続に照らし減価が相当かを検討率と根拠を算定書に明記しているしていない

図6 結論は手続の種類や評価の目的によって異なるため、根拠を算定書に書きます

たとえば、割引率に非上場会社であることを理由とする上乗せ(サイズプレミアムなど、割引率(WACC)の求め方|株主資本コスト・ベータ・サイズプレミアム)を加えている場合、その上乗せが市場性のなさをどこまで反映しているかを確かめずにディスカウントを重ねると、二重の減価になるおそれがあります。上場前の株式移動や発行価格の場面では、税務上の時価との関係も問題になるため、上場前の株価の決め方|第三者割当増資の発行価格と税務上の時価や上場前に株式を動かすとどうなるかもあわせてご確認ください。

計算例|同じ基礎価値から目的別に調整する

架空のC社について、類似上場会社法で1株10,000円という結果が出たとします。この結果は上場会社の株価をもとにしているため、少数株主・市場性ありの水準と考えます。率はすべて説明のための仮定です。

場面 調整 計算 1株当たり価値
支配権を取得するM&A コントロールプレミアム+20%(仮定) 10,000円×1.2 12,000円
非上場の少数株式の譲渡 非流動性ディスカウント−30%(仮定) 10,000円×0.7 7,000円
DCF法の結果(割引率で非上場性を考慮済み) 追加の調整なし — DCF法の結果のまま
同じ基礎価値から目的別に調整する(架空例)03,5007,00010,50014,000少数株式の譲渡基礎価値支配権の取得7,000円10,000円12,000円

図7 基礎価値は類似上場会社法による1株10,000円(少数株主・市場性ありの水準)と仮定

同じ会社でも、場面によって5,000円の差が生じます。一方で、DCF法の割引率に非上場であることを理由とする上乗せをしている場合は、その結果からさらに30%を差し引くと二重の減価になります。どの手法の結果に、どの調整を、なぜ行うのかを手法ごとに分けて整理することが大切です。複数の手法をまとめる考え方は評価手法の併用と重み付け|評価結果をレンジで示す考え方で説明しています。

Excelでの整理の仕方

Excelでは、各手法の結果を要約する前に「調整シート」を作り、基礎価値・性格・調整率・根拠を1行ずつ並べると、二重の調整を防げます。列は、項目、値・率、性格・前提、根拠の4列が基本です。

Excelの調整シートのレイアウト例項目値・率性格・前提根拠基礎価値(1株)10,000少数・市場性あり類似会社シートコントロール0%少数株式のため適用なし評価の目的非流動性-30%算定過程で未考慮検討メモ調整後(1株)7,000=基礎×(1+C)×(1+D)要約シートへ

図8 基礎価値の「性格」を書く列を作ると、二重の調整を防げます

ポイントは「性格・前提」の列です。基礎価値の行に「少数・市場性あり」「支配・市場性なし」などと書き、調整の行には「算定過程で未考慮」「割引率で考慮済みのため適用なし」と書いておきます。調整率は別のセルに置き、調整後の価値は「基礎価値×(1+プレミアム率)×(1+ディスカウント率)」(ディスカウント率はマイナスで入力)のように参照式で計算します。率を0%にした場合の結果も並べておくと、調整の影響額がすぐに分かります。

算定書に書いておきたいこと

プレミアムやディスカウントは、率の数字よりも、その理由の説明が重要です。算定書には、基礎価値がどの水準か、調整を行う理由と評価の目的、率の根拠と検討した資料、二重の調整になっていないことの確認、の4点を書いておくと、利用者や検討する側が判断しやすくなります。種類株式の評価では、優先権の有無によってさらに価値の水準が変わるため、種類株式・優先株式の価値評価|残余財産の優先分配とウォーターフォールもご参照ください。

算定書に書いておきたい4つのこと基礎価値がどの水準か(支配・少数、市場性)調整を行う理由と評価の目的・手続率の根拠と検討した資料二重の調整になっていないことの確認

図9 率の数字だけでなく、なぜその調整が必要かを書きます

  • 基礎となる評価結果が、支配・少数、市場性の有無のどの水準かを確かめた
  • 評価の目的と手続から、求められている価値の水準を確かめた
  • 割引率などの算定過程で、市場性のなさがすでに考慮されていないか確かめた
  • 裁判所の価格決定が関わる場合は、手続ごとの最高裁決定の内容を確認した
  • 調整率の根拠と検討した資料を記録した
  • Excelの調整シートに、性格・前提と根拠の列を設けた

よくある質問

Q1. 非上場株式は必ず非流動性ディスカウントを行うべきですか?

一律に行うものではありません。基礎となる評価手法の性格や算定過程、評価の目的と手続によって判断します。平成27年決定は収益還元法による価格からの非流動性ディスカウントを認めず、令和5年決定はDCF法による評価額で市場性のなさが考慮されていない場合に認めています。

Q2. ディスカウントやプレミアムの率は何%が目安ですか?

一律の目安はありません。本記事の20%や30%は説明のための仮定です。実際には、評価の目的、株式の性質、取引の条件などを検討して根拠とともに決めます。

Q3. 平成27年決定はM&Aの交渉価格にも適用されますか?

この決定は、合併に反対する株主の買取請求で、裁判所が収益還元法を用いて価格を決定する場合の判断です。当事者間の交渉価格を直接拘束するものではありませんが、評価手法の性格に合わない要素を重ねて考慮しないという考え方は、交渉の場面でも参考になります。

最初の一歩は、手元の評価結果の「水準」を書き出すことです

株価算定書や社内の試算がある場合は、各手法の結果が支配・少数のどちらの水準か、市場性のなさを算定過程で考慮しているかを、手法ごとに一行ずつ書き出してみてください。調整の要否と二重計上のおそれが見えてきます。

まとめ

非流動性ディスカウントとコントロールプレミアムは、基礎となる評価結果の水準と、評価の目的で求められる水準との差を調整するものです。最高裁平成27年3月26日決定は、合併反対株主の買取請求で収益還元法を用いる場合に非流動性ディスカウントは行えないと判断し、令和5年5月24日決定は、譲渡制限株式の売買価格決定でDCF法による評価額に市場性のなさが考慮されていない場合には行えると判断しました。実務では、手法の性格と算定過程を確かめ、二重の調整を避け、理由を算定書に明記することが大切です。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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