従業員給付の注記は、確定給付制度があるかどうかで分量が大きく変わります。確定拠出だけであれば拠出額を示せば足ります。
確定給付制度がある場合は、債務と制度資産の増減、主要な仮定、感応度分析といった詳細な開示が必要になります。感応度分析が求められる点が日本基準との違いです。
この記事では、従業員給付の区分、確定給付の注記、数理計算上の仮定と感応度、短期従業員給付、上場準備での準備を整理します。
- 従業員給付の5つの区分と注記の重さ
- 確定給付制度の注記に書く8つの項目
- 損益とその他の包括利益への配分の区分
- 主要な数理計算上の仮定をどこまで示すか
- 感応度分析を数理人に依頼する時期
- 累積型の有給休暇に負債を認識すること
図 退職後給付の制度の区分の判定
📌 結論 確定給付制度があると注記が重くなる
従業員給付の注記は、確定給付制度があるかどうかで分量が大きく変わります。確定拠出制度だけであれば、当期に費用として認識した拠出額を示せば足ります。確定給付制度がある場合は、債務と制度資産の増減、主要な仮定、感応度分析といった詳細な開示が必要になります。
日本基準でも退職給付の注記は詳細ですが、IFRSでは感応度分析が求められる点が異なります。割引率や昇給率が変動した場合に、確定給付債務がどう変わるかを示すという内容です。
確定給付制度がある会社は、注記の分量が大きくなる
🧭 確定給付制度の注記
確定給付制度の注記では、まず制度の内容を説明します。どういう給付を約束しているか、制度がどういうリスクにさらされているか、規制や運営の枠組みはどうかといった内容です。
感応度分析が求められる点が、日本基準との違い
次に、確定給付債務と制度資産のそれぞれについて、期首から期末への増減の内訳を示します。勤務費用、利息、再測定、給付の支払、拠出といった要素に分けます。
損益とその他の包括利益への配分も示します。勤務費用と利息費用は損益に、数理計算上の差異や制度資産の運用の実績と見込みの差は再測定としてその他の包括利益に計上されます。この区分が日本基準と違う部分です。
数理人への依頼の時期を決算日程に組み込んでおく
📊 数理計算上の仮定と感応度
主要な数理計算上の仮定として、割引率、昇給率、退職率、死亡率といった前提を示します。数値を具体的に示すことが求められ、率の水準がどう決められたかも説明します。
感応度分析では、これらの仮定が合理的に起こり得る範囲で変動した場合に、確定給付債務がどう変わるかを示します。割引率が0.5パーセント上昇した場合、昇給率が0.5パーセント上昇した場合といった形です。
この分析は年金数理人に依頼して算定します。決算の日程を組む際に、感応度分析まで含めて依頼することを忘れないようにします。後から追加で依頼すると、時間も費用もかかります。
📊 記載例
確定給付制度の注記の例です。債務の増減、資産の増減、感応度分析の3つが柱になります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 期首残高 | 3,240 |
| 勤務費用 | 210 |
| 利息費用 | 16 |
| 数理計算上の差異(財務上の仮定の変更) | 64 |
| 給付支払額 | △180 |
| 期末残高 | 3,350 |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 期首残高 | 2,480 |
| 利息収益 | 12 |
| 制度資産に係る収益(利息収益を除く) | 38 |
| 事業主拠出金 | 200 |
| 給付支払額 | △180 |
| 期末残高 | 2,550 |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 確定給付制度債務 | 3,350 |
| 制度資産 | △2,550 |
| 退職給付に係る負債 | 800 |
| 項目 | 当期 |
|---|---|
| 割引率 | 0.6パーセント |
| 昇給率 | 2.0パーセント |
| 前提 | 影響額 |
|---|---|
| 割引率が0.5ポイント上昇した場合 | △168 |
| 割引率が0.5ポイント低下した場合 | 182 |
会社名と数値は架空です。感応度分析は上昇と低下の両方向を示します。片方向だけの記載では要求を満たしません。
数理計算上の差異はその他の包括利益に認識し、純損益には振り替えません。日本基準のように費用として期間配分されないため、退職給付費用の金額感が変わります。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
📁 実際の開示事例
確定給付制度の数理計算上の仮定と、割引率の感応度分析を示している例です。
23.従業員給付 ⑥ 数理計算上の仮定
数理計算に用いた主な仮定は、以下のとおりです。
割引率(単位:パーセント) 区分 前連結会計年度 当連結会計年度 国内 2.4 3.3 海外 4.7 4.9 ⑦ 確定給付制度債務の感応度分析
割引率が0.1パーセント変化した場合に想定される主な会社の確定給付制度債務の現在価値への影響は、以下のとおりです。
感応度分析(当連結会計年度、単位:百万円) 前提 国内 海外 割引率が0.1パーセント低下した場合の増加額 1,983 465 割引率が0.1パーセント上昇した場合の減少額 △1,950 △458 なお、当該分析は、割引率以外の数理計算上の仮定が一定であることを前提として計算されておりますが、実際には他の数理計算上の仮定の変化が影響する可能性があります。
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 23.従業員給付
▶ 読み方 感応度分析は、低下した場合と上昇した場合の両方を示します。増加額と減少額が完全に対称にならないのは、現在価値の計算が非線形だからです。また、他の仮定が一定であることを前提としている旨の断り書きを添えるのが通例です。国内と海外で割引率が大きく違う点にも注目してください。制度が複数ある場合、仮定は制度ごとに設定します。
数理人への依頼の設計から注記の記載まで、決算日程を含めて整理します。IFRSの導入支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
🗂 短期従業員給付
短期従業員給付については、注記の要求は限られています。ただし、有給休暇の未消化分について負債を認識するかどうかは論点になります。
IFRSでは、累積型の有給休暇について、従業員が権利を得たときに負債を認識します。日本基準では認識しないのが一般的であるため、移行時に負債が増えることがあります。
この負債を計算するには、従業員ごとの未消化の日数と、消化の見込みのデータが必要になります。勤怠管理のシステムから取り出せるかを確かめておきます。
⚖️ 上場準備での準備
上場準備の会社では、退職給付制度の設計そのものを見直す機会があります。確定給付から確定拠出への移行を検討する会社もあります。
確定拠出に移行すれば、数理計算も感応度分析も不要になり、注記の分量が大きく減ります。ただし移行には従業員の同意や制度の変更手続が必要で、時間がかかります。
また、中小企業退職金共済など外部の制度を利用している場合、その制度が確定拠出に該当するのか確定給付に該当するのかを確かめておきます。制度の性質によって会計処理と注記が変わるため、契約の内容を確認したうえで判断します。この確認は、上場準備の早い段階で済ませておくと、後の負担が読めます。
❓ よくある質問
A. 当期に費用として認識した拠出額を示せば足ります。確定給付制度があると分量が大きく変わります。
A. 感応度分析が求められる点です。割引率や昇給率が変動した場合に確定給付債務がどう変わるかを示します。
A. 勤務費用と利息費用は損益に、数理計算上の差異や制度資産の運用差は再測定としてその他の包括利益に計上します。
A. 割引率、昇給率、退職率、死亡率といった前提を数値で示し、水準がどう決められたかも説明します。
A. 年金数理人に依頼します。決算の日程を組む際に、感応度分析まで含めて依頼することを忘れないようにします。
A. 累積型の有給休暇については、従業員が権利を得たときに負債を認識します。日本基準では認識しないのが一般的です。
A. 従業員ごとの未消化の日数と消化の見込みが必要です。勤怠管理のシステムから取り出せるかを確かめます。
A. 制度の性質によります。確定拠出か確定給付かで会計処理と注記が変わるため、契約の内容を確認して判断します。
📄 まとめ
従業員給付の注記は、確定給付制度の有無で分量が大きく変わります。
確定給付では、債務と制度資産の増減、主要な仮定、感応度分析までが求められます。
損益とその他の包括利益への配分の区分が、日本基準と違う部分です。
感応度分析は数理人に依頼します。決算日程を組む段階で依頼の内容に含めておきます。
累積型の有給休暇には負債を認識します。勤怠データから計算できるかを確かめておきます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
財務諸表の表示
資産の注記
負債と損益の注記
- 法人所得税の注記
- 引当金と偶発負債の注記
- 収益の注記
- 従業員給付の注記(この記事)
- 株式報酬の注記
金融商品とリスクの注記
グループと開示の枠組み
📚 参考(公的な一次情報)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) 24条の4の4